100年俳句計画10月号(no.227)


100年俳句計画10月号(no.227)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。






目次


巻頭リレーエッセイ
不知火


特集1
涙の中に 第19回俳句甲子園体験記
愛媛県立松山中央高等学校 文芸部顧問 櫛部隆志(天思)


特集2
WHAT Vol.4 2016 [A]&[B] 出版記念特集
その2



好評連載


作品

百年百花
 日暮屋又郎/河野しんじゆ/マイマイ/天玲


新100年の旗手
 時計子/ひでやん


新100年への軌跡
 俳句 安里琉太/安岡麻佑
 評 とりとり/亜桜みかり




読み物

美術館吟行/恋衣

JAZZ句会 100回開催に寄せて/上杉志朗

Mountain Cabin Dispatch/ナサニエル ローゼン(翻訳:朗善)

JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭

ラクゴキゴ。/らくさぶろう

歳時記「無季」がバイブル/日暮屋又郎

クロヌリハイク/黒田マキ

百年歳時記/夏井いつき

鑑(み)るという冒険/猫正宗

続 南極を詠もう!/源泰拓



読者のページ

疑似俳句対局/美杉しげり

100年投句計画
 選者三名による雑詠俳句計画
  桜井教人/阪西敦子/関悦史

 へたうま仙人/大塚迷路
 自由律俳句計画/きむらけんじ
 詰め俳句計画/マイマイ
 100年投句計画 投句方法

短歌の窓/渡部光一郎

百人百様E-Haiku/菅紀子

俳句ポスト365

一句一遊情報局

100年俳句計画 掲示板

魚のアブク

鮎の友釣り

告知

編集後記

次号予告





巻頭リレーエッセイ



ガチャガチャ
不知火

 田舎の秋の夜は結構にぎやかだ。
 我が家の横を通っていた県道が、十年あまり前に裏山の向こう側を二車線で抜けてからは、日中に地元の車が通るだけの静かさだ。そこにあるのは、季節ごとの鳥、蝉、蛙などの鳴き声、そして、ただ今は虫。
 そう、虫とは、秋の鳴く虫のこと。残る蝉の鳴き声が少なくなると出番である。何が鳴いているかわからないくらい、いろいろな虫が鳴いている中で、手強いのは轡虫。いくら聞いても名前が覚えられない私ではあるが、数種の涼やかな音色に混じり、ガチャガチャは気にするとかなりうるさい。そして、それをものともせずに寝られるようにならなければいけない。もちろん、得意である。
 変わりばえのない生活のなか、今日も時間は流れていく。


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特集1

涙の中に 第19回俳句甲子園体験記


愛媛県立松山中央高等学校
文芸部顧問 櫛部隆志(天思)


 「それでは……判定ッ!」毎度お馴染みのらくさぶろう氏の声が、静寂に包まれた会場を貫く。13名の審査員の旗が一気に挙がる。「赤ァ! 開成優勝ッ!!」喜びを静かに表す選手たち。副将戦、大将戦を待たず3対0のストレート勝ち。旗判定のみの2戦も勝ちを収め、5対0の圧倒的大差で東京家政学院を下した開成高校が、2年ぶり9回目の優勝を果たす。まさに捲土重来を期した瞬間を目の当たりにし、全ての対戦は終了した。疲れた身を椅子に委ねながら私は、大会の3日間を思い起こしていた……。

 松山中央は3年ぶりの出場である。一昨年は部員不足で地方大会にすら挑めず、昨年はあと一歩で全国大会の切符を手にすることができなかった。それだけに、今大会に懸ける思いも一入だった。また、初出場の2年生と1年生が何を得てくれるかも楽しみだった。
 俳句の日の8月19日、まるで大会の激戦を予感させる暑さである。松山大学カルフールホールは早くも緊張感と熱気に満ちている。ウェルカムパーティーでは、顧問の先生方と旧交を温め、3年間の隔たりを感じさせない俳縁に感謝する。やがて、そんな和やかさもそこそこに抽選会が始まった。ブロックの枠が埋まるたび、歓声と悲鳴がホールに響く。そして、抽選34番目の松山中央はJブロックに決まる。他、松山西はB、宇和島東はC、愛光と松山東はF、伯方はGの各ブロックで明日を迎えることになった。なお、抽選会の後に敗者復活戦用の創作が行われた。
 20日、開会式。大街道商店街の特設会場を36チーム180名の猛者が入場行進。相変わらず私は隅の男として、誰にも知られないように目頭を熱くしていた(と思っていたが後日、ある先生に見つけられていたことが判明)。
 いよいよ初戦開始。相手は海城(東京)。初出場ながら、地方大会では開成に肉迫した強豪チームと聞いている。それに加え、海城は前の試合を落としているため、負けるわけにはいかない。背水の陣で臨んでくることは明白であり、これが俳句甲子園の怖さの一つでもある。そして試合は、私が予期した通りに展開した。赤に松山中央、白に海城。
(白)行きつけの店にあふれる浴衣かな
(赤)あの人は来ない浴衣の襟乱れ
 先鋒戦。情の赤と景の白というべき対照が際立つものの、赤の既視感は拭いきれない。さらに、質疑応答も、緊張のせいか的確さを欠いている感じである。積極果敢に挑む白に対し、次第に気圧される様子が手に取るように分かる。判定は1対4で負け。審査員長の今井聖先生から「日常性を越えていない!」と、激励の一言をいただいた。続く中堅戦も負け、敗戦が決まる。
 大将戦。せめて一矢を報いようと、主将の宮崎が先頭に立って踏ん張る。それに応じて他の選手も奮闘。判定は3対2で勝ったが、初戦を落としてしまった。最後まで積極的な海城の姿勢に学ぶべき点は多かった。東京はどの高校にもこのような人材が眠っているのだ……まさに恐るべき一千万都市である。
 次の相手は徳山B(山口)。出場校の中でA Bチームを擁するのは開成と徳山のみである点からも、中国地方を代表する実力校。とはいえ、こちらも絶対負けられない戦い。真価が問われる一戦になった。赤に徳山B、白に松山中央。
(白)リビングの朝に潜める瑠璃蜥蜴
(赤)水墨画蜥蜴の走り抜けてをり
 先鋒戦。互いに景主体の句ながら、動の赤と静の白と、これまた対照的。ただし、白は単なる事実描写の感が強く、赤は画から蜥蜴が飛び出すような不可思議な感覚を覚える。何とか挽回をと願っていた矢先、赤の的確で鋭い質疑応答に防戦一方に陥ってしまった。判定は1対4で負け。中堅戦は逆に4対1で勝ち、雌雄を決する大将戦。
(白)青蜥蜴今日は定休日の飯屋
(赤)非常口みどりの境界に蜥蜴
 滑稽が売りの白と不穏が信条の赤。正直に言えば、赤は蜥蜴のイメージと近い上に句意が難解と感じていた。最後の挑戦、夏休みを返上して毎日取り組んできた成果を発揮してほしいと願っていた。それは選手たちも同じ心情だったろう。一所懸命に戦う姿を見つめながら、あっという間に6分間が終了した。余韻に浸る暇も与えず、行司の宣告。
 「審査員の先生方、旗のご準備はよろしいでしょうか。それではまいります……判定!」

 21日。松山市総合コミュニティーセンターの指定席に座り、私たちは決勝戦を観戦していた。昨日最後の大将戦は、0対5の完敗。松山中央は0勝2敗で大会を終えた。舞台上で躍動する開成、愛光、敗復戦を勝ち抜いた東京家政学院の選手を目前にして、あの場所に立たせてやりたかったと、しみじみ感じていた。そこは、高校生が大きな進化を遂げる場であることを、第12回大会の経験で知っている。しかし、俳句の神に選ばれし者だけが立つことを許される舞台ということもまた、厳然たる事実として解っている。修行不足だよと、俳句の神が諭しているように思えた。
 そして、冒頭の場面に移る……。

 表彰式。会場全員が健闘を称え、入賞者に盛大な拍手を贈る。県勢の5校は名を連ねたが、松山中央の名は無い。「全国大会に出場できただけでも幸せなこと」と思っていた。ところが……である。
 天の川現人神の頭蓋骨 岡部 新
が、関悦史先生選の優秀賞に輝く。舞台上の彼の姿に、「ああ、岡部は1年生ながら苦吟した甲斐があった。良かった。これで来年に繋げられる」と胸が一杯になった。恐るべき俳句の神の悪戯など、当然知るはずもない。
 「いよいよ、個人最優秀賞の発表です!」
 「個人最優秀賞はッ…」
 らくさぶろう氏は一呼吸置いて、一気呵成に読み上げる。優秀賞の満足感に浸っている私の頭脳に、もはや音声の処理能力は無い。
『ブタガ…クソツ…ョウノヒ…ャリフ…バ』
『豚が鳴くソツ…ョウノヒ…ャリフ…バ』
『豚が鳴く卒業ノヒノ…ャリフ…バ』
『豚が鳴く卒業の日の砂利フメバ…え?!』
「ええっ?!」何が何だか訳が解らなかった。まさしく池内の句と認識した時、彼の苦労と私自身の来し方が甦り、熱いものが爆発的に湧き上がって来た。彼を思いきり抱きしめ、歓声の渦の中で喜び、そして、泣いた……。
豚が鳴く卒業の日の砂利踏めば
  池内嵩人
 来年8月、椿神社に彼の句碑玉垣が建つ。第1回大会の白石ちひろさん以来18年ぶりの快挙だけに、感慨深いものがある。

 今大会を通して、次の10年につながる何かに触れた気がする。それを端的に言葉で説明できないが、大会で流された全ての涙の中に答えはあると考えている。私の感覚が正しいかどうか、「仮説→実証→検証」を積んで、第20回大会に向けて証明したい。もちろん、1年間で達成できるはずもないし、残された課題はあまりにも多い。しかし、試行錯誤を繰り返しつつ、地道に取り組んでいきたい。

 最後に、岡本会長を始めとする全ての運営スタッフの皆様に感謝の意を申し上げます。夏井組長へ。いよいよ来年は、俳句甲子園も成人式を迎え、新たなステージへと突入することでしょう。俳句の種蒔きの先達として、ご自愛専一に努めながら、いつまでも末永くお付き合いください。私も頑張ります!


