100年俳句計画 2018年5月号(No.246)


100年俳句計画 2018年5月号(No.246)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。






目次


巻頭リレーエッセイ
渡辺 瀑


特集1
しまなみ海道 俳句まつり 結果報告



特集2
第七回 百年俳句賞

表彰式を終えて

最優秀賞「囀のまなか」 矢野リンド

第七回百年俳句賞 優秀賞「しまうまとうみうし」
有櫛くらげを

第七回百年俳句賞 優秀賞「綺麗な波」
鞠月けい

第七回百年俳句賞 優秀賞「僕のカタチ」
日暮屋又郎


好評連載


作品

百年百花
 津田美音/ふづき/鈴木牛後/中村阿昼

新 100年の旗手
 久野はすみ/石川焦点

新 100年への軌跡
 俳句 若林哲哉/樫本由貴
 評  十亀わら/平山南骨


読み物

美術館吟行/日暮屋又郎

Mountain Cabin Dispatch/ナサニエル ローゼン(翻訳 朗善)

JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭

ラクゴキゴ。/らくさぶろう

mhm通信/妹のりこ

近代俳句史超入門/青木亮人

鑑(み)るという冒険/猫正宗

句集の本棚/岡田一実

クロヌリハイク/黒田マキ


読者のページ

100年投句計画
 選者三名による雑詠俳句計画/桜井教人、阪西敦子、関悦史
 自由律俳句計画/きむらけんじ
 詰め俳句計画/マイマイ
 100年投句計画 投句方法

短歌の窓/渡部光一郎

百人百様E-haiku/菅紀子

公募俳句計画

疑似俳句対局/美杉しげり

THE BEATLES 213 PROJECT/夜市

100年俳句計画 掲示板

魚のアブク

鮎の友釣り


レポート

小倉書道教室 子どもたちの作品展

100年俳句ライブ in プレーパーク


告知

編集後記

次号予告





巻頭リレーエッセイ



孤高の巨樹
渡辺 瀑

 かの巨樹は霧の中に静かに佇んでいた。
 隆々と盛り上がる幹は数多の瘤を纏い、樹上に小さな森を作っている。
 対峙した時の震えは、感動からばかりではない。
 深い畏怖の念を覚える。
 雄姿を写真に収めようと様々な角度から撮影を試みるが、全くもって見たままのその姿を現すことは出来なかった。
 屋久島のほぼ中央、標高1300mに座す縄文杉は、樹高25 3m、幹周16m、樹齢は推定3000年以上。
 我々人間の感覚では推し量ることの出来ない、深い時が刻み込まれている。

朝な夕な縄文杉は霧を吐く


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しまなみ海道 俳句まつり


結果報告

 去る3月18日(日)、今治市上浦 村上三島記念館(今治市上浦歴史民俗資料館)内多目的ホールにて、「しまなみ海道俳句まつり 表彰式イベント」(主催 本州四国連絡高速道路株式会社しまなみ今治管理センター)が行われました。
 今回の俳句まつりは、俳句のテーマを『しまなみ海道「橋のある風景」』として、しまなみ海道に架かる7つの橋を“お題”として募集したものです。
 2ヶ月という短い募集期間であったにもかかわらず、全国各地から1000句を超える応募がありました。
 選者は、俳人 夏井いつき氏。7つの橋ごとに、最優秀賞1句、優秀賞2句、佳作5句を選びました。
 本特集では、各橋の最優秀賞作品をご紹介します。


各部門最優秀賞

新尾道大橋
朝凪や芙美子知らざる橋白し  東大阪市 中森美代子

因島大橋
山頂の五百羅漢や橋は秋  松山市 吹野公郎

生口橋
ジェラートは檸檬この橋こせば恋  愛媛県西宇和郡 藤川美喜

多々羅大橋
多々羅大橋寒月は鋼(はがね)を鳴らす  米子市 廣田美穂子

大三島橋
鶴姫の恋は波間に橋おぼろ  尾道市 砂田千春

伯方 大島大橋
橋へ桜かつて小早の数千艘  今治市 奥村幸二

来島海峡大橋
美しき難所来島虎落笛  明石市 小田慶喜


その他入賞作品など詳しい内容は、本州四国連絡高速道路株式会社ブログページにて紹介されています。
http://www.jb-honshi.co.jp/shimanami/blog/


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第七回 百年俳句賞



表彰式を終えて

最優秀賞「囀のまなか」
矢野リンド

 去年、新潟に暮らすこのはる紗耶さんが松山に帰省すると聞いてホヤケンさんの句会に一緒に出ませんかと誘った。このはるさんと実際の句座を囲むのはそれが初めてだった。
 句会のメンバーは素敵な方達だった。句会が終わった後、恋衣さんとこのはるさんとお茶を飲み俳句の話をした。高知に引っ越して参加できる句会の数が少なくなった時だったのでとても楽しい時間だった。その時このはるさんが、百年俳句賞に出すことを勧めてくれた。押しつけではない。彼女は人の気持ちをとても大事にする人だから。
 高知に帰ってどんどん締め切りが迫ってきて出してみようと突然思い立った。
 だけど私は今まで詠んできた句を一つの物にはまとめていなかった。
 数句は自分の頭の中に残っていた。
 引っ越しの時PCの投句のデータが壊れたので一句一遊に出した句は朧庵を確認させてもらった。俳句ポスト365はHPと市役所が出している冊子を見直した。
 通信句会(象さん句会、恋衣さんの句会、三島ちとせさんのツイッター句会)は無事だったメールを開いた。
 金曜カルチャーと中年ジャンプ句会の選句用紙と連句に参加した際の結果の用紙は手もとに残してあったのでもう一度見た。句会の記録はその時に交わされた選評や会話を思い出して懐かしかった。
 昔詠んだ俳句を見直すとき、その時の周りの空気や自分の感情がまざまざと蘇ってくるのは本当に不思議だと思う。
 とにかくどんどん選んでいったものから、さらに句を抜き出し並べ替える作業はあまり経験がなかったので困った。(ふじみんさんはその作業って楽しいよと言っていたので、ホンマですか?ふじみんさん!と心の中でつぶやきながらやっていた。)
 とりあえず句の後ろに歳時記のページ数を打ち込み小さい数字から並べて行った。
 それから同じ形の俳句が並ぶと退屈だったので変えたり、ああでもないこうでもないとやっているうちに春の句が夏の句に交じってしまったことは反省点だ。
 すったもんだの末、締め切り前日にマルコボへ向けて送信ボタンを押したとき、とてもすっきりした爽快感と達成感を味わった。
 断捨離が終わってクローゼットに必要な洋服を吊るしたり畳んだ時の感じに似ていた。
 今、脳の中は空っぽで風通しがいい。
 そしてこんな機会を与えてくださった組長といつき組の大切な句友とマルコボさんに感謝しかない。     


第七回 百年俳句賞
優秀賞作品(上)

今月号と来月号に分けて、第七回百年俳句賞優秀賞作品を選考会員のコメント(一部抜粋)と共にご紹介します。


しまうまとうみうし  有櫛くらげを

 独特の言語感覚で聖俗を往還する作品でやや不安定ながら魅力的だった。ただ、並べ方に難があった。言語感覚は面白いのでこの方向へより磨いていくと良いと思う。

 正直この作品に自分の技量が追いつかない。辞書を探りながらの作業だったが、まるでクイズを解いていくような面白みにハマったということろが正直な感想。自然賛歌と思ったら生活が見えてきたりする展開が面白く読めた。ひらがなと助詞の使い方がとても上手くて十七音以上の質量の光景を広げていたと思う。

 一句一句の完成度もあり、また全体を通しての「作者」という存在が動かない点、とても力強さを感じた。手垢のついていない表現の自在さにも感服した。

 まず、タイトルの不思議さにおや、と思う。しかし、作品の中にはしまうまもうみうしも出てこない。なるほど、作者は言葉の調べやリズムを楽しんでいるのだろうと気づく。声に出して読んでみると更に面白い作品である。

 比喩の面白い句が心に残りました。また、写生がしっかり出来ている句もよかったと思いました。

 完成度が高く他作品とは一線を画している感じ。「みくまり」「しらまゆみ」「うろくづ」など、日本古来のものをさらりと読みこなす力量にも脱帽。


綺麗な波  鞠月けい

 句に盛り込まれた情景のサイズがどれもピタリと収まっていて、表現が的確。描く世界が現代人の等身大で、とても共感できる。

 虚実の境界を行き来する自在の視点に読み応えがあった。この感性をどうか大切に磨き、文学に昇華し続けてほしいと願う。大切に応援したい方である。
 「白衣」の句は「福は内」との距離感が良かった。幸せを感じさせる収め方が上手い。「菜の花」の句は「地球」を巨視する俯瞰への移行が良かった。「咲かなば」の切なさが上手い。「昭和の日」は、花束の描き方に昭和の見立てがある。昭和がそんな過去になったと、気づかせる感慨がある。以上の三句は、取り合わせの妙に加え、読後にエッセンスが効いている。味を操る作家だけに、「私が邪魔」の句は皮肉にも自己を持て余している。ただし、「花野」の拒み方をやさしく感じているのだから、健康的で安心できる。
 「日盛」の「毒」の断定、「森じゅう」の童話性への転化、「憎しみ」の液体性、「王」と「疵」の表裏一体、ピアスの穴の「影」の発見などなど、賞賛すべき句の多さを悦びたい。

 この作品は景を鮮やかに俳句的に切り取る句が見られた。独創的な比喩を使った句や、情感の濃やかな句に惹かれた。
 一方で「天変地異みたいに崩すシャーベット」は大げさだし、「急ブレーキのバス鹿が出たという」などは単なる報告になっている点もあった。

 「私」の日常が垣間見える作品群。「一人きり泳ぐ綺麗な波を立てる」「忘年会終え辻三つ目でひとり」「さっきまで蚊だった黒い筋ぬぐう」等、大勢の中の孤独や現実社会の毒を詠んだ句が寂しさをもって立っている。また「産道はひかりへ続く喜雨亭忌」「悪態をついても吐く息は白い」等は逆に明るさを感じさせる。また、「薄氷に出口を探す泡あまた」「菜の花の咲かなば青すぎる地球」の小さな泡から地球まで様々な視点から詠まれているところも良かった。

 少しさめた視線の先にある表現が好きだった。あまり無理のない表現で等身大の自分が出ていて、好感が持てた。

 若々しく、それでいて繊細な感性の溢れる句群に惹かれた。発想が豊かで共感できる句が多く、個性的な世界観ができている。その一方で仮名遣い 文法上の誤りが若干あり、構成もまだ練る余地があるように感じた。

 対象に肉薄し、確かな描写力による骨太の作品に惹かれた。言葉に頼り過ぎて説明に終わっている句も散見されるが、さりげない情景を柔らかに詠んだ句も好感が持てる。


僕のカタチ
日暮屋又郎

 因果関係とかが見え見えで「ブーたれる」とか「いーから」とかまったく気負いのない語り、生活感をプンプンと放っているところになぜが目が離せなかった。どこまでも季語を裏切ることで季語にとことん寄り添おうとしているように感じる。これが僕のカタチなのだろうと納得する。

 この作品は自由律の句が特徴、良い句も多かった。だが、概して音数が多いのでだんだんと満腹になって苦しくなる。この作者の切れ味鋭い短い句を読みたいと切に思う。

 俳諧味の有る句が多く好感が持てました。

 無季あり字余りバリバリのやりたい放題だが、その割に一貫性もあり魅力的でとても楽しい作品。もしかしたら、それが評価の分かれ目になるのかも。


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第七回百年俳句賞 優秀賞

しまうまとうみうし


有櫛くらげを

みくまりの夜はしづまりて神無月
眼球に死角一点冬の鵙
しかばねの鴉に降りて霜やさし
雪虫やバイク左折の手信号
綿虫へ跳んで双子の同じ靴
風邪の子にむつかしい物たのまれぬ
枕とりかへて狐の夢を見き
毛布まとひ屋根から飛んだ方が姉
避難所を花野めきたる毛布かな
うつくしい枯野だ釈迦が寝てさうな
終電にリャマゐて無音雪もよひ
鮟鱇の内と外なる巷かな
肺に星ある痛みなり枯木立
天窓を魚の眼に見る雪月夜
ぽぽぽぽと足音多し大旦
埋火や家鳴しづみてまた鳴れり
雪庇より見上げて銀の晴れ間かな
寒しじみ真水にすくふ朝の妻
変な石拾ふ建国記念の日
河原辺の野焼に爆ずるボールはも
春泥を踏みたい今朝のよいしらせ
あやふややぶらんこのまま鳥になる
つくよみをほのぼの吸うて水草生ふ
春光へ飛ばすうろこがちよきちよきす
壺焼や油断たいがい気づかれて
吊られたる雉蒼蒼と腥し
いきしちにひみいりゐにし涅槃西風
しらまゆみ春の月まで撃ちてけむ
うろくづの睡りは浅し春の月
蕨狩行つて還らぬ夢のはは
虎杖を抜いてマタドールの間合
妊婦笑ひすぎてあやふしわらびもち
ちくちくと土手の痒みやつくづくし
つくしから生まるるならば今日の雲
菜の花のうねりや雲を染むるほど
菜の花に黒牛が影なくしけり
蝌蚪の紐みづに心音おなじうす
栄螺獲り縹の天へ浮きゆけり
花ぐもり孔雀の開く遅さかな
ぬかるみに子馬こうまの目には穹
珊瑚朱に掻き傷熟るる薄暑かな
薔薇一面といふ結末ゆきどまり
喝采の升席のごと燕の子
めだか殖ゆ肉屋に貰ろて医者に遣る
水かきのあらばさみだれ楽しからむ
ぐりこ、ぐりこ、止まってここに木下闇
ががんぼやガンダムのつの取れやすし
包帯を解くはじらひアマリリス
側溝に十薬溢るあめもよひ
ほとぼりの冷めにくきかなエイの雨
ところてんかどはかされてゐる気配
夕立にはなやぐ喫茶ばるばどす
うつせみを踏んでこちらに立つてゐる
わたつみを嗅いで白南風なほ熱し
陥落の残火のやうな揚羽蝶
蝉の死を並べて鮨のごとくなり
背泳のままに帰らぬ又従兄
誤配され鱧ものすごき牙剥けり
猫譲りますの貼紙灼けてをり
庭に穴ばかり増えけり今朝の秋
鉄骨を葛にゆだねてゐる世紀
風止んでとんぼの頭よく動く
ひとつだけサルノコシカケあたたかい
さざなみがうまれて秋の燕ゆく
野分過ぎ顔なき畑となりにけり
千本の稲妻を見て生くるかな
鳥瞰図拡げ遷都は秋にせむ
鯔掛くる針にたぢからをのみこと
雁渡エレベーターをピザ屋出て
秋草にたとへあひたる少女かな
クシシュトフキシェロフスキー小鳥来る
菊日和影もハシビロコフの形
水澄んでパキケファロサウルスゐさう
秋茄子はオリーブオイルにまかせよう
秋刀魚目線海洋環境変動論
蟋蟀に寄れば沃土が匂ひけり
鹿の息嗅いで草野に目醒めけむ
木の実雨ひたひに享けて佳き日かな
はぜもみぢ曲がればおかめ蕎麦の店
死のはなし命のはなし菊膾
うつばりを太らせすんと星月夜


