100年俳句計画 2018年3月号(No.244)


100年俳句計画 2018年3月号(No.244)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。






目次


巻頭リレーエッセイ
一走人


特集1
俳句と写真で表現しよう!
フォト俳句の取り組みについて


特集2
第16回 高校生以外のための まる裏俳句甲子園



好評連載


作品

百年百花
 三島ちとせ/松本だりあ/キム チャンヒ/神楽坂リンダ

新 100年の旗手
 めならべ/矢野リンド

新 100年への軌跡
 俳句 松本千鶴/鈴木総史
 評  都築まとむ/樫の木


読み物

美術館吟行/天玲

Mountain Cabin Dispatch/ナサニエル ローゼン(翻訳 朗善)

JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭

ラクゴキゴ。/らくさぶろう

mhm通信/日暮屋又郎

近代俳句史超入門/青木亮人

百年歳時記/夏井いつき

鑑(み)るという冒険/猫正宗

句集の本棚/岡田一実

クロヌリハイク/黒田マキ


読者のページ

100年投句計画
 選者三名による雑詠俳句計画/桜井教人、阪西敦子、関悦史
 自由律俳句計画/きむらけんじ
 詰め俳句計画/山澤香奈
 100年投句計画 投句方法

短歌の窓/渡部光一郎

百人百様E-Haiku/菅紀子

俳句ポスト365

一句一遊情報局

疑似俳句対局/美杉しげり

THE BEATLES 213 PROJECT/夜市

100年俳句計画 掲示板

鮎の友釣り



告知

編集後記

次号予告





巻頭リレーエッセイ



俳句との出会い
一走人 


秋の雨母校スタート坂の上

 イベント中継のラジオからの第一声でした。健康ウォークに参加した時、私が初めて作った俳句です。声の主は、以前新聞に新しい形の俳人だと紹介されていた記事をみて気になっていた「夏井いつき」その人でした。
 足のリハビリの為にウォーキングから始めようとイベントに申し込んだのです。
 それを契機にラジオ番組「一句一遊」に投句を初め、毎週欠かすことなく十七年になっています。その後、四世代十二名で俳句のある生活を楽しむようになりました。
 自然の中に身を置くのが元来好きなのですが、俳句を初めてからは豊かな自然との対話ができる様になった気がします。これからも組長に「いいね!」と言って頂ける俳句を作って行けたらいいなと思っています。
 草心さんの風に吹かれながら、走りながら。

風光る野辺の仏に手をあわせ


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俳句と写真で表現しよう!

フォト俳句の取り組みについて


レポート
松山市立椿小学校教諭 石田年保


 松山市立椿小学校では、子どもたちの感性や表現力を育み、共感性を高める取組の一つとして、フォト俳句の創作、鑑賞を行いました。フォト俳句とは、俳句と写真を組み合わせて作った作品です。このフォト俳句の創作、鑑賞活動の取組について紹介します。

1 研究の背景と目的

 俳句は、季節の風物と人との交感を十七音で表現する世界で最も短い定型詩です。俳句には創作(詠み)と鑑賞(読み)という2つの楽しみ方があり、日本のみならず世界中の多くの人々に親しまれています。松山市は正岡子規を輩出した俳都として有名です。本校校区には、『きゅうべえ通り』という通りに沿って、季節ごとに児童や地域の方々が創作した俳句が掲示されるなど、地域に根ざした俳句文化があります。
 そこで、児童の感性や表現力を育み、共感性を高めるために、地域の俳句文化を生かしたフォト俳句の創作、鑑賞を行いました。そして、これらの活動に全校児童、保護者や地域の方々が関わっていくことで、学校と地域との絆を深める一助としようと考えました。

2 フォト俳句の活動の特色

 本活動は、以下の3つの特色があります。
 一つ目は、地域の人材の活用です。本校校区には俳句文化が根ざしており、優れた俳人がいます。俳句の作り方のコツを教えてもらうことにより、俳句を作る楽しさを感得させます。
 二つ目は、写真の活用です。俳句は、文字数が著しく制限されているために省略や飛躍が多く、意味の隙間を読み手自身が埋める必要があり、個人のもつ知識や体験の量や深さが求められます。そのため、年齢が低くなるほど俳句の創作と鑑賞を楽しむことが難しくなってきます。そこで、個人の知識や体験の量を補完するために、写真の活用を考えました。また、写真が挿絵的に言葉の補完をするだけではなく、言葉と写真が相互に響きあう絵本的な関係性を生み、新たな俳句の詠みや読みの可能性を広げることができるのではないかと考えました。
 三つ目は、6年生と3年生による共同制作です。6年生が国語科の俳句の単元で、俳句の創作を担当します。そして、3年生が図画工作科の写真で表現する単元で、6年生が作った俳句に合う写真を撮影して、俳句と組み合わせます。  

3 活動の実際

(1)6年生の俳句の創作
 9月26日(火)に、地域の俳人キム チャンヒさんを講師として招き、6年生(143名)を対象とした俳句教室を開催しました。4つのステップで簡単に俳句が作ることができるキムさんのワークシートを活用しました。まず、自分の気持ちを選択します。次に、12音でその時の様子や場面を表現します。最後に、自分の気持ちにぴったり合う季語を選択します。キムさんの軽快でテンポの良い指導のおかげで、なんと5分間で6年生全員が素敵な俳句を創作することができたのです。次に、クラスごとに「自分たちのクラスらしい」学級代表の俳句を1点選びます。最後に、学級代表の5つの作品を6年生みんなで鑑賞しました。

(2)3年生の写真の撮影
 3年生(150名)は、6年生の5つの代表作品から自分の好きな作品を選びます。好きな作品ごとに3〜4人のグループを作り、俳句に合う写真を撮影します。3年生はどんな写真を撮影したらよいか相談し、試行錯誤しながら撮影をしました。撮影した写真に6年生の俳句を組み合わせて、フォト俳句の完成です。

(3)フォト俳句代表作品の決定
 各クラスで完成したフォト俳句の作品から、6年生の5つの作品に対して学級代表作品を1作品ずつ決めます。そうして選ばれた25作品(5作品×5学級)を今度は、1、2、4、5、6年の各クラスで人気投票をします。このようにして選ばれたのが、次の5つの作品です(本テキスト版では作品省略)。

(4)全校児童と保護者、地域の方々と行うフォト俳句鑑賞会
 人気投票により選ばれた5つの作品の鑑賞会を、全校児童と保護者、地域の方々も交えて行いました。キムさんにコーディネーターを、地域の俳句団体の代表2名にコメンテーターをお願いしました。俳句と写真が組み合わさっているため、写真からの情報を中心に読み取りながら、1年生でもフォト俳句の作品の良さを語ることができました。また、高学年になっていくと、写真と言葉の関係のよさについて考え評価することができていました。最後に、この鑑賞会に参加しているみんなで、一番椿小学校らしい作品を拍手の大きさで決定しました。

4 活動の成果
 鑑賞活動後に、全校児童を対象にしたアンケートを行いました。1〜6年生の約90%がフォト俳句鑑賞会が楽しかったと感じていました。創作に関わっていない1、2、4、5年生の約90%が、作品のいいところを見つけることができたと感じていました。また、3、6年生の約80%が前よりも俳句を作ることが好きになったと感じていました。そして、3、6年生の85%が、前よりも作品に込められた思いを想像したり、作品から想像を膨らませたりするようになったと考えていることが分かりました。これらの結果から、フォト俳句の創作、鑑賞の活動を通して、本校児童は表現することや共感的に作品を読み取ることの楽しさを感得することができたと思います。今後も、フォト俳句等の地域の俳句文化を生かす教育活動を教育課程に関連付けて展開していきたいと思います。


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第16回 高校生以外のための まる裏俳句甲子園



 去る1月7日(成人の日の前日)、まつやま俳句でまちづくりの会主催による子規・漱石生誕150年記念「第16回高校生以外のためのまる裏俳句甲子園」(以下、まる裏俳句甲子園)が、松山市立子規記念博物館にて開催されました。
 まる裏俳句甲子園は、高校生の俳句甲子園を応援する目的で開催しており、俳句甲子園には出られない大人や子どもも参加できる大会です。俳句甲子園と異なり、1チーム3名で参加できます。
 今回は45チームがエントリーし本選出場に向け予選に挑みました。予選では、席題「初」の句を制限時間5分で全員が作り投句。その全ての句に3名の審査員がそれぞれ点数を付け、チームでの合計点が高い8チームが本戦に勝ち抜けました。
 予選の審査をしたのは、夏井いつきさん(俳句集団「いつき組」組長、「藍生」会員)、五十嵐秀彦さん(俳句集団「itak」代表、「藍生」会員、「雪華」同人)、平岡千代子さん(「百鳥」同人、俳人協会会員)の3名。本戦には、らくさぶろうさん(俳人、タレント)、昨年の優勝チーム「ダイオウイカ」より家藤正人さんを加え、計5名で行われました。
 本特集では、まつやま俳句でまちづくりの会所属のあねごさんによるレポートで、本戦の全試合結果をお届けします。


本戦の結果

 予選の結果、俳人戦士タサクタシャー、朝食二人、三種盛、三日月T、天空の皿、さえずロッカー、両手に花!、火星林の8チームが、午後の本戦に挑んだ。

本戦審査員(敬称略)
夏井いつき(俳句集団「いつき組」組長、「藍生」会員)
五十嵐秀彦(俳句集団「itak」代表、「藍生」会員、「雪華」同人)
平岡千代子(「百鳥」同人、俳人協会会員)
らくさぶろう(俳人、タレント)
家藤正人(昨年度優勝チーム「ダイオウイカ」)

 紅白の下の数字は、審査員の旗の数を、かっこ内は審査員の名前を記す。


第一回戦 第一試合
 席題 七草

紅 俳人戦士タサクタシャー
(碧海、風見奨真、もちか)
白 朝食二人
(ひつじはねた、歩、脇々)

先鋒戦
×紅 七種の夜を雨垂れのくりかへす
○白 七草や火は投げながら足されゆく
 紅1(平岡)
 白4(夏井、五十嵐、らくさぶろう、家藤)

中堅戦
○紅 風となる子より七草粥もらふ
×白 七草や副都心にも人の群れ
 紅4(夏井、五十嵐、らくさぶろう、家藤)
 白1(平岡)

大将戦
○紅 七草や別れは写真撮るを以て
×白 七草や灰梅色の雪こごる
 紅3(五十嵐、平岡、らくさぶろう)
 白2(夏井、家藤)

 両チームとも俳句甲子園経験者を含む若者対決となった。紅チームは現役高校生が二名いてしかも三人ともが俳句甲子園経験者というだけにまんべんに手が上がりしかも饒舌。行司の采配も見事。白チーム脇々君には何度か俳句の辛口先生が降臨し鋭いディベートを繰り広げ大将戦にもつれ込んだが惜敗。当の辛口先生より大将戦の句を絶賛され満面の笑顔でステージを降りた。


第一回戦 第二試合
 席題 七草

紅 三種盛
(笑松、日暮屋又郎、マーペー )
白 三日月T
(西連寺ラグナ、桜井教人、亜桜みかり)

先鋒戦
×紅 七草やきれいに揃うミシンの目
○白 七草やうちぬき水の陽の匂い
 紅2(平岡、家藤)
 白3(夏井、五十嵐、らくさぶろう)

中堅戦
×紅 七草や美しき言葉の国に生く
○白 七草は大鍋新設の厩舎
 紅0
 白5(全員)

大将戦
○紅 七草や応召の日の祖父の手記
×白 七草祝ふ子の口癖は「要は」
 紅3(夏井、らくさぶろう、家藤)
 白2(五十嵐、平岡)
 俳句のみの参考評価

 第一試合と打って変わってグッと大人の戦い、と言えば聞こえはいいが、同じ二分間でありながら審査員いわく、なんとまあぬるぬると感じる時間であったことか。飄々とした質問、飄々とした答えに客席から何度も笑いが起こる。対戦は早々と三日月Tが二勝し準決勝進出を決める。そこのところは容赦ない。さすが結成10周年のチーム。もしやこの飄々は両チームともに作戦だったのかもしれない。


第一回戦 第三試合
 席題 七草

紅 天空の皿
(穂積天玲、小野更紗、越智空子)
白 さえずロッカー
(ふじばかま、清人、睦)

先鋒戦
○紅 七草や平和の旗のじんと鳴る
×白 浅草や英語方言七草も
 紅5(全員)
 白0

中堅戦
○紅 独りごつ如く七草粥嚥下
×白 七草や鬼平犯科帳は目次
 紅4(夏井、平岡、らくさぶろう、家藤)
 白1(五十嵐)

大将戦
×紅 七草や海辺に近き天主堂
○白 七草をもらうギラギラと赤ちん
 紅0
 白5(全員)
 *俳句のみの参考評価

 さえずロッカーは、緊張のせいか日頃の日土独特のイントネーションが聞かれなかった。しかしどの句にもリアリティ満載で奮闘。赤ちんの句はさえずロッカーならではの実感の一句。天空の皿は沈着冷静に勝利を受け止めニコリともせず準決勝へコマを進めた。おそるべし自称おばちゃん三人組!


第一回戦 第四試合
 席題 七草

紅 両手に花!
(朗善、鯛飯、きさらぎ恋衣)
白 火星林
(西川火尖、若林哲哉、星野いのり)

先鋒戦
×紅 鳥影のよぎれば七草の騒ぐ
○白 いもうとの粥より七草を除く
 紅2(夏井、家藤)
 白3(五十嵐、平岡、らくさぶろう)

中堅戦
○紅 七草のすべて言えぬし足りないし
×白 一人づつ七草粥の量違ふ
 紅4(夏井、五十嵐、平岡、家藤)
 白1(らくさぶろう)

大将戦
○紅 七草や市場の空の恋しかり
×白 寝床より長き躰よ七草粥
 紅3(夏井、らくさぶろう、家藤)
 白2(五十嵐、平岡)

 白チーム、季語の本意にしっかり寄り添い、聞き手を納得させるディベートを繰り広げるも、最後は両チームともに自分たちの句の読みが迷走してしまった。審査の五十嵐先生の句の解釈が素晴らしかった。昨年、先生は選手として参加するつもりでいたわけで、こんな解釈やディベートをされたらかなわない。同時に審査員の選評も教育的配慮がいらない大人には容赦ない。
 結局、鯛飯さんの両手の花に尻を叩かれながらの奮闘もあり、紅チームに軍配が上がった。白チーム 火星林の来年また松山に帰ってきて優勝を目指すとの決意表明に拍手。


準決勝戦 第一試合
 席題 海鼠

紅 俳人戦士タサクタシャー
(碧海、風見奨真、もちか)
白 三日月T
(西連寺ラグナ、桜井教人、亜桜みかり )

先鋒戦
×紅 吹きだまるる潮にかたちのある海鼠
○白 記紀の山越え運ばるる大海鼠
 紅1(平岡)
 白4(夏井、五十嵐、らくさぶろう、家藤)

中堅戦
×紅 地層あるだらう海鼠の国を遥か深く
○白 訳あつて海鼠買ひます留守します
 紅1(家藤)
 白4(夏井、五十嵐、平岡、らくさぶろう)

大将戦
×紅 海鼠干す浜に漁船の満ちてゐる
○白 大海鼠化石になった夢をみる
 紅1(らくさぶろう)
 白4(夏井、五十嵐、平岡、家藤)
 俳句のみの参考評価

 終始穏やかな口調であの手この手で攻めてくる白、桜井教人氏。紳士的に見せかけて油断させておいて負けたと気が付かないうちにとどめを刺していく。今年の三日月Tは何かが違う。ある意味、ほんとうに「大人げない」としか言いようがない。負けた俳人戦士タサクタシャーの風見君からはまる裏に参加して俳句をこんなに心から楽しめ、自由なものだということを実感したと嬉しいコメント。