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特集2

WHAT Vol.4 2016 [A]&[B] 出版記念特集 その2



 「週末俳句活動句会」(略して「週活句会」)は20代の俳人たちのインターネット句会です。
 今年も週活句会参加者の中から有志16名が集まり、それぞれの15句の作品を編んだ、合同句集『WHAT』を制作しました。昨年同様、[A]と[B]の2冊分冊での出版となりました。
 今回は、前回の[A]に引き続き[B]に掲載された8作品について、都築まとむさんと渡辺瀑さんに、それぞれの作品について評を頂きました。


「質量のカシオペア」 脇々
脇々(わきわき) 1996年生まれ、愛媛県出身。愛媛大学俳句研究会所属。17歳より句作を始める。

 詩に向かって行こうとしている作者の姿勢に好感を持つ。かと言って甘くなりすぎないのはしっかりと「物」を描いているから。

無音かな皐月の祈り雨以外
 「皐月の祈り」は「皐月」としたことで、聖五月のイメージが薄らいだ。雨音だけの中の祈りはきらきらとしていて明るい。

グラジオラス風がひかりにおいついて
 グラジオラスの先へ先へと尖りつづける形を「ひかり」に「風」がおいつくと感じるところが素敵。

羽化しては羽化しては月白のまんなかへ
 次々に生まれるカゲロウを想像した。「月白のまんなか」は月が上ろうとしている時間と空間のまんなかへという意味なのだろうが、ここはしっかりと月を見せた方が良かったかもしれない。それでもこの句の、月の夜のざわざわ波立つ気分が好きだ。


「すべてが水で」 坂入菜月
坂入菜月(さかいり なづき) 1996年生まれ、茨城県出身。2016年4月号より「里」同人。

 多くの句の下五の展開にハッとする。それが次の句へと誘われるワクワク感になるのだろう。句群の楽しさを実感させてもらった。

菜の花へひらく電車のドア全部
 この十七音で過不足なく作者の位置や時間経過、光景が表現されている。下五を「ドア全部」としたことで、目の前に広がる菜畑とその匂いが押し寄せてくるようだ。

揺れてゐるすべてが水で金魚鉢
 「揺れてゐるすべてが水で」ここまででかなり大きな水辺の光景を想像してしまう。それが「金魚鉢」だったとは。そして水を揺らしているものが金魚だとわかる仕掛け。

ひまはりを生けてより猫ねむりがち
 大きな「ひまはり」がそこに生けられたことで猫は安心感を得たのか、あるいは「ひまはり」の存在に疲れてしまったのか。「ねむりがち」という表現も猫の姿をよく見せている。


「角持つ獣」 小鳥遊栄樹
小鳥遊栄樹(たかなし えいき) 1995年生まれ、沖縄県出身、大阪府在住。「若太陽」「ふらここ」「鯱の会」所属、「里」「群青」同人。本屋で働いています。

 日常の中の場面が俳句になる瞬間。それに気づけるか気づけないか。作者のアンテナはいつも動いている。

旅に来て塔の高さや花曇
 季語のイメージから五重塔を思った。見上げる五重塔とその上に広がる曇り空。それぞれの重さが花の時期の旅情を一層のものにする。

駐輪場有料夏の雨でもなほ
 「駐輪場有料」というおよそ詩の言葉からは遠いものを「夏の雨でもなほ」とつないでバランスを取った。濡れた車輪も夏の雨に光って綺麗。

夜店仄暗し旋毛の高さに灯を吊らば
 当たり前の光景だけれど「旋毛の高さ」に灯が吊ってあることの気づき。顔でも頭でもなく「旋毛」という部位が高さと分かったときに、その灯を避けて立つ人が見えるという面白さも。物を描いて人の姿を見せるというのはこういうことなのか。


「標本」 中西亮太
中西亮太(なかにし りょうた) 1992年生まれ、岐阜県出身。「艀」同人。6番目の地として東京在住。東京大学大学院教育学研究科在学。

 季語を味方につけるとこういう句が生まれてくるのだろう。季語とそれ以外の物のイメージを少しずつ重ねながら俳句はできあがっていく。

閉じゐたる指に隙間や去年今年
 「閉じゐたる指」「隙間」そして季語の「去年今年」しみじみとしたものを並べて時間経過を表現した。それぞれの言葉の効果が季語によって大きな世界になっていく。

口内の飴転がりて春の雨
 新しい材料ではないけれど、声に出して読むと韻文の楽しさが味わえる。「転がりて」と、ひと呼吸おいた後で「春の雨」を味わうような作り。春の雨と口内と、どちらも甘い湿度である。

噴水のばたばた落つる上野かな
 噴水の落ちる「ばたばた」という音と、上野の活気や雑多な感じをイメージでつないだ句。固有名詞がよく効いている。噴水を詠みながら、その向こうの町の暑さも読んでいる。


都築まとむ
 1961年愛媛県八幡浜市生まれ。いつき組所属。第3回選評大賞優秀賞。第3回大人コン最優秀賞。いつき組さえずり句会お世話係。



「ぽこ」 浅川芳直
浅川芳直(あさかわ よしなお) 1992年生まれ、宮城県出身。『駒草』、東北大学俳句会。蓬田紀枝子、西山睦に師事。世古諏訪に親炙。

 はためく鯉のぼりを中心にした5月の景を、心の動きと共に等身大に表している句群。

渾身に風つつ抜ける鯉のぼり
 5月の勢いのある風は実景であり、またそれを投影した作者の心象でもある。

太陽がほどよく炙る五月鯉
ちんぽこにぽこあり天に鯉のぼり

 成程と納得の愉快な二句。ぽこ……5月は男の子の季節。

わが目鼻めりこんでゆく夏布団
 大人の階段を歩む過程には少々の挫折も。夏布団がやさしく癒してくれる。


「春の雷」 晶美
晶美(あきみ) 1990年生まれ、徳島県出身。高岡晶美。第11回俳句甲子園児。俳句は、言葉を掬う行為。

 出会いと別れ、青春の一頁を四季の移ろいに合わせ、詩情豊かに詠まれている。

白シャツの背中眩しき朝かな
 恋の始まりの期待に満ちた心持を、見事に白シャツが表している。

手をつなぐかたちに影を重ねて夏
 手をつなぐかたち祖……女性独特の感性で語られる恋のかたち。

手鏡をひらけば素秋映りたる
 心情の変化をさりげなく、そして的確に物語っている作品。「素秋」が生々しい。

雪解けて光の壊れゆくかたち
 作者の瞳にはもう何も映らない、雪解けの光の屈折が静かに心の中を揺らめいている。


「見ゆる禽」川又 夕
川又 夕(かわまた ゆう) 1987年生まれ、愛媛県出身。俳句甲子園、NHK学生俳句チャンピオン決定戦出場。句集『嫁入り支度』。

 大人の愛の「起承転結」の起の物語、一句一句に様々な読みが出来るのも愉快。

春一番いつか真珠の似合ふひと
 真珠の似合う人は、自分であり相手であり。今心を吹き抜ける春一番、お互いが将来を見据えている。

紫陽花を束ね異国の海のいろ
 紫陽花を束ねて来たような人生と読む。たどり着いた異国の海と煌く世界。

寝待月骨きしきしと雨を呼ぶ
 心情をリアルに表している抒情詩、寝待月の斡旋がとても利いている。

あをきもの総て画布なる勇魚かな
 地球の雄大さを思い、そして二人の未来永劫を感じさせるダイナミックな一句。


「雨の星」甘蛙
甘蛙(あまがえる) 1985年生まれ、広島県出身。粘液に神経毒をもつ。寂しいと鳴く。主に17音で。山小屋に出没する。

 生物をモチーフに周りの様々な事象を、ファンタジーを交え大胆に睥睨している。意外と繊細な心の持ち主か。

寄居虫の気取った風に歩きけり
地に足の着くこと恐し大百足
 発想が愉快。生物のことを描きながら、風刺のような諧謔を味わう。

闘いの部族の如き日焼けかな
 大胆な比喩だが、実感、そして人間の本質を鋭く語っているように思う。

龍淵に潜み宝玉めく地球
 宇宙から眺める地球の美しい姿を思う。龍に見守られている地球を、我々はもっと労わらなければならない。


渡辺 瀑
 1960年愛媛県大洲市生まれ。カメラ片手に野山を歩き、花を愛で、鳥の声に耳を澄ます。自称自然派俳人。


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美術館吟行


第22回

愛媛県美術館 
山口晃展 松山シフト
〜道後に関する作品から代表作まで〜 展
吟行会

取材協力 愛媛県美術館
文 恋衣


 暑すぎた夏故に、一層爽やかに感じる風の吹く朝、愛媛県美術館のロビーに集合。今回は、所蔵品展、そして『山口晃展 松山シフト』の鑑賞。「道後アート2016」のメイン アーティストである画家 山口晃展のチラシを手に、一同は二階の会場へ。参加者は、ひかる チャンヒ しんじゆ 阿昼 そうそう 猫正宗 恋衣。

はじまりは、山口氏の松山シフト『百貨店圖日本橋 新三越本店』より。その細密なその中に現在と過去の入り込んだ圖。
 東京圖、広尾ー六本木 六本木昼図の2点の作品名を確かめながらそれぞれの圖を覗き込む。

『東京圖 六本木昼図』
群衆のひとりとなって秋の昼  チャンヒ

『新東都名所 「芝の大塔」』
空蝉や東京タワーへ下る道  阿昼
秋の晴芝大塔の天突くや  ひかる

 その中の竹箒や『新東都名所 東海道中「日本橋改」』の走り行く人力車に惹かれながら作品は一転。 『オイル オン カンバス(本歌 雲谷等顔)』の白と黒。そして旧と新、現実と虚の世界へ。

『厩圖』
鱗雲だらんお前もロボットか  チャンヒ
『土民圖』
きのふけふなべては秋の雲の中  恋衣
『来迎図』
星流るいつかは破裂する世界   猫正宗

 次々と作品に魅せられ、展示の魅力にはっとする。

「携行折畳式喫茶室」
秋日和器用貧乏村宝  しんじゆ
「自由研究(柱華道)」
電線撓めよ秋桜控へよ  しんじゆ

 美観を損ねるかもしれない電柱の美、電線を撓める美。自由研究を極めれば美しいという事。

さあ、街歩き旅ノ介 山口さんの「道後エトランゼマップ」を手に(疑似)道後散策。先ずは、チラシの絵。

『道後百景 伊佐禰波神社』
鳥居抜け絶壁の階秋麗の社  ひかる
秋雲のまちがひ探しなる原画  しんじゆ
階は三女神へと秋麗  猫正宗

 伊佐爾波神社の階段を下りて……。

『道後百景 上人坂へ』
上人坂高下駄弾む秋の昼  ひかる

『道後百景 宝厳寺』
いつまでも銀杏青く子規よ漱石よ  チャンヒ

 あゝ、門の中に座っておられるお二人は。寺を後にし、足をのばして行く先は、

『道後百景 鷺谷墓地下』
新涼の立札のぞきこむ背広  阿昼
エトランゼ鷺谷墓地下群蜻蛉  ひかる

 時を忘れるほど楽しんだ山口晃展。

銀河夜夜世界設定再構築  猫正宗
夕立で鬼の鬼面もはがれけり  そうそう
夏の絵でかくれてしまった独りかべ  そうそう

 ほかの所蔵品展も見応えがあり、福井江太郎作『撼』の一羽の駝鳥に「帰るのですか」と見つめられ、獅子は吠え。

『獅子図』河野秋邨作
花野より獅子図へ獅子の戻り来る  恋衣

 メダルド ロッソ作『門番の女』に手を振って。

『踊り子』 マリノ マリーニ作
踊り子の右の拳の秋思かな  恋衣

 踊り子にもエミリオ グレコ作『うずくまる女』にも「また来るから」と言いました。


爽籟やただ懐かしき坂下る  阿昼

電線撓めよ秋桜控へよ  しんじゅ


恋衣
俳句を、短歌を読む事を、絵画を見る事を、音楽を聴く事をこよなく愛する俳人。美術館吟行に、一緒に行ってくれる人を募集中。

*「山口晃展 松山シフト 〜道後に関する作品から代表作まで〜」は11月20日まで開催中


次回美術館吟行会
愛媛県美術館「いつだって猫展」吟行会

10月1日(土)朝10時現地集合
参加無料(入館料は別途)
申込締切:9月29日(木)
『100年俳句計画』編集室までお申し込み下さい。TEL 089-906-0694