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第七回百年俳句賞 優秀賞

綺麗な波


鞠月けい

人生の中日と思う冬籠
安宿に蜜柑とリンスインシャンプー
冬晴の献血渡航歴はなし
よその子はみんな悪童日向ぼこ
背もたれに白衣無造作福は内
ビル街の闇は細切れ鬼やらい
焚口に枝と余寒を押し込める
白梅や水は零るるとき膨れ
薄氷に出口を探す泡あまた
軽く折る不祝儀の札遠霞
春寒の風や喪章の先尖る
雲速き日の紅梅の薄瞼
暮遅し南極地図に上と下
急行の時刻パタパタ春の雨
春昼の歯ブラシそっぽ向きたがる
椿落つ実印脳の皺に似て
出戻りの小さく啜る蜆汁
三月の割れば毛羽立つ紙粘土
暖かや柴犬の尾は陽を散らす
秘密あることが秘密よ春日傘
菜の花の咲かなば青すぎる地球
淋しさは遅れて届く桜東風
重そうに咲いて桜はうそつきで
相性悪し共に桜の下にいて
花束の花に根は無し昭和の日
満天星の花やこの部屋ばかり雨
パンジーに馬頭星雲めく闇色
春暑しもあもあ選挙カーの声
家は取り壊す藤棚どうします
測量の一人は柳退けておる
袖口を遊ばせ今朝の夏の風
抱くように暗幕開けて薄暑かな
ゼラニウムやっぱりここのパーマがいい
謁見のごとく芍薬嗅ぐ背中
藻の花や姫の出自に諸説あり
海亀や湯気立てて島拡がりぬ
六月へ逃げ出す非常口マーク
罪滅ぼしみたいに蛍渡されて
ひとりむしまといおりこうなわたくし
優曇華や静脈色の夜来る
さっきまで蚊だった黒い筋ぬぐう
産道はひかりへ続く喜雨亭忌
車道這う水の肉厚大暑来る
日盛の文字とりどりに毒を売る
天変地異みたいに崩すシャーベット
蜜豆や判官贔屓が過ぎる試合
増えている気がする薬局のグッピー
夏霧の奥より匂う牛の息
森じゅうに見つめられたる夏帽子
世の誰も私を知らぬ日の虹ぞ
一人きり泳ぐ綺麗な波を立てる
銀漢や漁礁となりし船に泡
生きるものやさしく拒む花野かな
永遠に空は借り物秋の園
鳥下りて水面の月を散らしたる
部屋に月満たしたいのに私が邪魔
漣の半分は影菊日和
額なき絵売る晩秋の石畳
絞りきる檸檬退路は確保済
秋薊家族は少し傷つけ合う
おのが影目指して止まる銀やんま
金柑に明るし路地のひとところ
急ブレーキのバス鹿が出たという
虎五頭どれも寝ている文化の日
目礼で断る募金冬近し
雁渡る波紋は星の軌跡めく
CDのきゅるると回りだす小春
レプリカのナイフに映る冬の虹
空風や綱のほころび焼き切りぬ
冬ざれや奥歯に肉を噛み締める
Fコード苦手でホットウイスキー
悪態をついても吐く息は白い
憎しみは液体冬帽子目深
王という疵持つ獣山眠る
冬麗や捨てた未来が窓の外
冬の影をピアスの穴に棲まわせる
梟と私にひそやかな心音
店仕舞まずは聖樹の灯を消して
忘年会終え辻三つ目でひとり
数え日の湯船に膝の島めいて
初雪や土間に眠れる犬の息


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第七回百年俳句賞 優秀賞

僕のカタチ


日暮屋又郎

明けの虹見に出よとシーツ干す妻
白シャツぱりっと乾き僕のカタチ
靴を脱ぐこと野茨の原歩くこと
身の丈に生き筍は根っこも好き
産土に清和あやまりたい人がいる
牛乳に苺つぶして老けたのだ
石段は縁切り寺へ桜の実
禁煙できぬ教師おり裏門にベゴニア
パンパカパーン白い孔雀や梅雨の明け
海開きダッシュが波につんのめる
七三の分け目つむじまで日焼け
もはや洋食ですパセリ添えました
アイスティー婦人公論にかたづけ術
ラスト百犬掻きでまだ食い下がる
カメカメハなんてパイナップルな日だ
アースの由美かおるがバス停に待つ帰省
作り置きの冷汁父母に漁場あり
象に踏まれた筆箱との腐れ縁
真相にマッカーサーのサングラス
おひらきの暗がりにまだ氷柱花
釜蓋朔日破裂寸前月赤し
盆路刈り進みまたここも人の絶えた家 
帰ったことにしてまだいろよ送り火
僕を泣かせと母は蜩に頼んだか
五寸釘ぶちこんでけり付けた残暑
余命などいらぬこと松虫と飲みなおす
激動を昭和一桁秋の昼
だだこねる蜻蛉よその窓ならはめ殺し
言いたきを言えず鬼灯でブーたれる
死にに来た獣の臭い葛に雨 
控えに甘んじブルペンに車前草
松茸飯大盛りで墓買う話
月光にキツネの影絵いーから早く寝なさい
いかす欽ちゃん走り数日ずれた体育の日
船足の速さすじ雲は空の項
秋時雨慣れた手順で組む屋台
十三夜古きミシンの痩せた音
座席に陽を得たり朝寒の始発
特老に空きなく屋根を撃つ団栗
ランプ煌々ときらいじゃない匂い
移住先は火星引けるだけ大根
すぐに知らせたいけど隼がいないんだ
プルプルと湯豆腐生き字引と呼ばれ
冬の鵙人を泣かして貯めた銭 
戦の傷を持ち聖菓かこむ国境の家
ゆっくりと大きな振り子クリスマス
冬の風を傾けピザ屋のスクーター
ジャークで上げる初売りのシャッター 
半紙の張り弱く書き初めは雨
娘くれだとどっちに向いて阿茶羅漬
ざざ虫食わぬ奴にお父さんだなんて筋合いなど
注意に来た駐在さんもご一緒の焚火
天然か養殖か無視する鯛焼き屋に再度訊く
おまえの中古など吸いたくもないぜ白息
ねんねこを信じきりぐったり折れた首
不在票ねじ込み凍星を宅急便
人には知らなくていい事も雪積もる朝
独りにはずっしりと白菜の重さ
埋火ほじくりここからがくどい酒
撒く豆を鼻に詰めたるわが子というほかなし
地下に川立春大吉日の古地図
公魚のかちんこちんの空に穴
ビー玉のころがる先に蕗の薹
バイブルは平凡パンチ浮かれ猫
聖者でも天使でもなく春光をベスパ
ミモザ庭をあふれパカッとアヲハタ
春愁のわざと取らないブーケトス 
タオル百枚風光る散髪屋のベランダ
燕駅長たいへんです国鉄が来ません
稼ぎ足りぬか韮ざくざくきざむ妻 
折り合えぬまま僕なりに朝のオムレツ
ヒヤシンス距離はありマス敬語デス
花冷えのトンネル茶屋にちゃんぽん麺
夜桜やどんな仲かと聞かれれば
売店にサクマドロップ孕み鹿
足つるや独りのたうつ放哉忌  
海女小屋どっと笑わせばあ様は現役 
かっさばく磯の香海胆おのれの死を知らず
塩だけでメリケン粉焼く昭和の日
夫婦野に遊びともだちは要らない
薊あざみ赤紙が来ているよ


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美術館吟行


第42回

久万美術館コレクション展2
画家の「最期」と「最後」 吟行会

文 日暮屋又郎

取材協力 町立久万美術館


 気象予報士の森田正光さんが朝の情報番組でラスト寒来(サムライ)と一人でうけてスベリまくっていた三月十日、今日の美術館吟行のメンバー五人で車外に出ると陽光は春を思わせるものの、風はまだ尖っていた。やはり久万高原は松山と比べ3℃〜5℃寒いと体感するも、野鳥の囀りの出迎えで早速美術館に入館した。
 以前の企画展「シュらん2017」でもお世話になった学芸員の中島小巻さんから解説をしていただいた。画家の絶筆としての「最期」と描かれた人物 モデルの「最期」、その両方の面に基づく企画展であり、久万高原町のこの寒くて寂しい季節によくもこんな暗い企画展を思いつくものだとの周りの人たちの意見を無視する形で始めたとのジョークも半ば納得できる。
 洋画と日本画で二部屋に分かれての展示を先ず洋画から。
 荒ぶる画家として安酒におぼれ泥酔の末タクシーに曳かれその後胃がんの治療拒否の末、49歳で逝った長谷川利行の作品『のあのあ』。

春の月ただただそばに居てほしい  チャンヒ

 そんな彼の壮絶な人生を微塵も感じない作品。のあのあとは戦前に新宿にあったカフェで、多くの画家や文化人たちが足繁く通っていた。この作品はそこで働いていた女性給仕を描いたものだ。なんだかほっこりとして見ているだけで幸せな気分になれるから不思議だ。

 コーナーを曲がると当美術館最大のウリが待っている。その一つとして萬鉄五郎の『T子像』。

秋扇をしかと少女は抱きよする  恋衣

 病魔と闘うわが子をモデルに描き上げ、わずか16歳で他界した登美子の後を追うように亡くなったという。そのような背景を理解した上で鑑賞すると十七音で発想を飛ばす俳人としてはまた違う見え方がする。

 そして言わずと知れた村山槐多の『裸婦』。

炎帝へ裸婦の吐息の深くなる  マーペー
ためらはぬ裸婦へ沈丁花匂ふ  しんじゆ
春愁の朱はガランスてふ絵の具  しんじゆ
血流の炎を描ききり裸  チャンヒ
熱帯夜裸婦は槐多の血を纏う  日暮屋
数本のガランス燃えて月涼し  恋衣

 槐多は、スペイン風邪にかかり22歳で夭折した。自身のほとばしる情念や不安を反映した槐多の人物像は、一度見たら忘れられない強烈な印象を残す。

 続いて藤田嗣治の『マドレーヌ』

月天心路地に彳むマドレーヌ  恋衣

 第一次世界大戦前よりフランスのパリで活動、猫と女を得意な画題とし、日本画の技法を油彩画に取り入れつつ、独自の「乳白色の肌」とよばれた裸婦像などは西洋画壇の絶賛を浴びたエコール ド パリの代表的な画家である。この作品からも素描でありながらその片鱗が充分うかがえる。

 更に次のコーナーには木下晋の『流浪2』がでんと構えている。

老い先に余罪を集め春灯し  日暮屋
こだはりは鉛筆の黒春の闇  しんじゆ
蓮は咲く目に輝きのある限り  チャンヒ

 死期迫る実母を鉛筆による緻密な描写で見る者を圧倒する作品。決して順風満帆ではなかったのであろう老母の人生や作者との関係性が、鉛筆による莫大な情報量のタッチから伝わってくる。俳人であるが故の性が余計に想像を増幅させ、ほんの数秒で映画一本を脳内に完成させ、常人では追いつけない距離から鑑賞していることに気が付く。ほかにも二点、彼の作品の展示があり、共通して人物の眼、まなざしに最期の救いを感じ取ることができる。

 この部屋の最期のコーナーに松山出身の古茂田守介の絶筆となった『芦ノ湖』。

一塊のひかりを持ちて冬の水  マーペー

 ほかにも彼の芦ノ湖の絵が展示してあるがトーンがまるで違う。自分も幾度か箱根を旅した経験からして、最後の作品のほうが芦ノ湖の風景の本質を描いているように思える。歳を重ねるとは、このようなことを言うのであろうか。

 うって変わり、次の部屋には主に石井南放による力強く松の描かれた日本画の作品が展示してある。

 石井南放の絶筆『上行寺船繋ぎの松』

絶筆の松が己の影となる  チャンヒ

 そして鶴亭の『梅に叭叭鳥』。

白日の梅にあうんの呼吸あり  恋衣

 このようにテーマである「最期」と「最後」を強く意識して鑑賞してみると、今まで何度も通って目にしてきたはずの作品にまた違った感受性が乗っかり、画家やモデルの思いにふれることによってこそ、はじめて味わえる深い奥行きがあるのだということに気づく。
 くしくもこの翌日は七度目の3 11。被災地の多くの人々の「最期」に、あんな悲しい出来事はあれがもう「最後」であってほしいと願わずにはいられない思いで久万美術館を後にした。


日暮屋又郎
 最近本気で蕎麦屋だと勘違いされているらしい。


萬鉄五郎『T子像』
痩身にふと風の止む夏の昼  日暮屋

木下晋『流浪2』
白髪の乱れるままに冬果てる  マーペー


次回吟行会
5月12日(土)愛媛県美術館コレクション展吟行会(学芸員による解説を受けて作句します)
朝10時現地集合
参加費無料(入館料は別途)
事前に100年俳句計画編集室までお申し込み下さい。
TEL 089-906-0694


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大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠

百年百花


2018年度 第一期 第二回


渇き
津田美音

春愁とくちびるうごく渇きかな
 退職の先生へ
職を去るデスクへ遅日やわらかし
演題の解法ふたつ桜貝
出国や内ポケットへもどす東風
春夜の匙スープの膜に皺寄せて
パエリアの口開かぬ貝春の闇
天金の独逸医学書かげろえる
靴裏を眺め靴買う虚子忌かな
遠足の列ほどくべくホイッスル
サーカスの無数の綱を春深む
さくらさくらすでにかるさのなかりけり
春の夜の柩のごとく碇泊す

香川県さぬき市生まれ、愛媛県松山市在住。
きっかけはRNBラジオ「夏井いつきの一句一遊」への投句。
その当時の俳号はピアノフォルテ。


左舷
ふづき

蛇口に吊る石鹸桜ひらきそむ
草芳しパン屑撒けばどっと鳩
岩石に発破孔龍天に登る
纏足の姫に柳の触れたがる
つばきつばき花街の路地を杖のひと
落椿避けお百度のこより置く
茶器くるむ布のすべらか花月夜
春障子越しに鉛筆削る音
またメガネ探しています蝶の昼
忘れ物積まれて保安室暮春
惜春の左舷は島の灯へ傾ぐ
小波寄せ小犬逃げゆく磯遊

最近読んだ本で心に残ったのは
「おらおらでひとりいぐも」。
東北弁は少し読みにくいけれど
ほんわかと心に沁み入ります。


みな春の
鈴木牛後

みな春の枯葉だみな乾いてゐる
雪解野の端から端からあらはなる
政党看板雨に笑つてゐる根明
我が影の我に似てゐる余寒かな
棒杙はひかりのやうに春雪野
るるると来る老眼鏡に春の蝿
大き墓雪より見えて雪の果
囀やひらけば風の旅程表
かげろふへくゆゆとまがる回送バス
春泥や見えて暖かさうな石
牛の尾の無風に揺れて草青む
みな春の樹肌だ動脈に触れて

1961年生まれ、北海道在住。第1回「大人コン」(現「百年俳句賞」)最優秀賞。
句集スタイル「根雪と記す」「暖色」。ようやく雪が融けて地面が見えてきました。


上靴
中村阿昼

思春期キター春の落葉を巻き上げて
春愉し句会ライブの大きな絵
洗濯の山のかなたの桜山
図書館の前の桜にしばしゐて
△と〇で迷ふや抱卵期
夕ざくら犬を抱へて来る人も
食卓に伏して寝る夜や暖かく
卒業を歌ふスーツで上靴で
たこやきが桜まみれになる前に
花の座に今年の赤子加はりぬ
嘴に触るるや離れゆくさくら
手の中の花びら風にまかせけり

1966年2月生まれ。「童子」所属。
句集『でこぽん』(マルコボ.コム)。
気が付けばアヒルになって20年たちました。


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読者投稿による3ヶ月連載作品集

新 100年の旗手


(2018年4月号 〜 2018年6月号 2/3回目)

ひばり
久野はすみ

まだと言ひもうと言ふ夜のさくらばな
目の合へば春の鹿へと変はりけり
だまし絵の四月の階をくだりゆく
イースターエッグ毀れて色彩は
傾きて聴く蝶々のひとりごと
春蝉や資材置場をよぎる影
街角に穴あるごとき修司の忌
なきにしもあらず三葉はふんだんに
おぼろ夜にめくる子捨ての物語
よろこびにもつとも遠き日のひばり