準決勝戦 第二試合
 席題 海鼠

紅 天空の皿
(穂積天玲、小野更紗、越智空子)
白 両手に花!
(朗善、鯛飯、きさらぎ恋衣)

先鋒戦
○紅 海鼠鈍色アルトサックスは金色
×白 タンカーの波高き夜の海鼠捕る
 紅3(五十嵐、平岡、らくさぶろう)
 白2(夏井、家藤)

中堅戦
○紅 選ぶ道まちがえました海鼠噛む
×白 ギギガガと検査の果てて海鼠食む
 紅4(夏井、平岡、らくさぶろう、家藤)
 白1(五十嵐)

大将戦
×紅 星も波も知らず海鼠の海靜静か
○白 俎板の海鼠の水の噴き出づる 
 紅1(らくさぶろう)
 白4(夏井、五十嵐、平岡、家藤)
 俳句のみの参考評価

 紅は自分たちの句に対しては解釈を読み手に委ねて読みを広げるようなディベートを、逆に対戦相手の句がどんなに良くても色褪せて見せてしまうような魔力をもったディベートで圧倒。中堅戦では鯛飯さんがまさに紅の句の読みを広げるような名アシスト、オウンゴールで敗退となった。


決勝戦
 兼題 雪

紅 三日月T
(西連寺ラグナ、桜井教人、亜桜みかり)
白 天空の皿
(穂積天玲、小野更紗、越智空子)

先鋒戦
○紅 しずり雪神事の紙縒断ち切る刃
×白 あれは愛の言葉だつたか雪明り
 紅4(夏井、五十嵐、らくさぶろう、家藤)
 白1(平岡)

中堅戦
○紅 雪の朝鎖挽き摺る象の足
×白 地へ海へ雪は鎮魂歌ならむ
 紅5(全員)
 白0

大将戦
○紅 吉良邸は東西百間しづり雪
×白 星と夜の結婚雪に重力す
 紅4(夏井、五十嵐、平岡、らくさぶろう)
 白1(家藤)
 俳句のみの参考評価

 実景対心象風景のおもしろい対戦。だんまりを決めていたラグナさんがここへきて熱弁をふるって大健闘。リアリティに勝る三日月Tが優勝を決め、名誉ある一番大人げない俳人となった。
 今回は優勝、準優勝チームに俳句仲間の烏天狗さんよりてっぺん米と、愛南町より牡蠣詰め合わせや鰹のタタキなどの豪華な賞品に会場はどよめいた。優勝チーム 三日月Tの教人さんとみかりさんは、夫婦で賞品をゲットしプレゼンターや会場から羨ましがる声がわき上がった。

(mhm あねご)


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美術館吟行


第40回

愛媛県美術館「生誕200年 沖冠岳と江戸絵画」展 吟行会

文 天玲

取材協力「沖冠岳展」実行委員会(愛媛県、愛媛新聞社、あいテレビ)、愛媛県美術館
ご紹介した作品展は3月25日(日)まで開催中。


 沖冠岳は伊予今治の生まれ。生年文化十一年、明治九年の没。幕末、京都画壇を経て谷文晁派を中心とする江戸画壇で活躍した。今回は、この沖冠岳を軸に数多の日本画作品が展示された企画展を吟行。
 当日、朝10時の集合に、私は息子たち中学生を奥道後に送り届けた後かけつければ、余裕で10分前に到着するはずであった。が、うっかり目的地をスルー。走り続けてついに今治市に至るという(いつもの)やらかしのため、20分の遅刻であったが、はからずも沖冠岳のふるさとの空気を吸ってきたということになる(か?)。
 そんなことはさておき、粛々と作品および吟行句を紹介していきたいと思う。

 「鹿に萩」
鹿はさう草の譚を聴いてゐる  恋衣
秋の日の愛しく何げなく生きて  チャンヒ
まろき背に鬱の斑点月の鹿  ひかる

画の題材は多岐にわたる。

 「月梅図」
春月のとけてつぼみのほころびぬ  マーペー

 「虎」
虎の眼の怯えは竜を天に見て  チャンヒ

 「干支」
鶏日のつとめを終へし鶏の尾よ  恋衣

 「四季花鳥図屏風」
また刻がめぐってゆくか雪中梅  猫正宗

 「菊池武光像」
秋風や切腹とある祖の系譜  日暮屋

 「七賢人」
七種や七賢人の謀り事  ひかる
白雪のなく竹林に賢者たち  猫正宗
賢人の杖つく先へ霧晴れる  マーペー

 冠岳が、浅草寺、讃岐金比羅神社、広島厳島神社などへの奉納絵馬を揮毫したことも特筆すべきであろう。残念ながらこのように見えたものもあったが……。

絵馬もはやただの木の枠寒明くる  天玲

 冠岳の没後、明治〜大正期に活躍し、後世に名を残す画家たちといえば、村山槐多、岸田劉生、関根正二、佐伯祐三……pandaなどなど。キーワードは「夭折」。何かと苦悩しまくっているというイメージがつきまとうが、冠岳たち一世代前の江戸画壇といえば、料亭の広間を舞台に、酒や料理とともに会場パフォーマンスを楽しむ書画会の流行の中で、わりと派手に楽しくやっていたようである。これも生まれた時代による差なのだろうか。
 そんな時代を反映……というわけではないだろうが、展示終盤の「百猩々図」はなんとも印象的なめでたさであった。

 「百猩々図」
百の猩々湧いて湧いて山枯るる  天玲
ええじゃないかええじゃないかましら酒  日暮屋
めんめんと古酒はめでたき朱の色に  恋衣


沖冠岳「竹林七賢図」個人蔵
賢人の杖つく先へ霧晴れる  マーペー

沖冠岳「鹿に萩」今治城蔵
まろき背に鬱の斑点月の鹿  ひかる

沖冠岳「百猩々図」愛媛県美術館蔵
百の猩々湧いて湧いて山枯るる  天玲


天玲
穂積書道教室俳句部部長。寒さに負けない49歳。

参考資料 沖冠岳と江戸絵画展図録等


次回吟行会 3月10日(土)
町立久万美術館 コレクション展「画家の『最期』と『最後』」展吟行会
(学芸員による解説を受けて作句します)
朝10時現地集合
参加費無料(入館料は別途)
事前に100年俳句計画編集室までお申し込み下さい。
TEL 089-906-0694


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大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠

百年百花


2017年度 第三期 最終回


歌姫
三島ちとせ

うすらひに触れて硬貨を拾ひけり
水に凝る喫茶店あり猫の恋
立春や珊瑚の色の髪留めを
陽炎燃ゆ應援團の呼吸法
春風や楽器の並ぶ蚤の市
春夕焼職業欄に歌手と書く
息を呑む歌の始まり牡丹雪
手拍子を促す仕草春帽子
声援に応ふる拳おぼろ月
春の夜や泣き顔見せぬアンコール
鼻すする曲の終はりや春の月
口笛は新曲のサビ春の闇

昭和六十三年一月二十四日生まれ
北海道生まれ、北海道在住
三十歳になりました。
四か月ありがとうございました。


逃げる馬
松本だりあ

春暁の馬房に長き睫毛かな
涅槃西風波のごとくに蹄あと
春の雪風切羽へ触れて消ゆ
バズーカ砲のやうなレンズよ鳥帰る
風光る神事を逃げる馬となる
黄水仙ギターとじやがいもスープの夜
薔薇の芽に弾かれてゐる親指
春の鳥になります赤い実食べて
島送り荷物受付さくら草
さへづりや錠金色の龍神社
屋根壊し天窓が欲し春の暮
切り株の春愁波の音のなか

1942年生まれ。双子座。句集『ダリア』(編集アトリエまる工房)。句集『海に遊んで』、詩集『おばあちゃんの魔法の苺』(有限会社マルコボ.コム)。


水玉の象
キム チャンヒ

春めいてとろりと君の背は果実
臍の緒が春三日月に繋がった
重心の微かにずれて蝶の舞う
水玉の象は泣きます春の昼
淡雪も言葉も同じ国、だけど
花柄の空に王妃の手の真白
神を生み神に囚われ花を踏む
木は春の闇を包めて太くなる
縦縞の海へと帰る鳥に腹
嘘つきのママを愛せよ子猫らよ
ブランコは地球をなでて止めなさい
三月の切りとり線に鋏の絵

1968年生まれ、愛媛県出身。本誌編集長。句集『COSMOS』(マルコボ.コム)。『桝形浩人とキム チャンヒの超俳句入門』(マルコボ.コム)


フリージア
神楽坂リンダ

笹鳴やこけしの口は紅き点
しづやかな冬の薊に刺されけり
どんど焚く最後にくぶる紙コップ
メビウスの輪のうへ歩く冬の蠅
おやまあと母悦びぬ寒の蕗
勝牛の光る鼻づら春の泥
恋猫の目やにとりやる電気ブラン
愛の日のホットケーキを裏返す
日溜りに猫空瓶にフリージア
猫の尾のなでゆく都忘れかな
茎長うせよせめぎあふたんぽぽよ
薬湯に鼻までつかる桜かな

句集「りんご飴」(マルコボ.コム)を上梓してはや7年が来ようとしています。あれから4人の子供たちは皆結婚し、2018年2月には6人目の孫が生まれます。


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読者投稿による3ヶ月連載作品集

新 100年の旗手


(2018年1月号 〜 2018年3月号 3/3回目)

たんぽぽ
めならべ

雪しろや大地の闇にふるえたち
山寺の玉石なでたるは春光
波われて磯巾着の笑う声
春雨の音ゆらしたる窓ランプ
中庭にふくらむ空や春の鵙
鳥さかる父の日記をひらく夜
手鏡の奥に春愁忘れたる
学び舎は宵がじゅまるの木は巣箱
ポケットのあの日は消えぬ桜貝
モカ香る夜たんぽぽに眠る

1974年、東京都八丈島生まれ。視力を失いつつもポジティブに日々奮闘中。俳句の成長はのんびりと「ふくし句会」に参加。


春日傘
矢野リンド

縄跳の幾度も削る空の青
片羽の形に割れて薄氷
三月の苦味を愛でる台所
まづ多羅の芽のことを聞く帰宅かな
春燈下泡くらくらと茹で卵
網膜へ広がる空や落椿
毒草の植物リスト春愁
春日傘風に折れさう狂ひさう
田螺鳴く泡にひらがな一つづつ
花束のかはりに渡す風車

料理が好きです。兼題で変わった食材が出されると嬉々として買い求め調理し味わいます。


2018年度 第2期連載者募集中
 締切 2018年5月15日(火)
 応募内容 2018年7月号に掲載できるタイトル付の10句
 応募先 Eメール magazine@marukobo.com
 件名に必ず「100年の旗手応募」と明記して下さい。
      (郵送またはFAXでも受け付けております。詳しくは編集室までお問い合わせ下さい。)


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新 100年への軌跡


2017年度 第三期
最終回


Catch
松本千鶴

春寒しあいたいってあたためたいだ
好きだからあげる板チョコバレンタイン
冴え返る鏡を疑ってる真昼
愛のスカイライン乗れば春愁も吹き飛ぶね
春日燦々と大切な人へとどけ熱量
桜前線発表そうだ京都行こう
春一番吹いてはしゃいでってアオハルかよ
一瞬も一生も美しくあれツバメ
愛は食卓にあるのか霞草
地図に残る仕事ここにも蝌蚪の水
愛さないと愛は減るから野に遊ぶ
これやこのおいしい生活桜餅
春の夜のセブンイレブンいい気分
恋が着せ愛が脱がせる花衣
春の灯の有楽町で逢いましょう

松本千鶴(まつもと ちづる)
 1990年徳島県出身。「狩」所属。職業、コピーライター。


祈りのかたち
鈴木総史

冬雲雀故郷は切符おほきくて
花枇杷を少しはづれて川の音
文旦や宇和島は鳥かがやいて
空罐のつめたさが死と似てをりぬ
忘れ花橋に有名無名かな
炉話や身体の熱をとりかへす
沸き立つてこその鍋焼饂飩かな
室の花湯呑に地層ありにけり
足裏のどんどん冷えて金屏風
悴むや雨とおぼしきにはたづみ
梅のをさなさに風ふえてくる
燃えるものなんでも入れる焚火かな
暮れてより祈りのかたち水仙花
寒月の欠けて楽しきコーヒー屋
抱擁のごとき掛湯や夜半の冬

鈴木総史(すずき そうし)
 1996年生まれ。21歳。立教大学3回生。大学入学より櫂未知子、佐藤郁良に師事、以後本格的に句作を開始する。俳句同人誌「群青」同人、企画部長。『鷹』会員。「俳句対局 第五回龍淵王決定戦」優勝。



望めば与えられる
都築まとむ

冴え返る鏡を疑ってる真昼  松本千鶴
 鏡に映っている私は、人から見えている私とは違うらしい。自分自身がいつもの自分でないことに気づく。それは「冴え返る」緊張感からくるものなのか。「真昼」は夜よりも影を映し出す時間なのかもしれない。
愛さないと愛は減るから野に遊ぶ  松本千鶴
 「愛さないと愛は減る」その衝動が春の野へと向かわせたのか。「から」という言葉を使っておきながら、全く関係ない方向へ持って行ったことで詩が生まれた。
 キャッチコピーを入れつつ俳句に仕上げるとは果敢な挑戦。拍手を送りたい。

空罐のつめたさが死と似てをりぬ  鈴木総史
 「空」「つめたさ」「死」とそれぞれの言葉のイメージを重ねることで詩を作りあげてゆく。「似てをりぬ」で、フッと力が抜けるところが面白い。
暮れてより祈りのかたち水仙花  鈴木総史
 水仙のうつむいて咲く姿が「祈りのかたち」だという把握は想定内かもしれないが、「暮れてより」とすることで冷たさと香りを一層鮮明にさせる。それがこの句の魅力。

都築まとむ(つづき まとむ)
 1961年愛媛県八幡浜市生まれ。第3回選評大賞優秀賞。


人のこころにとどまるもの
樫の木

 「Catch」はキャッチコピー(短い宣伝文句)と季語が取り合わされた構造。意欲的で面白い試みだと思った。
冴え返る鏡を疑ってる真昼  松本千鶴
 白雪姫の魔法の鏡は真実を告げる。だがこの句の鏡は本当の私を映しているのか疑わしいのだ。その疑念は季語「冴え返る」によって強調される。最後の真昼の明るい光によって鏡の嘘があばかれていくようだ。
一瞬も一生も美しくあれツバメ  松本千鶴
 一生は一瞬の膨大な積み重ねである。人間は美しさを追い求める。それに対してツバメは美しくあろうとは恐らく思っていない。しかし人間の視界を一瞬横切って飛ぶツバメは美しい。片仮名表記のツバメは実際の燕というより美の象徴的な存在のように思える。

 「祈りのかたち」には温かい句と冷たい句が混在する。
冬雲雀故郷は切符おほきくて  鈴木総史
 冬雲雀から春を待つ気分と広々とした農地、野原を持つ故郷が想像できる。この切符は裏面の黒い磁気が施された切符ではなく厚いボール紙製の切符だろう。切符の厚み、大きさに安心感があり、ほのかな温かさを感じる。
空罐のつめたさが死と似てをりぬ  鈴木総史
 季語「冷たし」は皮膚に直接感じる寒さ。空罐を手に取った瞬間につめたさ、軽さ、硬さ、触感などの感覚が一気に流れ込んでくる。死とはさてどんなものか? 罐が人の肉体であるならその中味は魂そして生きてきた時間や思いとでも言えるだろうか。

樫の木(かしのき)
 1965年愛媛県生まれ。大分県在住の家具職人。第5回、第11回選評大賞優秀賞、第10回選評大賞最優秀賞。


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Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳 朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ


No.56

Mt. Annupuri
Top of our snowy world
Choose any descent

アンヌプリどの雪峰を滑ろうか

(直訳)
アンヌプリ山
雪世界の頂点
どの峰へも滑降できる


 I have emptied my mind of everything except Hokkaido's dry fluffy snow. It is my winter obsession, shared by pilgrims from many lands, all immersing themselves in the season's glory.