吟行ナビえひめ
http://iyokannet.jp/ginkou/


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百年百花


大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠

2016年度 第二期 第三回


金木犀
日暮屋又郎

名月だった取り返しのつかぬプロポーズ
敬老日に眼飛ばし嗄声の啖呵
ビルにワーゲン突き刺さる柳井町に九月
月光にキツネの影絵いーから早く寝なさい
いかす欽ちゃん走り数日ずれた体育の日
川底くっきりと水澄み魚影列を成す
かといって金もちじゃなし松手入れ
二つめの銀杏にガッツポーズ茶碗蒸し
だだこねる蜻蛉よその窓ならはめ殺し
逃亡の訳を花野で語ろうか
意味もなく団栗しかもポケットに
金木犀を隠語とし黄昏の加齢臭

1959年2月生まれ。現代俳句協会会員。自由律のひろば会員。第三回、第五回、大人コン優秀賞受賞。句集『デカパンのピカソ』出版。俳句というフィールドをめいっぱい楽しんでいる。


星流れたか
河野しんじゆ

沢蟹やここだけ雨が降る谷間
朱印より腹帯巻くや菩提樹咲く
松葉牡丹目立て屋さんの子沢山
かなかなや沈下橋より飛ぶ試験
カンバスに秋づく深き淵の碧
退官や秋球根植うる巡査
置き去りの南瓜なんだか気にかかる
風爽か南画の鶴の首伸ばす
梨の実ざらり飼ひ殺したき男
秋の灯となりゆく途中の橋へ船
鳥渡る未だ戦つてゐる遺骨
大統領の折鶴へ星流れたか

1955年生。第4回、5回大人コン優秀賞受賞。職場の利用者さんと季節毎にやっているフィギュア句会では「一句一遊」に投句。月曜日のレギュラーとして組長に読んで頂けるのを励みにしている。


流星
マイマイ

ぶち込んでカレー銀河の果てに食ふ
秋澄むや後部座席のジンの瓶
カーラジオ消せば虫の音虫の闇
星屑の地球に届く長き夜
Xにテントのポール組む 月光
紙コップ掲げよ月のひしやげあり
ペガススの四角形とはちよつと地味
秋を寝る宇宙に首を突き出して
寝転んで目の端つこを星流る
見逃した流星口惜しがる遊び
銀河楽しや洗濯バサミ座と命名
流星のグリッサンドに夜が明ける

五十歳。男。宇宙や生命進化に関する本を読むのが好き。最近読んだのは「スノーボールアース」。地球は何度か赤道まで凍り付いていた時代があったらしい(それも数千万年以上!)。この情報を句集「宇宙開闢以降」に入れたかったぜ! 残念!


百合
天玲

人類は滅亡の危機ゼリー食む
失敗したっていい百合だってこぼれる
行っちまえ煙草を捕虫網に替え
放射能の地や生まる死んでゆく
キュビズムのやうに暑さの極まりぬ
亜米利加のさしがねでない南瓜の種
光るもののひとつは刀晩夏光
砂漠に虹遠く難民選手団
爆心を真下に眺め夏果てぬ
長き夜を象形文字のやうに哭く
帽子てふ小さき宇宙秋の蝶
苦しみの記憶よ百合よ白く白くあれ

1969年生まれ・愛媛県大洲市在住・穂積書道教室俳句部。


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新 100年の旗手


読者投稿による3ヶ月連載作品集

2016年10月号 〜 2016年12月号 1/3回目


静まる
時計子

おのずからひとつ壺へと月は落つ
息をするだけの日もあり秋の虹
振り向けばおとうと隠す夕芒
人厭う意気地もあらで花野道
月光の魚の尾翻りて澄む
わが肉の慄えの色や鶏頭花
なお黒き塔を捉えり蔦かずら
一日の終わりのかたち柿伏せる
萩白く零れて土の静まりぬ
吾の内に満ちてさみしい月の水

1966年、埼玉県出身。松山在住17年。参加句会「ハイミー」「ジャズ句会」。好きな物 三線、古本、野球、猫。


初秋の連体形
ひでやん

積み上ぐるファイルに挟む残暑かな
特急に連結さるる秋来たる
飽食の灯に照らさるる川施餓鬼
蜩の聞こゆる山の端は海へ
シャツ干せるまま出かけたり稲の花
谷間の棚田の朝に秋気澄む
分け入れば頬撫でてくるむら薄
蟋蟀や植木鉢なるアジールへ
秋夕焼空・海・島の溶けてゆく
平成の車胤文机に月光

1968年愛媛県生まれ。俳句歴3年数ヶ月。俳句甲子園に携わって9年。現在、俳句甲子園実行委員会一般ボランティア委員長。


2016年度第4期連載者募集中 *締切11月15日(火)
応募内容 2017年1月号に掲載できるタイトル付の10句
応募先  Eメール magazine@marukobo.com *件名に必ず「100年の旗手応募」と明記して下さい。
(郵送またはFAXでも受け付けております。詳しくは編集室までお問い合わせ下さい。)


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新 100年への軌跡


2016年度 第二期
第三回


ひとつの花に
安里琉太 

石灼けてつまびらかなる港町
サイダーや空の真中の白熱す
遊船に寝て海原でありにけり
立葵散歩の犬が靴履いて
筆執つて残暑の折を云々す
草市に何のそれとも知れぬもの
秋扇の富士に疲れのありもする
新盆のひとりを知らぬまま帰す
秋草や自重に潰れゆくボート
川へゆく階段の藻も秋のそれ
水澄むや恩賜の園の狂ひ咲き
花冠てふ虚を捧げて秋の野は
とりかぶと阪神帽の子が囲む
野紺菊揺れては蜂の見せにけり
銀漢はひとつの花に始まるか

安里琉太
 銀化・群青同人。俳人協会会員。第十六回銀化新人賞、第二回俳句四季新人賞奨励賞受賞。


砂時計
安岡麻佑 

新涼や肺より空気漏れる音
秋の宵沼に獣の息づかひ
鳥兜静けし母の不在かな
学食の椀の欠けたり秋灯
叔父悼む木魚のやうな林檎かな
露草や鍵盤に指落ちる音
抜け殻をそつと潰せり小望月
天高し母校の欅切る報せ
コスモスや安楽椅子の浮き沈み
数式のリズム美し数珠子かな
後頭部に抉れるところ曼珠沙華
色鳥の順に返せる砂時計
蜩やへその緒仕舞ふ古箪笥
砂浜は骨の色して秋思かな
とろろ汁波璃重ねれば暗くなる

安岡麻佑
 1995年生まれ。第13、14回俳句甲子園出場。現在は関西俳句会ふらここで大阪を起点として活動中。


「わからない」から「予定調和」まで
とりとり

サイダーや空の真中の白熱す 安里琉太
 サイダーを飲むとき上を向くと必然的に見える夏の空。真っ白に見える強烈な夏空だったのですね。海辺の景色が広がります。

秋扇の富士に疲れのありもする 安里琉太
 自分の疲れを富士の疲れに転化しています。「ありもする」という遠回しな表現が面白いですね。

銀漢はひとつの花に始まるか 安里琉太
 意味わからないです。わからないけれども捨てがたい魅力があります。もうちょっと何とかなりません?

新涼や肺より空気漏れる音 安岡麻佑
 本当に肺から空気が漏れたら、俳句なんか作ってないで病院行かなくちゃ、ですが。知らぬ間に出るため息をこういう風に表現したのかなと読みました。新涼というすがすがしい季語に含まれるかすかな不安をうまく表現しています。

コスモスや安楽椅子の浮き沈み 安岡麻佑
 安楽椅子って意外と落ち着きが悪くてぼよんぼよんしますね。その浮き沈みとコスモスの風に揺れるさまがシンクロして、楽しい作品になりました。

蜩やへその緒仕舞ふ古箪笥 安岡麻佑
 「へその緒仕舞ふ古箪笥」ってけっこう予定調和なんですけど、「蜩」の声が降ってくるところが良かったです。

とりとり
 1957年生まれ。三重県在住女性。第1回選評大賞優秀賞。


時間
亜桜みかり

石灼けてつまびらかなる港町 安里琉太
 耐え難い暑さに灼けた「石」。小さなものから広がってゆく視界に「つまびらかなる」港町。細部までくっきりと見えていくことによって、港町の内包する人々の営みや思いが去来するようだ。さざ波に生まれる無数の光がより美しく眼前に広がる。

銀漢はひとつの花に始まるか 安里琉太
 この「ひとつの花」をどうとらえるかが読者にゆだねられている。金銀砂子を撒かれたのが銀漢だとすれば、「ひとつの花」が最初の砂子を空へ放ったと考えてもいいのだろう。「始まるか」との問いかけも句を親しいものにさせている。

天高し母校の欅切る報せ 安岡麻佑
 あの欅がなくなってしまう(切るは伐るの意味だろうか)。報されたのはこんなに爽やかな秋。欅の上には雲一つない青空が広がっているに違いないのに。「母校の欅」というだけで温度や湿度や匂いや声が蘇ってくる。欅の梢を揺らしていた風もきっと戸惑うのだろう。

色鳥の順に返せる砂時計 安岡麻佑
 「色鳥」が「順に」返していく「砂時計」と読んだ。
秋にやってくる美しい羽をもった小鳥たちは、滞在の時間をあらかじめ砂時計を返して決めているのだ。「順に」の措辞によって次々に現れる色鳥の表情や動き、鳥たちの返す個性ある砂時計の様子までも想像させてくれる。

亜桜みかり
 1961年俳都松山市生まれ。今治市在住。第2回、第7回、第8回選評大賞優秀賞受賞。第3回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞受賞。