 未来短歌会所属、「遊子」同人の歌人です。俳句の連作には句の数だけ季語があるということに、いまさらながらおののいています。


商店
石川焦点

廃車積む車を停めて土筆摘む
鉄臭き円環服と汗拭い
向日葵と十万ルクス浴びる昼
炎天や廃車を刻む溶断器
冷房のなかなか効かぬレッカー車
ミキサー車百万台の夏の雲
木犀の漂う真中右折待つ
マグリブのアザンの響く夜長かな
林道にラジオ途切れて秋の声
ステアリング外し廃車へ注ぐ古酒

 句ゼミ所属。俳句歴2年半。50年続く自動車解体業を営んでます。石川商店三代目。


2018年度 第2期連載者募集中
締切 2018年5月15日(火)

応募内容
2018年7月号に掲載できるタイトル付の10句

応募先
Eメール magazine@marukobo.com
件名に必ず「100年の旗手応募」と明記して下さい。
(郵送またはFAXでも受け付けております。詳しくは編集室までお問い合わせ下さい。)


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新 100年への軌跡


2018年度 第一期
第二回


旅靴
若林哲哉

夕空を分かつ余寒の歩道橋
かもめまでをあまねく凪いでゐる日永
風光る伏せれば犬のうすつぺら
いぬわらび太極拳の手の先に
さはれずの高さをひらく白木蓮
苗札の苗より低くなりにけり
旅靴の底のうすさよ黄水仙
春林を羽まつしろに降りきたる
春林に入り瞳孔のひらく音
夜の車窓三月の吾を映し出す
春分や原子を恒の嵐あり
をりふしを龍のかたちの花筏
その幹のしづかに濡るる桜かな
どら焼の少しべたつく花の雨
水に映らぬ惜春の人として

若林哲哉(わかばやし てつや)
 一九九八年生まれ。金沢大学人間社会学域人文学類在学中。
 「萌」、「奎」、「金沢大学俳句会」所属。


夜風
樫本由貴

駅裏に墓や伊万里の春あした
いまだ子に色うすき爪いぬふぐり
春の陽にそろうて前歯おほきめの
千々にしてうどんの薬味春の風
春の風邪アニメの雨の白く散る
猫見るに正座の子なり春の昼
白梅や夕のけはひにふりかへり
啓蟄と見る水槽のみづの減り
桃の日や乗らざるバスのドア開く
まうへより撮る弁当や蘖す
掘りかへす土うららかや病得て
土筆生ふる団地の高きところかな
鳥雲に捨つるにたたむ菓子袋
絵に老けて降りやまざるは花の雨
花束のさくら抜かれて夜風かな

樫本由貴(かしもと ゆき)
 一九九四年生まれ。広島県在住。「小熊座」所属。



羽まつしろに、夕のけはひを
十亀わら

春林を羽まつしろに降りきたる  若林哲哉
 若林哲哉さんの十五句「旅靴」を、ほのかな非日常を想像しながら読んだ。この句、春林に降って来たものを「羽」と認識し、その視界で「まつしろ」を捉える。「降りしきる」と振り切らず、「降りきたる」と抑えたことが成功している。
かもめまでをあまねく凪いでゐる日永  若林哲哉
 ゆるゆるとした一句の形が、句意によく合っている。上の句に「を」がなければ、定型に収まったが、かもめまで「を」凪いでいる景にどこか不穏なものさえ感じるのも、この句の魅力。
 一句目「夕空を分かつ」「歩道橋」に見惚れた。「余寒の」が情景を分断してしまっている気もする。五句目「さはれずの高さ」の白木蓮が美しい。

桃の日や乗らざるバスのドア開く  樫本由貴
 樫本由貴さんの「夜風」十五句には、「子」の出てくる句がいくつかある。この句も子と一緒であれば、その子はこのバスの動きを喜んだだろう。しかし大人一人であれば、乗らないと決めているのに開くドアは、こちらが人生をどう選択していくのかを試しているかのようにも思う。
白梅や夕のけはひにふりかへり  樫本由貴
 夕刻の白梅は美しい。日が夕方へと移り変わっていく時を、感覚的に捉えて「夕のけはひ」とした。「白梅」に存在感があり、この句にぴったりだったと思う。
 六句目「正座の子」の可愛らしさ。十句目「蘖す」が意外で楽しい。最後の句は「花束のさくら抜かれて」が想像しづらかった。

十亀わら(そがめ わら)
 1978年愛媛生まれ、昨秋よりトルコ在住。「いつき組」。2005年「俳句界賞」受賞。


穏やかでない
平山南骨

かもめまでをあまねく凪いでゐる日永  若林哲哉
 「凪ぐ」を強引に他動詞として用いている。「旅靴」は、こうした意図的誤用がやや鼻に付くのだが、この句は妙に説得力がある。
春林に入り瞳孔のひらく音  若林哲哉
 春林という明るさを伴う季語に対して、瞳孔の「ひらく」「音」までいうのは勇み足だと思うのだが、春林 瞳孔 音の組み合わせには惹かれる。
いぬわらび太極拳の手の先に  若林哲哉
 この句のおかげで、薇の異名に犬蕨があることを知ったが、標準和名でイヌワラビといえばメシダ科のそれを指すので違和感がある。いずれにせよ、変な句ではある。

春の風邪アニメの雨の白く散る  樫本由貴
 家でぼーっと見ている感じがする。おそらく、子ども向けのテレビ番組の安っぽい雨の描写だと思うのだが、春の風邪の雰囲気に実によく似合う。
掘りかへす土うららかや病得て  樫本由貴
 「夜風」は、前半に子どもの句が連なり、また、うどんの薬味に関心を示したり、弁当を撮ったりと、無邪気、ほのぼのといった印象を示すのだが、「病得て」は穏やかでない。土は死とも生とも親しい。明るく強く生きていくんだろうなと、勝手に解釈する次第。

平山南骨(ひらやま なんこつ)
 1968年生まれ。2005年より作句開始。「鷹」同人。


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Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳 朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ


No.58

Bursting in the wind
Yellow fog stuck to wet earth
Pollen in my nose

花粉てふ霧が黄色い霧が鼻に

(直訳)
風に噴き出す
黄色い霧が 濡れた土に貼りつく
花粉が 我が鼻に


 My seasonal allergies are annoying but I know they will pass and I hope it is soon. I hate to complain but I do it anyway. The deer in our neighborhood are lethargic as they emerge from hibernation. I wonder where they go for their winter sleep and hope they are not suffering from hunger when they awake.

 アレルギーの季節は鬱陶しいね。いずれ治ると分かってても、早く終わって欲しいよ。文句ばかり言うのは性に合わないが、結局言っちまう。近所の鹿たちも、冬眠から抜け出たばかりで気怠そう。いったい何処で冬中眠っているのか。目覚めた時、あまりひどく空腹に苛まれていない事を願うよ。


ナサニエル ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。2013年7月より山梨へ移住。


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JAZZ俳句ターンテーブル


文 白方雅博(俳号 蛇頭)

第86話

プレンティ プレンティ ソウル
ミルト ジャクソン


 我がJAZZ句会の拠点JAZZ BLEND(JB)に突然K氏が訪ねて来た。前回JBご来店以来の久々の帰郷で、明日は住所地の神戸市に戻るとのこと。彼は大学の先輩で同じクラブ活動に所属。一番の思い出は講義の合間一緒にジャズ喫茶通いしたことである。早速コーヒーを飲みながらのジャズ談議が始まった。

レコードのB面ほどの春うれひ  加藤いろは

蛇頭(J) 僕のジャズ好きを決定したのはマイルスの「カインド オブ ブルー」でしたよ。千舟町のジャズ喫茶「ケリー」で先輩がリクエストして僕に聴かせてくれた。特にビル・エヴァンスとマイルスの共作「ブルー イン グリーン」は衝撃的でしたね。以来、このアルバムは何百回ターンテーブルに乗ったことか。
K とてもオーソドックスな入り方したんやね。
J 逆に今回JAZZ句会のテーマとなった「プレンティ プレンティ ソウル」はターンテーブルに乗らなかった名盤の代表格です。

ヴィブラフォン闇切りさいて猫の恋  サテンドール

K それ何となく分る。粟村政昭の「ジャズ・レコード・ブック」(東亜音楽社)の基本的ジャズ レコード ライブラリィ150選に入っていたからどちらも名盤だけどね。
J 僕もあの本は一番に買いました。1975年の改訂版第2刷発行で当時750円だった。
K 1979年にも改訂版が出ているけど、その時は900円。表紙も青から赤になってね。
J で、そのミルト・ジャクソンの名盤を久々に聴いたわけですよ。何かとてもカッコ良くて。ミュージシャンは皆ビッグネームで編曲がクインシー ジョーンズだから悪い訳がないんですけど。

マレットの加速してゆく薄暑かな  南亭骨太

K でもミルトのヴィブラフォンが一つ抜きん出てる。完璧だよね。
J それで改めて粟村さんの本でミルトの欄をチェックしてみたら「こういった編成や傾向のLPは割に若いモダン ファンには受けないようだが……」とあったんです。納得ですよ。
K その歳まで……(笑)

やわらかな音色の繭に包まれる  時計子

J サブテーマの「オパス デ ジャズ」の方は、今でもよく聴ききます。「プレンティ……」に比べると小編成のクインテットで録音も2年古く、フランク ウェスがフルートも吹いてて緊張感と癒しが程よく混在してる。もちろんミルトはこの上なくソウルフルだし。

マレットは弾み薄暑の透き通る  チャンヒ

J もう一つのサブテーマ「バグス オパス」は今後一番ターンテーブルに乗るアルバムの一つだと思います。僕は「アイ リメンバー クリフォード」を筆頭にベニー ゴルソンの曲が好きだし、ゴルソン ハーモニーと称されるアレンジも良いですよね。
K で、その3枚のアルバムをネタに、ここJBでJAZZ句会をやったんやね。
J はい、去年の11月には加藤いろはさん率いる熊本俳句集団と合同セッションもやりました。そのいろはさんからはこんな素敵なご挨拶句が届きましたよ。

はつなつの音をことばにする遊び  加藤いろは


Today's Turntable
『プレンティ プレンティ ソウル』1957年/atlantic
『オパス デ ジャズ』1955年/savoy
『バグス オパス』1958年/ua


「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の毎月第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は月曜日の21時〜22時。

次回JAZZ句会のお知らせ
5月20日(日)13時より、JAZZ BLENDにて。テーマ ミュージシャンは沖縄随一の歌姫の与世山澄子です。アルバムは「ウィズ マル」をメインとします。参加希望の方は、本誌の句会カレンダーを参照してください。


このコーナーで紹介した俳句とエッセイ、堤宏文さんの写真とを組み合わせた『JAZZ HAIKU』vol.1〜vol.3(マルコボ.コム)を発売中。


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ラクゴキゴ。


第八十六話
文、俳句 らくさぶろう


茶の湯
 憧れの隠居生活

 大きな店の主人、もう息子に代替わりをしたので優雅な隠居生活を始めた。
 小僧を一人そばに置いているが、することもなく毎日が退屈。そこで茶の湯でもやってみるかということで小僧に相談するも、二人とも何をそろえてどうやればいいのか分からない。
 あの緑色は何の粉だろうと考え、買ってきたのは青ぎな粉。茶せんでいくらかき回しても、あのお茶のように泡が出ない。そこで買ってきたのはムクの皮(せっけん代わり)。
 当たり前だがとてもまずい。しかし誰かにすすめたくてお客を呼ぶことに。
 呼ばれた人達もいい迷惑だが、一緒に出されるようかんがとてもうまいのでようかんを食べに来る人ばかり。
 こんなにようかん代がかさむのはもったいないと、ご隠居自らお菓子も作ることにした。
 しかしこれも作り方は分からず、さつまいもをつぶして型に入れるがこれでは型から抜けないので灯油を塗ってみるとスポンと抜けるようになった。
 最悪の飲み物に最悪のお菓子。たまったもんじゃないと誰も寄りつかなくなってしまった。
 ある日、それを知らない金兵衛さんがやって来てお菓子を一口食べたところ、ビックリ。思わず吐き出し、分からぬように着物のたもとへ入れて便所にかけこんだ。
 どこか捨てるとこは無いかと探すと、窓の外には田んぼ。こりゃいいと、田んぼにポーンと投げて出しきった。
 その投げた菓子が働いていたお百姓さんの顔にベチャッとあたった。
「い、痛い。また茶の湯か。」


 ニセ茶の湯に興じている隠居と小僧の動きや表情を、ぜひ生の高座で観てほしい噺です。
 あとはケッタイな飲み物と菓子もどきを飲み食いさせられる客人達のリアクションも。
 オチもとてもよく出来ている噺だと思います。
 今や寄席の主任(トリ)も務める古今亭菊志ん師(大学の後輩)も得意にしているネタで、発売中のCDにも収められています。登場人物が生き生きと描かれていますのでぜひお買い求めを(笑)。
 私、こう見えましても少しだけ骨董品に興味があり(器ものに限る)酒器や茶器を見るのが好きです。
 先日、ガラクタやのような店で茶わんを見つけ、桃色がとてもきれいだったので「買おうかな?」と値札を見ると五百円。おっ、これならと、もう一つの黒い茶わんと合わせて二千円で買っちゃいました。
 残念ながら茶の湯のたしなみが無いもので、そこにお惣菜を入れてみたところ、器とのバランスが良くとてもキレイ。
 まあ、本来の使い方ではなくても、器は器として使われるのが幸せなのではないかと思っています。
 一つ五百円の茶わん、ひょっとしたら何倍もの金額がつく代物じゃないかと思ってしまうのが私のいけないところですが。

贋作の茶碗へ新茶容れてみる


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mhm通信


第86回

文 妹のりこ


大お花見大会およびチャリティー句会ライブ

 4月1日、満開を少し過ぎたかも、と思われる桜と晴天の中、mhm主催の、大お花見大会、およびチャリティー句会ライブが行われました。
 今回は、不在の夏井いつき組長よりビールサーバーの差し入れがあり、飲み放題! ありがとうございます。めちゃくちゃビール日和でした。
 朝8時には、東京から、福岡から、大分から続々と酒豪が集まり、若狹会長と、日暮屋さんMCのもと、見知っている人も、聞き知っている人も、自己紹介、近況報告、俳句討論を繰り広げました。
 百年俳句賞の矢野リンドさんへのお祝い、可愛い赤ちゃんのお披露目、似顔絵コーナーなどなど、時間の過ぎるのと、ビールの減るのと、桜の散るのの早いこと。
 昨年までしんじゅさんがお世話してくださっていた、恒例の「喫茶 恋猫だった頃」はリニューアル!? のっぴきならない御用で不在のしんじゅさんに代わって、今年は、コスプレで有名な?あつむら恵女さん、小田寺登女さんのお二人が、チャリティーの募金へのお礼として、コーヒーと、お茶をサービスしてくださいました。
 来年は是非フラダンスのコスプレでお願いしたいです。
 投句、募金とも順調に集まり、今回の最優秀句は2句です。

老桜の命あふれていて恐い  ひでやん
これいぢやう咲けば桜でなくなるよ   めろ

 おめでとうございます。いつかは欲しいキムさんの俳画をこの方々は何枚持って行くのでしょう。
 そして、今回の「女川桜守りの会」への募金総額は4万7千337円。御協力を頂いた皆様、本当にありがとうございました。
  「女川桜守りの会」の写真をテントに貼らせてもらいましたが見てくださいましたか。「桜の町女川」「桜の谷」構想のもと、着々と植樹が行われています。その末端をこの募金でお手伝いさせて頂いているわけです。
 最終的には100人を超える方々と、飛花落花のもと集うことができました。
 お天気良くてよかったー。

