100年俳句計画 2019年1月号(No.254)


100年俳句計画 2019年1月号(No.254)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。






目次


巻頭リレーエッセイ
中山月波

特集
2019新春特別企画 帰ってきた!俳書道の部屋


特集
第八回 百年俳句賞

 最優秀賞「白の濃淡」森本樹朋
 優秀賞「からうじて」川又 夕
 優秀賞「水匂う」尾花マーペー
 優秀賞「勇者の剣」初蒸気


好評連載


作品

百年百花
 きむらけんじ/八神てんきゅう/片野瑞木/三津浜わたる

新 100年の旗手
 有瀬こうこ/24516(ニシコーイチロー)

新 100年への軌跡
 俳句 輪違典子/村上海斗
 評  とりとり/亜桜みかり


読み物

美術館吟行/日暮屋又郎

小西昭夫の愛誦百句/小西昭夫

JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭

らくさぶろうの呑む呑め呑もう句/らくさぶろう

mhm通信/小田寺登女

近代俳句史超入門/青木亮人

鑑(み)るという冒険/猫正宗

The HAIKU's Glass/古川千栄子

クロヌリハイク/黒田マキ


読者のページ

100年投句計画
 選者三名による雑詠俳句計画/桜井教人、阪西敦子、関悦史
 自由律俳句計画/きむらけんじ
 詰め俳句計画/マイマイ
 100年投句計画 投句方法

短歌の窓/渡部光一郎

百人百様E-haiku/菅紀子

100年公募計画

疑似俳句対局/美杉しげり

THE BEATLES 213 PROJECT/夜市

100年俳句計画 掲示板

鮎の友釣り

告知

編集後記

次号予告





巻頭リレーエッセイ



骨密度と血管年齢
中山月波

 年に一度は健康診断を受けているのだが、数年前の検査結果には驚いた。骨密度が20才以下だったのだ。普段は座りっぱなしのデスクワーク。腰痛改善の為通っていたヨガのお陰か生まれ持った体質か。
 話は逸れるが、40才を過ぎて始めたヨガで身長が2.5センチ伸びた。というのも以前はひどい猫背で、湾曲していた背骨がしゃんと矯正されたからだ。
 さて、若過ぎる骨に喜んだのも束の間、血管年齢はなんと60代! そのギャップにたじろぐも、原因と思われた大好物のイカの塩辛を断ったところ、たちまち数値は年相応に。恐るべし、塩辛。
 病の芽が見つかり早期切除で事なきを得た経験もあり、健診には大変お世話になっている。備えあれば憂いなし。年頭にあたりお身体のこともご一考下されば。

オリオンや話は尽きず骨自慢


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特集

2019新春特別企画

帰ってきた!俳書道の部屋



2009年に連載された人気コーナー「俳書道の部屋」が新春特別企画として久々に復活!
お題の俳句で、Let's 書道!!

選、評 天玲
1969年生まれ大洲市在住。
穂積書道教室俳句部部長。

(テキスト版では作品は割愛となりますが、選評をお楽しみください。)


今回のお題
初日さす硯の海に波もなし  子規




らまる
前回の「俳書道」で階段を上るように力をつけてきた作者。「左手で書いてみた」ことでプリミティブなエネルギーわきあがる、見事な立体感ある作品になりました。「硯の海に波」以下何を書いてるかわからないのもポイント。





俳「書道」なので、地には書としての上手さのある2点を選びました。安さん、線質、配字ともに手練れです。粋な落款印もニクイ。

十姉妹
どう見ても筆ペンでのざっと書き。しかしどうして、白い紙(しかも62円はがき)を前に、ここまで緊張せず作意なく書ける人はそうはいません。その胆力に1票。




明惟久里、英
お二人とも真面目に書に取り組んでおられ、好感のもてる作品です。配字といい、雰囲気といい、こんなに似た作品を書いてしまう二人はきっと前世で親子だったんじゃないかな。

れんげ畑、マーペー
これも一見似た作品なのですが、マーペーさん、うちこみ、点接の確かさ、はらいの勢い、一字一字をしっかり書こうという意志が見えます。一方れんげ畑さん、文字そのものは茫洋と。視線を離して一枚の絵のように書かれており、安心して見られる、バランス感のある作品となっています。

悠歩
キラキラ光る墨、手書きの落款印、そして微妙にヘタウマなイラストと、随所に工夫がちりばめられ、努力の跡が見えます。こんなはがきを送られた人は、うれしいんじゃないかな〜




多聞仙
行書、草書まじりに、工夫が見られ、とてもまじめに書かれています。少し筆の機嫌をとりながら書くといいですね。

清人
筆遣い上手く、字形も綺麗な方です。「し」がうにょうにょ伸びてるのは、蛇ではなく「波もなし」の水面かな。

フラゴナール
まさかの作句者名の1字を大胆にアレンジとは……これじゃ「硯の子海に波もなし」みたいじゃん!

日暮屋又郎
なんという大胆、なんという不敵……! く、くれよんて! ないわ〜、それはないわ〜、と思ったら自由律俳人か……ちっ。


ご好評につき、3ヶ月に一回の連載が決定しました! 次回は4月号。締切は2月20日(水)必着! 募集要項は告知参照。


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特集

第八回

百年俳句賞


結果発表

主催 有限会社マルコボ.コム
共催 朝日新聞社


 本賞は「百年後の未来に残したい作品を、私たち自らが作り、自らが選ぶ」というコンセプトの下、広く開かれた賞を目指して開催しています。
 2018年12月1日、百年俳句賞表彰式の場において最終審査結果が発表されました。
 本特集では、最優秀賞作品、並びに優秀賞作品を作品評と共に掲載いたします。それぞれの作品をお楽しみください。

 応募全42作品の中から、日暮屋又郎さん、岡田一実さん、森川大和さん、キム チャンヒの4名により、予選審査を行いました。選考にあたっては、一句一句の完成度と共に作品集としてのまとまりを考慮し、優秀賞4作品、入賞6作品を決定しました。
 その後、優秀賞4作品から、選考会員21名による投票を行い、最優秀賞が決定しました。
 表彰式にて、第一回百年俳句賞受賞者の鈴木牛後さんより、最優秀賞が「白の濃淡」の森本樹朋さんであると発表されると、会場は祝福の拍手に包まれました。
 樹朋さんには、朝日新聞社ほかより副賞と、松山市立子規記念博物館 竹田美喜館長によるお祝いの言葉が贈られました。


最優秀賞作品
「白の濃淡」  森本樹朋氏

優秀賞作品
「からうじて」  川又 夕氏
「水匂う」  尾花マーペー氏
「勇者の剣」  初蒸気氏

入賞作品
「秋袷」  森 瑞穂氏
「地球訛り」  若狹昭宏氏
「許されてゐる」  脇坂拓海氏
「月食」  一阿蘇鷲二氏
「既視感」  三島ちとせ氏
「はちみついろ」  小川めぐる氏


優秀賞作品評

 最優秀賞、優秀賞作品への審査員の評を掲載いたします。なお、誌面の都合上、一部抜粋、要約の形になっているものがありますことご了承下さい。


白の濃淡/森本樹朋

 素材や一句の作りにも変化があるのと同時に全体的な構成にも緩急が見られ、次の句へと読み勧めさせる力がある。
  漆喰に白の濃淡暖かし
  迷ひ根のたどり着きたる春の土
この句辺りで終わると、読後作品全体の余韻を楽しむことが出来るように思う。

 表現は確実かつ細やか。年とって行くのも悪くないなと思ってしまった。紳士の懐の大きさのような物を感じた。

 写生句中心の構成だが、句の広がりと詩情を併せ持った句群は、読み手を飽きさせない。作者の人生詠も効果的に散りばめられている。

 一句一句、丁寧に景を描いている姿勢が読み手に伝わってくる。作者の温かいまなざしは、生活圏の全てのものに注がれているのであろう。

 タイトルが綺麗。老いや介護という語が見え、作者の詠む句に思いを馳せた。
 「甘鯛の」の句はさり気ないが、句の流れの中で朝焼け色が光って見えた。この50句を読んだ後だと胸に響く。

 終盤の「老い」が使われている句が気になった。37句目から、作者の姿に何とも言えない淋しさを見た気がしたのは、前半からの流れから言ってどうだったのか。

 単調に陥らず、縦横無尽な視線を感じる。凛とした句姿もよい。

 「木霊吸ひ」「せせらぎや」の句のような鋭敏な感性にまず惹かれた。とくに2句目の、せせらぎを縦糸、河鹿笛を横糸として、風景全体を織物として捉えたのはすばらしい感覚。

 全体的に秀句が多いのと誰が読んでも光景が浮かんでくると思う。読者を置いてけぼりにしていないと思った。老いの字がたった三回だけなのにやたら出てくるように感じて、全体的にそれが感じられるのかもしれないところが味わいなのかもしれない。

 あらためて写生の効いた実感のこもった俳句の力強さを感じた次第で、大いに共感できる俳句が多くありました。
  凍滝の凍つるを拒む筋一つ
このような一物仕立ての俳句を自分も詠んでみたいと刺激を受けました。

  卯月波余生の未だ修まらず
修まらずの言葉に衝撃を受ける。私も同じ所にいる。卯月波のように心が揺れている。この不安感。
  老い桜化石の鳥の伏すごとく
自然な生死感に感銘を受けた。


からうじて/川又 夕

 様々なテクニックを駆使して作句し推敲し、それを巧みに構成して一群に仕上げている。型の正確さの上での取り合せ、二物衝撃、切字の程よい距離と的確さは体に染みついているのだろう。
 この手の句はややもすれば独りよがりとなり、読者を置いてきぼりにさせる危険も無いとは言えないが、この句群にはその影がほとんど無い。そして、こう来たか、この言葉を持ってきたかと、次の展開が読めず純粋にワクワクさせる。
 たとえ観念的でも、たとえ狙いはわかっていても、嫌味を感じさせないこんなエンターテイメント俳句が今後、枝派の主流になるのだろう(かと言って表現の世界には本流支流なんて無いと信じてはいるが)。
***
 作品自体に若々しさがあり、独自の表現が良かった。句集になった時に自分が何度も読みたいかということと、自分の心を刺激する句があるかということを考えてこの作品にしました。「きゆうきゆうと鳴る心臓の先に汗」「送り火やはしばみ色のひと呼吸」「うまさうな光へかざす手套かな」が特に好きな句でした。

 ひらがなを多く使われているのは作者の意志だと思う。オノマトペにしても、ひらがなであることでその句の情景がすっと伝わるものも多い。
 作者が実際に見たものや行動したこと、などを積極的に詠んでいる印象。


水匂う/尾花マーペー

 「葬列の」の句は一篇の映像作品を見るよう。静けさと幻想、光と影を一行で書き留めた作品に十七音の可能性をみる。「ざざ虫を」「蟋蟀に」などに見られる揺らぐような肉体感覚も面白い。
 「道産子の」「鳥瞰図の」「猛獣舎に」、それぞれの句は印象鮮明だが、同型であったり、形容詞終止形であったり、近くに配置するのは通して読んだ時印象が弱まるので勿体ない。加えて、導入と最後の句がこの句でよいのか疑問が残った。

 食べ物を扱った句に秀句が多かったと思う。オノマトペを使った句に、もうひと工夫欲しかった。

 リズムに囚われることなく挑戦する姿勢はいいなと思った。作者が現場で感じたことをまずは素直に読もうとしているのだろうと感じた。ただ少し説明的になっている俳句が見られたのも残念だった。

 言葉の掛け合わせ、使い方は新鮮だが成功している句とそうでない句の落差が気になる。単調な季語の着地が目立つ。

 一句一句が若々しく光景が立ち上がってくる。

 タイトルに象徴されるように「匂い」や「音」を詠んだ句が多く、五感のアンテナを最大限に伸ばし、世界をとらえようとしている姿勢に好感が持てた。


勇者の剣/初蒸気

 実感と共感を持って味わうことの出来る句が多かった。その中に時々、ゲームや物語の世界を感じさせる句が出てくるのが、いいアクセントになっている。人の頭の中は、たいていこんな風に現実と非現実がごちゃ混ぜに存在しているものではないだろうか。

 終盤に優しい句が多く、心に響くものがあった。タイトルの「勇者の剣」に対し、作品中の句が「勇者のつるぎ」と表記が異なっていて、少々違和感が生じた。

  順番に死んでゆく家ところてん
  うつとりと薄き乳やる夏座敷
この二句に力があり、目を奪われた。幽霊屋敷のようでひやっとする感じもする。それが面白かった。ただ、「殺す」「たましひ」「死んでゆく」等、スタートから続いていくのが、少し勿体無い気もする。

 細かい描写をうまくとらえたもの、柔らかな表現など、バラエティーに富んだ句群で楽しかった。句のリズムが少し悪いところもあったが全体としてはよくまとまっていると思った。

 「証人」「乙五号証」など、作者の仕事の関係なのか、このような法曹関係の用語はかなり目新しいし、俳句としても面白く仕上がっている。「コツヘルへ」「クリスマス」の句のユーモア、「西瓜落とす」も面白みだけではない深さを感じさせて佳句と思う。惜しむらくは「白鳥や」のような、ややドラマ仕立てが上滑りしている句があったことか。

 やはりオリジナリティーの勝利。また句のイメージを次の句へ少しずつ重ねるとか虚の世界を描いた句を混ぜ込みながら、それでも無理なく作品として仕上がっているところ、構成も巧い。

 冒頭にインパクトのある句を並べてぐいぐい迫り、最後に「春宵の」の句のやわらかな抒情で締めるという構成、「勇者の剣」というRPGを連想させる今時のタイトルも作品の内容とよく合っていて、「句集」という視点で見たときに候補作の中では最も賞にふさわしいと思った。

 「勇者の剣」は読み始めがいい句も多くて読み応えがあっただけに、終盤失速したようで残念でした。


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第八回 百年俳句賞

最優秀賞

白の濃淡


森本樹朋


青葉潮芥のやうに漁船団
卯月浪余生の未だ修まらず
花樗輪郭線は雲の中
森の音吸ひ取る嵩や松落葉
木霊吸ひ蛍袋の揺れやまず
河骨や言葉吐くとき顎を上ぐ
夏引の生糸のぬめり獣めく
瑠璃揚羽青まき散らし睦み合ふ
せせらぎや横糸のごと河鹿笛
鵜匠繰る紐は光の鞭となる
山開き錫杖の音雨を裁つ
口中を藻の香山の香鮎を食む
給油待つギリシャの巨船大南風
街舐めてなほ猛々し朝の海霧
行水や餓鬼図のごとき腹出して
すしづめの豚運ばるる凌霄花
死して後一色加へ玉虫は
会話なき暮しの中を蝉時雨
折り畳む硬き帆布や夏終る
鰐の眼の水面に光る原爆忌
刃の先を割れ急ぎたる西瓜玉
星合の会話を少し介護室
幼なじみの色あらば棗の実
鳩麦や農耕の民歯の硬し
豊かなる仏の耳朶や稲の波
秋の鷹翼捻ぢりて日輪へ
吾亦紅絵皿に残る妻の色
姿見の前の一畳秋の風
秋麗や一刀彫の木屑反る
鹿の眼のらんらんとして角伐らる
弥陀の手に林檎納まる窪みあり
木の実落つパズルの最後填まりたり
酒蔵の新酒冷たし猪口白し
しなやかに茶筅たわめり冬欅
残像の綿虫黄泉へ帰りしや
着ぶくれの空気押しやる音のして
冬の日の吾が影にある老いの線
水風呂にかすかな油膜年惜しむ
予定欄空白のまま初暦
甘鯛の朝焼け色に干されけり
注ぎ足しの鰭酒の味老いの恋
梅の色のごとくに別れけり
冬落暉横切る船を熔かしけり
大北風や山よりおこる波の音
凍滝の凍つるを拒む筋一つ
迷ひ根のたどり着きたる春の土
漆喰に白の濃淡暖かし
未熟なる男の匂ひ梨の花
風立つや花に雅楽の調べあり
老い桜化石の鳥の伏すごとく


