100年俳句計画 2017年9月号(No.238)


100年俳句計画 2017年9月号(No.238)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。






目次


巻頭リレーエッセイ
のり茶づけ


特集
子規 漱石生誕150年記念
俳都松山キャラバン2017 熊本&斑鳩



好評連載


作品

百年百花
 希望峰/都築まとむ/樫の木/高橋白道


新 100年への軌跡
 俳句 小鳥遊栄樹/宇佐美友海
 評  都築まとむ/谷さやん




読み物

美術館吟行/天玲

Mountain Cabin Dispatch/ナサニエル ローゼン(翻訳:朗善)

JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭

ラクゴキゴ。/らくさぶろう

ホンヤクサイホンヤク/翻田訳蔵

百年歳時記/夏井いつき

mhm通信/蓮睡

鑑(み)るという冒険/猫正宗

朝の見る句/蜂谷一人


読者のページ

100年投句計画
 選者三名による雑詠俳句計画
  桜井教人/阪西敦子/関悦史

 へたうま仙人/大塚迷路
 自由律俳句計画/きむらけんじ
 詰め俳句計画/マイマイ
 100年投句計画 投句方法

短歌の窓/渡部光一郎

百人百様E-Haiku/菅紀子

俳句ポスト365

一句一遊情報局

疑似俳句対局/美杉しげり

100年俳句計画 掲示板

魚のアブク

鮎の友釣り



告知

編集後記

次号予告





巻頭リレーエッセイ



愉快な仲間たち
のり茶づけ 

 どれほど前の事になるだろう。
 店の常連さん達との月見会で俳句を出し合って楽しんでいた。俳句の良し悪しなど誰も分かっていなかったが、取りあえず大女将のゴットママ(俳号)が審査員役で気まぐれに選んでいた。「何でお前の方が上なんぞ、わしの俳句の良さが分からんのかー」と自画自賛で皆楽しんでいたが、ある時「南海放送の俳句の番組知っとるか?」と、誰かが「あの先生面白いぞ」
 「よーし、一句一遊で誰が最初に天取るか競争じゃ」
 これがまるやすの愉快な仲間たちのキャッチコピーで投句を始めるようになった経緯である。当然の事ながら組長に「それがどうした、さのよいよい」と酷評されたものだが、大いに受けてそれがまた美味しいビールの素になっていたものだった。諸事情で店を閉店してしまったが、今も某所に集まり皆の俳句を取りまとめて投句するのが私の楽しみとなっている。


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子規 漱石生誕150年記念

俳都松山キャラバン2017 熊本&斑鳩



 去る7月16日&8月6日に、松山市主催のイベント「俳都松山キャラバン」が、熊本(くまもと森都心プラザ 熊本県熊本市)と斑鳩(いかるがホール 奈良県斑鳩町)にて開催されました。本特集では、両会場で開催された、俳句対局トーナメント戦の模様を中心に、イベントの内容をお伝えします。

第1部
俳都松山大使 夏井いつきさんの講話
 各会場では、俳都松山大使の夏井いつきさんが「十七音が未来を変える」をテーマに俳句の魅力を話しました。
 熊本会場では、イベントの前日、一緒に熊本市内を巡ったガイドの三好さんの「熊本の復興に20年かかる。しかし、20年なんて大した月日ではない。震災からすでに一年経った。一年でこれだけの復興が進んでいる。」との言葉に心うたれたといつきさん。熊本を愛する気持ちが力強い言葉として現れているのだ、と話しました。
 「今日、会場には俳句好きの方とそうでない方もいらっしゃるが、俳句をすると人生が豊かになるし、仲間と俳句が人生の杖になる、集ったという偶然をお互い大事にしていってほしいです」も語りかけました。
 斑鳩会場では、まずは正岡子規の句「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」の、「ば」の3つの読みを説明し、俳句の鑑賞の仕方の面白さを伝えました。
 また、教員時代に恩師に聞いた「教育と文化は百年の単位で考えなくてはならない」という言葉に大変共感を覚え、自分の教育理念に取り入れていたそうです。

第2部
俳句対局トーナメント戦
 俳句対局とは、囲碁や将棋のように制限時間内に俳句を作り合う、一対一の句合わせ対決です。目の前で俳句が生まれる緊張感と高揚感を味わえます。
 今回は、子規 漱石生誕150年を記念し、席題句として熊本会場では夏目漱石、斑鳩会場では正岡子規の俳句を使用しました。


「俳句対局」の進め方
1 まず先手(黒)が、その場で出された席題(俳句)から一漢字あるいは一単語を頂き、俳句を作る。
2 後手(白)は、先手の作った俳句から同様にいただき、俳句を作る。
3 それぞれ制限時間6分の間に、3句まで繰り返す。

「俳句対局」作句ルール
1 使用する季語は当季に限らない。(傍題可)
2 前の句から頂くのは、漢字、または、自立語(助動詞 助詞を除く単語)のみ。
3 前の句の表記を変えるのは、不可。
4 前の句の季語、および季語の一部を季語として頂くのは、不可。
5 上記の作句ルールから外れた句を作ってしまった場合、逸脱の程度(左記)により0.5〜3点の減点が科される。
6 全ての作句を終えた時点で残り時間による減点を行う。(「時間点」参照)
7 残り時間が0になった場合、それまでの得点に関わらず負けとなる。
8 歳時記 電子辞書の持ち込みは、可。
9 事前のメモなどの持ち込みは、不可。

減点項目一覧
減点0.5 前句の表記を変えて頂いてしまった。
減点0.5 前句の季語もしくは季語の一部を、季語もしくは季語の一部として頂いてしまっているが、それとは別に、ルールに沿って前句から頂いている漢字または自立語がある。
減点1 前句の季語もしくは季語の一部を、季語もしくは季語の一部として頂いてしまっており、それ以外の漢字または自立語を前句からいただいていない。
減点3 前句から漢字又は自立語を頂いていない。
 複数の減点項目に該当する場合は、最も大きい項目一つのみを適用する。ただし「時間による減点」は別途課される。

勝敗の決め方
審査員4名による判定で行われます。全ての俳句の「俳句点」の合計に、「時間点」を加えた合計点数の高い方が勝ちとなります。

俳句点
それぞれの俳句ごとに各審査員が10点満点で点数を付け、その平均を、その俳句の「作品点」とします。

俳句の評価基準
1点 俳句として文字が書かれている。
2点 俳句としての基本的な知識に欠けている。
3点 類想が懸念される。句意が読み取り難い。
4点 類想が懸念されたり、句意が読み取り難いきらいはあるが、ひとまず句として成立している。
5点 作品としての強い魅力があるわけではないが、技術的には可も不可もなく成立している。あるいは、前句のイメージを借用しすぎている。
6点 5点の評価に加え、詩的要素が認められる。あるいは荒削りで難はあるが、発想に見るべき点がある。
7点 6点の評価に加え、発想あるいは技術いずれかの点で特に見るべきところがある。
8点 芸術的にも技術的にも、積極的評価ができる。
9点 8点の評価に加えて、強い芸術的魅力がある。
10点 9点の評価に加えて、普遍性を持った秀句である。

時間点
3句全ての俳句を4分未満に作り終えた場合、減点はなし。4分〜5分未満で作り終えた場合、減点0.5点。5分〜6分未満で作り終えた場合、減点1点。全ての俳句を作り終える前に制限時間である6分に達した場合、その時点で、それまでの得点に関わらず負けとなる。


熊本会場

対局者

加藤いろは(かとう いろは)
所属結社「晨」「阿蘇」。師系は藤田湘子。平成4年「鷹」入会(平成12年退会)。平成12年「晨」入会。平成18年「阿蘇」入会。

坂本真二(さかもと しんじ)
平成10年娘(小6)息子(小4)の草枕俳句大会入選を機に家族4人で句作を開始。平成15年火神の会に家族入会、同人。未来図の会家族入会。俳人協会会員。平成29年未来図の会同人。

青島玄武(あおしま はるたつ)
熊本市在住。平成14年作句開始。平成15年、『握手』の磯貝碧蹄館に師事。2年後に同人。師の没後は無所属。邑書林刊『新撰21』に選ばれなかったほうの『新撰21』世代。現代俳句協会会員。熊本県現代俳句協会副会長。近作は、『週刊俳句』角川俳句賞落選展へ『海神の裔』(わだつみのすえ)50句を寄稿。

松井紀美恵(まつい きみえ)
熊本県出身。平成15年俳句を始める。平成16年「花組」入会。好きな俳人は尾崎放哉。


審査員

柴田佐知子(しばた さちこ)
「空」主宰、俳人協会評議員、日本文藝家協会会員。昭和61年「白桃」入会、伊藤通明に師事する。平成元年第5回白桃賞受賞。平成2年句集「筑紫」刊行。平成5年第7回俳壇賞受賞。平成6年句集「歌垣」刊行。平成7年第25回福岡市文学賞 白桃同人賞受賞。平成11年第3句集「母郷」により第22回俳人協会新人賞受賞。平成15年「白桃」初代編集長を辞し「空」創刊。平成21年 句集「垂直」刊行。

永田満徳(ながた みつのり)
俳句大学学長。俳句大学学長、「火神」編集長、「未来図」同人。俳人協会熊本県支部事務局長。句集に『寒祭』(文學の森)。共著に『漱石熊本百句』(創風出版)『新くまもと歳時記』(熊本日日新聞社)。

加藤知子(かとう ともこ)
「豈」「連衆」所属。平成28年3月、熊本発の「短歌と俳句の文学誌『We』」を歌人 西田和平と共同創刊(年2回発行)。熊本県現代俳句協会事務局長兼副会長。第一句集『アダムとイブの羽音』。集中より、「せりなずなごぎょうつんだらこども産む」、近作は「この一句あるじは月へ遠出中」。

山下しげ人(やました しげと)
「ホトトギス」同人、「阿蘇」当季雑詠選者昭和48年 「ホトトギス」投句、初入選。平成4年 ホトトギス同人。平成17年 私設「ふる里俳句館」開館。現在 日本伝統俳句協会評議員(九州地区事務局長)。


第一試合
先手 加藤いろは
後手 松井紀美恵

 ベテラン加藤さんに、「対局として成り立つよう頑張ります」との松井さん。両者想像を絶する早さでの作句に観客はびっくり。
 1句目は、「子規 漱石生誕150年記念の大会なので、絶対子規と漱石の俳句を詠みたい」と決めていた加藤さんの俳句。季語の「冬あたたか」の選択が素晴らしく、高得点をあげました。
 2句目の松井さんは、前句から子規の「子」の字を頂いたにもかかわらず、季語の「冬」も頂いてしまい、減点0.5点。きわどい試合だけに、もったいない減点でした。
 徐々にペースを上げてきた松井さんでしたが一歩及ばず、加藤さんが一試合目を制しました。

第一試合内容

席題句 独身や髭を生して夏に籠る

先 加藤
子規の髭漱石の髭冬あたたか
俳句点 7.25
(柴田 8、永田 7、加藤 7、山下 7、減点 0)

後 松井
冬帽子黙ったままの君が好き
俳句点 5.75
(柴田 6、永田 7、加藤 6、山下 6、減点 -0.5)

先 加藤
夢殿に子供のこゑやうららけし
俳句点 7.25
(柴田 7、永田 7、加藤 7、山下 8、減点 0)

後 松井
晩夏光子供はいつも残酷で
俳句点 6.50
(柴田 7、永田 6、加藤 7、山下 6、減点 0)

先 加藤
着ぶくれていつも無口の夫であり
俳句点 6.50
(柴田 7、永田 7、加藤 6、山下 6、減点 0)

後 松井
角砂糖二つの夫や桜桃忌
俳句点 7.00
(柴田 6、永田 7、加藤 8、山下 7、減点 0)

結果

先手 加藤いろは
俳句点 21.00、残り時間 4分04秒(時間点 0.0)
合計 21.00(勝)

後手 松井紀美恵
俳句点 19.25、残り時間 3分57秒(時間点 0.0)
合計 19.25(負)


第二試合
先手 坂本真二
後手 青島玄武

 緊張であたまが真っ白になってしまった坂本さん。刻々と時間が過ぎる中、焦ってだした1句目は字足らずとなってしまいました。
 後半追い上げ、「頂は消ゆるにまかす阿蘇野焼」では、この対局での最高点を獲得しますが、安定した作句の青島さんが勝利となりました。

第二試合内容

席題句 衣更へて京より嫁を貰ひけり

先 坂本
年の晩嫁連れて子の帰る
俳句点 5.00
(柴田 4、永田 5、加藤 5、山下 6、減点 0)

後 青島
歯車が連なる霧が深くなる
俳句点 6.25
(柴田 5、永田 6、加藤 7、山下 7、減点 0)

先 坂本
残雪や愛車横転大破して
俳句点 5.50
(柴田 5、永田 6、加藤 6、山下 5、減点 0)

後 青島
義太夫の如くに大阿蘇笑ひけり
俳句点 7.00
(柴田 6、永田 7、加藤 8、山下 7、減点 0)

先 坂本
頂は消ゆるにまかす阿蘇野焼
俳句点 7.25
(柴田 8、永田 7、加藤 7、山下 7、減点 0)

後 青島
阿蘇の風八重九重に薫りけり
俳句点 6.25
(柴田 6、永田 6、加藤 7、山下 6、減点 0)

結果

先手 坂本真二
俳句点 17.75、残り時間 2分38秒(時間点 0.0)
合計 17.75(負)

後手 青島玄武
俳句点 19.50、残り時間 3分03秒(時間点 0.0)
合計 19.50(勝)


決勝戦
先手 加藤いろは
後手 青島玄武

 決勝戦は、両者1句を1分足らずで作句をするスピード勝負となりました。
 スピードだけではなく、作品の内容も素晴らしく、特に2句目、青島さんの「大歳の肉屋の裏の夕日かな」は、3名の審査員が8点をつける高得点となりました。
 また、その句を受けての加藤さんの俳句「夕桜ふつと男の真顔かな」は、前句の印象を大胆に切り替えてムードたっぷり。その作句ぶりに会場が酔いしれました。
 そして集計結果はなんと同点。残り時間9秒という僅差で加藤さんが優勝を果たしました。
 減点まで2分を残しての結果に、「最後にもう少し推敲して、審査員の誰かがあと1点つけていれば、結果がひっくり返っていたかも」との声が上がり、会場にはどよめきが起こりました。
 この好勝負を勝利した加藤さんは、11月5日(日)に松山で行われる俳句対局イベント「第3回松山市長杯」に出場します。

決勝戦内容

席題句 祖母様の大振袖や土用干

先 加藤
子規の忌の大青空となりにけり
俳句点 7.00
(柴田 7、永田 7、加藤 6、山下 8、減点 0)

後 青島
大歳の肉屋の裏の夕日かな
俳句点 7.75
(柴田 8、永田 8、加藤 7、山下 8、減点 0)

先 加藤
夕桜ふつと男の真顔かな
俳句点 7.25
(柴田 7、永田 7、加藤 7、山下 8、減点 0)

後 青島
日焼子も尻は真っ白大浴場
俳句点 6.75
(柴田 7、永田 7、加藤 7、山下 6、減点 0)

先 加藤
面白のこの世なりけり蟇
俳句点 6.75
(柴田 6、永田 7、加藤 7、山下 7、減点 0)

後 青島
白百合や三角の海の狭きこと
俳句点 6.50
(柴田 6、永田 6、加藤 7、山下 7、減点 0)

結果

先手 加藤いろは
俳句点 21.00、残り時間 4分19秒(時間点 0.0)
合計 21.00(勝)

後手 青島玄武
俳句点 21.00、残り時間 4分05秒(時間点 0.0)
合計 21.00(勝)