 今回の拙筆は、妹のりこ
 ほろ酔いの私に、しんじゅさんが、声を掛けて下さってmhmのメンバーになり、何するところ?と、思ってるところです。姉の妙に俳句の道に引っ張り込まれ、句歴4年、年々楽しさの増す、56歳です。


 mhmでは松山市内外問わず会員を募集中です。原則、毎月最終金曜日19時からマルコボ.コムにて定例会を行います。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)またはFacebook(http://www.facebook.com/mhmhaiku)まで。


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会話形式でわかる

近代俳句史超入門


近代俳句史超入門
第26回

文、構成 青木亮人

 大学で俳句を研究する青木先生と、その教え子で俳句甲子園の出場経験もある大学生の俳子さんが雑談を交えながらの近代俳句史超入門。


飯田蛇笏 2 作品

 青木先生と俳子さんが教室で話しています。


看板句

青木先生(以下青) 前回は飯田蛇笏の経歴をお話ししたので、今回は句を見てみましょう。山本健吉は、蛇笏句には元禄の蕉門『猿蓑』に匹敵する格調の高さがあり、「気魄に満ちた格調の荘重さ、個性の異常な濃厚さは、蛇笏調として俳諧史上に独歩している」(『現代俳句』)と称えています。
俳子(以下俳) 私も蛇笏調を学んで異常な俳子調を歴史に刻みたいです。早く刻ませて下さい!
青 異常でなくていいので、まず傑作を詠まないと……ところで、どんな蛇笏句をご存知ですか。
俳 フッ、俳句甲子園の四天王と呼ばれた私に愚問を……「芋の露連山影を正しうす」(1)「をりとりてはらりとおもきすすきかな」(1)「くろがねの秋の風鈴鳴りにけり」(2)。まだあるわ……「しろたへの鞠のごとくに竈猫」ぉ!(2)(ドヤ顔)
青 (四天王? と首を傾げつつ)おぉ、どれも彼の代表句です。全体的にどういった印象があるでしょう。
俳 古風で、ビシッとしていて……あと、人の気配がない。というより、人間の世界と違う自然界が活き活きしている感じ。こういうのが蛇笏調なんでしょうか。
青 彼の看板句にして傑作、という点ではそうです。ただ、夏の風鈴を「秋の風鈴」と詠んだり、手で折り取ったはずの薄を、触感ではなく「はらり」と視覚的な擬音語で質感を示したりと実は力業が多く、「くろがね」「しろたへ」も古代的な神秘性云々……と評されますが、それは「くろがね」「しろたへ」が一句にもたらす効果や質感を説明したことにはならない。これらを丁寧に考えないと、蛇笏調は意外に分からないんですよ。
俳 真相は藪の中ね……蛇笏さん、いい人だったわ。
青 話を終わらせないように。先の代表句を語り合うのもいいですが、他句の方が実感しやすいかも。例えば、「流燈や一つにはかにさかのぼる」(1)。お盆に、主に火を灯した燈籠を川や海へ流す「流燈」の句です。


蛇笏の迫力

俳 流燈が生き物みたい……超常現象? いきなり遡るなんてあるんですか?
青 川の深さや岸辺などで流れが不規則ならありえるでしょう。何より、「流燈」なのでお盆どきに彷徨う魂を連想してしまう。下流へ下りゆくはずの流燈群の中、一つだけ「にはかに」こちらへ遡ろうとする……人間界に名残や思念が残っているかのように。
俳 ドッキリ系流燈ですね。「にはかに」が迫力あります。
青 そう、この句は「にはかに」がキモ。お盆の先祖や近親、亡者の魂への敬虔や想いや懐かしさや、怖さ等の感慨は詠まず、「流燈」の予期せぬ動きを目の当たりにした驚きだけを強く描いています。それも「流燈」の動きのみ描き、下五を「〜さかのぼる」と動詞で終わらせたため、「流燈」の動きが鮮明に流れこんでくる。「流燈」の意外な行動はこちら側に理解できない何かが「流燈」に宿るかに感じますし、そこには人間界に異世界が訪れたような、お盆独特の雰囲気がある。実際に体験したら、心臓に悪そうですが。
俳 黄昏どきに道をちょっと浮く感じで歩いている方を目撃した時の、あの感じね。でも、その浮いている感じを佇まいだけを描くことで示すのは難しそう……。


蛇笏の濃厚さ

青 夕暮れにそんな人を見たことないんですが……蛇笏句の生々しさでいえば、「雪山を匍ひまはりゐる谺かな」(2)もそう。中七「匍ひ まはり ゐる」と「谺」の動きをここまで描くのは執念じみた集中力といえます。作者の感情や関心が「谺」に注がれ、ほとんど同化している感すらある。見えない「谺」が生き物のように動いているような……。
俳 分かった! 蛇笏さんの「異常な濃厚さ」(山本健吉)は、「にはかに」「匍ひまはりゐる」といった措辞にあるんですよね。自分の感慨をナマに詠まずに、一見「写生」に見える措辞に濃すぎる主観を滲ませているから、単に観察しただけの「写生」句にならない、と。さすが虚子さん門下ね。
青 おぉ、わしが教えることはもう何もない。山を下りる時が来たようだな……。
俳 ここ、教室よ。
青 ……そういうわけで、蛇笏の「異常な濃厚さ」は、日常の人間社会の埒外にある自然や彼岸、先祖代々の歴史とか、そういった質感の生々しすぎる濃さといってもいい。例えば、「ほたるかごまくらべにしてしんのやみ」(5)。全て平仮名で、捕まえた蛍を入れて楽しむ蛍籠の句です。
俳 しーんとして、夜の闇が深くて、濃くて……都会の夜じゃなさそう。
青 人間たちが次第に寝入り、世界は「しんのやみ」に覆われる。黒々とした夜闇の中、かそけく、息をするように明滅する蛍……美しいというより幻想的で、どこか田舎の夜闇の雰囲気が濃いのも、「しんのやみ」だからでしょう。
俳 個人的には「まくらべにして」に脱帽。すごい省略というか、強引なまとめというか。「置いて」や、「まくらのそばに」だとダメですし。
青 「〜にして」とすることで蛍の光と夜闇は対立せず、むしろ互いに溶けあっている。「ほたるかご」が枕辺に置かれることで「しんのやみ」がより生々しく、存在感を増しています。


他の句群

俳 蛇笏さんの他の句はどんなものがあるんですか?
青 「いきとほそ目かゞやく雛かな」(1)。
俳 魂のあるお雛様みたい……二百歳ぐらいかしら。人のいない部屋で蝋燭が灯され、横顔が照らされて……人より艶やかな肌、でも冷たい感じ。綺麗で、怖い。
青 「月光のしたゝりかゝる鵜籠かな」(3)。
俳 中七! 中七! 鵜のしとどに濡れた羽毛とか、何か臭そうな鳥っぽい感じが出ています!
青 「夏真昼死は半眼に人を見る」(4)。
俳 亡くなった後の、薄目が開いている感じですか? しかも夏の真昼……。
青 「鼈をくびきる夏のうす刃かな」(2)。
俳 「鼈の」ではなく、「鼈を」ですか? スパッと切れた感じ、それも夏に涼しげな薄刃で……。
青 「ひぐらしのこゑのつまづく午後三時」(7)。
俳 ぷぷっ、声がつまずくなんて……「午後三時」と具体的な時間なのもユーモラス。
青 「炎天を槍のごとくに涼気すぐ」(7)。
俳 先生は蛇笏ボット(※1)ですか。ストップ。
青 失礼、つい……「乳を滴りて母牛のあゆむ冬日かな」(2)。
俳 うぉ、詰めこみましたねえ。ただの牛でなく、「母牛」で「乳を滴りて」歩いて冬日で……情報過多のはずなのに、「〜かな」と格調高く終わっているためか、ビシッとした感じ。美しくない光景なのに、何か荘厳で、生き物の神秘さを感じます。


生涯と重ねて

青 蛇笏の俳句は情報が多めで、表現もしつこいほどにアクが強い。力業なのに格調高く、ビシッとして、一語一語が重く、屹立している。それは山梨の村の地主の家長として一生を終えねばならなかった彼の人生と響きあっている気がしています。抑えられた感情のマグマが俳句に噴出していながら、決して矩は越えない強靱さがある。
俳 圧が強くて、濃かったです……疲れました。
青 「冬瀧のきけば相つぐこだまかな」(5)。
俳 「相つぐこだま」が濃すぎる……追い打ちをかけないで下さい。
青 「夕虹に蜘蛛のまげたる青すゝき」(3)。
俳 綺麗な夕景色なのに超常現象……完敗です。

(蛇笏、了)


解説
ボット=主にツイッター等で自動的に呟いたり、会話を行うプログラムを指す。

各句の1〜7は収録句集。(数字は刊行順)
1『山廬集』(昭和7)
2『霊芝』(昭12)
3『山響集』(昭15)
4『白嶽』(昭18)
5『心像』(昭22)
7『家郷の霧』(昭31)


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100年投句計画

選者三名による 雑詠俳句計画




先選者 関悦史

 公文書改竄が大々的に報じられるようになって、先週からはもう平日は毎日毎日、国会前(または官邸前、新宿東口等々)で、内閣総辞職を求める抗議行動が続けられています。私も二時間ちょっとで行ける範囲に住んでいるので、できるだけ参加したいのですが、体調不良がひどくて全然行けず歯がゆい限り。行ったところで何の効果もないと思っていましたが、デモ抑止が目的らしい都条例の急な改悪などを見ると、効果はあったのかも。




百千鳥被曝の村の静けさに  不耳男
 百千鳥の声のみが際立つ静かな村という一見おだやかな光景が、じつは被曝によってひと気がなくなっていたためだったという無気味さに転じる句。放射能と自然(鳥など)の対比自体は珍しいものではありませんが、この句の場合は最後の「に」が利いています。「に」はその一点に動きを集中させる助詞なので、使い方によっては句の流れが悪くもなりますが、この「に」は百千鳥を引き込むブラックホールのような効果あり。




啓蟄の夜間外来煌煌と  すみ
 「啓蟄」を付けると、人工物でも虫のような生気を帯びて見えるという、理屈の通ってしまう付け方なのですが、ここでは夜の病院建築と、そこをめぐる人の営為がなまなましいまま抽象的に引き出されています。

黒板にバイバイの文字卒業す  根本葉音
 直球過ぎて、ありそうで意外と見かけたことのない詠み方という気がします。「バイバイ」の幼時性と素直さは、小学生のものとも女子高校生のものとも取れ、さびしい明るさが満ちています。

ビニールの中のギプスや髪洗う  野良古
 骨折がまだ治っていない最中の、ギプスを付け、それが濡れないようにビニールで包んでの入浴という特殊な状況ながら、特殊さだけに終わらず、「髪洗う」に新たなリアリティが与えられた感あり。

プレバトを観る時間なり花菜漬  えつの
 この誌面で出ると楽屋落ちか何かのようですが、国民的人気番組を夕食時に皆で見るという、高度成長期以降の日本の団欒の姿が現在に引きつがれているようでもあり、最近の番組でそれが実現されている目出度さあり。

春泥や脳科学者の一考察  彩楓
 「一考察」の中身はわかりませんが、「春泥」と取り合わせられると、脳を含む人体も死ねば泥同然の物体、その考察もまた、という茶化しに見えます。茶化されて「一考察」の真面目さがかえって可愛くなる句柄。




若鮎の群の光のゆるゆると  芳香
昨日今日何も変らず山笑ふ  鯉城
バリトンのような風音冴え返る  しのたん
治聾酒の零れて湿る地べたかな  ヤッチー
春の山パステルカラーのボールペン  すみ
眼球に君の舌触る春の闇  薄荷光
残る花ベッドがひとつ空きました  ちゃうりん
白杖の立ち止まりけり薄紅梅  有瀬こうこ
緋桜や祖父の墓碑銘には「戦死」  ひでやん
春光さしはじむ答辞を読み終へて  西原みどり


関悦史(せき えつし)
 1969年茨城県生。「翻車魚」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。2017年第二句集『花咲く機械状独身者たちの活造り』、評論集『俳句という他界』刊行。共著『新撰21』『俳コレ』他。



先選者 桜井教人

 京都、大阪に桜を見に行った。坂道の線路に降り注ぐように咲くインクラインの桜はまさに映画のワンシーンだった。ライトの色合いまで計算された清水寺の夜桜の美しさは人知を超えていた。四天王寺ではあの世へ運んでくれる極楽浄土の花筏を見た。
 しかし一番心に残ったのは桜之宮公園の早朝の桜だった。早朝に目が覚め、そのまま電車に乗り見に行った。人はなく、聞こえてくるのは早朝練習しているボートのコックスの声くらいだ。やがて陽がビルの隙間から射して来る。桜の色が光に変わっていく瞬間を見た。句をつくり某句会に出したが全く駄目だった。なので来年も行く決意をしている。




うさぎ跳びしてた世代の花見かな  ケンケン
 世代の表し方として「うさぎ跳びしてた」という表現が実に突き抜けている。そしてそこから季語「花見」への展開も突き抜けている。団塊世代の賑やかな花見、何らかの罰ゲームでうさぎ跳びをやって転倒を楽しむ愉快な(不思議な?)光景も目に浮かぶ。うさぎ跳びは四十年ほど前から医学的に身体によくないとされ、今やほどんど見ることがなくなったが、どうやらこれは濡れ衣らしい。花見のやりかたや楽しみ方も時代とともに変わって来ている。短い花の命、移り変わる時代、案外深い句だ。




棘薊風の電話へ風の聲  冬のおこじょ
 風と風が電話をしているのだろうか。受話器に向かって風が話しかけ、受話器の向こうから風の音が聞こえる。不思議な光景だ。その景に棘薊の糸針のような形と優しい色合いがとてもよく合う。

海風は白詰草を編みたくて  中山月波
 だれが読んでもこの句の読みはぶれないだろう。この優しい詩の世界に説明は不要だ。しかし、それを生み出している平易な表現、白詰草の漢字表記、切れのない終わり方等、確かな技術については触れておかなければならない。この句も特選に取りたかった秀句。
春光やシルバーカーの横並び  波野
 最初の文字に「春」「夏」「秋」「冬」を当てはめてみる。明らかに「春」がいい。スーパーだろうか病院だろうか、整然としたシルバーカーが春光に輝いている。年輪を重ねるということはやはり美しいことなのだ。

春夕焼白髭長き焙煎師  大槻税悦
 一般的には焙煎士だろうか。深入りの珈琲豆の色と匂い、長い白髭との対比が面白い。店の営業が終わりかけた夕方、明日のための豆を焙煎している。店の中にさす春の夕焼。当たり前の日常がいい。

長距離バス待つ春寒の椅子の青  西原みどり
 都会の大きなバスターミナルではなく、田舎の小さなバス停を思った。短い春休みを終えて都会に帰るのだろうか。実家での温かい時間があったから春寒が際立つ。しかし心は安らいでいることは最後の「青」で分かる。




晩婚や花をはらんでゆくやうな  くらげを
枕カバー外せば春眠の欠片  藍人
すらすらと消える春雷のUFO  24516
春天へ梯子をかける大道芸  斎乃雪
選ぶことは捨てることだね修司の忌  小市
走り去る君の速度に桜散る  柊 月子
飴色の妣の指ぬき苔の花  凡鑽
我が家にも桜咲いたよお父ちゃん  花 節湖
白壁の町の石段ひなの段  あおい
鞦韆や今日は人間探求派  風海桐


桜井教人(さくらい きょうと)
 1958年愛媛県生まれ。愛媛県公立小学校教員。いつき組。子規顕彰松山市小中高校生俳句大会選者。第2回大人のための句集コンテスト優秀賞。第24回、29回俳壇賞候補。



