100年俳句計画 2017年1月号(No.230)


100年俳句計画 2017年1月号(No.230)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。






目次


巻頭リレーエッセイ
八木ふみ


特集
生まれてから現在までの代表三句による
代表句集2017



好評連載


作品

百年百花
 此花悠/理酔/岡田一実/初蒸気


新100年の旗手
 小川めぐる/若狹昭宏


新100年への軌跡
 俳句 下楠絵里/葛城蓮士
 評 亜桜みかり/とりとり




読み物

美術館吟行/ひでやん

Mountain Cabin Dispatch/ナサニエル ローゼン(翻訳:朗善)

JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭

ラクゴキゴ。/らくさぶろう

ホンヤクサイホンヤク/翻田訳蔵

百年歳時記/夏井いつき

鑑(み)るという冒険/猫正宗

mhm通信/暇人

岡田一実の句集の本棚/岡田一実

続 南極を詠もう!/源泰拓



読者のページ

100年投句計画
 選者三名による雑詠俳句計画
  桜井教人/阪西敦子/関悦史

 へたうま仙人/大塚迷路
 自由律俳句計画/きむらけんじ
 詰め俳句計画/マイマイ
 100年投句計画 投句方法

短歌の窓/渡部光一郎

百人百様E-Haiku/菅紀子

俳句ポスト365

一句一遊情報局

疑似俳句対局/美杉しげり

100年俳句計画 掲示板

魚のアブク

鮎の友釣り

告知

編集後記

次号予告





巻頭リレーエッセイ



みかん 伊予柑 いい予感
八木ふみ

 初日の出のシルエットはみかん、伊予柑に似ている。
「みかん 伊予柑 いい予感」と唱えながら、みかん類に感謝し、私の新年が明けていく。
 思えば、私が一 二ヘクタール、
二千本の果樹園を引き継いだのは義父の急死からだった。鍬や鎌を持ったことがなく、数回みかん摘みをした程度の身では、「絶対に無理」と猛反対された。だが、手入れの行き届いた園を放棄するのはもったいないの一念で始めた。以来二十年、紆余曲折はあったが、多くの人の支えで続けて来られ、この三月末、定年退職する夫にバトンを渡すことができる。
 この間に多くのことを学び味わった。農業の大切さ、物づくりの喜び、一つ一つ積み重ねていく達成感……。みかんの収穫は、目の前の一個、一枝、一本と一山を摘み採り、選果、出荷に到る。
 今は超多忙だが、四月からの生活が豊かになるいい予感がある。


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特集

生まれてから現在までの代表三句による
代表句集2017



 俳句マガジン「100年俳句計画」228号、229号にて募集し、読者の皆様からお寄せいただいた、自選による生まれてから現在(2016年11月30日まで)に作った俳句の中からの「代表句三句」を一挙掲載!
 掲載順番はコンピュータでシャッフルし、ランダムにしてあります。
 名前の後の数字は年齢、各コメント中の数字(1)(2)(3)はそれぞれ、一句目、二句目、三句目を示しています。


旧重信のタイガース(45)
栗虫や母の指紋は黒いんだ
猟期終わる今年も奴は現れず
決めるなら決めろワシらは海苔を掻く
この三句は、いつき組長から戴いた「天」の三句です。私の宝物です。

樹朋(72)
青葉潮芥のやうに漁船団
秋の鷹翼捻じりて日輪へ
老い桜化石の鳥の伏すごとく
第30回俳壇賞予選通過作品の中の3句です。

てん点(68)
星の入東風真珠は揺れて生まれたる
日日草点字タイプのベルちさし
銀漢やひかり噴くごとジャズピアノ

野風(61)
龍目覚むるごと料峭の走者発つ
雷へ北進匍匐めく車列
ほとけのざ口伝遠野につまびらか

松ぼっくり(76)
総立ちの第九の星は眠らざる
をのこら引き連れはちきん俳句甲子園
三方をはみ出しにけり晩三吉
以上は今年の投句順です。名刺代わりにと思って選びましたが、相変わらずパッとしません。諸先輩方の変わらぬご叱正を賜りたく今後ともよろしくお願い致します。

どかてい(42)
爽やかやペガサスになる飴細工
枝豆のしほあぢ龍のなみだほど
猫の毛を尻尾まで梳く終戦日
ロマンチカ句会 俳句ポスト365 
100年俳句計画から、それぞれ一句ずつ選びました。

七草(66)
沈金の三段御重かるた読む
縫ひて絞り縫ひて絞りて初時雨
将門の首塚青きヒヤシンス

緑の手(61)
晩三吉明るし四〇〇年の法事終へ
ここは追憶のつづまり蚯蚓鳴く
立春やはえてきさうな壷の耳
いつまでも作句し続けていき、句友を大切に生きていきたいです。

小市(66)
もどらないことだつてあるふらここよ
口開けて花火見てゐる間に戦
黄落や大事なものは毀れます

ヤッチー(68)
熱帯夜とて授乳
耳鳴りか空耳か亀鳴くか
ロシア人の寒中水泳
自由律俳句も楽しい。

ほろよい(67)
生薬の匂い静かにががんぼ来
あぶれ蚊や手水の水の陽の余熱
桃色に馬手の傷口猫の恋
動物つながりで。

凡鑽(52)
ザクと甘藍ザクザクザクと戦争へ
吾に妻あり森に巣箱のあるやうに
ポインセチアさらつと嘘を買ひませう

岡田一実(40)
まづ光のびて生まるるしやぼん玉
毛糸編むドヴォルザークの星空に
町ぢゆうに靴ある春の景色かな

小野更紗(58)
火の国の友と握る手冬ぬくし
まやかしの髪褒められて昼の月
虫の音の髪なき髪にしみとほる
今年の出来事から。人生とは思いがけないことが起こるものだ。普通に生活できるって幸せなことなんだ。髪があるだけでありがたいのだよ〜皆さん!

柝の音(66)
手水舎に掬う青葉の波紋かな
桃運ぶオート三輪ハノイの灯
果てしなき下総の空蘆を刈る
(1)俳句新聞いつき組青葉の座20選。
(2)一句一遊「輪」地選。
(3)俳句ポスト365「蘆刈」地選。

ポメロ親父(58)
墓石へ西日皆健やかに居りまする
夕立過ぐ汐の匂ひの南口
体液に枝濡れてゐる鵙の贄

南行ひかる(62)
かげろふのかげろふさきのほむらかな
川底の被爆瓦に暑き影
綿虫の互いを知らぬまま浮遊

レモングラス(69)
草の根の怒りは深し涅槃西風
飛石の丸くていつも一人静
ブータンの屋根という屋根唐辛子
句材に出会った時が楽しいです。孫たちもプレバトに夢中です。俳句の種が育ってくれますように。

松尾千波矢(51)
琴線に触るるとは金雀枝に雨
病む牛の角の熱さや秋の風
潮風の揺らす喫茶の小判草

波野(67)
風砕く二百十日ののっぽビル
石蕗の花十年ぶりの逆上がり
春の雲役目を終えし力石
残念ですが、昨年と同じになりました。

加根兼光(67)
木下闇人に青さのある真昼
蝗飛ぶ空のなくなるまで爆音
車窓は大枯野の静止画、遠い

夏井いつき(59)
一本の百合のごとくに戦わぬ
小舟より小舟へ露草を手渡す
百年を旅して黄落の一本

みやこまる(55)
薫風のリフレインしてゆく渋谷
十九番みくじに秋の声聞けり
鈴虫や時崩しゆく砂時計
一年と半年の俳句人生で、夏井先生にとって頂いた二句と、NHK俳句で三席に選ばれた一句が私の宝物です。

睡花(53)
猫に似る扉のきしみ菜種梅雨
天蓋にサングラスいれて槍穂高
片方は神に捧げし袋角

三島ちとせ(28)
行列の途中より椅子小鳥来る
稲を刈るいつかのみづに足取られ
三日月や人は何時より火を恐れ
俳句し始めてから今までで一番秋が楽しかったので。

彩楓(63)
おほかたは峰よりの風青芒
虎落笛十二神将覚醒す
夏帽子一時帰宅の母の声
今年一年間に選んで頂いた句です。

蛇頭(60)
秘め事を刻むフレット秋深し
外套の背に女の吐息凍るまで
人肌の余韻留めておくピアノ
昨年、百回を迎えたJAZZ句会。その中で詠んだ艶っぽいのを3句。

おせろ(54)
弧を描く馬の調教新樹光
夏木立白うさぎがいたような
夏バテの犬とポカリと正露丸
子供が巣立ち送迎がなくなり、季節の移ろいも行事も感じる事が少なくなり、ただ日々に追われてる私に、そよ風句会の皆さんが吟行に引き出してくれたおかげでごほうびをもらった句です。来年もついていきます。

キム チャンヒ(48)
街中の紙切れが蝶になる兆し
十月の毒には色がないのだよ
兎を抱けば誰にでもあるあの日
目指すべきは、何処に紛れ込んでも、「チャンヒの句」と分かる俳句。それは新境地への挑戦であり、自己模倣との戦いでもある。差しあたり今は、口語定型句のリズムを拡大解釈しているところ。

香雪蘭(59)
忘れられても母さんの娘日記果つ
我が星に半分の死角夏野原
ひょいひょいと蝶々右肩が重い
(1)2014年いつき組忘年会での人気句。(2)俳句甲子園でたった一度募集のあった19歳以上の部で優秀5句のうちの1句に。(3)NHKの俳句日和で24選に残った句。以上選ばれた句を選んでみました。

人日子(70)
冬枯の木つんとして尽きる
紫陽花の路地の細さよ明るさよ
土ひかり土のくづるる双葉かな

笑松(60)
蓮の実や水豊かなる王の国
冬眠の獣空には狩りの星
湿地茸生う同胞多き大穴牟遅神
三句目をチェンジしました。俳句の缶づめ、一句一遊、俳句ポスト365で選んでいただいた句です。

朗善(57)
盗まれし時間に初雪の降りぬ
金網をすり抜けてゆく月光と
事も無き日の国連の桜かな
ローゼンチッ句、ロマンチッ句な雪月花を目指し、今年も詠みます!

石川焦点(45)
新絹のまわし初日の上手投げ
石づきに湿地ふたたび生えそうな
ひやむぎやむの穴ほどの太さなり
句歴2年目になります。一句一遊と俳句ポスト365に毎回投稿してます。(1)一句一遊で天、(2)(3)俳句ポストで地に選ばれた句です。今年も俳諧味のある句を詠んでいければと思います。

ともぞう(62)
ガテマラの爆発の柄夏の靴
今は山に居る名物は麦飯
おばあの芭蕉布片袖の焦げ跡

あねご(61)
初孫に美のつく名前木の実降る
万愚節がちゃがちゃぽんと出るおもちゃ
甚平のちんちくりんというサイズ
「つないだ手うみであそんだかぞくの日」月のうさぎも一年生になりました。いつかいっしょに句会ライブに参加したいなあ。

川又 夕(29)
春潮の満ちてまつすぐ出航す
をとこへのこたへは狡し蛇の衣
しあはせを掠むる如く踊りけり
十七音がこの躯を彩るならば。肌に合う華やかな服を選ぶように、言葉を大胆にみ取りたい。そしてこの俳句を「似合うね」と言ってくれる、私を選んでくれたひとと生きていきたい。

紫式部(87)
茄子を煮てをり一日暮れたる平凡に
眠られぬ夜半を灯せり遠蛙
花活けて一日始まる敬老日
(1)NHK全国俳句大会入選句。(2)子規記念顕彰俳句大会で稲畑汀子選の句。(3)一句一遊で金曜日に読まれた句。です。

もね(62)
のどぼとけ誉めて収骨冬の蝶
ただ蓑虫の糸切っただけなのに
火の玉の秋刀魚七輪轟かす

喜多輝女(67)
子を生さぬ一生もあり星月夜
大野原大緑陰の一つあり
冬晴るる空を洗つたやうな青
今年は二句差し替えました。どれも私の好きな句です。

有谷まほろ(40)
新涼や影の下地に塗る紫
桔梗の折鶴ほどに尖るかな
煙突や凍星数えても数えても

砂山恵子(57)
菜の花やうすむらさきに夜の明ける
苜蓿の花や古びし三輪車
梅が透ける今だけかもしれぬ
花の句が好きです。56歳初夏から俳句をはじめまだ2年もたっていません。一番好きな句を3つ出しました。今からも暖かく花や人生を詠んでいきたいです。

とりとり(59)
ごきぶりでなければ美しい茶色
緑陰の講義はビッグバンのこと
白シャツの子ら並ばせて校医なり

片野瑞木(53)
双六の上がりのごとく松山城
鷹化した鳩と元から鳩の鳩
立ちこぎで立ちこぎを追う秋麗

西原みどり(44)
昼の星あつめ春愁ひらきけり
落とし物いま逃げ水の水の中
海へ翅ひらけば春やさくらひめ

内藤羊皐(52)
夕映の滓を蝟めて毛虫焼く
猫の尾の翳の匂はす夕立風
夕蝉や軒へ日陰のの延び址る

山澤香奈(33)
熱の子に春満月は歌うだろう
海静か秋の向日葵骨めきぬ
目礼に目礼深秋の授乳室

桜井教人(57)
水の澄むやうな別れをたつた今
桃冷す四神眠れる野の水に
来世らしき夏蝶拝し高野辞す

ゆめ(45)
音の無き部屋に老いたる金魚かな
初恋に訂正印を押す帰省
栗食めば縄文の空繋がるか
金魚はちらと見たぐらいじゃ年齢はわからないが、金魚自身は老いを感じているんだろうか。水中でじっとしているか、ゆったりと泳いでいるのはそうか。音の無い部屋に金魚の赤色だけが妙に鮮やかだ。

一走人(66)
きつつきや山彦村の硫黄泉
山彦を山に返して秋薊
描き取りのドリルの余白けらつつき
今年は、山つながりで。

青柘榴(59)
ゴシックの影連れ歩く大暑なり
鳩麦のふぁの香ばしきハーモニカ
冷奴日本一の低き山
(2)思いが伝わり天をいただきました。とても嬉しかったです。この二句目のみ入れ替えました。

まるにっちゃん(57)
すまん親父未だ門無しなる門火
母はただ父と遍路へ出たかった
我もまた父の匂ひやタオル拭く

ミセス コナン(67)
カンナ咲く母は記憶を白くする
車イスくるっとまわし六月を歩く
草を食む愛犬の尻のどかなり
母の句夫の句は変えず我家のアイドル(愛犬すみれ)をデビューさせました。

谷口詠美(53)
キャベツ剥く自分探しはもうやめた
名を知らぬ骨まで響むはたた神
我らこそカインの子なれ蘆を刈る
一句一遊金曜日、NHK俳句入選、まつやま俳句ポスト365地選、作品より。

あおい(59)
小鉤解くごぜの十七足温め
竹取の翁の憂い泉殿
新絹や額づく花の名の新婦

勿忘草(79)
秋燕や牧駆くる仔のたくましく
カムイ棲む山黄落の火ぶた切る
水騒ぐ目高生まれたかもしれぬ
俳句とは全く無縁の私でしたが、松山俳句ポスト365へ誰でも投句出来る事を知り初投稿が2014年1月でした。
火曜日俳句道場で勉強しながらの投句ですが、3句は金曜日に選んで頂いた正に私の代表句です。

都築まとむ(54)
尖るから寒三日月をほっとけない
春淋しトーテムポールもメレンゲも
夫責めてみても月光のような夫
昨年から2句を差し替え。
今年は大切な人を失った。
夏が来ても秋が来ても淋しさは変わらない。
だから俳句にする。