合計点と俳句点が共に同点のため、残り時間の多いほうが勝利。


斑鳩会場

対局者

岡田由季(おかだ ゆき)
東京都生まれ。「炎環」同人。「豆の木」参加。平成19年第1回週刊俳句賞受賞。現代俳句協会会員。句集『犬の眉』。

仲田陽子(なかた ようこ)
京都市生まれ。すくい織り織物作家。平成15年から20年まで「寒雷」所属。平成20年から現代俳句協会会員。

山本たくや(やまもと たくや)
京都府出身。20歳から作句を開始。平成22年に「船団の会」入会。第8回鬼貫青春俳句大賞受賞。

淺津大雅(あさづ たいが)
高校時代に俳句と出会い、第15回俳句甲子園全国大会に広島県立広島高等学校から出場。関西俳句会「ふらここ」所属。


審査員

宇多喜代子(うだ きよこ)
山口県徳山市(周南市)生まれ。高校生時代に石井露月門の遠山麦浪創刊の「獅林」を経て、昭和45年創刊の「草苑」の桂信子に師事。「草苑」終刊後、会員誌「草樹」会員。現代俳句協会名誉顧問。句集に『りらの木』『夏月集』『象』『記憶』『宇多喜代子俳句集成』ほか。文集に『ひとたばの手紙から』『わたしの歳事ノート』『俳句と歩く』ほか。編著に『片山桃史集』。『藤木清子集』。第35回蛇笏賞。読売俳壇選者。

植田珠實(うえだ たまみ)
東京生まれ、奈良育ち。俳句結社「藍生」所属。藍生新人賞、藍生賞受賞。俳人協会会員。句集「月のこゑ」。奈良日日新聞歌壇選者。天理大学イブニングカレッジ俳句講師。

古賀しぐれ(こが しぐれ)
滋賀県大津市生まれ。昭和62年より「ホトトギス」「未央」入会。稲畑汀子に師事。俳誌未央では、高木石子、吉年虹二に師事。現在、俳誌「未央」主宰。ホトトギス同人。日本伝統俳句協会参与。大阪俳人クラブ理事。句集「淡海」。

曾根毅(そね つよし)
「LOTUS」同人。現代俳句協会会員。第四回芝不器男俳句新人賞受賞。句集『花修』(深夜叢書社)


第一試合
先手 岡田由季
後手 仲田陽子

 二人とも時間を目一杯使ってより良い句を作るという戦法。
 この試合で点数が大きく割れたのが、3句目岡田さんの「上階の玻璃越しに見る大文字」。現代的な大文字の光景と3名が8点をつける中、宇多さんは「高いところから大文字を見るのは当たり前の句材」と4点。また、5句目岡田さんの「老犬の一歩一歩に西日差す」で、前句の「歩」を頂きつつ「西瓜」の「西」も季語として取ってしまい減点。
 仲田さんの最後の「歩をひとつ進めるあいだ雲の峰」は、「歩」の字を「ほ」と読むか、将棋の「ふ」と読むかで、読みが変わり点数が分かれました。
 波乱の第1試合を制したのは、最後までペースを崩さなかった、岡田さんとなりました。

第一試合内容

席題句 活きた目をつつきに来るか蠅の声

先 岡田
朝曇盛り上がりたる目玉焼
俳句点 6.75
(宇多 6、植田 7、古賀 7、曾根 7、減点 0)

後 仲田
雨蛙目玉大きくしていたり
俳句点 6.25
(宇多 6、植田 7、古賀 6、曾根 6、減点 0)

先 岡田
上階の玻璃越しに見る大文字
俳句点 7.00
(宇多 4、植田 8、古賀 8、曾根 8、減点 0)

後 仲田
上段の構え西瓜は二歩先に
俳句点 7.00
(宇多 5、植田 8、古賀 8、曾根 7、減点 0)

先 岡田
老犬の一歩一歩に西日差す
俳句点 6.25
(宇多 6、植田 7、古賀 6、曾根 8、減点 -0.5)

後 仲田
歩をひとつ進めるあいだ雲の峰
俳句点 6.00
(宇多 4、植田 7、古賀 6、曾根 7、減点 0)

結果

先手 岡田由季
俳句点 20.00、残り時間 1分17秒(時間点 -0.5)
合計 19.50(勝)

後手 仲田陽子
俳句点 19.25、残り時間 0分48秒(時間点 -1)
合計 18.25(負)


第二試合
先手 山本たくや
後手 淺津大雅

 1句目山本さんの「川床に強盗犯が潜伏す」から物議に。3名の審査員が7点をつける中、古賀さんからは「ホトトギスの私としては、川床(涼を取るために川に突き出した桟敷)という季語に対して、これは無い」とばっさり、4点。
 一方、淺津さんは「原爆の日や父独り暮らしなり」が好評価を得、この勝負を制しました。

第二試合内容

席題句 瓜くれて瓜盗まれし話かな

先 山本
川床に強盗犯が潜伏す
俳句点 6.25
(宇多 7、植田 7、古賀 4、曾根 7、減点 0)

後 淺津
虫干の一冊盗られをりしかな
俳句点 6.50
(宇多 6、植田 7、古賀 7、曾根 6、減点 0)

先 山本
短冊に願う父に逢いたいと
俳句点 5.25
(宇多 5、植田 5、古賀 5、曾根 6、減点 0)

後 淺津
原爆の日や父独り暮らしなり
俳句点 6.75
(宇多 7、植田 8、古賀 6、曾根 6、減点 0)

先 山本
除夜の鐘いまも独りで聞いている
俳句点 6.00
(宇多 6、植田 6、古賀 5、曾根 7、減点 0)

後 淺津
晩鐘や蜥蜴ぬめりて逃げゆける
俳句点 6.00
(宇多 6、植田 6、古賀 6、曾根 6、減点 0)

結果

先手 山本たくや
俳句点 17.50、残り時間 2分09秒(時間点 0.0)
合計 17.50(負)

後手 淺津大雅
俳句点 19.25、残り時間 2分09秒(時間点 0.0)
合計 19.25(勝)


決勝戦
先手 岡田由季
後手 淺津大雅

 後悔のないよう頑張りたいとの岡田さんと、勝って松山へ行きたいとの淺津さんの決勝戦。
 いきなり1句目岡田さん、「御堂筋」を「御道筋」と書き間違い、減点0 5点。それに対し、2句目6句目の淺津さんの句「筋肉を漲らせ草刈つてをり」「夕焼や合はせ鏡を子がよろこぶ」に対し、審査員の宇多さんからは「当たり前」と4点。そんな中、5句目岡田さんの「月涼し帯を鏡に映しけり」が高評価を得、勝利しました。
 岡田さんも熊本大会の加藤さんと同様、11月5日(日)松山市で開催の「第3回松山市長杯」に出場します。

決勝戦内容

席題句 議事堂や出口出口の青簾

先 岡田
店からの冷房を浴び御道筋
俳句点 4.75
(宇多 5、植田 5、古賀 6、曾根 5、減点 -0.5)

後 淺津
筋肉を漲らせ草刈つてをり
俳句点 6.00
(宇多 4、植田 8、古賀 6、曾根 6、減点 0)

先 岡田
肉食につぐ肉食や熱帯夜
俳句点 6.75
(宇多 6、植田 7、古賀 8、曾根 6、減点 0)

後 淺津
帯締めて不平を言へり秋の昼
俳句点 6.00
(宇多 7、植田 6、古賀 6、曾根 5、減点 0)

先 岡田
月涼し帯を鏡に映しけり
俳句点 7.00
(宇多 6、植田 7、古賀 8、曾根 7、減点 0)

後 淺津
帯締めて不平を言へり秋の昼
俳句点 5.50
(宇多 4、植田 6、古賀 5、曾根 7、減点 0)

結果

先手 岡田由季
俳句点 18.50、残り時間 2分41秒(時間点 0.0)
合計 18.50(勝)

後手 淺津大雅
俳句点 17.50、残り時間 2分16秒(時間点 0.0)
合計 17.50(負)


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美術館吟行


第33回

愛媛県美術館
培広庵コレクション「美人画」は語る 吟行会

文 天玲


取材協力
「美人画は語る」展実行委員会(愛媛県、テレビ愛媛)、愛媛県美術館
9月4日(月)まで開催中。



 外に出れば体中の水分が蒸発しそうな七月のある日、美術館内の冷気を求め集った七名。企画展は「美人画は語る」。
 浮世絵にはじまり夢二 華宵を経て少女漫画へと至る美人画の系譜の中で、美人画と呼ばれる日本画がもっとも輝いたともいえる大正 昭和初期のコレクションが展示されている。展示室は広く、中で迷いそうなほど作品数も多い。
 まずは、掲載予定の3作品について、解説をいただく。

 「桜美人」は着物の青も鮮やかに、少女の凜とした美しさを描く。

白き指傷つけてみよ初桜  天玲
春宵の帯揚やはらかに結ぶ  恋衣

 「願いの糸」は七夕の風習を描く。水を張った桶に梶の葉を浮かべ、星を映す。その上で針に糸を通し、手芸の上達を願う。

七夕の前夜を赫き糸絡む  恋衣
朝の水汲みて願いの糸通す  マーペー

 扉風仕立ての「安倍野」。白狐を従えた旅姿の女は、かの安倍晴明の母であるという。浄瑠璃の物語を題材に描かれている。

寂寞の花野へ回帰する身なら  マーぺー
帰らねば白狐の眼になったなら  チャンヒ
旅の夜の沼はぬるかり白狐  天玲

 近代の美人画の系譜に名を連ねる、愛媛県出身の夭折の女流画家がいた。河崎蘭香 享年三十七才。

さくらちる日の独り身のふうわりと  チャンヒ

 美人画とは、一部をのぞけば男性に描かれることが多いが、それを愛でるのは女性が多いように思える。男性目線の女性の美とは、という観点で見ると、多くの美人たちは色白、なよやかでしどけない。オブラートでくるまれたようなエロチシズム。

忍びつつ濡らす黒髪深雪かな  ひかる
諸肌脱ぎの髪すく髪の獣めき  遊人
白百合や覚悟の紅を引く夜の  ひかる

 いわゆるカメラ目線のような眼光はほとんど見られず、皆何かを見ているか、何を見ているかわからない。それもこの時代の「美人」の描き方の特徴なのだろうか。

頼杖の御廉に透けたる秋思かな  遊人

 展示は春夏秋冬に添い、また「音曲」「粧い」などのサブテーマごとにもまとめられている。美人画の多くは背景にあるいは着物の柄に季節の花があしらわれたり、その時季ならではの習俗が描かれたりと、季節感とは切り離せない。その点、俳句とは親和性が高く、俳人にとっては目の前に料理を並べられあとは食べるだけ、といったような一種の過保護状態。果たしてこれをありがたく受け入れ、無条件にほいほい詠むのもちよっとなあ……と思ってると、いたいた、いました。

いいからそれ以上ふり向くと夏の宵  日暮屋
雪の朝うふふうふふと年増かな  日暮屋
本性はがさつ願いの糸ぷっつん  日暮屋

 描かれた美人画の世界に入り込み、素材に添うて美しく詠みあげるも俳句なら、定義され提示された「美人」像なんて知ったこっちゃねえ、とばかり、美女を足場にあくまでも自分の目線を貫く根性もまた、俳人の矜持……かも?


山川秀峰《阿倍野》昭和3年 培広庵コレクション
寂寞の花野へ回帰する身なら  マーペー

広田百豊《桜美人》昭和初期 培広庵コレクション
白き指傷つけてみよ初桜  天玲

河崎蘭香《美人観桜迺図》大正5年 個人蔵
さくらちる日の独り身のふうわりと  チャンヒ


天玲
穂積書道教室俳句部部長 暑さに負けない48歳。



次回吟行会
9月3日(日)
愛媛県美術館所蔵品展吟行会
朝10時現地集合
参加費無料(入館料は別途)
事前に100年俳句計画編集室までお申し込み下さい。
TEL 089-906-0694


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百年百花


大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠
2017年度 第二期 第二回


己が瘤
希望峰

炎天や賽銭箱に鬼ころし
みな腕を振つて歩める百日紅
うつくしき空気の入りて捕虫網
噴水を少し離れて募金箱
睡蓮の遠くバスタオルの近く
一斉に波紋あめんぼ見失ふ
橙のの骸を虫出づる
撫子に隣りて屁屎葛かな
浮世絵に見られてゐたる曝書かな
己が瘤知らざるナポレオンフィッシュ
流れ星鞄を前に抱いて寝る
サッカーが禁止の広場雲の秋

1990年神戸市生まれ。「いつき組」「街」所属。
第5 6回石田波郷新人賞奨励賞。



コガネキヌカラカサタケ色
都築まとむ

秋蝶のひとりあそびの影へ水
泡立草群れて白浦茜荘
ツクツクボーシに撃ちおとされて太陽は
角となる覚悟オクラの花しぼむ
蚯蚓鳴くかすれはじめる蛍光ペン
秋の蟹死ねばあたりが眠くなる
手のひらに沈む桃の香断れぬ
片目なき秋蝉指に留まらせる
依存症ぐりぐりカボチャの腹へと刃
稲雀扇ひろげるように散る
アカミミガメの目の金色に水澄めり
いま月はコガネキヌカラカサタケの色

1961年愛媛県生まれ。今年、空調服(ジャケットにファンがついている)なるものを買った。炎天の仕事もこれで楽チ〜ン♪ 汗をかかないので、水をあまり飲まなかったら、二度ほど熱中症になった。油断禁物。



小さな生き物 スピッツに寄せて
樫の木

絵具箱の隅にチョコレート色のコオロギ
流星雨臆病な背を抱き上げる
ドアノブに秋の金魚がぶら下がる
秋の夜のランプ独り言めく手紙
月光に晒すオパビニアの化石
月光は水に倦む魚眠らせて
薄闇の無人の街を駆ける鹿
悲恋めくエンドロールや遠花火
秋冷の汽笛に犬の遠吠えに
スワンボートの漂う湖面星月夜
潮騒を貝を尖らせ台風来る
秋は翅を唸らせ僕は旅に出る

スピッツ(日本のロックバンド)を知ったのは二十年ほど前のこと。
木工の訓練校の先輩がスピッツのメンバーの親戚だった。
以来スピッツを聴き続けているが最近では妻の方がはまっている。



土用干
橋白道

端居してドクターヘリの通り道
耳毛剃る床屋の刃先夕立晴
日盛や猫の声まね猫を追ふ
水無月の米柔らかき飯盒飯
和歌山の頃はライバル心太
朝の二座午後の三座や土用干
落し文念仏絶えぬにない堂
形代や欄干に風生れけり
筆先を短く使ふ土用かな
サングラス明日焚く香を選びけり
麻のれん土佐の家紋のやうな紋
天牛の航路変はりてより速し

平成10年より「いつき組」組員。
句集『涅槃図』(マルコボ.コム)。


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新 100年への軌跡


2017年度 第二期 第二回


留む
小鳥遊栄樹

ユーフォニアム背負ひ帰るや葛の花
八月の誤字だらけなる不在票
天高しいつの間にやら猫肥えて
残る蚊のへらへらと来て父の尻
胸肉を炊く間の釣瓶落としかな
ウィスキーに透かして窓の外が雨
秋鯖の身をほぐしつゝ泣上戸
饂飩啜る寂しさに似て硯洗ふ
扇風機小さし残暑の夜もなほ
星合を淀川にゐるホームレス
爽やかや前職の制服洗ふ
新涼の旅先に遇う標準語
缶チューハイごろごろ冷やし秋祭
花火待つとほくに街の灯の濡れて
人間に生まれ朝露指に留む