後選者 阪西敦子

 今年は長い四月だった。ただでも居心地の悪いことが多いこの月、ゴールデンウィークに逃げ込むように過ごすもの。何か一週間早かったり遅かったりと予定の週を間違え、間延びしたり慌てたりした。そうか、桜が早かったからか。


特選

蘖や棚田へ向かふ渓の水  芳香
 斜面の日当たりと水はけを力に行われる棚田の水耕。平面的に広がる水田とは景色も効率も違う。蘖は幹の切り口からおのずと生える枝。おのずと棚田へ向かう水の流れも、大きな一つの流れの中にあるようだ。

立春の真つ赤なかさご買ひにけり  鯉城
 もう冬が終わるという喜びに満ちた立春に、冬を生き抜いた自らへの祝として買うのは、赤の濃いかさご。海に近いくらしのささやかな変化の瞬間であろう。その強情な外観も、なにか邪をはらうようでもある。

丹田に力入れけり春の服  柊の花
 「丹田」とはどこだろう。「体幹」という後発の言葉との関わりも気になる。「けり」のあとで軽く切れて、丹田に力を入れて春の服を着るとも、倒置として春の服によって丹田に力が入るともとれる。その両方なのだと思う。前進のための力なのだ。


並選

鳩鼠色纏ふ美女薄氷  桂奈
春疾風TSEのラストラン  松浦麗久
蛇穴を出でて真田に六文銭  砂山恵子
残り香や若き遍路の二人づれ  藍植生
あの夢もこの夢もはや蜃気楼  レモングラス
夕暮れや渡船見送る孕鹿  とべのひさの
鍬二本担いで軽しぬくし朝  人日子
まめざまにせかすまなざしひなおさめ  明惟久里
黄水仙周囲の山に見守られ  高木久美子
薄切りの針魚潔し恋心  ちろりん
石楠やワタシはスズメ金沢は  未貫
綻びて白唄ひ出す辛夷かな  蓼科川奈
薄氷に登校の児ら立ちしょんべん  風来松
茹小豆きゆいきゆいメール警告す  久我恒子
後悔に引き戻されて半仙戯  おせろ
冴返る万年筆で書く返書  出楽久眞
旅の身の帝都のホテル鐘霞む  かのん
春光や旅の話へ紅茶足す  あいむ李景
人形の詰めもの溢る蝿生る  すりいぴい
魚撥ねて春の光の満ちる海  たあさん
オカリナの演歌朗々梅の園  和音
椿落つまた約束を反故にして  みやこまる
啓蟄や土竜は土をもたげたる  根本葉音
飯篭にねむる花種取り出せり  さより
手作りの紅の濃淡桜餅  幸
ぬばたまの夜のひいなの隣部屋  のり茶づけ
みもざ咲く吹奏楽の音合わせ  一走人
上京は二屯トラック春の星  松田夜市
山笑ふおおざっぱてふおおらかさ  誉茂子
大将も文人も同じ墓所なる春うらら  点額
首筋の小さきほくろ朧月  洒落神戸
春の浜セントバーナードの鼻息  喜多輝女
石ころで一日遊ぶ子供の日  暮井戸
星吸ふてやや尖りをりさくらんぼ  次郎の飼い主
蒲公英や絮の先に戦闘機  夏柿
春夕やオカリナすこしうまくなる  小川めぐる
おならだけは大人勝りや鼓草  テツコ
釣り糸を春三日月に垂らしけり  立志
冠は春野の端においてゆく  うに子
彼岸会のプレゼン若き僧の聲  ぐずみ
消防車パトカー救急猫の恋  元旦
柔道衣両袖広げて春の竿  ぎんなん
雨予報外れて晴れて風光る  ぺぷちど
桃咲くや柩小さき野辺送り  内藤羊皐
朧夜の病衣に匂うホルマリン  クラウド坂上
風を漉き鳴きつつ降りて来る雲雀  青柘榴
高らかなひと鳴き吾へ鳥帰る  ゆりかもめ
麗らかやいぶしこぶしの爪を切る  ミセスコナン
天上のいづこより来て梅薫り立つ  まんぷく
悲しみの縁取りのごと春の夜  アンリルカ
春の雪太股に積む別れ際  台所のキフジン
晩秋や松の黙を雨が打つ  大阪野旅人
たんぽぽの街となりたる売地かな  土井探花
春の闇眼帯をして見えるもの  空山
彼岸参花立挿して母立ちぬ  マカロン星人
部室からイルカの歌や春休  童夢2世


阪西敦子(さかにし あつこ)
 1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。


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100年投句計画

自由律俳句計画


きむらけんじ

 あと30年もすれば、AI=人工知能が人間を超えるらしい。人間の頭脳の最高峰ともいえる世界最強囲碁棋士 柯潔九段も日本将棋界の佐藤名人も、すでにAIに勝てない。そのAIに世界の投資家が資金を大量投入するので、AIの発達は恐ろしい勢いなのだ。文芸だって短歌とか俳句とかルールや制約の多いものはあっというまにAIに席巻されるかも。そのうちAI俳人なんかでてくるのかな。




尻尾があったら跳ねてる四月  冬のおこじょ
 春真っ盛りの四月。素直に考えれば、山も野も人の心も沸き立つような季節……生きものすべてが飛び跳ねたくなるような生命の賛歌を感じる季節ということになります。そんな春の四月を言い表すのに、「尻尾があれば」という視点を発見したところがこの句の面白さというところです。魚かもしれない、イルカかもしれない、ひょっとしてカンガルーかも……尻尾を巧みにあやつって跳ねまわる生きものの躍動が容易に想像できます。人に尻尾があれば四月の春の中で、やはり飛び跳ねるしかない。有無を言わさぬ断定が、句の活力を増している。




将来性のある土筆採り残す  青柘榴
 誰のためということでもなく、まだ育ち切ってない土筆は採らずにおく。よくある状況でとりわけ珍しくもありません。しかしその幼い土筆を、「将来性のある」と、人の人生のように見立てたことで、単に抒情に流されないで踏みとどまった。

「話があるの」正座の妻だけが冬  凡鑚
 正座の妻に「話があるの」と言われれば、すべての夫は凍り付くのではないか。「話があるの」という、いきなりの口語体で投げ出す構成もなかなか鋭い。妻の怖さを言うのではなく、冬の寒さへと着地させているところも見事です。

トランクいっぱいの寅さんの春  みやこまる
 枝葉末節に拘泥しないおおまかな感覚のみを、ぐわっと鷲掴みにして立っているような句。国民がみな感じているキャラクターへの思いが背景にあるからだが、そこに違和感はない。あっけらかんとしたニュアンスが、いかにも春らしい。

鍵っ子のふりするふらここで  中山月波
 たった十四文字ほどなのに、そこにはかなり複雑な子供の心情や生活環境といったものが錯綜してくる。というか勝手に妄想が膨らんでくる。まさに俳句は余白のちから、そのものと言える。出だし「ふらここ」ではなく末尾に置くことで、よけい不確かな心情が揺れている。

豆の莢へ莢へと風の来ている  暮井戸
 豆の枝ではなく、より至近世界の莢へ来る風をとらえることで、シズル感溢れる豆と風が立ち上がった。「莢へ莢へ」と言うリフレインも、風の微妙な動きをよく表していると思う。最近の自由律ではめずらしい純粋自然詠。




春光を眼科医の顔面が近い  くらげを
異国来て昨日をやりなおす  出楽久眞
椅子にも吊り革にも春眠  みやこまる
声なき声にふりむく朧  幸
あきらかな嘘にうなずく  ちゃうりん
蛇穴を出でようと振り向かぬ  元旦
窓を開けて春の椅子となる  有瀬こうこ
春は曙錦糸卵の山盛  ミセスコナン
電線の影ゆるんできた寄り道日和  多満
春や人生の大方はすませた  空山


並選

黒髪は流るや春コートの背中  桂奈
足おぼつかな春一番  藍植生
春の二番はもういらない  芳香
井戸囲い花壇となりてリサイクルかな  レモングラス
日向ぼこ苦手な老犬  とべのひさの
貝母の花見つつカンパリソーダ飲む  ケンケン
石の上にも春  鯉城
海の碧さの石蓴かな  人日子
「さえずる」十二句うなる如月  明惟久里
新任の挨拶来た春一番  ねもじ
春嵐春よ目覚めたか  花紋
クリスマスローズうちひしがれたところがいい  ちろりん
生まれ変わるなら一寸の虫五分の魂  八かい
落椿の紅夜に泣く  蓼科川奈
かたっぽだけ靴下ぬぐ  風来松
電車に遅れたのか電車が遅れたのか  柝の音
老夫妻の朝寝  ヤッチー
切り取り線は取り敢えず折る  藍人
永き日やテレビ見るのもひとり  すみ
ウェディングガーデン春光のカプレーゼ  24516
チョーク、君は春の貝だったのね  さより
落ちているビニール袋に少年ジャンプ  のり茶づけ
練習中のうぐいすにエール  一走人
ああ疲れたが口癖に  小市
吾少食ナレド牛飲ヤマズ  点額
残業の灯白くスポットライト  洒落神戸
地平線まで菜の花畑  喜多輝女
ドリンクバー三杯は飲まないと  天野姫城
ハローCQこちらハルウレイ  小川めぐる
知らぬわ埋没林の心など  薄荷光
鬱の頂点へ揚雲雀  テツコ
春の雨の無音  立志
うずくまる僕 とおりすぎる君  野良古
三男坊は皆勤賞  うに子
残る寒さ孫計算ずくのおんぶ紐  ぐずみ
遅咲きの水仙思うそれぞれに光あり  ぺぷちど
貝寄風を耳の仮説とせる  内藤羊皐
海豚型の風船と子と乗車  ゆりかもめ
梅咲いた一年終わり又、重ねてゆくか  まんぷく
橋の下を春の水が流れてゆく  彩楓
走ってた君の視線のとどくとこ  台所のキフジン
何回も聞く夫の朧月  花 節湖
意地っ張りなラインと春炬燵  マカロン星人
鈴の音の行ったり来たり猫の子は迷子  きさらぎ恋衣


自由律で再挑戦を!

水仙を野菜のごとく剪りにけり  みつよ
遠目にも白蓮森のシャンデリア  みつよ
菜の花の明るい色に気が滅入る  和音
日向ぼこ河馬の悩みの乾燥肌  和音
口笛の熊牛原野草青む  あおい


きむらけんじ
 1948年生まれ。第一回放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律 地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技 妄想、泥酔。


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100年俳句計画

詰め俳句計画


選者、問題作成 マイマイ

今月の問題
次の(  )の中に共通する春または夏の季語を入れてください。

参道を来て(   )ところ
(   )やら水に入るやら


参道を来て日傘をたたむところ
日傘をたたむやら水に入るやら
 空山さん。今月は長い季語を想定して作問したせいか、季語に動詞や助動詞をプラスしたりする季語アレンジが多かったです。音数を合わせたいのはわかりますが、あくまでも歳時記から季語を拾って当てはめるのがこのコーナーのルールとなっております(季語アレンジの定義やその減点については本誌2016年7月号に詳しく掲載)。さてこの回答の強引なアレンジに驚くうえに音数を合わせたにもかかわらずリズムが整っていないことにもさらに驚き。後句入水っぽくて不吉。10級(-3)。芳香さんは初蝶の舞ふ。これも最大限減点させて頂くとして、前句はなかなかきれいな景。後句は蝶が「水に入る」と読むのが自然だが「入る」に違和感あり。7級(-3)。くらげをさんは石亀の鳴く。空想的季題「亀鳴く」の亀の種類を限定するとは……。前後句ともアリエナイ状況なのですが妙にリアリティーを持たせようとしていて大変可笑しい。3級(-3)。ねもじさんは亀鳴いてゐる。アレンジとしての減点は低いのですが、句としては「石」がついている方が変な説得力がある気がするので結局3級(-2)。ちろりんさんは都忘れ咲く。ちょっと字余り。後句なぜ水に入るのか謎。6級(-2)。小川めぐるさんは鷹鳩になる。「鷹化して鳩と為る」「鷹鳩に」という季語は歳時記にあったのですが、この回答の表記は見つけられませんでした。軽微な季語アレンジとして捌きます。前句、神社に鳩が多いのは鷹が変身しているせい? 後句、鳩も鷹もあまり水に入るところを見たことがないのでちょっと合わないような。5級(-1)。藍植生さんは蟇蛙出づ。歳時記では「蟇」「蝦蟇」「蟾蜍」は載っていたのですが、「蟇蛙」の表記は見つけられませんでした。また「蟇穴を出づ」も「蟇出づ」も歳時記にあったのですが……。前後句ともなるほどと納得できる光景。文法的な問題があるので後述します。5級(-1)。すりいぴいさんは陽炎燃ゆる。当然これも陽炎の季語アレンジかと思いきや載っていましたよ、日本大歳時記に……。歳時記の基準ワカラン。前後句とも音数は合っているのにリズムが悪い。前句、参道と陽炎はよく合う。後句、陽炎は水に入るのかな? 5級。

参道を来て早苗饗ところ
早苗饗やら水に入るやら
 喜多輝女さん。いやいや、前後句とも繋がりもリズムも無視。自由すぎる。8級。レモングラスさんの田草引くも短い。内容的には前後句とも少しの意外性があって面白い。4級。さて、ここからは七音ではあるが何故か四音+三音の季語にされた方々。うまく五七五のリズムに乗れないと思うのだが……。とべのひさのさんは氷を供ず。氷室から氷を運び出して宮廷に献上したという歴史的季語。前句、参道と合う気もするが、後句、意味不明。7級。松浦麗久さん、冬のおこじょさんは白鳥帰る。前句は不思議な取合わせ。後句、水に入るのは残っている白鳥? それとも帰る方? ちょっと句意がとりにくい。6級。きさらぎ恋衣さんの形代流すは前後句とも納得だがやや近いか。5級。八かいさんは木の枝払ふ。前句、意外性があって面白い。後句、助詞「やら」は物事を単に並列、列挙する意を表す。枝を切る作業とその枝が水に入ることが並列にされることに可笑しみを感じる。4級。

参道を来て蒼朮を焚くところ
蒼朮を焚くやら水に入るやら
 彩楓さん。ああ、やっぱりリズムがいいと読みやすいですねえ。これはおけらという植物の根茎を乾燥させたものを焼いて梅雨時期の湿気を払うという季語だが、今もやっているところがあるのやら? 前句お堂か何かを燻すんですかねえ? 後句、何故この二つの行動が並立で扱われるのか。うーん、理解の外ですねえ。5級。ヤッチーさん、天野姫城さんは羊の毛刈る。これも前句、何故参道からこの行動になるのかわからない。後句も、羊はあまり水に入らないとのことで、そうすると毛刈りをしているところで水に入っていく人もいるという変な光景になる。ま、それも嫌いじゃないですけど……。同じく5級。ジュミーさん、根本葉音さん、誉茂子さん、花 節湖さんは桜蘂降る。前句、風雅。後句も水に落ちるものもありつつ、それ以外の蘂も想像できて面白い。1級。

参道を来て地虫穴を出づところ
地虫穴を出づやら水に入るやら
 幸さん。ここから穴を出る系の方々。地虫だとちょっと字余りで特に前句が気になる。それと、前句「ところ」、後句「やら」に繋がるためには古語文法的には「出づる」にならないといけません。内容は前後句とも可笑しみがある。4級。しげこさん、洒落神戸さん、夏柿さん、立志さん、遊人さんは蟇穴を出づ。リズムはばっちり。文法上の問題は同じく残ります。前後句とも可笑しみがあっていいですが、後句蟇と水は近い感じがする。3級。斎乃雪さん、ちゃうりんさんは蟇穴を出る。そーなんです。口語にすれば文法問題は解決しちゃうんですねえ。2級。ミセウ愛さんは蟻穴を出る。前後句ともこんな細かいところを観察しているところが変で面白い。同じく2級。砂山恵子さん、蓼科川奈さんは蛇穴を出づ。前句、蛇は神話のモチーフになったりしていて参道と合う気がする。後句、蟇と比べて水に入るのに少しの意外性があっていい。が、前述の文法問題あり。同じく2級。矢野リンドさんは蛇穴を出づる。これは文法を意識して工夫したんですね。ただややリズムが悪くなった上に季語アレンジ。3級(-1)。桂奈さん、たあさん、のり茶づけさん、ひでやんさん、青柘榴さんの蛇穴を出るは、文法問題もクリアして1級。


参道を来て鳥雲に入るところ
鳥雲に入るやら水に入るやら
 中山月波さん、明惟久里さん、きなこもちさん、河原撫子さん、柝の音さん、藍人さん、あいむ李景さん、童夢U世さん。前句神々しい感じがして良い。後句もいろんな鳥のありようが出ていて可笑しみもありつつスケールが大きい。初段。人日子さん、次郎の飼い主さんは竹皮を脱ぐ。前句、静かだが決定的瞬間かも。厳粛な雰囲気もある。後句、不思議な存在感を持つ竹の皮がはがれて、水に入っていくという意外性。二段。


今月の正解

参道を来て蛇衣を脱ぐところ
蛇衣を脱ぐやら水に入るやら
 猫楽さん、久我恒子さん、出楽久眞さん、すみさん、24516さん、みやこまるさん、ほろよいさん、一走人さん、薄荷光さん、うに子さん、元旦さん、笑松さん、内藤羊皐さん、ゆりかもめさん、大阪野旅人さん。普段は疎まれがちな蛇であるが、前句、参道と取り合わせることである種の神性を獲得している。「皮を脱ぐ」ではなく「衣を脱ぐ」という言葉の美しさも大事なところ。後句、水に入るというちょっとした意外性が生きている。鳥獣戯画的な可笑しみを感じる人もいるだろう。初段。


解答募集中!
次の(  )の中に共通する夏の季語を入れてください。

美醜そを(   )あますところなし
(  )につぎつぎ雨の礫(つぶて)かな

このコーナーは『新日本大歳時記』(講談社)を参考にして、選者が勝手にランク付けをしています。新しい季語などを投稿される際は、歳時記 季寄せ名を併せて明記していただけると助かります!