1944年生まれ。松山市在住。60代の中頃、夏井いつき組長のカルチャースクールへ入会し俳句を始める。これからも生活の張りとして俳句を楽しみたいと思う。


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第八回 百年俳句賞

優秀賞

からうじて


川又 夕


身をよぢるけだものの息夏来る
手のかたち口のかたちの愛立夏
ほととぎす墓石すべて海を向く
きゆうきゆうと鳴る心臓の先に汗
八重歯やや濡れてつぴつぴソーダ水
地のものの匂ひあふるる夜店かな
夏蝶や恥は影よりよみがへる
天地創造或いはバタフライ
人と魚まぜこぜの身で泳ぎけり
凹凸を奪ひ与ふる夏痩よ
白玉や持たざる者に憧れて
振り向かぬまま見せつける裸かな
くちづけをおもひ出しつつハンモツク
くちびるの閉づる間もなく大花火
集中線しづかに引けば夏の果
しあはせを掠むる如く踊りけり
をとこども従ふる手の踊りかな
送火やはしばみ色のひと呼吸
カーテンの境目やはし今朝の秋
からうじて人なり西瓜よく喰らふ
秋光や一息に蹴る馬の腹
ほんたうの身の上ばなし檸檬摘む
蛇穴に入るさよならの得手不得手
悪筆ひりり真夜中の月
一角獣そつと首振る良夜かな
寝待月骨きしきしと雨を呼ぶ
青蜜柑むけば部屋ぢゆう異国めく
落雁や未だあどけなきしやれかうべ
骨ばしき食ひもの石蕗の花が咲く
いくたびも七色結へる亥の子かな
日向ぼこ何かを言へば笑ひけり
泣き面の鬼のあざやか里神楽
大根引く指のすみずみ生きてゐる
包丁のくしゆと収まる根深かな
をとこ振る如くマフラーほどきけり
うまさうな光へかざす手套かな
塩せうせう振る剛腕や年の家
嫁が君縋る鼻先みづみづし
鳥追のくづるる如く一礼す
さかづきのうへに神々初句会
御降や大き樹形の透きとほる
海といふへだたりを越え星は冴ゆ
気まぐれに急須揺らして雪をんな
春浅し骨壺骨とおなじ色
皺くちやの手より生まるるしやぼん玉
尻に砂まぶされてをる若布刈
夜遊びのおしまひの空つばくらめ
花曇何も決めずに髪を切る
胸元をおほらかにして桃の宿
早朝の海蝶々の旅立ちぬ


1987年愛媛県生まれ。俳句甲子園OBOG会会長。第二回NHK学生俳句チャンピオン決定戦優勝。句集『嫁入り支度』。


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第八回 百年俳句賞

優秀賞

水匂う


尾花マーペー


発条はもう春かたまけて撥ね出さん
野に跳ねる馬の名はサラ草青む
ソの音で水菜サクサク切っており
漢らの山風統べて畑焼けり
椿餅躙り口より風あまし
ほどきたる男結びや雪の果
紫雲英田の先にフランス料理店
春月を磨けば玻璃のごとく透く
桜蘂降るわんわんとアジトへと
墨汁の垂れた跡より蝌蚪生まる
田の神をむかえ躑躅の花猛る
ソノシートのぐわんと間延びする薄暑
神妙な通夜の客よりオーデコロン
葬列の蛍袋へ消えてゆく
羊水のにおいほうたるつかまえた
しとど降る雨を横目に金魚鉢
雲湧くや穴子大きくなってゆく
道産子の鬣かたし青嵐
鳥瞰図の地名の太し夏の雲
エンジンの昂ぶるにおいサングラス
猛獣舎に鳴き声低し月涼し
蘭鋳の深夜に泳ぐ研究室
腐草蛍となり排水溝に生まれる渦
朝凪や漁協の影の四辺形
ささげ飯長寿の水を溢れさせ
啄木鳥や知恵の輪かろんほどけたり
星の尾を掴まえるようオクラ取る
朝顔の青白き夜を抜け出して
サンクトペテルブルグの朝を連れて小鳥
カルデラに光返して秋高し
蟋蟀に雲梯の手の錆びくさし
あちこちに切り株ほのか立待月
船上の月を浴びたる大錨
鵯鳴くや木霊に遠慮することなく
水底の淡きひかりよ新松子
円空の像の真中にある秋思
胡桃売る余市の駅はしずかなり
鈍色の門を出でたり真葛原
時雨るるや肺野に水の匂いあり
磯宮の巫女の袴へ初明り
小豆粥天狗の鼻の伸びる夢
音澄みゆき鶏初めて交む
ざざ虫を噛むや胎児のよく動く
カトレアをかざり手術を決断す
風邪の子へ冷たき缶詰あけましょう
侘助の炎たぎらぬよう開く
冬萌のモンマルトルに売れぬ画家
海鼠噛みます終活の話でも
水仙へ水もひかりも屈折す
月蝕の淫靡に冴えてゆく砂丘


1961年松山生まれ。俳都に暮らしながら50歳にして初めて俳句を詠む。吟行と称して出掛けるが、ほとんど句作することはなく、ただ旅を楽しんでいる。


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第八回 百年俳句賞

優秀賞

勇者の剣


初蒸気


初鰹背を割る出刃の青光り
暗帝を殺す算段ヤモリ這ふ
刺青のドクロ笑ひかける炎天
たましひの影歩きだす黒揚羽
順番に死んでゆく家ところてん
うつとりと薄き乳やる夏座敷
冷汁やいのち薄まる心地よさ
お岩さまの白黒映画髪切虫
はだしのゲン伏せて昼寝の目玉動く
アツパツパ安保の話して帰る
証人の日焼がどうも嘘つぽい
ひとかぶり瓜に清清しき歯形
夕闇を引きずり湖を青大将
蜩やひとりの食器水に漬く
紺青の大朝顔や告知の日
西瓜落とす死ぬといふこと怖くなる
盆をどり闇を往く人帰る人
東京は網なす暗渠天の川
夜食して乙五号証の信憑性
資料室は空気の化石カマドウマ
地球儀へ赤き書き込み獺祭忌
コスモスてふ一把の風を摘みにけり
村八分まだ生きてゐる陸稲かな
パンパンてふ職業ありき赤い羽根
文化の日地獄の門の黒光り
白鳥や兄を廃して立てた國
コツヘルへ湯をちと立てよ神の旅
冬あたたかシンバルにある槌の跡
ビストロやかすかに鴨を毟る音
キヤンドルぐらぐらをととひ熊の出た話
クリスマス縦にはできぬ箱を抱く
シヤツターを切るとき聖夜静まれり
電子めくテニスボールや寒波来る
冬帝の爪を切ります音高く
反戦のビラはむらさき冬の蜘蛛
雪つぶてに死んで大の字墜ちよ空
女王陛下は真白き梟だつたとさ
なにもかも夢に海鼠がしてくれる
梅が香や心に棲める小さき龍
弟に追ひつかれる日青き踏む
三月のゆびきり頼りない君と
春風や女子の辞書には女子の癖
渋谷からパルコが消える花の雨
産院のミモザくぐつて帰ります
この人との余生を想ふ夕桜
春の暮お醤油二本の頼みごと
これなんの行列ですか万愚節
自刃の地ころりころりと蕗の薹
枕元へ勇者のつるぎ置く朧
春宵の泣きぼくろめくひとつ星


かれこれ15年くらい前に松山で句作を始め、大阪は堺筋の句会に遊び、東京では同僚とアダルトな句会に耽る。いまは奈良で鹿と戯れる、転勤稼業43歳。


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美術館吟行


第50回


愛媛県美術館コレクションが語る20年
これまで、そしてこれから 吟行会

文 日暮屋又郎


 12月1日の百年俳句計画大忘年会の翌日、自分を含め参加者の半数くらいがまだ二日酔を引きずっていると思われる午後、愛媛県美術館に集合した。
 この美術館のコレクションは、その前身である愛媛県立美術館(1970年開館)に始まり、主に郷土作家の作品を収集し、1998年11月に愛媛県美術館として再出発するのを機に、現在のコレクションの中核となるモネ、セザンヌ等の海外作家の作品や、近代日本を代表する安田靫彦、中村彝等の作品を収集し、郷土出身作家である杉浦非水、柳瀬正夢、野間仁根、真鍋博、畦地梅太郎等の大規模なコレクションも加わって、現在約1万1千900点を収蔵しているとの説明を受け、テーマに添い分類された展示室にて歩を進める。


1 前身「愛媛県美術館」 コレクションのはじまり
 先ず、鋭利な刃物で削ったような赤い五つの舟形が枠に置かれている小清水漸(宇和島市出身)の作品が目を引く。

「舟 赤い」       
初星へ赤き翼を尖らせり  あるきしちはる

2 誕生「愛媛県美術館」 開館前後の収集
 ここでは、緑のグラデーションに強く惹かれる大智勝観(今治市出身)の二曲一双の屏風。彼はかの横山大観の一番弟子として観の一字をいただいているとのこと。


「閑庭」
苔むせる翡翠の庭に鶴のゐて  マーペー
鶴の目に愛などはなく梅の下  チャンヒ
星干せば常磐の庭へ鶴行かむ  あるきしちはる
閑庭に鶴や椿の紅さらに  猫正宗
夫婦は無罪つばきの庭で泣いただけ  日暮屋

 次に、フランスでアカデミー ジュリアンに学び、特にセザンヌの影響を受けた安井曾太郎。


「樹陰」
秋日射す重き裸婦の脇柔き幹  こもれび
行く夏の楽園として樹の陰は  チャンヒ

 さらに白、紫、黄緑といった色を基調とし、作家と現実空間との緊張関係を主題にした思考性の強い作品を数多く制作した中西夏之の作品が続く。


「たとえば波打ち際にて」
藤いろの波うちぎわや鳥帰る  天玲
想念の海に白百合咲きみだれ  猫正宗

 また文展、日展系の彫刻家、伊藤五百亀(西条市出身)のブロンズ像が展示されており、本作もそうだが彼の作品には股間若衆作品が多い。

「あした(旦)」
ひとひらの雪受け明日へ開く手よ  恋衣


3 20年のあゆみ(1) 2大コレクション
 杉浦非水(松山市出身)、彼こそ日本のモダングラフィックデザインの先駆者であり、原点ともいうべき存在。

アールヌーボーからアールデコへの変換
曲線から直線になる虹のはし  天玲

「三越呉服店 新宿落成」
秋光の落成の夜を漫ろゆく  マーペー
スパイダーマンの視線や白き息  こもれび

「新宿三越落成 十月十日開店」
まつさをな秋の一日の暮れゆきぬ  恋衣
三越の秋が二色に暮れてゆく  チャンヒ

「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」
少年の白きブーツや聖夜劇  あるきしちはる
一張羅着て待つ冬の夢の地下鉄  こもれび


 続いてイラストレーター、アニメーター、エッセイストと多才で、日本SF作家クラブ会員の真鍋博(新居浜市出身)の作品。

「都会主義者」
避難所の新聞に福笑の目  あるきしちはる

「ミステリマガジン 1967年11月号」
口紅が心臓を突く冬の月  チャンヒ


4 20年のあゆみ(2) 出身、ゆかりの作家の顕彰
 柳瀬正夢(松山市出身)、彼も美術家、画家、デザイナー、舞台美術家とマルチな芸術家であり、15歳の若さで油彩「河と降る光と」が院展に入選し、早熟の天才画家として有名になった。

「底の復報」
夜の火事は僕の心を焼きつくし  恋衣
深層に抗いたれば寒昴  マーペー
戦いの心は渦となる薔薇だ  チャンヒ
枯れながら仕返しをする意地はある  日暮屋

 終盤にさしかかるあたりに智内兄助(今治市出身)、彼はヨーロッパをはじめとする世界の多くのコレクターを魅了している。

「巡花」
散った花片さえ君が花野なら  猫正宗
少女の夢整っており冬薔薇  日暮屋

 このように愛媛県美術館20年の歴史をコレクションを通してつぶさに振り返り、これまで収集された過程や意義、またこれからの行く末を真剣に考えるひと時となるはずであったにもかかわらず、二日酔の眠さとふらつきがけだるく、しまいにはそんなことどうでもよくなり、逃げるように帰宅した極月の午後であった。


大智勝観「閑庭」 大正13年
沼をつかみ冬めいてゆく禽の爪  天玲

杉浦非水「新宿三越落成 十月十日開店」 昭和5年
ひたすらの未来を三越に十月  日暮屋

柳瀬正夢「底の復報」 大正11年
魂の底に鋭利な火事がある  あるきしちはる



日暮屋又郎 最近なわとびがプチッと耳当たったが、まだ誰も知らない。



次回吟行会 1月19日(土)
愛媛県美術館コレクション展吟行会
朝10時現地集合
参加費無料(入館料は別途)
事前に100年俳句計画編集室までお申し込み下さい。
TEL 089-906-0694


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百年俳句賞選考会員4名による4ヶ月間競詠

百年百花


2018年度 第三期
第二回


自由律雑詠B
きむらけんじ

なんだこの歳は誰のだ俺のか
ワシコフ夫人指でつつく河豚白子
遠縁の小父来て鱶のように居る
動物園の猿を睨みに行く約束
幸せはあるここではないどこか
なんとなく公園のこの木俺の木
家出する猫に煮干しの餞別
映画で泣いて良い人にされている
好かんタコのタコのままいる夕空
関東ローム層土掘れば一揆の匂い
免震構造のビルやや押してみる
餅まく女が遠投している

なんだか記憶に残る自由律俳句
 「うごけば寒い」(橋本夢道)
 「ニューヨークヤンキースのリュックに骨壺」(本間とろ)
 「つくづく疲れて犬の名を呼べば来る」(本山麓草)


ガレの蜻蛉
八神てんきゅう

マルタ島より届いたばかりの冬の虹
葱洗ふ体に白を入れたき日
寒燈にガレの蜻蛉痩せ細る
孤独な青やシャガール色のマント着て
官能の渇きにも似て空つ風
ナイトクラブ姫見事な蔦の枯れつぷり
海鼠腸や着つぶすまではこの体
聖樹の灯男の胸は石だつた
ガラポンとポインセチアと退屈と
水仙や子のなき我は誰のもの
顔見世を出て筋書きのない街へ
耳元へ息嫋やかに淑気満つ

癖が凄くても、歪でも、平凡でも、私が見ている世界です。
「てんきゅうワールド」ご笑覧ください。


木馬
片野瑞木

伊達眼鏡街は真冬の匂いして
シースルーエレベーターに雪霰
吹きぬけのパイプオルガン冬深し
真っ赤なマントから棒のような脚
着ぶくれて道路工事につき迂回
手袋のままドアノブの燻し銀
狐火に会える手相という右手
北風や古い木馬の目が綺麗
冬ざれを逃げ出し万華鏡の中
絨毯にドラゴン不意の客は騎士
冬晴や紅茶茶碗に青い花
早口のセキセイインコ春近し

1963年愛媛県生まれ。読書吟行してきました。「ロザンドの木馬」(瀬尾七重)と「ホリー ガーデン」(江國香織)あたりをうろうろと。


キッズ リターン2 正月編
三津浜わたる

蜜柑香る勝手口より祖母の家
ゆく年の線香灯す静寂なり
牌山へサイコロぶつけ去年今年
パトカー去つて初しののめのふたり乗り
元日やババひかむとす美しき指
マサコ乗せゆく初風の猫車
福笑伯父に小指のなかりけり
鏡台に花札置かれ雪しづか
着ぶくれの立ち小便の背へ爆竹
いかのぼり放たれ空を遡上せむ
頬打たれ冬の泉のうつすもの
七種粥長押に掛かる祖父の笑み