幸(68)
アッシジの坂ゆるやかに聖五月
リラ冷えやロシアンテイのベリージャム
鈍色の折り紙残る秋の暮
毎年変わります。好きな句にいつもなってしまいますが素直な気持ちに従いたいと思いました。

鯉城(80)
煤逃げの地球の裏まで来りけり
人来ては座る寒九のTOTO便器
年酒酌み氏神様の獅子酔はす
(1)「泉」特選句。
(2)「愛媛新聞」特選句。
(3)「松山市民俳句大会」特選句。

若狹昭宏(30)
紫陽花や油彩の色を重ねたる
綿飴のやうに朗読する小春
漁礁より光散りたる終戦日
俳句を始めた高校時代の心の動き、一度俳句から離れて朗読の先生の勧めでゆったり戻ってきた頃、地元である広島に戻ることを止め、松山での生活を決めた、これまでのターニングポイントを集めました。

元旦(58)
点々と団栗少年探偵団
雪載せて過ぐ敦賀発姫路行
霊峰の峰又峰に雲の峰
代表句と言えるような句もないくせに偉そうですが、代表句を春夏秋冬新年から一句選ぶというのはいかがでしょうか。ま、春に秀句が集まっているとか無季はどうするか悩みますけどね。
選ぶほど代表句なく去年今年

十亀わら(38)
美しき骨格を抱く夏野かな
麗かや影から影へ跳ぶ遊び
どの色のくちばしが欲し麦の秋
今年の三句です。(1)(2)『100年俳句計画』より。(3)「NHK俳句」いつきさん選。森の中に小さな図書館があり、雰囲気が好きで最近通っています。窓の景色を睨みながら俳句を作っている怪しい人です。

マイマイ(50)
炎昼の迷子の影が僕だつた
雪止んだか耳鳴りは音叉のやうに
天の川私は六十兆の螺旋
歴史的仮名遣いに挑戦中です。代表句も歴史的仮名遣いに揃えてみました。

出楽久眞(42)
秋草や宇宙はつねに晴れてをり
シュプールを描きし子の頬紅ふたつ
先鋒の奇襲俳句甲子園
(1)個人的に一番好きな句。(2)初めて投句した句。おーいお茶都道府県賞。(3)初金曜日の句。選ばれることは嬉しい、それ以上に、自分が好きだと思える句をひとつでも多く残していきたい。

松山の雪花(65)
夫はまだ街に居るらし火事の音
客待ちのつばめタクシー冬ぬくし
初蝶来父に報告すべき事
やっぱり家族の事を読んだ句を代表句にしました。

豊原清明(39)
青田原父の笑顔よ忘れまじ
自然ああ我が恋人よ冬の鹿
月の輪の我を覆いし熊の山
今年は苦渋の年であった。夏、携帯から、俳句手帳に句作舞台を変えた。この3句に、僕の苦しみや絶句が混じっていると思う。

小木さん(63)
妻との年齢差ひらく雪の道
どうせ死ぬきつと死ぬ妻似の金魚
後の月妻のやうなる匂ひかな
平成29年1月9日妻和美さんの7回忌です。あれから丸6年経ちました。娘真央との二人暮らしにも、すっかり慣れました。ともすれば、和美さんのことを忘れがちです。

誉茂子(60)
新絹を樹海の色に染めにけり
コバルトはあの画家の色夏の果
亡き父の野鳥の本と巣箱かな
「夢中になれて努力が苦にならないもの」をこの年になって、やっと見つけることが出来ました。

渡辺 瀑(56)
輿入れの狐に続く蝶千頭
太陽の震えは風に大花野
鯨鳴く夜なり戦禍がまたひとつ

三瀬あき(48)
学校にいかない冬晴わるくない
一月のひかり体育館に鳥
島に雪あまたの角を眠らせて

越智空子(61)
賽銭のことりと鳴るよ囀るよ
我が角は涼しき繊月のごとく
文字持たぬ民の千年星流る

エノコロちゃん(61)
浮塵子湧く弔いの列行くあたり
父葬送る夜の浮塵子のさわぎだす
坂鳥や夜明けし峠鳴きながら
(1)組長にいただいた忘れられない初天の一句です。
(2)10年間、自宅で介護 お世話させてもらった父がくれた一句です。
(3)地元新聞の俳壇で11月に第一席になった一句です。

ぴいす(51)
餡パンを犬と分け合ふ十三夜
六月の痩せたる犬の足洗う
立冬や犬の名記す供養塔
15年間一緒に暮らした犬のピース。
臆病で乗り物酔いがひどく病院に行くのも一苦労、脱走が得意で私の句材によくなってくれました 楽しい時間をありがとうね ピース。

正人(30)
排気筒ふるはせ野焼見てをりぬ
初夏を乾けピザ釜用の薪
花蜜柑神は荒々しく遊牝む
俳句ポスト365から二句。やっぱり「排気筒」はお気に入り。

亜桜みかり(55)
梅雨明のアイロン掛けにボタン邪魔
法師蝉船霊さまへ申し上ぐ
ワタクシノ秋思ノタマゴトリオトス
二度目の「百年百花」の連載をさせていただき、一句差し替えることに。

山の雪(74)
木鼠のかすかに揺らす青葉かな
自分史綴る窓外既に野分後
新絹や手作りチュチュの娘かな
今回は俳句の推考についていろいろと考えさせられ、教えられた年でした。

坊太郎(68)
笹揺れて七福神も揺れるバス
炎天や露店に光る出刃五本
太陽と星を包みて蓮の花
(1)初めての新聞投句で組長より評を頂いた句です。
(3)感じたままを句にしたもので自分では気に入っています。

青萄(64)
陽炎の割れていきなりニューヨーク
長き夜の甘さびしさやマヨネーズ
晴れわたる百年後にも蘆刈つて
今後はその年度間に、代表句と呼べる俳句を三句作れるよう、真面目に頑張ろうと思います。俳号は飽きるとすぐ変えてしまいスミマセン。

むめも(62)
首ながいのがきりん春めく紙粘土
半眼の奥の重量はなぐもり
流星よ供犠のイヌにも名はあったのか
悩む凹む苦しむ、でもたま〜にラッキーな私の俳句人生。

ひでやん(48)
田を植える農夫砂鉄のような鬚
志立てて百花の種を蒔く
八千草や海については黙秘権
「人知れず永遠へ跳ぶ蛙かな」も気に入っているので迷ったのですが本歌取りでない句に入れ替えました。

理酔(55)
魚氷に上る俺は龍を起す
蛮王の立ち上るごと虹の立つ
逃げ水踏み散らし裸馬の少年
今年は、自ら越えなければならない三句を代表句とした。このままじゃマンネリだもん。

竜胆(69)
我ラハ百年ノ花守トナラム
秋天の橋塔鳥の眼となる日
求職窓口朱肉の硬き冬至の日
俳句歴七年、今年は当たり年? 三月の写真俳句での最優秀賞を皮切りに、四月の大花見大会での天、組長の本「超カンタン俳句塾」での秀句欄掲載と嬉しいことが重なりました。迷うことなくこの三句を掲載します。

れんげ畑(65)
夏蝶の墓石を越えて大師堂
いっせいに遠い目をして鳥渡る
海底に機雷のごとき海胆潜む
(1)一句一遊に投句した句です。(2)NHK俳句に投句した句です。(3)松山俳句ポスト365に投句した句です。

夜市(58)
積乱雲あしたもそこにありさうな
長茄子をもいでタクシー代に添う
白墨のメニュー消えゆく驟雨かな
未だ句歴浅く本人としてはまだ発展途上と思いたいので比較的最近の句を選びました。暮らしの中にじっくりと腰を据えた句が詠めればいいと思うのですが。

もんきち(60)
法隆寺並んで歩く春ショール
奈良の春うつむく鹿とツーショット
花冷えや十一面観音の指の先
銀婚で奈良へ旅行した時の句です。


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美術館吟行


第25回

道後アート2016地元プロジェクト
俳句とダンスと音楽のライブ 吟行会

文 ひでやん


 冬の雨がそぼ降る中の吟行となった。道後アート2016地元プロジェクトのイベントの一つである「俳句とダンスと音楽のライブ」で、会場を飾る紙灯篭に句を書くための吟行だ。最優秀句には、キムさん絵がもらえるという。
 灯篭に書く句は、道後の街にちりばめられた愛媛県出身 在住のアーティストの作品を巡って作るのだ。あいにくの雨にも集まったのは年中さんのさなちゃんも含めて総勢15人。

トクトクとしんぞうがなるふゆのあさ  さな
足音を残す長ぐつ冬の雨  ポン吉
落葉ふむ心もつえもおどりだす  芽衣

 まず最初に、道後公園内にある作品からということで、一行は集合場所の目の前にある道後公園北口掲示板へ。こんなところに、というようなところにさりげなく掲示してある、神山恭昭さんの作品だ。スターウォーズの帝国軍兵士みたいな格好の人間?が画面いっぱいに描かれている。愛媛新聞の「そこらへん日記」など、不思議なタッチの絵を描かれる方である。

またいつもみたいな顔で初時雨  猫正宗
カトレアやはずむ靴音蒼白し  ぶんたん

 次に向ったのは、道後公園西口。途中、雨の中、楓が地面に散り敷いている光景が綺麗だと話題に。そういうところに目が行くのが俳人たちである。こちらのアートも掲示板にさりげなく飾ってある早崎雅巳さんの作品。

子を抱く一人は多分雪女  恋衣
枯木立緑の瞳何を見る  雪花

 そこから引き返して宝厳寺へ。実は私は再建されてから行くのは初めてだ。小雨はまだ降り続いていた。宝厳寺では、門を入って左の大きな銀杏の木の下に大きなボードがあって、富久千愛里さんの絵が描かれていた。冬ではあるが今が盛りの黄葉の銀杏の下に、女性が踊っている絵がある。すっと手を伸ばし、黄葉をつかもうとしているかのようだ。柔らかで優しい色使いが素敵だった。

境内に大画はやさし銀杏落葉  雪花
宝厳寺にダンスいちょうになりたくて  蓮睡
山茶花やみんながえをみてくれたよ  ちえり

 ここからは街の中に三か所あるアートを展示しているお店に分かれての吟行となった。私は、「鍋焼き」の看板のある伊佐爾波神社階行くことにした。行ってみると、先にキムさんや松五郎さんたちがいた。観光客の方たちと、俳句やプレバトの話になり、その方たちが「鍋焼き」で一句作るというので、キムさんが俳句の指南役になっていた。私はカフェオレを飲みながら、とりあえず二句絞り出した。

忘らるる入れ歯や冬のトイレット  ひでやん
舞妓の目つきあやしく昆布のかき揚げを噛む  ちえり

 再び道後公園に集結し、灯篭づくり。子どもたちは楽しそうに絵を描いている。雨で紙が湿って扱いにくかったが、何とか皆さん灯篭ができ、その中に小さなLED蝋燭を入れると幻想的な明かりとなった。これを子規記念博物館の入り口階段脇に並べ、ステージは整った。絵と俳句、そしてダンスのコラボレーションの時間だ。

雨あがり夜寒を前に灯作る  ゆい
らふそくの揺れのとりどり夕時雨  川又 夕

 キムさんが即興で絵を描けば、ブルーラグーン ストンパーズの音に合わせて三好直美さんら五人が踊る。俳句の世界観と音楽、そして柔らかな身体表現の中にも、力強さのあるダンス。願わくは月下で鑑賞したかった。
 最優秀句は、道後で人力車の車夫をしている松五郎さん。本人は御謙遜されていたけれど、素晴らしい句でした。

守りたきものあるかたちに濡れ落ち葉  松五郎


冬空という枠破りのびやかに  猫正宗
伸ばす手の落葉の雨に濡れそぼつ  ひでやん
丼の欠片にひかり雪催  恋衣


ひでやん
俳句歴3年数ヶ月。俳句甲子園に携わって9年。現在、俳句甲子園実行委員会一般ボランティア委員長。



次回吟行会

愛媛県美術館
ウィリアム モリス展 吟行会

1月9日 朝10時現地集合
参加費無料(入館料は別途)
申込締切:1月5日(木)
『100年俳句計画』編集室までお申し込み下さい。
TEL 089-906-0694

吟行ナビえひめ
http://iyokannet.jp/ginkou/


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百年百花


2016年度 第三期 第二回


少女戦士
此花悠

もう忘れた十一月の雪のことなど
パキと割る板チョコ一斉銀杏舞ふ
白マフラー靡かせ模試へ少女戦士
鋼鉄の翅響かする冬の蠅
炒飯にあかあをきいろ冬ぬくし
オリオン座拝啓ベテルギウス様
山彦に蹴り上げられて寒の月
佳き夜の佳き手佳き椅子毛糸編む
壁に耳ポインセチアに盗聴器
商業巨塔全館消灯ジュエリー冷ゆ
風を揉む街頭に売る年賀状
縁取れる地球の形深雪晴

五十路のパート主婦にして、俳句の穴〜ロマンチカ〜の幽霊部員。


鳥の屍
理酔

龍の鱗より初雪のひらひらと
着岸の車輌甲板雪もやい
雪雲や砂場のトンネル未完成
初霰サンタに道を譲りおり
雪晴れやブラスバンドのチューニング
雪女来てトイプードルを蹴り飛ばす
金玉の裏まで濡れて雪時雨
啜り上ぐ海老の脳味噌夜の霙
下着盗んで風花仰ぎ見る阿呆
仮面の告白痴人の愛吹雪
かつて狂犬と呼ばれし男の雪だるま
百億の鳥の屍や六花

今回で三回目の百年百花、一度も締切日をまもった事がありません。で、判ったのは締切は九日は延ばせるということです。


正月曼荼羅
岡田一実

薄闇に影濃く伸ぶや大旦
荒れてきて御降りなるも嵐かな
加齢てふ螺旋を巡る初化粧
洛中や餅花に雪かかりゐる
初日記海に雪降る景をまづ
手鞠唄苦しき歌詞は略しけり
目出度くも厚かましき黄福寿草
田作りの艶に冷えゐて食はせ合ふ
明るさに目の開く昼の姫始め
懸想文プレタポルテといふ風情
三日に飲むペットボトルの去年の水
双六や人は皮袋として前へ

2014年「第三回 大人のための句集を作ろう!コンテスト」優秀賞受賞。2014年「浮力」にて現代俳句新人賞受賞。現代俳句協会会員。「いつき組」所属。「らん」同人。第二句集『境界 ―border―』(マルコボ.コム)。


なにもかも夢
初蒸気

煙突がごんごんと吐く雪の素
反戦のビラはむらさき冬の蜘蛛
枯菊や病身縛る紐さまざま
この町に太郎の塔あり花八手
日向ぼこ墓に曇つたグラスひとつ
ついてくる雪虫お前もはぐれてか
冬耕の唇に明るき唱歌
黄金の犬たち弾む冬の牧
笑ひ袋二つ売れけりクリスマス
シヤツターを切るとき聖夜静まれり
凍鶴の眼や悲しみをふと降ろす
なにもかも夢に海鼠がしてくれる

大掃除で、結婚式の時配った「めをと句集」が出てきました。句の下手さとかより、なれそめなんぞ書いちゃってる自分を、殴りたい。


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新 100年の旗手


読者投稿による3ヶ月連載作品集
(2017年1月号 〜 2017年3月号 1/3回目)


はつはる
小川めぐる

にはとりを拝みて今年始まれり
なんだつて書ける白さよ初暦
舟の形の雲もあり初御空
歌留多会極楽鳥花など活けて
スカーフにモアレの見ゆる淑気かな
勝ち馬の湯気たつ背中や初競馬
初濯ごうんごうんと繰り返す
入念に髪整へて春着の子
しばらくは蘿蔔の汁椀となる
小豆粥歯のなき夫となりにけり