5月20日締切 結果は7月号に掲載


マイマイ
 2003年11月頃よりラジオに投句を始める。割と生活派俳人だったが、最近は?? 第1回、第4回百年俳句賞(旧大人コン)優秀賞受賞。2013年句集シングル『翼竜系統樹』上梓。将棋推定初段。棋友募集中。宇宙と生命を題材に詠んだ句集『宇宙開闢(ビッグバン)以降』マルコボオンラインショップにて発売中。


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100年投句計画 投句方法



雑詠俳句計画
自由律俳句計画
詰め俳句計画

 「雑詠俳句計画」では、寄せられた投句を一括して、各選者が選句します。各選者に宛てて個別の投句を行うものではありません。

6月号掲載分締切 5月20日(日)

投句方法

 投句先コーナー名
 俳号(無ければ本名の名前のみ)
 本名
 電話番号
 住所

 以上の必要事項を書き添えて、編集室「100年投句計画」係までお寄せください。メールの場合は、件名を「100年投句計画」としてください。
 「雑詠俳句計画」「自由律俳句計画」はそれぞれ2句ずつまで投句できます。また、「詰め俳句計画」は季語1つのみを投稿できます。
 各コーナーの投句は、ひとつにまとめて送っていただいても構いません。

メール宛先
magazine@marukobo.com

投稿専用ページ
http://marukobo.com/toukou/

さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。(「俳句ポスト365」のページ参照)


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短歌の窓


選者
短歌誌『未来』会員 渡部光一郎



特選

青天の昼の窓より抜けだして歌をうたふか背黄青鸚哥  きさらぎ恋衣
 「青天の昼の窓」がこの歌の眼目だろう。ほかのどんな出口からでもない、ここから抜けだして鳥はうたったのだ。「背黄青鸚哥」の漢字表記もよく、これがカタカナでは作品が成立しない。くっきりした美意識が感じられる作品。


並選

大陸へ夕陽の沈む時の来て思想も深く沈むだろうか  暮井戸
 かつて大陸で覇をとなえた思想の終焉をうたったもの、と解釈してよいのだろうか。きれいにまとまっているが、理におちるようでもある。やや抽象的。

酒蔵の賑わいに余寒ゆるびおりすでに久しく蔵唄途絶えて  ケンケン
 「酒蔵の賑わい」と「蔵唄途絶え」とが一緒にうたわれているのでどちらの要素が主なのかちょっと戸惑ってしまった。「余寒ゆるびおり」はよい。


コメント

牛乳の埃ひとつが気になってティッシュで掬う小さく生きる  蓼科川奈
 初句〜四句までが具体的な行動の内容、結句の「小さく生きる」でそのまとめ。少しおもしろい。

左利き直されてなほ紅をひくときのびやかに左手の出づ  久我恒子
 昔は左ききがよくないと、しばしば「矯正」をされた。それでも「なほ」、口紅を引くときに本来の利き腕がすっと伸びるのだ。身体の記憶をすっかり消し去ることはできない。

冬眠から覚めたのかしら初蛙ちょこんと赤いシクラメンに座す  一走人
 シクラメンの花のうえの小さな蛙。眠りをさました身近な生きものたちと、春が来たよろこびを分かちあうような歌。

春暁の時のはざまに零れ落つ一握の砂一握の夢  松田夜市
 きれいな表現だが、雰囲気的で何のことをうたっているのか分らない。何か具体物を。

数え日や冥土までには何日か門松は冥土の一里塚らし  ねもじ
 一休さんの狂歌「門松は冥途の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし」を下敷きにしているが、そこをもう一歩ふみこんで、作者ならではのものを打ち出してほしい。

閉じられて辞められていま移られてついてゆけないこの三月に  台所のキフジン
 三月の変化する職場をうたったものだろう。閉じる 辞める 移ると並べた試みは面白いが、ちょっと分かりにくい。

水色のギンガムチェックの箱に入れ死後硬直を飾る菜の花  有瀬こうこ
 水色のチェックの箱に入れられ「死後硬直」をしているのは小さな動物だと考えられるが、これだけでは判断がやや難しいのでもうすこし説明がほしい。また、「入れ」の主語は作者か誰か人間だろうが、歌の中に「飾る」という動詞が同時にあって読む側が混乱する。一首の作品の中に動詞は複数使わないようにし、どうしても複数必要な場合にはその主述の関係を明確にしておくのが基本。

先生はボルサリーノのソフト帽電気ブランを飲みし事など  彩楓
 ソフト帽をかぶったり、神谷バーで電気ブランを飲んだりする「先生」という人に思いをはせているのだろう。「飲みし事など」で歌が終っているので、先生が話していたのか、先生について自分や周りの人が話しているのか、あるいは先生のことを思い出しているだけなのか、その辺がよく分からず残念。

我庭の標本木に花五輪開花宣言夫にだけ告ぐ  ミセスコナン
 「我庭の標本木」は、標準木としてほんとうに指定された桜ではないのだろう。しかし自分と夫にとっては、我が家がむかえた季節をしらせてくれる大切な木なのだ。「夫にだけ告ぐ」が優しい。


自作の短歌(2首まで)を下記までお送り下さい。締切は毎月20日。
専用フォーム
http://www.marukobo.com/tanka/
専用Email
tanka@marukobo.com


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自作の俳句を英語に訳そう!

百人百様 E-haiku



文、訳例 菅 紀子


鳥帰る荒野眼に入れて去る
birds comeback to north
wasteland is in put eyes
leave.
KIYOAKI FILM

紀訳
birds fly back
the wasteland
in their eyes 


花曇ゆっくり曲るバス煙
Flour cloudy weather
slow curve
smoke of bus.
KIYOAKI FILM

紀訳
hazy spring day
slow turn of a bus
smoke behind

お便り
KIYOAKI FILM 英語辞書を読んで、覚えたい単語を、単語帳に書いています。英訳聖書読書は継続していますが、辞書をめくりながら、読むことが面倒くさくてできていません。


夏畑芬々母の愛悶々
summer field smells-
maternal love
anguished
久我恒子

紀訳
summer field smells-
anguish of
a maternal love


サイダーに閉じ込められぬほど夕陽
the setting sun-
unable to shut
in soda pop
久我恒子

紀訳
the setting sun-
unable to be bottled
in soda pop


菜の花の海よ沖行く貨物船
A cargo ship traveling out to sea
sea of Flowers of rape
ほろよい

紀訳
the sea of rape
a cargo ship sailing
offshore

お便り
ほろよい 3月号で教えて頂いた sea of いい感じですね。イメージしたのが、一面の「菜の花」……早速作ってみました。


探梅やきらきらうたふ巫女の幣
seeing ume blossoms,
paper streamers of a shrine maiden
dazzling in the sunshine
明 惟久里

紀訳
plum blossoms
paper streamers of a shrine maiden
dazzling in the sunlight

お便り
明 惟久里 sunlight ではなく温度まで感じる「日の光」を……浮かんだまま英訳しました。


八千の言語ひとつの平和春
hurry spring up
eight thousand languages
only peace on earth
明 惟久里

紀訳
spring
eight thousand different languages
the same peace on earth

お便り
明 惟久里 「春よ来い」としてみましたが「春とは」の方が良い? ……どちらも違う気がします(泣)


春の風今夜重信劇場で
spring wind tonight at the sigenobu theater
すずき徳三郎

紀訳
spring wind, tonight at the Shigenobu theater

お便り
すずき徳三郎 入院中の母親を見舞った夜、サンシャイン重信で観た『今夜、ロマンス劇場で』は、映画館もの 映画業界ものファンには何とも心地よい作品でした。


春の色綾瀬はるかを染めにけり
signs of spring gave colors Haruka Ayase
すずき徳三郎

紀訳
signs of spring gave Haruka Ayase its hue

お便り
すずき徳三郎 映画の中の綾瀬はるかが、異次元の美しさでした。本田翼も控え目ながらいい役でやはり素敵でした。映画業界はまだまだ男の世界なので、製作者や監督が、こうあって欲しいという女性像を作り上げるから女優さんがさらに綺麗になるという話を何かで読んだことを思いだしました。


春の昼インクに汚す人差し指
spring afternoon
a forefinger becomes
dirty in ink
彩楓

紀訳
spring afternoon
a foreginger
dirty in ink


死ぬまでに為すこと多し春の雪
spring snow
berween terms of life
lots of things to do
彩楓

紀訳
spring snow
too many things to do
before I die


教科書を開けば虹に乗る方法
by opening a textbook,
the way of ride
a rainbow
チャンヒ

紀訳
by opening a textbook,
the way of riding
a rainbow


洗濯機の中の朧に鰐が住む
in the hazy inside
of washing machine,
alligator lives
チャンヒ

紀訳
in the hazy inside
of a washing machine,
the alligator lives


Column
冠詞について

 英語で必ずぶつかるのが a, an, theといった冠詞です。日本語では必要でなければ物の数を表現しません。ところが英語では文法上厳密につけます。a は一つのという意味、an は単語が母音で始まる場合読みやすくするため、そして複数の時はその単語に s や発音上 es をつけるなど複数の場合の単語によって表します。じゃあ theはどういう時につけるのでしょう? 基本は a や an は初めて出てきた時や一般的なものとしていう場合(不定冠詞)、the は二回目以降、また特定のものをさす時(定冠詞)です。抽象名詞にはふつう不定冠詞をつけません(無冠詞)。さらにこの世に他にないもの、海 the sea とか天体 the sun など必ず the をつけねばならない単語もあります。また特定の「その」と言いたい時 the をつけます。たとえばチャンヒさんの2句目、洗濯機の中にヤツが、“あの”鰐が住んでるんだ、と解釈して the をつけました。
 俳句の場合このルールを厳守しなければならないでしょうか? もちろん原則はそう。ただ前回省略についてお話しした通り、世界最短の詩として、言葉の調子や流れを考えるとなくてもいいや、と思えばあってもなくてもよい、というくらいゆるやかでよいでしょう。試験問題じゃありませんし。


菅 紀子(かん のりこ)
(有)クラパムコモンカンパニー代表。通 翻訳、メディアによる姉妹都市交流コーディネーター。社名は夏目漱石が下宿したロンドンの地名から。歩道短歌会同人。人文学修士、翻訳修士。松山大学非常勤講師。(Hailstone Haiku Circle blog ICEBOX Contributor)(漱石と彼のライバル重見周吉、日系移民研究)


自作の俳句およびそれを英語俳句にしたもの(2句まで)を募集!
応募先
WEB http://marukobo.com/eigo/
Email eigo@marukobo.com

7月号掲載分締切 5月20日(日)


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100年俳句計画編集室セレクト

公募俳句計画




俳句の街 まつやま
俳句ポスト365

協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/

5月の兼題
4月19日〜5月2日 老鶯
5月3日〜5月16日 虹
5月17日〜5月30日 赤潮

3月度「天」獲得句
しゃぼん玉
しゃぼんだま世界は二分後もあるか  亀田荒太

薇の巣や耳塚に千の耳  小泉岩魚
春潮
春潮やしばし縮みてあきつしま  クズウジュンイチ


夏井いつきの一句一遊

協力 南海放送

南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句宛先
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/

投句募集中の兼題
5月6日締切 鴨の子、蜜豆
5月20日締切 漢字「五十」、あいの風

3月度「天」獲得句
春光
どなどなと愛車つれられゆく春光  三河のぽんぽこ
カタカナ「フ」
檻すりぬけ雪はフラミンゴの背に  理酔
孕雀
孕雀おり土手刈を遅らせる  亀田荒太
鈴の尾は五色ころころ孕雀  どかてぃ
椿餅
木の春と書きててりてり椿餅  ちろりん
春休み
鉄塔を数えに行こう春休  ときこ


掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとにしたものです。俳句ならびに俳号が実際とは異なっている場合がありますのでご了承ください。


愛媛新聞 青嵐俳談
5月中旬より新設予定!