小鳥遊栄樹(たかなし えいき)
 1995年生まれ。「里」「群青」同人、沖縄俳句会「若太陽」所属。


夜のプール
宇佐美友海

長男といふさみしさや木下闇
先代の犬の名はシロ夏の山
雲の峰磨くがごとく窓を拭く
床屋より漏れ出づる香の涼しさよ
月面のやうに冷たしラムネ瓶
冷蔵庫エビチリ一尾死んでをり
午後の香にまみれてをりぬ昼寝覚
誰しもに仄暗きもの髪洗ふ
夜のプールジュラ紀の海に似てをりぬ
不器用にアイスを渡す愛もある
持ち主の去つた家にも西日射す
泣き面のおにぎりを食む八月尽
出し易く蔵ひ難しや扇風機
桃を食む刹那をんなの顔になる
夕空や引つかき傷のやうに月

宇佐美友海(うさみ ともみ)
 1996年生まれ。新潟大学在学中。高校から俳句を始める。第16回松山俳句甲子園全国大会出場。



「寂しさ」と「さみしさ」
都築まとむ

秋鯖の身をほぐしつゝ泣上戸  小鳥遊栄樹
 泣上戸の話を聞きつつ秋鯖を食べている。そう読んだ方が秋鯖がおいしそう。身の上話を聞くのに「秋鯖」は嵌り役。「ほぐしつゝ」という箸の動きが、親身に話を聞きつつ秋鯖への愛着も感じる。

人間に生まれ朝露指に留む  小鳥遊栄樹
 人間に生まれてきたからこそ、小さな朝露のひかりにも心を動かすことができる。「朝露指に留む」この行動に共感する。

床屋より濡れ出づる香の涼しさよ  宇佐美友海
 床屋から出てきた人とすれ違ったときの匂いだろうか。
「濡れ出づる香」は正に清涼感。床屋独特のあの匂いに鼻がくすぐられたような感覚になった。

夕空や引つかき傷のやうに月  宇佐美友海
 細い月を「引つかき傷」のように感じるのは、繊細な作者の心だろう。この作者の気持ちに寄り添いたい。今度夕空に引っかき傷のような月を探してみたい。

都築まとむ(つづき まとむ)
 1961年愛媛県八幡浜市生まれ。第3回選評大賞優秀賞。


「さみしさ」は心にしまって
谷さやん

ユーフォニアム背負ひ帰るや葛の花  小鳥遊栄樹
 ユーフォニアムは、金管楽器の一種で幾重に巻かれた円錐管のフォームが美しい。「葛の花」で、帰り道の景色が想像出来る。夕日の中を、相棒を背負ってとぼとぼ帰るのだ。

ウィスキーに透かして窓の外が雨  小鳥遊栄樹
 季語は欲しいところだが、このキザな光景にしびれる。

花火待つとほくに街の灯の濡れて  小鳥遊栄樹
 いずれ降りて来る花火と、濡れた街の灯が重なり合って見えてくる。
 
月面のやうに冷たしラムネ瓶  宇佐美友海
 ラムネ瓶から「月面」を思い起こしたところに意表を衝かれた。月面を素足で歩いた気分になった。

雲の峰磨くがごとく窓を拭く  宇佐美友海
 「雲の峰がくっきり近づいて見えるではないか!」と、気付いた途端、窓拭きに力が入り出したのだ。「ごとく」を使わず「雲の峰を磨く」と言い切ったら、もっとピカピカになったかも。

谷さやん(たに さやん)
 1958年生まれ。句集『逢ひに行く』で、宗左近俳句大賞受賞。坪内稔典/谷さやん共編『不器男百句』(風創社出版)。『芝不器男への旅』(風創社出版)。


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Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳 朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ


No.50

Typhoon wind begins
When the storm arrives
Itching my rear end

台風の来るらし尻の穴痒し

(直訳)
そら風が吹き始めた
台風上陸だ
我が後門の痒くなる時だ


 In Matsuyama, we have time on our hands; for teaching, practicing, Japanese study and haiku. The weather is hot but there is lots of rain coming.

 松山では、時間がたっぷりとある。チェロを教え、チェロを練習し、日本語をさらい、俳句を作る時間が。暑さは厳しいが、今に大雨が来るだろう。


ナサニエル ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。2013年7月より山梨へ移住。


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JAZZ俳句ターンテーブル


文 白方雅博(俳号 蛇頭)

第78話
マイ ディア ピアニスツ   鈴木良雄


打水の幾何学模様チン@ヌ雄  マミコン

 上五中七と秀句の趣。一転下五で数名の俳人がこけた。しかし、これがマミコンさんの真骨頂なのである。チン≠ヘ今回のテーマ ミュージシャン、鈴木良雄のニックネームである。チンさんが駆け出しの頃、共演の先輩に「ちんたらしてんじゃねーよ」と叱咤されたことに由来するらしい。

星流れて向き合う椅子二つ  時計子

 チンさんは早大モダン ジャズ研究会でピアノを弾き、卒業後プロデビュー。渡辺貞夫カルテット結成の際にはリーダーのナベサダに、何とベーシストとしての才能を見出され約5年間所属した。1973年には心機一転渡米。ニューヨークを拠点にジャズ メッセンジャーズなどアメリカのトップ・ジャズミュージシャンとの共演を重ね1985年に帰国し、自己のグループを結成した。そして、デビュー40周年を記念してリリースされたのが今回のメインテーマ「マイ・ディア・ピアニスツ〜チンさんと6人のピアニスト〜」である。サブタイトルのとおりデュオで共演の邦人ビッグネームは、彼と縁の深い小曽根真、野力奏一、山本剛、穐吉敏子、ケイ赤城、イサオ ササキ、と何とも豪華である。

満月の街を仄かにベース音  チャンヒ

 全12曲中チンさんのオリジナル曲が8曲。その1曲目「ペルジアン ブリーズ」でチンさんは、小曽根の華麗に躍動するピアノに向けてたわやかなビートを送り込み一層際立たせている。

風穴のごと単音の生る葉月  ジョニー

 チンさん3曲目のオリジナル「キスは風にのって」は山本のシングルトーンをイメージして作曲したんじゃないか、と思うほどピアノは透明感に満ちている。二十歳を迎えたばかりのジョニーさんもキス≠使わずこのナンバーを人気句に仕立てるとは手練れよのー。

カンナ咲くルーレットのやうな恋  恋衣

 「まず、中七下五に惚れた。カンナという季語も……絶対に似合っていると思う」と特選としながら句場でダメ出しを受ける句評をやらかしてしまった。いや、評にもなっていない。仕方ない。一目惚れなのだから。「ルーレット」はチンさん4曲目のオリジナル。

三線が風を生むとき萩の声  葉っぱ

 今回のサブテーマ「ムーン アンド ブリーズ」は全曲チンさん書き下ろしのデビュー35周年アルバムである。また、彼が現在も率いるユニット「ベーストーク」の総決算でもある。その冒頭の「美ら海のテーマ」は知名定男の三線の音色と共に始まる。そして2曲目「ムーン アンド ブリーズ」へ。

低弦のアルコ湖底の秋思かな  蛇頭

 アルバムは10曲目「オン オータム レイク」からラストナンバー「イン ザ クレドゥ(ゆりかご)」へ。チンさんの深甚なアルコは、メインテーマ唯一のスタンダード ナンバー「サム アザー タイム」で堪能できる。


Today's Turntable
『マイ ディア ピアニスツ』2009年/one
『ムーン アンド ブリーズ』2004年/one voice


「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の毎月第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は月曜日の21時〜22時。

 次回のJAZZ句会は、9月17日(日)14時より小島のり子トリオ ライヴ&JAZZ句会です。句会は16時30分頃から参加希望者にお残りいただき行います。お一人2句まで。小島(俳号:こじのり)さんも参加予定。参加希望の方は、本誌の句会カレンダーを参照してください。


このコーナーで紹介した俳句とエッセイ、堤宏文さんの写真とを組み合わせた『JAZZ HAIKU』vol.1〜vol.3(マルコボ.コム)を発売中。


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ラクゴキゴ


第七十八話
文 俳句 らくさぶろう


手水まわし
 聴き手の想像力がふくらむ噺

 現在の兵庫県、当時の丹波国貝野村のある一軒の宿に、大阪からの一人の客が宿泊していた。
 朝起きて、顔を洗おうと、離れの縁側に宿の者を呼び、「すんませんが、手水をまわしてもらえませんか。」と頼む。
 宿の女衆 おなべは“ちょうず”の意味が分からず、板場のきすけに訊きに行く。きすけも分からず、宿の主に尋ねると、実は主も分からないということで、お寺の住職に訊きに行くことになった。
 きすけが寺から戻り、主に報告、“ちょうず”とは「長頭」と書き、長い頭のことだと言う。
 長い頭といえば隣村の一兵衛という男は、三尺の手ぬぐいでほおかむりが出来ないくらい長い頭をしているらしい。すぐに一兵衛を呼んできて、頭をまわすようにきすけに指示を出す。
 あまりに顔を洗う水“手水”が遅いのでイライラしていた客の元に一兵衛が現れ、突然長い頭をグルグルまわし始めたものだから客は怒り心頭。帰ってしまった。
 これではいかん、“ちょうず”の本意を知らねば……と、主ときすけは大阪に行き、一軒の宿に泊まり、朝「ちょうずをまわせ」と頼むと、大きな銅のタライにお湯が並々と入って出てきた。
 何のことかよく分からぬ二人、大阪では朝飯の前に一杯ずつ湯を飲む習慣があるのかと勝手に思い込み、主の方から飲み始めるが、とても飲めたものではない。
 途中できすけにバトンタッチして飲ませると、きすけはなんとか飲み切ってしまった。
 そこへ宿の女衆が「すんまへん、もう一つここへ置いときますので。」
 びっくりした主、「あとから来たのはおまえのや。ワシはもう飲めんさかい、きすけ、全部やるわ。」
きすけ「とてものことやないけど、もう飲めまへん」
 主、女衆を呼んで一言、
「すんまへん、後のやつはお昼によばれますわ。」


 もともとは「貝野村」という長い噺の、後半の部分のおもしろい所だけを独立させた噺です。
 僕がこの噺に出会ったのは昭和62年。NHK新人演芸コンクールというテレビ番組で、この年最優秀賞を受賞した桂雀々さんが演じていた。
 「こんなオモロイ噺があるんか!」と強く衝撃を受け、ますます落語の世界にハマッていくことになるきっかけを作られた噺なのだ。
 この噺は、テレビで観るのとラジオで聴くのとでは全然イメージが違ってくる。
 ラジオで聴くと、一兵衛が頭をまわす仕草の部分で客が爆笑していると「一体何をやってるんだろう?」と想像がふくらみ、色んなことを考えるだろう。
 テレビだとその仕草がすぐ理解出来、アホらしさに腹を抱えて笑うことだろう。
 どっちがいいというのではないが、こんなに受けとめ方がちがうのは他にあまり無いと思う。
 僕の勝手な感覚なのだが、冒頭、大阪からの客が「あー、田舎はちがうなあ、景色がええし空気がうまい。この気持ちええとこで手水をつかおか。」と語る部分で、美しくきれいな秋の風がすーっと吹いてくるような気がするのだ。
 別にこの噺は季節が決められているわけではないが、真夏や真冬ではそうはならないだろうし、春の季感もまた少しちがっているような気がする。
 ちなみに、小学生の前で演ると鉄板なのがこの噺。あとで子供たちが頭をぐるぐる回すのを見ると、「してやったり!」と思う。

適当な事言ふ坊さん秋の風


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ホンヤクサイホンヤク


翻田訳蔵


 俳句初心者、翻田訳蔵がネット上の翻訳ソフトを使って名句を翻訳、再翻訳し、そこからインスパイアされた(パクッた)句を発表していこうという馬鹿馬鹿しくも実験的で図々しいコラムです。
 2012年6月から開始して、今回で30回を迎えました。そして、今回でひとまず打ち止めとなりました。みなさまお付き合いありがとうございました。そこで、過去の作品を一挙掲載してお別れしたいと思います。

Aotaフィールド キックアップや カイトtinklingly
秋の空柿食えば鐘と名付けられ
白椿椿赤ドロップキック以下省略
古代の池に蛙と馬と水の音
この暗闇の損失は柔らかいホタルです
まっもとでっきもみたぃしぃしゅうかくもみたぃしぃ
しむ身NozarashiふられてBANZAI
猿廻しのほそさときどきドローかな
雉の声しばしば恋をしています
たとえどんなに分け入ってもたとえどんなに灯りがほしくても青い山
池の朝ッス!はじまるッス!水すましッス!
スモウトリあやしき角のパワー持ち
冬を待つにぶんのいちはマット部屋
お元日…お問い合わせの…電話鳴る
ねじフック帽子かけたり春の宿
行く春や鳥と泪とトウモロコシ
夏草の上に五袋砂利をしく
夜の鹿悲しい夜の放屁かな
巫女に魔女に恋する狐かな
子供ラン緊急事態玉霰
3月のEPOの新曲納豆マーチ
蠅打つな打てば大変なことが起きる
蟻の列νの字描き夕焼けぬ
大根蒔く日より鴉を憎み蹴り
ぞうどうぞどうぞどうぞと秋の風
このむらの人は謎也冬木だち
郭公よりすこしちいさい時鳥
ゴムみたいな歯ごたえのする竹の子煮
夏の日に0.5キロ空輸する


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100年投句計画

選者三名による 雑詠俳句計画




先選者 阪西敦子

 引っ越した先の商店街には祭があった。八月最初の週末、商店街を七夕飾りと提灯で飾り、沿道の店々が屋台を出す。山車も神輿も踊もなく、飾りの中を過ぎるだけ。実はこの祭のもう一つの魅力は前日までにある。何週間も前からアーケードに綱を渡し、夜はその綱先を地上へ下ろし、張り子の木組みができ、形が現れ、色が塗られる。毎夜毎夜、小人のように人々が作業をしている。それは俳句を作ることにもすこし似ている。




日日草木枠の窓の理髪店  もね
 その名の通り日々咲き変わる日日草は、夏の窓辺を彩る花。住居はもちろんだけれど、人の訪れる店舗にもよく植えられる。「木枠の窓の理髪店」は、古くから親しまれた建物か、またそれを模して新たにあしらわれたものだろう。「理髪店の木枠の窓」というのがなんとなく自然なようだけれど、木枠を先にしたのには、その木枠が理髪店を特徴あるものとしているからだろう。日日草の静かだけれど賑やかなたたずまいが、窓へ視線を引き付ける。




入梅や閉ぢて冷たき裏表紙  凡鑽
 梅雨に入るとは、気圧の配置がかわって雨がちになること。それだけなのだけれど、人々が感じる変化は大きい。思いのほか長い時間を読書していたのだろう。ぱたりと閉じた裏表紙の意外な感触に、梅雨の違和感が表れている。

古本の甘き匂ひや九月尽  久我恒子
 古本の匂いはいつ感じるのだろう。手に開いたときだろうか、古書店に入ったときだろうか。そこに古さだけでなく甘さを感じた。このごろではやっと暑さのおさまるころである九月の末の、感覚の変化を本に積まれた時間と共に描く。
静々とアイスクリーム愛でる昼  アンリルカ
 「静々と……愛でる」ものといえば、なんであろうか、掛け軸、器といった茶の道具、小型の愛玩動物、人など。今回愛でられているものはアイスクリーム。愛でつつ減ってゆく皿の上。「昼」といういささか雑な終わり方も、この意外性の前ではバランスがとれて見える。