 完全に頭が空っぽになって、北海道の乾いてふわふわの雪の事しか考えられない。冬になると僕はそうなっちまうし、各大陸からやって来たスキー巡礼達も同じらしい。季節のもたらす壮観に身も心も浸りきっている。


ナサニエル ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。2013年7月より山梨へ移住。


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JAZZ俳句ターンテーブル


文 白方雅博(俳号 蛇頭)

第84話
アメリカン・ガレージ
パット メセニー


遠目には音の雪崩も美しきもの  五佛

 僕にとってパット メセニーは、ほぼ未体験ゾーンのミュージシャンの一人だったが、昨年9月のライヴでフルートの小島のり子トリオが彼の曲「トラヴェルズ」を演奏すると「へぇ〜、こじのりが取り上げるんだ。いや、ギターの天野さんのリクエストかも」なんて僕の脳みそが勝手に問答するので唯一所有するメセニーのアルバム「アメリカン・ガレージ」に針を落としてみた。
 何時かのJAZZ句会で「音のいっぱい詰まったフュージョン」と、あまり芳しくない意味で呟いたのはチャンヒさんだったが、まったく同感の僕の感覚ではメセニー=フュージョンであり、ゆえに彼のアルバムは買わず乗せず(ターンテーブルに)だったけれど、その唯一のレコードを改めて聴いてみると誠に美しく心地良かったのである。

風光る水平線の果ての果て  チャンヒ

 西海岸、カルフォルニア仕様の青空の下、だだっ広い野原に銀色のキャンピングカーらしきものが整然と並んでいるアウトドア派嗜好のジャケット。「ガレージじゃなくキャンピングカーだろが」と、ため口をたたいた瞬間に「あっ、あの空、その空間をガレージに見立てているのだ」と、爽やかな音空間に身を置きながら納得。

飴色にギター鳴らさば外は雪  光海

 てなことで「アメリカン・ガレージ」を今回のメインテーマに決め急遽、初雪を観測しそうな松山市内の空の下「トマト書房」「モア ミュージック」「BOOKOFF」巡りへと出かけた。結果、アナログ5枚とCD5枚をゲット。中古のフュージョン、しかも地球規模の人気ギタリストとくればアルバムも数多流通しており価格も安価だった。

音の粒集めてすくう春北斗  サテンドール

 早速サブテーマの選定となるが、メセニー名義のアルバムの多さとサイドメン参加も含め共演者の豪華さにまず驚嘆。その功績に敬意を表してサテンドールさんが詠んだ一番人気句をここに。

春の野に唸る機関車16ビート  毒取

 そして、メインの「アメリカン ガレージ」は彼の代表作じゃなく、むしろ地味な存在で例えば1987年にリリースされた「スティル ライフ」はヒット作で3曲目「ラスト トレイン ホーム」は、テレビアニメ「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセダーズ エジプト編」のエンディングテーマとなり、原作者の荒木飛呂彦氏も「風景を想像させるようなメセニーのメロディとギターワークは、まさに旅をしている承太郎一行をイメージさせる」と絶賛している。YouTubeの迫り来るSLの勇姿と同化するこの曲にインスパイアされたであろう毒取さんが詠んだ人気句をここに。

春暁の君を乗せ行く汽笛かな  恋衣

 おそらくパット・メセニー・グループの永遠のテーマ、そしてその象徴である「トラヴェルズ」には恋衣さんのこの句に寄り添ってもらおう。


Today's Turntable
『アメリカン ガレージ』1979年/ecm
『スティル ライフ』1987年/geffen


「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の毎月第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は月曜日の21時〜22時。

次回JAZZ句会のお知らせ
3月11日(日)13時より、JAZZ BLENDにて。
テーマ ミュージシャンはジャズ ヴァイブの最高峰ミルト ジャクソンです。アルバムは「プレンティ、プレンティ ソウル」をメインとします。参加希望の方は、本誌の句会カレンダーを参照してください。


このコーナーで紹介した俳句とエッセイ、堤宏文さんの写真とを組み合わせた『JAZZ HAIKU』vol.1〜vol.3(マルコボ.コム)を発売中。


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ラクゴキゴ。


第八十四話
文、俳句 らくさぶろう


明烏
 あの句を思い出す

 江戸、日本橋田所町の日向屋半兵衛の息子時次郎。どうも真面目すぎて女性のウワサは一度も聴いたことが無い。19歳になっても本ばかり読み、お稲荷様に参詣しても赤飯を三杯ごちそうになったという話を父親にうれしそうに話す。
 これじゃあダメだと、父親は町内の遊び人の二人、源兵衛と太助に頼んで息子を吉原に連れて行ってもらうことにする。
 本人には「お稲荷様のおこもり」ということにして、三人は吉原へ。
 しかしいくら何でも、独特の髪型に結った女性が上草履の音をパタリとさせて廊下を歩くと、若だんなもここが女郎屋ということが分かり、泣いて帰ろうとするのを二人はなだめすかし、「このまま帰ると、大門で留められ、二年も三年も帰してもらえない」とウソをつき、やっと納得させ部屋に居ることに。
 その若だんなのところに来ることになった花魁は、18才になる浦里という絶世の美女で「そんなうぶな若だんなならワチキのほうから出てみたい」と希望してつくことになった。
 若だんな、始めはこわごわだったが一旦コトが始まるとなんのことはない、普通の若い男……(以下想像にお任せします笑。)
 かたや源兵衛と太助は花魁にも相手にされずフラれぶつぶつと文句を言いながら朝になって甘納豆をやけ食い。
 若だんなを呼んで「ぼちぼち帰りましょう。」と誘うが若だんなは「花魁が手を離してくれない」なんてことを言い帰ろうとしない。
 ムカッとした太助、「じゃあおまえさんはヒマな体なんだからゆっくりしていきなさい。あたしたちは先に帰ります。」
「あなた方、先に帰れるもんなら帰ってごらんなさい。大門で留められます。」

 昭和の名人、八代目桂文楽の十八番で、文楽が生きていたときは他は演らないほどのネタでした。
 文楽が他界してからはあの古今亭志ん朝が得意ネタとし、親父と息子、花魁など巧みに演じ分け、自分の手中に収めていましたが、志ん朝からたくさんの若手に噺がつながり、現在は多数の噺家がそれぞれの「明烏」の世界を演出しています。
 この噺の見所のひとつとして、後半の二人が花魁にフラれ、文句をぶつぶつ言いながら甘納豆をつまむシーンが挙げられます。
 僕はこのシーンに出会うたび、あの坪内稔典さんの『三月の甘納豆のうふふふふ』を思い出すのです。
 そして、普段あまり甘いものを食べないのに「ああ、甘納豆食いたいな」と思ったりします。
 本筋にはあまり影響を与えない場面が、実は重要なスパイスだったりする……落語にはこういうことがよくあって、そこまで丁寧に演出が効いていると全体がしっかりと映え、世界が浮かび立ってきます。
 仕事にも通じるなと、今これを書きながら痛感しております。
 ところで、稔典さんのあの句はまだ教科書に載っているのかしら?
 子供たちのこの句のとらえ方にものすごく興味があります……。

大門の名残三月の色街


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mhm通信


第84回
文 日暮屋又郎


第6回 城北地区小学生俳句大会

 この冬最強の寒波が居座り続ける一月末の土曜日の朝、まつやま俳句でまちづくりの会(以下、mhm)のメンバー7名が凍えながら松山市立清水小学校に集合して、本日開かれる句会ライブの打ち合わせが始まり、大筋の決まったところに主催の内田パンの代表 内田敏之氏が現れた。
 簡単な防寒着の下は胸のあたりに染みのついた作業用白衣で、何ひとつ気取ったところがなく、実直で優しいおじさんといった感じだ。
 やがて俳句キッズが会場へと集まりだした。今猛威をふるっているインフルエンザの影響で清水小学校4名、姫山小学校8名の計12名での開催となったが、それならそれでマンツーマンに近い形で子供たちに寄り添うことができるし悪いことではない。
 内田パンが現在の店舗に移転してから8年、この地域に何か貢献したいとの熱い思いで、今年でもう六回目の開催だとのこと、中には一年生の時から六年間ぜんぶ参加している子供もいるという。だいたい休日のこんな寒い日にわざわざ俳句のために来るのだから、それなりに腕に覚えがある子たちだろうとの予想は完ぺきに当たった。
 mhm若狭代表の軽快な進行で先ず言葉遊びからスタート。手拍子に合わせて順番に好きなパンの名前、好きな場所、春っぽいものを声にする。それらの単語をひとまずホワイトボードに書き込み、たくさん出た中から三つ選んで俳句にしてゆくという作り方をレクチャー。並びの順や、つなぎの助詞の選び方など組み合わせ次第で思いもよらない素敵な一句に仕上がるといったやり方に子供たちは驚きを隠せない。続いて[A]好きなフレーズ+季語、[B]季語+好きなフレーズ、という取り合わせでの作り方のレクチャーが終わると、子供たちの目がますます輝いてきた。
 これから約三十分の句作タイムに突入だ。二句提出ということで始まったのだが、中にはほんの数分で二句とも提出を済ませる強者もいれば、慎重かつ丁寧に季語やフレーズのアッセンブルを進める子もいる。そうなると我々の出番で、迷っている子の傍でその季語に対してどんなイメージが湧くのかとか、そのフレーズに一番似合う季語は何だろうかとかのヒントを出して、その子なりの一句を導き出すという手伝いをしながら残り時間も少なくなってゆく。中にはトイレタイムもかまわず粘る子もいて、きっと俳句が大好きなんだなあと微笑ましい思いで見守り、やがてタイムアップ。
 いよいよ発表となり、みんなの思いを乗せた俳句が次々と読まれてゆく。最後に優秀五句が短冊で張り出されることとなり、今読まれているのはそこに残らなかった句なのだが、えっ!こんなに良い句がなぜ?と思わず疑いたくなるほどの秀作揃いで感心しきりに聞いていた。
 そしてお待ちかねの優秀五句の発表。先ず、第一印象でこれが良いと思う句に挙手して、なぜその句を良いと思ったのか発表してもらうことにすると、最初はおどおどと小さな声だった子供たちが、次第に慣れてきて本領を発揮し始め、最後にはみんな言い足りないくらいの感じとなったところで、再び挙手による人気句が発表された。
 結果、優秀句に金谷奈桜さん(姫山小4年)、大崎しおりさん(清水小1年)、中矢絢子さん(姫山小5年)、葛西真生さん(姫山小6年)、そして最優秀句に中矢こころさん(姫山小6年)の

 歌かなで音楽室で春を待つ

が選ばれ、表彰状、記念品、そして隠し玉で若狭会長がたった今、即興で書いた俳画のプレゼントがあった。この絵は内田パンの店内に一年間飾られることとなっている。
 無事終了後、内田氏から気持ちですとポチ袋をいただくとパンの商品券が入っていた。帰りに早速行ってみると、次から次への来客で繁盛していることがわかる。パン製造の技術だけではなく、人柄だろう。内田パンの地元密着型の地道な活動が伝わり、ファンを獲得しているのだとつくづく実感しながらパンをおいしくいただいた。


 mhmでは松山市内外問わず会員を募集中です。原則、毎月最終金曜日19時からマルコボ.コムにて定例会を行います。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)またはFacebook(http://www.facebook.com/mhmhaiku)まで。


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会話形式でわかる

近代俳句史超入門


第24回

大正時代の俳句 1


 青木先生と俳子さんが教室で話しています。

歴史的な視野

俳子(以下俳) 先生、私たちの時代は春の朝かしら、または夏の日盛り? それとも秋の黄昏……。
青木先生(以下青) 吟遊詩人みたいでカッコイイですね。俳句史として平成時代を見ると、今はいかなる時期か、という感じですか。
俳 ええ。明治期の子規さんや虚子さん、碧さんを振り返っていると、現代の私たちもいずれ歴史の一部になるんだなあ、と思いまして。
青 なるほど。今は晩秋から初冬あたりかなあ。
俳 そのココロは?
青 秋に収穫した実りを楽しみつつ冬を迎え、春を待ち望んでいるところ。
俳 冬眠中の熊?
青 そう。秋に川で食べたシャケを思い出しながら、深い穴の中で夢にまどろむツキノワグマたち……。
俳 ロマンチックなのか、悲観的なのか。私も冬?
青 もちろん。暖かい春が来たら、一緒に木の実を食べあさりましょう。
俳 イヤだ……

大正時代に戻ると……

青 時代と季節云々でいえば、これまでの話は明治期の子規→虚子→碧梧桐と進んできましたよね。彼らが俳句界に現れ、「写生」を掲げて活躍し始めた明治中期〜後期を初春とすれば、大正時代は春爛漫でしょう。
俳 花粉症が大変ね。
青 いや、そういう話じゃなくて、史上の最高峰をなす傑作が現れた時代なんですよ。特に大正初期は凄い。
俳 おお……チョモランマ!
青 普通、「最高峰」でそういう感動はしないような……とにかく、明治期の子規の「写生」が碧虚に引き継がれた後、俳句界はどのように進んだかを大正初期から考えていきましょうか。
俳 了解です。前回までの話だと、子規さんから「写生」を継いだ碧さんが明治終わり頃に新傾向な活動を始めて、大正初め頃に自由律に逝ってしまわれたんですよね。でも、碧さんの句はチョモランマというより、荒野に佇む謎の建築物という感じ。
青 「逝く=行く」ですね。大正初期の傑作群は碧梧桐側ではなく、虚子側から出始めたんですよ。
俳 虚子さん! 高校中退して下宿先のお嬢さんを碧さんから奪い、憧れの小説家にもなれず、体調も壊して稼ぐために俳句に戻ってきた冴えない中年ね。
青 それだけ聞くと破滅型の私小説作家みたい……以前、虚子を取り上げた時にお話したように、彼は子規に見出された俳人として有名になりますが、夢は小説家でした。明治末期、虚子は編集兼経営者として携わった「ホトトギス」俳句欄を廃止し、小説専門の文芸誌とします。しかし……
俳 売り上げが落ちて、生活が立ちゆかなくなった。購買者のニーズを見誤った中小企業のワンマン経営によくあるパターンね。虚子さんも少し立ち止まり、自己啓発本でも読めば良かったのに……『イライラしない人の63の習慣』とか。
青 虚子には風当たりが強いですね。それに『イライラ〜』は中谷彰宏氏のハウツー本じゃないですか。よくご存知ですね。
俳 一応、意識高い系(解説1)ですから。昨晩は中谷先生の『ファーストクラスに乗る人のノート』と『島津亮句集』(解説2)を同時に読んだわ……フフ。
青 意識が高くなるというより、混濁しそうな組み合わせですな。