1967年熊本県生まれ、現在は大阪在住。俳句歴は1年3ヶ月くらいです。俳号の由来は、「いつも目をグルグル回している」ところから。


若旦那
若狹昭宏

芋の皮揚げて米寿を噛み締めむ
求愛のかたちに咲いて冬の園
気まぐれな夫を送り出すマフラー
くつさめの都合悪きを吹き飛ばし
神木の如き柱の建つ小春
初夢や必死の顔をしてゐたる
大口の男誇らし初写真
素晴らしき酒の気がする福沸
買初の長らく底に沈む服
外つ国の土産ばかりや初句会

1985年生まれ、広島県出身。お呼びとあらば即参上。自称「キム チャンヒの弟子」として俳画修行中のmhm代表。松山や今治で双星句会を開いてます。


2017年 第1期連載者募集中
締切2017年2月15日(水)
 応募内容 2017年4月号に掲載できるタイトル付の10句
 応募先  Eメール magazine@marukobo.com
件名に必ず「100年の旗手応募」と明記して下さい。
(郵送またはFAXでも受け付けております。詳しくは編集室までお問い合わせ下さい。)


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新 100年への軌跡


2016年度 第三期
第二回


海へ海へ
下楠絵里

冬小菊着物をまとふときしづか
箸を割る音雪を踏む音に似て
綿虫の海へ海へと舞ひゆける
小狐の瞳にけものたるひかり
短日やふるさとは花多き町
裸木の音符のやうに立ち並ぶ
へその緒に血の黒さあり冬の雨
弦楽のあふるる部屋や寒昴
羽根ペンで便りを書きぬポインセチア
旅先は水鳥数へ終るまで
オルゴール閉ぢて霰のみ残る
鍵盤は冬の重さに沈みけり
子守唄に異国の言葉室の花
湖に波初夢すこしづつとほく
こし餡のやはらかくある初春かな

下楠絵里(しもくす えり)
 1997年生まれ。京都大学文学部在学中。洛南高校在学時より句作を始める。第15〜17回松山俳句甲子園全国大会出場。第10回鬼貫青春俳句大賞優秀賞。


健忘症
葛城蓮士 

いつしかのマスクを捨てて家を発つ
凍てる夜へ牛乳を買い足しにゆく
白息やTSUTAYAの延滞金が高い
忘年会思いだせない人の名も
飲み会の持ち主現れぬコート
手袋の片方を干す冬休
社会鍋右腕の傘いつ消えた
ねんがかくかんじをおもいだせぬまま
煤払借りっぱなしの本もあり
健忘症なので古日記がきれい
人日やどこからとなく古守
悴んで切符のような紙多し
冬旱干すズボンから鍵落ちる
初売や赤子の靴のぶらぶらす
洋菓子の名の猫を呼ぶ忘れ雪

葛城蓮士(かつらぎ れんじ)
 1994年生まれ、埼玉県在住。第12回鬼貫青春俳句大賞優秀賞。ゲリラ句会管理者。



音……そして忘れる楽しさ
亜桜みかり

 「海へ海へ」作者はきっと無意識のうちに音を親しいものとして生きているのだろう。海はすべての音の母。そして何気ない瞬間に心の海へ詩がぽろんと生まれ、句となっているのだと感じた。
綿虫の海へ海へと舞ひゆける  下楠絵里
 あの頼りなげな綿虫が音も立てずに海をめざしていく。綿虫の透明感のある白と冬の海とのコントラストによって、無音という音の世界が描き出される。
弦楽のあふるる部屋や寒昴  下楠絵里
オルゴール閉ぢて霰のみ残る  下楠絵里
 豊かな音に満ち溢れた室内と窓の外の寒昴との対比が魅力的。オルゴールの残響を霰と表現したのか。作者の心中にあたたかくも硬質な霰の粒となって残ったとも読める。

 「健忘症」を読んでいるとこんなにも忘れてみたいものだと思った。でも本人が気づいてないだけで、誰の人生も忘れ物だらけなのかもしれないとも思えてくる。そして決して不幸せの種になることもない。
白息やTSUTAYAの延滞金が高い  葛城蓮士
手袋の片方を干す冬休  葛城蓮士
 両句とも季語の斡旋が絶妙。読むだけで作中の人物の体温までも感じられてしまう。
悴んで切符のような紙多し  葛城蓮士
 ポケットの隅からひょっこり出てくる紙片のことか。洗濯機の中で出てきてしまうことなく洗われ乾いた紙片の切符のような厚み。そんな経緯とは関係なく作者とともに悴んだかのように思え、愛おしささえ感じてしまうような。

亜桜みかり
 1961年俳都松山市生まれ。今治市在住。第2回、第7回、第8回選評大賞優秀賞受賞。第3回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞受賞。


気品と実感と
とりとり

 下楠絵里さんの「海へ海へ」は、気品のある作品でした。
小狐の瞳にけものたるひかり  下楠絵里
 野性動物を上手く表現しています。「けものたるひかり」とひらがなにしたのがかえって鋭い眼光を想像させますね。
へその緒に血の黒さあり冬の雨  下楠絵里
 出産は血まみれの命がけの行為。そうやって産んでもらったことを思い出させるへその緒に、「冬の雨」の静かな音が響きます。

 葛城蓮士さんの「健忘症」は、寒さのなかの生活が強く実感できる作品でした。
飲み会の持ち主現れぬコート  葛城蓮士
 会が終わって寒い外に出てから、コートを忘れたことに気付くんでしょうね。忘年会のころの実感ですね。
健忘症なので古日記がきれい  葛城蓮士
 わかるんですけど、少しやりすぎでは?
悴んで切符のような紙多し  葛城蓮士
 悴む手をポケットに入れると、ごそごそ紙がある。ますます寒いですね。
洋菓子の名の猫を呼ぶ忘れ雪  葛城蓮士
 寒い句が続いた後に、「洋菓子の名の猫」でほっこり。ミルフィーユかなとかいろいろ連想するのは、最後の春の季語「忘れ雪」の力でしょう。作品の終え方がとてもよかったと思います。

とりとり
 1957年生まれ。三重県在住女性。第1回選評大賞優秀賞。


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Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳 朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ

No.42


Muddy muddled leaves
Like soggy oatmeal
Where the snow has disappeared

雪消えてお粥の如き落葉道

(直訳)
泥まみれの落ち葉
ふやけたお粥のよう
雪はどこへ消えたんだ


 We are between snowstorms, just waiting. I hope the next one will be big and beautiful.

 今大雪の中休みで、僕らは待ってんだけど、次も大雪で、美しければいいなあと僕は思う。


ナサニエル ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。2013年7月より山梨へ移住。


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JAZZ俳句ターンテーブル


文 白方雅博(俳号 蛇頭)

第70話
ベイシー イズ バック  ブッチ マイルス


初電車ビッグバンドがあった街  夜市

 松山市役所ブラスバンド部の個人練習を終えると、同い年のTと連れ立ちよく飲みに出た。が、その日は彼と市役所前電停から道後駅行き路面電車に乗り南町で下車。「ナイトシアター パレス」の看板を見上げながらバンドの楽屋へ向かった。Tはこのキャバレーのビッグバンドでトランペットのトラ(代理演奏)も務めていて、そのコネで楽団所有の譜面をコピーさせてくれた。昭和57〜58年頃の話である。

ベイシーで集う同志よ社会鍋  マミコン

 そのパレスお抱えのドラマー兼バンドマスターだった堤宏文こと俳号 マミコンさんは、店廃業(=バンド解散)の数年前にバンドリーダーを後進に委ね、本格的なライヴ・プロデュース活動を開始した。内外の著名ミュージシャンを招聘し、松山を中心にジャズライヴを実施。自らもドラマーとしてセッションに参加した。社会鍋は、もはやマミコンさんのライフワークとなっている松山市総合福祉センター大会議室を活用してのチャリティ・ライヴのこと。特にニューオーリンズの風水害や東日本大震災の被災地支援コンサートは、マミコンさんご家族の思いと有志ミュージシャンとの絆が実現させた。集う同志が発するサウンドは、もちろんカウント ベイシー。

細胞を鼓舞するドラマー冬ぬくし  蛇頭

 そのマミコンさんのおかげで、名プロデューサー伊藤八十八氏とお話しできる幸運を得た。岩手県一関市のジャズ喫茶ベイシーを初めて訪れた時、店主が僕に話しかけてくれことを自慢すると伊藤さんは「菅原さんがプロのミュージシャンを続けていたら、間違いなく超一流のドラマーとなっていたでしょう」と返してくれた。
 今回のテーマ アルバム「ベイシー イズ バック」は2005年10月28日仙台、電力ホールでのライヴ録音である。71年、カウント ベイシー2回目の来日以来、菅原Swifty$ウ二氏はベイシーの日本ツアーの全日程に同行している“スイフティ”は、直ぐに行動し、手際の良い菅原さんにベイシーが付けた素早い≠ニいう意味のニックネームである。菅原さんと伊藤さんはベイシー没後20年というタイミングでビル ヒューズ率いるカウント ベイシー オーケストラの来日公演とライヴ・レコーディングを目論み実現させた。

白熊がどしゃめしゃどんと嵐呼ぶ  破障子

 このアルバムは伊藤さんが創設したレーベル「エイティ エイツ」からリリースされた。そう「八十八」。とても音質が良い。菅原さんもライナーノーツに寄稿している。前半のベイシー楽団へのリスペクトがスマートだ。後半の日本公演紀行がリアル。伊藤さんとの遣り取りでアルバム タイトルが決まった行がとても粋である。そして、指揮=ビル ヒューズと記され“フィーチャリング ブッチ マイルス”とある。そう、彼のドラミングがベイシー ビッグバンドを鼓舞したのだ。
 しかし、裕ちゃんのようにカッコいい白人ドラマー、ブッチ・マイルス。それを白熊呼ばわりは無いやろ。念のためYou Tubeで確認した。「あっ、ホンマや」。
 コンボでの彼のドラミングを聴くなら「マイルス アンド マイルス オブ スウィング」がお勧め。


Today's Turntable
『ベイシー イズ バック』 2005年/eighty-eight's
『マイルス アンド マイルス オブ スウィング』 1977年/famous_door


「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の毎月第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は月曜日の21時〜22時。
次回のJAZZ句会は、1月22日(日)13時より。テーマはヴォーカルも絶品のジャズドラマー「グラディ テイト」です。参加希望の方はマルコボ.コム(担当キム)までお問い合わせください。


このコーナーで紹介した俳句とエッセイ、堤宏文さんの写真とを組み合わせた『JAZZ HAIKU』vol.1〜3(マルコボ.コム)を発売中。


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ラクゴキゴ


第六十九話
文 俳句 らくさぶろう


ラクゴキゴ。
第七十話

文 俳句 らくさぶろう


新春スペシャル
〜 寄席へ行こう! 〜

 みなさまあけましておめでとうございます。
 今回はお正月ということもあり、ぜひ今年こそ寄席へ行こう!と、みなさんを寄席の空間へ誘おうと思います。
 東京には定席と呼ばれる寄席小屋が四軒あります。上野 鈴本演芸場、新宿末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場。この四軒では毎日落語や色物が楽しめます。色物とは漫才や手品、三味線漫談や太神楽などを指します。なぜ「色物」と呼ぶか? それは、ビラや寄席の前に立てる看板などに書かれる出演者の名前を、落語は黒く書くのに対し、その他は赤く書くことからそう呼ばれるようになりました。
 さて、一月は寄席にとってはかき入れ時の大事なひと月。
 寄席はひと月を十日ずつに区切って興行を行うのですが、一月は初席、二之席、三之席と特別は言い方をして一月いっぱい“めでたい”お正月なのです。
 舞台にはお飾りが並べられ、客席には和服の方もちらほら。
 人気者の芸人さんが顔見世興行のように次から次へと登場します。普段なら持ち時間は一人十五分から二十分くらいありますが、初席や二之席は一人五分ほど。ですからストーリー性の高い噺はほぼ演りません。漫談や小噺をして「お後と交代」ということになります。
 「笑点」などで活躍中の噺家さんも、正月には必ず登場しますので寄席は超満員!
 大看板になると十日間連続して出演しますが、若手真打ちは十日間を二人や三人、四人で交代出演となります。
 東京だけでも何百人もの噺家さんがいるので仕方ないことでしょう。「ああ、お目当ての噺家は今日は出ないのね。」とがっかりするのも寄席の醍醐味(?)のひとつ。
 さて、この正月にバタバタと忙しく、しかも懐が潤うのは前座さん。なぜかというと、出演者の大先輩方にお茶を淹れたり着物を着せたり太鼓を叩いたり……出演者が多ければ多いほどてんてこまいになります。
 しかし! その先輩方からは必ずお年玉がもらえるので内心ウハウハ(笑)
あげる方からすると大変です。ポチ袋を何枚用意すれば良いものか?
 大阪はといいますと、よしもとの劇場でも落語を演らないことはないのですが、あくまでも漫才や新喜劇がメイン。
 大阪なら天満天神繁昌亭へどうぞ。ずっと落語の定席が無かったところに、60年ぶりに寄席が復活して10年。今年も上方落語協会会長の桂文枝師をはじめ、桂ざこば、笑福亭鶴瓶ら人気の高い噺家さんも積極的に出演しておられます。
 特にこの繁昌亭では午前10時からの「朝席」というのが設けられ、意欲的な演目を舞台にかけています。朝から落語というのもいいかもしれませんよ。
 僕も東京や大阪に行くときは必ずどこかで寄席に行く時間を作ります。
 大きなホール落語では感じることの出来ない、芸人の息づかいが伝わる寄席小屋は、大げさに言うと明日への活力になるのです。
 ごひいきの芸人にお土産やご祝儀を渡すために楽屋を伺うのもいいかもしれません。
 ただ、手ぶらは厳禁ですよ。無粋です(笑)
 ちょっとここで松山で行われる落語会のお知らせ。

快楽亭ブラ坊 入船亭遊京 二人会
 1月14日 午後2時〜
 松山市民会館小ホール
  ゲスト らくさぶろう
  前売り 2千円(当日2千5百円)
  問合せ らくプロモーション
 089(934)4000

 ブラ坊さんは伊予農高から松山大、遊京さんは松山東高から京都大。二人とも松山出身の噺家でほぼ同期の現在二ツ目。フレッシュで洗練された芸をお楽しみ下さい!

初席のどこかに志ん生の居さり


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ホンヤクサイホンヤク


翻田訳蔵


 俳句初心者、翻田訳蔵がネット上の翻訳ソフトを使って名句を翻訳、再翻訳し、そこからインスパイアされた(パクッた)句を発表していこうという馬鹿馬鹿しくも実験的で図々しいコラムです。

今回の俳句
このむらの人は猿也冬木だち  与謝蕪村 

 さっそく、Google翻訳(日→英)から。

People of this irregularity are Monkey Natsuki

 では、再翻訳(英→日)

この不規則な人は、モンキーなつき

 「モンキーなつき」? お笑い芸人でしょうか?
 どうやら「むら」が「村」ではなくて、「斑」で認識されてしまっているようです。それで、「モンキーなつき」さんは「不規則な人」にされてしまったようですね。

 続いて、エキサイト翻訳(日→英)

This spotted person is saruya winter trees.
 再翻訳(英→日)

この配置された人は、saruya冬の木である。

 どうやら、こちらも「斑」として認識されているようです。
 配置された「人」なのに冬の「木」とは? 人なのか植物なのか? もしかして「saruya冬の木」とは、芸名なのでしょうか?