一葉落つ移動図書館過ぎる間に  妹のりこ
 移動図書館、といっても、その時は図書館ではなくて、図書を運んでいるんだけれど、その通る間に一葉が落ちる。言い習わしを信じるとすれば、さっき図書館だったときよりも、次に図書館になる時の方が秋だということ。そのシンクロが楽しい。

花魁草西の小窓の閉じたまま  あおい
 花魁草の命名の由来はいろいろだけれど、可憐な色は少し哀しみを含んでいる気もする。その花を咲かせた家は、ここのところ西窓が閉じている。西日を避けてか、部屋の主の留守か、ちょっとした不在は、存在よりも気にかかる。




面はづし胴着はづして白絣  dolce@地味ーず
三和土には履物あふれ菊日和  レモングラス
夏の月歩めば田毎移りゆく  武彦
神様は二十三人山開き  しのたん
幼稚園跡に残れる凌霄花  喜多輝女
洞窟の奥よりの風夏終る  板柿せっか
一列に牛は帰るよ独活の花  彩楓
跳ね上がるボールと乳房夏の浜  和音
ダックワーズほろりとくづれ昼の月  どかてい
伊予灘の夕日呑みほすビールかな  あおい

阪西敦子(さかにし あつこ)
 1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。


先選者 関悦史

 『現代詩手帖』八月号で詩人の川口晴美さんが誌上アンソロジー「川口晴美と、詩と遊ぶ」というのを三回連続企画として始めました。一回目のテーマは「女子高」。私も参加しましたが、女子高生を詠めということではなく、詩 短歌 俳句を寄せ集めて、詩の言葉によって女子高を作るから、女子高生になりきって句を詠めという無茶な依頼。何だそれはと思いつつすぐ受けました。こういう無茶振りくらいの方が作っていて面白い。




ロートアイアンのテーブルやアイスティー  富士山
 「ロートアイアン」はもともと錬鉄を指し、日本ではそれを使った家具や、門扉、フェンスなどまでそう呼ぶようになったというもの。アールデコやアールヌーボー風の装飾を透かし彫りにした、重厚ながら瀟洒なものが多い。そういう造りのテーブルなので屋外に置いてありそうでもあり、素材的にも造形的にも環境的にも涼しげ。「アイスティー」との相性も良い。カタカナばかりの表記、名詞ばかりの構成も題材にふさわしい。




貪欲に呼吸したるや夏の海  桂奈
 貪欲に呼吸したのは夏の海のほうなのか、それに向かい合った自身なのか、どちらとも取れますが、そういう自他、内外の区別が吹き飛ぶような、経験としての「夏の海」がスケール大きく描かれています。

掃除機に犬のほえつく炎暑かな  南亭骨太
 犬を屋内で飼っている人には日常的な光景なのかもしれませんが、俳句になった例はあまり見たことがなく、簡潔で意外性もあって、五感の絡み合うようなリアリティで「炎暑」が描かれたという句になっています。

跳ね上がるボールと乳房夏の浜  和音
 西東三鬼に〈おそるべき君等の乳房夏来る〉がありますが狙いが違う別の句になっていて、三鬼句の象徴性や圧迫感とは逆に、ビーチバレーか何かの躍動感に思わず吸い込まれる視線の向こうに夏の浜が広がり、鮮やか。

紫陽花を支える闇の水の音  てん点
 「支える闇」はレトリックとして決まっている分、臭みも出そうなのですが、下五「水の音」でいきなり水の存在と聴覚に世界が転じて、闇が押し広げられ、土地全体と紫陽花の対照が立ち上がるダイナミックな句に。

駱駝歩むたびひろごれる夏の霜  緑の手
 季語「夏の霜」は実際の霜ではなく、夏の月光が大地に白々と当たるさまを霜に見立てたもの。空想句でしょうが、駱駝が歩むたびにひろがるという暗喩と、特殊な季語の合わせ技でかえって確固たるイメージが成立。




麻服に腋の下なる宇宙かな  くらげを
ハンモックかうしてヒト科終はるのか  dolce@地味ーず
三和土には履物あふれ菊日和  レモングラス
ピーマンの密室だれか死んでいる  藍人
洞窟の奥よりの風夏終る  板柿せっか
空蝉や虚数の作りたる世界  笑松
火の国の水は清らや花石榴  うに子
八月の終わるドンドビ交差点  誉茂子
白壁のくすみ残暑を拒みたる  ひでやん
レクサスやサザン流るる遠花火  未貫

関悦史(せき えつし)
 1969年茨城県生。「豈」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。2017年第二句集『花咲く機械状独身者たちの活造り』、評論集『俳句という他界』刊行。共著『新撰21』『超新撰21』『俳コレ』他。


後選者 桜井教人

 炎天の中でも、歩き遍路さんに会うことがよくある。お遍路への思いを本当に強く感じる。昨年はうるう年で逆打ち(八十八番から反対回りをすること)のお遍路さんが多かった。うるう年の逆打ちは何倍ものご利益があるとされているからだ。しかし、遍路の歴史を研究している学芸員さんから聞いた話では、そのような風習は以前にはなかったのだそうだ。ではなぜ、うるう年の逆打ちがまことしやかに行われるようになったのか。ここには書きにくいのでそれぞれ考えてみてほしい。


特選

月涼し帰りたくない犬とゐる  もね
 犬がちょこんと座り、月を見つめている景が浮かんだ。散歩に出た公園は、やっぱり家よりも涼しいのだろう。傍らに佇つ飼い主の表情がとても優しい。もしかすると飼い主の方が帰りたくないのかも知れない。
 
緑陰を宇宙の話延々と  小雪
 緑陰から宇宙へと意外な展開。宇宙の広大さ、延々とという時間的な経過とひと時の涼を求める緑陰との対比が抜群によい。戸外の開放感、夏の日差しの明るさ、宇宙への夢を語るにふさわしいシチュエーションだ。

風鈴に今日の音生むけふの風  鯉城
 今日の風が今日の風鈴の音を生む。新しい発見だった。風には表情があり、全く同じ風はない。だとすれば、風鈴の鳴り方もそれぞれに異なっているはずだ。私も作者のように風鈴の音を聞き分けられる感性を磨きたい。


並選

軽鴨に聞かせる話こみいって  くらげを
点滴とパイナップルを飽和せり  中山月波
限界と呼ばれる里の胡麻の花  藍植生
無き眼見開く骸星月夜  桂奈
青空へ成田祇園会木遣り唄   柝の音
青空を背負いひとりの田植えかな  波野
平和とは100万本の秋桜  レモングラス
炎帝は女なんだが証拠がない  藍人
8時でもまだ青残る梅雨の空  ぺぷちど
眉間皺深くきびしく溽暑  幸
チッチ蝉小型発光体のごと  暮井戸
人形に描き込む瞳夜の雷  凡鑽
土用入ひとつ多めのサプリかな  武彦
枇杷の実の重なり生りて寂しがり  ヤッチー
天ぷらに揚がる青菜や風死せる  柊月子
フィナーレのよっちょれ踊り夏日向  出楽久眞
願い事ひとつ叶いて桔梗咲く  とべのひさの
夏旺んすなばセットにだんご虫  ぴいす
紫陽花や母のまじない子の薬  富士山
山積みのきゅうり窮屈即売所  おせろ
秋渇き幾度も同じ行を読み  久我恒子
サイレンも殴り書きなる熱帯夜  松田夜市
密会や前を横切る瑠璃蜥蜴  小市
蜻蛉来て古椅子の隅お気に入り  しのたん
天草を干して夕陽の落ちる浜  のり茶づけ
平安の回廊に灯や夏の霜  一走人
どんぶりに金魚飼ひたるやもめかな  南亭骨太
破れても破れてもまた金魚掬ふ  喜多輝女
夏の風邪たるみ増えたる肘の皺  テツコ
夕立や三下り半の細き文字  板柿せっか
熱帯魚反論許さぬ紅き口  24516
喧噪の路地に滲むや夕涼み  笑松
木下闇置かれたままの譜面台  小雪
雪月や五竜小屋から夏登山  ぐずみ
天も海も藍鼠に溶け溽暑かな  さより
放蕩の果ての墓守り蝉しぐれ  うに子
自画像の目は丹の色や秋の暮  誉茂子
短夜の続くでとじる読書会  台所のキフジン
よく笑ふ妻と歳晩迎へけり  大阪野旅人
灯れるは母のたましひ百日紅  内藤羊皐
ががんぼや揺れて夕空どんこ舟  松ぼっくり
秘境駅通過列車の風さやか  ひでやん
マネキンの視線の先やハンモック  彩楓
汗拭い手にはめ走るアスファルト  青柘榴
美しや若葉が水を浴びるとき  和音
日盛や鉄工場は暗きとこ  ゆりかもめ
半夏生先端の葉の白し白し  カシオペア
新涼や魚の色に塗る礫  どかてい
甘く香る古家の庭夏の夕  アンリルカ
担ぎ手が代わる流儀や博多山笠  かのん
朝顔の真青かの夜に捨てし子か  土井探花
飛魚の鰭のびやかに風の中  てん点
鱗粉は薄れゆくまま白木槿  妹のりこ
部屋にまで侵略するか朝顔よ  あるきしちはる
海溝の清子規あぶく泡雪羹  緑の手
夕虹のお知らせメール明日はハレ  マカロン星人
雷鳴の隠れかねたる庵の犬  人日子
鮨コース尽きて尽きない話かな  未貫
母子ねむり猫も眠るや夏の午後  いっちゃん
甘きかな鮎の背びれの焦げた塩  風海桐
母の手の仏飯ぶれぬ今朝の秋  童夢U世
夏至の朝赤き眼をしたけもの駆けゆく  まんぷく
揚羽来て私も羽化が始まりぬ  ミセスコナン
夏の昼スティールパンとマーダルと  エノコロちゃん
時鳥夢のあはひに納まりぬ  哲白
道楽の父の逝きたる花火の夜  遊人

桜井教人(さくらい きょうと)
 1958年愛媛県生まれ。愛媛県公立小学校教員。いつき組。子規顕彰松山市小中高校生俳句大会選者。第2回大人のための句集コンテスト優秀賞。第24回 29回俳壇賞候補。


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100年投句計画

へたうま仙人



 立秋もお盆も過ぎて、日差しも風もそれらしくなってきたのう。いかがおすごしかな?
 今月も、それらしい句からあれらしい句まで揃いに揃ったぞ。気配をうすうす感じながら読んでいただけたらうれしいぞ。
 
球児炎ゆブラスは焼ける人溶ける  ちろりん
土用鰻旗とにおいと画像だけ
 グラウンドの選手はあまり感じんかも知れんが、応援は暑いぞ! 楽器も灼けるし人間もぢゃ。わざわざ灼熱の元ですることかのう、とは思うが、いろいろと大人の事情も深そうで大変ぢゃ。健康を害せん程度に、皆さん大いに張り切って欲しいぞ。鰻もおおよそ手が出んものになったのう。さびしいのう。悲しいのう。においを満喫できたら申し分ないが、画像と旗だけでは詮ないのう。切ないのう。こんな気持ちの人が毎年何千万人居るんぢゃろうなあ。いろんな力で何とかしてもらいたいものぢゃのう。

女房に借りた日傘も重き程  健次郎
坂の寺杖の代はりの黒日傘
 他所の人に借りたり、他所の人と手をつないで眠ったりしたら何かと問題ぢゃが、女房に借りたりほかの人に手を引かれるんぢゃったら了解ぢゃ。そんな日傘も重く感じられるほど暑いんぢゃろうのう。案外他所の人に借りた日傘は軽いかもしれんぞ。いやいや試してみてはいかんぞ。日差しは強いが、それよりも坂道がきついんぢゃな。これに懲りて杖も常備せんといかんぞ。杖を使ったら本当に楽ぢゃ。それにつけても「黒日傘」が適切ぢゃのう。

水飯や道で漏らしてごゆるりと  KIYOAKI FILM
我がズボン糞ズボンこら!麦茶呑む
 「み」の頭韻が心地良いのう。頭韻みのごとしぢゃ。水飯も久しく食しておらんが、積極的に作ってまで食するものでもないのう。饐えの一歩手前の見極めがなかなか難しそうぢゃから、知ったかぶりをしてへたに手を出さんのが聡明ぢゃ。マナーの悪い犬や躾の悪い飼い主のおかげで靴やズボンが汚れるときがままあるのう。なんともやり切れん心持になるが、犬には罪は無い。糞を憎んで犬を憎まずぢゃ。こんな時は仰せの通り麦茶が一番。ぼた餅が横にあればなお良しぢゃ。飲み終わったらさあ、気分を変えてズボンを洗おう。

貸店舗有り幽霊付け  みやこまる
水となるまでの命や水水母
 ワシも幽霊さんとは何かと縁があるが、それでもわざわざ付けては欲しくないぞ。その店に行けば必ず幽霊さんに会えるとなったら人気が出るぢゃろうが、幽霊さんもなかなか気まぐれぢゃからのう。折り合いと兼ね合いを考えたら実に悩ましいのう。水水母が最終的には水になってしまうとは知らなんだ。水水母をいっぱい取ってきて洗濯機に入れたら水道代の節約になるぞ。砂漠に置いとけばたちまちオアシスの出来上がりぢゃ。これはいいことを聞いた。早速、柊つばきさんに教えてやろう。

白粉花今年も咲いて真っ白かな  真歩
 同じ花が野良生えで、今年も咲いてくれた喜びがひしひしと伝わってくるぞ。いくら野良生えと言っても、それなりの注意を払ってきた賜物ぢゃのう。それも真っ白な白粉花ぢゃから庭に映えているぢゃろうな。初秋の夕焼に染まる白粉花を思い浮かべるとまた格別ぢゃ。取ってつけたような「かな」の詠嘆にもクセになりそうぢゃ。

蝸牛雨降る道をつのたてて  どんぐりばば
 蝸牛は晴れた日にはなかなか遠出は出来ん。人間から見ればそれが気の毒に見えるかもしれんが、蝸牛からしてみれば、雨の日に活動出来ん人間のほうがよっぽど気の毒と思っておることぢゃろう。片方の都合ばかり考えていたのでは俳句は作れん。いろいろ考えさせられる句ぢゃ。

梅雨明けの公園のベンチにひとり  小木さん
時雨風に呼吸があるように
 公園のベンチにひとりの時はオサカナを釣るに限る。サンマは目黒に限るのぢゃ。その時はなるべく日陰のベンチを探して下されよ。梅雨明けの直射日光は、体にも髪にも毒ぢゃ。空に星があるように、風に呼吸があるように蝉時雨はそこに在るのぢゃのう。蝉時雨を暫くの時浴びていると、一瞬蝉時雨が止むときがある。その一瞬を今かと待ち、風はつかの間の呼吸を楽しんでいるのかもしれんのう。

夏至南風向こうのニライカナイかな  ケンケン
本塁打浴びしエースに晩夏光
 南風の向うのニライカナイに想いを馳せている作者の姿が神々しいのう。夏至の南風は更にその想いを増幅させるぞ。南風を送り出しているところはひょっとしてニライカナイかもしれんのう。そう思うと、南風の湿り具合も決して不快なものでは無くなるのう。いくら本塁打を打たれようと、味方がそれ以上の点を取れば何も気にする事では無いぞ。打たれることがあれば打つこともある。それがまた面白いのぢゃな。「晩夏光」に試合の行き先を暗示させる手法もまた見事ぢゃ。