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JAZZ句会 100回開催に寄せて


松山短期大学 学長 上杉 志朗(俳号 いしき)


 JAZZ句会は、その名も「蛇頭(ジャズ)」を俳号とされる本誌でもお馴染みの白方雅博氏と編集長のキム チャンヒ氏がW主宰されているが、この度100回目の開催となった。そこで改めて魅力について語ってみたい。
 まずは、JAZZ俳句とは、そもそもどんなものか。句会を素描するならば、主宰が経営するJAZZバー(と敢えて呼ぶ)「JAZZ BLEND」に集った老若男女が、巨大なJBLスピーカーとこだわりのアンプ、音響機器から流れてくる兼題のJAZZを前に、そっと立てかけられたLPレコードのジャケットに目を遣りながら、主宰自慢のカクテルJazz Tonicを片手に、ポットラックと言いながら毎回手製のつまみが大量に用意されているのを頂きながら談笑する。傍らには、その場で作句する現場主義の強者あり。はたまた、1ヶ月前の句会にて出された兼題LPを松山市内の某所で聴き込み、または、自宅でネットサーフィンして得た薀蓄を盛り込んだ自信作に最後の筆を入れる者あり、と普通(?)の句会の風景と変わらない。違いはといえば、兼題がJAZZに限定されていること。
 では、ナゼ「JAZZ」なのか、果たして、「俳句とJAZZ」の関係は成立するのか。客観的には、100回も続いているのだから、「俳句とJAZZ」の関係が成立することは実証されていて、無用の問いにも思えるのだが、少なくとも次のような視座から「俳句とJAZZ」の関係は「JAZZ俳句」というひとつのジャンルを構築できるほどに深いものなのではないかと考えている。
 ひとつめには、様式の美を挙げたい。俳句は言葉に律を与えることで、世界で最も短い短詩文学としての地位を揺るぎないものとしている。方やJAZZは「名演奏あって名曲なし」と言われる。JAZZは即興の芸術であり、同じメンバーで演奏した同じ曲名の曲でも二度と同じ演奏は存在しない。しかしながら、即興には様式が決められており、演奏家はその様式の中で技巧の限りを尽くす。俳句もJAZZも様式美において通底している。
 二つめには、テーマ性を挙げたい。俳句には兼題があり、句会の求心力をかたちづくる。そして句作者や読者が共有する季語を通じて共感がもたらされていく。同様に、JAZZにもテーマすなわち主題となる旋律がある。そして、演奏者や鑑賞者が共有するコード(和音)進行やリズム、拍子によって共感がもたらされる。
 三つめには、景色を挙げたい。JAZZライブはもちろんのこと、LPレコードの演奏を聴く行為自体には、時空を超える景色がある。多くのJAZZはアメリカ由来のもので、演奏者もまたそうである。さらには、LPレコードに残っている演奏は、50年の時を一気に飛び越えて、なお力強く聴く者を魅了する。まさにその場にいながら、吟行に出かけているようなものなのだ。だから、JAZZの景色は、俳人に句作のインスピレーションを与えるのだ。
 このように、JAZZは音楽という国際言語を用いて、様式美とテーマ性を持って紡がれており、俳句との取り合わせが甚だ宜しい。敢えて難点を探すとすれば、JAZZの様式美については、誰か先達について教わった方が取っ付き易い、ということだろうか。もちろん、難しいことは抜きにして、ただただ演奏を楽しみ、感性のままに創句することも、凝ったデザインのジャケットにインスパイアされて詠むことも(ジャケ句、という)できるのだが、JAZZ句会には、往年のJAZZプレイヤー(南亭骨太さん)や現役のJAZZドラマー(マミコンさん)もおられるので、直接お話を伺うに勝る贅沢はない。
 JAZZ句会100回開催を記念して日頃の感謝を捧げつつ、ひとつのジャンル「JAZZ俳句」のさらなる息長い継続と発展をお祈りするばかりである。


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Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳 朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ

No.39


Dew on leaf sparkles
Enjoy now and remember
Take a picture? No.

露の玉写真に撮れぬ光有り

(直訳)
葉の上に輝く露
見て楽しんで 覚えておこう
写真に撮る? いやいや


 We are entering a busy autumn season with concerts, teaching and travel. We have good appetites-------for excitement.

 忙しい秋のコンサートシーズンに突入、指導もあり、旅もあり、だ。血気盛んに、わくわくする準備万端だ!


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JAZZ俳句ターンテーブル


文 白方雅博(俳号 蛇頭)

第67話 ジャズドラマー


秋暁にフィリーのテクで帯解ける  マミコン

 沖縄の旅に続いて三途の川体験ツアーから生還したマミコンさんの復帰第1作JAZZ句。フィリーとは1950年代半ばからの数年間、黄金期のマイルス クインテットを彩ったドラマー、フィリー ジョー ジョーンズのことである。そのテクは斬新でご自身プロドラマーであるマミコンさん曰く「あのノリはフィリー独特のもの。誰も同じようには叩けないね」と。
 で、問題なのは「帯解ける」なのである。その艶具合とストーリー性はマミコンさんの心身健康度の尺度となる。「秋暁」は夏の暁に比して明けが遅い。つまりイメージ上のこととはいえ、その時間帯までテクニックを駆使する発想を抱けたことからマミコンさんの回復度はかなり高いと言える。完全復帰は「ける」を「かす」とした時と僕は判断する。

鶺鴒のやや淫らなるオフビート  夜市

 この際だから今回の一番人気にして艶系のこの句を連呼してみる。失言を戒めるため始まった我が句会の罰金制度、その一番の功績者である夜市さんの句にしてはややパンチに欠けはしないか?とも思う。実際に句場でも、いっそ「やや〜」を「なんと〜」にすればという意見も出た。オフビート(=アフタービート)は日本語で裏打ち、つまり1と3拍じゃなく偶数拍の2と4拍を強調するってことだから別に控えめな用語じゃない。だから思い切ってご本人に意見をぶつけてみた。
 「なるほどね。その方が潔いかもね。でも僕にはそんな勇気ありません。」夜市さんは実に奥ゆかしい人なのである。

迅雷のスティック銀河の全て打つ  猫正宗

 「ジャズドラマー」なんて大枠のテーマ設定にすれば、当然ながら詠まれた句の指すドラマーが誰なのかという論議となる。で、この句の華やかな感じはトニー・ウィリアムスだとマミコンさんと僕の意見は一致した。しかし、すかさずチャンヒさんの確信の一言が発せられた。「猫ちゃんは先日のコンサートに来てたので、このドラマーは小林陽一だと思うよ」と。そうだ、猫さんは去る8月3日、小林率いる「グッド フェローズ」の松山市総合福祉センターでの公演に秀逸JAZZ句吟詠を期待され、特別枠で招待されていたのだ。たまーに四文字熟語を連発したり、ファンタジーに走ったりもするが、本来猫さんは吟行派俳人なのである。間違いないだろう。

シンバルの拍子に街は黄落へ  チャンヒ

 この句こそダンディーな小林陽一へのあいさつ句。今回のコンサートで入手したアルバム「絆/小林陽一&グッド フェローズUSA&JAPAN」のジャケ句と言っても良いだろう。

ドラマーの色なき風を立ちおこす  弘子
ブラッシュのパルスは歌う花野原  蛇頭

 西海岸の爽やかな風を感じさせてくれるドラマーといえばシェリー・マンであるが、それは一側面。彼の「ペンギン」いや「ザ スリー&ザ トゥ」はトランペットとサックスの三人編成、そしてピアノとのデュオという誠に実験的な作品であるが、だからこそ変幻自在の秋風のように歌うシェリー マンを堪能できる名盤である。


Today's Turntable
『絆/小林陽一&グッド・フェローズUSA&JAPAN』 2012年/mky
『ザ・スリー&ザ・トゥ』 1954年/contemporary


「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の毎月第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は月曜日の21時〜22時。

次回のJAZZ句会は、10月16日(日)14時より。テーマは、小島のり子トリオのライヴにて「ジャズベース&ギター」をテーマに2句詠んで下さい。参加希望の方は、告知コーナーのライヴ情報を参照してください。


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ラクゴキゴ


第六十七話

文 らくさぶろう


『蛙茶番(かわずちゃばん) 』
よく寄席でもかけられる艶笑落語

 大店で開かれる町内の素人芝居で、「天竺徳兵衛」の「忍術ゆずり場」が出ることになった。
 大盗人の徳兵衛が、赤松満祐の幽霊から忍術の極意を伝授され、ドロドロドロ……とガマに化けるところを演じる。
 くじを引いて、そのガマ役になったのが伊勢屋の若だんな。ガマなんてやりたくないので仮病を使い出て来ない。
 世話役の番頭は頭を抱えるが、芝居が好きな丁稚の定吉にこづかいをやろうと約束をしてガマ役を承知させる。
 ほっとしていると、今度は舞台の袖でお客さんの騒ぎをしずめる役の半公が来ない。半公はバカ半と呼ばれているお調子者。なぜ来ないのかと丁稚に呼びにいかせると、先日旦那から「今度化物芝居の座頭に頼む」と言われたことに腹を立てていて、行かないという。
 番頭は丁稚に、半公が惚れている小間物屋のみい坊が「役者じゃなく舞台番をやるとこなんか、半さんらしくてかっこいい」と言っていると嘘をついて連れてこいと申しつける。
 それを聞いた半公は大喜びで、銭湯に行って身を清める。丁稚から「早く来ないとみいちゃんが帰ります。」と急かされ、あわてて湯から飛び出したところふんどしをし忘れてしまう。
 半公が到着し、芝居はやっと開幕。
 半公は舞台袖からみいちゃんを探すがいるはずもなく、仕方ないので自慢の緋縮編のふんどしだけでも見せようと、お客さんは騒いでなんかいないのに「しょしょっ、騒いじゃいけねえ!」と一人で大声を出す。
 あまりのうるささに一同は半公の方を見ると、半公の股間から妙なものが見えている。
 芝居は進み、いよいよ見せ場の忍術ゆずり場。
 しかしガマ役の定吉が出て来ない。
「おいおい、ガマはどうした?」「へっ、出られません。」「どうして?」「あそこで青大将がねらっています」

 落語で下ネタを扱うものを「艶笑落語」といいます。中にはそうとうどギツイのもあり、普段はなかなか高座にかける機会はありません。
 企画として「艶笑落語特集」という会はたまにあり、そこに行くお客はそれを知っててお金を払っているので文句も出ないでしょうが、普段の寄席でいきなりキツイ下ネタが出れば客席はどん引き……も考えられます。
 ただ、この「蛙茶番」は東京の寄席でひんぱんに登場します。
 最後に半公の立派な持ち物が出てくるのですが、それまでのストーリーや笑いで特に気にならないのでしょう。
 さて、今回のテーマ「べったら市」がなぜこの噺なのかということ。それは、十月十九日、東京日本橋の大伝馬町通に立ったべったら市から翌日の二十日の夷子講にかけて、大店ではこの噺のように素人芝居がさかんに行われていたということからです。
 ですから本来、この噺の季節は秋というわけなのですが、現在ではあまり季節感を出さず、年中高座にかけられています。
 「まあ、下ネタなんて……」と眉をひそめず、たまにはこんな噺で大口あけて笑うのもいいものですよ。
 今回は私の俳句ではなく、このコーナーにぴったりの一句を見つけましたので……。