第21回俳句甲子園実行委員長。建具職人。


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読者投稿による3ヶ月連載作品集

新 100年の旗手


(2019年1月号 〜 2019年3月号 1/3回目)


一生分
有瀬こうこ

着ぶくれて一生分のひとりっ娘
短日のアイロン台の余熱かな
洗っても泣いても一重酢茎食う
イニシャルの胸ポケットの冬の蝿
薄命の母の褞袍を捨てにけり
落葉掃くひくりひくりと犬の鼻
葉牡丹の向こう三軒野村さん
鍵っ子の指紋認証悴みて
コツコツと秒針冴ゆる寝台車
冬薔薇こけしの首を切り落とす

 京都観光文化検定一級取得。
 趣味は深爪。着物。どこやねん?というマニアック京都観光を年30回位。


新宿
24516(ニシコーイチロー)

短日やビルより新宿の臭気
冬夕焼客引きの声すこし好き
銀色の鼻ピアス金糸雀色のセーター
ポインセチア男五人のテラス席
かんかんとテキーラがるがると寒夜
星凍ててフレディ語るバーテンダー
止まり木に忘れし煙草冬の蠅
ネクタイの重さの単位懐手
風冴ゆや大人を攫う電車来る
シーラカンス泣く新宿を夜の雪

 俳句歴は丸二年。神奈川県在住。俳号は本名をもじったもので、あまり深く考えずにつけたのですが、思いの外皆さんに覚えて貰っていて目立つので気に入っています。


2019年度 第1期連載者募集中
締切 2019年2月15日(金)

応募内容
 2019年4月号に掲載できるタイトル付の10句

応募先
 Eメール magazine@marukobo.com
 件名に必ず「100年の旗手応募」と明記して下さい。
 (郵送またはFAXでも受け付けております。詳しくは編集室までお問い合わせ下さい。)


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新 100年への軌跡


2018年度 第三期
第二回


丁寧に
輪違典子

はつゆきやにぎわいに閉づ映画祭
父だけが知ってたサンタ氏のメアド
適当を止めますおでんまだ煮ます
この赤は本気の赤でカトレア咲く
蒲団めくってスペードの4見つかりぬ
白鳥のぼつりと落ちる湖畔かな
傘を失くしてオリオンいつもよりひかる
湯冷して思い出せないことあまた
自転車を押してついつい冬夕焼
店先のセロリぴかぴか香り立つ
忘れないまじないとして飾り炭
鯛焼の瞳いちばんふくらめり
冬晴やトマトペースト使い切る
受験子の髪すっきりと梳いてやる
丁寧に生きて懐炉を貰いけり

輪違典子(わちがい のりこ)
 一九九八年生まれ。愛媛大学社会共創学部在学中。愛大俳句研究会所属。


空に吸われて
村上海斗

春浅し留守になりきる居留守かな
割り算の宿題余るほど長閑
どこ行きの雲か家路は春の夕
桜散る表は滲むほど真面目
ペンギンの心は空へ夕凪げる
差別された理由は辛さ夏盛り
一服を終え不器用にテント張る
舞浜の西日に触れて海の黙
爽やかに流行ったペンで書く皮肉
秋の湖戻りは投げる石探す
秋晴れや定規で測れない衝動
冬空に吸われて空の唄を聴く
じゃあねよりまたね初雪にはおはよう
アンテナは地球の声を聴き冬至
聖樹眩し今日もタイヤと対話する

村上海斗(むらかみ かいと)
 一九九八年北海道生まれ。北海学園大学人文学部在学中。札幌琴似工業高校在学時より句作を始める。俳句集団【itak】所属。



魅力
とりとり

 輪違典子さんの作品は、日常生活を明るく描写する軽快さが魅力です。
 村上海斗さんの作品は、明暗の絶妙のバランスがいいですね。

適当を止めますおでんまだ煮ます  輪違典子
 おでんをくたくたに煮ながら決意を固めているあなたがおかしくて好きです。

湯冷して思い出せないことあまた  輪違典子
 お風呂の中で考え事しますね。良い句が浮かんだりして。でもそれは夢に似ていて、湯冷めするころにはどこかにいってしまいます。

冬晴やトマトペースト使い切る  輪違典子
 何でもないことだけれど達成感ですね。空の青さとトマトペーストの赤がすっきりときれいです。

春浅し留守になりきる居留守かな  村上海斗
 ピンポンが鳴ったけれど、炬燵に潜り込んで私は居ませんと念じる居留守。微量の罪悪感が「春浅し」と響きあってユーモラスです。

秋晴れや定規で測れない衝動  村上海斗
 定規で測れないものたくさんありますね。「衝動」の暗さを「秋晴れ」が吸い上げて深みのある句になりました。

冬空に吸われて空の唄を聴く  村上海斗
 風の音を聴きながら、空に吸われていくような身体感覚。北国の冬空が目に浮かびました。

とりとり
 1957年生まれ。三重県在住女性。第1回選評大賞優秀賞。


どこにいて、何を見て
亜桜みかり

鯛焼の瞳いちばんふくらめり  輪違典子
 ぱりっと焼き上がったばかりの鯛焼の眼がズームで見えてくる。その眼の中心部の瞳がどの部位よりもいちばんふくらんで、もうこれ以上はふくらめないという限界までふくらんだのだ。その瞳と対峙している作者は冬のまっただ中でアンテナをぴんと張ってさまざまなものを見つめている。

丁寧に生きて懐炉を貰いけり  輪違典子
 「丁寧に生きて」いるからこそ色々なものが眼に映り込み、心に小さな波がおきて一行詩を生み出している作者。そんなとき貰ったのが懐炉であるという愉快。今時の使い捨て懐炉。初めはほかほかだが、いずれ冷め切ってしまう。だからこそまたアンテナを張り直すのだ。

 作品は春から仲冬まで一気に季節が移りゆく。しかしそれとは対照的に作者の心はゆったりとうつろう。心に余裕を残して留守になりきり、心は空へ行き、投げる石を探し、地球の声を聴き、タイヤと対峙する。

じゃあねよりまたね初雪にはおはよう  村上海斗
 最近北海道在住の句友から雪と付き合う時間の長さを聞いたばかりだからか、「初雪」に出会う時「おはよう」と言う気分が少しだけわかる気がする。別れの時には「じゃあね」より「またね」。思いをそこにふわりと残して。そんな作者の歩き方をうらやましくも思い、眩しくも思う。さあ、次の季節へ。

亜桜みかり(あさくら みかり)
 1961年俳都松山市生まれ。今治市在住。第2回、第7回、第8回選評大賞優秀賞受賞。第3回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞受賞。


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小西昭夫の愛誦百句


第7回


正月の友あり友の山河あり  光宗篁

 一年の始まりである正月は特別な日々である。旧暦一月を睦月ともいうが、その語源は「睦ぶ」である。つまり、仲良くする、親しくする月なのだ。子どもはお年玉をもらえる楽しみがあり、新しい服を着て初詣に行き新年の目標を立てる。大人の場合は、仕事を休んで年始の訪問をしたりされたりしながら、昼間からお酒を飲めるハレの日である。
 この句の場合は、友の家に年始に行ったのであろう。そこには友があり、友の山河があった。句またがりの対句表現が効果的でリズムがよく、人懐っこい最高の年賀である。
 実は幸運にも、この句が詠まれた席に同席していた。昭和五十二年一月二日砥部町の高橋信之邸で行われた句会である。篠崎圭介や東英幸他愛大俳句会のメンバーが出席していた。『光宗篁全句集』所収。
光宗篁は一九二六年愛媛県松山市生まれ。篠原梵、川本臥風に師事。愛媛新聞社刊の「俳句」に参加したが、「俳句」終刊後は愛媛を拠点に「石楠」「いたどり」で活躍した。生前の句集に『篁』。死後、『光宗篁全句集』『光宗篁遺稿集』が刊行された。いたどり賞、川本臥風賞受賞。一九八八年没。


せりなずなごぎょうはこべら母縮む  坪内稔典

 せり、なずな、ごぎょう、はこべらはご存知のように春の七草。残りの三つはほとけのざ、すずな、すずしろであるが、「せりなずなごぎょうはこべら」と並べられると、自然に残る三つも連想される。と言うのは、この並びは口ずさんで春の七草を覚える順番なのだ。
 そして、春の七草と言えば七草粥である。
 一月七日に食べると、万病を防ぎ一年の邪気を払うといわれるこの粥を母は毎年作ってくれたのだろう。しばらくぶりにあった母だった。台所の母が随分小さく見えた。自分が成長した分、母は小さくなったのだ。「母縮む」という言葉は母への感謝のつまった言葉なのだ。七草のひらがな表記も老いた母へのねぎらいを感じさせる。
 この句と「ほとけのざすずなすずしろ父ちびる」の二句で春の七草を詠んでいるのだが、遊び心と、同時に父母への感謝のこもった二句でもある。『百年の家』所収。
 坪内稔典は、一九四四年愛媛県西宇和郡伊方町生まれ。「アラルケ」「日時計」「日曜日」などの同人誌を経て現在は「船団」代表。著書は『坪内稔典句集〈全〉』『坪内稔典コレクション』など百冊を超える。中新田俳句大賞スウェーデン賞、桑原武夫学芸賞受賞。大阪府箕面市在住。


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JAZZ俳句ターンテーブル


文 白方雅博(俳号 蛇頭)

第94話

アメージング グレース
ティファニー


シリウスやこんなにも早くなる鼓動  猫正宗

 心臓が飛び出るほどじゃなかったけれど衝撃的に感動した。2007年6月2日(土)夕刻。松山市総合福祉センター1階ホールに「あにやん」ことテナーサックスの清水末寿、ジミー・スミスの愛弟子オルガニスト寒川敏彦、そして当時日本でも超売れっ子ドラマーだったセシル モンローをバックにティファニーは登場した。その圧倒的歌唱力は「若き日のエラやサラを彷彿とさせる本格派大型新人デビュー!」というフライヤーのキャッチコピーを控えめに思わせた。

冬青空ティファニーの歌軽く濃く  照造

 僕ならズバリ「エラ フィッツジェラルド降臨!」だ。彼女にはサラ ヴォーン的ドスは含まれず、その滑らかさとスケール感はエラにとても近いと思った。

八十八鍵の宇宙や冬のこゑ  加藤いろは

 ティファニー来松を実現してくれた堤宏文さんは、ステージ上手からカメラ越しに熱い視線を送り、舞台袖にはこの歌姫を発掘し世に送り出した名プロデューサー、伊藤八十八氏の優しい眼差しがあった。

冬銀河ティファニーの声ちりばめる  サテンドール

 ティファニーのデビューは2006年。同年立て続けに2枚のアルバム「ザ ニアネス オブ ユー」「マイ フェイヴァリット シングス」をリリース。レーベルは伊藤氏の立ち上げた「エイティエイツ」だから音質とともにバックが凄い。サックスのレイモンド マクモーリンは伊藤氏お気に入り。「マイ〜」のピアニストはハンク・ジョーンズで日野皓正のトランペットも聴ける。

ダイヤモンドダスト吹き抜くやうに弾くピアノ  南亭骨太

 2008年のレコーディング「アメージング グレース」では小曽根真、秋田慎治、海野雅威、椎名豊、中島弘恵という5人のトップ・ピアニストを招聘。個性豊かな五つの音の煌きでティファニーの歌唱を彩っている。

淑気あるなら5拍子の4拍目  ジョニー
歌姫の聖なる歌や冬銀河  光海

 9曲目ポール デスモンド作曲の「テイク・ファイヴ」は椎名豊のピアノトリオがティファニーの「淑気」を引き出し、ラストナンバー「アメージング グレース」では海野雅威のピアノが一人、彼女の「スピリチュアル」を際立たせた。

歌声は月へ冬蝶飛べず  サテンドール

 人なつっこく多くの人に愛され、日本のミュージシャンの間でも評判がいい。一作毎に大きく成長。ライヴでも実績を積み上げ本邦発≠フビッグネーム誕生か!?と思われた矢先の「3 11フクシマ」。この惨事が彼女を本国へ旅立たせてしまった。ティファニーよ、米国でも羽ばたいてくれ。


Today's Turntable
『アメージング グレース』2008年/eighty-eights
『マイ フェイヴァリット シングス』2006年/eighty-eights


「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の毎月第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は月曜日の21時〜22時。

次回JAZZ句会のお知らせ
1月27日(日)13時より、JAZZ BLENDにて開催。
テーマ ミュージシャンはライオネル ハンプトンです。アルバムは「スターダスト」をメインとします。参加希望の方は、本誌の句会カレンダーを参照してください。


このコーナーで紹介した俳句とエッセイ、堤宏文さんの写真とを組み合わせた『JAZZ HAIKU』vol.1〜vol.4(マルコボ.コム)を発売中。


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らくさぶろうの

呑む呑め呑もう句


第6回

選句、文 らくさぶろう


今月のお品書き
湯豆腐


 めんどくさい男 らくさぶろうは、豆腐には醤油と決めていて、湯豆腐をやっても白菜、春菊、きのこ類はポン酢で、豆腐だけは醤油につけて食べます。湯豆腐にするなら木綿とも決めております。めんどくさいでしょ?
 熱燗と湯豆腐って、合うように思えるんですが、どちらも熱々なもので、のどが焼けます。案外ハイボールとか合うんですよ。

やはらかに湯豆腐すくふ木匙かな  きさらぎ恋衣
 何とも、やさしい調べが全体から漂う一句になりました。あの木匙の木のやわらかさと豆腐のやわらかさ。無事にとんすいに入るかしら?

湯豆腐やピンクソルトを削るミル   奈月
 これは色彩がぱっと目に浮かぶよう。湯豆腐の白いところへピンクがパラパラと……外国の岩塩か何かでしょうか。塩のうま味も口に拡がるようで。ウィスキーのロックでも一杯。

湯豆腐や娘の恋を妻にきく  内藤羊皐
 機嫌良う呑んどったのに妻が「ちょっと、○○○(娘の名前)なんやけど、どうやら彼が出来たみたいなんよ。」えっ!! 驚きをなるべく顔に出さず話を聴きつづけるも、湯豆腐の味も何もあったもんじゃない。確実に言えるのは、酒が倍進むことだ。

連泊の朝の湯豆腐八海山  美和子
 新潟の宿での朝か。湯豆腐八海山とすらりと並べたところが小気味良かった。この八海山を本当の山並みとみるか、日本酒とみるか。あるいは本物の山を愛でつつ朝から酒をちびりか。くぅー、最高の旅の朝酒ではないか。もう一回寝ることにするか。

高架下湯豆腐二百五十円  フラゴナール
 愛媛ではなかなかこういう光景に出会えないが、都会の安居酒屋しかも立呑みの一コマのようで楽しい。焼酎の湯割りかホッピーか。ちょっと身体が温もったから串カツでも頼もうか。明日も早いからもう一杯だけ。

湯豆腐や娘の上戸父に似る  空山
崩壊の追い打ちかけて湯豆腐の  鯨木ヤスカ
湯豆腐や灘と伏見を卓上に  有瀬こうこ
火男のごと湯豆腐を食らいけり  洒落神戸
湯豆腐の震えをそっと掬いおり  ちゃうりん


今月の呑!!