離れとはラインで話す梅雨末期  柊つばき
ゆとりなき心にも咲け時計草
 梅雨末期の大雨の時はいくら心配でも出歩いたらいかんぞ。離れの家ぢゃから、と油断してもいかん。油断大敵、快楽一時ぢゃ。ラインでやり取りできるのならそれに越したことは無いぞ。そのうち梅雨も明けるというもんぢゃ。時計草は実に不思議な花ぢゃのう。あの造詣に神様のおちゃめさがわかるのう。時計草をじっと見ていると、あくせくするのがおかしくなってくるのう。花の中をゆっくりと動いていく影に身を任せたくなるぞ。時計草をゆっくり眺める時間くらい作らんと、時計草に悪いのう。

注連吊らるままや鰹の漁師町  坊太郎
蓮の花覗けば日輪生れ立て
 注連を外し忘れる程大漁で賑わう漁師町とは、不漁が続く昨今のご時世の中まことに目出度いのう。吊ったままの豊漁がずっと続いてほしいものぢゃ。鰹に限らず、スルメイカもサンマも鰯も庶民のために豊漁を願うばかりぢゃ。蓮の花の中に日輪を感じるとは只者ではないぞ。それも生れ立ての日輪とは、恐れ入谷のマリヤさまぢゃ。こんな感覚はひと財産ぢゃ。これからも大事に運用してほしいぞ。


カーナビは見ず行く先は夏の空  元旦
新しき星座描かん夏の夜
 カーナビは便利でありがたい代物ぢゃが、たまにはカーナビの言いなりにならず、反対のこともしたくなるのう。軽い反抗期ぢゃ。その先が夏の空ぢゃったらなおさらぢゃ。夏空のあの入道雲までが味方してくれるような何かあるかもしれん感は、言葉ではとてもぢゃないがいい表せませんのう。そして、夜になったら二人の星座を夏の夜空に描くのぢゃ。これで、非の打ちどころ無き完膚なき夏の完全制覇ぢゃ。ここで、やがてはやってくる秋のことなど考えてはいけんぞ。秋は秋、夏は夏、それはそれぢゃ。

 という訳で、長きの間この欄にお付き合い頂いてありがとうございましたぢゃ。いろいろな失礼や不快な言葉もあったかもしれんが、ワシに免じて許して下され。ワシもおかげさまで百年は寿命が延びた気がするぞ。
 へたうま俳人は数ある俳人の中でも特に選ばれし俳人ぢゃ。驕ることなく、溺れることなく、明日のへたうま俳人を目指すべく、たえず精進しようのう。
 今回は全員迷うことなく追放!ぢゃ。決して温情ではないぞ。見事なへたうまの実力ぢゃ。
 ぢゃがぢゃ、これが終点ではないぞ。
 くれぐれもくれぐれも油断召されるなよ。

「へたうま仙人」コーナー終了のお知らせ
 「へたうま仙人」のコーナーは、今回をもちまして終了させていただきます。これまでに投句いただいた皆様ありがとうございました。引き続き、他のコーナーへのご参加をお待ちしております。

へたうま仙人 
年齢 卑弥呼がおっぱいを飲んでいた頃、ワシは青春真っ只中ぢゃった。
好きなもの 霞のシャーベット(PM2.5抜き) 嫌いなもの 上手な俳句
将来の夢 大器晩成


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100年投句計画

自由律俳句計画



 向こうの空から妙な鳥が飛んできたと思ったら、ドローンだった。そういえば最近のTVの映像は空撮が多い。昔ならヘリとかクレーンで手間も費用もかかっていたのに、今はドローンでお手軽だ。アマゾンはドローンで、宅配を始めたらしい。そのうちドローン同士空中衝突して散歩のおじさん直撃とかならないか。女性露天風呂をドローンが盗撮とかしないのか。「ドローン急ぐ」は春の季語とかならないか……。




炎天をだまる  緑の手
 くそ暑い夏の炎天を表現しようと思ってもしきれない……ならと開き直ったわけでもないでしょうが、「だまる」の一語、そこから投げ出された余白、企みがあらゆる饒舌より多くのものを、あるいは炎天下の逃げようのない屈託を語っています。炎天下ではまともな言葉も溶けてカタチにならない……そんなこころのイラつきが伝わって来るのは、むしろたった8文字の短律がつくりだす余白のちからでしょう。「黙る」と収まるより「だまる」と脱力したことでより炎天は強調された。




八月の六日の米研ぐ水  大阪野旅人
 八月の、「の」が強調するのが原爆投下された広島忌。あれから70余年を経た日本人の命の記憶とは、米研ぐ行為とその水のありがたさだろうか。「八月の六日」「米研ぐ」「水」まったく無駄なく連結している。

クリームソーダ飲め今日からパパと呼べ  凡鑚
 このお父さんは、いったいどうしたのでしょうか。理由はぜんぜんわからないが突然ふっきれてしまったお父さんのおかしみが心地よい。「クリームソーダ」と「パパ」の今さら感と時代錯誤感が軽妙でよい。

向日葵に見下された  出楽久眞
 太陽に向かって、天に向かって……という通常の向日葵目線を変えてしまったところに新鮮さがあります。大きな向日葵なら2m以上。人間はまさに見下されているのです。

ぽちりぽちり歩くじいちゃんの影はくっきり  多満
 「ぽちりぽちり」という擬態語が、じいちゃんのそこはかなさを上手く表現しています。が、これは「くっきり」への序章。炎天の影が、じいちゃんのはかなさと対比されて強調されています。

病室の音だけの花火  元旦
 「病室の花火音だけ」と構成してしまいそうだけれど、「音だけの花火」とすることで、病室あるいはそこで聴いている病床の人に視点がフォーカスされて句の幅が広がった。




マネキンのくびれが眩しい 夏だ  柝の音
ほたる袋へ引き籠る  藍人
あれだけ鳴いていた熊蝉が吹き溜まり  もね
早起きした日の遅刻  小市
濡れ衣を着たままでいる海月  みやこまる
蛇の筋目のするり涼しげ  さより
ふりまわされてふりまわし家にいる  台所のキフジン
雲の峰まで真っすぐの一本道  彩風
三人の母三人の子を連れ夏大通り  多満
カタツムリにしてホームレス  土井探花


並選

古本の角川文庫に原田知世の栞  くらげを
扇子閉じ長話の腰を折る  中山月波
藤井四段これぞ正しく今年竹  藍植生
まだ朝の8時庭仕事せむ  レモングラス
ホテイアオイめだかの隠れ場夏の鉢  ぺぷちど
ザリガニの反逆ザリザリ  幸
人知れぬ秋の沼を過ぎる人の笑う  暮井戸
階段糞に沁み入る梅雨闇  KIYOAKI FILM
土用波校庭に大縄跳びの縄  ヤッチー
言い訳はしないよ梅雨が空けたから  とべのひさの
夫と子と猫も腹見せて大昼寝  のり茶づけ
意志の疎通が出来にくい母は蜉蝣  一走人
五十年も雨靴を履かぬ  南亭骨太
サムタイムインザモーニングてふオーデコロン  喜多輝女
滑だって生きている  テツコ
くやしいからつまらない顔をしている  笑松
電車に麦藁帽の子並ぶ  ぐずみ
怒ると敬語になるあたし  うに子
花火熟れて少女の唇  内藤洋皐
補聴器をかけ巡る甘藍噛む音  松ぼっくり
夕焼け雲と同化するスタジアム  青柘榴
グリーンイグアナ迷走する夏野  和音
パンダの産声が大きい  ゆりかもめ
菜虫殿人間様にも菜を残こせ  カシオペア
死んだまま生きるこがね虫  小木さん
夕顔の迎える老舗料理店  あおい
夏の果て宇宙葬と樹木葬といふ人たちいて  マカロン星人
琉球ガラスの器の金魚ゆらゆら  ケンケン
青梅雨やあゆみの重し犬  人日子
我にのみ来し蚊を叩く  鯉城
長ナスに熊本 長崎 松山あり  ちろりん
七月のけもの生もの太陽のにおい  まんぷく
蚊によく合う日よまた出合う  坊太郎
熱帯夜連れ夜行バス  ミセスコナン
今どきのステテコカラフルすぎて目移りす  エノコロちゃん


自由律で再挑戦を!

公園に子等走りちる薄暑光  みつよ
だんだんとただならぬ世やレモン水  みつよ

きむらけんじ
 1948年生まれ。第一回放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律 地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技 妄想、泥酔。


「放哉賞」再興。自由律を動かせ!
第一回尾崎放哉賞 作品募集

応募締切 2017年12月10日(日)必着
投句料 
 一般の部 2千円(2句1組 何組でも可)
 高校生の部 無料(2句1組まで)

 一般の部 大賞 賞状、10万円 ほか
 高校生の部 最優秀賞 賞状、クオカード5千円分 ほか
送り先
 〒545−0041 大阪府大阪市阿倍野区共立通1−1−9
 (株)たまてばこ内 尾崎放哉賞事務局
主催 自由律俳句結社「青穂(せいほ)」

詳細は……
http://www.hosai-seiho.net/


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100年俳句計画

詰め俳句計画



今月の問題
次の(  )の中に共通する秋の季語を入れてください。

海回りなる(  )の一両車
(  )や浜に鴉とゐて吹かる


海回りなる秋の旅の一両車
秋の旅や浜に鴉とゐて吹かる
 笑酔さん。私の手元の歳時記とインターネットでの検索では季語としての記載はありませんでした。季語「秋」の季語アレンジとして捌きます。特に前句のリズムがごたごたして良くない。後句の字余りは味がある。8(-2)級。

海回りなる野分の一両車
野分や浜に鴉とゐて吹かる
 猫楽さん。後句のリズムの悪さにずっこけました。高潮とか来るし浜にいちゃダメでしょ。7級。

海回りなる鯊釣りの一両車
鯊釣りや浜に鴉とゐて吹かる
 レモングラスさん。前句、鯊釣り御一行様? 後句は浜が利いていない。5級。マカロン星人さんは鈴虫。前句、「鈴虫の一両車」という表現にやや無理があるが、虫籠と旅をしている感覚は好き。後句、動物が多くてごちゃごちゃする。4級。

海回りなる送り火の一両車
送り火や浜に鴉とゐて吹かる
 ひでやんさん。前句、この語順だと車両に火がついているようで怖い。後句は情緒があるが鴉は鳥目なので夜はねぐらに引きこもっていることだろう。5級。しげこさん、青柘榴さんは観月。前句、お座敷列車っぽくてなかなか優雅。後句やはり夜の景に鴉は無理か。4級。くらげをさんは流星。前句、ロマンチック。後句、同様。同じく4級。童夢U世さんの月白、大阪野旅人さんの不知火もそれぞれ味があるが、後句、夜の景なのが難しいところ。同じく4級。

海回りなる秋風の一両車
秋風や浜に鴉とゐて吹かる
 ジュミーさん、出楽久眞さん。前句、風も汽車も一巡り。後句、風とあるので「吹かる」が情報としてダブっている。4級。とべのひさのさんの青北風、元旦さんの高西風も後句、同様。同じく4級。dolce@地味ーずさん、小市さんは爽籟。これも秋風の爽やかな響きのことなので、後句「吹かる」と重なるが、季語は音に焦点が合っていて意図的なずらしを感じる。前句も清々しい。3級。

海回りなる素十忌の一両車
素十忌や浜に鴉とゐて吹かる
 久我恒子さん。前後句ともやや抒情的なので、客観写生を得意とした素十とどうか。3級。杉山久子さんは子規の忌。前句旅好きの子規に合っている。後句も飄々としたところが、案外子規の句柄と合っているか。1級。

海回りなるりんどうの一両車
りんどうや浜に鴉とゐて吹かる
 明惟久里さん。お便りには「りんどう」という名前のキハ系に乗ったとのことですが、それだと季語ではないのでこの車両の中にりんどうを持って乗り込んだ、あるいはそういう人がいると読むのが自然でしょうか。後句りんどうは山でよく見かけるが、浜はどうだったか。3級。ほろよいさんは木犀。香りが主体の季語。前句は車両が香りをまとっている感じが素敵。後句、やはり浜が利いていないか。同じく3級。小木さんはコスモス。前句、パッと景が浮かぶ。後句、浜が利いてないかと思うが「吹かる」とはよく呼応している。2級。

海回りなる秋天の一両車
秋天や浜に鴉とゐて吹かる
 ヤッチーさん、のり茶づけさん。前句かっこいいが、この語順では視線が上下して忙しい。「秋天や」などとして切りたい。後句は寝転んでいると思うといい景。3級。柊月子さんは秋光。これは秋らしい気配のことで、前後句とも地味だがじわじわと味わい深い。
2級。桂奈さんは秋晴れ。前後句とも文句なく気持ちいい。1級。

海回りなるやや寒の一両車
やや寒や浜に鴉とゐて吹かる
 カシオペアさん。微妙なニュアンスの季語で前後句とも、一読した印象がぼんやりしている。4級。エノコロちゃんは長月。これもちょっと漠然としていて捉えどころがない。妹のりこさんの仲秋も同様。同じく4級。内藤羊皐さん、彩楓さんは八朔。旧暦の八月一日で豊穣を祈願したりしたらしい。私の中ではその行事とフレーズの印象があまりぴったり来なかった。同じく4級。人日子さんは行く秋。前句、「回」る、「行く」と動詞が重なってややくどいか。後句は鴉と共に秋を惜しんでいる感じがしていい。3級。台所のキフジンさんは金秋。稲穂が金色にそよぐ豊穣の秋のイメージを持った季語で、前句華やかでいい。後句、浜のイメージではないか。2級。藍植生さん、みやこまるさん、佳葉さんは秋麗。笑松さんは爽涼。どちらも清々しくて良い。1級。幸さん、れんげ畑さん、河原撫子さんは白秋。秋のもの寂しさが「白」によって強まったような印象がある。同じく1級。

海回りなる立秋の一両車
立秋や浜に鴉とゐて吹かる
 誉茂子さん。前後句とも「立」の字で引き締まった感じがする。初段。KIYOAKI FILMさんは新秋。「初秋」の傍題でこれも「新」の字によって清々しさがプラスされる。同じく初段。健次郎さんの清秋は秋澄むの傍題。これも透明感がある。同じく初段。どかていさんは秋分。前句、墓参なのかなどと想像できるところが良い。後句も彼岸と此岸が交差する特別な日としての秋分が生きるフレーズだと思う。同じく初段。


今月の正解

海回りなる新涼の一両車
新涼や浜に鴉とゐて吹かる
 中山月波さん、柝の音さん、藍人さん、一走人さん、喜多輝女さん、板柿せっかさん、鈴木牛後さん、うに子さん、あいむ李景さん、ゆりかもめさん、あるきしちはるさん、緑の手さん、恋衣さん、ちろりんさん、坊太郎さん、遊人さん。皮膚感覚を伴った季語でいいのだが、後句「涼」の字と「吹かる」がやや近かったと反省中。推敲不足でした。1級。

 二年間「詰め俳句計画」を担当させていただきました。新しい季語や新鮮な季語の使い方等々たくさんのことを読者の皆様に教えていただき、大変でしたが勉強になるコーナーでした。ありがとうございました。来月からの新担当、山澤香奈さんのことも宜しくお願いします。  (マイマイ)


解答募集中!
次の(  )の中に共通する秋の季語を入れてください。
(出題 山澤香奈)

(  )の裂け目に夜が入りこむ
海へ行きたい(  )の転げ出す

9月20日締切 結果は11月号に掲載


マイマイ
 2003年11月頃よりラジオに投句を始める。割と生活派俳人だったが、最近は?? 第1回、第4回百年俳句賞(旧大人コン)優秀賞受賞。2013年句集シングル『翼竜系統樹』上梓。将棋推定初段。棋友募集中。宇宙と生命を題材に詠んだ句集『宇宙開闢以降』マルコボオンラインショップにて発売中。