虚子の俳壇復帰

俳 で、虚子さんは大正初め頃に「ホトトギス」を俳句中心の編集に戻したんですよね。
青 ええ。その時、彼はいくつかの宣言をしました。
俳 といいますと?
青 「ホトトギス」は子規派の機関誌ではなく私の個人編集誌であり、新傾向俳句に対抗して平明で余韻のある句を推す、といった宣言です。これは凄い断言で、昔からの子規派の誰彼に気兼ねせず、今後は私にとっての「俳句」だけを是とする、という宣言に等しい。
俳 えっ、子規さんの頃からいた先輩や同僚を無視する、となるんですか? 新傾向俳句の碧さんと対抗するのは分かりますが、内藤鳴雪さんや石井露月さん、佐藤紅録さん、松根東洋城さん(解説3)とか色々居るじゃないですか。
青 さすが子規ファン、スラスラと人名が出るのはお見事。その通りで、虚子は彼らを含む子規派やその他の俳句観に配慮せず、自分の価値観だけで「ホトトギス」を売り続ける、と宣言したんですよ。その主戦場が雑詠欄で、虚子は選句を通じて未来を担うべき俳句を強く打ち出していきます。
俳 む? ということは、先ほど仰った「大正初期の傑作は虚子側から出た」とは、虚子さんが詠んだのでなく、「ホトトギス」に投句した弟子たちが詠んだ、となるんですか?
青 鋭いですね。虚子自身も佳句を量産しますが、離れ業に近い名作を詠んだのは雑詠欄に投句した俳人たちでした。

大正初期の「ホトトギス」

俳 ふむふむ。どんな俳人さんが出てきたんですか?
青 村上鬼城、飯田蛇笏、渡辺水巴、前田普羅、原石鼎。その他もいますが割愛。
俳 うぉぉ……さすがに知っている方ばかり。皆さん、一斉に雑詠欄に投句したんでしょうか。
青 ええ。当時の「ホトトギス」雑詠欄を見ると彼らの作品が並んでいます。例えば、次のような句です。
1 冬蜂の死にどころなく歩きけり  鬼城
2 死病得て爪美しき火桶かな  蛇笏
3 樹々(きぎ)の息を破らじと踏む秋日かな  水巴
4 高々と蝶こゆる谷の深さかな  石鼎
5 雪解川(ゆきげがわ)名山けづる響かな    普羅
俳 うそっ、これが毎号掲載されたんですか?
青 そう。たまたま「〜かな」の作品が揃いましたが、傑作揃いです。死すべき時を逃した彷徨う冬蜂の無情な哀れさ(1)、結核の病身にほのかな紅を帯びた爪の美しさ(2)……樹々の生々しい息づかいを感じてしまう水巴の神経症じみた緊張感(3)、あるいは石鼎がのぞきこんだ谷の闇の深さ、その谷を小さな蝶が渡りゆく非人情の静寂(4)。奔馬のように荒々しく満ち溢れる雪解川、その怒濤の響きに普羅が感じたのは、幾万年にも渡って雪解水が名山を削りつつ川をなしたという遙かな想いと、それでいて今、眼前には名山が泰然と聳えているという美しさ……人間世界を寄せつけない自然の荒々しさと巨大さ、そして荘厳さすら帯びた初春の美(5)。いずれも大正初期の作品で、「ホトトギス」雑詠欄の虚子選を通じて発表されました。
俳 す、凄い。怖くてきれいで、人間よりも自然や宿命の方が大きな存在のような……碧さんの新傾向俳句にはうまく馴染めませんでしたが、鬼城さん以下の五句は現代の私でも凄いと感じます。えーと、大正初め頃を西暦に直すと……
青 一九一二〜五年あたりなので、約百年前ですね。
俳 傑作は時代を超える、ということかしら。こんな作品が「ホトトギス」に集中的に発表されたなんて、びっくり。
青 これを一手に引き受け、「俳句」というラベルを貼ったのが虚子でした。彼が凄いのは、俳壇復帰直後にこういう句群がドシドシ送られる強運の持ち主だった点です。では、虚子選に投句した俳人たちはどんな人々だったのか。次回から一人ずつ見ていきましょう。
俳 いいですね! 誰からですか? ワクワク。
青 飯田蛇笏から始めましょう。 
(続く)

解説
1 意識高い系=学生等を指す場合が多く、自己啓発やセミナー参加、人脈作り等をアピールするも空回りしがちな承認欲求の強い人々。
2 島津亮=戦後の前衛俳人。「怒らぬから青野でしめる友の首」等で知られる酒乱で、自己啓発と対極の俳人。
3 彼らはいずれも子規在世時から句作に励んだ子規派俳人で、プライドもあり、独自の俳句観を持っていたが、大正期に俳壇復帰した虚子は彼らを意に介さず「ホトトギス」編集を続けた。


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100年投句計画

選者三名による 雑詠俳句計画




先選者 阪西敦子

 イナビル、去年と異なる薬だ。去年貰ったタミフルと違って、細かな粉末を吸入するタイプだ、一度に二本。一回だけでよい。そのあとはひたすら眠るだけだ。子供だと衝動行動が起こるそうだけど、大人もそうなのだろうか、人生を振り返ったりして、一度も思い出したことのないことを思い出して布団を頭までひっぱりあげて潜る。そのまま眠ってしまって、起きたときには思い出せなくなり、今ではもう幻覚か現実かもわからない。




冬菊のほどかれて尚小さし濃し  明日嘉
 ひとつひとつそんなに大輪ではないけれど、束にすれば強い野趣を宿す冬菊。寄せ集まって香りも色も凝縮している。届けれられたその凝縮を解いて、いざ活けようとして束を解いたときのゆるびのなさに驚いたのである。冬菊において小ささは弱さではなく、強さなのだ。その冬菊の強さ賛歌を、声高に言うのではなく、「ほどかれて尚」と菊に触れる人の自然な動きとして描いている。




強く振れバレンタインの日のしっぽ  中山月波
 尻尾を持つ動物たちは、バレンタインの日を知ってか知らずか、今日も尻尾を振っている。止めようがないらしい。尻尾がなくてよかったと思う反面、もしかしたら尻尾がなくたって見透かされているのかもしれないと思ったりもする。

碁敵の正座崩さづ冬苺  人日子
 ちょっと貴重な冬の苺を自分の待ち時間につと立って、考慮中の碁敵の碁盤の脇へ出す。無意識だろうか、碁石に手を伸ばすのと寸分たがわず、苺へも指を伸ばす碁敵の背筋に、満足したようなおかしみを感じている作者。

手袋のままつり銭もどら焼も  明惟久里
 手袋のままに受け取るつり銭は何か不器用で、きちんとそれをしまった後に、本命のどら焼きを受け取っている。私たちの中にはどら焼きが好物のある青いロボットの記憶もあって、そのぎこちなさはどら焼きのおいしさを増幅する。

雪の夜の赤子のふくむ銀の匙  うに子
 外は雪。家の中はあたたかく、何の心配もない。と言って、まったく影響しないわけではなくて、雪は、室内の世界を充実させる。銀で作られた小さな匙が息に白くかすみながら赤子のやわらかい口に運ばれてゆく。

傷心の六腑に落とす寒卵  西原みどり
 傷心とは心を傷つけることで、外傷同様浅くても治りの悪いものもある。薬も効かなくて、ただ治りを待つばかりのものもある。寒卵はそんな体に一個まるまるの命を懸けて力を与え、治りを早くしてくれるようだ。




小学生二人一組大根抜く  ケンケン
日の当るライオン像の冷たさよ  鯉城
塩飴を舌に遊ばせ春の星  すりいぴい
てのひらを沿うて赤砥へ寒の水  凡鑽
しぐるるや猫は猫語で弔ひて  松田夜市
まるまると鳩ぽつねんと日向ぼこ  一走人
寒林を抜け聖堂へ朝の弥撒  さより
オーボエの少女三人春近し  小川めぐる
雪女郎空席目立つグリーン車  小市
結い髪のピアスの穴や成人の日  ぎんなん

阪西敦子(さかにし あつこ)
 1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。


先選者 関悦史

 この原稿を書いている現在、たまたまツイッターの通知欄が仕様改悪されてしまったところで、自分が全然関係していない他人のツイートまで通知欄に表示されるようになってしまいました。ツイッターに限らず、アマゾンでもグーグルでも、こちらの都合を無視した「おすすめ」だの押しつけカスタマイズだの、余計なお世話が多くて、まことに使い勝手が悪い。変な色のついていないフラットな一覧表が一番便利なのですが。




古硝子の闇うごめくや風花す  プリマス妙
 古硝子には表面に微妙な凹凸の波があり、今の硝子より有機的。「うごめく」は強烈な分、こけおどしになりかねない言葉ですが、他の語との組み合わせのなかでうまく生きています。「古硝子」は、窓硝子でも器でもあり得ますが「闇うごめく」ほどの厚みは後者と取ったほうがいいのでしょう。「風花」は晴天時の雪になるので「闇」とは逆ですが、コントラストの妙とか、古硝子の向こうの世界の幻視といった方向に鑑賞することは可能。




日の当るライオン像の冷たさよ  鯉城
 日が当たっているのに冷たいというわずかな違和感から、銅像か石像らしいライオンの実在感が出てきます。視覚的にイメージしやすいライオン像が、「冷たさ」で触覚的に捉えられる複合的な展開も鮮やか。

長男の息子が口を切る御慶  ヤッチー
 家族揃っての年始回りという、目出度さがくどくなりそうな情景で、しかも吾子俳句という悪条件ではありますが、「口を切る」から「御慶」で急に年始の挨拶とわかる切れのよさで、目出度さが自然に立ち上がります。
湯冷めしてけものめく妻のふともも  24516
 「湯冷め」は体感の変化なので自分のこととして詠まれることが多く、妻の湯冷めだとするとやや珍しい。また体感の変化がエロスにつながり、見慣れた妻から「けものめく」が見出される点も意外性と説得力あり。

眼球の落ち午後二時の雪達磨  笑松
 雪達磨が溶けて顔が崩れるというのは類想中の類想なのですが、「目鼻」ではなく解剖学じみた「眼球」にし、さらに「午後二時」で妙に正確なレポートのような文体にして、擬人法の臭みを抜いた即物性で成功。

ぼろ市や金襴の帯一盛に  ゆりかもめ
 それなりに豪華だったはずのものも無秩序に置かれている、ぼろ市ならではのあわれと華やぎが捉えられていて、下五の「一盛に」が帯の重たさや色、質感まで感じさせて見事。ぼろ市の歴史の長さまで感じさせます。




強く振れバレンタインの日のしっぽ  中山月波
クリスマス普天間基地の爆音下  ケンケン
そこそこは固くなります冬木の芽  小木さん
冬萌や鳥居に一つ石が乗る  あいむ李景
春昼を鳩の開けたる自動ドア  もね
火星にはいつ着くだらうスイトピー  薄荷光
オーボエの少女三人春近し  小川めぐる
冬の日の共産党と云ふ言葉  ぐずみ
表札の消えかけし文字虎落笛  小市
冬萌や湯気のぼそぼそ出る工場  土井探花

関悦史(せき えつし)
 1969年茨城県生。「翻車魚」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。2017年第二句集『花咲く機械状独身者たちの活造り』、評論集『俳句という他界』刊行。共著『新撰21』『俳コレ』他。


後選者 桜井教人

 音楽を聴くのが結構好きだ。以前はウォークマン派だったが、便利さに負けて今はiPhoneで聴いている。しかし、電車の中など人がいるところでは絶対に聴けない曲がある。「旅立ちの日」という曲だ。何度聴いても号泣してしまうのだ。多分私と同年代の男性ならほぼ同じだと思う。この曲ほどではないが「トイレの神様」も結構泣ける。誰もいないときにこっそり聴いて泣くと、なぜだか後がすっきりしてよく眠れる。


特選

床に落ち割れる音さえ寒卵  風来松
 「寒卵が床に落ちたときの音をオノマトペで表せ」などという課題が出てきそうだ。確かに普通の卵と寒卵では音が異なる気がする。ユーモアの中にも季語に正面から取り組んでいる見事な一物仕立ての句。

木星のひかりのとどく霧氷林  内藤羊皐
 まずは語順がとてもいい。木星から霧氷林への展開がもたらす壮大な距離感、透明な色合い。ともに質の高さを感じる。夜の静けさの中から音楽が生まれて来そうな光景だ。木星だからこその独特の光だ。

たまのりの旗ふる犬の御慶かな  緑の手
 犬がたまのりをしている景が浮かんで来た。なぜだか正月は妙にばかばかしい寿ぎの曲芸が逆にお目出度い気がする。季語の「御慶」の仰々しさが句全体のバランスを上手く取っている。以前にこんな芸を見たことがあるような気がするのは気のせいだろうか。


並選

参道の流れ止めをり蜜柑かな  大槻税悦
その手紙暖炉の灰が知ってゐる  dolce@地味ーず
弱き吾を生かせ鯨のシャワーかな  KIYOAKI FILM
ロケットは月へ大地に福寿草  中山月波
春光の深く入るや心癒え  レモングラス
蕗味噌や箸の先なる野の息吹  柝の音
集団ドリルめくマスクの雑踏  小雪
初暦月の満ち欠けある余白  天野姫城
蝋梅の香に振り向いて日和かな  どんぐりばば
七輪で魚焼く夕べ豊の秋  大阪野旅人
春かなし親となりたる子の無口  台所のキフジン
麦の芽の色きはやかに月の形  人日子
あきらめの悪い祖母です寒椿  柊つばき
玉橋を富士の湧水水草生ふ  童夢U世
七草やただ人だけが嘘をつく  ちろりん
サイレンは雪の現場へ疾走す  有瀬こうこ
炬燵猫内緒話を聞いてゐる  ひでやん
のぼさんの生誕の地や冬北斗  鯉城
今日は檸檬明日はこころと日向ぼこ  すみ
綿虫の綿ある限り大丈夫  小木さん
暴言を吐く国横目小豆粥  かのん
鍼灸師の指の先から寒に入る  おせろ
御降や縁起をかつぐ選手団  ヤッチー
春光の測り知れない全範疇  暮井戸
雲山に陰を落とすよ煤払い  しのたん
桐箱の黒き臍の緒成人日  斎乃雪
啓蟄やゆるきやらに雄雌のあり  くらげを
首のない老婦の裸像冴ゆる月  和音
冬木の芽神は細部に宿りけむ  不耳男
雪の朝しんしんとをる蒼き空  ぺぷちど
冬うらら手紙を食うてゐるポスト  凡鑽
冬萌や胎動深く湧き起る  根本葉音
回送にかはる終電むつらぼし  出楽久眞
残業のデスクワークや除夜の鐘  武彦
立ち漕ぎの尻の丸さや冬帽子  松田夜市
探梅や風に召されて径へと  とべのひさの
手鏡や寒紅をひく妻の部屋  健次郎
裸木の鹿の角めく大樹かな  一走人
水仙の清し瓦礫の鬼瓦  ほろよい
断崖を見上ぐる寺の淑気かな  野良古
寒林に入るあの時の聲求め  幸
橋の名はひらがな五文字かへり花  夏柿
弁護士のラジオ広告蝿生まる  点額
日の当たる花屋日陰に雪だるま  のり茶づけ
七種の名を言いながら刻む朝  ぴいす
老眼鏡入歯補聴器寒波来る  波野
福耳の左耳だけ凍傷に  誉茂子
冬すみれ街の混成合唱団  24516
亀鳴くや土星の土地を買う話  ちゃうりん
オルゴルの音が途切れて春氷  次郎の飼い主
水仙の窓辺に香る夜半の雪  さより
戒名にりつしんべんや暖かし  久我恒子
囀りや童女の遊ぶ青い空  喜多輝女
六花無縁仏の並ぶ丘  テツコ
裸木に空の鳥籠日暮れ行く  笑松
色を見ぬ君の世界の花の色  薄荷光
山茶花や忘れ去られるてう愉悦  プリマス妙
春風や思い出せない再従姉妹の名  洒落神戸
寒水や水面に星の転がりぬ  立志
冬さぶを憲法改定すると云ふ  ぐずみ
雪しまき窓の痛さに触るる頬  元旦
足跡へ犬か狐か問ふ深雪  柊 月子
参道はワタクシだけぞ初詣  エノコロちゃん
数へ日の出漁船や灯の縦に  風海桐
初詣覗き見すれば夫も吉  ミセスコナン
遠吠えの消入る空へ初日の出  まんぷく
思い出と日なたでとける雪だるま  いっちゃん
白氷柱透明氷柱吾と君と  未貫
年用意振り向きざまに逃ぐる猫  哲白
積雪や倒れるならばうつ伏せに  遊人
鬼の子を孕む兆しの氷柱かな  内藤羊皐
伏し目なる巫女の福耳冬ぬくし  彩楓
ツルツルの顎へ四日の朝日かな  青柘榴
初富士や新月の眼の競走馬  土井探花
冬の昼四角になりて猫ねむる  アンリルカ
校庭のこんなところに冬桜  西原みどり
寄せ書の放射の如く卒業す  妹のりこ
校庭の徐徐に弱りし雪だるま  ゆりかもめ
大寒のMRIにのまれいく  空山