 最後に、Yahoo!翻訳(日→英)

The person of this irregularity is 猿也冬木 だち

 Yahoo!翻訳は相変わらず、手を抜いてきますね。半分訳していません。

 では、再翻訳(英→日)

この不規則性の人は、猿也冬木だちです

 「モンキーなつき」「saruya冬の木」「猿也冬木だち」いったいどれがこの不規則な人の本当の名前なのでしょうか?

 それでは、この3つを受けて一句。

このむらの人は謎也冬木だち  翻田訳蔵


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100年投句計画

選者三名による 雑詠俳句計画



雑詠句の選句欄です。投句の中から先選者2名が、それぞれ天 地 人の句を選び、先選より漏れた句の中から、後選者が特選 並選を選んでいます。

選者 関悦史、阪西敦子、桜井教人


先選者 桜井教人

 このところ大阪方面に行ったときは落語を聞くのが定番になっている。ふと気づいたことがある。落語と俳句に共通点があるのだ。俳句には音数の制限、落語には使える小道具や動ける範囲の制限がある。その制限の中で俳句は読み手、落語は聞き手の想像力を豊かに引き出し、広げる表現をすることが求められる。読み手、聞き手も、質の高い表現をおもしろいと思う感性が求められる。両者の真剣勝負だということも共通している。ちなみに某書店では落語は「趣味」ではなく「芸術」に分類されていることを申し添える。


湯婆のしづかに冷めてゆく余生  もね
 湯婆は余生そのものなのだとこの句に気づかされた。湯婆に湯を入れた瞬間から冷め始め、後は冷め続けるだけなのだ。でも大切なのはどのように冷めていくかだ。適切な温もりを人に与えながら、早くもなく遅くもなく「しづかに」冷めて朝を迎える。こんな余生を私自身も送りたいものだと強く思った。
 湯婆から余生への語順、全く無駄のない平易な言葉、中七が上五にも下五にも曖昧にかかるつくり。また愛唱句がひとつ増えた。


星生まれ星の消えたる霜夜かな  砂山恵子
 あまりに壮大な星の寿命と霜夜を対比させる発想に感服。朝になり霜が簡単に融け行くまでの短い夜の間にいくつ星が生まれ、いくつ消えてゆくのだろう。一瞬も永遠も結局は同じかもしれないと思わせる哲学的一句。

胎盤を持つといふこと母は雪  桂奈
 「母」は不要かもと思ったが読む度に母の存在感がより大きくなって来た。下五の「母は雪」の一体化した表現がこの句の肝なのだ。やわらかく全てを包み込んでしまう雪、真っ白に全てを染めてしまう雪、それはまさに母としての偉大さそのものなのだろう。

羽根つきの思いの外に高き音  台所のキフジン
 私自身は実際の羽根つきを生で見たことはない(妻はやったことがあるらしい)。平易な表現であるが、この句からは明らかに音と映像が感じられる。高きというところから正月の目出度さも汲み取れる。

焼秋刀魚毟つて入籍の話  プリマス妙
 以前結婚した同僚から「彼氏が脱ぎ捨てた靴下を平気で拾うことができ、結婚を決意した」と聞いた。この句も似たような状況なのだろうか。焼秋刀魚であるだけに、この結婚生活は意外と上手くいくかもと思う。

初時雨コンサートある古刹かな  エノコロちゃん
 その冬初めての時雨とその中に佇む古刹。そこで開かれるコンサートの音色はきっと磨かれたものに違いない。内からは質の高い音に満たされ、外からは初時雨に包まれた古刹の景が崇高でさえある。


しぐるるや京都に上がる下がる入る  藍人
三島忌の海に珊瑚を尖らせよ  久我恒子
井戸水の光に洗ふ冬菜かな  もね
初雪の融けゆく海のしんじゅいろ  てん点
缶蹴りの缶は置き去り空っ風  ゆりかもめ
打てそうで打てぬ冬の蠅と暮らす  誉茂子
老猫の背骨の尖り今朝の冬  彩楓
冬麗の城見えてくる観覧車  西原みどり
敗荷の空また雨の来る匂ひ  八木ふみ
静かなる紅葉待てど来ぬ青年  未貫


桜井教人(さくらい きょうと)
1958年愛媛県生まれ。愛媛県公立小学校教員。いつき組。子規顕彰松山市小中高校生俳句大会選者。第2回大人のための句集コンテスト優秀賞。第24回 29回俳壇賞候補。



先選者 阪西敦子

 人間が弱る季節というのは年間通してさまざまと聞く。「埃の如く人死ぬる」と詠まれた大寒のころ、着て更に着ることを指すとも言われる如月の寒さ、花冷から五月病のあたりの季節変動の不調、梅雨から万緑にかけての生命のうねりに、夏ばて、また最近では秋バテ(というかそれもまた夏バテではないかと思うのだけど)、そして風邪とインフルエンザに仕事と忘年会の板挟みの年末。切り抜けるために必死で発酵食を摂取している。



敗荷の空また雨の来る匂ひ  八木ふみ
 風雨に打ち破られた蓮の葉から覗き見える空、雨はまた近づいているのだけれど、なお空は青くその予兆は匂いでしかない。無造作な破れ目にもきっと雨の気配は触れていて、匂いを受けた蓮の揺れも変わるのかもしれない。次の襲来の前の、妙に研ぎ澄まされた静けさは、不安でもあるが何か昂りを掻き立てるものでもある。



秋の蝶胸に止まりて息づきぬ  未貫
 動きの幅を狭めた秋の蝶が、とうとう人の胸に降り立って、止まられた方もまた、動きを止めてしまう。息づいているのは蝶という述べ方であるけれど、実は人の胸の上下かもしれないのである。

転がして絨毯敷いて寝転んで  ヤッチー
 丸めて筒状の絨毯を、開くところである。端を持ってえいやと開くのではなく、部屋の端に据えてころころと内側に伸ばしてゆくところを見ると、ぎっしりと重みのある絨毯らしい。力の勢いで、開いた絨毯に寝転んでいるところ。

夕すすき右の泣き顔ばかりなり  夜市
 その人の常に右、あるいはその同じ方を向く人々の右に立っていれば、右の横顔ばかりが見える。ばかりが時の重なりを示すのか、人の重なりを示すのかは定かではないが、夕すすきの重なりがその果てしない続きを思わせる。

冬ざれやリップクリーム背広より  ゆりかもめ
 リップクリームは女性のものだけではない。が、その比較的ビビッドな色合いは、何か使う人を限定する。まして冬ざれの色彩の乏しい中に背広のポケットより取り出だされた色彩。冬ざれの乾燥を思わせる前に、その中心となる。

硝子戸に猫の眸揺れて冬来る  内藤羊皐
 冬と硝子戸前の猫とには、特に因果的な関係はない。平らではない硝子の前の姿なのかもしれない、揺れたのは実像か、硝子か、あるいは冬か。



平和通の黄葉へ消ゆ救急車  青柘榴
はばたけるものははばたき冬夕焼  優空
小春日の先づ焼きそばに並びたる  夜市
水汲みの水の冷たき広田かな  富士山
寒夕焼け手を離したら見失ふ  一走人
木枯や茶をたてている台所  ぴいす
木枯らしや「もしも」巡らす夜の厨  風さら紗
秋霖の犬の遠吠えまたも地震  哲白
鴨来たる仲間の増えてゆくやうな  遊人
具ばっかりの母の味曽汁今朝の冬  ミセスコナン


阪西敦子(さかにし あつこ)
1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。



後選者 関悦史

 ベートーヴェンの第九を聴くと追いつめられる気分になる季節になってしまいました(これ書いている現在は師走)。今回の投句に〈靴音の序奏の盤〉という言葉が入ったものがありましたが、これは多分フルトヴェングラー盤のことでしょう。うちにあるCDはセル、クレンペラー、ザンデルリング、インバル盤ほかですが(いつの間にか結構溜まった)、あえて片端から聴いて、じりじり焦りながら年末進行の原稿に勤しみたいと思います。

特選
冬菊や父は笑っているばかり  一走人
 「父は笑っているばかり」となった、その前後の事情はわかりませんが、情趣だけは季語が決めてくれます。「冬菊」のように、品のいい、さびしさもたたえた、きれいな姿の父となり、無闇な大笑いとはなりません。

冬の雨ベッドでふたり糸電話  山崎ぐずみ
 子供同士か、子供と親か。いずれにしても冬の雨に降り込められた単なるベッドの上が、一種の天国のように見えてくる句です。童心や郷愁にもつながりながら、作為のくさみもなく、浄福感あり。

思春期の顔声ダンス文化祭  ぎんなん
 最初「思春期は」と誤読して「顔 声 ダンス」の順にモテ要素として重要という句かと思いましたが、そうではなく若さを際立たせる、目につく部位や要素をモンタージュ的に並べて文化祭の華やぎを表現しています。

並選
気がつけば暮れなづむ秋そこにをり  ぺぷちど
このごろはとんと下戸なり根深汁  藍人
自販機が要(かなめ)くだら野広がりて  砂山恵子
凍ったり熱せられたり古生物  桂奈
ビニ本といふものありき鎌鼬  小市
我のみが気持よく酔ひおでん滑らせ  優空
波郷忌や俳句と共に生きし人  れんげ畑
言葉なくただすり寄りし風邪の子よ  幸
舷窓に冬月まどか日本海  柝の音
戸惑ひつイブのケーキを仏壇に  藍 植生
懐手竜馬は何を隠し持つ  ヤッチー
惜別の燕の翼尖りけり  しのたん
曇天へ枝は迷路に冬木立  波野
展開のあまきドラマや大根漬  久我恒子
初鶏の東へ首を伸ばしけり  暮井戸
落つるまで落ちぬ表札空つ風  凡鑽
立冬やチューニング合ふサクソフォン  出楽久眞
冬来るや土鍋に昆布の香り染む  南亭 骨太
粛として沈まむ紅葉手水鉢  かのん
雑炊や女将の声に玉子溶く  のり茶づけ
一人でも生きていけます石蕗の花  葉音
ボトルなむ十一月の汲水場かな  富士山
曾孫にゆづる友禅七五三  さより
銀杏ふらせ学祭の声ひびき合ふ  小雪
ふるさとの海よ蜜柑の熟るる風  てん点
生木切る四日続けて小鳥来る  和音
立冬や犬の名記す供養塔  ぴいす
水溜まりに収まりきらず十三夜  おせろ
近道でも避けたき辻や冬の暮  青蛙
剥かれたる林檎の皮を測りけり  板柿せっか
スニーカー濡らして露の葎かな  喜多輝女
初茜浚渫船はたゆみなく  誉茂子
冬風や将軍のごと釦鳴る  緑の手
奪ひあふものはいびつやラガーマン  うに子
凍蝶の唇顫ふ夜の榾  内藤羊皐
爺さんの老眼鏡やしまき雲  台所のキフジン
冬隣猫の気持ちになってみる  まこち
一人来ていつもの蕎麦屋初時雨  彩楓
靴音の序奏の盤や仏の座  どかてい
竹の春にわか農夫の歩む道  西条の針屋さん
パトカーを洗ふ巡査の小春かな  松尾千波矢
電柱の等間隔や寒鴉  西原みどり
デモ隊のハチマキ赤し冬の蔦  ひでやん
冬芝の美術館前笑む市長  青柘榴
壁画より落つる辰砂や冬星座  土井探花
平穏に犬の散歩や冬に入る  カシオペア
補聴器や敷石じやりと冬浅し  マカロン星人
レントゲンにある影白し冬木立  八木ふみ
奇岩へとオシンコシンの滝しぶき  あおい
浮わつきとざわつきとかつしんどさと  中川弘子
樫の実の落つき顔や堂の隅  人日子
秋さやか口笛の子はいづこへと  風さら紗
初詣伊方英語にならぬやう  風海桐
青屋根に荒波のごと霰打つ  童夢2世
白鳥の羽根まとふ夢うつす人  レモングラス
水澄むやヒロシマ古ぶ七十年  鯉城
文化祭のタオル体操ボランティア  えつの
冬帽子道後温泉足湯かな  エノコロちゃん
柿の木に登つてちぎる遠き子の頃  みちこ
傘寿とは還の二十歳ぞ天高し  哲白
柳散る小鳥の羽となつて散る  遊人
女郎花紙の花瓶に插したまま  まんぷく
スーパームーン少し欠けたる十三夜  ミセスコナン


関悦史(せき えつし)
1969年茨城県生。「豈」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。共著『新撰21』『超新撰21』『俳コレ』(以上、邑書林)、『虚子に学ぶ俳句365日』『子規に学ぶ俳句365日』(以上、草思社)他。


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100年投句計画

へたうま仙人



ヘタな句を褒め、巧い句を追放する、世の選句欄とは真逆のコーナーです。どんなにヘタな句でも褒めてくれるので、自分の俳句に自信のない方、何はともあれ褒めてほしい方に最適!?

選者 大塚迷路


 おめでたい人も、特におめでたくない人もとことんとん新年ぢゃ。
 このところ毎年が激動の年ぢゃが、今年は微動程度にして欲しいもんぢゃのう。
 今月も、何を言われようが微動だにしない句が集まったぞ。
 御屠蘇気分も吹っ飛ぶ勢いぢゃ。悪酔いせぬよう読み進んで頂けたら嬉しいぞ。


尻出せばここだく女教師赤林檎  KIYOAKI FILM
風邪医者は咳をごくんと飲みなはれ  KIYOAKI FILM
 正月早々からこの句にはちょっとうなされてウナ セラ ディ東京状態ぢゃったぞ。きっと、ちょっと作者が尻を出せば女教師が林檎のようなほっぺをしてここだく集まってくるという自慢話ぢゃろうが、実にまったく羨ましい話ぢゃ。ぜひ仲間に入れて欲しいとあの人もこの人も言っとったぞ。
 医者とて風邪くらいは引く。医者は病気の巣窟の中でお仕事をなさっておるのぢゃ。それなのに、出そうな咳をごくんと飲めとはあまりに殺生ぢゃ。こんなモンスター患者はくわばらくわばらぢゃ。こんな変な関西弁の患者に風邪をうつそうものならおおごとぢゃ。そうなる前に尻をちゃんと仕舞もうて赤林檎でも食ってゆっくり休んで下され。

十二月八日に食べるシュトーレン  ケンケン
よく喋る平成生まれと牡丹鍋  ケンケン
 十二月八日とシュトーレンが、遠くドイツ繋がりで衝突しているかいないかはようわからんが、クリスマス時期のシュトーレンは砂糖の白がより鮮やかになってまた格別ぢゃのう。八日に食べた味はどうでしたかのう?
 最初、平成生まれの人間と牡丹鍋はよく喋る、と読み進んだんぢゃが、ちょっと間を置いて再考したら、平成生まれの人と牡丹鍋を食べた、そいつがまた良く喋る奴だった。の方が世間的かもしれんぞとの思いに至った。猪肉は味が濃厚でそれでいてくどくないのでワシも大好物ぢゃが、どんな人と食べたのか気になるぞ。今度紹介して下され。

ケセラセラ鼻歌漁師の河豚雑炊  ちろりん
もつ鍋のポン酢攻撃口内炎  ちろりん
 漁の出来不出来は漁師の腕に寄ること大ぢゃが、運と天候にも大きく左右されることは河豚雑炊をすすっているこの漁師達も先刻ご承知のことなんぢゃろうの。ダメな時はダメ、という潔さが鼻歌になるんぢゃろう。さりげなく生活臭が出てくるのが憎いぞ。
 起承転結が鮮やかでまるで四コマ漫画を見ているようぢゃ。転が少し弱く因果関係が前面に出てしもうたのはちょっと残念ぢゃが、「もつ」「ポン」「こう」「こう」のリズムが気持ち良いぞ。リズムは俳句の重要な要素ぢゃのう。