山澤香奈(やまざわ かな)
 第3回俳句甲子園出場。句集シングル『線路とぶらんこ』(マルコボ.コム)。


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100年投句計画 投句方法



雑詠俳句計画
自由律俳句計画
詰め俳句計画

 「雑詠俳句計画」では、寄せられた投句を一括して、各選者が選句します。各選者に宛てて個別の投句を行うものではありません。
 「へたうま仙人」は9月号をもって終了させていただきますので募集はございません。

11月号掲載分締切 9月20日(水)

投句方法

 投句先コーナー名
 俳号(無ければ本名の名前のみ)
 本名
 電話番号
 住所

 以上の必要事項を書き添えて、編集室「100年投句計画」係までお寄せください。メールの場合は、件名を「100年投句計画」としてください。
 各コーナーそれぞれ2句まで投句できます。また、「詰め俳句計画」は季語1つのみを投稿できます。
 各コーナーの投句は、ひとつにまとめて送っていただいても構いません。

メール宛先
magazine@marukobo.com

投稿専用ページ
http://marukobo.com/toukou/

※ハガキ FAXの宛先は本誌の裏表紙を参照してください。

さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。(「俳句ポスト365」のページ参照)


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短歌の窓


選者
短歌誌『未来』会員 渡部光一郎


特選

グラウンド西日の強し三塁手エラーの後をエースに寄りゆく  ケンケン
 三句目の「三塁手」以降、試合中の陰影あるワンシーンをうまくとらえていてよい。この語順のままでで詠むなら、「西日の強し」は、「西日は強く」とした方が分りやすい。また、「グラウンド」と「西日」のあとに助詞がないことでリズムがよくないといったきらいもあるが、ととのえ方によってもっといい歌になる。


並選

左手の親指の爪汚れたる紫蘇の葉を摘む我左利き  だりあ
 三句目の、四句目へのかかりかたが気になる。「汚れたる」のかたちでかかれば「汚れた紫蘇の葉」という意味になるがどうだろう。左手の親指が汚れているということが言いたいのであれば「汚れたり」の形の方が近い。要検討。リズム感はとてもよい。

まだ人の姿のままに眠りゐて胸に一枚鱗は光る  時計子
 正体は水棲の生物であろうか。人に変化できるのだから、龍や蛇の類かもしれない。「まだ人の姿」であるが、うろこが一枚だけ見えてしまっている。不穏を予感させるが、うっかりと鱗をみせる可愛らしさもあるようで面白い。余計な説明を省いて「まだ人の〜」と一気に核心へ飛び込むスピードは技あり。

一日の疲れの足へ集まれば痺るる十指さらゆを欲す  久我恒子
 一日の疲労が足へ溜まるというのはよくわかる。作者は一番風呂に入りたいが、特に足の指が湯を欲しているというのだ。身体感覚についてのしぼり込んだ表現がユニークである。


コメント

ビヤホール斜めに座り暮れ切れるまでに二杯を飲み干して立つ  暮井戸
 「暮れ切れる」が疑問。「暮れ落ちる」にしてもいいかもしれない。「斜めに座り」に作者の内面が投影されていて面白い。

六月のうぐいすの音に口笛で答えつつゆくハーフマラソン  一走人
 実景をやさしく詠っていてよい。

吹けば飛ぶやうな子蜘蛛のつくる巣を吹いてもみるが戻り来るのみ  鈴木牛後
 よくある情景だが、「戻り来るのみ」の部分の意味がとりづらい。蜘蛛の巣に息を吹きつけて一瞬たわむところを詠んでいると解釈したがどうだろう。

昨年の空に添ふ今年の空土の中でも仲良しでしたか  ぎんなん
 去年の蝉の抜殻のすぐそばに、今年の蝉が殻を脱いでいるところを歌にした。とても面白い発見である。ただ上句が大きく字余りになってしまった点がおしいので、そこだけ要調整。

わざわざにダメージ与え売る時代諭吉で塞ぐGパンの穴  殻嵩はるお
 わざとジーパンを破く贅沢を、「諭吉で塞ぐ」と表現したのだろう。テーマとしては面白いが、回りくどく感じる読者がいるかもしれない。

目薬をさしつつ読みし「蜜蜂と遠雷」ピアノ切に弾きたし  幸
 評者は『蜜蜂と遠雷』という本を読んだことがないが、初二句と「ピアノ切に弾きたし」によって色々なイメージが喚起される。固有名詞の使い方としていい。

帰省して干し大根の漬け物のレシピを母に教わっており  彩楓
 レシピという言葉に少し違和感を感じた。「レシピ」の一語をつかわない詠い方だとどうなるかと思うが、もちろん使ってもいい。

 みなさま大変ご無沙汰しており申し訳ありません。また、力作をたくさん有難うございます。
 今年の夏は異常に暑かったですね。暑くない夏はないんですが、今年はもう異常だと思いました。雨のない日が続いて庭の胡瓜がみな枯れてしまい、今年はしかたなく買って食べていました。
 歌ですが、作ったあとに先入観のない目で読み返してみてください。作者にはわかったつもりでも、読者に伝わらないことがよくあります。
 ではごきげんよう。


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自作の俳句を英語に訳そう!

百人百様 E-haiku



評 菅 紀子


 まだブライスの研究書を読んでいます。彼は日本語を習得して俳句を知ったのではなく、俳句で日本語を習い始めました。俳句の読み合わせで良いからと日本語教師を頼まれた日本人が、俳句の言葉だけでなく先々解釈にまで及ぶ彼の熱意にたじたじとなったそうです。そうして英語で俳句を紹介したブライスが忘れられていたのはなぜか? 日本人が敗戦で心が荒み、彼が俳句を通して感銘した和の心をないがしろにして物質主義に走ったからでしょう。72年目の終戦記念日が過ぎました。今、みなさんがHaikuの発信を担う番です。

1.
I am giving The Holy Spirit,
Winter load、
It is church.

聖霊を受けし真冬の教会で  KIYOAKI FILM

blessed with
the Holy Spirit at a church
in mid-winter


2.
My father,
walking shock!
summer of never.

我が父は道歩くが苦夏の果  KIYOAKI FILM

walking is
my father's asceticism,
the end of summer

お便り
KIYOAKI FILM 英語辞書、分からないなりに読んでいます。今度、ディズニー映画の「カーズ」の最新作、字幕で見ようかと。英語の勉強になりそうです。   

紀 KIYOAKI FILMさん、1の句では I am givingにすると「受け」ではなくて「授け」ていることになります。2の句は「歩くことが父の苦行、夏の果」は夏の「果て」ですか?「夏の果物」ではないですね。でもはじめお父様の苦行の「成果」としての「果物」かと思いました。そうすると結句は fruits in summer となりますが、それもいいかも。
 なんでも字幕で映画を観てくださいね。字幕特有の翻訳になっていますが。


3.
a shooting star-
tuning has begun
quietly

流れ星調弦ひそと始まりて  久我恒子

紀 quietly の代わりに in silence でもいいですね。


4.
dropping
a paintbrush-
a flower field

取り落とす絵筆の下の花野かな  久我恒子

dropped a paintbrush
onto a field
full of flowers


5.
into the full moon
Cat's patheric cries
She'd missed own shadow

十五夜を影をなくした猫の声  ほろよい

full moon,
meows of a cat
which lost its shadow

紀 ほろよいさん、猫のニャーと鳴く声にmeowという単語があります。また動物は通常 it で受けます。with〜「〜という状態で」という使い方をしました。miss は「なくす」という意。


6.
a ground herry is
deflating sun
someday

鬼灯はいつか萎んでゆく太陽  チャンヒ

a ground cherry
the deflating / withering sun
someday

紀 herryでなくてcherryですね。「萎む」は植物に主眼をおくとwither、天体に主眼をおくとdefaltingでしょうか。
 鬼灯の橙色の実を見つめているとそんな気になってきます。外のシワついた袋(萼?)が陽炎にも見えて。
 inflationはビッグバン後の宇宙の膨張のことで、逆にdeflationは空気が抜けること、チャンヒさんは太陽がいずれ縮んで活動を終えることを鬼灯によって示唆しているのでしょうか。
 sun は人が皆1つしかないものと認識しているので冠詞は theになります。
 原句にある主格の助詞「は」(is)を訳出せず、言葉をぽんぽんと置くことで含みを持たせるというのもありかな。


7.
at a day when a shrike sings
a white bread is
without expression

百舌鳥の鳴く日の食パンの無表情  チャンヒ

a day a shrike shrieks,
blank looks of
a slice of bread

blankness of a loaf of bread on a day a shrike shrieks

紀 鳥の囀りを表す動詞はたくさんありましたがとりあえず百舌鳥の鋭い声を想起させる音の効果を楽しんでshriekを使ってみました。食パン1枚だとa slice of bread、一斤だとa loaf of bread。
 白パンと明記されていますが、日本で食パンは漂白小麦粉の白いのが主流なので省略しました。「無表情」はlack of expressionや blank looksですが、このblankは「空白」という意味なのでなにやら白パンに呼応していますね。
 2つ目の訳例は原句「〜の〜の〜の〜」という連続性を一行句に表現してみました。


8.
glowing night after a bath
keeping the window open
humming from somewhere

湯あがりの窓に鼻唄薄暑かな  明 惟久里

after a bath
humming at a window,
light heat in early summer

お便り
明 惟久里 236号では、特にBachの句を実に素敵に詩的に(洒落ではなく……)直して下さり、ありがとうございました。少しずつ学べたらいいなぁと思います♪ まだまだ続く手探りですが、宜しくお願い申し上げます。

紀 明 惟久里さん、このコラムは双方向で私も学ばせていただいています。
 湯上りの窓に鼻唄、で切れて季語で終わっているので、カンマをつけて表現しました。「薄暑」という季語は日本語だと2文字なのに英語にすると「初夏の(高まり始めのまだ)軽い暑さ」という長い説明になりますね。


9.
Summer cloud
a sailing vessel
with three masts

帆船は三本マスト夏の雲  彩楓

summer clouds,
a sailing vessel
with three masts

紀 彩風さん、「帆船は三本マスト」で切れているので、季語の後カンマをつけて表現しました。たしかにこの句では英語俳句にした場合季語を頭に置いた方が効果的ですね。


10.
Summer end
a sand castl falls away
by a wave

夏の果て波に崩るる砂の城  彩楓

the end of summer,
the waves wash away
a sand castle

紀 城は castle 。砂の城は塔のようなものがばたんと倒れるのではなくて寄せる波が土台からじわじわ洗い流していく感じかな。ですので波は複数に。
 因みに、Sand Castle と題する戦争映画が今年米国で公開のようです。

先月号で「13. 一族の耳の似ている夏蓬(彩楓)」の参考訳が途中で切れてしまっておりました。正しくは以下のとおりです。失礼いたしました。

ears are alike
among the sort
summer mugwort


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百年歳時記


夏井いつき


 有名俳人の一句を紹介するページは世に数々あれど、「市井の逸品」とも呼べる一句を取り上げ鑑賞する記事はそんなに多くありません。
 百年先に残したい佳句秀句奇々怪々句を見いだし、皆さんと共に味わおうという連載は、名づけて「百年歳時記」。夏井いつきの目に触れた様々な作品を毎月紹介鑑賞していきます。


淡雪羹懐紙は蝶のごと湿る  ひでやん
 「淡雪羹」とは、溶かした寒天に白砂糖を合わせたものに卵白の泡立てたのと香料を入れ、固めた和菓子。口の中で「淡雪」のように溶けるということで、この名がつきました。和菓子に「懐紙」はつきものですし、「懐紙」が「湿る」という観察もあって当然ですが、「蝶のように湿る」という比喩のなんと美しいことでしょう。
 たしかに「蝶」の翅をつまんだ時、ひんやりとした感触があります。が、「淡雪羹」がのっていた「懐紙」の「湿り」が、「蝶」のそれに結び付くというのは、実に繊細な感知です。「淡雪」という字面と「蝶」のイメージの優美な取り合わせ、「蝶」の一語の絶妙な位置、最後の一語「湿る」のリアリティ。愛唱の一句となりました。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』7月7日放送分)

擦れ違う日焼の群れの塩素臭  江口小春
 複合動詞「擦れ違う」は、人物と人物の短い時間の動作を描写。どんな人物と擦れ違ったのだろうと思った瞬間、「日焼の群れ」というフレーズが出現します。作者の側は一人、向こうからやってきたのは見事に「日焼」した一団。光景が明確に再現されています。
 最も誉めたいのが下五。擦れ違う瞬間の「塩素臭」という嗅覚です。体や髪から匂う「塩素臭」は、長い時間プールで泳いだ人ならではの特徴。「日焼の群れ」とありますから、中学や高校の水泳部ではないかと読みました。「擦れ違う」時間を切り取りつつ「日焼の群れ」という人物をリアルに想像させる言葉の選択。俳人らしい鋭敏なアンテナが、日常の何気ない出来事を見事に切り取りました。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』7月7日掲載分)

白樺のあまき樹液や群青忌  比々き
 「群青忌」は水原秋櫻子の忌日。「秋櫻子忌」には、「紫陽花忌」「喜雨亭忌」「群青忌」など、魅力的な傍題が並びます。「白樺」という素材は、まさに印象派の明るさ。「啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々」に代表される秋櫻子らしい世界です。「白樺のあまき樹液や」というフレーズに対して、仮に「秋櫻子忌」をもってくると、植物を思わせる「秋櫻」の文字面が「白樺」と相殺。「紫陽花忌」も同じです。「喜雨亭忌」だと「喜雨」が微妙な因果関係を匂わせます。「群青忌」は、「白樺」との色の印象が美しく、「瀧落ちて群青世界とどろけり」の世界も同時に立ち上がります。「白樺」の林の向こうにあるに違いない渓谷や「瀧」が想像される涼やかな作品です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』7月21日掲載分)

三伏やホルモンの泡立つバケツ  トポル
 「三伏」とは、初伏、中伏、末伏の総称。7月中旬から8月上旬の最も暑い時期です。「ホルモン」とは臓物。ホルモン焼きのホルモンです。「ホルモン」を洗った経験はないのですが、まるで自分の膝の間に「ホルモン」の入った「バケツ」があるかのような臨場感。そのリアリティを表出させているのが「泡立つ」という描写です。ぬるぬるぬめぬめした感触、生臭い匂い、汚れた泡など、ここまで生々しく追体験させられることに驚きます。
 この「ホルモン」は焼肉として焼かれるのだなと思った瞬間、一句の向こうから焼肉の熱くて香ばしい匂いも重なってくる。「三伏」の暑さに立ち向かう逞しさも読み取れる、見事な季語の選択です。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』8月4日放送分)

水かけて白飯うまき夏越かな  剣持すな恵
 陰暦六月晦日に行われる大祓の神事が「夏越」。罪や穢れを祓い、無病息災を祈願するために、人々は「夏越」の神事に集うのです。そんな神事の時期の実感を、こんな日常的一コマを切り取ることで表現できるのかと愉快になりました。
 食欲も落ちがちな、暑い「夏越」の頃には、炊き立ての「白飯」に「水」をかけて食べることがあります。「水飯」という季語もあるぐらいです。「水」をかけてかき込む「白飯」の美味しさに、生きている実感が漲ります。「夏越」に行く前の腹ごしらえか、身の穢れを落とした後の昼ごはんか。「水」の涼やかさ、「白飯」の白の美しさが、「夏越かな」という清々しい詠嘆を豊かに支えます。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』8月4日掲載分)


百年歳時記は、南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』や
松山市公式サイト『俳句ポスト365』http://haikutown.jp/post/
などに投句された俳句を紹介します。