募集内容 高校生〜30代(39歳以下)対象。一回3句まで。未発表句に限る。
宛先 〒790ー8511 愛媛新聞社生活文化部「青嵐俳談」係。またはWEBサイト「愛媛新聞オンライン」内の専用投稿フォームより応募。
選者 神野紗希、森川大和
詳細問合せ 電話 089-935-2233(愛媛新聞社生活文化部)
専用投句フォーム https://www.ehime-np.co.jp/online/hiroba/toukou/haidan/form.html



春夏秋冬笑顔まつやま福祉五七五《春》

主催 松山市社会福祉協議会、マルコボ.コム(ふくし句会 ハイクライフマガジン「100年俳句計画」)選句
募集内容 福祉をテーマにした春季の句を、専用フォーム(http://www.marukobo.com/egao/)より応募。
締切 平成30年5月6日(日)
賞 「松山トリコ」 大賞(松山市社協会長賞)1点=道後温泉湯玉トートバッグ、優秀賞3点=ブックカバー、入賞4点=紙の湯カードケース
詳細問合せ 電話 089-921-2111(松山市社会福祉協議会)


ブリヂストンタイヤで五 七 GO!俳句コンテスト

主催 ブリヂストン タイヤの細道「俳句コンテスト」事務局
募集内容 「タイヤ」か「ドライブ」をテーマにした俳句。
 ツイッターで公式アカウントをフォローし、ハッシュタグ「#タイヤの細道」を付けて投稿、または、キャンペーンWEBサイトの応募フォームより応募。
締切 平成30年5月31日(木)
選者 夏井いつき
賞 グランプリ賞=東京2020オリンピック宿泊付き観戦ツアー1名(ペア)、優秀賞=10万円分VISAブランド商品券5名、Wチャンス(応募者から抽選)= 1000円分のVISAプリペイドカード 500名。
詳細問合せ 電話 0120-563-281(タイヤの細道「俳句コンテスト」事務局)
https://tire.bridgestone.co.jp/tire-hosomichi/campaign/


富山県黒部市俳句交流大会

主催 厚生労働省、富山県、一般財団法人長寿社会開発センター、ねんりんピック富山2018実行委員会、黒部市、ねんりんピック富山2018黒部市実行委員会
募集内容 未発表作品2句以内。投句料無料。
宛先 〒938ー8555 富山県黒部市三日市1301 黒部市市民生活部福祉課内 ねんりんピック富山2018黒部市実行委員会事務局
締切 平成30年6月15日(金)当日消印有効(海外からの応募の場合は必着)
選者 「高齢者部門、一般部門(一般の部)」稲畑汀子、大久保白村、大輪靖宏、中村和弘、寺井谷子、高野ムツオ、茨木和生、藤本美和子、蟇目良雨、中坪達哉 「一般部門(ジュニア般の部)」川上弥生、坂田直彦、野中多佳子、荒木かづを (当日句選者は割愛)
賞 「高齢者部門 一般部門(一般の部)」選者特選賞10句、その他上位句に正賞 准賞。
「一般部門(ジュニア般の部)」小、中、高校生各上位10句に優秀賞。
大会 日時/平成30年11月4日(日)、場所/黒部市宇奈月国際会館(セレネ)。当日句の募集有り。
詳細問合せ 電話 0765-54-2111(ねんりんピック富山2018黒部市実行委員会事務局)


第53回 子規顕彰全国俳句大会

主催 松山市教育委員会(子規記念博物館)
募集内容 雑詠2句一組500円。大会当日時点で未発表 未掲載であること。何組でも可。
宛先 〒790ー0857 愛媛県松山市道後公園1ー30 松山市立子規記念博物館内「子規顕彰全国俳句大会」係
締切 平成30年6月30日(土)必着
選者 稲畑汀子、井上康明、上田日差子、村上鞆彦、木下節子
賞 各選者が特選5句と入選40句選出。
大会 日時/平成30年9月23日(日 祝)、場所/松山市立子規記念博物館 4階講堂。当日句の募集有り。
詳細問合せ 電話089-931-5566(松山市立子規記念博物館)、http://sikihaku.lesp.co.jp/


第10回 石田波郷俳句大会

主催 清瀬市石田波郷俳句大会実行委員会
募集内容 「一般の部」 2句一組1000円。「波郷 清瀬に思いを寄せる句」1句と自由題1句、または自由題2句。新作未発表句に限る。「ジュニアの部」小、中学生対象。投句料不要。1句単位で応募。
宛先 〒204ー0021 東京都清瀬市元町1ー2ー11 アミュー5F 清瀬市生涯学習センター「石田波郷俳句大会」係
締切 平成30年7月31日(火)当日消印有効。 ジュニアの部は、平成30年9月6日(木)必着
選者 「一般の部」 石寒太、奥坂まや、鈴木しげを、高橋悦男、徳田千鶴子、西村和子、能村研三。「ジュニアの部」澤晶子、谷村鯛夢、永井潮、細見逍子
表彰式 日時/平成30年10月28日(日)、場所/清瀬けやきホール
詳細問合せ 電話042-495-7001(清瀬市 石田波郷俳句大会実行委員会)


石田波郷新人賞

主催 清瀬市石田波郷俳句大会実行委員会
募集内容 30歳以下対象。投句料不要。未発表作品20句一組(表題を付ける)。宛先、締切等は「石田波郷俳句大会」に準じる。清瀬市ホームページからも応募可。
選者 岸本尚毅、甲斐由起子、齋藤朝比古、佐藤郁良
賞 新人賞5万円、準賞2万円、奨励賞(大山雅由賞)1万円
詳細問合せ 電話042-495-7001(清瀬市 石田波郷俳句大会実行委員会)


掲載は応募締切順。
選者は順不同、掲載名は敬称略。
各公募情報の詳細につきましては、主催者発表の最新情報ならびに問い合わせ先でご確認ください。


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今回のお題句に対する投句から次のお題句を選び繋げてゆく

疑似俳句対局


選者 美杉しげり


今回のお題句
雪隠の紙の白さやあたたかし  24516

 今回、皆さんが自立語として選んだのは「雪」「隠」「紙」「白」の四文字のみ。意外なようですが、よく考えたら確かにこれくらいしか使えそうにないですねえ……。 


候補句

美濃和紙の里に花見の外国人  藍植生

 今月の最速投句。最近は桜の名所に外国の方の姿が目立つようになりましたよね。今どきのお花見風景をさらりと詠んでくれました。
 この句を始めとして、最も多かった「紙」を自立語に選んだ句からご紹介。

三椏の花のかほる坂和紙工房  芳香
まず和紙の葉書買い得て余花の街  柝の音
夏落暉半紙に文字の溢れをり  蓼科川奈
薬売り柳行李の紙風船  冬のおこじょ
懐の一円紙幣漁夫帰る  大槻税悦

 「和紙」「半紙」「紙風船」どこか昭和の懐かしさを連想させる「紙」たち。大槻税悦さんの一円紙幣となると「戦前」という印象ですね。

形見分けの中に赤紙昭和の日  ぐずみ
咲く花の散るも散らぬも紙一重  二宮鬼北
裏表紙閉じてため息青簾  中山月波
紙吹雪浴び初夏の高速船  笑松
新聞紙まとめて捨てる春休  花 節湖
メーデーや色の変わらぬリトマス紙  洒落神戸
紙魚つぶれ預言の文字に箔を押す  ちゃうりん

 こちら多彩な「紙」の表情。形見の中の「赤紙」にはドキリとさせられますし、「リトマス紙」「紙魚」という変化球も楽しい。

紙ヒコーキのエンジンは春の虹  天野姫城

 好きですねえ、こういう発想。春の虹がエンジンなら、いつの間にかどこか遠く見えないところまで飛んでいきそうです。あ、でも虹が消えたら墜落してしまう?

春更くや風は白紙の委任状  ひでやん

 「自立語を二ついただいたらアウトでしたっけ?」というお便りもいただきましたが、問題ありません。ひでやんさんのこの句は「白」と「紙」ですね。

 続いて「白」。これからの季節にふさわしい色かもしれません。

蒲公英の花の白きやおくふかし  ねもじ
忙しく旋回す初燕の腹白し  青柘榴
よれよれの白衣桜の診療所  あいむ李景

 白たんぽぽや燕の腹、よれよれの白衣。ふっと見かけた何気ない景がこうして一句になるかと思えば……

白昼夢ジグザグに這ふ羽抜鶏  桂奈
てがかりは白い車と風信子  誉茂子
白魚のごと指を食み月の春  柊 月子

 こちら、非日常の世界。どこか不気味だったりミステリアスだったり官能的だったり。

 意外に少数派だったのは「雪」。お題句の季語は「あたたかし」ですから、雪を季語として使っても大丈夫ではあるのですが、やはり使いづらかったのでしょうか。

送別の宴もたけなわ花吹雪  すみ
窓外に降る春の雪日曜日  とよす
猫の尾の機嫌うるはし雪柳  凡鑽

 凡鑽さんの句、猫好きには「分かる、分かる!」といったところですね

 そして「隠」。個性的な句が並びます。

貝殻へ隠れてみても夜光虫  すりいぴい
隠れ家は今なほ里に大夕焼  夏柿
この憂きを涙を隠せ春日傘  野良古
あひびきや祭の笛の葉隠れに  久我恒子
文身の見え隠れして麦の秋  薄荷光

 「隠れる」句たち。「あひびき」「文身」といった言葉が「隠」という文字と響きあいますね。

床の間の白隠禅師黴の華  星埜黴円

 星埜黴円さんは自立語として「白」「隠」の二字を選択。「床の間の白隠禅師」は古い掛け軸でしょうね。もう見慣れてしまって、誰も手入れしてなさそう。

隠國の襞を狐の提灯は  小川めぐる

 「隠國」は万葉集に登場する枕詞でしょうか。「國」の表記含め「狐の提灯」の世界へすんなり入ってゆけそうです。「を」の使い方もいいなと思います。

鉄紺の戸隠山へ夏来る  24516

 地名が効いた一句。「鉄紺」がいいですね。きりっと引き締まった印象で、初夏のすがすがしさが感じられ、そこに惹かれました。


次回お題句
嘘の数かぞえて嗤う白木蓮  斎乃雪
 「笑う」ではなくて「嗤う」ですから、その嘘は無邪気なものではなさそうに思います。嘘をついた本人が数えているのか、はたまた(あの人のついた嘘は、一つ、二つ、三つ……)と他の誰かが数えているのか。白木蓮の清らかな色が、かえって「嗤う」の暗さを際立たせているようで、強く印象に残りました。
 というわけで、次回のお題句は斎乃雪さんのこの句です。投句、お待ちしてます!


美杉しげり
 第8回俳句界賞受賞。数年前から小説も書き始め、短編「瑠璃」で第21回やまなし文学賞佳作。美杉しげりはその時からのペンネーム。

毎月25日頃に、投句フォームにてお題句を発表します。投句締切は毎月末日。

疑似俳句対局投句フォームアドレス
http://marukobo.com/taikyoku/


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THE BEATLES 213 PROJECT


第8回「ラスト! ザ ビートルズ 」

文 夜市


 発表の年次においてはビートルズのラストアルバムとなった「レット イット ビー」。同名の映画公開と時を同じくして1970年5月に発売されました。バンドの原点に立ち返りシンプルな音作りを目指した彼らでしたが、紆余曲折を経て正反対ともいえるアルバムとなっていきました。   


トゥ オブ アス

二人だし帰り道だしもうはだし  猫正宗

 アコースティックギターをかき鳴らし軽快に弾き語るポール。ジョンではなく、のちに妻となるリンダとのことを唄っているのだそうです。

ハモれない二人は花野へと逃げた    ロックアイス

 危うささえも感じさせる付かず離れずのハーモニー。この時期のポールとジョンを象徴しているかのような。

春時雨ベースみたいに弾くギター    ツバメ号

 アコギを弾くポールに代わって、ジョージがエレキギターをベース風に演奏しています。


ディグ ア ポニー

跳ね仔馬からくり毀れたるごとく  萬穂

 ごつごつとしたイントロのリズム。強引にねじ込んだ感が濃厚に漂う歌詞。もしかしたらこの跳ね仔馬を生み出したのはジョンのヨーコに対する盲愛なのかもしれませんね。

若夏や揃はぬものにインデント    久我恒子
 すれ違いはじめた気持ちにインデントを嵌めようとしても虚しい。すでに音楽の中でしか語り合うことのできない4人になってしまっていたのでしょうか。

ブルースか終わりの予感四月尽  越境島


アクロス ザ ユニバース

コスモスは醒めず一万年の夢  ツバメ号

 壮大かつ象徴的な歌詞の世界。コスモスは秋桜であり大宇宙でもあるのでしょう。後期のジョンを代表する名曲のひとつです。

犯されぬ心に一つ蓮の花  斎乃雪
 リフレインの「Nothing's gonna change my world」。ジョンの心の叫びでしょう。この時期のジョンとポールは、お互いに歌詞に込めた気持ちをぶつけあっているように思えてなりません。

Jai Guru Deva OM蒲公英の絮に意志    きさらぎ恋衣

 同じくリフレインの「Jai guru deva om」。マントラの一節で「神に勝利あれ」といった意味があるのだそうです。

マントラの超空洞や今朝の夏  笹垣呆大


ディグ イット

楽しめと言えば言うほど四月馬鹿    時計子

 映画のジャムセッションのシーンで一番メンバーのノリがよさそうなのがジョンが唄うこの曲。やはりビートルズのリーダーは最後までジョンだったのかもしれません。結果的に大作レット イット ビーへのブリッジとして断片が使用されることとなりました。

こっそりとのぞく天使雲の峰  明 惟久里


レット イット ビー

Let It Beとは寂しきことば春の雨  萬穂

 「Let It Be」とは、どのように解釈すべき言葉なんでしょうか。いずれにしても寂しき言葉であるというこの句には、胸を衝かれる思いがしました。
 イエスタデイとならぶ最大の人気曲、有名曲でありながらその受け止め方は人によって千差万別。それぞれの句に込められた「Let It Be」を心しつつ読ませていただきました。

神の名の母よ緑雨に答えなど    ロックアイス
春の果森羅万象のさりかな  照造
春雷や剣仏悉皆在るがまま  風来松
大河へと海へと薔薇の芽濡らす雨    猫正宗
漂うと決めて水母は漂えり  時計子
春眠しほっといてんか儂のこと    れんげ畑
卒業や抱く答のそれぞれに  すみ
フィルが来る青麦畑で歌わせて  井玉


第9回 兼題曲
「マジカル ミステリー ツアー」より

同名の映画のサウンドトラックであるA面の6曲を特集します。

マジカル ミステリー ツアー
フール オン ザ ヒル
フライング
ブルー ジェイ ウェイ
ユア マザー シュッド ノウ
アイ アム ザ ウォルラス

 兼題曲を詠んだ俳句をお送り下さい。

専用フォーム http://marukobo.com/beatles/
専用Email beatles@marukobo.com
締め切り 5月20日


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鑑(み)るという冒険


映画篇 演劇篇

文&俳句 猫正宗


第六十七回
 『シェイプ オブ ウォーター』&『砦』

 『シェイプ オブ ウォーター』は、2018年米アカデミー賞13部門ノミネート、4部門受賞の作品にもかかわらず、愛媛では、ひそやかに始まり、いつの間にか終わってしまったような印象。去年13部門ノミネート、6部門受賞だった『ラ ラ ランド』と比べると随分とさみしい。『ラ ラ ランド』が逃した作品賞も受賞していたというのに。R‐15というレートの影響もあったのだろう。でも、多分、一番の理由は本作が「怪獣映画」だったから。いわゆる映画ファンのほとんどは、いい映画や名作映画のファンだもの。だけど、本作の監督ギレルモ デル トロは、ジャンク映画の中にも埋もれている美しいものも見いだせる人であり、その立ち位置は怪獣の側にある人だ。この場合の怪獣の側というのは、虐げられたもの、排斥されたものの側ということ。本作も、子どものころ観た『大アマゾンの半魚人』を、平和に暮らしていた半魚人(ギルマン)のもとに文明人が侵略しに来る話ととらえ、半魚人とヒロインが結ばれる話をつくりたいというところから始まっている。本作は、王子様とお姫様の話ではない。そんな物語に対する異議申し立てでもある。それでも本作は基本的におとぎ話だ。筋の運びの都合のよさや、全体の雰囲気など随分と甘い。こう思う人もいるだろう。現実はこんなに甘くないと。現実はあまりにも容赦なく、いつだって僕たちを裏切っていく。それでも、いやだからこそ、おとぎ話でなければならなかったのだろう。圧倒的な現実を前に、絶望の闇に飲まれそうなときの、遥か彼方の標となるべき星。それは希望や願いではなく幻想にすぎないかもしれない。それでもときにそれを必要とする人がいる。いつの時代にもおとぎ話がなくならないのは、きっとそのためなのだろう。