湯豆腐の箸の先まで佳きをんな  佐藤香珠
 池波志乃さんの若いときをふと思った。色気があって、気遣いも出来て、酒呑み。冷やをクイッと空けてその盃をこちらに渡されたりしたらどうしよう……。今夜はこの句を頭に、妄想しながら一杯やりたいと思います。


募集の兼題「バレンタインデー」3月号掲載予定
 呑みたくなるような一句をお待ちしております!!

 今月の「呑」に選ばれた方には「ハタダ金時のさぶ」をプレゼント!! 投句に俳号、本名、住所、電話番号を書き添えて、編集室「呑む呑め呑もう句」係までお寄せください。

メール nomu@marukobo.com
フォーム http://www.marukobo.com/nomu/
投稿締切 1月20日


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mhm通信


第93回

文 河野しんじゆ


白猪の滝まつり


雲来り雲去る瀑の紅葉可奈  夏目漱石

 夏目漱石が白猪の滝を訪れこの句を詠んだとされるのが明治28年11月3日。滝のPRや地域活性化に向けて第29回白猪の滝まつりが平成最後の11月3日に行われた。まつやま俳句でまちづくりの会は俳句のイベントをおこなった。
 参加者はあねご、誉茂子、妹のり子、日暮屋、烏天狗、らまる、空、曼珠沙華、ともぞう、ねこ端石、しんじゆ。
 今年はいつもの句会ライブだけではなく待ち時間を利用してしりとり俳句をした。俳句の最後の2字をとり、次の句につなげるというシンプルなルール。恒例の買い物を済ませ、(杵つき餅や野菜や山で作る干物がおいしくて安い)さっそくメンバーで説明しつつ、しりとり俳句を始める。
 するとすぐに食いついてくる人たちが現れた。常連の正東風さん一家ではないか。すぐに指折りつつ作句してくれる。
 このしりとり俳句は『烏天狗の一句一合』と銘打ちすばらしい看板まである!(天玲さん書)句が採用されるとてっぺん米が1合すくえる。ネーミングの良さとお米に釣られ、ゲーム感覚でそこら辺の人たちが次々と参加。一回やると面白くてやみつきになる人も。

発句
追ひつめた鶺鴒見えず渓の景  正岡子規

渓谷を目指す朝なり文化の日  のんの
伸びきらぬアキレス腱や草紅葉  あねご
ミシン目でちぎる切手や菊日和  日暮屋
寄り道は桜紅葉の駐車場  あねご
ようかんははしっこが好き花八つ手  しんじゆ
つてとんしゃん三味の音ひびく秋の昼  誉茂子
昼酒のつまみは白猪の新米で  曼珠沙華
出で来る人のこだます秋祭り  地元男性
つりました夜長に足がつりました  正東風
下下へたきがすすむとぼくすすむ  そお
すむいえはあかとんぼのいるふるさとへ  地元小学生

 まつりは、売り物の他、オカリナ演奏、太鼓、三味線、東谷小学校の可愛いダンスや東谷音頭などもあり、中でも2回の餅まきは当たりくじも多くあり、盛り上がりを見せた。
 以下投句による句会ライブ入賞句。

1位
ぎんなんがおちてつぶれてめがさめた  東谷小学校1年 いしまるこう

2位
餅ひろい両手が空をつかみけり  礒川紀美子

3位
コスモスにみみをすませばしゃべってる  東谷小学校1年 いずみまお

4位
木枯らしに押されて母に会いにゆく  兵頭龍衛

 ずっしりと重い野菜の賞品で夕飯はお鍋だったのでは?
 来年いっしょに『白猪の滝まつり』楽しみませんか? 待っています!


mhmでは会員を募集中です。原則、毎月第2金曜日19時からマルコボ.コムにて定例会を行います。偶数月は懇親会も開催!
興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)またはFacebook(http://www.facebook.com/mhmhaiku)まで。


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会話形式でわかる

近代俳句史超入門


近代俳句史超入門
第34回


種田山頭火1 経歴


 青木先生と俳子さんが大学教室で話しています。


酒と放浪

俳子(以下俳) 放哉さんのダメ人生を聞いて、人生を考えました。毎夜の寝酒五合、止めようかな……。
青木先生(以下青) 大丈夫、俳句史には廃人がたくさん居ますよ。今回は屈指の廃人、種田山頭火(1883〜1940)を見てみましょう。彼と比べると、自分が超健全な生物に感じられます。
俳 全然すっきりしないフォローね。私もダメ人間なのかしら……。


大地主の生まれ

青 俳人を目指す時点ですでに(以下略)山頭火の実家は山口県防府の地主で、大種田と称された家でした。彼は種田家の長男として生まれ、本名は正一。下に兄妹が四人います。
俳 今、見逃せない一言を仰りかけたような。それにしても山頭火さん、お金持ちね。心底羨ましいわ。
青 所有地も広く、家は屋敷や蔵が並び、まさに大地主。それを父と山頭火の二代で潰したわけです。
俳 豪勢な親子廃人ねえ。家が潰れるほど遊んだとは、何をしたんでしょうか。
青 父の竹治郎が政治関係に手を出し、料亭等に入り浸り、英雄色を好む的に愛人を数人こしらえる。国を憂う熱血漢でもなく、地元の名士という理由でその気になった感じですね。子どもの山頭火は皆に愛され、学校の成績も良かったのですが、事件が起こります。
俳 子どもながら愛人を山ほどこしらえた?
青 早すぎます。竹治郎が家庭を顧みず、愛人や政治にうつつを抜かす姿に絶望した妻フサが家の井戸に投身自殺したんです。山頭火が十歳の時で、生涯引きずる心の傷を負います。
俳 家の井戸に……最大級の抗議よね。どれほど恨んでいたかと思うと、怖いです。


種田酒造

青 井戸はすぐ埋められましたが、この頃から種田家は傾き、土地を切り売りし始めます。山頭火は早稲田大学に進学しますが、神経衰弱で中退して帰郷。その後、種田一家は屋敷等を売り払い、酒造場を買い取って酒造業を始めますが……。
俳 失敗するんですね。
青 そう。山頭火は父の強引な勧めで見合い結婚し、酒造経営に当たりますが、彼も父も素人で、二年続けて酒を腐らせる。山頭火も家庭や酒造業から逃れるように酒に溺れ、文芸にハマるなど親子揃って無責任。種田酒造は倒産して父は行方不明、山頭火一家も夜逃げ同然に熊本に去ります。
俳 あらら……山頭火の奥さん、可哀想ね。地主の家に嫁いで安泰と思いきや、道楽親子に振り回されて。
青 妻サキノは評判の美人で、忍耐強く働くしっかりした女性でした。山頭火は妻と一子を伴い、熊本で古書店「雅楽多」を始め、絵葉書や写真、雑貨なども売って生計を立てます。
俳 失敗する予感満載……。


俳人山頭火、誕生

青 山頭火は行商に出かけては売らずに酒屋に向かう情けない日々。縁者に預けられた弟が本家破産で離縁され、自殺。やりきれない山頭火は独り東京に向かい、図書館に勤めるも神経衰弱で退職。関東大震災では社会主義者と誤認されて投獄されたり、東京生活もダメで熊本に戻ります。
俳 その間、奥さんや子どもはどうやって生活していたんですか?
青 山頭火が東京移住後に二人は離婚し、サキノが「雅楽多」で頑張って自活。元夫からの送金は一切なし。
俳 ダメだこりゃ……最悪ね。
青 東京の山頭火は離婚したはずのサキノの下に戻り、熊本で暮らし始めます。しかし、ある時泥酔して市電の前に立ちはだかり、新聞沙汰になるなど問題を起こしたため、知人が彼を寺に連れていきます。山頭火は出家し、僧として懺悔生活を送ることになりました。
俳 どうせ懺悔しないんでしょう。そういえば、自由律はいつ頃から詠んでいたのでしょうか。
青 学生時代から小説や短歌、俳句に親しみ、外国小説の翻訳を発表したこともあります。結婚して種田酒造に携わってから各誌に名が見え始め、明治末期創刊の「層雲」にも参加、後に選者の一人に選ばれます。自棄気味の境涯を句に漂わせる作風は注目され、熊本でも諸俳人や文芸好きの学生に知られる存在でした。
俳 分かった! 山頭火さんには酒も文学も現実逃避の手段なんだ。最初から結婚しないで独り放浪すればいいのに。ブーブー。
青 その点、「俳人山頭火」は周囲の多大な犠牲の上に成立したといえるでしょう。出家後の山頭火は親切な和尚の導きで熊本の観音堂に収まり、近所の人々は彼を偉い学者と勘違い的に尊敬し、良い待遇だったのですが、和尚や周囲に断りなく堂を捨てて旅に出てしまう。
俳 安定の人でなし感……。
青 この後、放浪俳人のイメージが確立するわけです。笠に眼鏡、墨染姿で各地を托鉢し、あてどない旅を続けて自由律を詠む……そんな彼は四十代半ばでした。


漂白の俳人像

俳 托鉢は暮らしていけるほど儲かるのかしら。働かなくて稼げるなら、私も考えないではないわ。
青 止めた方がいいですよ。山頭火は久々に郷里に戻った際、町の子どもたちに「ホイトウ(乞食)が来た」と笑われて落ち込んでいます。シラミだらけの安宿に泊まり、金がなければ野宿して鼠に米袋をかじられる。体臭も凄いし、歯も抜け落ちるし、托鉢もキツい。店先に立てば水をかけられたり。
俳 お詳しいですね。まさか……托鉢済み?
青 放浪の旅には憧れるのですがふんぎりが付かなくて。山頭火の日記に放浪の様子が書かれているんですよ。彼は日記を丹念に記したため、旅の様子や迷言等が今に伝わったわけです。
俳 迷言?
青 「歩かない日はさみしい、飲まない日はさみしい、作らない日はさみしい、ひとりでゐるのはさみしい」(1)とか。
俳 ダメ人間なのにカッコイイ……何だか悔しい。
青 放浪とはいえ、各地で「層雲」同人等の援助を受けたり、離婚したサキノさんが彼を心配して服やお金を送ったり、彼の面倒を見る人々がいました。しかし、彼の宿痾だった酒癖の悪さはどうしようもなく、本人が一番嫌だったようです。彼は金を借りて温泉と酒、芸者遊び等に使い込んで無一文になり、イヤイヤ托鉢をしてその日の食い扶持や酒代を稼ぐ。「煙草は落ちているが米は落ちていない」と妙な感慨を日記に書き、梅干と白湯の食事を続けたりする。酒が飲みたくて知人の家に押しかけたり、無心した金で泥酔する。懺悔するもその繰り返し。
俳 もう驚かないわ。山頭火だもの。
青 主に西日本を放浪し続ける山頭火はいつしか草庵を結びたいと思い、心ある「層雲」同人やファンが庵を探し、彼に贈ります。熊本や山口で草庵に住むも、再び周囲に断りなく旅に出る。最後は松山の一草庵に落ち着き、歯も全て抜け落ち、犬から餅をもらったり猫に飯を食べられたりして五十七歳の往生を遂げました。彼は虫や動物のようなコロリ往生が夢だったので満願成就ですが、自殺説もあります。熊本の観音堂を出て以来の旅は、死に場所を求めての彷徨だったフシがあり、実際に自殺未遂も起こしている。人には様々に背負った業や宿命がある、という感じでしょうか。
俳 男の屁理屈ね、ムシが良すぎるわ。サキノさんとお子さんが不憫ですよ。
青 サキノさんは離婚後も戻ってきた山頭火を受け入れたり、放浪中の彼に義母(山頭火の自殺した実母)の位牌やお金等を送り、山頭火を号泣させています。俳人山頭火の陰に隠れていますが、偉大な女性でした。

(続く)


解説

(1)「行乞記」昭和五年十月二十日条に見える。「行乞記」以来、山頭火は日記を晩年まで付けており、他に「一浴一杯」の素晴らしさを綴るくだりなど迷言集としても愉しめる。


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100年投句計画

選者三名による 雑詠俳句計画



先選者 桜井教人

 半年後を目指した内臓脂肪削減プロジェクトは順調に進んでいる。貢献をしているのはAIだ。ダイエット用のアプリを使い摂取カロリーと消費カロリーを記録している。本当に単純だが消費カロリーが摂取カロリーを上回ればよいのだ。人間ドックでの医師の「結果には原因がある」との言葉通りだった。おまけにAIは栄養バランスのアドバイスをくれたり、たくさん歩くと誉めてくれたりする。宴会で食べ過ぎたときも対策を考えてくれる。食事に工夫をしてくれている妻の協力も得てもうしばらくこのプロジェクトは続く。




風花やかろりとすなる火の匂  くらげを
 一読して不思議な言葉の世界に誘われた。まずは「すなる」だ。サ行変格活用「す」の終止形と伝聞の助動詞「なり」の連体形でこの句では伝聞的な比喩の働きをするのだろう。次は「かろり」だ。これは火の匂いのオノマトペだろう。この二つの大和的な言葉により、やはり俳句は日本人の心の奥底にある響きとリズムに拠るものだということを再認識させられる。この二つの言葉が風花と火の匂を結びつける手法は感嘆に値する。




ふたりして方向音痴暮早し  藤色葉菜
 ふたりという数が方向音痴に適切だ。夫婦でも親子でも友だちでもよい。二人一緒に迷う様子が実に面白く、いろいろな場面を想像させる。やや因果関係のありそうな季語だがこのタイプの句はこれでよいのかも知れない。

金秋の産直市へウインカー  あいむ李景
 産直市に対して金秋の季語がとてもよく効いている。金秋だから産直市に並ぶ秋の実りの色、質、光がプラス方向へ容易に想像できる。実に美味しそうだ。そしてその産直市へ向かう場面をウインカーで表したのも秀逸。

須佐之男のビンタのやうに鳥渡る  松田夜市
 須佐之男のビンタとはなんとインパクトが強い言葉なのだろう。それを鳥渡るの比喩に使うのだから恐れ入った。比喩を使うならここまで突き抜けると気持ちがよい。神の代には須佐之男も渡る鳥を見送ったのだろうか。

犬捨ててこい冬三日月に刺されるぞ  奈月
 上五の命令形から後半の脅し口調への展開が面白い。しかもそこに何の因果関係も感じられないから不思議な世界が広がる。やややり過ぎ感があるところがこの句のよさだ。理屈ではなく読み手の感性に挑戦する句だ。

母だけが鳩と目の合う冬の暮  みやこまる
 自分とは目が合わないのに何故か母とは目が合う鳩の存在に気づく作者の視点がすばらしい。餌を探して彷徨う鳩とそれを見つめる母子にとって冬が暮れるのは早い。




雪催ふ手品師の香の消へてより  野中克歩
お母さん役になれたか去年今年  青海也緒
墓じまい七十年の冬日向  レモングラス
犬欲しと窓叩きよる雪をんな  薄荷光
霜夜なる薬はどれも違ふ色  すりいぴい
絶食の夜をなだめて雪の華  うに子
平成のこんがらがっていく師走   七瀬ゆきこ
木犀や芳名帳のビルマ文字  有瀬こうこ
石蕗の花たしかに海はあつちです  小木さん
四捨五入すれば幸せ実南天  えつの

桜井教人(さくらい きょうと)
 1958年愛媛県生まれ。愛媛県公立小学校教員。いつき組。子規顕彰松山市小中高校生俳句大会選者。第2回大人のための句集コンテスト優秀賞。第24回、29回俳壇賞候補。



先選者 阪西敦子

 前に、勤め先も自宅も最寄りのコンビニがセブンイレブンであることは書いたが、ふと、その両方が銀杏並木に面していることに気づく。どちらも遅咲きのようで、他では銀杏が葉を落とし始めたこのごろ、同時に黄葉が見ごろを迎えた。もうすぐ黄落を出て、黄落で働き、黄落へ帰宅する頃がくる。遅刻に注意だ。