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俳句の街 まつやま

俳句ポスト365



協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/


金曜日優秀句
平成29年7月度


日焼(ひやけ)


なりはひは明らかならず日焼の背    クズウジュンイチ
日焼とも翅をがれし痛みとも  とおと
島の子も旅の子も日焼けかゆいかゆい  ぐわ
配球にまだ頷かぬ日焼の眼  かま猫
日焼子がエラーのグラブ叩く叩く  隣安
日焼子の眼へ照り返すチューバ  樫の木
日焼して二言めには波のこと  かるかるか
角笛を空へ日焼の象使い  かまど
予備校にそれは見事な日焼の子  トポル
そんなこと日焼の顔で言われても  耳目
証人の日焼がどうも嘘つぽい  初蒸気


擦れ違う日焼の群れの塩素臭  江口小春


秋櫻子忌(しゅうおうしき)


あをかきに万葉のいろ喜雨亭忌  永井潤一郎
書架922−3箔押し金よ秋櫻子忌  としなり
師系てふみづ溢れたり紫陽花忌  夜市
群青忌大河は時を急がざり  とおと
産道はひかりへ続く喜雨亭忌  鞠月けい
胎脂ぬぐう秋桜子忌の夜明け前  かみつれ
捩れたる黒き臍の緒群青忌  豊田すばる
クレゾール匂ふ長椅子紫陽花忌  トポル
喜雨亭忌やもりのつらの少し濡れ  いごぼうら
光漲る秋櫻子忌の野球場  樫の木
秋櫻子忌のネップモイ乾して星  ウェンズデー正人


白樺のあまき樹液や群青忌  比々き


9月の兼題

投句期間 8月24日〜9月6日

烏瓜 (からすうり)
晩秋/植物

ウリ科の蔓性多年草。夏の夕暮れには綺麗な白い花を咲かせるが、秋になると長卵形の長さ5〜7cmの実を結ぶ。初めは緑色で、秋が深まるにつれ朱紅色に熟した実は、蔓が枯れてもそのままぶら下がっている。

 9月25日〜29日の週は、都合により結果掲載をお休みさせていただきます。また、それに伴いまして、9月7日より募集開始の兼題(「舞茸」を予定)の募集期間を、10月4日までの4週間とさせていただきます。

参考文献 『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


 「俳句ポスト365」は携帯電話からもご参加いただけます。
 「俳句ポスト365」公式Facebookページ開設中! 公式サイトに設置しておりますリンクよりお入りください。毎回の兼題のお知らせを中心にお伝えしながら、皆様の返信欄への書き込みもお待ちしております。


 募集の兼題は変更される場合があります。「俳句ポスト365」のサイトで最新の情報をご確認ください。


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一句一遊情報局



協力 南海放送


金曜日優秀句
平成29年7月度


淡雪羹

淡雪の起伏いただく淡雪羹  遊人
余りたる黄身の禁色淡雪羹  直木葉子
入玉を許し淡雪羹三層  ロッチ
オーボエの調べに溶ける淡雪羹  小青
淡雪羹しずかに閉じるたけくらべ  妹のりこ
淡雪羹指してキツネの話など  あるきしちはる
泡雪羹ひえて白百合美容室  誉茂子
坦懐の日々や淡雪羹贈る  宵嵐
淡雪羹やさし糸月折れそうな  篠原そも
かの夢の羽化近からむ淡雪羹  一斤染乃


淡雪羹懐紙は蝶のごと湿る  ひでやん


夏の霜

宇登呂までまだ二百キロ夏の霜  三河のぽんぽこ
切所の西は漆黒夏の霜  福岡のおっさん
夏の霜地平の果ての星とパオ  烏天狗
楠の香の呼気神苑や夏の霜  いそ
夏の霜閉じることなき仁王の眼  甘泉
夏の霜棺の叔父に父のこと  香雪蘭
獣めくもの横切らせ夏の霜  お手玉
ヘラ鹿の導くままに夏の霜  豆蘭
夏の霜湾にジュゴンの独りきり  このはる紗耶
夏の霜ジュゴンの乳房尖りおり  洒落神戸
夏の霜を真白き猫として歩む  越智空子


大甕の百個並ぶや夏の霜  のり茶づけ


汗拭い

汗拭い洗って乾く間に昼餉  だんご虫
汗拭い出す間もなくて負けにけり  ポメロ親父
先生の激昂止まず汗拭い  ひさの
生物の先生眩し汗拭い  ねもじ
読経延々二枚目探す汗拭い  ひなぎきょう
汗拭い辻説法をしておらる  篠原そも
出土せる須恵器十片汗拭い  小泉岩魚
汗拭いお宮入りまであと三日  あらあらた
鬼忘れゆきしは青き汗拭い  ひそか
独り来て独りの祈り汗拭い  ターナー島
一合一升一斗一石汗拭い  逆ベッカム


汗拭いの鉄平は屈指の実力  フォーチュンアルト




終点は向日葵廃線のレール  七草
廃屋へチョウセンアサガオの幻覚  きうい
砕かれて炎暑めり込む廃車かな  月の道
炎天や廃車を刻む溶断器  石川焦点
葛の波廃車に赤き守札  ほろよい
廃棄せし現像液や秋近し  上里雅史
薄黒き廃油とぷんと缶へ首夏  メルコレディ
海霧深き廃油の波へ沈む海鳥  ラグナ
廃液の焼炉は千度炎天下  坊太郎
廃棄物三号倉庫月見草  理酔
難航の廃炉蚯蚓ひらたく干乾びる  妹のりこ
廃国や飢えた兵士の灼けた首  笑吉


廃油吸う選挙公報大西日  このはる紗耶


投句募集中の兼題

投句締切 9月10日


季語ではない兼題です。「広」という字が詠み込まれていれば、読み方 用い方は問いません。季語は当季を原則として、自由に選んでください。

宗太鰹(そうだがつお)
三秋/動物
サバ科の海魚で、体長は30〜40cm。南日本近海から熱帯に分布する。鰹節の代用にされる丸宗太と、刺身で食される平宗太の2種がある。


投句締切 9月24日

立待月(たちまちづき)
仲秋/天文
陰暦8月17日の月。名月以降、月の出が毎夜少しずつ遅くなる間を人の動作にたとえ、まだ立って待っているほどの間ですぐに昇ってくる月、という意。

秋園(しゅうえん)
三秋/地理
秋の草花が咲き誇り、木々が紅葉したり、虫が鳴いたりするなど、華やかで明るい庭園。

参考文献『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句宛先
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


※ 掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとにしたものです。俳句ならびに俳号が実際とは異なっている場合がありますのでご了承ください。


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今回のお題句に対する投句から次のお題句を選び繋げてゆく

疑似俳句対局


選者 美杉しげり


 投句数が増えてきております。「初投句です」という方も何人かおられました。なるべくたくさんの句をご紹介するよう心がけておりますが、字数の関係で難しい場合もあります。ご了承ください。お便りも紙面でご紹介するスペースはありませんが、とても楽しく拝見しております。ありがとうございます!


今回のお題句
鮨飯へ風を送りて咽せかへる  中山月波


候補句

鰻重の飯だけ残し食へと妻  凡鑽
 今月の一番乗り句。これは妻から夫への(ちょっと屈折した?)愛情なのでしょうか……。

鮨喰えば雷身近に落ちにけり  すぎ本たかし
 前回のお題句の季語が「鮨飯」。こちらの句は「雷」が主たる季語……という判断ですが、ルール的にはギリギリかも。でも投句がけっこう早かったので、プラマイゼロ?

佐保風は少女へ還る目借時  酒井おかわり
秋風や詩集の棚の痩せてをり  小市
名月や風を切り抜けるネコバス  藤田夕加
病窓の青田に風の生まれけり  猫愛すクリーム
蝉時雨音無山に風わたる  斎乃雪
冷麦や風の噂を流し込む  ときこ
風鈴や心地よき日も悪き日も  藍植生
 今月は「風」を自立語としていただいた句が目立ちました。一句目の酒井おかわりさん、二句目の小市さんのどこか不思議な感性の句。ネコバスに青田風、夏山の風、風の噂、風鈴とそれぞれバラエティに富んだ「風」の句が揃いました。

咽せかへる夏野の香り無人駅  葉音
秋の雷喉に小骨を咽せかへる  ぐずみ
咽せかへることも愉しき新酒かな  小川めぐる
 「咽せかへる」人たち。漢字以外の言葉を頂くのは、実は難易度が高いんですよね。
 こちらも、それぞれ全く違う場面なのが楽しい。個人的に「夏野の中の無人駅」に強い既視感を覚えます。いつだったか、きっと自分がそんな場所にいたような……。

鬼灯やあの日正座に嗚咽して  久我恒子
ノーヒットノーラン日焼子の嗚咽  出楽久眞
負け棋士の殺す嗚咽や虫時雨  土井探花
雉鳩の嗚咽のような青嵐  柊月子
 久我さんの句、もしや終戦の日の景でしょうか。鬼灯の赤がひりひりと胸に沁みます。
 球児の嗚咽、棋士の嗚咽。さらには雉鳩の嗚咽に例えられた青嵐!

送信の後の夏星の余白  天玲
空蝉や役目終えたる担送車  笑松
送風ファンぶぶんぶぶんと短夜を  鈴木牛後
桐一葉真白き顔の送り人  洒落神戸
 「夏星の余白」に託された思いが切なくも奇麗な一句目。「担送車」「送り人」という語が重い二句目と四句目、そしてどこかとぼけたオノマトペが愉快な三句目、さまざまな「送」の表情。

釜飯のぎんなん三つぶ峠茶屋  柝の音
夕飯を急いで食って咳の山  KIYOAKI FILM
鰻飯嫌いと残さるるを喰う  青柘榴
 実はまだ食べたことのない「峠の釜飯」、ひそかに憧れてます。
 KIYOAKI FILMさんの句「頂いた自立語:咳の山」とありましたが、おそらく「飯」だったと判断いたします。青柘榴さんの句は、これって嬉しいんだかショボいんだか……な可笑しみ。

帰省子の音立てて閉づ炊飯器  かま猫
 炊飯器だって詩になる、という事を示してくれる句。「音立てて閉づ」に、帰省してきた子の心理的な鬱屈を感じます。その一方で、久しぶりの我が家の夕食に思いきり心を開放しているようでもあり。その息子(と勝手に決めてしまいましたが)を黙って受け入れている母の姿が見えてきます。

牛膝野辺の送りに連なれり  ひでやん
 私が子供の頃はまだ「野辺の送り」の景を見ることができました。その野辺送りに牛膝もひっそりと連なっているという詩に心惹かれます。どこか夢の中の景色のように懐かしい句でした。


次回お題句

春愁や送信ボタンに指の影  野良古
 かま猫さんの句、ひでやんさんの句と迷ったのですが……。次回のお題句は、初投句の野良古さんに!(実は投句もかなり早かったのです)
 まさに現代の春愁のひとつの形ですね。いったん送信ボタンを押してしまえば、取り消すことはできません。「影」に心のためらいがうかがえます。果たしてこの後、送信ボタンを押したのか止めたのか。
 ……と、気になりつつ、次回もよろしくお願いいたします。


美杉しげり
 第8回俳句界賞受賞。4年ほど前から小説も書き始め、短編「瑠璃」で第21回やまなし文学賞佳作。美杉しげりはその時からのペンネーム。

毎月25日頃に、投句フォームにてお題句を発表します。投句締切は毎月末日。

疑似俳句対局投句フォームアドレス
http://marukobo.com/taikyoku/


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mhm通信


第77回

文 蓮睡


古川町夕涼み「久兵衛俳句会」

 7月15日(土)16時30分から開催された古川町久兵衛会夕涼み大会の中で、毎年大盛り上がりとなる、今年で第3回目の久兵衛俳句会が行われました。
 子供の部(小学生)と大人の部(中学生以上)それぞれで俳句を集め、各部ごとに10句ずつの優秀句を選んだあと、さらにその中から1句ずつを最優秀句として選ぶ、という趣向で、スタッフとしてmhmからイリス、蓮睡、愛大俳句研究会から紫羽、脇々、辰砂の5名が参加しました。
 子供たちは学校でも俳句を詠んだことがあると言って、進んで何句も投句してくれる子がいたり、苦手な子も誘い合って一緒に楽しんでいる姿なども見られました。
 逆に、大人のみなさんの方が、「いや……俳句はちょっと……」と尻込みされていましたが、そこは元気な子供たちの力も借りて、一緒に俳句を作りましょう!とお誘いしていきました。
 俳句を通して友達と楽しい時間を過ごしたり、親子で俳句について語り合ったり、そんな時間を共有できる俳句は改めてすごいなと思いました。
 さて、いよいよ結果発表の時間に。まずは子供の部から発表していきます。待ちわびて集まっていた子供たちは、仲間の女の子が呼ばれると、背中をバンバン叩いたりなどして、みんなで喜んでいました……が、発表を続けていると、呼び掛けてもなかなか作者が出てこない作品が。と思っていたら、「俺の句やろ……」と言って、なんと出てきたのは大人! 年齢を小3と偽っていました! 10年早い、いや20年遅いわ!(笑)
 そして、大人の部では、まさかの3連覇! その方は殿堂入りということにして、来年からは審査に回っていただく予定です。

最優秀句

小学生の部
ころもがえちいさくなったぼくのふく  二宮いつきさん 5年

大人の部(中学生以上)
園児らの足深々と田を植ゑる  林一孝さん

 暑い中でしたが、楽しく、また無事に終わることができました。
 俳句の作り方は、始めにステージで全体に説明したり、また投句箱の前でも個々に相談に乗ったりもしていたのですが、それでも季語の選び方や、言葉の並べ方のアドバイスは、一人ひとりにはなかなか伝えることが難しかったので、この反省は次に生かしたいと思います。
 なお、入賞した計20句の俳句は、伊予銀行古川支店にて掲示していただく予定です。

 mhmでは松山市内外問わず会員を募集中です。原則、毎月最終金曜日19時からマルコボ.コムにて定例会を行います。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)またはFacebook(http://www.facebook.com/mhmhaiku)まで。


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鑑(み)るという冒険


〜映画篇 演劇篇〜

文&俳句 猫正宗


第五十九回
『チョコレート デリンジャー』&『みすてられた島』


 漫画家、というより今やサブカルタレント杉作J太郎により、吾妻ひでを原作『チョコレート デリンジャー』の映画化が発表されたのが'07年。その後制作は遅々として進まず、ついに長い中断を迎える。そして、'16年に突如、'17年、つまり今年の春の公開が発表。正直思ったね「まだ、作ってたんだ……」。てなわけで松山(杉作の故郷)での先行上映に。そんな経緯を持つ本作、中断前と中断後では明らかに違ってました。中断前は(相当ポンコツではあっても)原作に沿って作ろうとされていたものの、再開後は、ひたすら杉作の友人知人、はたまた仕事先で出会った人たちを、出演交渉を含めてただ映していくという映像が大半を占め、少なくとも筋を語る装置としての映画は完全に破綻します。でもね、みんな楽しそうなんだよ。ああ、映画って最高の玩具なんだ、映画を作ってないって損してるんだって、そんな気になっちゃう。
 しかるに本作、もしかして、古今東西、かつて、そしてこれからも、最後まで語られぬまま散った多くの表現への鎮魂歌であり反撃の狼煙かもしれないと、今、原稿書きながら思った。いや、本当に。
 蛇足、主演の松本さゆきが舞台あいさつに来てた! 知らなかった……。残念。