末広の昼席を出てべったら市  宮下麗葉


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歳時記「無季」がバイブル


最終回

文 現代俳句協会会員  日暮屋 又郎


 次の週末は、久々に どフリーだ。というのも、いつもならイベントへの参加や家庭内外の用事に追われ、それがない時でも、妻がどこかへ行きたいと、車の運転を要求してくるが、年に数度、妻にある日直の当番だという。それをことさら嬉しいとも思わないのだが、そうなると、それはそれでわくわくしてくる。
 午前中は、心おきなく音楽を聴いた後、ギターを引きたおし、やがて昼はビールでピザを流し込む、ひと心地ついたらワインとチーズとクラッカー。それから日頃、無責任なほど作りっぱなしで、まるっきり整理できていない自分の俳句を、ジャンル別に整理する。

こうして終わってゆく人生で豆腐屋の朝のラッパ  二俣沈魚子

 そんな計画で当日を迎えると、朝食後、予定通り妻を送り出し、テレビの情報番組をぼんやりと見て、パソコンに向かい、メールのチェック。さらにニュースを開いて、特に海外サッカーのニュースは念入りに見る。そのうち、横道にそれはじめ、いわゆる[つり情報]に気を取られて、へー、そうなのか、ほー、その手があったかなど、あとになればどうでもいい余計なことに時間を費やしている。ほとんど身にならないばかばかしいことで午前の部、終了。
しかし腹は減る。ここは予定通り、ビールにワインでバラエティー番組に独りで参加しながら、少し物足りないので焼酎のオンザロック。クー最高だあー、昼酒はきくーっ。
 俳句の整理が気にかかるものの、心地よい睡魔に襲われて、うつらうつらからのすっかり爆睡。
 うーん。はたと気がつくと金色の西日にしばし放心。ほんとうに何もしないまま一日を無駄に過ごしたきまり悪さにさいなまれる。待てよ……。それほど罪悪感を持たなくてもよいのかもしれない。ただでさえ忙しい毎日だ、これくらいしでかしても良いのではなかろうか? でもあと少しで迎える定年後、毎日が日曜日となるとこれはちょいとまずいなあ……。
 おおごとだ! いくら どフリーとはいえ、妻との晩餐だけは作っておかねば。急ぎキッチンに立つと、速水もこみち気取りでフライパンに1mの上空からオリーブオイルをこれでもか状態にふりかける日暮屋であった。

夕日が射すだけの部屋で一生なにをしていた  和田光利


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クロヌリハイク


黒田マキ


9月3日。ロボット工場生まれだよ。 (2016年9月3日 朝日新聞より)

新居浜のいもだき進む箸と酒 (愛媛新聞より)

(こち亀)が連載を終了する秋 (愛媛新聞より)


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疑似俳句対局


 インターネットを利用しての「擬似俳句対局」という初めての試み。俳句対局の楽しさを少しでもお伝えできたらと思っています。

[今回のお題句]
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺  子規


[候補句]
昼火事に半鐘連打町火消  江口小春
 投句一番乗りがこの句でした。「に」以外はあえて漢字ばかりの仕立てが面白いですが、やや言葉が窮屈でしょうか。

秋蝶に道教へらる霊山寺  ひでやん
 「霊山寺」という固有名詞からは、鬱蒼と木々の茂る山道を連想します。暗い参道を導くような、小さな秋蝶が可憐。

野分して闇を早鐘過疎の里  山崎ぐずみ
 野分の夜の不穏な気配。「野分」「闇を鳴りわたる早鐘」というだけで、情景や場所はある程度連想できますので、過疎の里という設定まではいらないかも。

枝豆も爺の袋も振れば鳴る  鈴木牛後
 枝豆はさておき「爺の袋」とは? 私は小銭など入れた巾着袋のようなものを想像しましたが……。前の句の「鳴る」から、軽いタッチでさらりと詠まれた一句。

法学部名誉教授の秋扇  恋衣
 法学部の名誉教授―白髪の上品な、でも少し堅苦しくて融通のきかない紳士を連想しました。その名誉教授が使っている扇なら、仰げばほのかに白檀の香りなどしそうですね。

柿熟す狂死したりし画家の門  松尾千波矢
 熟した柿に狂死した画家。鮮烈な赤のイメージですね。意欲作ですが、やや材料が多いかなという印象です。

雪鳴りや昼月見上ぐ姉の息  内藤羊皐
 「見上ぐ」は「姉」にかかるのだと思いますが、
そうであれば連体形の「見上ぐる」にすべきでしょう。

仁和寺へ恋の初めの春日傘  香田なを
 「恋の初めの春日傘」の初々しさ、明るさ。仁和寺との取合せに意外性があって惹かれます。同じ作者の「白萩や法衣の風にひるがへり」も、爽やかな色彩感覚が魅力です。

法隆寺父の背を押す蝉しぐれ  紫野アネモネ
 蝉しぐれが父の背を押すという内容に読めますが、投句に添えられたコメントからすると作者が車椅子を押したということのよう。それを詠みたいなら言葉の整理が必要ですね。


[次回お題句]
鳴動が主旋律なり夏の山  天玲
 俳句対局の面白さのひとつに「発想の飛躍」があります。前の句と雰囲気が似ていても減点にはなりませんが、思いがけない展開を見せていただくと、読み手としては「おお〜こんな発想できたか!」と愉しくなろうというものです。
 「鳴動」と「主旋律」が意味的にややかぶる部分があって、そこは気になりますが、句柄の大きさに惹かれました。夏の山を吹く強い風が気持ち良く感じられます。
 他にも惹かれる句はあったのですが、投句が早かったこちらの句を選択。この「投句の早さ」が考慮されるという点は、俳句対局の特徴。次回の戦略としてご一考を。


[うっかりミスに注意!]
 「陰毛をくうて正気や扇風機」という投句がありました。個性的な句ですが、前の句の言葉は「くへば」です。
 俳句対局のルールの一つに「前の句の表記を変えるのは不可」があります。「くへば」→「くうて」は減点対象となってしまいます。この句の場合「陰毛をくへば」なら、ルール上OKでしたね。


美杉しげり
 第8回俳句界賞受賞。4年ほど前から小説も書き始め、短編「瑠璃」で第21回やまなし文学賞佳作。美杉しげりはその時からのペンネーム。

毎月25日頃に、投句フォームにてお題句を発表します。投句締切は毎月末日。
疑似俳句対局投句フォームアドレス http://marukobo.com/taikyoku/


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超初心者から中上級者まで楽しめる

100年投句計画



 「100年投句計画」は、読者の投句コーナーです。

 「選者三名による雑詠俳句計画」は、雑詠句の選句欄です。投句の中から先選者二名が、それぞれ天地人の句を選び、先選より漏れた句の中から、後選者が特選、並選を選んでいます。選者は、関悦史さん、阪西敦子さん、桜井教人さんです。

 「へたうま仙人」は、ヘタな句を褒め、巧い句を追放する、世の選句欄とは真逆のコーナーです。どんなにヘタな句でも褒めてくれるので、自分の俳句に自信のない方、何はともあれ褒めて欲しい方に最適(?)。担当は大塚迷路さんです。

 「自由律俳句計画」は自由律俳句の選句欄です。自由律俳句に挑戦することで、自由律俳句ならではの楽しさを味わうと共に、有季定型の俳句との思わぬ共通点も見えてきます。選者は、きむらけんじさん。

 「詰め俳句計画」は、マイマイさんによる、二つのフレーズに合う季語を投稿するコーナーです。季寄せや歳時記さえあれば、全くの俳句初心者でも挑戦できます。

(投句方法は「100年投句計画」コーナー末尾参照)


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選者三名による 雑詠俳句計画




先選者 桜井教人

 ポケモンGOの発想には本当に驚いた。今までのゲームと正反対のコンセプトがいくつもある。まずはシンプルさだ。ユーザーが老若男女に拡大した。次にアウトドア化だ。専門のカウンセリングを何度受けても外に出られなかった子が出られるようになったり、家族みんなで公園にでかけるようになったりした。他にも「地域再発見」「連帯感育成」「健康性」など、驚くべき発想があふれている。多くの問題点を抱えていることも確かだが、これだけの社会現象を起こしただけのことはある。言葉通りポケットモンスターだ。


手も足も風に触れたる盆踊  遊人
 何という平明さだろう。それでいて所作を的確に描いている。読んだときのバランス感覚、映像ともに盆踊から逸脱しない。
 中でも注目は「風」だ。自ら動作を起こして感じたのではなく、ふと吹いてきた風を感じたのだ。その風は様々なことを思い起こさせたに違いない。その心地よさは思い出に残る大切な人と同じだったのだ。そう、きっとその大切な人が風になり会いに来たのだ。盆踊はやさしく、温かく、そして少し切ない。


口開けて花火見てゐる間に戦  小市
 上五の惚けた表現から、下五の裏切りへの展開が見事。そしてその裏切り方が花火との対比になり、季語花火の本意をより浮かび上がらせている。世の中の全ての火薬が花火になることを願う。

積乱雲あしたもそこにありさうな  夜市
 雲のイメージを逆手にとった技ありの句。積乱雲ならあるかもと思ってしまう。平仮名、旧かなの「さうな」などの表記によって、句のイメージと詩の深みが増している。「あしたも」とさりげなく置いたところが実に上手い。

青金の走れば一本の蜥蜴  ポメロ親父
 句の作りが非常に非凡。色から始まり、動詞、数詞、季語へと続く語順。助詞「ば」の使い方、破調のリズム。全てを計算し、読み手の記憶の映像を一本化する。ほんの一瞬の映像は蜥蜴の光を美化する。

猫の毛を尻尾まで梳く終戦日  どかてい
 取り合わせとしてとても新鮮だった。何気ない日常のようだが、「尻尾まで」というところが終戦日なのだろう。押しつけがましくなく、平和な日常だからこそ終戦日が生きる。読み手を信じている句だ。

身代わりに鬼に喰はるる石榴かな  風海桐
 ファンタジーの句は評価が分かれるが、この句は大好きだ。石榴の色合い、硬質感がとても生きている。メタファーとしても機能している。だから掛け値無しにファンタジーの句として楽しめる。たった十七音の宇宙の広さを実感させられた。