ずぶ濡れのアケビの傘でありにけり  青柘榴
 アケビの傘とはおそらくアケビそれ自身。熟れて弾けた厚い皮が実を覆っている様だろう。皮が弾けた実は食べごろ、しかしその時間は短い。鳥が狙い、また、収穫してもすぐに傷んでしまう。この実にはあいにくの雨が降った、それもかなり長くかなり強い雨。偶然このタイミングで弾けてずぶぬれになっているアケビに流れる冷たい雨の時間を掬っただけであるけれど、それは何かかけがえのない時間のように思えてくるのである。




受付の電話鳴るままポインセチア  花伝
 普段は落ち着いているのだろう何かの受付、ポインセチアが置かれている。休憩か、多忙になってしまって出られないのか、電話は受ける人もなく鳴り続けている。あかあかとして華やかなポインセチアの姿がちぐはぐでおかしい。

釣柿や西へ西へと夕陽逃げ  かのん
 干柿を作らんとして吊るしてある。その向こうを、夕日がぐんぐんと沈んでゆく。それは逃げ足というほどの速さに感じられるという。吊柿の等間隔が、よけいにその速さを感じさせるのかもしれない。柿と夕日だけを詠んでがらりと変わる夕ぐれの景を思わせる。

パリパリと羽を散らして冬の蝶  立志
 翅は本当は崩れていっているのであるけれども、散らしていると見ればそれは蝶の意志のようでもある。その破片は冬の光を纏い、蝶の軌道を描く。消えゆく姿に乾いた前向きさを感じる。

ハモニカのぶあんぶあんと枯野かな  ゆりかもめ
 ポケットにも入れられる楽器、よく考えるとこの大きさで音階を奏でるものって少ない。広くすかすかした空間に、思い切り奏でるハーモニカは、風のうねりと相まって鳴るのだろう。「ぶあんぶあん」のぶっきらぼうさがよい。

また爪の短くなりぬ冬菫  花節湖
 爪が短くなるとは、自発的に切るのではなくて、割れたり掛けたり剥がれたりして、短くなってしまったものだろう。冬の乾燥や慌ただしさが、間接的原因になることもある。冬の菫を手に取って気づいたものかもしれない。小さな嘆きを包む小さな慰め。




寒鵙や放水を待つダムの門  小川めぐる
白衣脱ぎ休憩室のミカン食む  のり茶づけ
駆け込みし車窓に蒼き秋の空  とべのひさの
ほどけたる飛行機雲やアロエ咲く  松田夜市
山積みの書類に向かい大くさめ  おせろ
霜夜なる薬はどれも違ふ色  すりいぴい
極月やお店屋さんごっこは無口   七瀬ゆきこ
母だけが鳩と目の合う冬の暮  みやこまる
大寒やじんわりと焚く茶の香炉  明惟久里
投票所立会人の大嚔  ひでやん

阪西敦子(さかにし あつこ)
 1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。



後選者 関悦史

 映画というのは見始めると次々に見ずにはいられなくなりますが、渋谷のシアター イメージフォーラムでアラン ロブ=グリエ監督作品6本の特集上映が始まってしまい、『エデン、その後』と『快楽の漸進的横滑り』の2本を見てみて、これは全部見なければと覚悟を決めました。日本では、執拗な描写がそのまま迷宮となる特異なヌーヴォーロマン小説の書き手としてばかり知られるロブ=グリエですが、映画作家としても一流でした。


特選

サバンナも氷河も地球寒昴  クラウド坂の上
 気候の変化に富んだそれぞれの風土も「寒昴」から見れば同じ地球の上という、一般論的にわかりやすくまとめてしまっている句ですが、「サバンナ」と「氷河」に異物感のようなリアリティがかすかに残っています。

冬の夜の書架にねじ式あるところ  暮井戸
 つげ義春の古典的名作マンガである「ねじ式」。あの特徴的な絵柄と不条理さと懐かしさが本棚にあるのを感じているという句で、静かな冬の夜の本棚が、そのまま記憶の底の異界につながります。

七色のコリアンタウン鮟鱇揺る  すりいぴい
 「鮟鱇」と「コリアンタウン」の取り合わせに軽い意外性あり。それと「七色」の派手さが合わさって、鮮やかな背景の街並みと、その前に吊るされた鮟鱇の体が、遠近感、立体感を持って描かれています。


並選

バス停で藤の実見つけたバスが来た  松浦麗久
しらしらと降る初雪を手の甲に  藍植生
着膨れて孫の手でチロ呼んでいる  中山月波
冬籠人生は変わらなかつた  或人
目玉開けぱつくり開く冬の魚  KIYOAKI FILM
シクラメン抱えさしだす夫の指  レモングラス
抽斗をあまねく鎮め年一夜  久我恒子
偶然の三つもありて文化の日  しのたん
木の実降る跳ぶ子叫ぶ子寝そべる子  波野
横恋慕して落や落や  藍人
石柱のごとく鯨の眠りけり  小川めぐる
ゴミの日を見送りながら冬の空  冬のおこじょ
声の無きチャンチャンバラバラ大冬野  風来松
毛糸編む黙を強ひらる夫かな  ヤッチー
硝子張りのスポーツクラブ冬の宵  すみ
鴛鴦や基礎体温を付ける朝  光本弥観
酉の市見世物小屋の蛇女  ゆき
呑み助の身酒鰭酒限もなし  芳香
ランナーは膝高く上げ寒の晴  桂奈
子らの声息の白さを競う朝  和音
林檎剥く今日の予定を聞きながら  ぴいす
中年や吾の口より母の咳  凡鑽
冬雲雀光回線工事中  斎乃雪
青空や飛び跳ね橇の急降下  俳菜裕子
冬の月きつちり結ぶ靴の紐  笑松
七五三怪獣になる五歳児  ハルノ花柊
冬薔薇角々に立つ抗議文  一走人
冬ぬくしいくつあるのか虚子の句碑  小市
帰り花風の緩みの不穏なる  南亭骨太
ぬけぬけと愛を説く人冬薔薇  さより
たましひを蕩かすやうに葛湯とく  次郎の飼い主
言の葉の密度を透かす息白し  柊月子
竈猫電波の届かぬ日を生きる  鯨木ヤスカ
海鼠噛む古事記の漢字追ふごとく  ぐずみ
捨ててみてまた買いなおす年用意  ちゃうりん
柿ふたつ届けてくれし友のあり  喜多輝女
初しぐれ赤信号の長きかな  洒落神戸
虎落笛ピアスホールに隠る熱  洒落神戸
目眩とは余震それとも秋の蝶  一斤染乃
ジョバンニのほんたう光り出す胡桃  一斤染乃
新しき呼び名の付きて菊の中  元旦
そばの芽出真白き花を待ちにけり  どんぐりばば
黒猫の黍の向ふに伏かくれ  人日子
秋めくや雨天決行十キロ走  ケンケン
冬休み明けあいつが寮に戻れる日  花紋
三日目のおでんをつつく昼餉かな  北川谷戸乃
海豚笑ふ青年スマホ見て飽きず  未貫
傘もとぶギサギサ天気に開花宣言  みちこ
おばの癌ステージ4と知らされる春  いっちゃん
小春日の仕掛時計へ人集ふ  内藤羊皐
夜焚火や家路躱してカップ酒  童夢U世
亡き人の夫の名で着く梨重し  ちろりん
水漏れの間合い悩まし秋の夜  老兵
冬日和本屋で選ぶ楽しみや  巴
新巻の腹に秘めたる夕茜  鯉城
離れ猿雨に打たれて返り花  哲白
あちこちに聞くムンクの叫び去年今年  八かい
あかぎれの数で水温わかる朝  ミセウ愛
絆創膏ゆびを二周す秋惜しむ  土井探花
一瞬のきらめきとなる冬の昼  アンリルカ
月光の死角梟の眼光  大阪野旅人
立冬の味噌汁二つ割る卵  花節湖
果樹園の陽に影のごと冬の蜂  彩楓
凍鶴や神説く人の遠き声  ラーラ
ラジオより人生相談檸檬摘む  空山
ふくろふの睥睨頸骨の一二  緑の手
冬薔薇「癌なの」友は笑ってた  ミセスコナン
恍惚の貌で蟷螂喰はれをり  坊太郎

関悦史(せき えつし)
 1969年茨城県生。「翻車魚」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。2017年第二句集『花咲く機械状独身者たちの活造り』、評論集『俳句という他界』刊行。共著『新撰21』『俳コレ』他。


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100年投句計画

自由律俳句計画


きむらけんじ

 家の近くに、あのタリーズ コーヒーと青〇珈琲がある。家にずっと居る日は夕方気分転換に行くが、確率としては青〇珈琲がかなり多い。空いているからだ。なぜ空いているかといえば、タリーズよりマズイし量も少ない。店員によっては、温めるのにレンジでチンしやがる。しかし混んでいるより空いているほうが自分としては気持ちがよいので行く。いままで一人でよく通った飲み屋も大抵空いていて、閉店されると困ったものだったが、まあここも遠くない将来困ったことになる予感はする。いつも空いていて長持ちする店……無理か。




県境に男と居る  有瀬こうこ
 典型的な短律句。短ければよいということではないけれど、上手い短律句は余白の部分で多くを語る。あるいは読み手の想像を大きく膨らませ、そこに物語や詩を浮き立たせる。なにかの訳あって男と居る女性の境遇は、いったいどのようなものか。なぜ県境なのか。その捉えようとして捉えきれない県境という位置に、果たしてどういう事情があるのか……想像しても一筋縄ではいかない深みとか広がりとが生まれています。裏も表も語り過ぎてすべてがわかってしまう余白の無い俳句の対局にある俳句と言えます。「県境」が絶妙のキラーワードになっています。




立冬の匂いに交じる解体の匂い  風来松
 この句の中で唯一明確にイメージして視覚化できるのは「解体」という言葉です。文脈絡みで考えると、おそらくはビルなど解体工事のことか。「立冬」「匂い」と言った情緒的なシーンに、俄然解体されるビルが際立って埃っぽい匂いさえ感じられそうです。

腕組んだ妊婦今更遅いのよ  薄荷光
 かなり強引な構成で、自由律ならではの味わいです。腕を組んできた妊婦に、いきなり今更遅いと悪態をつかれる男……ほかにも解釈の仕方がありそうですが、男女の究極の関係を、一刀両断にした鋭さ。

美しき数式のひとつに寒卵  凡鑚
 寒卵の脆く美しい冷たさと言えば、「寒卵どの曲線もかえりくる(加藤楸邨)」が知られていますが、揚句もなかなか緊迫感のある捉えかたです。「数式のひとつ」が、もう少し具体的に感じられれば、なおよいのですが……。

表札のない家の灯りが寒い  ゆりかもめ
ダンサーがいないと寒い  小木さん
 寒い状況を簡潔に切り取った二句。一つは、灯りが点いているものの表札が上がらぬ家の家庭事情の寒さを。もう一つは、「ダンサー」と「寒い」の間の隙間がやや気になるものの、そこに物語性がありそうな妙な寒さ。寒さもいろいろです。

炬燵から生える人々  立志
 部屋に入れば炬燵に寝転んでぐだぐだしている人達……家族であろうがなかろうがそこはもうどうでもよい。「生える」という表現が、そんな些末な問題を吹き飛ばした感があります。シュールな絵画を見せつけられているような気になります。




冬の海風はちりちりとよぢれ  久我恒子
スマホ巧みにマスクの児童  のり茶づけ
ジャケットは軋むペットボトルだった頃  冬のおこじょ
星のやうな涙のやうな絵を描く子  桂奈
朝を見下ろす椋鳥が一羽  一走人
交差点 冬の陽に蝶を見失う  ちゃうりん
嘘ついて生きて寒牡丹  元旦
牧閉す暮れて淋し杭  人日子
補助席を寒オリオンに開ける  内藤羊皐
止まれとか↑とか道に言われている小春  多満


並選

垂直に落ちる師走  青海也緒
大人しく社会のシステムから逃走する  宙蝉
まだ来ない胡桃を置いたのにまだ来ない  松浦麗久
短日を嘆くより夜を楽しめ  藍植生
占いを断られる相なのか  中山月波
顔洗い散歩する片手  KIYOAKI FILM
中学生駅伝先頭は笑顔  レモングラス
嗚呼ニッポンジンダ時雨呑む  藍人
母とよく似た空咳してミケだけは来る  クラウド坂の上
毛の話河童の話屁の話  小川めぐる
七五三今年も七歳不二家のペコちゃん  ヤッチー
夫は小の妻は大の犬引く冬の朝  すみ
猫じゃらしを追う猫の目の狂気  ゆき
介護が無ければ天国  芳香
金槌で銀杏つぶしすぎ  和音
風邪でも無いのに起きられない朝  とべのひさの
月夜に新米を研ぐ  松田夜市
落葉に笑われながら歩いている  小市
犬の目のひたすらに空  南亭骨太
吐きとおすのは嘘ジャムは鬼柚子  さより
君が消えた咳が出ない  奈月
冬薔薇匂ふクーデターの午後  次郎の飼い主
餅で溺れるひとり  鯨木ヤスカ
この山の狐と鳴いている夜  暮井戸
あちちあちち踊る焼藷  ぐずみ
流星群待夜長哉  喜多輝女
靴下は最後に脱ぐ派  洒落神戸
ジェラシーバリバリ凍る朝  七瀬ゆきこ
別にいいよと言ってしまう炬燵です  一斤染乃
鼻の奥から立ち上がる冬  みやこまる
御堂筋のランナー銀杏を拾う  ケンケン
血迷ってたら停電  花紋
曾祖母に江戸城御連歌始とやらならひし頃  明惟久里
枯れ大木覆い隠さんとかずら  青柘榴
百円ショップ一日で橙から赤に  ちろりん
戦争の始まりし日の氷柱  鯉城
捨て案山子も涙  八かい
恋人めく蒲団  花節湖
話さなければよかった 凩  彩楓
舐めたら溶けてしまったルビーの記憶  ラーラ
白い月光り出せば帰る  空山
関門橋を渡れば故郷や初山河  きさらぎ恋衣
さびしさの中を凩  緑の手
よなべ100句を詠む  ミセスコナン
蟷螂が蟷螂喰らいけり  坊太郎


自由律で再挑戦を!