竜淵に潜み十年経ちました

 見捨てられなかった映画の後は、見捨てられた島の話。
 あなたの住んでいる所が、ある日突然日本でなくなったら? 終戦直後の伊豆大島はまさにそういう状況だったそう。ポツダム宣言における日本の領土から除外された地域として行政分離させられたのです。同島では、独立構想と憲法草案(通称大島憲法)が至急作られるも、行政分離は解除。伊豆大島は日本から独立することなく今に至ります。
 『みすてられた島』(青年劇場公演、出演:吉村直、藤木久美子、他、'17年7月1日、ひめぎんホール(県民文化会館)サブホール)』は、そんな実話を基に、近未来?の戦後、突如独立を言い渡された島で起こるあれこれを描きます。作 演出は東日本震災と原発事故を扱った『背水の孤島』で演劇賞を総なめにした中津留章仁。チラシなどでも「大島憲法」が紹介され、いわゆる「社会派」作品かと思いきや、いや、そういう作品ではあるのですが、豈図らんや、「かあさん、憲法ってどうやって作るかわかるか?」「なにそれ、漢方?」みたいなゆるさで始まります。そうはいっても当人達には真剣な憲法談義を発端に、島の将来を話し合う中で浮かび上がる様々な問題と人間模様。そして明かされる意外な事実。それらは作中の島のものだけでなく、いま私達が直面している問題でした。私達も「みすてられ」ているのかも。と同時に、また多くを見捨てているのではないか? そんな中、示された人の結びつきは、ささやかな希望なのでしょう。
 思えば、私達はあまりにも他人任せにしすぎているのかもしれません。本当に大切なことは、きっと手放してはならないのです。これ以上、見捨てないようにするためにも。

花鶏鳴くみすてられるなみすてるな


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朝の見る句


No.6

文 蜂谷一人


無花果を食む波斯の雨を呑む  中町とおと

 句集「さみしき獣」より。エキゾチックで絢爛たる一句。ペルシアとは現在のイランのこと。漢字の表記が様々な想像をかきたててくれます。例えば千一夜物語。ペルシア王に妃のシェヘラザードが夜毎語ったとされる冒険と魔法の世界です。
 それにしても無花果とは不思議な果物。食べるのは果実ではなく花の一部。13世紀にペルシアから中国に伝わり、17世紀に日本にやって来ました。その名前も不思議です。中世ペルシア語ではアンジール。アンジールが中国でインジークォとなり、それが転音して、いちじくとなったとか。名前のなかに歴史のこだまが隠されているのです。13世紀といえば、モンゴル帝国がイラン高原を征服した時代。モンゴルの西進がユーラシア大陸の西と東を結びつけ、珍しい品々を東アジアにもたらしました。乾いた土地の果物なのにみずみずしいのは、ペルシアの雨を湛えているからなのでしょうか。


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100年俳句計画 掲示板



テレビ ラジオ

NHK Eテレ『NHK俳句』
 日曜6時35分〜7時
 (再放送 水曜15時〜15時25分)
 夏井いつきが第3週選者を担当
9月17日(日)、再放送20日(水)
募集兼題
 「鳥威し」または自由
投句締切 9月10日必着
投稿は葉書1枚に1句。選者名、兼題、俳句1句、名前、年齢、電話番号明記。
宛先 〒150ー8001 NHK「NHK俳句」係
ホームページからの応募も可
http://www4.nhk.or.jp/nhkhaiku/

NHK 総合テレビ(四国四県域)
  「四国 おひるのクローバー」内
隔週火曜
 『夏井いつきのムービー俳句!』
9月12日(火)、26日(火) 11時30分〜

TBS系列局 全国ネット
 『プレバト!!』
毎週木曜 19時〜19時56分
 夏井いつきが俳句の査定を担当

南海放送
 松山市政広報番組
 『大好きまつやま〜しあわせ未来塾〜』
毎週火曜 20時54分〜21時
(再放送 日曜11時40分〜11時45分)
 夏井いつきが塾長として出演

南海放送ラジオ
 『夏井いつきの一句一遊』
毎週月〜金曜 10時〜10時10分
  「一句一遊情報局」のページ参照

FMラヂオバリバリ
 『俳句チャンネル』
毎週月曜 17時15分〜17時30分
(再放送 火曜7時15分〜7時30分)
【投句募集兼題】
「竜田姫 とろろ汁」…9月10日締切
「月 体育の日」…9月24日締切
 WEB http://www.baribari789.com/
 mail radio@baribari789.com
 FAX 0898(33)0789
  投句には本名 住所をお忘れなく!
  「天」の句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。

各番組の放送予定は変更される場合がございます。新聞などで最新情報をご確認ください。


執筆

松山市の俳句サイト
 『俳句ポスト365』
http://haikutown.jp/post/
 「俳句ポスト365」のページ参照

テレビ大阪俳句クラブ
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 「集まれ俳句キッズ」(夏井いつき選)
  毎週日曜タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井いつき選)
投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。
朝日新聞松山総局(〒790−0003 松山市三番町4−9−6 NBF松山日銀前ビル)まで。


イベント 講演等

第39回総本山知恩院布教師会地方研修大会
 夏井いつき句会ライブ 目からウロコの季語の話
9月4日(月)15時〜17時
 道後温泉 大和屋本店(愛媛県)

姫路キャスパホール
 夏井いつき句会ライブ
9月10日(日) 14時〜16時
 姫路キャスパホール(兵庫県)
 定員に達しております。
問合先 姫路キャスパホール
電話 079(284)5806

松山市高齢者週間行事
 平成29年度 第52回 事務組合老人ホーム一日施設長
9月15日(金)10時〜
 松山養護老人ホーム事務組合
 江南荘集会室(愛媛県)

中日いけばな協会 平成29年度記念講演会
 夏井いつき「百年俳句計画」
9月18日(月 祝) 13時〜14時30分
 電気文化会館 5階イベントホール(愛知県)
 中日いけばな協会会員対象。
問合先 中日新聞社事業局文化事業部
電話 052(221)0729

沼津市民大学(第9回目)
 夏井いつき句会ライブ「俳句は脳に効く」
9月22日(金) 18時30分〜20時10分
 プラザヴェルデ コンベンションホールA(静岡県)
 参加費 1000円
問合先
 沼津市教育委員会生涯学習課
電話 055(934)4870

名古屋高等学校学園祭「愛校祭」
 夏井いつき講演会
9月23日(土) 13時55分〜14時45分
 名古屋高等学校(愛知県)

第29回ふそう文化大学
 夏井いつき句会ライブ
9月24日(日) 14時〜15時30分
 扶桑文化会館(愛知県)
 未就学児入場不可。
 販売は終了しております。
問合先 扶桑文化会館
電話 0587(93)9000

延岡総合文化センター
 夏井いつき句会ライブ
9月30日(土) 16時〜18時
 延岡総合文化センター「野口記念館」(宮崎県)
 参加費 3000円(当日3500円) 全席自由
問合先 延岡総合文化センター
電話 0982(22)1855


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魚のアブク



読者から寄せられたお便りをご紹介
お便りお待ちしています!
100年俳句計画編集室「魚のアブク」宛、もしくは他の投稿に添えてお寄せください。


出楽久眞 九州北部の豪雨被害を受けられた皆様に心よりお見舞い申し上げます。俳句が元気をもたらしますように。

喜多輝女 やっと梅雨明け宣言がでました。今年の夏はことのほか暑いようです。みなさん熱中症、ご注意ください!

編集室 朝晩の気温が下がりはじめ、秋らしさを感じるようになりました。一方、関東方面ではこの夏、日照不足で、米や野菜といった作物などへの影響も心配されているとか。

みやこまる 先日ある句会に参加した時、初めて席題というものを体験しました! 指名され、季語『夏暁』を席題とさせていただきましたが、墓穴を掘ってしまいました。でもこのスリルは病みつきになりそうです(笑)。

元旦 NHKカルチャーラジオで放送していた、愛媛大学の青木先生の「俳句の変革者たち」の最終回では、現代の若手俳人たちが紹介されていましたね。本誌の選者、関悦史さんや阪西敦子さんの句も取り上げられていました。それに俳句甲子園という新たなフィールドから生まれた俳人たちも紹介され、とても興味深く聴きました。とりわけ俳句甲子園常勝校である開成高校の句作りへのシニカルな分析は面白かったです。さて、今年の俳句甲子園は、どこの高校が活躍したかな。

うに子 二十歳になった俳句甲子園楽しみです!

編集室 今年で20回を数えた俳句甲子園。大会の感想をぜひ、編集室にもお寄せください!


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鮎の友釣り


第230回


俳号 うに子

前回…竜胆さんへ 木曜カルチャーの理性、竜胆さん。的確な読み解きで句の魅力を倍増させてくださるのは、経験値が高く作者の心情に寄り添えるからかと……。俳句甲子園実行委員会や聖カタリナ俳句指導などで若い感性にもふれ、年齢を感じさせないバイタリティーは増す一方ですね。敬服しています。

写真 「きみのかおは何の顔」というコーナーがあったのでトライ!50種類の動物の中から何に似ているか機械に判定してもらった結果、「86%リス」でした。豚じゃなくてよかった! あとの14%にはタヌキやナマケモノがはいっていると思います。

俳号 「向田邦子もじりの『うに子』です」というと覚えていただけやすいことに感謝。もう彼女の年を追い越してしまいましたが、探し物ばかりしてるところだけ似ています。

次回…れんげ畑さんへ 乙女心あふれるれんげ畑さん。静かな語り口やにこにこと句座をなごませる御姿……時々お地蔵様の化身なのではと思ってしまいます。これからもよろしくお願いします。


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告知



だれもが句集を出版できるかたち
句集Style

あなたの句集を20,000円〜制作します。
(完全デジタル入稿、30冊制作の場合。価格は税別)
仕様 135mm×135mm、36ページ、オンデマンド印刷、表紙PP加工

2017年 第3期
8月31日(木) 申し込み締切
(原稿締切9月5日、2017年10月末納品)

詳しくは http://www.marukobo.com/style/

通常の句集Styleの倍のページ数による「句集Style-W」の募集も行っております。
お気軽にご相談下さい。





春夏秋冬(しき)笑顔
まつやま福祉
五七五

福祉をテーマにした
夏の五七五結果発表


会長賞
相槌も介護の一つ花みかん  井上由美子(松山市)

優秀賞
作業所へ行く子青田の風が押す  由紀(松山市)
杖となり出掛けてみよか遠花火  さとう菓子(東京都)
コンサート盲導犬も尾で拍子  野ばら(兵庫県)

入賞
八十は生きるが仕事麦の秋  鯉城(松山市)
風鈴や介護士に勝つ詰め将棋  郁(愛南町)
アイスティー音訳図書を選ぶ午後  豊田すばる(徳島県)
「好き」の手話覚えて君へ日輪草  誉茂子(東温市)


主催
松山市社会福祉協議会
有限会社マルコボ.コム(ふくし句会 ハイクライフマガジン『100年俳句計画』選句)

協賛
JAえひめ中央 社会福祉協議会賛助会員





JAZZ句会主催
ハイクライフマガジン『100年俳句計画』共催

NORIKO KOJIMA TRIO LIVE
at JAZZ BLEND 2017

9月17日(日)
13:30 OPEN
14:00 START

参加費 3,500円(ワンショット付)
会場 白方ビル1階「JAZZ BLEND」
 (松山市中央2丁目1238 井村歯科医院の久万川を挟んで東隣)

ライブ終了後16:30ごろよりジャズ句会を行います。
最優秀句にはキム チャンヒによる俳画をプレゼントします。





南海放送ラジオ生中継
県庁本館竣工88周年記念句会ライブ
「俳句で祝おう! 県庁本館 米寿スペシャル」

俳句集団いつき組「高須賀あねご」さんと「家藤正人」さんによる
句会ライブを実施します。
専門員の解説を聞きながら県庁内を吟行します。
88歳を迎えた県庁本館を俳句で祝いましょう!
優秀作品にはプレゼントもあります!


日時:2017年10月7日(土)12:00〜14:00
会場:愛媛県庁本館入口前 特設会場
参加料:無料
定員:60人(先着順)
テーマ:「県庁本館」「米寿(88歳)」に因んだ句。
※春夏秋冬 季節は問いません。あなたのイメージで詠んでください。


当日参加者募集中!当日参加できない方も、事前投句部門あり。
詳しくは、南海放送まで。

南海放送 営業部 TEL:089-915-2380(平日10:00〜17:00)
http://www.rnb.co.jp/event/node/001771.php





100年 THE BEATLES 俳句ローラープロジェクト(仮)

 先月号で告知したビートルズプロジェクト。11月号に掲載予定の兼題は以下の通りです。
多数の応募待ってます。
 映画「ア ハード デイズ ナイト」より
 ア ハード デイズ ナイト
 恋する二人
 恋におちたら
 すてきなダンス
 アンド アイ ラブ ハー
兼題曲を詠んだ俳句を下記までお送り下さい。
専用フォーム http://marukobo.com/beatles/
専用Email beatles@marukobo.com





100年俳句計画作品集

100年の旗手

連載者募集のお知らせ


 「100年の旗手」は、年齢や俳句の経歴に関わりなく、本誌にて作品の発表が出来る場として、新たにスタートを切りました。
 そこで、毎月10句3回の連載に挑戦する方を募集します。1月号に掲載できるタイトル付きの10句の作品を、Eメール、または郵送 FAXにて本誌編集室までお送り下さい。
 編集室にて連載者を決定し、掲載いたします。
 多数の挑戦者をお待ちしております。

募集内容 1月号に掲載できるタイトル付きの10句
応募先
 Eメール
  magazine@marukobo.com
  件名に必ず「100年の旗手応募」と明記して下さい。
 郵送
  〒790-0022 愛媛県松山市永代町16-1 有限会社マルコボ.コム「100年の旗手」応募係 
 FAX
  089-906-0695
締切 11月20日(月)

第2期連載(7月号〜9月号)は、都合により休載いたします。ご了承ください


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編集後記


キム チャンヒ

 本特集の俳都松山キャラバンも今回で3年目。その中心の俳句対局は、本誌の企画から誕生した。
 もともとは、テレビで見ていた将棋や囲碁の番組を、俳句でやれないかと思ったのが始まり。
 様々な俳句のイベントがあるが、俳句そのものの魅力を、より伝える方法はないか。たとえば、俳句が発表されただけで、その俳句の魅力に歓声や拍手がわくようなイベント。
 考えた末、観客が俳句の生まれる瞬間に立ち合えば、より俳句作品自体に感動するのではないか。そうして、対局を参考に、作品点と作句時間とを合計して、競い合う新しい企画が完成した。
 俳句の「俳」は、俳諧の「俳」。季語や俳句の仕組みを知らない方には、敷居の高い文芸ではあるが、本来俳句は作品を読むだけで楽しめる文芸であるはず。
 俳句対局では、そんな俳句本来の面白さを、「スピード競技」の姿を借りて、体験していただきたいと思っている。
 この雑誌が発行されているころには、俳句対局の松山代表も決まっており、「第3回松山市長杯俳句対局」での決戦に出場する。


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次号予告


239号 10月1日発行予定

第20回俳句甲子園報告



お得で便利なマルコボ.コム直販定期購読! 巻末の案内をご覧ください
お申し込みの方へ、毎月末頃に最新号を送料無料でお届けいたします!
(住所変更の際は必ず編集室までご連絡ください)

『HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画』は以下の書店でもお買い求め頂けます。

愛媛県
 明屋書店 ※一部店舗のみ
 ゆらり内海(愛南町)
 原田書房(今治市)
 子規記念博物館(松山市)
 紀伊國屋書店松山店
 ジュンク堂書店松山店


HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画
2017年9月号(No.238)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子

2017年9月1日発行