水の容(かたち)心の貌(かたち)金木犀

 映画は、半魚人と人間の恋愛もの(ラブストーリー)だが、本当に二人の心が通じていたかは、実はわからない(ヒント、猫)。一方、演劇も、善悪の価値判断をしない作品であった。
 『砦』(トムプロジェクト公演、出演:村井國夫、藤田弓子、他、'18年4月2日、今治市公会堂)は、松原ダム建設を巡って起きたダム反対運動、蜂の巣城紛争を取材した『砦に拠る』(松下竜一)を原作とする。ハリウッド映画にある、巨大な権力の理不尽に個人で立ち向かう実話に基づいた話の様に、カタルシスに昇華させる物語として描くこともできたろう。しかし、本作はその道をとらない。主人公は、信念を貫いて戦い続けた男にも、目的を見失い戦いのための戦いに耽溺してしまった男にもとれる。また、観客を容易に気持ち良くさせず、その寸前で踏みとどまる。そのため観客は物語に乗っかったままではいられない。だから、常に問いかけられることになる。「お前はどうなのだ」「どう思う、どう考える」と。作 演出は新進気鋭の劇作家 演出家、劇団桟敷童子の東憲司。緊張感のある舞台であった。

蜂の巣や幾度と払い落とせども


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岡田一実の

句集の本棚



波音
山田佳乃 著

発行 ふらんす堂(2018年初版)
178ページ
定価 本体2,700円+税

 著者の第二句集。平明な表現によりポエティックな把握が柔らかく伝わってくる。
神々の高さに鷹の光りをり
海光を散らしてゆきぬ寒雀
人の輪の外にをりけり卒業子
 「卒業子」以外は「人の輪」を作っている。なにか世間話でもしているのだろうか。そこから外れている「卒業子」に自立心の清らかさを感じる。
琴坂のまくなぎつれて向う岸
喝采のやうに波打つ夏の蝶
桜蘂降りて芝居はいまひとつ
蜘蛛の囲の縫ひとめてゐる草の先
雲の峰火花の動く造船所
鳥威なれど遊んでゐるやうな
ちりぢりにゐてそれぞれの梅の香に
春風や首で争ふフラミンゴ
雷鳴の失せればふつとつまらなく
 「雷鳴」には華やぎがある。こちらに雷が落ちれば死をもたらすかもしれないのに、どこかわくわくしてしまう。危険が遠のくというのはもしかしたら「つまらない」ことなのかもしれない。
浴びて来し花を零せる桟敷席
紫の脈走らせて袋角
水鳥の嘴より湖のひと雫
 「円虹」主宰。


夢のつづき
佐野いつ子 著

発行 角川文化振興財団(2017年初版)
189ページ
定価 本体2,700円+税

 著者の第一句集。風土の空気を取り入れながら骨太で確かな描写が光る。
夏霧の襞なしてくる峠茶屋
優曇華やバンパー低き捨て車
紅梅や薬師の笥こまごまと
 小さい抽斗の沢山ある笥を想像する。そのかすかな薬の匂いと紅梅の香り。古びた茶色い笥に紅梅の色が美しく映える。
鳩と為る鷹へ大渦ほどく海
木漏れ日の縞目かたくり咲く斜面
畦遠くなれば耕人歌いだす
今落ちし椿を供華に畜魂碑
ははきぎの茎よりもみじ始まれり
荒草の先ず立ち上がる野分晴
のぼり来る瀬音風音冬ざくら
干し竿に吊るフラフープ春の風
滝落ちて滝の高さの水煙
浜砂のよく飛ぶ日なり新松子
異人館きょう冬雲のよく走り
 「異人館」に行き交う人々。「きょう」という現場感とそこに走る「冬雲」の生き生きとした姿は時空を超えた躍動感がある。
地へ伸びて地より太り来軒氷柱
黒潮に乗り亀の子も海人も
 「ひまわり」同人。


岡田一実(おかだ かずみ)
 2014年「浮力」にて現代俳句新人賞受賞。現代俳句協会会員。「いつき組」所属。「らん」同人。第二句集『境界 border』(マルコボ.コム)。2018年新句集上梓予定。


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新聞記事に隠された俳句を発掘する

クロヌリハイク


黒田マキ


雪 の中 アサヒ ビールを アピールす (2018年4月4日 デイリースポーツより)

がん検診 息を飲むほどの 春 の夜 (2018年3月31日 日本経済新聞より)

さすらい の 最後 の 9句 に 西 日 さ す (2018年4月4日 愛媛新聞より)

雪の中 温泉 つかる モンキー」と (2018年4月4日 朝日新聞より)


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100年俳句計画 掲示板



テレビ ラジオ

NHK 総合テレビ(四国四県域)
「四国 おひるのクローバー」内 隔週火曜『夏井いつきのムービー俳句!』
5月8日(火)、22日(火) 11時30分〜

TBS系列局 全国ネット
『プレバト!!』
毎週木曜 19時〜19時56分
 夏井いつきが俳句の査定を担当

南海放送
 松山市政広報番組『大好き!まつやま しあわせ実り庵』
毎週火曜 20時54分〜21時(再放送 日曜11時40分〜11時45分)
 夏井いつきがナビゲーターとして出演

南海放送ラジオ
『夏井いつきの一句一遊』
毎週月〜金曜 10時〜10時10分
 投句募集の詳細は「公募俳句計画」のコーナーを参照。

FMラヂオバリバリ
『俳句チャンネル』
毎週月曜 17時15分〜17時30分(再放送 火曜7時15分〜7時30分)
投句募集兼題
 蜜柑の花、夏の星 5月13日締切
 六月、老鶯 5月27日締切
WEB http://www.baribari789.com/
mail radio@baribari789.com
FAX 0898(33)0789
 投句には本名、住所をお忘れなく!
 「天」の句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。

 各番組の放送予定は変更される場合がございます。新聞などで最新情報をご確認ください。


執筆

松山市の俳句サイト『俳句ポスト365』
http://haikutown.jp/post/
 投句募集の詳細は「公募俳句計画」のページを参照。

テレビ大阪俳句クラブ
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
「集まれ俳句キッズ」(夏井いつき選)
 毎週日曜タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井いつき選)
投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。
裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。
朝日新聞松山総局(〒790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。


イベント、講演等

JA厚生連健康まつり2018 夏井いつき講演会「俳句で健康生活」
5月13日(日)10時30分〜11時30分
愛媛県厚生連健診センター(愛媛県)
問合先 愛媛県厚生連健診センター 電話 089(970)2070

第26回四万十川俳句全国大会
5月19日(土) 13時30分〜16時45分
新ロイヤルホテル四万十(高知県)
 夏井いつきが選者を務めます。
 当日投句あり。
問合先 幡多信用金庫 俳句係 電話 0880(34)2121

夏井いつき句会ライブin高知 100年俳句計画 俳句を知れば世界が変わる
5月20日(日)14時〜16時
高知県立県民文化ホール(高知県)
問合先 高知県立県民文化ホール 電話 088(866)7563

南海放送ラジフェス2018「Fnanトレイン 俳句でGO!」
5月20日(金)10時5分〜12時
伊予鉄市内電車(臨時運行)(愛媛県)
プレゼンター 家藤正人
申込 南海放送WEBサイトから応募。抽選で20名招待。
南海放送WEBサイト http://www.rnb.co.jp/

帝塚山学院大学同窓会紫苑会 夏井いつき句会ライブ
5月23日(水)11時〜
ホテル アゴーラリージェンシー堺(大阪府)


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魚のアブク



出楽久眞 四月から新たな環境での仕事となります。今年のテーマは「行」。行くしかない、やるしかない。

次郎の飼い主 3月号の『JAZZ俳句ターンテーブル』に二次元で最愛の承太郎の名前を見付けて小躍りしたのがこのアカウント、いや、俳号です。メルシーボークー、曲紹介恐縮のいたり……(笑)。

うに子 椿小のフォト俳句取り組み特集拝読。共感力を育むのに俳句はうってつけですね

河原撫子 俳句は出来ませんが詰め俳句は友人と考えて楽しんでいます。

ひでやん 山澤さんお疲れ様でした。マイマイさん復活ですね。よろしくお願いします。

喜多輝女 今年の春はホントにもう……暖かと言うより暑かったり急に冬に戻ったり、桜もビックリして咲き急いだり……皆様も体調管理お気を付け下さいまし!!

柊つばき 孫が京都の和食の店に行ってまだ一ヶ月半。毎日ラインを打ってます。時にはうっとうしいぐらい長い文で!! 既読がつけば、あっ生きてる(おおげさ)と思う毎日。返事は「ほーい」それだけでもいいんです。


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鮎の友釣り


第238回

俳号 テツコ

前回、洒落神戸さんへ 今年のまる裏俳句甲子園の時に初めてお会いしましたが、一目で「あ! この人が洒落神戸さんだ!」と分かるくらい存在感のある方でした。大きな背中に絶対の安定感を感じました! いつも奥さんと一緒のところも素敵だなと思います。

写真 職場での一枚です。農業を生業にしております。ベビーリーフなどのサラダ野菜を中心に栽培しています。

近況 2月の大雪でハウスが13棟倒壊いたしました。途方に暮れている中、130名を超えるいつき組の皆さんから、さまざまなご支援をいただきました。またこの苦境こそ俳句にしなくては!と思い、拙い俳句ですが没頭することで日々の辛さが緩和されました。本当に俳句に救われたと思います。現在は行政の支援も決まり再建にむけて歩み出したところです。

次回、天野姫城さんへ まる裏俳句甲子園では、知らないうちに姫城さんの天の川銀河句会チームに入れていただきました。豪雪の被害でもいち早くツイッターで支援を呼びかけてくれました。とても頼りになる姉御肌の姫城さん、これからもついていきます!


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本誌1月号掲載の代表句を今年も子供たちが書きました!

こどもたちの作品展


3月21日−26日 いよてつ島屋
主催 小倉書道教室


 作品展初日、会場にちょうどミセスコナンさんがいらっしゃっていて、声をかけていただきました。
 ミセスコナンさんの句は、なぜか毎年人気で、去年、そして一昨年と2年続けて書いた朋果ちゃんと、今年書いたひなのちゃんと3人で写真を撮らせてもらいました。思いがけないことで、こどもたちもびっくりしていました。
 今年も大変良い作品展になりました。
 毎年作品展にご協力頂き、本当に感謝しています。ありがとうございます。

小倉揮代


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NPO法人みんなダイスキ松山冒険遊び場主催

100年俳句ライブ in プレーパーク


レポート キム チャンヒ


 プレーパークってどんなところだろう? 案内の写真を見る限り、手作りのブランコや木の上に基地があったり、ほとんど子供たちの楽園のよう。こんなに楽しく遊びながら、果たして俳句が作れるの? そんな不安も少し抱きつつ、3月25日、「100年俳句ライブ in プレーパーク」の当日を迎えました。
 桜の咲きだした気持ちのいいお昼、集合場所の松山市考古館前に集まったのは6組の参加者。皆さんあまり俳句は得意ではない様子で、普通の俳句の講座なら、ここで俳句の作り方を教えるところ。だけど今回は、1時間めいっぱい遊んで、まずは「この遊びなら俳句にしたいっ」と思える体験をしてもらうことにしました。
 集合場所からプレーパークまでは、歩いて10分程度。急な山道で、大人の体には結構きつい。そしてようやくたどり着いた場所は、まさしくプレーパーク。写真で見るよりも奥行きがあり、手作りの様々な遊具を見るだけで心が躍ります。
 さっそく子供たちは、気の向くままに冒険開始。ターザンロープで木と木の間を渡ったり、弓矢でイノシシの的を狙ったり、のこぎりで工作したり。個人的に心引かれたのが、ハンモック。寝っ転がって空を見上げたら、どんなに気持ちがいいだろうと思いつつ、子供に交じって寝転ぶ勇気が無く、羨ましげに見ているだけでした。そして、あっという間に遊び時間が終了。
 季語付の俳句手帳をそれぞれに渡し、心に残った遊びをメモしながら考古館の句会場へ。プレーパークで遊んでいた別の子供たちも急遽参加し、13名の句会となりました。
 簡単な俳句の作り方を説明したあと、参加者には今日一番心に残った出来事で一句作って貰いました。そして句合わせ形式で作った全ての俳句の発表。どの句のどういうところが好きか、参加者の意見を聞きながら人気投票をし、1位と2位の俳句を決めました。上位2句には、その場で大きな俳画を描いてプレゼントしました。

1位
春の山ねむけをさそうハンモック  ミッキー
2位
春の風ターザンロープけりだして  かほ

 実のところ全13句、どの句が上位に入ってもおかしくない、力作揃いの句会となりました。
 今回の句会を通して、子供たちが全身でワクワクする体験こそが、俳句を生む一番の材料なのだと、改めて実感しました。真剣に遊べば遊ぶほど、沢山俳句が出来上がる。子供たちの体と心が喜ぶ、プレーパークの素晴らしさに感銘した一日でした。

NPO法人みんなダイスキ松山冒険遊び場
アドレス http://asobiba-matuyama.org/
松山総合公園プレーパークの開催日は、ホームページにてご確認ください。
参加費は、大人100円、子ども300円 です。(各種企画は別途)


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告知



春夏秋冬(しき)笑顔
まつやま福祉
五七五

主催 松山市社会福祉協議会
   有限会社マルコボ.コム(ふくし句会 ハイクライフマガジン『100年俳句計画』)選句


福祉をテーマにした
春の五七五募集

年4回、福祉をテーマにした五七五を募集します。
人に優しくなれるような、575をお待ちしています。

第1回締切 2018年5月6日

2017年度 春の五七五 会長賞
花屑を拭きて畳みし車椅子  ヤッチー


応募方法
インターネットの応募フォームにて応募してください。
専用フオーム http://www.marukobo.com/egao/

賞品「松山トリコ」
 大賞(松山市社協会長賞) 道後温泉湯玉トートバッグ(1点)
 優秀賞 ブックカバー(3点)
 入賞 紙の湯カードケース(4点)

発表 ハイクライフマガジン「100年俳句計画」6月号ほか

問い合わせ TEL 089-921-2111





誰もが無料で参加できるインターネット句会
象さん句会

「百年百花」や「100年の旗手」など、本誌に作品集を連載される「俳句を増産したい方」も交え、毎週5句出しで4週間行う「本気モード全開」の句会です。もちろん一般参加も可能です。

次回は5月10日(木)一般募集開始!
詳しくはブログ「マルコボ通信」まで
http://info.marukobo.com/


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編集後記


キム チャンヒ

 蛇頭さんのJAZZ俳句の連載が始まったのは、2006年7月号。当初は蛇頭さんが一人で俳句を詠んでいた。僕とカメラマンの大頭くんとは、ひたすらカッコイイページに仕上げるべく、蛇頭さんのおしゃれなオーディオルーム「味人(あじと)」に取材に行っていた。その頃まだ俳句初心者だった蛇頭さん。「ジャズについては何でも語れるのだけれど、俳句を作るのが難しい」と口癖のように言っていた。それならば、他の人にもジャズで俳句を詠んで貰い紹介すればいいと提案。「味人」には、素晴らしいオーディオとレコードだけでなく、上等な日本酒が沢山並んであり、「我々は絶対ここで句会をやるべきだ」と主張し、JAZZ句会が始まった。
 「ジャズで詠んだ俳句なんて邪道」という空気をものともせず、延々と回を重ね気が付けば12年。マミコンさんをはじめとしたミュージシャンや熊本の加藤いろはさんなど県外の俳人達も投句してくださる句会へと成長した。
 俳句に限らず、何事も上達の一番の近道は、どれだけ楽しく続けるかということ。その一つの例が、JAZZ句会だと思う。


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次号予告


247号 6月1日発行予定

雅に詠もう! 甦る中世の連歌 講座編



お得で便利なマルコボ.コム直販定期購読! 巻末の案内をご覧ください
お申し込みの方へ、毎月末頃に最新号を送料無料でお届けいたします!
(住所変更の際は必ず編集室までご連絡ください)

『HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画』は以下の書店でもお買い求め頂けます。

愛媛県
 明屋書店 ※一部店舗のみ
 ゆらり内海(愛南町)
 原田書房(今治市)
 子規記念博物館(松山市)
 紀伊國屋書店松山店
 ジュンク堂書店松山店


HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画
2018年5月号(No.246)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子

2018年5月1日発行