雪うさぎアマゾンスマイルしてをりぬ  冬のおこじょ
北狐尾を腹立てて駆け抜ける  俳菜裕子
バイキング我好き品のオンパレード   俳菜裕子
ゆるきゃらのがっちり固める組織票  うに子
残酷な線を書き足すあみだくじ  うに子
露の世を笑ひ飛ばして生きにけり  みつよ
晩年を考えてゐる枯野かな  みつよ
会釈して無口に並ぶ雨宿り  大阪野旅人
尚老いて平々凡々無重力  大阪野旅人


きむらけんじ
 1948年生まれ。第一回放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律 地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』『あしたも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技 妄想、泥酔。


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100年俳句計画

詰め俳句計画


選者、問題作成 マイマイ


次の(  )の中に共通する新年の季語を入れてください。

砂利踏んで(   )を行く鼓笛隊
(   )や鷺とペンギン並び立つ


砂利踏んで冬夜を行く鼓笛隊
冬夜や鷺とペンギン並び立つ
 KIYOAKI FILMさん。残念ながら新年の季語ではないので級外です。小市さんの寒月も冬の季語でした。同じく級外。今月は新年の季語ということで「初」の付いた季語の投稿が多いのですが、大阪野旅人さんの初雪は冬の季語。猫楽さんの初午は全国稲荷神社の祭礼で二月の初午の日に行うとされており、日本大歳時記では春の季語になっていました。いずれも級外。


砂利踏んで田遊を行く鼓笛隊
田遊や鷺とペンギン並び立つ
 久我恒子さん。「その年の豊作を予祝して行う神事芸能の一種(中略)一年の田仕事のさまを歌と踊りで模擬的に演じ」るものと日本大歳時記にある。とすると前句の鼓笛隊は違うし、後句ペンギンも考えられない。7級。一斤染乃さんの万歳も鼓笛隊ではない。同じく7級。笑松さんは福藁。これは新年庭先に敷く藁のことで、前句、「砂利踏んで」という記述と矛盾する。後句の状況もよく分からない。同じく7級。クラウド坂の上さん、和音さん、薄荷光さんは初場所。前句、こういう光景はあるのだろうか。後句、かなり無理があるが鳥獣戯画的に読み解くのは可能。5級。みやこまるさん、ゆりかもめさんは初市。前句、ところによってはある光景かと思い納得する。後句の鷺とペンギンはフィギュアか縫いぐるみを思えば矛盾はないが、生き物の臨場感には欠ける。4級。すみさんは双六。前句、前衛的。「双六」に「鼓笛隊」がそもそもナンセンスだが、そこに「砂利踏んで」の変なリアリティーが可笑しい。後句は駒が鳥類? 同じく4級。すりいぴいさん、ちろりんさん、矢野リンドさん、小木さんは初夢。前句、現実と夢の世界が入り交じっているようで好きだった。後句、目出度いのだかどうだか。2級。中山月波さん、人日子さんは門松。前句、門松がいいアクセントになっている。後句、ペンギン舎に門松を立てるかどうか微妙だが、この風景は面白い。同じく2級。


砂利踏んで鶏日を行く鼓笛隊
鶏日や鷺とペンギン並び立つ
 河原撫子さん。前句、「鶏」だけに、けたたましいイメージ。後句、いくら何でも鳥を重ねすぎか。3級。小川めぐるさんは牛日。前句の鼓笛隊がちっとも進まない気がする。後句もやはり動物が多くて五月蠅い。同じく3級。のり茶づけさん、内藤羊皐さん、ひでやんさんは人日。後句、そういえばヒトもトリも二足歩行だなとクスッとさせられた。2級。七瀬ゆきこさんは初凪。後句の凜とした姿ながらどこか滑稽な感じは初凪と合う気がするが、前句、騒がしく鼓笛隊が行くときに凪を感じるのが疑問。同じく2級。或人さんは元朝。佐藤香珠さん、俳菜裕子さん、一走人さん、立志さん、どんぐりばばさん、彩楓さんは初春。前後句とも目出度さもあり良かったが、もう一押しの何かが欲しい気がした。1級。青海也緒さん、れいきゅうの夫さん、藤色葉菜さん、ジュミーさん、藍人さん、あいむ李景さん、とべのひさのさん、次郎の飼い主さん、柊月子さん、ちゃうりんさん、洒落神戸さん、元旦さん、きなこもちさん、北川谷戸乃さん、青柘榴さん、童夢U世さん、八かいさん、美和子さん、花節湖さん、空山さんは初晴。桂奈さんは初晴れ。目出度さの上に青空が見えてきて気持ちがいい。同じく1級。レモングラスさん、冬のおこじょさん、ゆきさん、斎乃雪さん、うに子さん、明惟久里さん、ミセウ愛さんは初空。前句、「初空を行く」という表現に詩的な飛躍があって好き。後句もローアングルで空を見上げている構図が面白い。同じく1級。


砂利踏んで御降を行く鼓笛隊
御降や鷺とペンギン並び立つ
 しげこさん、ヤッチーさん。松浦麗久さんはお降、坊太郎さんは御降り。正月三が日に降る雨や雪のことをいう。前句の鼓笛隊は大変ではあるがそこに目出度さと情緒がある。後句はすっくと立つ鳥類に対して御降の縦の線が重なる絵画的な面白さ。ペンギンの濡れた質感も魅力的。初段。ほろよいさん、鯨木ヤスカさん、土井探花さんは初風。前句、目出度さを含んだ冷たい風が気持ちが良い。後句は作中主体もその初風を受けながら立っている場面を想像した。新しい年への希望が感じられる。初段。


今月の正解

砂利踏んで初東風を行く鼓笛隊
初東風や鷺とペンギン並び立つ
 奈月さん、きさらぎ恋衣さん。前後句とも仄かに梅の気配が感じられる華やぎ。二段。


解答募集中!
 次の(   )の中に共通する春の季語を入れてください。

(   )や道にホルンの音の降る
鳥小屋の扉にコツのあり(   )

このコーナーは『新日本大歳時記』(講談社)を参考にして、選者が勝手にランク付けをしています。
新しい季語などを投稿される際は、歳時記、季寄せ名を併せて明記していただけると助かります!

1月20日締切 …結果は3月号に掲載


マイマイ
 2003年11月頃よりラジオに投句を始める。割と生活派俳人だったが、最近は?? 第1回、第4回百年俳句賞(旧大人コン)優秀賞受賞。2013年句集シングル『翼竜系統樹』上梓。将棋推定初段。棋友募集中。宇宙と生命を題材に詠んだ句集『宇宙開闢以降』マルコボオンラインショップにて発売中。


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100年投句計画 投句方法



雑詠俳句計画
自由律俳句計画
詰め俳句計画

 「雑詠俳句計画」では、寄せられた投句を一括して、各選者が選句します。各選者に宛てて個別の投句を行うものではありません。

3月号掲載分締切 1月20日(日)

投句方法

 投句先コーナー名
 俳号(無ければ本名の名前のみ)
 本名
 電話番号
 住所

 以上の必要事項を書き添えて、編集室「100年投句計画」係までお寄せください。メールの場合は、件名を「100年投句計画」としてください。
 「雑詠俳句計画」「自由律俳句計画」はそれぞれ2句ずつまで投句できます。また、「詰め俳句計画」は季語1つのみを投稿できます。
 各コーナーの投句は、ひとつにまとめて送っていただいても構いません。

メール宛先
magazine@marukobo.com

投稿専用ページ
http://marukobo.com/toukou/

さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。(「100年公募計画」のコーナー参照)


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短歌の窓


選者
歌人 渡部光一郎


特選

あたらしき年のはじめの水ふくみかへらぬものはことごといとし  きさらぎ恋衣
 評者なら「あらたしき」の方を使うが、これでもよい。「水ふくみ」とひらがな表記が福々しい歌。「かへらぬもの」ばかりがことごとくいとしい。ともあれ、新しい年を迎えるわたしたち。とりあえず前へ進もう。


並選

親子喧嘩引きずる朝の食卓の真ん中に置く味噌汁の鍋  奈月
 「味噌汁の鍋」を最後にどしんと置いたのがみごとに決まった。いいなあ。「朝の食卓の真ん中に置く」なんてのもうまい。親子喧嘩なんて言葉もほほえましく、できるうちがいいな、などと感じてしまう。

あちこちに貝焼く匂ひ漂ひて晩秋の島静かに暮るる  風
 しずかなたたずまいを見事に詠いおさめた。特に「貝焼く匂ひ」がお手柄。最後の「暮るる」は連体型なので、正確には「暮る」ですが、これだと一音少ないので、口語の「暮れる」で調整するのも一案。

目が腫れて涙のあとの残る朝アデノウイルスなかなかつよい  青海也緒
 「アデノウイルスなかなかつよい」がとてもよく、まだ病気に負けそうもない作者を思わせる。 

お母さん出来ない事を数えずに出来る事だけゆっくりやれば  彩楓
 本当にそのとおり。それしかない。

二十年ぶりに再会した父はズボンの中の千円くれた  有瀬こうこ
 実に二十年ぶり。万感こもるが、ズボンのポッケに突っ込んであった千円札を父は手渡す。お互いいろいろあったのだ。


評のみ

舞踏とは身体である死体である突っ立っている詩体である  暮井戸
 土方巽でしょうか。私たちも突っ立っている体としての詩、詩としての体を目指したいものです。

移り住み棚の義兄の生真面目に折り畳まれた国旗を揚げる  青柘榴
 国旗を真面目に折り畳んでいるのは義兄か。「移り住み」の事情等、短い言葉で言うのは難しいが、いい歌なのでさらに推敲してみて下さい。

時折に猫語を話す友ありて見知らぬ猫にストーカーされ  吉田美知子
 上句「時折に猫語を話す友ありて」まで、すごくわくわくして読んだ。後半でずっこけたが、ユニーク。

「正月はないの」と叔母は笑い言う一人の家はあまりに広く  フラゴナール
 「一人の家」はほんとうに「あまりに広」いですね。「正月はないの」と「叔母」さんが笑っていう。よくわかる情景。

年に二度ほど話題になるの先にボケたもん勝ち夫苦笑う  うさの
 「年に二度ほど」がミソ。「先にボケたもん勝ち」で、後に残ったもんはたまったものではないですね。夫と笑い合う。

薄氷張りし田のみの片田舎家なきことの寂しかりける  美和子
 「薄氷張りし田」に寂寥感がただよう。評者のいなかももう家が少ない。

すれ違う乳母車から乳呑子のことばになれぬことばの零る  内藤羊皐
 面白い発見。「ことばになれぬことば」は「ことばにならぬことば」の方がよい。

神仏はこの世にありと思えども苦難の連鎖果てはありしか  ゆき
 お互い頑張りましょう。神仏はあります。

初めての芸者遊びの野球拳笑った笑った古希の祝や  ミセスコナン
 「笑った笑った古希の祝や」がすばらしい。「笑った」のリフレインで読むほうも元気になる。「や」留めもいい。

いと古き飛騨高山の八幡宮舞ふ巫女の手に二振り太刀  健次郎
 ととのった旅行詠。「いと古き」も、ここではよい。結句の「二振り太刀」は「二振りの太刀」のタイプミスでしょうか。

空っぽの身体が坂を下るとき骨が軋んでやっと詠える  ぽちょ
 「やっと詠える」が残念。それまではとても面白い。いいものが生まれそうな気配。

評者より
渡部光一郎 まさか平成まで終わると思わなかった迂闊な評者です。昨年は大変お世話になりありがとうございました。どうかやすらかな年になりますように。みなさんもお元気でお過ごしください。力作今年もお待ちしています。彌榮!


自作の短歌(2首まで)を下記までお送り下さい。締切は毎月20日。
専用フォーム
http://www.marukobo.com/tanka/
専用Email
tanka@marukobo.com


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自作の俳句を英語に訳そう!

百人百様 E-haiku



文、訳例 菅 紀子


琵琶湖へと向かう路面に夜長の灯
Long night of lights, the road towards the Lake Biwa.
ケンケン

紀訳
lights reflected
on the road toward Lake Biwa
in the long night


生き方は人それぞれのとろろ汁
Eat yam soup, each of the way of life people.
ケンケン

紀訳
the way you live
depends on you,
a yam soup

each lives his life
on his own way
a yam soup


二人へとバッハ霜夜のカーラジオ
a frosty night
car radio
a Bach piece for two
久我恒子

紀訳
frosty night
Bach' s piece for two
from a car radio


君をまだ名字で呼んでゐてココア
still call you
by last name
a cup of cocoa
久我恒子

紀訳
still calling you
by the last name,
a cup of hot chocolate


赤橋を跳ね上げて行く冬の月
A wintry moon
lift up
a red bascule bridge
ほろよい

紀訳
winter moon
lifts the red bascule bridge
as it rises


終りは始まり冬雲の迫る家
a end is a beginning
where winter cloud draws near,
the house
チャンヒ

紀訳
a house
winter clouds approaches,
the end is the beginning


逆立ちの卵は春を待つオブジェ
the Egg standing upside down
is art object of
waiting for spring
チャンヒ

紀訳
the egg standing upside down
is a curio
waiting for spring


たひらけしひとひはちがつじゆうごにち
a peaceful day
on August 15
War-End Memorial Day
明惟久里

紀訳
A day in peace
August fifteenth
Anniversary of the end of the war


枝に待つ新芽かた待つ木の実あり
the nuts
lefting of twigs
waiting for buds
明惟久里

紀訳
nuts on branches
waiting for
the budding or sprouting time


冬帽子被りて今朝の一歩踏む
wearing a winter hat this morning
step out of the house
北川谷戸乃

紀訳
put a winter hat on
take the first step
of this morning


二日目のおでんをつつく一人の餉
pick at oden for two days by myself
that is my dinner 
北川谷戸乃

紀訳
picking at oden
simmered again the next day
dinner alone


初時雨トロッコ列車森抜けて
the first rain in winter
trolley train passes
through the forest
彩楓

紀訳
the first drizzling winter rain
trolly train passes
through the forest


海を見るコンビニの灯よ冬の星
light of the convenience syore
to see the sea
the stars in winter
彩楓

紀訳
the light of a convenience store
facing the sea
winter stars


冬や昔みかんジュースが出た蛇口
Winter and the old days,mikan-juice from the faucet
すずき徳三郎

紀訳
bygone winter
the faucet through which
mikan juice came out


冬や今はビールが出て欲しい蛇口
winter and now, wishing beer from the faucet
すずき徳三郎

紀訳
winter now
the faucet through which
hopefully beer comes out

お便り
すずき徳三郎 当方の職場では、水道水の赤い印のある蛇口から、普段はお湯がでますが、みかん出荷最盛期にはみかんジュースが出てました。(街伝説)


NORICOLUMN

可算、不可算名詞

 あけましておめでとうございます。E-haikuへのチャレンジ、そしてコメントもありがとうございます。本当は一句一句にコメントしたいところですが紙面の都合上「紀訳」で推し量ってください。

 さて今回も英語の基本事項を取り上げます。英語には数えられる(加算)名詞と数えられない(不加算)名詞があり、それを区別しています。日本語では区別しないので忘れがちですが、数えられる名詞は必ず、単数なら語頭にa, an、複数なら語尾にs, es, (子音の後のyをiに変えてes )などをつけて明確に表記します。単複で語が変わるものまであります。

 ところが数えられない名詞もあります。たとえば水。どこからどこまでを数えればよいのか? こういう場合、容れ物に入れてあげると数えられるようになります(a
glass of waterなど)。慣用的に親しんでいる飲物は a cup of coffee (tea)と言うべきところa coffee (tea)
で通用する場合もあります。
また液体のほかに、情報 information も数えられないので anやs はつけません。なぜか家具も不可算、furniture に s はつきません。ケーキは切り分けて a piece of cake、丸ごとは a whole cake です。
不可算名詞に説明をつけると字数を食ってしまい、英語俳句には厄介ですね。


菅 紀子(かん のりこ)
(有)クラパムコモンカンパニー代表。通、翻訳、メディアによる姉妹都市交流コーディネーター。社名は夏目漱石が下宿したロンドンの地名から。歩道短歌会同人。人文学修士、翻訳修士。松山大学非常勤講師。(Hailstone Haiku Circle blog ICEBOX Contributor)(漱石と彼のライバル重見周吉、日系移民研究)


自作の俳句と、それを英語俳句にしたもの(2句まで)を募集!
応募先
 WEB http://www.marukobo.com/eigo/
 Email eigo@marukobo.com

3月号掲載分締切 1月20日(日)