桜井教人(さくらい きょうと)
 1958年愛媛県生まれ。愛媛県公立小学校教員。いつき組。子規顕彰松山市小中高校生俳句大会選者。第2回大人のための句集コンテスト優秀賞。第24回、29回俳壇賞候補。


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100年投句計画

自由律俳句計画



 ご報告。昨年募集しました「第一回尾崎放哉賞」に一般の部、高校生の部あわせて多くの投句をいただきました。現在選考中ですが、三月中には受賞結果をホームページ等で発表させていただく予定です。尚、投句いただいた方(一般の部)、ご担当の先生方(高校生の部)には、作品集(自由律句誌「青穂」に掲載)をお送りいたします。引き続き今年も第二回を七月〜十一月に募集させていただく予定です。ぜひご応募ください。




みんなに付いて行ったら枯野だった  凡鑚
 作意がほとんど感じられない。良い意味で極めて脱力的。テクニックをほどこし過ぎて失敗する句の多い中では、かえって異彩を放っています。枯野を題材に、己の寂寥感を表現しようとすればするほど、鼻に付くような深みにはまるものですが、揚句はただ「みんなに付いて行った」だけのこと。それ以上なんの意図も表していません。黙って目立たぬよう、みなのするようにしておればひょっとして大変なことになってしまう世の中なのだ……読みようによっては、そんな社会的警告さえ感じられます。




真面目な海鼠と向き合っている  暮井戸
 酢ナマコにすれば旨いナマコも、一匹丸まま包丁で調理しようとすればなかなかグロテスクで気持ち悪い。それが真面目なナマコだとすればなおさら覚悟がいるのだろう。ナマコに人間的性格を与えたところが旨い。いや上手い。

天に盾突く裸木  一走人
 冬空の下に立つ裸木は、ただ春を待って耐えて立っているのではなかった。あれはあれで、天に反抗して盾突いている、という捉え方がユニークだ。「天」「盾突く」「裸木」と、言葉もすべて無駄なく凛として起立している。天にツバ吐くものもいれば、盾突くものもいる。

心中をしくじる一月の弟  内藤羊皐
 弟がいったい誰と心中したのか……。なぜしくじったのか……。どうして一月なのか……。すべて放り投げたままであきれるほど不可解だが、そこには一本の緊張感が貫かれている。裏も表もすべてわかって行き場のない俳句より、よっぽど魅力がある。

春といえ次々に乗れない電車がくる  多満
 来るのは快速とか急行とか特急とか……目的地に行こうとすれば乗れない電車が次々くるのだろう。よくあることだが「春といえ」の一言で一気に俳句になった。これは春愁へとつづく道筋……。

水の流れのかたちに凍る  彩楓
 そんな大きな川ではないと思う。それこそ畦にあるような小さい流れかも。手慣れた写生の句と言えばそれまでだけれど、わずか十四文字で過不足はない。饒舌でない分、むしろ静寂のなかの冷たさがよく伝わってくる。




カーテンをあける西の空に月が白い  レモングラス
トラックに豚おし合えり  ケンケン
小皿に取り分け婚活女  有瀬こうこ
あのレールの向こう日脚伸ぶ  小木さん
白梅の咲き休んでいる  暮井戸
口開いている日向ぼこ  出楽久眞
ポケットの中で割れてしまった寒玉子  のり茶づけ
大寒の胃カメラの鉛味  テツコ
灰色の犬四十パーセント引き  薄荷光
せせらぎに落椿数多  元旦


並選

春の山ボタ山は笑わない  冬のおこじょ
反りひねくれし唇が  KIYOAKI FILM
運命の人懐かしく現る  中山月波
こそあど言葉が増えてゆく朝餉  柝の音
海の容に育つ牡蠣  天野姫城
猫と目が合って気まずい二日酔い  大阪野旅人
おなかすいたとぶらさがる子  台所のキフジン
老人端座牡丹鍋  人日子
大平目先祖の寝相最悪  ちろりん
神の山眠る我が山の神も眠りけり  鯉城
年の暮帰ってくるのはいつなの  すみ
大人になっても右耳朶に霜焼  風来松
羽子つきに見た本性  ヤッチー
ひじきそんなに増えるとは  くらげを
給食の冬林檎磨きあう競争  和音
肩軽くなる小春あちこちにをり  ぺぷちど
風花までも避けてゆく  健次郎
大騒ぎさ都会の雪は  幸
ワイン開けると飲み干さねばと  点額
布団になってずっと寝てたい  24516
鬼ぐいの鰯あっという間の完食  もね
不幸をぎゅうぎゅう詰めにして賑やか  ちゃうりん
寒木になりたくて佇ちつくす  さより
冬枯れの木に冬枯れの蔦  喜多輝女
考えごと堂々巡りして時計の音  笑松
解答欄同じ記号がつづくと不安  うに子
子でも妻でもなくなってぽつぺん  プリマス妙
しもしもから始まる長電話  洒落神戸
おでんを買って小走り  立志
誰でもいいなんて言うなよ月は見てる  小川めぐる
数の子を食べる団塊の数をかぞえる  ぐずみ
バックダンサーの顔はいろいろ  小市
成人の日にベソかく女子  エノコロちゃん
かあさん似だったか初鏡  ミセスコナン
人間は一本の管門松青し  まんぷく
歩いても歩いても砂の上  遊人
白黒青鷺と暮れる年  青柘榴
丁寧に無骨な指の弾く弦  妹のりこ
毛布へ嬰児毛布よりたをやかし  緑の手
寒風へ虎の大あくび  きさらぎ恋衣
平成の力士の手足が長い  ゆりかもめ
お風呂敷広げ日向ぼこ  空山
インフルエンザA型ナスDをふと想った  マカロン星人
点滴を受く三が日  坊太郎


自由律で再挑戦を!

数え日や五觀唱えて歯科予約  ねもじ
道ばたにひっそりと咲く野路すみれ  どんぐりばば
初売りや釣り竿買いに走る夫  どんぐりばば
着ぶくれて小さき顔で座りゐる  みつよ
初鏡めでたき朝を思ひけり  みつよ
冬萌や一番小さき靴用意  あおい


きむらけんじ
 1948年生まれ。第一回放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律 地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技 妄想、泥酔。


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100年俳句計画

詰め俳句計画



次の(  )の中に共通する春の季語を入れてください。

ひんやりと(   )の道を来し手紙
大鍋のスープへ融けてゆく(   )


 今月も沢山の回答ありがとうございました! それでは参ります!

ひんやりと冬日の道を来し手紙
大鍋のスープへ融けてゆく冬日
 立志さん、ごめんなさい、今回は春の季語です〜。ですので、級外とさせていただきます。

今月の審議
ひんやりと菜花の道を来し手紙
大鍋のスープへ融けてゆく菜花
 レモングラスさん。菜花なのですが、私の見た歳時記では、菜の花の傍題にはなく……ネットで調べてこれは野菜(いわゆる花や蕾を食べる系の)と取らせていただきました。季語として認められているのかどうか、ということがありますが、中に花菜等も含まれるということなので、これから季語として認知が深まっていくのかな、とも思いました。美味しそう。6級(-2)。

ひんやりとたにしの道を来し手紙
大鍋のスープへ融けてゆくたにし
 くらげをさん。前句、たにしが運んできてくれたようで、ちょっとファンタジックな感じもあり! 後句、ごめんなさい、リアルすぎるというか、融けちゃいかん気がするんですが……5級。くろしゃさんは嫁菜。食べられる葉っぱ系は、後句、融けるという表現が合うかどうかはちょっと悩みました。前句、嫁菜ってところが明るい感じになります。3級。柝の音さんは壬生菜。前句、京都あたりを通ってきたのかな。場所が見えてきました。4級。dolce@地味ーずさん、根本葉音さんは水菜。こちらは瑞々しさがひんやりとにいいなと思います。4級。松浦麗久さんは花菜。花菜だから食べられる種類ですね。栽培されている明るい畑の間を抜けてきたのかも。3級。

ひんやりと繁縷の道を来し手紙
大鍋のスープへ融けてゆく繁縷
 あいむ李景さん。正直に告白しますが、漢字で書く自信はありません。一つ勉強になりました。前句はよくわかります。後句……ううーん、苦そう……。4級。のり茶づけさんは桜。前句、きっといい予感のする手紙。ひんやりが、花冷えの頃を思わせます。後句、食べられないんだけど、花びらが入ってしまっても気にならないかも。2級。小木さんは椿。後句……どうしても椿そのものを思うので、ちょっと読み解きづらいかも。4級。ジュミーさん、健次郎さんは木の芽。春の木の芽の総称としてとりました。前句、春を待つように、手紙もまた希望を含んでいるのでしょう。3級。

ひんやりと春光の道を来し手紙
大鍋のスープへ融けてゆく春光
 ねもじさん。前句、春光の明るさとひんやりとの距離がちょっとあるように思います。モノではない季語の分、後句は感覚的に融けていきそうで、美味しくなりそう。ですが、前句のリズムが……。3級。幸さんと小市さんは春愁。前句、春愁と手紙はやっぱり似合いますね。ただ、口に出すと一音分、もたっとした感じになるかな。後句は愁いも融けてなくなってしまえばいいのに。3級。KIYOAKI FILMさんは春風。前句、すこし冷たい春風を感じられます。が、やっぱり四音になるとリズムが気になる。3級。

ひんやりと春日の道を来し手紙
大鍋のスープへ融けてゆく春日
 洒落神戸さん。前句、春日にはやはり暖かさを思うので、ひんやりととの距離があるように思います。後句は光が融けて美味しそうです。3級。ちゃうりんさんは遅春。前句、遅春のもどかしさがひんやりとと似合っているように思います。2級。河原撫子さんと一走人さんは遅日。暮れていくのが遅くなるところに焦点がある季語なので、となると、ひんやりとよりはもう少し温度があってもいいように思いました。3級。とべのひさのさん、夏柿さん、次郎の飼い主さん、プリマス妙さん、遊人さん、空山さん、坊太郎さんは余寒。前句、ひんやりとと余感がすこし近い気がします。けど、わかる感じ。後句は融けて暖かくなって欲しい。3級。

ひんやりと二月の道を来し手紙
大鍋のスープへ融けてゆく二月
 冬のおこじょさん、すみさん、すりいぴいさん、24516さん、久我恒子さん、エノコロちゃんさん、彩楓さん。二月、なんと懐の広い季語! 寒さも暖かさも内包して、ひんやりとの感覚も、手紙に対する思いも、スープも完成させそう。1級。大阪野旅人さん、童夢U世さん、ヤッチーさん、斎乃雪さん、元旦さん、青柘榴さん、カシオペアさんは斑雪。前句、手紙の向こうに大きな景まで見えてくる。後句、窓の向こうの景としてみればわかるような気も。だんだんと地肌を見せていくのは、スープに融けていたせいかも。2級。中山月波さん、片野瑞木さん、人日子さん、ひでやんさん、きさらぎ恋衣さん、そしてマイマイ師匠は日永。前句、日永とひんやりが合うかどうか……。後句、大鍋に溶けたらとろっと美味しそうに思える。2級。師匠、最後までありがとうございました! 天野姫城さん、猫楽さん、ちろりんさん、出楽久眞さん、ほろよいさん、誉茂子さん、喜多輝女さん、笑松さん、うに子さん、小川めぐるさん、柊 月子さん、ゆりかもめさんは朧、明惟久里さんはおぼろ。おお……朧の方がこんなに沢山! そう……正解と比べていただくとあれなんですが、こちらは夜の景、少しひんやり感が強く思えます。そして、スープへ融けたときの、質量みたいなのがちょっと重いようにも……わずかな差ではあると思うのですが。2級。


今月の正解

ひんやりと霞の道を来し手紙
大鍋のスープへ融けてゆく霞
 しげこさん、はやみさん、野良古さん、内藤羊皐さん、妹のりこさん。前句のイメージだけでなく、実際にすこし湿度を持っている感じ、後句の融けて春のエッセンスが取り込まれるんじゃないか、という感じ……いかがでしょうか。スープ、へたうま仙人さんに届くといいなあ……1級で!

 という訳で、半年間という短い間でしたが、弟子にお付き合いいただきましてありがとうございました。今回担当させていただいて、季語、歳時記への接し方がまた変わったように思いました。これから師匠にバトンタッチしますが、今後とも詰め俳句をご贔屓くださいますよう、よろしくお願いいたします!


次の(  )の中に共通する春または夏の季語を入れてください。(出題 マイマイ)

参道を来て(    )ところ
(    )やら水に入るやら

3月20日締切 結果は5月号に掲載


このコーナーは『新日本大歳時記』(講談社)を参考にして、選者が勝手にランク付けをしています。新しい季語などを投稿される際は、歳時記、季寄せ名を併せて明記していただけると助かります!