救急車闇を切り裂く去年今年  たあさん
母逝きて水仙の香の残りけり  たあさん
 夜中の救急車の音は心臓に悪いのう。救急車の中で年が明ける救急隊の皆様も大変ぢゃ。年をまたいで移動する闇の中のサイレンと時の流れには、どこか相通じるものがあるのう。
 水仙が好きで、水仙のようなお母様ぢゃったんぢゃろうなあ。四方に香りを放ち凛と佇む水仙が、清々しくも切ないのう。喪失感の中にもある種の満足感が漂って来るぞ。

紙鑢指に愛しき鮫のこと  元旦
飛沫浴ぶ食えぬイルカのジャンプかな  元旦
 いつかの放送の某Eテレ某俳句番組を彷彿とさせるぞ。鮫と鑢は切っても切れぬ仲ぢゃが、「愛しき鮫」で作者の偏愛ぶりが滲み出てくるぞ。五百番の紙鑢くらいのざらつき鮫肌は、なるほど愛おしくなるかもしれんのう。
 水族館のイルカを見て、旨そうだとはさすがに思わんが、マグロにはよだれが出てくるぞ。この差はなんぢゃろうな? 哺乳類と魚類の違いか? それだと牛も豚も可哀そうだしのう。悩みは尽きんぞ。ただ単にイルカのジャンプの飛沫を浴びた、ではこんなことは考えなんだが、「食えぬイルカ」が出た途端思考がそっちへ行ったぞ。ひとつの言葉の威力ぢゃな。


風花には「逢」といふ字のふさわしく  みやこまる
黎明の空に沁み入る寒すばる  みやこまる
 見たものや感動した事に別の角度からの価値観を見出すことは、何もかも新鮮になって一瞬世界が変わったようにさえ感じてくるのう。風花に対するこんな発見も詩人ならではのものぢゃ。その発見を文字に変換出来るのもまたこれも詩人ぢゃ。
 「黎明の空」が良いのう。闇が忍び寄りやがて闇に支配される様子が、黎明を軽く裏切るようで 面白いぞ。甘いと言えば甘い中七がこれで帳消しになったぞ。すばるのぼやけた感じは黎明の空に染み入っているからなのか……なるほど納得ぢゃ。

冬帽の妻とどこどこまでも行く  小木さん
マスクしてやはらかすぎる人になる  小木さん
 冬帽の妻を連れて行くのではなく、妻に付いてどこどこまでも行くということを高らかに宣言したようで共感するぞ。実は指示を待っていた方が楽なのぢゃ。楽は苦より一億倍楽なのぢゃ。やがて冬帽は春帽に替るなどと考えたらダメダメダメなのぢゃ。
 マスクは楽ぢゃのう。マスクの下で舌を出そうが鼻毛を伸ばそうが誰にもわからん。マスクは行き場を無くしつつある現代人の必須アイテムぢゃ。ぢゃが、マスクしてやはらかすぎる人になる人は実に素敵ぢゃのう。マスクして顔の表情がわからんようになればなるほど、言葉や仕草がやさしくなれたら素敵ぢゃのう。

支出だけふえてためいき冬の夜  柊つばき
一人だけ別の教室うろこ雲  柊つばき
 同じ構成の句を二句並べるとは小技が効いとるぞ。さすが人間貧困派俳句の家元ぢゃ。
 なあに、支出がふえるということは世間並みの生活をしていると言う事ぢゃ。それほど悲観するものではないぞ。支出ができるだけまだマシぢゃ。冬の夜は短い。あっという間に朝ぢゃ。朝になれば朝ぢゃ。夜が負けたんぢゃ。こっちのもんぢゃ。
 みんなとは別の教室に一人だけ座っている訳を考えただけで、三編、各九枚ほどの原稿が書けそうぢゃ。VIP待遇個室教室なら気持ちも良いかもしれんが、うろこ雲の下ではちょっと萎えるのう。なにも特別な言葉はないのにいろいろな感情を内包しているこんな句は、窓を全開にして、うろこ雲製造機の運転席へ追放!

 新年早々ついつい追放者を出してしもうた。ま、今回はお年玉と思うて享受して下され。
 ぢゃが享受の顔も三度までぢゃ。
 今年もくれぐれも油断召されるなよ。


へたうま仙人 
年齢 卑弥呼がおっぱいを飲んでいた頃、ワシは青春真っ只中ぢゃった。
好きなもの 霞のシャーベット(PM2.5抜き)
嫌いなもの 上手な俳句
将来の夢 大器晩成


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100年投句計画

自由律俳句計画



自由律俳句の選句欄です。自由律俳句に挑戦することで、自由律俳句ならではの楽しさを味わうと共に、有季定型の俳句との思わぬ共通点も見えてきます。

選者 きむらけんじ


 2023年に、和製の宇宙の旅が実現する。旅行大手のHISと航空のANAが共同で、宇宙機を開発する名古屋のベンチャー企業に機体の開発製造を依頼しているらしい。地球を眺めつつ高度100キロまで打ち上げて無重力状態を5分、約90分で地上に戻るらしい。料金は1人1400万円。夢みたいな話が、あとたった7年後だ。地球眺めてみたいけど金がない。とりあえず年末ジャンボ買うか……。


迷いながらにわとり冬日をつつく  もね
 にわとりがフツーに土とか餌とかをつついていたのでは詩にはならない。弱々しい冬の日向でともすれば壊れてしまいそうなそこはかとない一日を、「つつく」……という表現でうまく切り取っていると思う。にわとりがつつく冬の日の、なんとゆたかな情景であることか。実際を実際として視るというのではなく、いかに創造して視るかに季語定型を捨てた自由律の真髄はある。「迷いながら」も、にわとりの所作とよく同和して過不足がない。


冬の月を象の欠伸が揺らす  内藤羊皐
 天空の月から地上の象へと視線が移動する雄大な句。しかも揺れるのは月で、揺らすのは象の欠伸。アルプスに腰掛けてインド洋で足洗う的童歌と、スケール的には、なかなかの勝負かも。

バーコード読み取る音して聖夜  元旦
 昼間の一通りの喧騒が終わって、深夜近くになったクリスマスイブ。場所は郊外のコンビニかもしれない……そんなところにも静かに聖夜は沈殿している。ありきたりの聖夜の目線に背を向けているところが良いと思う。

釣り上げた河豚の目がさびしい  もね
 河豚の目のさびしさに気付いたところが手柄なのだろう。釣り上げられて跳ねまわる。しかも身体を膨らませて威嚇する姿態に、忘れられたような小さい眼。観察眼の鋭さ。

ふらここを抜け木枯らしは  恋衣
 見ようによっては、上五をとった定型の句。しかし特に不足を感じないのは、「木枯らしは」と余情を効かせて結んでいるからだろう。短律特有の余韻、余白がうまく機能している。木枯らしの行方が気になります。

画廊の隅の膝掛の職員  ヤッチー
 俳句というより、一見なにかの文章の小見出しかと。しかし「画廊の隅」が気になるし「膝掛の職員」も気になる。いわゆるデジャヴ(既視感)に絡めとられる不思議な句。まったく作意が感じられないぶっきらぼうさが却ってインパクトを与えている。


手袋取りに行き鍵を忘れる  のり茶づけ
着ぶくれて腹囲  小木さん
花散って膨らんでくる闇  多満
皇帝ダリア籠に自転車疾走す  和音
テレビの前に猫のいて短日  ゆりかもめ
飛行機雲十字に交わり寒晴  元旦
影踏み遊び影の無い子もいるような  彩楓
ショール取り深々と頭の二度三度  あおい
団栗のついと落ちてゐる  人日子
炭焼小屋に一人をる  レモングラス

並選
高月駅の上の月光る  ケンケン
ヘリコプターとホトトギスともに秋来たる  ぺぷちど
きんこになりたきあおこかな  藍人
欠礼はがきで知る友の死  小市
鰤起し朝早く早く  KIYOAKI FILM
まくなぎと綿蟲まくなぎと私  優空
なんでもないことを必死に語る幼子  幸
雨の午後こたつの引力と闘う  柝の音
寒すばる一度は流れてみたくないか  みやこまる
人日の夜ジャズとお経の来たり  暮井戸
ポインセチア明日は約束違えるつもり  凡鑚
積み上がるテトリス柿落葉  出楽久眞
巣一つに犬二匹寄り添う  南亭 骨太
外つ国の焼き栗のしょっぱさうまさ  さより
小春日の過敏性腸症候群  一走人
ロダンを真似る冬の老猿  山崎ぐずみ
ハロウィンハロウィンかぼちゃの涙ひかります  喜多輝女
黒犬に涙なめられて吾子  誉茂子
いるかのまどろみ星読みのまなこして  緑の手
うねる黒髪には冬の水  うに子
生きているって疲れる  台所のキフジン
いつもの月へスーパーの敬称  青柘榴
時計屋に時限爆弾修理依頼  土井探花
小春日の瀬戸の絶景出雲路へ  カシオペア
親父の命日と早めのハロウィン  マカロン星人
靴跡を探してみたしスーパームーンの明き夜  風さら紗
般若湯ほんの一合のお正月  鯉城
泥巻き上げて早逃げの鯉  坊太郎
切ったのはダレぞ今盛りの八つ手の花を  エノコロちゃん
完璧主義者に死の完璧  遊人
コレクション並べておれば木枯一号  まんぷく
わが手に堕ちたりスーパームーン  ミセスコナン
天賦の才などなき吾に雪  ちろりん

選外(自由律で再挑戦を!)
網代笠しぐれ背にして山頭火  藍 植生
網代笠新酒求めて山頭火  藍 植生
湾の波小春こはるとひかり来る  鯉城
ディフエンスをすり抜けてくる風邪強し  ぺぷちど


きむらけんじ
1948年生まれ。第一回尾崎放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律 地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技 妄想、泥酔。


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100年俳句計画

詰め俳句計画



2つの俳句の句意から、空欄に共通する季語を考えていただくコーナーです。季寄せや歳時記さえあれば、全くの俳句初心者でも挑戦できます。
問題作成、選者 マイマイ


今月の問題
次の(  )の中に共通する新年の季語を入れてください。

独白のごと(  )の洗濯機
(  )や自動改札よどみなく


 今月は前句の「独白のごと」という比喩をどう生かすかがポイント。案外季語は絞られてくるようで、解答のバリエーションは少なめでした。

独白のごと笹鳴きの洗濯機
笹鳴きや自動改札よどみなく
 童夢U世さん。残念ながら冬の季語ですね。KIYOAKI FILMさんの冬風もそう。級外。

独白のごと初伊勢の洗濯機
初伊勢や自動改札よどみなく
 マカロン星人さん。何故伊勢参りで洗濯機が出てくるのか不明。後句は初詣の一場面を切り取っている。6級。青柘榴さんは掃初。前句は洗濯機を掃いている? ちょっとわかりにくい。後句はホームを掃く仕事でしょうか。5級。小木さん、河原撫子さんは初夢。なんか初夢に夢がない。日常の延長みたいな初夢が嫌。同じく5級。砂山恵子さんは初買。誉茂子さんは初売。後句はどちらも初買(売)に向かう人の一場面だと思って納得したが、前句、独白が洗濯機そのものから出ているのか、売り子の話し方がそうだったのか、状況が分かりにくい。4級。

独白のごと御降の洗濯機
御降や自動改札よどみなく
 緑の手さん。優空さんはお降り。エノコロちゃんは御降り。御降は元日あるいは三が日に降る雨又は雪のことで天の恵みとしてありがたく思う気持ちが季語に込められている。後句はあっさりした取り合わせ。前句、野外に置かれていたとしても、雨除けくらいはしているだろうから「御降の洗濯機」と言われると少し違和感がある。4級。出楽久眞さん、妹のりこさん、笹百合さん、ちろりんさんは初晴。前句、気持ち良い季語だけに独白とはやや合わない気がした。後句、正月のめでたさ清々しさが出ている。2級。

独白のごと正月の洗濯機
正月や自動改札よどみなく
 のり茶づけさん。ざっくりした季語。無難だが面白味の点でどうか。3級。小川めぐるさん、笑松さんは松明。藍植生さん、和音さん、矢野リンドさんは松過。小市さん、たあさん、葉音さん、一走人さん、板柿せっかさんは松過ぎ。松の内が過ぎて日常が戻ってきた実感が前後句ともによく出ている。2級。ひでやんさんは餠間。知らなかったが、調べてみると正月八日〜十四日を指すそうで、松過と気分はほぼ同じ。同じく2級。藍人さんは仕事始め。六音の季語だが、上五を字余りにして読むとあまり違和感はない。やはり前後句ともに日常生活へと戻る気分がよく出ている。同じく2級。坊太郎さんは元日。みやこまるさんは元朝。れんげ畑さん、南亭骨太さん、元旦さん、カシオペアさん、ぎんなんさんは元旦。松尾千波矢さんは鶏旦。後句は、元日(旦)も続く日常性。前句の、元日(旦)なのに洗濯しているという、とほほ感が一種の俳諧味か。同じく2級。内藤羊皐さん、レモングラスさんは初春。遊人さんは春永。これらの季語は「春」の字が入ってきて、のどかな感じがプラスされるのが洗濯機の独白とよく合う。1級。幸さん、ヤッチーさんは羊日。これまたマニアックな季語選択で正月四日の別称。後句、人の群れが羊の群れに見えてきて好きだった。1級。

独白のごと初東風の洗濯機
初東風や自動改札よどみなく
 牛後さん。これは前句、めでたさもありつつ独白の気分も損なわない絶妙の距離感。後句も人の流れと空気の流れが並列されているようで面白い。初段。桂奈さんは藪入。戦前まで続いた風習で正月十六日に奉公人が一日か二日の休みをもらって生家に帰ることをいうと歳時記にある。前句は帰ってきた生家での光景か。独白が奉公人の独白でもあるようで切ない。後句、この時代錯誤的な季語にちょっと落語的な面白さを感じてしまった。同じく初段。


今月の正解

独白のごと人日の洗濯機
人日や自動改札よどみなく
 久我恒子さん、凡鑽さん、ほろよいさん、ゆりかもめさん、喜多輝女さん、うに子さん、杉山久子さん、台所のキフジンさん、片野瑞木さん、彩楓さん、どかていさん、恋衣さん、人日子さん。プリマス妙さんは人の日。正月七日のこと。前後句ともに「人」の字が生きている。初段。


マイマイ
2003年11月頃よりラジオに投句を始める。割と生活派俳人だったが、最近は?? 第1回、第4回大人コン優秀賞受賞。2013年句集シングル『翼竜系統樹』上梓。将棋推定初段。棋友募集中。宇宙と生命を題材に詠んだ句集『宇宙開闢(ビッグバン)以降』マルコボ オンラインショップにて発売中。



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100年投句計画 投句方法



雑詠俳句計画 または へたうま仙人
自由律俳句計画
詰め俳句計画

 「雑詠俳句計画」と「へたうま仙人」は、どちらか片方にのみ投句できます。なお「雑詠俳句計画」では、寄せられた投句を一括して、各選者が選句します。各選者に宛てて個別の投句を行うものではありません。


3月号掲載分締切 1月20日(金)

投句方法

 投句先コーナー名
 俳号(無ければ本名の名前のみ)
 本名
 電話番号
 住所

 以上の必要事項を書き添えて、編集室「100年投句計画」係までお寄せください。メールの場合は、件名を「100年投句計画」としてください。
 各コーナーそれぞれ2句まで投句できます。また、「詰め俳句計画」は季語1つのみを投稿できます。
 各コーナーの投句は、ひとつにまとめて送っていただいても構いません。