新涼や安否気遣う便りくる  迂叟
サイダーの喉ごし人生変わるほど  藍人
轢かれたる蝉は蝉なり蝉のまま  幸
親父似の頑固一徹唐辛子  藍植生
鵙の贄記憶はなくしつつ生きる  ほろよい
松手入れ女庭師の左利き  ゆりかもめ
返信のできない手紙来て帰燕  台所のキフジン
文鳥の肩に遊べる星月夜  彩楓
海峡のフェリーについてくる蜻蛉  樫の木
馬上より挨拶のあり今朝の秋  哲白


先選者 阪西敦子

 8・11、はじめての山の日は、1週間弱の夏休みの初日というだけの日になるはずだった。暑さも極まる午後一時に、結社の姉弟子が訪ねて来た、靴下と首に巻くタオルを持参で。次々に問われるままに、必要か必要ではないかを決め、束ねた本や紙をマンションの階下のリサイクル品置き場へ台車で運ぶ。十三階立てのマンションの紙類置き場がほぼ埋まったころ、姉弟子は帰っていった。片付けの頂上がちらりと見えたそんな或る日。


口開けて花火見てゐる間に戦  小市
 作法があるわけではない、効能もない、それでも花火は確かに口を開けて見てしまうものかもしれない。圧倒的な光と音が、高さが、繰り返す時間がそうさせるのだろう。その間に戦が。どういった景を想定するだろうか。場所は描かれていない、花火の真下の喧嘩とも、花火に気を取られている裏手の合戦とも、あるいはまったく目に見えていないどこかとも。花火は人をおろそかにしてしまう。


銀漢の流れに任せ会ひに行く  ヤッチー
 天の川に沿ってきたら、着いちゃったよ。甘い、甘すぎる。しかし、すこし涼しくなってきたこんな夜には、そのくらいのことも受け入れられそうだ。任せているのは、動き出した自分の気持ちかもしれない。

篝火に濡れている鵜が目の高さ  もね
 篝火に照らされる濡れた鵜が、正しいのだろう。けれど、知覚はそんなにいつもただしいわけじゃない。目の高さだって、あやしいもの。鵜飼の迫力が鵜を近くに目線の高さに思わせる。錯覚はときに真実。

鵙の贄記憶はなくしつつ生きる  ほろよい
 忘却は生きるために与えられた防御装置であるともいう。悲しいことはもちろん、嬉しかったことでさえ、あとになれば人を傷つけずにはいない。贄の記憶はどこへいったのだろう、その姿に留まっていたらと思うことは、おそろしい。

朝曇り銀輪かろく砂利を撥ね  小雪
 今日も暑くなると、体はすこし警戒をはじめている。そんな風に漕ぐ自転車が砂利を踏んで弾く。ほんのちいさな思わぬことで、ぼんやりした朝曇りが途端に姿を現し始める。

電話切れば秋刀魚炎をあげており  風さら紗
 電話で長話をして、戻れば秋刀魚が焦げていたと、たやすく因果は想像できるけれど、なんだろう、その電話をきったことと、秋刀魚が焦げていることの、すこし乱暴な連結、わずかな落差が楽しい。この因果は違っている場合だってあるのだ。


落蝉の再び飛びて消えにけり  小市
通り雨待つ黒犬と白百合と  誉茂子
空蝉のキャラバン月へ旅立ちぬ  夜市
夾竹桃の花疎みては愛しては  さより
語り合う小さき影あり糸とんぼ  一走人
秋晴や子等を集めしホイッスル  ゆりかもめ
八月の朝黒猫の悠悠と  ぴいす
文鳥の肩に遊べり星月夜  彩楓
風鈴の中よりわんと音すなり  人日子
手も足も風に触れたる盆踊り  遊人


後選者 関悦史

 俳句甲子園の審査で松山に行ってきました。暑いとさんざん脅かされていた商店街での審査は、後ろの扇風機のおかげでさほどのこともなし(帰りは台風直撃で十二時間の大旅行になってしまいましたが)。今年の個人最優秀賞〈豚が鳴く卒業の日の砂利踏めば〉(松山中央高等学校・池内嵩人)はいい句が採れましたが、来年以降豚の句ばかりになったらそれが採られるとは限らない。選の基準はどこでも時々刻々移り変わっているのです。

特選句
書き取りのドリルの余白けらつつき  一走人
 「けらつつき」は啄木鳥の異称で秋の季語。この句、一物仕立てで通念の中に固まってしまう投句が多い中で、取り合わせで作っているだけでも目を引きます。木を突く音がドリルに「余白」があるので響きます。

八月の牙籌に昏き光りあり  内藤羊皐
 「牙籌」は算盤のことらしい。それ一点しか描いていなくても「昏き光り」で、八月の強い日差しと、古色のついた日本家屋の中の対比や、その中での暮らしが感じられます。この場合、「算盤」では駄目。

その人の小鳥を呼べば小鳥来る  樫の木
 人格的に至純な、一種の超能力者を思わせる句で、無理のない語調が田中裕明の〈小鳥来るここにしづかな場所がある〉なども連想させます。「その人」は語り手と同じ人間というよりは、季語・自然の側に近そうです。

並選句
蓑虫や退屈だから話そうか  dolce
あと十日凌げば見える涼新た  迂叟
能面のやさしき顔や日雷  出楽久眞
路地裏に迷うやそこらぢゅう辣韮  藍人
陽を水をたつぷり食ふて胡瓜生る  誉茂子
湯に漬くる母はにはかに踊り唄  凡鑽
秋が来た嬰の手足のぴんちょこと  幸
秋空とランチタイムの千舟町  暮井戸
蜻蛉生る己が矛盾を解き放つ  桂奈
干からびて直なもの無し唐辛子  藍植生
一二三番重なりて花火かな  富士山
忘れたる電子レンヂにもずのにえ  優空
大猛暑墓地の蝋燭ぐにゃり折れ  かのん
ランドセル忘れバッタと登校す  さより
桐一葉「お言葉」続く十一分  山崎ぐずみ
百日紅群れ咲く紅の枝矯める  南亭骨太
境界を行つたり来たり秋の蝶  のり茶づけ
いつのまにべその消えをり流星雨  久我恒子
秋燕の渦や臥龍の岩辺り  もね
カラビナの爪の欠損夏の果  ほろよい
三つ巴して台風の到来す  和音
夜濯ぎやふと口遊ぶジョンレノン  小雪
急勾配に手摺とロープ墓参り  ぴいす
秋立てり飛行機雲のほどけだす  おせろ
禿びた石鹸の割れさうな夏の果  ポメロ親父
蛍やあの人はまだ帰らぬか  喜多輝女
粛々と蕎麦屋の裏手鵙の贄  緑の手
海女の背に音無く満ちる大夕焼け  風さら紗
片陰や陣取る如く猫五匹  健次郎
淋しきは八月の海深き藍  台所のキフジン
秋茜坂の上なる天主堂  彩楓
境内の昼の広さよ梅筵  松ぼっくり
秋声を混ぜてコーヒータイムかな  どかてい
銀漢の雫のごとし地球かな  大阪野旅人
川底を白く眩しく果てる夏  青柘榴
弓なりの列島かわす野分かな  八木ふみ
奇岩へとオシンコシンの滝しぶき  あおい
錆鮎の流れに沈む天寿かな  風海桐
宅急便ソーメン食えば兄の笑み  みちこ
鎮魂の焔のうねり原爆忌  哲白
盆踊ダンサー業は今夜のみ  アンリルカ
灸花しずかに静かに愛でましょう  エノコロちゃん
カーテンをゆらゆらゆらす夏の風  カシオペア
流星の一つ消えゆく宇宙時間  ミセスコナン
立秋の八日目の蝉遠き空  まんぷく
重さうな鯉の浮きたる秋の昼  遊人
ちょいとばかし弦の弛んだ松虫よ  ひでやん


関悦史(せきえつし)
 1969年茨城県生。「豈」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。共著『新撰21』『超新撰21』『俳コレ』(以上、邑書林)、『虚子に学ぶ俳句365日』『子規に学ぶ俳句365日』(以上、草思社)他。

阪西敦子(さかにしあつこ)
 1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。

桜井教人(さくらいきょうと)
 1958年愛媛県生まれ。愛媛県公立小学校教員。いつき組。子規顕彰松山市小中高校生俳句大会選者。第2回大人のための句集コンテスト優秀賞。第24回・29回俳壇賞候補。


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へたうま仙人


文 大塚迷路


 十月ぢゃ。神無月ぢゃ。実りの秋、食欲の秋ぢゃ。この時に食わずしていつ食うのぢゃ。あんなものもこんなものも、心置きなく食いまくってくだされ。満腹で心満たされているときは、人と争おうなどと考えもしないはずぢゃ。俳句と満腹が世界を救うのぢゃ。
 今月も、飢えに絶え絶えの句から満腹すぎて動けんようになった句まで、たんまりと集まってきたぞ。深まる秋と一緒に満喫していただければうれしいぞ。

出口から不法侵入銀やんま  小木さん
先頭はオスラブラブの銀やんま  小木さん
 入り口からではなく出口から、というのが屈折の始まりぢゃ。極め付きの屈折が「銀やんま」ぢゃ。聞くところによると銀やんまは鬼やんまとは違い単独で行動するそうぢゃ。いかにも俳人ぽく屈折しておるではないか。句帳を持っていれば不法侵入もやむなし、そんな俳人もまだ生息しておるではないか?
 最近はメスのあとをついていったほうが楽と決め込んどるオスが多いような気がせんでもないが、実際楽ぢゃのう。何も考えんでええ。でも、ラブラブの時くらい先頭に立って突き進みたいものぢゃのう。いや、片腹、ぢゃ無い、そう耳が痛いのう。

抽斗を掻き回したりそぞろ寒  たあさん
 マルサかはたまたご夫人の抜き打ち検査か、それとも人には見せられないもの探しか、どちらにせよ、くわばらくわばらぢゃ。ひところ自分探しの旅が流行ったが、自分探されの抽斗掻き回しだけはご遠慮願いたいものぢゃのう。そぞろ寒どころか本格的寒になり兼ねんけんのう。「たり」の解釈しだいで幾重もの読み方が出来るのが強みとなる可能性を秘めているかもしれんぞ。
夏終わり抜け歯に埋歯尿ちょろり  KIYOAKI FILM
我が秋は雀に微笑女性にエヘ  KIYOAKI FILM
 夏という奴は燃えるような夢と期待を持たせて、後でしらんぷりする罪な季節ぢゃな。夏が終わっても、秋へ引き続きの恋などまず皆無で、ほとんどが心の残務処理ぢゃ。抜けた心は何かで埋めんといけんし、パンツも履き替えんといけんし、なにかと大変ぢゃ。察するぞ。
 芭蕉の「この秋は……」と双璧をなす句ぢゃ。「エヘ」があればもう何も要らん。これが全てを物語っておる。秋が終われば嗚呼またあの冬が来る。察するぞ。