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今回のお題句に対する投句から次のお題句を選び繋げてゆく

疑似俳句対局


選者 美杉しげり


今回のお題句
ねえこんな狐が夜を吐いてます  土井探花


候補句

狐目の男の芝居息白し  宇宙くん
 今月最初の投句。お題句から「狐」を選択。狐目の男というと、つい「グリコ 森永事件」を連想してしまいます。そうなると「芝居」が意味深に思えてきたりして。
 他にも何人か「狐」を選んでおられました。残念だったのは「狐火や大伯母様のしろき頬」という投句。お題句の「狐」は季語として詠まれているのでしょうから、同じく季語である「狐火」という言葉を使うと、減点対象になってしまいます。
女狐の化ける奥の手紅葉の葉  二宮損得
犯人は狐目の男山眠る  斎乃雪
狐面かぶりて師走の街走る  佐藤香珠
 というわけで、それぞれ上手く減点を回避した三句。二宮損得さんの「女狐」は、もちろん季語ではなく悪女を指す言葉ですからOKですね。斎乃雪の男は、まさに例の事件の犯人? 佐藤香珠さんの句、どこかの町でこんな行事、ありそう。

夜勤明けのビール四杯銀杏散る  誉茂子
蜷の道深き夜まで細き筆  明惟久里
冬の香を探る夜明けの四肢の跡  青柘榴
週末や寒夜のタンドリーチキン  24516
レコードの針上下する夜長かな  中山月波
 「夜」を選んだ皆さん。「夜」の句にしては、いい意味で過度な思い入れがない句が多いなという印象です。さらりと後口が良い、という感じですね。

吐くほども呑む奴もいる忘年会  健次郎
やれ吐くな附子なれば食ぶ神の留守  冬のおこじょ
金錆びて水を吐く龍冬珊瑚  あいむ李景
雪の犬吐息あおあお目の光  桂奈
 健次郎さんの句、最近ではあまり見られない景かもしれないですね。昔はよく見かけましたが……。冬のおこじょさんの「附子」の句は、狂言の演目を詠みこんだものかも?
 必ずしも奇麗なイメージではない「吐」の語ですが、あいむ李景さんと桂奈さんの句は、それぞれ美しいですね。どちらも冬の凛とした空気が感じられました。

吐月峰たたいてまつ夫聖夜  七瀬ゆきこ
三日早や今日からまゆ毛かいてます  青海也緒
冴ゆる月老いてますます冴ゆる剣  ひでやん
大晦日泥酔坊主いてまつせ  凡鑽
梅咲いてまだあいまいな間柄  ちゃうりん
 お題句から何の字をいただいた? と、一瞬悩んでしまいそうですが、「いてま」ですね。「4字もOKですよね」という質問もいただいていましたが、もちろんOKです。
 七瀬ゆきこさんのように、お題句から「いてま」「吐」「夜」といただくのも有り。難易度は高いと思いますが。
 青海也緒さんの句は、お正月早々出勤でしょうか、それとも楽しい外出? ひでやんさんの句、老剣豪という感じでカッコイイですねえ。凡鑽さんの句は「いてまっせ」という大阪弁が楽しい。ちゃうりんさんの「いてま」の使い方、なかなかの技巧派!

冷えこんだ路地にあふるる石鹸玉  花節湖
咥えこんだ冬に染められ行く鴉  薄荷光
でえこんはたくわんで喰え江戸っ子は  星埜黴円
 こちら「えこん」を詠みこんだチャレンジャーな皆さん。
 花節湖さんの句は景が綺麗。薄荷光さんの句は、冬に染められてゆく鴉という把握がいろいろ想像をかきたてます。星埜黴円さんの句、あいかわらず楽しい! 季語は「大根(でえこん)」ですね。

こんな夜は狸汁でもたべようか  八かい
ねえこんな山椒魚の抱く夜  大槻税悦
年越しの蕎麦は大方こんなもの  藍植生
なんだ坂こんな坂行く春の汽車  すみ
 こちら、「こんな」という語を選択した皆さん。八かいさんと大槻税悦さんは「夜」も詠みこんでいます。八かいさんと藍植生さんの俳諧味、ちょっと妖しい雰囲気の大槻税悦さんの句、そして明るさが魅力のすみさんの句。

吐血してなほ初雪の匂ひ立つ  奈月
 なぜか明治の文学青年を連想してしまいました。新雪に散った血の色の鮮やかさ。血の匂い、雪の匂い。ドラマティック。
冬の月尖り土偶が泣いてます  一斤染乃
 猫の爪のように鋭い冬三日月でしょうか。土偶が泣いているという虚の世界が、不思議なリアリティを持って胸に浮かびます。
夜の底を押し上げ鮫のほのと嗤ふ  久我恒子
 暗い波間をひたすら泳ぎつづける鮫を「夜の底を押し上げ」と描写して印象的な一句。「ほのと嗤ふ」が妖しくもあり、どこか哀しくもあり……。


次回お題句
冬ぬくし吐息めきたる外国語  笑松

 迷いましたが、次回お題はこの一句に。「吐息めきたる」外国語は、フランス語だろうと勝手に想像しています。もちろん愛の台詞をささやいているのでしょう。実際は寒いのかもしれないけれど、二人の心はあたたかい、なんてね。
 さて。このコーナーをずっと担当させていただきましたが、ひとまず今回でお休みをいただきます。長い間、おつきあいいただいてありがとうございました。
 コーナーそのものはまだまだ続きますので、今後ともよろしくお願い致します。


美杉しげり
 第8回俳句界賞受賞。数年前から小説も書き始め、短編「瑠璃」で第21回やまなし文学賞佳作。美杉しげりはその時からのペンネーム。


毎月25日頃に、投句フォームにてお題句を発表します。投句締切は毎月末日。

疑似俳句対局投句フォームアドレス
http://marukobo.com/taikyoku/


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THE BEATLES 213 PROJECT


第16回
「レイン! ザ ビートルズ 」

文 夜市


 「イエス イット イズ」は1965年4月、9枚目のシングル「涙の乗車券」のB面として発表されました。「恋を抱きしめよう/デイ トリッパー」は1965年12月、「ペイパーバック ライター/レイン」は1966年6月の発売。バンドの軸足がライブからスタジオワークへと移りつつあったこの時期、どちらも両A面とも言うべき贅沢なシングルレコードでした。


イエス イット イズ

その赤の他はモノクロ冬薔薇  立志
 赤は彼女の色だから着てこないで、なんて相変わらず未練がましいジョン。新しい彼女に愛想を尽かされなければいいですけど。

ブランコをこぐせつなさのあふれだす  猫正宗
寒紅やいくたび濡らすそのページ  久我恒子
 ビートルズの作品中もっとも複雑にして美しいハーモニー。ロッカーバラードのリズムに乗せて切なさがあふれだします。

そう嫌でも目に付くんだ曼珠沙華  冬のおこじょ
勝負服赤着続ける三が日  明惟久里


恋を抱きしめよう

人生は溶けゆく雪の三拍子  ロックアイス
 メインボーカルはポール。ちょっぴりシニカルなサビを書いたのはジョン、サビの後半を三拍子にするアイデアはジョージによるものと言われています。

邦題に座蒲団二枚冬日和  れんげ畑
初夢に流れて欲しいタンバリン  越境島
冬の恋リーチ不足のボクサーと  蛇頭
バスに乗り合図送るよ冬鴎  河野しんじゅ


デイ トリッパー

逃水を追い繰り返し何度でも  猫正宗
イントロをもったいぶって弾いた夏  斎乃雪
 「アイ フィール ファイン」「涙の乗車券」そして「デイ トリッパー」と中期のシングルにはギターリフの名作が目白押し。ギター、ベース、ドラムスの順に被さってくるイントロが最高でしたよね。そして繰り返し何度も聴いているうちにイケナイ世界へトリップしてしまうのかもしれませんね。

黄昏のセロリのすぢのゆくへかな  久我恒子
薬物のような女だ酔芙蓉  冬のおこじょ
デイトリッパー最終逃し冬銀河  風十六九
終電をやり過ごすふり狂花  あつむら恵女
小春日や女王陛下もリズム取る  ひでやん


ペイパーバック ライター

石焼芋売るよ三文小説家  ツバメ号
薄紙を重ねて折りぬ八重桜  斎乃雪
 いきなりイントロからアカペラで始まるハーモニー。一説では3人で3回オーバーダビングを重ねた九重唱なんだとか。ゴキゲンなコーラスワークですが、ちょっぴり石焼芋屋さんのテーマソングに似ていると思うのは私だけかな。

原稿を放り投げては冬林檎  花伝
ペンギンでいかせてどうせ春一夜  猫正宗


レイン

人生の秘訣さえずる寒苦鳥  猫正宗
 寒苦鳥は冬の季語。インドにすむと言われる想像上の鳥なのだそうです。シンプルなジョンの歌詞にひそんでいる人生の秘訣とは。

翔べるのかもう翔んだのかレノンの忌  日暮屋又郎
異次元の雨を避け飲むレモネード  ロックアイス
 互いに一歩もゆずるところのないジョージのギター、ポールのベース、そしてリンゴのドラムス。レインはバンドとしてのビートルズのひとつの到達点のようにも思えます。もちろんそこにジョンの楽曲、ジョンのボーカルがあってのことですよね。

はとびとひくてげにばれふめあのゆふ  風十六九
 レインはビートルズがテープの逆回転の手法を初めて取り入れた曲としても知られます。エンディングをよく聴いてみてください。

聴こえるか雨はほどなく雪になる  きさらぎ恋衣


第18回 兼題曲
「シングル後期編」

 ハロー グッドバイ
 愛こそはすべて
 ヘイ ジュード
 リボリューション
 レディ マドンナ

 兼題曲を詠んだ俳句をお送り下さい。

専用フォーム http://marukobo.com/beatles/
専用Email beatles@marukobo.com
締め切り 1月20日


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100年俳句計画編集室セレクト

100年公募計画



掲載は応募締切順。
選者は順不同、掲載名は敬称略。
各公募情報の詳細につきましては、主催者発表の最新情報ならびに問い合わせ先でご確認ください。


第8回 瀬戸内 松山 国際写真俳句コンテスト
主催 松山はいく運営委員会、松山市
募集内容 写真と俳句を組み合わせた作品。【自由句部門(日本語、英語)】お題「海」を写真または俳句で連想させるもの。【課題句部門(日本語、英語)】課題写真に対して、俳句のみを応募。
締切 平成31年1月14日(月)必着
審査員【日本語部門】森村誠一、夏井いつき、キム チャンヒ、山口亜希子 【英語部門】デビッド マクマレイ、キット ナガムラ
賞 【自由句部門】日本語、英語それぞれ、最優秀賞1点=3万円分相当賞品、優秀賞2点=3千円分相当賞品 【課題句部門】日本語、英語それぞれ、最優秀賞1点=1万円分相当賞品、優秀賞2点=3千円分相当賞品
詳細問合先 電話06-6222-5224(朝日カルチャーセンター 瀬戸内 松山国際写真俳句事務局)
メール matsuyamahaiku@gmail.com(松山はいく事務局)
http://matsuyamahaiku.jp/contest/

第11回 滑稽俳句大賞
主催 滑稽俳句協会
募集内容 未発表の作品十句一組2000円。メールか封書で応募。封書の場合、A4サイズの紙を使用し、横使い縦書き。何組でも可。
宛先 〒791ー2103 愛媛県伊予郡砥部町高尾田1173ー4「滑稽俳句協会 大賞募集」TR係
締切 平成31年1月31日(木)当日消印有効
選者 秋尾敏、池田澄子、上谷昌憲、河村正浩、小西昭夫、小町圭、蟇目良雨、冨士眞奈美、八木健
賞 大賞 賞金5万円、次点 賞金1万円
詳細問合先 mail kokkei@kokkeihaikukyoukai.net

右城暮石顕彰 吉野川全国俳句大会
主催 本山町
募集内容 未発表の四季雑詠2句一組1000円。規定の投句用紙(コピー可)を用い、何組でも可。
宛先 〒781ー3601 高知県長岡郡本山町本山568ー2 本山町立大原富枝文学館内「右城暮石顕彰吉野川全国俳句大会」事務局
締切 平成31年1月31日(木)当日消印有効
選者 辻桃子
賞 右城暮石賞、高知県知事賞、高知県文化財団理事長賞、選者賞(特選3句、入選20句)。応募者全員に入選句集進呈。
表彰式 平成31年4月14日(日)/本山町プラチナセンター ふれあいホール(当日句会あり)。
詳細問合先 電話0887-76-2837(「右城暮石顕彰吉野川全国俳句大会」事務局)

春夏秋冬(しき)笑顔まつやま福祉五七五 冬
主催 松山市社会福祉協議会、マルコボ.コム(ふくし句会、ハイクライフマガジン「100年俳句計画」)選句
募集内容 福祉をテーマにした秋季の句を、専用フォーム(http://www.marukobo.com/egao/)より応募。
締切 平成31年2月3日(日)
賞 「松山トリコ」 大賞(松山市社協会長賞)1点=道後温泉湯玉トートバッグ、優秀賞3点=ブックカバー、入賞4点=紙の湯カードケース
詳細問合先 電話 089-921-2111(松山市社会福祉協議会)

第1回おうちde俳句大賞
主催 朝日出版社
募集内容 テーマにそった自作未発表の俳句。※春、夏、秋、冬、新年、いつの季語を使用しても可。
句にまつわるコメントを添えることも可。1回につき3句まで投句可。【テーマ】1リビング、2台所、3寝室、4玄関、5風呂、6トイレ。
郵送での応募の場合は、書籍「おウチde俳句」(朝日出版社刊)に付いている投句ハガキ、または郵便ハガキを使用すること、または、公式ホームページの応募フォームより投稿。
審査員 夏井いつき、および「おウチde俳句大賞」授賞式イベント参加者
宛先 〒101ー0065 高東京都千代田区西神田3ー3ー5「おうちde俳句大賞」TR係
締切 平成31年2月28日(木)必着
賞 夏井いつき おウチde俳句大賞(1名)=賞金20万円、各テーマ賞(6名)=賞金5万円
詳細問合先 電話03-3263-3321
mail info@asahipress.com
(朝日出版社「おウチde俳句大賞」事務局)

HAIKU日本冬の句大賞
主催 特定非営利活動法人HAIKU日本
募集内容 冬または新年の季語、3句以内1組につき1000円(何組でも応募可)郵送またはホームページから
宛先 〒770ー0028 徳島市佐古八番町5ー19 特定非営利活動法人HAIKU日本 投句受付係
URL https://haikunippon.net/
締切 平成31年2月28日(木)当日消印有効
審査員 神野喜美HAIKU日本理事長、ますだ思音HAIKU日本副理事長ほか理事3人、写真俳句連絡協議会中村廣幸会長 顧問:ひまわり俳句会西池冬扇主宰、蛮 鹿又英一主宰
賞 HAIKU日本冬の句大賞(1点)=5万円、銀賞(1点)=3万円、銅賞(数点)=1万円、写真俳句大賞(1点)=3万円。各賞に賞状と入賞作品の短冊、副賞を贈呈。
詳細問合先 電話088-625-1606


夏井いつきの一句一遊

協力 南海放送

南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句宛先
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/

投句募集中の兼題
1月13日 玉子酒、寒苦鳥
1月27日 カタカナ「セ」、未定
未定の兼題は、番組発表でご確認ください。

11月度「天」獲得句

菊吸虫
菊吸虫欲とはつまり淋しいのだ  海田

初時雨
初時雨稚魚のこつんと惑ふ音  薄荷光

漢字「産」
産砂や思い出ほどにしろばんば  烏天狗

目貼
目貼してたちまち臭き娯楽室  みいみ
目貼して父の山気を閉ぢよ閉ぢよ  凡鑽

蒸飯
蒸飯ささくれている箸と風  太郎

掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとにしたものです。俳句ならびに俳号が実際とは異なっている場合がありますのでご了承ください。