山澤香奈(やまざわ かな)
 第3回俳句甲子園出場。句集シングル『線路とぶらんこ』(マルコボ.コム)。

マイマイ
 2003年11月頃よりラジオに投句を始める。割と生活派俳人だったが、最近は?? 第1回、第4回百年俳句賞(旧大人コン)優秀賞受賞。2013年句集シングル『翼竜系統樹』上梓。将棋推定初段。棋友募集中。宇宙と生命を題材に詠んだ句集『宇宙開闢以降』マルコボオンラインショップにて発売中。


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100年投句計画 投句方法



雑詠俳句計画
自由律俳句計画
詰め俳句計画

 「雑詠俳句計画」では、寄せられた投句を一括して、各選者が選句します。各選者に宛てて個別の投句を行うものではありません。

5月号掲載分締切 3月20日(火)

投句方法

 投句先コーナー名
 俳号(無ければ本名の名前のみ)
 本名
 電話番号
 住所

 以上の必要事項を書き添えて、編集室「100年投句計画」係までお寄せください。メールの場合は、件名を「100年投句計画」としてください。
 「雑詠俳句計画」「自由律俳句計画」はそれぞれ2句ずつまで投句できます。また、「詰め俳句計画」は季語1つのみを投稿できます。
 各コーナーの投句は、ひとつにまとめて送っていただいても構いません。

メール宛先
magazine@marukobo.com

投稿専用ページ
http://marukobo.com/toukou/

さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。(「俳句ポスト365」のページ参照)


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短歌の窓


選者
短歌誌『未来』会員 渡部光一郎


特選

イメージはプロヴァンスなの花柄のカーテンにしてウサギを飼うの  有瀬こうこ
 家のプランを立てているところなのだろうか。上句の「なの」、下句の「の」で、もう押し切られてしまう感じだ。プロヴァンスのイメージがどんなものか評者には分からないが、それ抜きでもこの歌は面白く読める。おもいきった文体を採用して成功した歌。


並選

ラブホテル火災の記事を妻が読む何故かトイレまで追ってきて読む  24516
 可笑しい。ただ読んでいるだけでも妙なおかしさがあるのに、トイレまでついてきて読んでいるというおかしさ。「何故か」は入れなくても「なぜか」と思わせる力があるので、ここでは省いてもいいかもしれない。

カレー屋もパン屋も匂う中之島ジョギングの人通り過ぎゆく  ケンケン
 力が抜けていていい歌。たぶん実景のままなのだろう。いい素材をひろってきた。


コメント

冬満月眺めるたびに考えるシュークリームの功罪につき  中山月波
 「シュークリームの功罪」がポイント。こういう謎を含む作品については、意味が分からないままに楽しめる場合と、そうでない場合がある。今回はもう少し読者に分かりやすい謎の方がいいと評者には思えたがどうか。

夜行バス睡眠不足幸いし動くゆりかご瞬時新宿  青柘榴
 歌意はよく分かるが、言葉がごたごたしているので、もう少し整理を。下句の「動くゆりかご瞬時新宿」というのもやや乱暴。

ああ言えばこう言う夫と二人きりショートステイに母預けた日  一走人
 母をショートステイにあずけて二人きりになった。母が家にいたときは夫婦でああだこうだと言い合う時間もなかったのだが、いまはそれがある。という歌意だと受け取っていいのだろうか。リアルな情景である。

今朝もまた同じ重さに水を汲み同じ重さの味噌を溶く鍋  久我恒子
 毎朝の味噌汁のことだろうか。発見は確かにあるが、難しい言い方になってしまったのが残念。

幼子の笑顔を乗せてゆつたりとポニーは歩むかくもやさしく  出楽久眞
 幼児の笑顔とポニー。ほほえましい取り合わせで歌意はよくわかるが、「かくもやさしく」とまで言わなくてもよい。特に「かくも」は駄目押しの感が強いので再考を。

若き日の我よりゆったり子育てす娘と孫に夫笑いをる  ぎんなん
 抽象的な言い回しのため、少し分かりにくい。「ゆっくりとした子育て」がどういったことを指すのか、具体的に示すと読者の共感が得られるだろう。なお、「子育て」をするのが「娘」のことであるなら、「子育てする」としたほうがよい。「子育てす」だとここでいったん切れてしまい、「子育て」をしている主格が誰なのか分かりにくくなってしまう。

一束の野の水仙を買ひ求む葬の短き旅の終はりに  風
 「葬の短き旅」とは「葬儀に参加するための旅」という意味か。ほかの言い方を考えてもよい。あと、「野の水仙」を買うという言い方にやや違和感を覚えた。

石段の寒さ忘るる甘酒や巫女のやさしき笑顔と共に  明 惟久里
 素直な詠いぶりだが、「甘酒」のあとの「や」がややきつく感じるので再考してみてもいい。


自作の短歌(2首まで)を下記までお送り下さい。締切は毎月20日。
専用フォーム
http://www.marukobo.com/tanka/
専用Email
tanka@marukobo.com


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自作の俳句を英語に訳そう!

百人百様 E-haiku



評 菅 紀子


 おかげさまでこのコラムもいつの間にか2年が経ちました。ガチガチで始めた私も皆様と共に成長させていただき気持ちほぐれてきました。一応2年を区切りとして始めたので、新年度から少し構成を一新しようと考えています。新たな春、ですね。


1.
sit about the winter river
We are gospel kids!
Standup,my song

冬の川囲みゴスペルキッズの歌  KIYOAKI FILM

Winter river
song of the gospel kids
resonates around


2.
winter is shout
Eternal life!
God of heaven

冬短し永遠の命よ天国よ  KIYOAKI FILM

winter is short
eternal is life
Heavenly God

KIYOAKI FILM 辞書を読み、ノートにつづりを書くようになりました。言葉は楽しいです。文法はさっぱりです。


3.
song of bush warbler
seem to be
alkaline

うぐいすの声はアルカリ性らしい  片野瑞木

alkaline
sounds the song of
a bush warbler

紀 倒置してみました。


4.

a light snowfall
in spring
robot fall silent

黙りこむ人型ロボット春の雪  片野瑞木

a humanoid robot
in a long silence
spring snow


5.
a ridge-end roof tile with a demon face
in the debris
Million narcissi

万の水仙瓦礫の鬼瓦  ほろよい

sea of narcissus
a pug-ugly
in the debris

ほろよい 原句は「万」にしましたが……英語にすると ten thousand と説明っぽいかなと思い「多い数」という意味で milionしてみましたが……どうでしょう?

紀:that's eaten は that is eatenの略で、既にbe動詞+過去分詞 の受身形になっているのでこれで「食べられた」です。万の、はたくさんの、という意味で、たしかに多い数字で表現するやりかたもありますが、millions of だと何百万もの、で多すぎるかもしれません。「一面の」という表現で sea of を見つけました。水仙の字に水があるので海のようにたくさんの、とすると合うかもしれないなとも思って。


6.
a spring shawl-
neon signs' waxing and waning
like the moon

春ショール月の満ち欠けめくネオン  久我恒子

a spring shawl
neon blinks waxing and waning
like the moon


7.
butterflies in a daytime-
baby clothes are folded up
in white

蝶の昼うぶ着は白く畳まれて  久我恒子

daytime butterflies
baby clothes
folded up in whiteness


8.
without disentangling,
the puzzle ring will just be
the shadow of spring

知恵の輪の解けずに春の影となる  チャンヒ

a puzzle ring
left disentangled
casts its spring shadow


9.
dandelions are
an afterimage
of a merry-go-round.

蒲公英はメリーゴーランドの残像  チャンヒ


10.
the flaming colors
leaves of the wax tree
forget to being in a mad bath

櫨紅葉ここがぬた場と忘らるる  明 惟久里

colored sumac
there used to be
a wallow

紀 蝋に使う櫨(ハゼノキ)独自の紅葉とか、動物が泥遊びするところをぬた場というなど、日本語の勉強になります。原句の「と」を解釈しかねたのですが、かつてはそこにぬた場があったという意味に訳してみました。


11.

a glass bowl
lapis-lazuli-colored
for arranging a canna

瑠璃色やカンナなげいるガラス  明 惟久里

canna
in a glass bowl
of lapis lazuli hue

明 惟久里 明けましておめでとうございます。syllableは、最初から英語で句を作るのではなく、英訳の時は難しいですね。しかし一応意識しながら訳しています。

紀 明さん、明けましておめでとうございます。ガラス容器に入っていれば投げ入れた切り花と想像がつくので in で処理し、色を強調した詩語 hue を使ってみました。Syllableについては「一応意識しながら訳」す程度が妥当だと思います。


12.
the boy
look about
heap of deciduous trees

少年は枯れ木の山を探検す  彩楓

the boy
looks around
the mounted deadwood

boys
explore the mountain
remained deadwood


13.
the coldest season
above all
white soup plate

大寒のわけても白きスープ皿  彩楓

a soup plate
on the coldest day in winter
whiter than any other day

彩楓 一句目の探検、explore より look about を選んだのですがどちらがいいでしょうか? また二句目の「わけても」がこれでいいのか……添削、毎回楽しみです。

紀 まず、「枯れ木の山」が枯れ木のこんもり積み上がったものか、枯れ木に覆われた山なのか、悩みました。look aboutはよく見る意なので前者に、exploreは足を踏み込んで探検するイメージから後者に使ってみました。「わけても」の語感、この句の使い方として好きですね。ただこの語、英訳では何と比べていっそう白いのか、理屈っぽくなリがち。


14.
Last year,this year
May the Force be with you

去年今年君よフォースと共にあれ  すずき徳三郎

as the last year
may the Force be with you
this year

すずき徳三郎 大晦日にスターウォーズ8を観に行くと言ってた友人は結局正月の3日に行ったとか。自分は7日に行きました。作品としての評価は自分の中では何故か高くない(入り込めない)スターウォーズシリーズですが、様々な「因」を持った登場人物(?)がある「縁」に触れて「果」として善悪に別れるところと、フォースとはいったい何かに興味があります。フォースは昔「理力」と訳されてましたが、他に何か相応しい訳があれば御教示ください。

紀 もう固有名詞的に定着しているのでフォースでよいのではないでしょうか。過去について御願いをするのは論理的にどうかということで、「去年のように今年もこうあってほしい」と訳しました。


15.
the first temple visit of the year
I want to be the English haiku master jedi

初詣夢は英語で酔い詠む  すずき徳三郎

the first shrine visit
my new year resolution is
to indulge in English haiku

すずき徳三郎 昨年の7月22日に同時通訳の方と話した10分ほどの出来事が、年後半の行動の潮目が変わるきっかけとなりました。

紀 潮目は自分の心が変えるのですね。初詣は寺でなく神社に行くのでshrineに(おそらく既存の訳をした人が神仏の区別のつかない人だったのでしょう)、中句で「新年の抱負」という語を使って「夢」を表現したので前のof the yearをそれに含めて発句の字数を減らし、「英語で酔い詠む」は英語俳句に耽ると言い換えてみました。


菅 紀子(かん のりこ)
(有)クラパムコモンカンパニー代表。通 翻訳、メディアによる姉妹都市交流コーディネーター。社名は夏目漱石が下宿したロンドンの地名から。歩道短歌会同人。人文学修士、翻訳修士。松山大学非常勤講師。(Hailstone Haiku Circle blog ICEBOX Contributor)(漱石と彼のライバル重見周吉、日系移民研究)


自作の俳句およびそれを英語俳句にしたもの(2句まで)を募集!
応募先
WEB http://marukobo.com/eigo/
Email eigo@marukobo.com
5月号掲載分締切 3月20日(火)


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百年歳時記


夏井いつき

最終回


 有名俳人の一句を紹介するページは世に数々あれど、「市井の逸品」とも呼べる一句を取り上げ鑑賞する記事はそんなに多くありません。
 百年先に残したい佳句秀句奇々怪々句を見いだし、皆さんと共に味わおうという連載は、名づけて「百年歳時記」。夏井いつきの目に触れた様々な作品を毎月紹介鑑賞していきます。


ラグビーのキック一瞬とは長し  ちゃうりん
 残り時間はいくらもないという場面。トライを決めて同点に追いついての「キック」。念入りに位置を決め、ゴールポストを睨み、ルーティンどおりの歩数をとっての助走、引き締まる筋肉、土を掴む靴底のスパイク、「一瞬」のキック! くるくる回転しながらゴールポストへと飛んでいくボールを見守る選手たちと何万人の観客の目。ゴールポストの間を通過したことが確認されるまでの時間を「一瞬とは長し」と表現した措辞の確かさ。心情を述べつつも動画映像を表現し得ている点に拍手を贈りたい作品です。
 秋元不死男の「子を殴ちしながき一瞬天の蝉」の「一瞬」は心理描写。掲出句「一瞬とは長し」とは趣を異にしていると考えます。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』2月2日掲載分)

酢酸の臭ふフヰルムや炭をつぐ  せり坊
 「酢酸」は写真を現像するときの定着液(停止液)として使われます。最近マイクロフィルムが酢酸化する現象が起こっているようですが、下五の季語「炭をつぐ」という時代の手触りから判断すると、昭和の頃の古い暗室を思うのが妥当ではないでしょうか。
 昭和三年生まれの父はカメラに凝っていました。我が家の廊下には、水洗い後の「フヰルム」がずらりと干されていたものです。その「フヰルム」を見上げながら、父は火鉢の「炭」をつぎ、ショートホープに火をつけてふかし始める。「酢酸」の臭いにかぶさるように「炭」の爆ぜる匂いがしてきます。ある時代の手触りをありありと描く、これが俳句の力なのだなと改めて感じ入りました。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』12月22日掲載分)

探梅や天智天武の恋幾たび  めいおう星
 「雪深い山に梅を尋ねること」を意味する「探梅」は冬の季語。春告草とも呼ばれる梅を探しに行く風流が、季語の核となります。
 天智天皇、天武天皇が生きていた時代には、花といえば「梅」を意味していました。額田王をめぐる三角関係説もある、兄の「天智」と弟の「天武」。彼らの恋が「恋幾たび」も華やいだ時代には、かぐわしい梅の香りが似合います。雪の残る深い山に分け入っていく「探梅」のイメージは、かの時代の相聞歌の世界とも重なります。「探梅」の野生味と情趣を表現しようとする時、万葉時代の恋と取り合わせる手があったかと、膝を打った次第です。上五「や」から下五「幾たび」でおさめるバランス感覚もさすがの一句です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』1月19日掲載分)

本分を説く掃除機に猫の子に  抹茶金魚
 「本分を説く」ですから何か哲学的なことでも言い出すのかなと思ったら「掃除機に」と続く不思議。掃除機の本分って何だ?と思いつつ読み進むと、今度は「猫の子」が登場する楽しさ。下五「猫の子に」までを読み終えると、場面が一気に動き出します。
 「掃除機」を動かし始めると、いつも「猫の子」が好奇心満々に近づいてくるのでしょう。チョロチョロチョロチヨロくっついてきたりチョッカイ出したりする「猫の子」の動作や表情がありありと見えてきます。「掃除機」はちゃんと掃除するものなのよ、「猫の子」はおとなしくそこに座ってるものなのよ、とそれぞれの「本分」を説きつつも「猫の子」の可愛さに目を細める飼い主です。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』2月9日放送分)

もう四がつちいさい子にはもどれない  むらさき5歳
 「もう四がつ」がやってくる。四月になったら、年長さんのクラスになる。一年生になる。「もうちいさい子にはもどれない」んだという感慨のなんと可愛いことでしょう。甘えたいけど、背伸びしたい。成長したいけど、不安もある。そんな心の揺れを子どもながらに感じ取っているのですねえ。還暦60歳を迎えた私ですが、新しいことに踏み出す時はいつもワクワクと不安が交錯します。
 といいつつ実は、長年温めてきた「百年歳時記」構想の新しいカタチを思いつきました! 思いついたらそれを実行に移したくてウズウズしてきました。ご愛読頂きました連載をひとまず最終回として、新しい「百年歳時記」構想に踏み出します。ワクワクしてます。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』2月9日放送分)


百年歳時記は、南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』や
松山市公式サイト『俳句ポスト365』(http://haikutown.jp/post/)
などに投句された俳句を紹介しています。


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俳句の街 まつやま

俳句ポスト365



協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/


金曜日優秀句
2018年1月度


探梅(たんばい)


スクナヒコナの溺れし川よ探梅行  霧子
探梅やぽつくり寺にちよいと寄り  華女
探梅や青猫のゐる墓地抜けて  海風山本
探梅や去年無かった川に会う  灰色狼
この先は恐ろしヶ淵探海行  きんえんくん
探梅の声や静かな活断層  酒井おかわり
探梅といふも日向の長つ尻  藤井祐喜
探梅にちと深すぎる山である  井上じろ
無理に横切りたく探梅の斜面  ウェンズデー正人
在りそうな場所は最後に探梅行  うさぎまんじゅう