櫓下踊る手を止め久しぶり  森子
 盆踊りは、一気に同窓会とも同郷会ともなるし、なかなか奥の深い催しものぢゃのう。踊りの最中は何も考えず自分と対峙できる貴重な時間ぢゃ。踊りの手を止め、積もる話をするのもまた貴重な時間ぢゃ。踊りの輪の中心の櫓は、そんな人や時間を見守り続けておるのぢゃ。来年は久しぶりに故郷で踊ろうかのう。

実ならず死告げられたし落ち栗や  真歩
朝顔のつるはずしつつ種とりて  真歩
 毬栗が実がならず死を告げられたのならよくわかるが、落ち栗はすでに実になって成っているはずぢゃけん、わしの灰色の脳ではちょっとばかり理解できんところがあるが、新興俳句系の流れが匂うて来て好きな雰囲気ぢゃ。タ行のリフレインが、朝顔の種の硬さを連想させるという高度なテクニックに痺れるぞ。丁寧につるをはずす作者の優しさが沁みいるぞ。

夏の風PL一発ホームラン  ケンケン
ハンカチのイニシャルKY苦笑い  ケンケン
 いつかは終りが来るということをわからないまま、僕たちは一塁を駆け抜けて行ったね。一回表のホームランはあったけど、九回裏の逆転ホームランは打てないまま三年間の夏は終わっていた。あいつが君を盗塁した日、僕は安全な守備位置からホームランの軌道をただ見送っていた。次の打席も四球を選べばいいさ、なんて思いながらね。
一発のホームランでは同点止り。逆転には君というランナーが必要だったんだ。気づくのが遅いよね。残ったのはこのハンカチだけさ。イニシャルの片方がかわった君をふんわり包み、一点が遠かったあの日のホームベースに置くよ。

脳みそは夏バテそれとも認知症  柊つばき
燃料のきれた老女に日雷  柊つばき
 夏バテでも認知症でもないぞ。それは冬眠のお友達の夏眠ぢゃ。来たるべき本格的秋のためにちょっとお休みしておるだけなのぢゃ。夏眠は生き物にとって必要なのぢゃ。そのおかげで晩秋ともなれば全開絶好調ぢゃ。もうちょっとの辛抱ぢゃ。
 日雷の不穏さと老女の組み合わせがニクイのう。爽やかな自虐は人生に幅を持たせる。人はこれを「達観」と呼んでいるかもしれないかもしれん。なあに、燃料が切れても糸が切れてなかったらしばらくは大丈夫ぢゃ。老女の明日は明るい日と書くのぢゃ。老女の明後日は明るい後の日と書くのぢゃ。老女の明後日はなにかと大変なのぢゃ。これでいいのぢゃ。

複眼とわかる近さに鬼山間  ちろりん
立秋と嘘つく風の沸き具合  ちろりん
 そこまで近寄っていただければ鬼山間も本望ぢゃ。鬼山間に代わって礼を言うぞ。複眼に映った作者の顔はきっと極上の笑顔だったに違いないぞ。万の笑顔を複眼に見た鬼山間は幸せ者ぢゃ。立秋とは名のみで、俳人以外はさぞかし暑いことぢゃろうな。俳人魂で必死に秋の気配を感じようとはするが、さすがに無理な時は無理ぢゃ。素直に「立秋のうそつき」と言っても誰も怒らんぞ。風が沸くほど世間は炎えたぎっておるのぢゃ。

乗り継ぎに競る跨線橋秋暑し  元旦
甲高き声捨て去るやつくつくし  元旦
 乗り継ぎでの跨線橋の昇り降りはキツイのう。わしは杖に乗るけん大丈夫ぢゃが、乗り継ぎの時間が無いときなど、体の不自由な人たちやお年寄りはどうするんぢゃろうか心配になるのう。目的地に早く着くのはいいが、切り捨てられたら本末転倒ぢゃ。行き場の無い「秋暑し」が更に暑く感じるぞ。さすがのつくつくしも、季節が終わろうとする頃はトーンが落ちるのう。自然に落ちてゆく声を自らが「声捨て去」っているのだと発想を逆転させることによって、こうしてつくつくしにより近づいていくのぢゃなあ。人の目線は時として邪魔ぢゃが、人としての目線は持っていても損はないかもしれんのう。

白魚のごと月もひとり吾も独り  みやこまる
硯洗ふ西行の歌手習ひて  みやこまる
 これを季重りと言ってはセンスの欠片もないぞ。万人に愛でらるる月も本当は孤独なのだという月の本質を突いた表現は天晴れぢゃ。吾も独りで孤独だが、月と独りを分かち合う心が孤独の本来の姿なのぢゃ。孤独を突き詰めていったら気が楽になるのぢゃ。西行に関しては諸々の感情があるかとは思うが、硯を洗ふ時の静寂と満たされた心の底は、他人には伺い知れん境地かもしれんのう。豊かな時間をゆっくりと反芻してくだされ。

日盛や刺殺紙面の上にパン  坊太郎
ピョンヤンに父の八月十五日  坊太郎
 「刺殺紙面」というリズムが「四角四面」「四面楚歌」「孤立無援」と連なり、深層のバスドラムを叩くのう。生きるためのパンは、どんな場所でもどんな状況でも必要ぢゃ。日盛の中で乾きゆくパンは、紙面など関係なく確かにそこに存在しておる。名詞だけの織り成す存在感ぢゃ。
 句に地名を入れるのには、勇気と蛮勇が結構必要ぢゃが「ピョンヤン」に全てを託した作者の思い入れが痛快ぢゃのう。この句も名詞と助詞の組み合わせのみで世界を成立させておるが、「父の」が鎹(かすがい)の役割をはたして、前後の言葉を強烈に引きつけておる。
 感心はするにはするが、こんな句はへたうまの世界には無用の長物ぢゃ。こんな句は、「子は鎹?道理でおいらの頭を玄翁で叩こうとした訳だ」という下げをつけて、高座の出囃子の太鼓の中へ追放!!

 おっと、今月もなんだかんだと追放者を出してしもうた。地下の空洞のごとく反省ぢゃ。
 しかしなあになあに、反省があってこそ、明るい日と書くのぢゃ。盛り土の必要の無い俳句はこの時間にも世界を救っておる。はずぢゃ。
 ぢゃが、くれぐれも油断召されるなよ。


へたうま仙人
年齢 卑弥呼がおっぱいを飲んでいた頃、ワシは青春真っ只中ぢゃった。
好きなもの 霞のシャーベット(PM2.5抜き)
嫌いなもの 上手な俳句
将来の夢 大器晩成


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自由律俳句計画


選者 きむらけんじ


 久々に悪酔いしたけど、若い頃のように吐いて最後に緑の胃液まで吐いて……というほどの事はもうない。酒乱の友人の減少、酒乱の機会の減少、酒飲むテンションの低下……のおかげかもしれない。早い話がジジイ化してきたということか。それでよいような、ちょっと寂しいような。「……秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり(牧水)」。しづかに飲んでオモシロいのかなあ……。


いいから外せ蝉から電池を  凡鑚
 単純に玩具の蝉から電池を外す……と読めばそのままで句にならない。おそらく真夏のくそ暑い最中、蝉があたり構わずジャンジャン鳴きまくっているのだろう。人間、虫の居所の悪い日もある。そんなことお構いなし、ひと夏の命を惜しむかのように鳴きまくる蝉への苛立ちも頂点に達すれば、願望とも怒りともわからぬような狂気の一言が出てもおかしくはない。七日ほどで電池は切れますが……発想が面白い。


行く秋の隅っこに居る  暮井戸
 豊穣の秋である一方、「行く秋」は愁思=もの思う秋でもあります。そんな季節の感覚あるいは佇まいと人間との立ち位置を上手に言い表しています。隅っこに居て物語になるのは春夏冬ではなく秋、ということでしょう。

批判ばかりしている蟷螂の鎌  一走人
 「蟷螂の斧」は、自分の力を省みないはかない抵抗のたとえ。この諺がベースにあるのでしょう。ちょっとストレート過ぎるきらいはありますが、「批判ばかりしている」という比喩が、現実社会を見据えていて力強い。

炎昼にただ神木の蔭  ほろよい
 「炎昼」 「神木」 「蔭」という三つの要素の無駄のない調和。ただの昼ではない「炎昼」、ただの木ではない「神木」、ただの影ではない「蔭」。ものがすべて静止したような神社の境内が浮かんできます。

朝、いきるとは眼あけること  優空
 毎夜人は眠りにつくわけですが、考えてみれば生きて次の日をむかえる保証はどこにもない。目覚めていちいち生きていると感じる人はいないだろうけど、眼を開けることは生きている証に間違いない。

地球儀の天道虫シルクロードを過ぎたところ  風さら紗
 なにより地球儀のシルクロードに天道虫がいるという構図がよい。人にとっていささか夢のある天道虫と遥かなるシルクロードの取り合わせが秀逸。「過ぎたところ」は「行くところ」のほうがリズムがよいと思いますが。


次々と盆栽を渡り来て蛇穴に  迂叟
集団嫌いの赤とんぼ  小木さん
蚯蚓鳴く0.01秒とか大逆転とか  小雪
あと半円足りぬ秋の虹  ゆりかもめ
かくれてゐるわけじやない紫蘇塀の影の中  緑の手
PL花火のような人生かもしれぬ  ケンケン
寺町の石畳を曲がれば秋  彩楓
ドア開けば熊蝉の駅長  松ぼっくり
そうめん流しの先頭の不自由さ  青柘榴
代代の小鉢へ菊膾  恋衣

並選
種なし葡萄ほおばる口とがらせて  レモングラス
蝉の亡骸軽い  小市
最終回まはるまはるまはるタオルや甲子園  出楽久眞
毒のない茸のようなヒト  藍人
頭のてっぺん秋が来た  幸
炎天の漆黒の陰に休む  多満
月を見ながら目薬を差す  ヤッチー
秋の父は笑つてゐるやうだ  KIYOAKI FILM
プール監視の母親全員半眼  さより
汗疹癒えぬ股座秋暑し  山崎ぐずみ
酒臭い夜の長い永い  南亭骨太
昼の厨の虫時雨  のり茶づけ
蜩が追いかけて来る桟橋  もね
寝室にいて日焼けする  和音
殿様飛蝗だがまだ翅が無い  ポメロ親父
毎日が身の置き所なき猛暑の日  喜多輝女
布袋の大仏涙袋に汗  元旦
耳鳴りを聴こうとして秋の声  みやこまる
霧の蓋を探して夜のクレーン車  内藤羊皐
胡桃割るように生前退位さる  台所のキフジン
猫の耳が動かない安堵  大阪野旅人
膿みきった熟柿を啜る  樫の木
仁淀ブルーの淵獣の骨白し  あおい
蝉時雨の境内に人柱の記述  坊太郎
恐い物知らずの裸  人日子
あは酷暑草刈り機の音する狂気  ちろりん
秋の蚊を叩くゴメン  エノコロちゃん
南瓜固し煮て揚て旨し旨し  カシオペア
始まりは8月15日  ミセスコナン
強制起立して遠花火  まんぷく