俳都松山
俳句ポスト365

協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/

投句期間
1月の兼題

投句期間
12月13日〜1月9日 うらうら 
1月10日〜1月23日 菠薐草 


11月度「天」獲得句

胡桃
リスの割る胡桃のなんときれいなこと  中岡秀次

炬燵
遊郭の如き炬燵の灯りかな  あー無精


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鑑(み)るという冒険


映画篇 演劇篇

文&俳句 猫正宗


第七十五回
『わが兄はホトトギス』&『泣くな!チュニャン』

 前号に引き続き、今月も特別な上映会の話。現在松山でも活動中の漫画家兼サブカルタレントの杉作J太郎('17年9月号参照)が中心となって開催された「どっきり文化まつりDESTINY」('18年11月16日〜18日、シネマルナティック)その最終日に上映されたのが『わが兄はホトトギス』。本誌読者ならお察しの通り、正岡子規の話である。子規の日記『仰臥漫録』を題材に、晩年の闘病生活を妹の律の目を通し描いた作品。とは言え、よほどの映画好きでも本作のことは知らないだろう。なぜなら本作は映画ではないからだ。愛媛の放送局、南海放送が1978年に、創立25周年記念としてつくった単発テレビドラマなのだ。今回、どうしても本作を観たかったのは、本誌に携わる身として、やはり子規の作品を……というわけでは全くなく、子規を演じたのが岸田森だったからだ。ほんの端役として登場しても強烈な印象を残す、この夭折の天才、稀代の怪優には今でも熱烈なファンがおり、かくいう筆者もその一人なのである。本作はその性質上全国放送もなく、また氏の特集などでも上映されていないため、ファンの間では幻の作品となっていた。今回は杉作がラジオ番組を持つ南海放送の協力と、本作の、やはり愛媛にゆかりの脚本家、早坂暁の遺族の許可を得ての、制作後初の銀幕(スクリーン)での上映であった。劇中、痛みにのたうち絶叫する子規の姿は、食道癌により43歳の若さで亡くなった岸田の姿と重なって辛いものもあったが、子規の仲間を演じるのが、岸田とともに文学座を退いた後結成された六月劇場の盟友だったりしたのには、救いを感じさせられもした。
 ああ、それにしても、当時の空気感とともに、見知った風景の中を歩く岸田森の姿。この街に、私が生活していたすぐ近くに、確かに彼が存在していたのだ!!
 因みに本作は、横浜の放送ライブラリーで無料で観られるとのこと。

星飛ぶや金糸雀うたを忘れても

 続いても、文化祭つながり。第5回四国朝鮮学校交流フェスタのオープニングアクトだった『泣くな!チュニャン』('18年11月3日、4日)上演した劇団タルオルムは、2005年大阪を拠点に、在日コリアンと日本人の有志が結成したバイリンガル劇団。本作は、民族的伝統芸能の演目として広まり、その後、繰り返し様々なバリエーションで語られる『春香伝』を、やはり本劇団流に脚色(典型的な耐えて待つ女性(ヒロイン)の話、と思いきや……)。かの国とこの国、過去と現在が重なり混じり合う世界をまとめるのはマダン劇(民族的伝統芸能を70年〜80年に、再生復興した現代劇)という形式。それを単なる絵空事に感じさせなかったのは、彼女たち(そう、全員女性だ)の在り様に嘘を感じなかったからだと思う。
 それにしても、今回たまたまひっかかったので観ることができたのだが、本当なら見逃していたところであった。すぐ隣にありながら逃している表現や文化がたくさんあるのだろうと、あらためて思い知らされた。

照らし得ぬ道あり昇る月にしか


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今月の俳句カクテル

The HAIKU's Glass


文&カクテル 古川千栄子
協力 Riff


木枯らしや酒で心はおさまらぬ  団

ウイスキーとミネラルウオーターが同量入ったロックスタイルのお酒「ウイスキーハーフロック」
ウイスキーのストレートを飲むのは辛いけれどハーフロックにすればいくらでも飲めてしまう悪魔の調合。理不尽な事ってたくさんあると思いますが、ひとまず「お疲れ様〜!」


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新聞記事に隠された俳句を発掘する

クロヌリハイク


黒田マキ


秋 の ゴリラ 風の音を聞い ている (2018年12月5日 日本経済新聞より)

半端ない 暑さ ボーっと生きて ーよ! (2018年12月4日 デイリースポーツより)

日本という国 師走なのに夏日 (2018年12月5日 朝日新聞より)

サンタクロース アジの干物 に 魅了 さ れ (2018年12月4日 愛媛新聞より)


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100年俳句計画 掲示板



テレビ、ラジオ

NHK 総合テレビ(四国四県域)
 「四国 おひるのクローバー」内 隔週火曜
 『夏井いつきのムービー俳句!』
1月15日(火)、29日(火)11時30分〜

TBS系列局 全国ネット
 『プレバト!!』
毎週木曜 19時〜
夏井いつきがゲスト出演者の俳句ランキング付けで出演! 放送日の番組欄を要チェック!

南海放送
 松山市政広報番組『大好き!まつやま しあわせ実り庵』
毎週火曜 20時54分〜21時(再放送 日曜11時40分〜11時45分)
夏井いつきがナビゲーターとして出演

南海放送ラジオ
 『夏井いつきの一句一遊』
毎週月〜金曜 10時〜10時10分
投句募集の詳細は「100年公募計画」のページを参照。

FMラヂオバリバリ
 『俳句チャンネル』
毎週火曜 10時30分〜11時00分(再放送 水曜22時〜22時30分)
投句募集兼題
「雪晴、寝酒」1月13日締切
「冴返る、春祭」1月27日締切
 WEB http://www.baribari789.com/
 mail radio@baribari789.com
 FAX 0898(33)0789
投句には本名、住所をお忘れなく!
「天」の句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。

各番組の放送予定は変更される場合がございます。新聞やWEBなどで最新情報をご確認ください。


選句、執筆

松山市『俳句ポスト365』
http://haikutown.jp/post/
投句募集の詳細は「100年公募計画」を参照。

テレビ大阪俳句クラブ
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 「集まれ俳句キッズ」(夏井いつき選)
毎週日曜タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井いつき選)
 投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。
 裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。
 朝日新聞松山総局(〒790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。


講演、イベント等

第12回夏休み句集を作ろうコンテスト 表彰式
1月12日(土)13時30分〜16時
 松山市立子規記念博物館4F講堂(愛媛県)
問合先 有限会社マルコボ.コム
電話 089(906)0694

第17回まる裏俳句甲子園
〜勝ったら酒だ!負けても酒だ!〜
1月13日(日)予選9時30分〜/本戦13時〜
 松山市立子規記念博物館 4階講堂(愛媛県)
問合先 有限会社マルコボ.コム(担当:キム)
電話 089(906)0694
Eメール mhm_info@e-mhm.com

平成30年度(第20回)NHK全国俳句大会
1月20日(日) 13時〜16時
 NHKホール(東京都)
主催 NHK、NHK学園
募集、参加申し込み受付は終了しています。
問合先 NHK学園「NHK全国俳句大会」事務局
電話 042(572)3151

坂井市生涯学習講演会 夏井いつき句会ライブ
1月23日(水)19時〜
 ハートピア春江(福井県)
問合先 坂井市生涯学習スポーツ課
電話 0776(50)3162
募集、参加申し込みは終了しています。

第26回一筆啓上賞顕彰式
1月25日(金)10時00分〜
 たかむく古城ホール(福井県)
問合先 公益財団法人丸岡文化財団
電話 0776(67)5100

長浜盆梅展俳句まつり 第5回長浜盆梅展句会ライブ
1月26日(土)
(1)句会ライブ
 盆梅特製ランチ長浜盆梅展入館券付 10時〜13時
(2)句会ライブ
 盆梅展入館券付 14時30分〜16時30分
 Hotel&Resorts NAGAHAMA(滋賀県)
参加費 (1)5000円 (2)2500円
定員になり次第受付終了。
問合先 長浜観光協会
電話 0749(65)6521

市制施行130周年記念事業「いい、つばきの日」記念イベント
 夏井いつき句会ライブ
1月27日(日) 13時30分〜15時30分
 松山市立子規記念博物館4F講堂(愛媛県)
参加無料
問合先 松山市役所 シティプロモーション推進課
電話 089(948)6705

第28回松蔭小学校教育研究発表会
 夏井いつき句会ライブ
1月30日(水) 14時30分〜
 八幡浜市立松蔭小学校(愛媛県)


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鮎の友釣り


第245回


俳号 小川めぐる(おがわめぐる)

前回 大槻税悦さんへ ブログで参加者を募集した初めての吟行句会に来てくださった恩人のひとりです。場をぱっと明るく出来るパワー、そしてサッパリとした男気に溢れた魅力的な女性。税悦さんと一緒にいるだけで何だか勇気が湧いてきてしまいます。また一緒に囲みましょうね!!

写真 次回ご紹介のすりいぴいさんとのツーショット!……と見せかけて(笑)関西の句友との吟行句会のさいの集合写真から切取ったものです。お人柄が出てますね♪(テキスト版では写真割愛)

俳号 「小川」は生まれたところの名前。「めぐる」はいつもあたふた目を回している自分。意図していた訳ではなかったのですが、姓+名前で「循環」の意になっていることに気づき、淀まず常に新鮮でいられたら、という憧れも込めていることにしました(笑)。

次回 すりいぴいさんへ 各所で大活躍のすりいぴいさん、何と何と奇跡のご近所さんでビックリでした! 真摯な紳士で物腰やわらかく、豊富な知識を惜しみなく披露してくださるすりいぴいさん。その素敵エッセンスを少しでも吸収させて頂くべく、ちょろちょろとまとわりついている私であります。今後とも寛大な対応をよろしくお願いいたしまする!!


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告知



春夏秋冬(しき)笑顔
まつやま福祉
五七五


福祉をテーマにした
冬の五七五募集

主催
 松山市社会福祉協議会
 有限会社マルコボ.コム(ふくし句会、ハイクライフマガジン『100年俳句計画』)選句
協賛
 福祉タクシー つちや


年4回、福祉をテーマにした五七五を募集します。
人に優しくなれるような、五七五をお待ちしています。

第四回締切 2019年2月3日

2017年度 冬の五七五 会長賞
ばあちゃんと九十かぞえた年の豆  むらさき


募集要項

応募方法
 インターネットの応募フォームにて応募して下さい。
 専用フォーム http://www.marukobo.com/egao/

賞品「松山トリコ」
 大賞(松山市社協会長賞) 道後温泉トートバッグ(1点)
 優秀賞 ブックカバー(3点)
 入賞 紙の湯カードケース(4点)

発表
 ハイクライフマガジン「100年俳句計画」3月号ほか

問い合わせ
 TEL 089-921-2111





クロヌリハイクコンテスト
日めくり作品集 発売中

「クロヌリハイク」は、紙面を塗りつぶし俳句を浮かび上がらせる、黒田マキさん考案のアート作品。
2018年6月〜8月末まで募集された「クロヌリハイクコンテスト」の入賞作品が、日めくりカレンダーになりました!
全31作品、毎日めくって楽しめます。

定価 900円(税別)送料別

マルコボ.コムオンラインショップにて発売中
http://shop.marukobo.com/





第17回 高校生以外のためのまる裏俳句甲子園
勝ったら酒だ!負けても酒だ!(有瀬こうこさん作)

主催 まつやま俳句でまちづくりの会

日時
2019年1月13日(日)
予選 9時30分 集合、本戦 13時00分〜 (12時30分開場)

場所
松山市立子規記念博物館(松山市道後公園1-30)

入場料 500円

エントリー料 700円(エントリーには別途入場料500円が必要です)

事前に当日お弁当と懇親会の仮申し込みを受け付けしています。
ご希望の方は、mhmホームページ(http://e-mhm.com/)にアクセスし「第17回まる裏俳句甲子園お弁当&懇親会仮受付のお知らせ」にお進みください。
Eメールの場合は、氏名、俳号、電話番号、お弁当の有無、懇親会の有無、(あれば)チーム名をmhm_info@e-mhm.com宛にお送りください。





帰ってきた!俳書道の部屋
4月号作品募集

応募締切 2月20日(水)(必着)

今月号から復活した「俳書道の部屋」は、ハガキ(またはハガキサイズの用紙に)お題の俳句を独創的な書で書き、その書を競う企画です。選者は天玲さん。多数の応募お待ちしております。

お題
菫程な小さき人に生まれたし  漱石

応募方法
ハガキ大の紙にお題の俳句を筆で書き、宛名欄に郵便番号、住所、俳号、本名、電話番号を明記して本誌「俳書道の部屋」宛にお送りください。

送り先
〒790-0022 愛媛県松山市永代町16-1
有限会社マルコボ.コム
100年俳句計画「俳書道の部屋」係





4月号より新連載
俳句の放課後

小、中学生の作品募集

4月号より、俳句作家による子供たちへ送る10句の作品と編集室に届いた子供たちの俳句を紹介するコーナーがスタート。
紹介する小、中学生の俳句を募集します。

対象 小、中学生

締切 毎月20日 初回は2月20日(水)(必着)。

内容 俳句に、氏名、(あれば)俳号、学校名、学年を添えてお送りください。

宛先 magazine@marukobo.com
   件名に「俳句の放課後」係としてお送りください
 790-0022愛媛県松山市永代町16-1
 マルコボ.コム内「俳句の放課後」係





2007年1月号の連載開始から約12年。
「マイマイの詰め俳句 冬、新年編」としてついに発売!
歳時記を片手に自分なりの答えを見つける面白さ、季語の奥深さ、傑作です!

135mm×135mm 36ページ(句集Style-Singleサイズ)
ISBN978-4-904904-42-8 C0092
定価 本体 700円+税

http://shop.marukobo.com/





小中学生対象、親子で参加も大歓迎!
100円俳句教室

日時
第1回 1月16日(水)18時〜19時
3月まで第1&第3水曜日開催予定

参加費 ひとり100円

場所 マルコボ.コム
松山市永代町16-1
TEL 089-906-0694

問い合わせ先
マルコボ.コム info@marukobo.com


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編集後記


キム チャンヒ

 僕が「100年俳句計画」という言葉を考えたのは2006年の春。自分たちのやろうとしている俳句の事業は、十年や二十年先ではなく、百年後を見据えて行わなければ実を結ばないと思ったから。
 それを実現するには、読者が読みたいと思う俳句作品を生み出し、それが広く支持される状況を作らなければならない。そういう発想のもと生まれたのが、「100年の旗手」や「百年百花」であり、本特集の「百年俳句賞」である。
 百年俳句賞がほかの俳句賞と異なる点は大きく3点。1点目は、今回から応募作品をWEB上で一般公開したこと。2点目は、アカデミー賞のように最優秀作品を選考会員の投票によって選ぶこと。3点目が、本誌の付録として製本された受賞作品が配布されることである。
 今回の最優秀賞受賞作品である森本樹朋さんの『白の濃淡』が、多くの方の手に渡り、句集を読む楽しさが伝われば嬉しく思う。
 俳句に限らず、百年後の芸術を切り開くには、それに相応しい「作品」しかない。今回の各受賞作品から、次の百年のありようを想像するのも面白い。


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次号予告


255号 2月1日発行予定

第12回夏休み句集を作ろう!コンテスト



お得で便利なマルコボ.コム直販定期購読! 巻末の案内をご覧ください
お申し込みの方へ、毎月末頃に最新号を送料無料でお届けいたします!
(住所変更の際は必ず編集室までご連絡ください)

『HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画』は以下の書店でもお買い求め頂けます。

愛媛県
 明屋書店(一部店舗のみ)
 ゆらり内海(愛南町)
 原田書房(今治市)
 子規記念博物館(松山市)
 紀伊國屋書店松山店
 ジュンク堂書店松山店


HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画
2019年1月号(No.254)

2019年1月1日発行

編 集 水谷雅子
    有谷まほろ
    松本昌子
    山澤香奈

編集長 キム チャンヒ

発行人 三瀬明子