探梅や天智天武の恋幾たび  めいおう星


3月の兼題
公式サイト内の「俳句投稿」より作品をお寄せください。
投句期間を過ぎますと投稿ページは次の兼題の募集に自動的に切り替わります。ご投稿はお早めに。

投句期間 2月22日〜3月7日
三色菫(さんしきすみれ)
晩春/植物
紫、黄、白の三色が混じる菫の意味で、一般的にはパンジーと呼ばれる。蝶の翅を広げたような形をした、ヨーロッパ原産のスミレ科の一年草。日本には江戸末期に渡来した。

投句期間 3月8日〜3月21日
金盞花(きんせんか)
晩春/植物
キク科の一年草。冬でも温度の高いところや温室で栽培され、菊に似た鮮やかな橙色または黄色の花をつける。花期が長く丈夫で、切り花として重宝される。

参考文献 『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


 「俳句ポスト365」は携帯電話からもご参加いただけます。
 「俳句ポスト365」公式Facebookページ開設中! 公式サイトに設置しておりますリンクよりお入りください。毎回の兼題のお知らせを中心にお伝えしながら、皆様の返信欄への書き込みもお待ちしております。


 募集の兼題は変更される場合があります。「俳句ポスト365」のサイトで最新の情報をご確認ください。


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一句一遊情報局



協力 南海放送


金曜日優秀句
2018年1月度


正月(しょうがつ)

極堂の軸のんどりとお正月  蓼蟲
日が昇る海の盃お正月  モッツァレラえのくし
お正月海が朝日を産んだから  モッツァレラ2号
正月の風美しき日本の旗  朝陽
父のごと美しく拍手お正月  きさらぎ恋衣
正月の枯野なにやら真新し  越智空子
正月を眠らぬ溶鉱炉赤し  灰色狼
正月のふかくただしき茶のみどり  小野更紗
カピバラの顔した祖母と笑う正月  516
正月の腹筋緩むダイオウイカ  トポル
正月も卵二個産む鳥屋の鳥  るりとうわた
正月や金の小鳥を胸に飼い  あるきしちはる


お正月鯉にも花麩食わせけり  霞山旅
正月や銃担ぎ山神に礼  ウィズダム




雪だるま広場一周分の丈  宗本智之
稽古場に四股踏む楽しどさっと雪  まるかじり
作業場の隅の木屑の冬の蜂  ポメロ親父
水仙は活けし場所にて匂いけり  
轟々と唸る暖房試験場  みいみ
洗い場の湯気ゆたかなる御慶かな  富山の露玉
淑気満つ右に東京競馬場  まどん
ニッポンに足の踏み場もなく淑気  江口小春
獅子舞の後足なる場数かな  マイマイ
どんど場の片目達磨と目の合うて  出楽久眞
持場より離れたる香具師火事近し  百草千樹
ゲネプロは明日稽古場のストーブは熱い  冬のおこ女
場当たりは三日リノリューム曳きのぞむ  無窮花
山の夜の水場の氷柱ってしあわせ  のぶちゃん
極寒の赤の広場のきらきらす  むめも
寒月の美しきや磁場のゆがむほど  きさらぎ恋衣


どこかにあるかれののばしょがわからない  かいる



テーマ「南予」

海二つ見える半島風光る  だんご虫
鷹の背のはるか風力発電所  みいみ
六万本の躑躅の雨や富士山  猫愛すクリーム
椎の花かをる石段かをる海  都乃あざみ
牛鬼の角に夏雲ひっかかる  妹のりこ
蝮食わす横綱牛の無敵かな  大西まさのり
闘牛の腹打つふぐり大暑来る  一阿蘇二鷲三ピーマン
ぶち当たる牛の頭骨乾風吹く  小泉岩魚
爺さんのとっぽ藷粥噴きしたる  太郎
仇敵のごと食いちぎる東山  霊山
ほしいのはヒオウギ貝の貝釦  篠原そも
むらさきのひあふぎがいのからに雪  きさらぎ恋衣
南の真珠のあぶく春の色  てん点
真珠てふ月の涙を賜りぬ  小野更紗


まほろばは南にありてみかんの香  ひそか


鍋破(なべこわし)

親指ねじ込み拳もて剥ぐ鍋破  一阿蘇二鷲三ピーマン
鍋破軍手突き抜く長き棘  豊田すばる
袖口に噛みつくほどの鍋破  たけのこ
右顎でフッと笑いぬ鍋破  星野黴丸
鍋破その清げなる顎と棘  きさらぎ恋衣
いかづちを食うてしもたか鍋破  凡鑽
北海のリア王めくや鍋破  西川由野
あぶく立つ鍋より睨む鍋破  たぁさん
すはすはと鰭吸われおり鍋破  烏天狗
母はママカリ父の故郷は鍋破  篠原そも
赴任地は四時半に暮れ鍋破  山田ノムオー
二年目のオロロンの島鍋破  まどん


古鍋の使い納めや鍋破  ひでやん
鍋破友の持ち来る鬼ごろし  小市


投句募集中の兼題

投句締切 3月11日

椿餅(つばきもち)
晩春/人事
餡をくるんだ餅を2枚の椿の葉にはさんだもの。薄紅色に染められた道明寺糒で作ることが多く、濃い緑の葉との対比が美しい。

春休(はるやすみ)
仲春/人事
各学校で、夏休みや冬休みと並ぶ、春の休暇。3月の終業式の翌日から、4月の始業式や入学式の前日までの約2週間。進級や進学などによる開放感を伴う。


投句締切 3月25日


季語ではない兼題です。「製」の字が詠み込まれていれば、用い方は問いません。季語は当季を原則として、自由に選んでください。

八重桜(やえざくら)
晩春/植物
八重咲きの桜の総称。もとは、山桜から変化したもの。桜の中では最も花期が遅い。花びらは雄しべが変化したもので、一般的には実はならない。

参考文献『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句宛先
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとにしたものです。俳句ならびに俳号が実際とは異なっている場合がありますのでご了承ください。


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今回のお題句に対する投句から次のお題句を選び繋げてゆく

疑似俳句対局


選者 美杉しげり


今回のお題句
春兆すぽんぽん船に好々爺  小川めぐる


候補句

 まず、再度ルールの確認。「お題句の季語の一部を季語として頂いた場合は減点対象」です。たとえば「新聞を春分と聞き大笑」という句。この場合、頂いた「春」を「春分」という季語として使用しているので、残念ながら減点対象でしょう。

つれづれに春画購ふなり花の昼  24516
落椿春慶塗の艶めきて  大須賀 純

 同じく「春」を使っていても、「春画」「春慶塗」は季語ではないのでOKとなります。上手な使い方ですね。どちらの句も何だか艶っぽくて。
 また、「春近しすっぽんぽんのおぼん芸」「ぽんぽん」を自立語として頂いたとありましたが、お題句の場合は「ぽんぽん船」ですから「ぽんぽん」だけを自立語として頂くというのは、ちょっと苦しいと判断。(季語の「春」もお題句にありますし)
急いで詠むと、こういう事もありますよね。投句の前に、ひと呼吸おいて確認しましょ。

爺二人婆八人の同窓会  藍植生

 減点対象句を除けば、こちらが投句一番乗り。数詞が妙にリアルです。
 そして、ほのぼのだったり、一癖ありそうだったりな、お爺さま方。

ポン煎餅おやつに爺婆野遊へ  ぐずみ
爺ちゃんの懐手魔法使いの手  天野姫城
朧月爺と呼ばれてけふの酒  夏柿
闇汁を囲む老爺の五人衆  出楽久眞

 「好」を自立語として頂いたという句がこんなに! 

夫婦して好みの違う桜餅  芳香
きんつばは義母の好物梅ふふむ  小川めぐる
姉妹好み分かれる官女雛  笑松
本日はお日柄も好く花の雨  すみ
バレンタイン数値化される好感度  洒落神戸
侍に蒲公英好きか聞いてみる  天野姫城

 こうしてみると「好」は意外に多彩な表情を持っているのですね。
好き嫌ひ好き嫌ひ好き冴返る  凡鑽
強東風や背から抱かれ言えぬ「好き」  薄荷光
好きな歌詰めしテープを壊し春  土井探花
 こちら、ちょっと胸が切なくなる「好」句。思わず若い頃を思い出したりして。
ニーハオ(原句では漢字)と歩み来る君風光る  野良古
這餃子很好吃バ(口偏に巴)寒四郎
(ジャージャオズヘンハオチーバ寒四郎)  ひでやん
(意味「この餃子めっちゃ美味いわ寒四郎」)
 野良古さんの「ニーハオ」句は、街角で実際に見かけそうな景ですね。季語も気持ちいい。
 しかし、ひでやんさんの句は、ワタクシ初めてお目にかかる中国語俳句(と言っていいのか?)! 作者の注釈がなければ、読みも意味も分かりませんでした。でも、声に出してみると、おお、なかなかリズムが良い? 寒四郎との取合せも面白い。

釣船の下がる喫水花の頃  斎乃雪
花片や船頭笠へ色添へて  冬のおこじょ
菜の花と菜の花結ぶ渡し船  かま猫
油まじ捕鯨船団帰港する  誉茂子

 船と花の取合せは意外とはまりますね。斎乃雪さん、冬のおこじょさん、かま猫さんの句は、小さな船でしょうね。いかにも長閑な景色。誉茂子さんの句は現代の調査捕鯨というよりも、かつて捕鯨が盛んだった頃を思わせますね。油まじという季語の力でしょうか。

 こちら、「兆」を自立語として頂いた句たち。

桜餅二つ並んで恋兆す  中山月波
兆候にハッハッ手放せないマスク  青柘榴
予兆ならタンポポの絮吹く口に  テツコ
吉兆の彩雲ひかるブーケトス  柝の音
淡雪や居酒屋兆治のエンディング  根本葉音

 なるほど「居酒屋兆治」という手もありましたね。雪ではなく「淡雪」なのがいい感じ。

百兆の柳絮海峡渡る空  星埜黴円
1兆の結晶青き樹氷かな  大槻税悦

 そしてこちらは単位としての「兆」。いろんな切り口があるものです。

吉凶の兆す四月の鏡かな  すりいぴい

 さまざまな想像をかき立てられる句です。鏡のひんやりした質感と四月という季語の持つ世界の対比にも惹かれました。鏡中に桜がはらはらと散っていそうなイメージ。

花の雲ぽんぽん船へ風揃ふ  久我恒子

 少し小高い丘あたりからの景色でしょうか。うららかで眠くなりそうな、花の昼。「風揃ふ」が、その穏やかな空気を伝えてくれます。


次回お題句

雪だるま想ひ出いつも不格好  柊 月子

 思い出の中の雪だるまはいつも不格好とも読めますが、私の思い出はどれもこれも不格好なことばかりという、少し切ないニュアンスだと読みました。雪だるまも、なんとなく泣き顔のような。
 というわけで、次回はこちらがお題句です。よろしく!


美杉しげり
 第8回俳句界賞受賞。4年ほど前から小説も書き始め、短編「瑠璃」で第21回やまなし文学賞佳作。美杉しげりはその時からのペンネーム。

毎月25日頃に、投句フォームにてお題句を発表します。投句締切は毎月末日。

疑似俳句対局投句フォームアドレス
http://marukobo.com/taikyoku/


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THE BEATLES 213 PROJECT


第6回
リンゴ! ザ ビートルズ

文 夜市


 リンゴファンのみなさん、お待たせしました。デビューアルバムから実質的なラストアルバムまで、それぞれの時代のリンゴの名曲をピックアップしてみました。寡黙で引っ込み思案な印象のリンゴですが、やはりその存在感なしにビートルズは成立しなかったのじゃないでしょうか。


ボーイズ

春火鉢叩いて唄う男の子  暮井戸

 デビューアルバム「プリーズ プリーズ ミー」収録。スタジオライブ録音が一般的だったこの時代、弾き語りならぬドラムスの叩き語りで唄うリンゴ。間奏では「オーライ ジョージ!」とアドリブで叫んだりしてノリノリのボーイズぶりです。

四人目のテディーボーイさ胸に薔薇  ツバメ号

 アルバム「プリーズ プリーズ ミー」のA面はポール、ジョン、ジョージ、リンゴの順に次々とリードボーカルが入れ替わり、さながらメンバー紹介といった様相。4番目のボーイズ、満を持して登場って感じですね。

男の子投げ散らかして雛あられ  時計子


アイ ウォナ ビー ユア マン

てらてらのハーレーぶつ飛ばす余寒  久我恒子

 セカンドアルバム「ウィズ ザ ビートルズ」収録。当時のテディーボーイ(ロンドン界隈の不良仲間のことだそうです)がハーレーに乗っていたかどうかは定かでありませんが、ストレートなロックンロールの雰囲気がビシビシ伝わって来ます。ビートルズもデビュー前は皮ジャンにリーゼントでキメてたんです
よね。

春の駒一直線に駆け抜けん  斎乃雪

 スリーコードにほぼアイ ウォナ ビー ユア マンしか言ってない歌詞!まさに120秒で駆け抜けた駿馬って感じの1曲ですよね。

いいひとはもうたくさんだ青嵐  猫正宗

 ポールが歌うバックコーラスの方がかっこいいんじゃないの、なんて声も聞こえてきそうなこの曲。しかし「いい人」リンゴはそんなこと気にしないのです。

叫んでも囁くもよし猫の恋  さすけ


イエロー サブマリン

艦長はリンゴ、サイケな海へ春  チャンヒ

 「リボルバー」「イエロー サブマリン」の両アルバムに収録。アニメーション映画「イエロー サブマリン」は1968年7月の公開。前年に発表された名アルバム「サージェント ペパーズ ロンリー ハーツ クラブ バンド」のテイストを引き継いだサイケデリックかつハートウォーミングな作品でした。

小節効かせ公認音頭冬林檎  すみ

 ありましたなあ、金沢明子さんの「イエロー サブマリン音頭」。1982年の発売だそうです。

脱力の歌声響く春の暮れ  越境島
探信音を打つ菜の花色の僚船に  風来松


オクトパス ガーデン

ぷくぷくと遊びをせんと手長蛸  暮井戸

 実質的なビートルズのラストアルバム「アビー ロード」収録。リンゴ本人が作詞作曲を手がけた数少ないナンバーの一つです。。前作「イエロー サブマリン」にも増してリンゴの脱力感あふれる唄いぶりに癒されます。「遊びをせんと」は梁塵秘抄から来てるんでしょうね。

蛸壺へおいでおいでとアルペジオ  ツバメ号

 ジョンの弾くアルペジオのサイドギターが、聴く人を海底のパラダイスへと誘います。解散を控え人間関係には様々な葛藤があったとされるこの時期ですが、4人とも実に楽しそうに演奏しているのはやはりリンゴの人徳でしょうか。

宝船ゆらり絡まる足いくつ  井玉

 もしかしたらこちらはビートルズ解散を暗示している句なのかなあ。

プクプクと海底散歩春の昼  れんげ畑
いかのぼり君も私ものぼせもん  元旦



第8回 兼題曲
テーマ「レット イット ビー特集」
 トゥ オブ アス
 ディグ ア ポニー
 アクロス ザ ユニバース
 ディグ イット
 レット イット ビー
 兼題曲を詠んだ俳句を左記までお送り下さい。