メール宛先
magazine@marukobo.com

投稿専用ページ
http://marukobo.com/toukou/

※ハガキ FAXの宛先は本誌の裏表紙を参照してください。

さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。(「俳句ポスト365」のページ参照)


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短歌の窓


短歌投稿ページ
選者 短歌誌『未来』同人 渡部光一郎


特選
この街のすべての犬が眠るとき秘かに遠く運ばれる椅子  時計子
 結句には何がくるかと思いながら読むと「椅子」がきた。作者にはそれをえらぶ理由があるのだろう。上句の「すべての〜が〜とき」というフレーズには既読感があるが、下句への布石として有効。

並選
死ぬことの身近な星に子を宿し嗚呼多産かなウルトラの母  岡田一実
 上句が少し分かりづらいので要推敲だが、下句は面白い。あとは「かな」が最良かどうかというところ。

徒に他郷暮らしの五十年優しく在るはの山川  藍 植生
 故郷を離れたところで長く生活を積み上げることがむしろ普通の時代であるが、やはり故郷は恋しい。

黒いコート好きではないの魔女みたい冬の光を閉じ込めるから  桂奈
 「魔女みたい」をよしとするか否か。字余りで処理するか、舌足らずな言い方で勝負するか。下の句に発見があるのはよい。

コメント
靴下を履かす私の肩を揉む夫の右手は生きているんだ  ミセスコナン
 「夫」の意志を感じて生まれた歌。結句が力強い。

ゆき見れば雪積む三間の遠かりき如何にいますや古稀過ぎし友  藍 植生
 初句に読者が戸惑うかもしれない。

レモンの木小さきままなる二つ三つ吾子欲しがりぬ青空の下  幸
 定型にきちんとおさまっていて情景がよくわかる。

秋空を鯖に鰯に浮く鱗魚ばかりか羊も泳ぐ  青柘榴
 魚編三連発。結句がやや物足りない。

母さんの口癖だったねそう云えばなにやってんのいつまで独り  台所のキフジン
 下句で口癖をうまくまとめた。上句の「ね」は入れた方がよいかどうか。

望遠鏡で月眺めれば「静かの海」は視線集めて賑はつてゐる  鈴木牛後
 類想の作品が多いかと。もうひと工夫の余地あり。

淡々と生きて行きたく思へども周りの音に心の騒ぐ  一走人
 具体的にどういう状況か分かるように。

音もなく落葉に埋まりゆく夜は君を抱いて水を満たさむ  鈴木牛後
 結句がよく分からない。


自作の短歌(2首まで)を下記までお送り下さい。締切は毎月20日。
専用フォーム http://marukobo.com/tanka/
専用Email tanka@marukobo.com


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自作の俳句を英語に訳そう!

百人百様 E-haiku



評:菅紀子


 あけましておめでとうございます。一昨年より俳句の国際化を松山から発信するお手伝いをしています。当コラムもその一端を担うべく波に乗りましょう。

1
The new world
apple light light light
boys are hungry

【原句】冬林檎露払いたる少年等  KIYOAKI FILM

boys
who brush the dew drops off,
a winter apple

 うーむ、これはメタファーですね。
 英語句の方は、アップルコンピュータを貪欲に駆使する若者達、でしょうか。対して日本語句は育ち盛りの男の子がみずみずしいリンゴをかぶりつこうとしている情景に見えます。別々の句にしないともったいないです。英語句から原句を発想するのは難しかったです。

2
old green trees
water is good
winter of trees

【原句】冬木立儚し夢ぞ水飲む児  KIYOAKI FILM

【お便り】耳が悪いので、ラジオ基礎英語やっていましたが、丸一日別のことしているので、聞けないので、中一の参考書を手に入れました。しかし、これもする時間が少ないです。英語の時間を作らないとダメですね。英語……。夢は外国の女性と文通したいです(笑)。  (KIYOAKI FILM)

winter trees
temporary dream of a boy 
drinking water

 冬木立と聞くと落葉しているか乾燥した葉がまばらについているような木を想像しますのでgreenの語にはっとします。やはりこの句も日本語句を連想しにくかったです。
 KIYOAKI FILMさん、いまどきは文通よりメル友かもしれませんね。
 「儚い」にはephemeralという語もよいかも。

3
carrot is red
good offense
is the best defense

【原句】人参や攻撃は最大の防御  片野瑞木

a red carrot,
good offense should be
the best offense

 人参の赤い色に触発されたのでしょうか。should be, must be, may be, can be, would beなど助動詞を入れることによってisに意味を添えることができます。思いの強度まで表現できます。〜でなきゃ、絶対〜でなければ、〜かもしれない、〜でありうる、〜なものだ、〜であってほしい、など。

4
how cook
this cauliflower
bigger than my head

【原句】頭より太きカリフラワーをどうする  片野瑞木

 how to cook と to を入れれば「どう料理すればいいか」となります。
 当惑気味の作者が思い浮かびます。ユーモラスでいいですね。

5
Jack-o'-lantern
Sea of Serenity
begins trembling

【原句】狐火や揺らぎ始むる月の海  久我恒子

 trembleは地震で地面や建物が揺らいだり旗がはためいたり木の葉がそよいだり、と辞書にありました。海面は波のうねりswellでしょうか。「月の海」を静けき海としたのは名案だと思い、辞書を見るとthe Sea of Serenity で月の「静かの海」という固有名詞があったのですね。本意は月面の地面が揺らぐのが見えたとするとtremble (shake)に戻ってきました。

Jack-o'-lantern?
the Sea of Serenity
begins to tremble


6
a red kennel
beside a deserted house
winter is in full swing  

【原句】廃屋に赤き犬小屋冬深む  久我恒子

 グレーがかった風景の中に犬小屋が小さく赤いアクセントを添えていて絵画的、好きです。冬深むは deep in winter でもよいかも

7
Swelling spiral-time
in the silver
God passes the wind

【原句】白銀の時空のうねり神渡し  出楽久眞

【お便り】こんにちは。英語で季語を表すのが難しいです。日本語の俳句を英訳(?)しているからでしょうか。本来なら最初から英語で句作すべきなのかな。    (出楽久眞)

Snow white        
Swell of time and space
God passes  

 出楽久眞さん、歳時記の英語版もないですしね。俳句の英語訳と英語の作句は別物ですが、いろいろ実験してみてください。

8
Winter spring in the forest.
The boundary barrier is broken.
By brilliant in the sun.

【原句】結界をやぶる暁光冬泉  ほろよい

【お便り】毎回、ネット翻訳と辞書とを行ったり来たりしながら作っています。基礎英語2を2年続けて現在基礎英語3を無理やり聞いてます。これも何年か続ければ聞こえるようになるのかな???  (ほろよい)

the light of dawn
breaks the bounds of the sacred area,
a fountain in winter

 唯一のコツは続けることならんやめたら終わり元の木阿弥……。短歌調のコメントになりました。ほろよいさんのおかげで酔ったかな。

9
for fear of winter
I'm in the cage of ribs

【原句】冬が恐くて肋骨の檻にいる  チャンヒ

for fear of winter
I'm in a cage of my ribs

 読者から見るとチャンヒさんは肋骨の背後に閉じ込められています。
 本当に肋骨が白く寒々しい鉄格子に思えてきます。

10
perfect modern jazz
also the sounds which
steps on autumn leaves

【原句】完璧なモダン枯れ葉を踏む音も  チャンヒ

perfect modern jazz,
the sound of fallen leaves
being stepped

 autumn leavesだと紅葉で、まだ落ちてないものも含むのでfallen leaves落ち葉にしました。

11
burn a black bread
to a crisp
shallow in winter

【原句】かりかりに焼きし黒パン冬浅し  彩楓

toasted black bread  
until it becomes dry and crispy,
a shallow winter 

 こんがり状態にする「焼く」はtoast、burnは焦がす感覚です。
 黒パンはライ麦パン rye bread、黒糖パン brown sugar bread、全粒粉パン whole wheat bread、イカスミ練込みパン squid ink blended bread などたくさん想定してしまいました。

12
pass the sash
to anchor
winter colored leaves

【原句】アンカ−に手渡す襷冬紅葉  彩楓

a sash to pass
to the anchor person,
winter colored leaves

 動詞から始めると命令形になります。
 詩だとかならずしもそうならない場合もありますが。


菅 紀子(かんのりこ)
(有)クラパムコモンカンパニー代表。通 翻訳、メディアによる姉妹都市交流コーディネーター。社名は夏目漱石が下宿したロンドンの地名から。歩道短歌会同人。人文学修士、翻訳修士。松山大学、愛媛大学非常勤講師。(Hailstone Haiku Circle blog ICEBOX Contributor)(漱石と彼のライバル重見周吉、日系移民研究)

応募内容 自作の俳句およびそれを英語俳句にしたもの(2句まで)

応募先
フォーム http://marukobo.com/eigo/
Email eigo@marukobo.com

3月号掲載分締切 1月20日(金)


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百年歳時記


夏井いつき

第43回


 有名俳人の一句を紹介するページは世に数々あれど、「市井の逸品」とも呼べる一句を取り上げ鑑賞する記事はそんなに多くありません。
 百年先に残したい佳句秀句奇々怪々句を見いだし、皆さんと共に味わおうという連載は、名づけて「百年歳時記」。夏井いつきの目に触れた様々な作品を毎月紹介鑑賞していきます。

晴れわたる百年後にも蘆刈つて  優空
上五「晴れわたる」は現在の空の状況。上五で切れていると読むのが気持ちいいのですが、意味上「晴れわたる百年後」と読むことも可能。頭上の青空が「百年後」の青空へつながっていくかのような印象を醸し出します。さらに「百年後にも」というやや散文臭い助詞でつなぎつつも、下五「蘆刈つて」と蘆刈の光景が出現したとたん、読み手は、「百年後」の未来を想起しつつ、神話の時代から「蘆」を刈り続けてきた人類の歴史へと思いを広げます。
 時空を往復するかのような発想は、人類の普遍的文化を匂わせつつ、今、「蘆」を「刈る」人々の頭上にある青空の美しさを描きます。壮大なイメージを内包した見事な「蘆刈」の作品です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』10月28日掲載分)

新絹の回し初日の上手投げ  石川焦点
新絹を緋に染め上げて清の妃へ  中原久遠
 日本の相撲、中国の宮廷に句材を求めた「新絹」の二句。前句、関取以上の「回し」は絹を使うのだそうです。一本百万円もするという「新絹」のそれは、御贔屓筋からのものでしょうか。いつも以上に力の入る今日「初日」。相手の回しを持って豪快な「上手投げ」が決まります! 「新絹」「初日」の言葉の目出度さも佳いですね。
 そして後句は、中国の「清」の時代へワープ。「新絹」を緋色に染め上げて「清の妃」に献上するという発想が鮮やか。中国の歴史上の「妃」には、虞美人草のように美しい妃もいれば、西太后のように絶対的権力を欲しい儘にした妃もいました。この「緋」の似合う「清の妃」は、美しくて残酷な「妃」ではないかと妄想します。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』11月4日放送分)

可惜夜の枯野の色の中に鳥  恋衣
鳥立てば枯野の色のしぶきたる  樫の木
 「枯野の色」という難しい季語を使った二句は、続き絵のような映像を感じさせる二句でもあります。前句、「可惜夜」とは、明けるのが惜しい素晴らしい美しい夜だよ、という意味です。明けるのが惜しい美しい未明の陰影。「枯野の色」の光景の中に「鳥」を見つけます。鳥が動いたその瞬間に、アッ鳥だ!と心が動きます。その瞬間に「可惜夜」が明け始めたのかもしれません。
 さらに後句、「枯野の色」をしぶくかのように飛び立つ「鳥」に焦点が絞られます。飛び立つ動き、飛び立ったときの音、空気の波動、それらを「しぶく」という動詞で言い止める静かな迫力。「しぶきたる」は連体形止めの詠嘆。共に鳥肌が立つような作品です。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』11月11日放送分)

湿地茸生う同胞(はらから)多き大穴牟遅神(おおなむぢ)  笑松
 「大穴牟遅神」正しくは「おおなむちのかみ」あるいは「おおあなむちのかみ」と読むようですが、大国主神の別名だそうです。記紀神話では、葦原中国(あしはらのなかつくに)を支配した神です。
 「同胞」とは、母を同じくする兄弟姉妹、一般的な兄弟姉妹という意味でも使われます。「湿地茸」の集まった頭の大小は、生まれ出づる兄弟神のようでもあり、「湿地茸生う」その場所は、葦原中国のような湿り気を思わせ、「しめじ」と「おおなむぢ」、付かず離れずの音の面白さもまた、一句の隠し味というべきでしょう。
 「湿地茸」で取り合わせの句を作るって、至難の業やろ……と思ってたので、作り手としての意志の置き所にも感服した次第です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』11月14日掲載分)

風邪喰うて我百貫の無用者  93kgのプッコラ 
 上五「風邪」を「喰う」という表現、大袈裟だなあと思ったとたん「我百貫」という数詞と共に、巨体が出現します。「百貫」の体ならば「喰う」という動詞も腑に落ちるよと思ったとたん、下五の「無用者」という自嘲。なるほど、そうきたかと笑えました。
「好き嫌いのないのはいいが、なんでもかんでもバクバクバクバク食いやがって、とうとう流行の風邪まで食いやがった!」なんて家族に憎まれ口を叩かれているのでしょうか。風邪の身でありながら、食欲だけは落ちない「我百貫の無用者」。意味としては自嘲ですが、ユーモアの漂う語り口がこの句の味わい。その俳諧味を演出しているのが「喰う」という動詞の効果。飄々たる作品です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』12月9日掲載分)


百年歳時記は、南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』や
松山市公式サイト『俳句ポスト365』(http://haikutown.jp/post/)などに投句された俳句を紹介します。


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俳句の街 まつやま

俳句ポスト365



協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/


金曜日優秀句
2016年11月度

蘆刈(あしかり)


蘆を刈る音しやくしやくとあをびかり  鈴木牛後
蘆刈られ空は九尺深くなり  山香ばし
果てしなき下総の空蘆を刈る  柝の音
蘆刈や蘆の動けるひと所  ひろろ
猛禽の影蘆刈る鎌をよぎりけり  このはる紗耶
刈り芦束ね二カ所括つて立て掛ける  ポメロ親父
蘆刈や束の重心探りつつ  てまり
孵らざる卵水色蘆を刈る  玉虫虫改めせり坊
刈り残る蘆がくすぐる若い夕陽  初蒸気
野火止の狭き水路の蘆を刈る  糖尿猫
蘆刈りて傷は蘇芳に乾きゆく  理子
我らこそカインの子なれ蘆を刈る  谷口詠美


晴れわたる百年後にも蘆刈つて  優空


波郷忌(はきょうき)


波郷忌の仰臥思はぬ骨の鳴る  希望峰
波郷忌の日時計となる薬瓶  スズキチ
波郷忌の鉛筆錐の如く削ぐ  めいおう星
波郷忌の呼気に湿りてゆく硯  Y音絵
波郷忌や手紙に慣れぬ詩を書けば  田中憂馬
波郷忌やみどりの夜の詩は淡し  土井探花
二音残し止む波郷忌のオルゴール  このはる紗耶
波郷忌や水とグラスに灯はわかれ  すな恵
波郷忌の桃の缶詰今日開けよ  トポル


火の息に眼鏡曇らす波郷の忌  魚ノ目オサム


1月の兼題
公式サイト内の「俳句投稿」より作品をお寄せください。(※投句期間を過ぎますと投稿ページは次の兼題の募集に自動的に切り替わります。ご投稿はお早めに。)

投句期間 12月15日〜1月11日
山焼(やまやき)
初春/人事
枯木 枯草を焼いた灰を肥料として牛馬の飼料となる青草を生やしたり、害虫を駆除したりするために、早春の晴天無風の日に、野山の枯れた草木を焼き払う。

投句期間 1月12日〜1月25日

はち
三春/動物
アリ類以外のハチ目の昆虫の総称。昆虫の中でも最も繁栄していて、様々な種類が存在するが、日本で主に人目につくものは、足長蜂、雀蜂、熊蜂、蜜蜂などである。

参考文献 『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


 「俳句ポスト365」は携帯電話からもご参加いただけます。
 「俳句ポスト365」公式Facebookページ開設中! 公式サイトに設置しておりますリンクよりお入りください。毎回の兼題のお知らせを中心にお伝えしながら、皆様の返信欄への書き込みもお待ちしております。


 募集の兼題は変更される場合があります。「俳句ポスト365」のサイトで最新の情報をご確認ください。


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一句一遊情報局



協力: 南海放送


金曜日優秀句
2016年11月度

平成28年11月度

新絹(しんぎぬ)

新絹を褒めてひろげる手が笑う  理酔
風はなにいろ新絹はあさみどり  てん点
新絹を樹海の色に染めにけり  誉茂子
新絹の光もろとも甕覗  七草
新絹の白群に染め上がりけり  恋衣
新絹やぬかづく花の名の新婦  あおい
名水の滾々新絹すべらかに  ふづき
新絹のほのかに獣臭きかな  樫の木


新絹の回し初日の上手投げ  石川焦点
新絹を緋に染め上げて清の妃へ  中原久遠


枯野の色(かれののいろ)

朽橋の下は枯野の色の水  悠
枯野の色に赤い手毬を置いてみる  遊人
枯野の色シリウス鳴いたような碧  野風
ロッキングチェアに枯野の揺れる色  トポル
透析の窓や枯野の色はるか  静泉
ランプの湯枯野の色を歩き来て  更紗
サイレン長く枯野の色の悲痛かな  太郎


可惜夜の枯野の色の中に鳥  恋衣
鳥立てば枯野の色のしぶきたる  樫の木




農事暦に結納を足す年初かな  のんしゃらん
冬耕の農家の牛に名などなし  篠原そも
冬耕の泥営農の応接室  矢野リンド
農耕車優先いわし雲ラララ  マイマイ
猪食らう地域創生農学部  えるも
闇鍋や新規就農歓迎会  越智空子
冬ざれの農薬瓶にひそむ澱  小泉岩魚
農機具の眠りにつきて納屋に雪  雪うさぎ
神農の虎熱すぎる葛根湯  樫の木


農機具の真つ赤をすべりゆく初雪  鈴木牛後


晩三吉(おくさんきち)

晩三吉たわわ一尺沈む棚  塩胡椒子
生まれたての月の形よ晩三吉  紀貴之
切っ先はずずと晩三吉の奥  天玲
晩三吉考のナイフの柄の象牙  糖尿猫
二日酔いをぷかぷか笑う晩三吉  風薊
せりせりと晩三吉の言う孤独  恋衣
完走と晩三吉の歯ごたえと  八木ふみ
五百個の晩三吉を船倉へ  瀑
晩三吉二つ灯るや不動尊  妙
磨きたる仏今年の晩三吉  あまいアン
晩三吉月色に煮る雨夜かな  野風
凸凹や晩三吉と鉱夫の手  樫の木
晩三吉貪る佐渡の坑夫の夜  このはる紗耶


晩三吉明るし四〇〇年の法事終へ  緑の手


投句募集中の兼題

投句締切 12月27日


季語ではない兼題です。「亀」という字が詠み込まれていれば、読み方 用い方は問いません。季語は当季を原則として、自由に選んでください。

雉始めて鳴く(きじはじめてなく)
晩冬/時候
七十二候の第六十九候。この頃から雉が鳴き始めるという意。二十四節気の小寒の末候で、1月15日〜19日ごろにあたる。


投句締切 1月15日

ホットドリンクス
三冬/人事
体が冷えきっているときに体を温めてくれる、温かい飲み物。ココアやレモンなどのソフトドリンクはもちろん、ウイスキーや焼酎などのことも言う。

しばれる
晩冬/時候
北海道や東北地方の方言で、きびしく冷えこむことや、凍ることを言う。名詞で「しばれ」とも言い、北海道や東北では2月半ば頃まで「しばれる」状態が続く。

参考文献『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句宛先
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


※ 掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとにしたものです。俳句ならびに俳号が実際とは異なっている場合がありますのでご了承ください。


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今回のお題句に対する投句から次のお題句を選び繋げてゆく

疑似俳句対局


選者 美杉しげり

 インターネットを利用しての「擬似俳句対局」
という初めての試み。俳句対局の楽しさを少しでもお伝えできたらと思っています。

今回のお題句
三鬼忌の鼓釦を外すバー  久我恒子


候補句

イブの夜や髪の絡まる貝釦  凡鑽
 この髪は本人の髪なのか、はたまた女性の長い髪が恋人の服の貝釦に絡んでいるのか。前者ならば、ちょっと情けなく滑稽な場面。後者であれば、なかなか艶っぽい場面です。一昔前なら「イブの夜だから恋人の髪?」と思うところですが……さて、どちらでしょう。同作者に「イブの夜のひとつ外せし貝釦」も。

買初やこんなところにスープバー  すぎ本たかし
 特に当てはなく(いや、福袋目当てかもしれない)どこかしら晴れやかな街へ繰り出す。買い物を終えると、急にお腹も空いてきた。とりあえず食事をと入ったレストラン。思いがけず「あれ、ここってスープバーあったんだ」と、何だか少し得したような気分になるのも、お正月だからでしょうか。
  
花火師の屈む外踝赤し  久我恒子
 「外す」から「外踝」への展開、上手いですね。今どきの花火師なら、素足にスニーカーなんてスタイルかもしれません。屈んだ時にちらと見えた外踝が赤く見えたのは、花火の色でしょうか。それとも花火師の健やかな若さの象徴でしょうか。同作者の「あたたかやシェフの釦ははじけさう」も楽しい句でした。こういうシェフのいるレストランなら、きっと美味しい料理が出てきそうです。

外灘に跳ねる蛙の井を知らず  ひでやん
 「井の中の蛙大海を知らず」を踏まえて、逆に井の中を知らない蛙を詠んだ機知の一句。(作者より)「外灘(ワイタン)は上海の長江に面した観光地区の名前」とのこと。私は行ったことはありませんが、「外灘」という字面だけで地形的にどういう場所か想像できそうです。固有名詞が効いてますね。

内緒でと海鼠腸出せるバーのママ  松尾千波矢
 馴染みの店なのでしょうねぇ。「他のお客様には内緒よ」と出してくれた海鼠腸。メニューにはないけれど「このお客様なら、海鼠腸の美味しさ分かるでしょう」の気持ちが込められているのかも。「バーのママ」が下五となっているので、そっと海鼠腸を出してくれたママの人となりが印象に残ります。

歌留多取るめてから飛んだ釦かな  佐東亜阿介
「めて」は「右手/馬手」だと詠みました。白熱した勝負。「落ちた」などではなく釦が「飛んだ」のですから、かなり勢いよく札をはねたのでしょう。となると「かな」では、少し言葉の印象としてゆるいように思います。たとえば「飛びにけり」のような下五も有りでは。

三が日句集一冊あればよい  小川めぐる
 いいですね、この気分。じっくりと一句一句味わいながら、好きな俳人の句集を読みすすむ三が日。俳人なら、読初はかくありたいもの?

冬天に蹴上ぐるボールバーを越ゆ  葉音
 同じ「バー」だけれど、まったく意味の違う「バー」。なるほどこういう展開もありかと。きーんと冴えた冬青空が見えてきます。

極月を忌日句ばかり詠んでいる  恋衣
 極月の忌日なら「漱石忌」か「蕪村忌」でしょうか。「忌日句ばかり」ですから、吉良忌や横光忌、寅彦忌なども詠んでいるのかも。慌ただしい十二月を、よりによって忌日句ばかり詠んでいるとは、妙におかしい。


次回お題句

月冴えて心の鬼を解き放つ  越智空子
 今月、真っ先に投句していただいた句。ちょっとカッコよすぎな感はありますが、惹かれました。冴え冴えと青白い冬の月光には、人の心にひそむ鬼を解き放つ力があるのかもしれません。「心の鬼」には 「良心の呵責」「邪心」「煩悩」などの意味がありますが、「月冴えて」との取り合わせだと「邪心」のような気がします。心の奥底に隠していた邪心が解き放たれると、人はどうなってしまうのかと思うと、怖い句でもあります。



美杉しげり
 第8回俳句界賞受賞。4年ほど前から小説も書き始め、短編「瑠璃」で第21回やまなし文学賞佳作。美杉しげりはその時からのペンネーム。

毎月25日頃に、投句フォームにてお題句を発表します。投句締切は毎月末日。

疑似俳句対局投句フォームアドレス
http://marukobo.com/taikyoku/


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鑑(み)るという冒険


〜映画篇 演劇篇〜

文&俳句 猫正宗

第五十一回
『聖の青春』&『松井須磨子』

 村山聖(さとし)。
 棋士。享年二十九歳。
 『聖の青春』は、夭折した将棋棋士 村山聖を題材とした大崎善生の同名のノンフィクション小説を原作とした作品。
 本作では「東の羽生、西の村山」と並び称されながら、体調不良によりその後塵を拝し続け、村山が尊敬と憧れをもって追う存在として、かの羽生善治が登場。
 村山と羽生は対照的なタイプの棋士として描かれています。
 村山は少女漫画に夢中で、酒に溺れ、麻雀に耽る。対する羽生は、まさに将棋一筋の様な、それでいながら、村山が望む全てを  将棋の名人位はもちろんのこと、恋愛 結婚すら  持っている男として描かれています。村山が将棋一筋に打ち込んでいたら、それとも健康に留意し、細く長く生きる選択をしていたら、あるいは彼が望むものが手に入ったのかもしれません。それでも、きっと村山にはそうとしか生きられなかったのでしょう。
 村山と羽生が、対局後二人きりで語り合う場面で「僕たちはどうして将棋を選んだのでしょうねえ」という台詞がありました。そして、いつか二人にしか見られない“海”を一緒に見に行こうと。
 以前、この欄で書いたこともあるかもしれませんが、某ドラマに「夢は呪いだ」という台詞がありました。本作において将棋は、まさに夢であり呪いでした。夢があれば幸せなのか、夢が叶わなければ不幸なのか。きっとそういうことではない。夢は見ても叶っても破れても、新たな地獄とその背中合わせの(喜びとか悲しみとか安息とか、その他私たちが思いも及ばないような)何かがあるだけなのでしょう。それでも村山聖という人が将棋と出会ったこと、それはかけがえのないものだったにちがいありません。

駒音の響き初星一つ生る

 それにしても、広島に生まれ筆者とは同年の村山。『イタズラなKiss』(因みにこの作品の作者も早世)を熟読し、古本屋で萩尾望都を買い漁る。大量の漫画で埋め尽くされた壁の一角には、リン ミンメイ(当時の人気アニメ『マクロス』のヒロイン)のポスター。彼が将棋と出会っていなければ、あるいはどこかですれ違っていたのかも……。
 一方、『松井須磨子』[エイコーン公演、構成 演出:加来英治、出演:栗原小巻、ピアノ:城所潔、'16年11月21日、ひめぎんホール(県民文化会館)サブホール]は、日本初の新劇女優 松井須磨子を描く、こちらも実在の人物を題材にした作品。一台のピアノ演奏に彩られ、当時彼女が演じて好評を博した役の芝居や歌った歌を交えながら、栗原小巻が九十分、一人で演じます。
 彼女は、共に芸術座を立ち上げた島村抱月と不倫の末、抱月急死の後を追って自殺します。男女の仲、ということもあるのでしょうが、彼女にとって、抱月=芸術だったのかも。彼女もまた夢を見てしまった一人だったのでしょう。

恋ゆえに短き命あり雪花


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mhm通信


第69回

文 暇人


 皆様明けましておめでとうございます。
 先月号の文末に少し触れましたが、今年の審査員を紹介します。
 まずは予選から審査される3名。「プレバト」効果で俳句の種まきに勢いがついている夏井いつき組長。そしてゲスト審査員として、北海道から俳句集団「itak」代表(「藍生」会員、「雪華」同人)の五十嵐秀彦さん、「船団の会」会員の岡本亜蘇さん。
 本戦からは、昨年の優勝チーム「ラ サエズリ」からまとむさんと恒例のフェイスブック(Facebook)審査員が加わります。
 「フェイスブック審査員」は、フェイスブックのmhmのグループに参加していただいている方たちの投票によって審査を行う仕組みです。大会当日は随時、試合の俳句を掲載していきますので、どちらの俳句が良いか「ポチッと」投票していただき、票数が多かった方の旗を、代表者である暇人が揚げます。
 投票はフェイスブック「mhmグループ」のページ()から行うことが出来ます。Facebookをお使いの皆様はご登録をお忘れなく。
 司会は昨年に引き続き、俳号「八角」ことNHKアナウンサーの平野和子さんが行います。
 当日はぜひ、お手持ちのスマートフォンやタブレット(出来ればモバイル回線が使えるもの)をご持参の上ご参加下さい。当日の様子は出来る限りフェイスブックとツイッター(Twitter)で発信していきます。Twitterでまる裏についてつぶやく方はどうぞハッシュタグ「#まる裏俳句甲子園」で拡散をお願いします。
 最後に決勝の席題は「雪」です。お忘れなく!

 mhmでは松山市内外問わず会員を募集中です。原則、毎月最終金曜日19時からマルコボ.コムにて定例会を行います。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局
mhm_info@e-mhm.comまで。


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岡田一実の句集の本棚


文 岡田一実


短夜
大峯あきら 著

発行:KADOKAWA(2014年初版)
184ページ
定価:本体2,700円+税

 著者の第九句集。
逞しき時化の芒となりにけり
 広大な芒野原に風が吹く。嵐の予感。芒は大きなうねりとなり海原を彷彿させる。そのありさまを時化、それも逞しい時化と見て取ったところに発見の妙がある。
まん中を大川が行く焼野かな
 焼野の火が上がっていっているそのまん中を川が通っていく。その異質さ。川の水分は火の気の邪魔にはならないだろう。相反する性質がひとつの景色の中に併存する不思議を感じる。
大雪や音立ててゐる筧水
その山へ高まつてゆく春田かな
いつまでも花のうしろにある日かな
春逝くと南都の雨の降りつのる
山の月照らして暗き牡丹かな
山茶花にまだまだ細る雨と思ふ
草枯れて地球あまねく日が当り
月高く大根甘し親鸞忌
合歓咲いて月と地球と引き合へる
消えがての昼の月あり青嵐
雲の峰千年杉の上に湧く
色鳥に伊勢のうしほの先が飛ぶ
 「晨」代表同人。


天心
櫛部天思 著

発行:角川文化振興財団
(2016年初版)
205ページ
定価:本体2,700円+税

 著者の第一句集。
相愛といふ距離にして雛あり
 雛人形の男雛女雛の距離は近いとも遠いとも言い難い。「相愛といふ距離」にしてはやや遠すぎる気もするが雛こその気高さがその距離にしての相愛ぶりを支えているのだろう。
桐の花どこかに死者の目がのぞく
青嶺照る雲のあはひに雲の影
大夕立太平洋を叩きけり
闇汁の闇をどりだす焔のまはり
 闇というものは動かないものだと思っていた。しかし、闇汁では火焔の周囲で闇が拮抗するのだ。それは恐ろしい景色のように思える。
瓦斯燃えて十二月昼昏きかな
天心に星のあがりし寒鮃
出漁の声の荒ぶる朧の夜
本堂の燭のふくらむ柏餅
春雷や妻を侍らす腕枕
海風を吹き掲げゐる桜かな
水海月抛りて遊ぶ兄いもと
初鶏や日出づる国の一教師
芋虫をつまめば皮のなかうごく
 「櫟」副主宰。


岡田一実(おかだ かずみ)
 2014年「第三回 大人のための句集を作ろう!コンテスト」優秀賞受賞。2014年「浮力」にて現代俳句新人賞受賞。現代俳句協会会員。「いつき組」所属。「らん」同人。第二句集『境界 ―border―』(マルコボ.コム)。


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続 南極を詠もう!