専用フォーム http://marukobo.com/beatles/
専用Email beatles@marukobo.com
締め切り 3月20日


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鑑(み)るという冒険


〜映画篇 演劇篇〜

文&俳句 猫正宗


第六十五回
『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』&『巡礼』

 藤岡弘、主演『仮面ライダー』からのシリーズを昭和ライダーと言うのに対し、オダギリジョー主演『仮面ライダークウガ』からを平成ライダーと呼ぶ。その平成も終わるということで『平成FINAL』と銘打った本作は、平成ライダー、特に平成二期と呼ばれるシリーズの集大成的作品となっていた。
 本作は放送中の仮面ライダー『ビルド』に登場する、ある日突然ライダーになったがゆえ、他人のためには戦えない、何のために戦うのかわからない2号ライダー、万丈龍我(あ、平成では概ね一番組に複数のライダーが出ます。)が、先輩平成ライダーと出会い、自分の戦う理由を発見するというのが一つの軸となっている。昭和ライダーが「正義」「世界平和」「人類の自由」のためというとき、実はそれは自明のものとしてその内容はほとんど問われていない。ところが、オウム事件、9 11、3 11などを経た子供向けヒーロー番組は、常にその「正義」を問われることに。特に、やや高年齢層をも意識していた平成ライダーは、それ自体が作品の主題に関わるものも多い。作品毎に作り手が、今、自分達が考える正義、あるいは視聴者に届けたい正義を、その否定をも含めて送り出すことになる。劇中、最終決戦に向かうライダー達が一斉に叫んだそれぞれの決め台詞が丸被りで、何を言っているか分からず、ぐずぐずになるというシーンがあった。それはつまり、目指すところは同じだとしても、いつも同じ自明の正義では処理しない(できない)ということだろう。、自分の立つところは自分で選びとっていくしかないのだ。それを問われる今の子供達は大変だけど幸せだ。決め台詞丸被りの後、主人公は言ったものだ。「お前ら、最高だな」
 とは言え、所詮は仮面ライダー。そして、超娯楽作だ。まさかの出演、福士蒼汰君ほかイケメン目当てでも、悪役演じる大槻ケンヂ(笑)目当ててでも、もし一年後にでものレンタル候補、配信視聴候補になればこの稿の意味があるのだけれど。

どの世界にも君だけの風青し

 「ライダー」は虚構だから描けるものを描く作品。一方、富士山アネット代表として様々な舞台や映像作品で活躍する、長谷川寧(作家、演出家、振付家、パフォーマー)が構成、演出、振付、映像を担当する舞台『虚構』('18年1月20日、21日)は、劇中劇の練習や四国八十八か所の遍路を実際に行い、そこで起こったこと、交わされた会話などをそのまま取り入れることによって、現実と虚構を曖昧にしていくフェイクドキュメンタリーの手法で作られているのだが……直前に主演が体調不良により降板。ないと思いつつ、それさえもフェイクじゃないか、遍路中の逸話もプレトークでの話も全部ふりだったんじゃないかと、まさに企みにはまった感じ。でも、そればかりが気になって「あなたの考えている事は、伝わらない」(チラシより)を伝えるのにこの手法が最善だったのかどうか。主役が出演していたらまた違っていたのかもだけど。因みに元ひめきゅんフルーツ缶(愛媛の地方アイドル)菊原結里亜が舞台初出演。まさか、シアターねこで彼女を観ることになろうとは。 

遍路道それがほんとかどうかなど

 前回、題名を誤記しておりました。正しくは『ブレードランナー2049』お詫びして訂正します。


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岡田一実の

句集の本棚



たう
市川薹子 著

発行 ふらんす堂(2017年初版)
168ページ
定価 本体2,500円+税

 著者の第二句集。穏やかな中に驚きがあり、色彩ゆたか。見落としてしまいがちな物と物との出会いを丁寧に掬い上げている。
穴惑あかがねいろに水がやせ
青竹を一本通す松手入
手につつむ一瞬椿つめたかり
 椿の花の微妙な冷たさは手に包まれるとすぐ手の温度に近づいてしまう。それまでの一瞬。そこに清らかで華やかな発見がある。
揚舟に夕べの雨や桃の花
ぎしぎしの花をたふして雨上がる
夜は秋の水にほどきて貝の紐
そのひとの影の土筆を摘みにけり
竹筒を水のあふるる黒揚羽
あぢさゐに母の乳房のやうな冷
ひかがみのやうな翳りを秋の滝
秋蝶の翅を平らに波の音
風よりも水にふるへる稲の花
松虫とカーブミラーと一つ闇
 松虫の姿は見えない。ただ清澄で鋭い鳴き声がする。カーブミラーの映す世界ははただ暗くものの輪郭さえも怪しい。ぽっかりと開いた異界へ続く穴のようなカーブミラーとそこへ誘うかような松虫の声が一つの闇の中に存在していて空恐ろしい。
 「椋」会員。


燕京
日原傳 著

発行 ふらんす堂(2017年初版)
176ページ
定価 本体2,500円+税

 著者の第四句集。「燕京」とは北京の異称。骨太な描写と諧謔。冴えた詩性が窺える。
岩に巻く鋼のロープ葛の花
 鋼のロープと蔓の先の葛の花の質感の違い、形状の類似にまず目がいく。岩にしっかりと巻く鋼のロープの金属の匂いに対し赤紫の葛の花の匂いは粉っぽく生々しさがある。
縄跳びやときどき見ゆる縄の色
秋燕沙漠に影を流しけり
虫売の一夜の店をたたみけり
蝌蚪の押す木片やがて廻りだす
ぶつかつて蜂の去りたる栗の花
大小のざりがに放りこむ盥
 音は描かれていないのに、とても騒々しい盥の中身である。この「盥」は金属製だろうか、ポリエチレン製だろうか。金属の響き渡るような響きも良いが、ポリエチレンの鈍い響きも捨てがたい俳味がある。大小のザリガニはお互いを仲間だと認知するだろうか。ザリガニ同士、人知を超えた交歓をしているかもしれないと思うと妙なおかしさがある。
羽抜鶏土塀の門を出てきたる
春風や韻を踏みたる双子の子
鯉跳ねて祭の人を驚かす
対岸は降りられぬ土手鳥の恋
 「天為」同人、編集顧問。


岡田一実(おかだ かずみ)
 2014年「第三回 大人のための句集を作ろう!コンテスト」優秀賞受賞。2014年「浮力」にて現代俳句新人賞受賞。現代俳句協会会員。「いつき組」所属。「らん」同人。第二句集『境界 border』(マルコボ.コム)。


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新聞記事に隠された俳句を発掘する

クロヌリハイク


黒田マキ


大胆 に 「伊予柑」デザイン ぜひチェック  (2018年1月25日 デイリースポーツより)

松 と 月 神と芸術との対話  (2018年1月25日 愛媛新聞より)

東温 のどぶろく工房で 桜 さ く  (2018年1月25日 愛媛新聞より)

「シラウオ」と呼ばれるシロウオの躍り食い  (2018年1月25日 愛媛新聞より)

スギ花粉 や や や や や や や や やや や や  (2018年1月25日 朝日新聞より)

レタスなど 葉物野菜 と サラダチキン  (2018年1月25日 日本経済新聞より)


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100年俳句計画 掲示板



テレビ、ラジオ

NHK Eテレ『NHK俳句』
 日曜6時35分〜7時
 (再放送:水曜15時〜15時25分)
 夏井いつきが第3週選者を担当
3月18日(日)、再放送21日(水)

NHK 総合テレビ(四国四県域)
 「四国 おひるのクローバー」内 隔週火曜『夏井いつきのムービー俳句!』
3月13日(火)、27日(火) 11時30分〜

TBS系列局 全国ネット
 『プレバト!!』
毎週木曜 19時〜19時56分
 夏井いつきが俳句の査定を担当

南海放送
 松山市政広報番組『大好きまつやま〜しあわせ未来塾〜』
毎週火曜 20時54分〜21時(再放送 日曜11時40分〜11時45分)
 夏井いつきが塾長として出演

南海放送ラジオ
 『夏井いつきの一句一遊』
毎週月〜金曜 10時〜10時10分
  「一句一遊情報局」のコーナー参照

FMラヂオバリバリ
 『俳句チャンネル』
毎週月曜 17時15分〜17時30分(再放送 火曜7時15分〜7時30分)
投句募集兼題
「種選、やまももの花」3月4日締切
「貝寄風、四月」3月18日締切
 WEB http://www.baribari789.com/
 mail radio@baribari789.com
 FAX 0898(33)0789
投句には本名 住所をお忘れなく!
「天」の句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。

各番組の放送予定は変更される場合がございます。新聞などで最新情報をご確認ください。


執筆

松山市の俳句サイト
 『俳句ポスト365』
http://haikutown.jp/post/
 「俳句ポスト365」のページ参照

テレビ大阪俳句クラブ
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/
ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 「集まれ俳句キッズ」(夏井いつき選)
  毎週日曜タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井いつき選)
 投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。
 裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。
 朝日新聞松山総局(〒790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。


イベント、講演等

夏井いつき句会ライブin西予市
3月3日(土)13時30分〜15時30分
 西予市三瓶文化会館 大ホール(愛媛県)
 チケット 全席自由
  一般 1000円
  高校生以下 500円
 問合先 西予市宇和文化会館 電話 0894(62)6626

国際ソロプチミスト今治 第12回 俳句キッズわくわくコンテスト表彰式
3月4日(日) 13時30分〜15時
 今治市総合福祉センター 4階(愛媛県)
 問合先 国際ソロプチミスト今治事務局 電話 0898(47)4027

刈谷市民大学講座(後期)第2回 夏井いつき 100年俳句計画
3月9日(金)18時30分〜20時
 刈谷市総合文化センター 大ホール(愛知県)
 問合先 刈谷市総合文化センター 電話 0566(21)7430
 メール event@kariya.hall-info.jp

犬山市民総合大学敬道館 卒業式記念講演 夏井いつきの句会ライブ
3月10日(土)13時40分〜15時45分
 犬山市民文化会館 大ホール(愛知県)
 問合先 犬山市教育委員会 電話 0568(44)0353

道後温泉まつり吟行句会
  @愛媛新聞カルチャースクール「俳句のある生活を楽しむ人のための俳句」共同企画
3月17日(土) 10時〜
 吟行 道後地区
 句会 椿の湯 2階会議室(愛媛県)
 10時集合/道後温泉駅前からくり時計下
 →道後周辺を吟行、各自昼食
 →13時 椿の湯2階会議室
 →13時30分 句会スタート
 →16時30分 句会終了予定
 料金 一般 1000円(カルチャースクール受講生は不要)
 問合先 マルコボ.コム 電話 089(906)0694

しまなみ海道俳句まつり表彰式および夏井いつき講演会
3月18日(日)13時30分〜15時30分
 村上三島記念館 多目的ホール(愛媛県)
 問合先 本州四国高速道路株式会社 しまなみ今治管理センター 電話 0898(23)7250

NPO春期セミナー 夏井いつきの句会ライブ
3月22日(木) 17時〜18時30分
 ホテルニューオータニ ガーデンタワー(東京都)
 問合先 NPO事務局 電話 03(3511)1122

NHK学園 国内スクーリング 俳都松山に夏井いつきさんを訪ねる 俳人ゆかりの地と三庵めぐり
3月24日(土)、25日(日)
 問合先
 NHK学園 電話 042(572)3151
 名鉄観光サービス(株)立川支店 電話 042(529)3711

松山総合公園プレーパーク 自然を楽しむ100年俳句ライブ
3月25日(木) 13時〜16時15分
 松山総合公園(愛媛県)
 講師 キム チャンヒ
 問合先 NPO法人みんなダイスキ松山冒険遊び場 電話 080(8902)9627


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鮎の友釣り


第236回


俳号 凡鑽(ぼんさん)


前回 柝の音さんへ いつもツイッターで可愛がっていただいています。失礼な物言いも多々あるかと思います。お許し下さいね。お会いした事はありませんが、年の離れたお姉様と慕っております。書かれるエッセーも素敵。そんなエッセイストの次にこの場を汚すのはすごいプレッシャーなんですけど……。

写真 仕事場での一枚。妻に撮ってもらいました。実は京都でとんかつ屋を営んでおります。京都へお越しの際は是非お声掛けください。(テキスト版では写真省略)

近況 一句一遊や俳句ポストの金曜日に採ってもらった記念に拙句をTシャツにしています。妻のイラストや私の写真を添えて。UNIQLOのサイトUTme!で作れるんです。そこで、舞茸の地選の句を妻のイラストでTシャツにしようと思ったのですが「モラルに反するもの」に抵触したため作れませんでした。家で作るしかないか。

次回 洒落神戸さんへ 京都の句会で初めてお目にかかりました。ご夫婦で俳句をされていて、とても着物もお似合い。句歴は短いようですが、無駄に句歴の長い私は常に刺激を貰っています。ツイッターを覗けばいつも居られる。いつ仕事してるんだろう。これからも奥様に負けぬよう句作に励んでください。また句会でご一緒させていただく日を楽しみにしています。


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告知



春夏秋冬(しき)笑顔
まつやま福祉
五七五

福祉をテーマにした冬の五七五 結果発表


会長賞
ばあちゃんと九十かぞえた年の豆  むらさき(徳島県)

優秀賞
白寿待つおひさま色のひざ掛けと  宮田恵子(松山市)
受け流すこともいたわり片時雨  片岡寿子(松山市)
愛犬と歩行訓練春隣  み藻砂(福岡県)

入賞
霜柱ジャリジャリギュギュギュ車椅子  玉井美由紀(松山市)
春隣父の歩幅の療法士  野ばら(兵庫県)
ゆっくりと降る雪ゆっくりと動く足  山口花見月(大洲市)
凍星や介護交代連絡帳  忘れな草(大洲市)


主催
松山市社会福祉協議会
有限会社マルコボ.コム(ふくし句会、ハイクライフマガジン『100年俳句計画』選句)

協賛
四電エンジニアリング株式会社(社会福祉協議会賛助会員)





今年もやります! 大お花見大会
日時
 4月1日(日)8時〜(予定) 雨天決行
場所
 道後公園内(松山市)
お問い合わせ
 まつやま俳句でまちづくりの会 mhm_info@e-mhm.com


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編集後記


キム チャンヒ

 「100年俳句計画」というのは、俳句を使った事業を行うにあたり、人生の長さを超えて発想すべきだと作った言葉。「計画」としたのは、これは永遠に完成することがなく、無限に発展させてゆきたいという願いを込めたから。
 今回の特集、椿小学校のフォト俳句の授業は、2時間で6年生全143名の生徒に俳句を作って貰うプログラム。通常の句会ライブでは、時間内に俳句を作れない子供も結構いるため、今回の授業では、「全員が投句する」というのを目標にした。それを実現するために授業の数日前、先生方と打ち合わせをし、子供たちにどのようなアドバイスをすれば良いのかを具体的に協議させて頂いた。そして当日は、先生方が子供一人一人作句を促す質問をしてくださり、全員が投句することが出来た。
 授業の初めに「本当は俳句作の苦手だと思っている人は手を挙げて」と問うと、7割ほどの子供が手を挙げた。今回の授業が、そんな子供たちにとって俳句を好きになる一歩となったら、また、俳句の苦手な先生方の手助けになったら、とても嬉しく思う。
 こんな小さな事の積み重ねのひとつひとつが「100年俳句計画」なのだと切に思う。 


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次号予告


245号 4月1日発行予定

特集 第七回 百年俳句賞 結果発表


お得で便利なマルコボ.コム直販定期購読! 巻末の案内をご覧ください
お申し込みの方へ、毎月末頃に最新号を送料無料でお届けいたします!
(住所変更の際は必ず編集室までご連絡ください)

『HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画』は以下の書店でもお買い求め頂けます。

愛媛県
 明屋書店 ※一部店舗のみ
 ゆらり内海(愛南町)
 原田書房(今治市)
 子規記念博物館(松山市)
 紀伊國屋書店松山店
 ジュンク堂書店松山店


HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画
2018年3月号(No.244)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子

2018年3月1日発行