No.8

一般研究観測担当隊員
源 泰拓(俳号 源笑)


 「100年俳句計画」読者のみなさま、こんにちは。第57次日本南極地域観測隊越冬隊員のみなもとです。
 昭和基地の11月は陽射しも強くなり、下旬には一日中太陽の沈まない白夜になりました。気温がプラスになる日もあって、いよいよ夏です。わたしたちと交代する第58次隊員が日本を出発しました。越冬生活も終盤です。

月出ぬ迎えの船が出たといふ  源笑
 南極観測船「しらせ」が11月11日に東京湾晴海ふ頭から出港しました。 この海のかなたで、帰り船がこちらに向かっています。昭和基地で満月を見られるのも、あと2回になりました。

氷山の一角にゐて冷素麺  源笑
 氷山での流しそうめんは、越冬隊の恒例行事のひとつです。氷山に掘ったみぞに、お湯といっしょにそうめんを流します。(水を使うと凍ってしまいます。) 南極の夏に、数千年以上前の氷の上を滑り落ちるそうめんをいただきました。。

砂撒きし雪面昭和の千枚田  くまモン南極出張中
 雪を溶かすため、シャベルで砂を掘ってきて、白い雪のうえに撒き散らしていきます。 白いものよりも黒いもののほうが太陽の熱を吸収するので、雪を黒っぽく汚しておけば、はやく溶けてくれます。
 昭和基地11月名物の砂撒きの跡が以前観光した(石川県輪島の)千枚田のようだなあ。(今頃はイルミネーションしている頃だろうか)という感じで。

東雲やここに白夜の始まれり  源笑
 11月21日の午前0時37分が、昭和基地では2016年最後の日の出でした。次に日が沈むのは、2017年1月21日、午前0時3分です。初日の出(?)は翌日、1月22日です。
 「白夜」が季語だとは、歳時記を読むまで知りませんでした。


今月の南極吟行句   希望峰 編

月出ぬ迎えの船が出たといふ  源笑
 ああ、「といふ」で凄い余韻ですね。自分は月を見ていて、迎えの船はこちらに向かう。二つの線が交錯します。「迎えの船」という言い方は、スケールが大きいですが、句の世界観が統一されていると思いました。ついに、長い旅路が終わろうとしている何とも言えない気持ちが表されていると思います。この写真、ぱっと見ると砂漠の月みたいですね。上の部分が光っているのも、「月出ぬ」と合ってるかも。「出ぬ」は「いでぬ」と読むんですよね?「出ぬ」だと「ぬ」が打ち消しの意味の「出ない」に読めてしまうから、「出でぬ」がセオリーかもしれません。

氷山の一角にゐて冷素麺  源笑
 でました流しそうめん俳句。数千年以上前の氷の上を滑り落ちるそうめん! 贅沢なのかどうかよくわかりません(笑)。きっと、贅沢なのでしょう。しかし写真でうつしとられた情景が凄すぎて句に対するコメントが難しいです。なぜなら、観測隊の方だとわからないと、リアルな状況であると読めないからですね。句の形としては、すっきりしていると思います。食感としては熱いのでしょうか、冷たいのでしょうか? そこが気になります。

砂撒きし雪面昭和の千枚田  くまモン南極出張中
 あ、くまモン南極出張中さんも投句ありがとうございます。なるほど、雪を汚す……「昭和の」は「昭和基地」と読めますが、「昭和時代」がちらついてしまうので、ここは千枚田のように見えるという比喩に重点を置くのはどうでしょう。「砂を撒く雪野千枚田のごとし」など、「雪面」を「雪野」にして真ん中を七文字にしてみました。

東雲やここに白夜の始まれり  源笑
 最後の日の出……何気ないけれど、日本に暮らすものとしては、実は凄い言葉ですね。2ヶ月の間、南極では静かに日々が過ぎていくのでしょう……「ここに」「始まれり」で余情が見えてきます。しかし、「東雲や」ではっきり「切れ」が発生しているので、下五で「り」と切らなくてもいいかもしれません。「始まりて」「始まりぬ」とする方法もあります。「切れ」はカメラワークが起こる場所、転換点と考えるとよいかと思います。

空ここへ落ちてこいよと冬帽子  希望峰


投句募集
南極の写真から発想した俳句を募集します。投句された俳句は、スウェーデンに留学した経験のある希望峰さんが紹介します。
また投句の中から1点、写真とコラボレーションした作品として掲載いたします。
俳句は専用の投句フォームにて受け付けます。
http://marukobo.com/antarctic/
投句締切1月3日(火)。


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100年俳句計画 掲示板




テレビ ラジオ
     
NHK Eテレ『NHK俳句』
 日曜6時35分〜7時
 (再放送:水曜15時〜15時25分)
 夏井いつきが第3週選者を担当
1月22日(日)、再放送 25日(水)
募集兼題
 「草の芽」または「ものの芽」
投句締切 1月10日必着
投稿は葉書1枚に1句。選者名、兼題、俳句1句、名前、年齢、電話番号明記。
宛先
〒150ー8001
NHK「NHK俳句」係
ホームページからの応募も可
http://www4.nhk.or.jp/nhkhaiku/

NHK 総合テレビ(愛媛のみ)
「えひめ おひるのたまご」内
隔週火曜『みんなで挑戦! MOVIE俳句』
1月10日(火)、24日(火) 11時40分〜

TBS系列局 全国ネット
 『プレバト!!』
毎週木曜 19時〜19時56分
 夏井いつきが俳句の査定を担当

南海放送
 松山市政広報番組
 『大好きまつやま しあわせことば塾』
毎週火曜 20時54分〜21時
(再放送 日曜11時40分〜11時45分)
 夏井いつきが塾長として出演

南海放送ラジオ
 『夏井いつきの一句一遊』
毎週月〜金曜 10時〜10時10分
  「一句一遊情報局」のページ参照

FMラジオバリバリ
 『俳句チャンネル』
毎週月曜 17時15分〜17時30分
(再放送 火曜7時15分〜7時30分)
投句募集兼題
「塩鱈 ラグビー」…1月15日締切
「春暁 野焼」…1月29日締切
 WEB http://www.baribari789.com/
 mail radio@baribari789.com
 FAX 0898(33)0789
  投句には本名 住所をお忘れなく!
  各兼題「天」の句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。

各番組の放送予定は変更される場合がございます。新聞などで最新情報をご確認ください。


執筆           

松山市の俳句サイト
 『俳句ポスト365』
http://haikutown.jp/post/
 「俳句ポスト365」のページ参照

テレビ大阪俳句クラブ
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 「集まれ俳句キッズ」(夏井いつき選)
  毎週日曜タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井いつき選)
投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。
朝日新聞松山総局(〒790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。

愛媛県《吟行ナビえひめ》句&写真
俳句選者:夏井いつき
写真選者:キム チャンヒ
 募集期間 毎月1日〜25日頃締切
 応募先 http://www.iyokannet.jp/ginkou/
 問合せ 愛媛県観光物産課
電話 089(912)2491


イベント 講演等

「第10回 夏休み句集を作ろう!コンテスト」表彰式
1月7日(土)13時30分〜16時
 松山市立子規記念博物館 4階講堂(愛媛県)
 受賞者とその家族対象。
問合先 (有)マルコボ.コム 
電話 089(906)0694

第15回 まる裏俳句甲子園
〜裏からGO!!〜
1月8日(日)予選9時30分〜
      本戦13時〜
 松山市立子規記念博物館 4階講堂(愛媛県)
問合先 まつやま俳句でまちづくりの会(担当:マルコボ.コム内 キム)
電話 089(906)0694
Eメール mhm_info@e-mhm.com
 告知コーナー参照

俳句王国がゆく〜石川県白山市 公開録画
1月14日(土)13時30分〜15時30分
 白山市松任学習センター(石川県)
問合先 NHK金沢放送局 
電話 076(264)7002
 観覧申込受付は終了しています。

今治市吉海支所句会ライブ
1月19日(木)13時30分〜
 今治市役所吉海支所(愛媛県)
問合先 吉海支所 
電話 0897(84)2111

平成28年度(第18回)NHK全国俳句大会
1月22日(日)13時〜16時10分
 NHKホール(東京都)
主催 NHK、NHK学園
問合先 NHK学園「NHK全国俳句大会」事務局 
電話 042(572)3151

滋賀県草津市立笠縫小学校句会ライブ
1月27日(金)13時〜15時30分
 草津市立笠縫小学校体育館(滋賀県)
 5、6年生対象。

第66回 長浜盆梅展俳句まつり
1月28日(土)
(1)句会ライブ&ランチ 鑑賞券付
 10時〜13時
 北ビワコホテルグラツィエ(滋賀県)
(2)句会ライブ
 14時30分〜16時30分
 カルチャーセンター「臨湖」(滋賀県)
参加費 (1)5000円 (2)1500円
申込 問合先 長浜観光協会 
電話 0749(65)6521
 定員となり次第、受付終了。

同志社大学商学部父母会 夏井いつきの句会ライブ
〜あなたも今日から俳人です〜
1月29日(日)13時〜15時
 同志社大学今出川キャンパス(京都府)
 観覧申込受付は終了しています。


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魚のアブク



読者から寄せられたお便りをご紹介
お便りお待ちしています!
100年俳句計画編集室「魚のアブク」宛、もしくは他の投稿に添えてお寄せください。


葉音 今月から参加させていただきます。皆様のエネルギーに圧倒されていますが、何とかついていきたいと思います。

砂山恵子 俳句をはじめて1年半、やっと旧かな俳句の広がりに気付き、今一生懸命旧かなを勉強中です。難しいですね。

うに子 いつもぎりぎりの投句で失礼します。でも、ぎりぎりの時に浮かぶことが一番自分らしいのかも……。

元旦 またも代表句の季節がやってまいりました。毎年無理矢理代表句ということにしていますが、果たして今回は?

みやこまる 先月、市の文化祭がありました。俳句の部に自分の句を出展することになり、初めて短冊に筆でしたため、まあまあの出来映えに大満足! が、突然のギックリ腰で参加を断念。お蔵入りになった短冊が不憫です(涙)。

喜多輝女 今年は寒暖の差が激しく、いまだに朝着る物を迷ってしまう今日この頃です。秋がとっても短かった様に思いますが、皆さまお風邪など召されませんように。

ケンケン 愛媛マラソン、来年こそは……。


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鮎の友釣り


第222回


俳号 西条の針屋さん

前回 たぁさんへ
フェイスブックで知り合い昨年末の忘年会などでもご一緒しました。
 「一句一遊」への投句するうちに知り合い時々、メールのやり取りをするようになりました。

写真
独りで映った写真が無かったので残っていたのが証明写真です。

俳句歴
松山に住んでいた時から「俳句甲子園」を目にして「高校生って凄い俳句を詠むなぁ」と思っていて、西条市に帰って治療院を開いてからラジオで「一句一遊」を聴き、知り合いの紹介があり新居浜でやっている「たんぽぽ句会」に参加するようになりましたが勉強する毎日です。
 高校野球の大好きな「はりやさん」です。

次回 きとうじんさんへ
「一句一遊」の初天の時にメールを頂いた方です。


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告知




春夏秋冬(しき)笑顔まつやま俳句五七五

福祉をテーマにした
冬の五七五募集

年4回、福祉をテーマにした五七五を募集します。
人に優しくなれるような五七五をお待ちしています。
(第4回 1月31日締切)


応募方法
「春夏秋冬笑顔まつやま福祉575」係 宛に、ハガキまたはFAX、または、インターネットの応募フォームにて応募して下さい。

送り先
790-0808 松山市若草町8番地2 松山市総合福祉センター
 社会福祉法人松山市社会福祉協議会 総務部 施設管理課
FAX番号:089(941)4408 
専用フォーム http://www.marukobo.com/egao/

賞品「松山トリコ」
大賞 (松山市社協会長賞) 道後温泉湯玉トートバック(1点)
優秀賞 ブックカバー(3点)
入賞 紙の湯カードケース(4点)

発表 ハイクライフマガジン『100年俳句計画』3月号(予定)ほか

主催 松山市社会福祉協議会
   有限会社マルコボ.コム(ふくし句会 ハイクライフマガジン『100年俳句計画』)選句
協賛 東亜ホーム株式会社 社会福祉協議会賛助会員




裏からGO!! (作者 藤田夕加さん)

第15回
高校生以外のための まる裏俳句甲子園

主催 まつやま俳句でまちづくりの会
共催 松山市教育委員会

日時 2017年1月8日(日)
 予選 9時30分 集合
 本戦 13時00分〜(12時30分開場)
場所 松山市立子規記念博物館(松山市道後公園1-30)
入場料 500円 エントリー料 700円(別途入場料500円が必要です)

お問い合わせ
Eメール mhm_info@e-mhm.com
電話 (089)906-0694 マルコボ.コム内(担当:キム)


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編集後記


キム チャンヒ

 「100年俳句計画」というコピーを、初めて発表したのが2006年4月号。本誌では、「百年」というキーワードの元、様々な企画を行い、2011年1月号からは、誌名も「俳句マガジンいつき組」から「100年俳句計画」とした。
 人生が永くなったとは言え、百年は永い。「100年俳句計画」は、自分の人生を越えたところに目標を定めて芸術活動をしたい、そんな思いもあって作った言葉だ。俳句の種を蒔く事も「100年俳句計画」だし、その蒔かれた種を育てる事も「100年俳句計画」。種を育てて実がなるまでの道筋を付ける事は、簡単な事では無い。俳句の広い裾野があっても、そこに目指すべき高い山がなければ、裾野のまま終わってしまう。その山を育てる時間が「百年」とも言える。
 毎年1月号の特集は、恒例の「生まれてから現在までの代表句」。今回で13回目を迎える企画。
 誰も見た事のない、俳句の地平を開くために、去年の自分を一歩ずつ乗り越える努力をする事。その努力こそが、百年後の山を築く事になると信じている。


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次号予告


231号
2月1日発行予定

第10回
夏休み句集を作ろう!コンテスト結果発表


お得で便利なマルコボ.コム直販定期購読! 巻末の案内をご覧ください
お申し込みの方へ、毎月末頃に最新号を送料無料でお届けいたします!
(住所変更の際は必ず編集室までご連絡ください)

『HAIKU LIFE 100年俳句計画』は以下の書店でもお買い求め頂けます。

愛媛県
 明屋書店 ※一部店舗のみ
 ゆらり内海(愛南町)
 原田書房(今治市)
 子規記念博物館(松山市)
 紀伊國屋書店松山店
 ジュンク堂書店松山店


HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画
2017年1月号(No.230)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子

2017年1月1日発行