選外(自由律での再挑戦求む)
網代笠追ひ散るひと葉山頭火  藍植生
石積みて空に馬鈴薯遊子の里  藍植生
山梨は三十九度と赤蜻蛉  台所のキフジン


きむらけんじ
 1948年生まれ。第一回尾崎放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律・地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技・妄想、泥酔。


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詰め俳句計画


出題 文 マイマイ


今月の問題
次の(  )の中に共通する秋の季語を入れて下さい。

塀を行く猫は銀色(  )
(  )とは鉄琴の音の澄む


塀を行く猫は銀色麒麟草
麒麟草とは鉄琴の音の澄む
 ちろりんさん。残念ながら夏の季語でした。級外。ちなみに「アキノキリンソウ」というのは別種。久我恒子さんは凄まじき。私の手持ちの歳時記やインターネットでは「冷まじ」で載っていましたが、この字での記載はありませんでした。級外。なお連体形に活用していますが、この種の季語アレンジも歳時記に記載のない限り減点の対象となりますのでご注意召されませ。KIYOAKI FILMさんは秋鏡。これも歳時記への記載は見つけられませんでした。季語「秋」のアレンジとして捌きます。前句、実際の鏡なのか空を見立てたものなのか。後句、ちょっと詩的。アレンジとしては強引なので7級(-3)。

塀を行く猫は銀色初秋刀魚
初秋刀魚とは鉄琴の音の澄む
 青柘榴さん。秋刀魚って人がどんなに詩的な世界に遊ぼうと思っていても現実に引き戻す力があるということを思い知りましたよ。前句、猫は銀色とか言っているのに焼秋刀魚のにおいしか残りませんもの。後句も秋刀魚の姿は確かに美しいけれどあの生臭さは……。どうしても鉄琴と共存できると思えない。6級。迂叟さんは鉦叩。前句は夜の景として聴覚も詠み込まれていていい。後句、鉦叩の声はそんな感じじゃないような……。4級。

塀を行く猫は銀色菊の花
菊の花とは鉄琴の音の澄む
 ほろよいさん。前句、きれいな光景だが、視線が上に行ったり下に行ったり忙しい。後句、鉄琴の澄んだ音が菊の花と合うかどうか……。4級。遊人さんは菊日和。日和とすることで、前句の視線の問題は解消されている。3級。レモングラスさんは露の玉。後句、露の玉が落ちて弾けるところや太陽光を屈折させているところを想像して、素晴らしい隠喩となっていると思った。前句はやはり視線が揺らぐ。同じく3級。カシオペアさんは鰯雲。前句、猫の先の雲をしっかり描写している。後句もいいのだが、澄み切った鉄琴の音に「鰯」がやや雑味のようにも感じる。同じく3級。坊太郎さんは稲光。前句、劇画調でかっこいい。後句、鉄琴よりももっと鋭いものが合う気がした。同じく3級。幸さんは涼新た。前後句とも爽やかでよい。ただ後句の澄んだイメージは晩秋の方が合うと個人的には思う。同じく3級。みやこまるさんの冬隣はその点で好み。2級。優空さん、ひでやんさんは流れ星。前句、流星が猫を銀色にしているようなファンタジーの世界にいざなってくれる。後句も音のない流星を音で表現するとこんな感じかと納得した。1級。一走人さん、ゆりかもめさん、人日子さんは天高し。前後句とも気持ちがいい。同じく1級。台所のキフジンさんは桐一葉。この季語の持つ孤独感のようなものが前後句ともに合っている。同じく1級。

塀を行く猫は銀色秋彼岸
秋彼岸とは鉄琴の音の澄む
 ポメロ親父さん。ここから「秋」のつく季語の投稿をまとめてみました。彼岸だけに前句の猫はあの世とのつながりがあるのだろうか。後句も現世と来世の境目を思うとこんな音が聞こえてくるのだろうか。ただ現実の秋彼岸の彼岸花が咲いて墓を掃除している景を思い浮かべるとあまり合わない気がした。4級。れんげ畑さんは秋の色。前句、色の繰り返しで語呂が良いが、収まってしまってやや広がりに欠けるか。後句は視覚と聴覚を無理やりつなげるひねり技を良しとするかどうか……。同じく4級。河原撫子さんは秋の声。これは逆に後句が収まっていて、前句はちょっと唐突に聴覚に飛ぶ感じ。同じく4級。内藤羊皐さんは秋時雨。前句は寂しさを感じさせる景。後句の鉄琴に雨の音は少し邪魔か。同じく4級。さよりさんは秋の昼。dolceさんは秋日和。前句、悪くないがややおとなしい。後句は秋の静かで澄み切った感じに鉄琴が良く響く。どちらも3級。出楽久眞さん、誉茂子さん、どかていさんは秋麗。小木さんは秋うらら。前句、長閑な情景。後句は春の「麗らか」だったら鉄琴とは合わない気がするが、秋の麗らかでありながらどこか澄んだ空気がフレーズと合う気がした。2級。エノコロちゃんは今朝の秋。これは前後句とも気持ちがいい。先に書いたように個人的には後句は晩秋のイメージなのだが、この今日から秋というきっぱりした感じが句に似合っている。1級。たあさんは秋深む。前句、しみじみとしている。後句の「む」の脚韻が面白い。同じく1級。ヤッチーさんは秋乾く。前句の猫はアウトサイダーっぽい。後句乾いていてこその澄み具合。同じく1級。

塀を行く猫は銀色星月夜
星月夜とは鉄琴の音の澄む
 小市さん、藍人さん、凡鑽さん、ひさのさん、桂奈さん、鈴木牛後さん、のり茶づけさん、喜多輝女さん、緑の手さん、元旦さん、杉山久子さん、彩楓さん、大阪野旅人さん、片野瑞木さん、樫の木さん、矢野リンドさん、恋衣さん。星月夜とはいわゆる月夜ではなく、満天の星が輝いてその星明りがまるで月ほどに明るいことをいう。前句の銀色が幻想的。後句の鉄琴はたくさんの音が次々鳴っているような感じがした。初段。

塀を行く猫は銀色秋気澄む
秋気澄むとは鉄琴の音の澄む
 おせろさん、江口小春さん。前句の猫にきりりとした品を感じる。後句、「澄む」という言葉を繰り返すことで「秋気」と「鉄琴の音」を大胆に括ってみせた。お見事! 二段。


今月の正解
塀を行く猫は銀色十三夜
十三夜とは鉄琴の音の澄む
 正解者なし。前句は月光によって猫の美しさが際立つ。後句、後の月の静謐なイメージが鉄琴の音そのものとして響く。こちらは単音のイメージだろうか。初段。ところで笹百合さん。アラビア数字で13夜って! 嗚呼痛恨の表記ミス。級外。幻の正解でした。


12月号掲載分の問題(10月20日締切)
次の(  )の中に共通する冬の季語を入れて下さい。

駅地下の書店明るし(  )
(  )こと空壜を捨てること


マイマイ
 2003年11月頃よりラジオに投句を始める。割と生活派俳人だったが、最近は?? 第1回、第4回大人コン優秀賞受賞。2013年句集シングル『翼竜系統樹』上梓。将棋推定初段。棋友募集中。宇宙と生命を題材に詠んだ句集『宇宙開闢以降』マルコボオンラインショップにて発売中。


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100年投句計画 投句方法




 件名を「100年投句計画」とし、投句先(複数可) 俳号(なければ本名の名前のみ) 本名 電話番号 住所を明記してお送り下さい。投句はそれぞれ二句まで、詰め俳句は季語を一つのみお送り下さい。一つのEメールまたは一枚のハガキに各コーナーの投句をまとめて送っていただいても構いません。ただし、「選者三名による雑詠俳句計画」と「へたうま仙人」は、選択制(どちらか一方のみ投句)となります。また「雑詠俳句計画」は欄へ寄せられた二句を各選者が選ぶ形式です。各選者に個別に投句を行うのではない点にご注意下さい。

それぞれ締切は、10月20日(木)

投稿ページ http://marukobo.com/toukou/
投稿アドレス magazine@marukobo.com
はがき FAXでも投句できます。

さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。


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短歌の窓


短歌投稿ページ
選者 短歌誌『未来』同人 渡部光一郎


特選
余所者の私の上を旋回す鳥はここらの鳥なんだろか  暮井戸
 面白い着想の歌である。本来「余所者」である「私」。その上を鳥が飛んでいるのだが、普通なら鳥は「ここら」の鳥として「私」を「余所者」扱いするところである。ところがこの場合は「私」がその鳥に「ここら」の者かどうかについての疑問を投げかけている。しぶとい知性の発露、とでもいうべきか。なお「旋回す」は「旋回する」と、連体形でもよいかもしれない。

並選
眼帯の外され眩し検査室フォトカレンダーに小さき大安  柝の音
 大安の文字がちゃんと見えた。うれしいことである。「眩し」は「眩しい」としたほうがよい。

車窓より眺むる夏の日本海どこでもドアがなくてよかった  出楽久眞
 下句に全体重を乗せて勝負してきた歌。確かに、どこでもドアはないほうがよいものの一つだと思う。「眺むる」を「眺める」と、口語で統一したほうがよいかもしれない。

大花火十階の窓をカーテンで隣と分かつ退院前夜  マカロン星人
 「隣と分かつ」がわかりにくいかもしれないが、情景ははっきりとうかぶ。結句できちんとおさめた。

コメント
掌の中の胡桃の窪み柔らかく鳴れば一人の秋にくるまる  時計子
 「胡桃の窪み」「柔らかく鳴る」といった語のつながり方に、読み手が混乱する可能性がある。「一人の秋」に着地させるために、上の句をもう少し整理する必要があるかもしれない。

山羊の眸は横に細くて世の中をその隙間よりじつと覗きぬ  鈴木牛後
 そういえばあの眼はちょっと不気味。

菓子折りの一つで貰ひ来しネコは十五となりてヒト語を解す  久我恒子
 ネコが増えて十五匹になったのかと一瞬思ったが、そうではなくて長生きのことだった。いずれヒト語で話しはじめるかもしれない。

離婚して十年振りのちらし寿司あの御転婆にいつか伝承  殻嵩はるお
 もう少し、場面の設定をはっきりさせるとよいかと。

上り線ホームに並ぶ人影を次々越える黒蝶の影  樫の木
 丁寧に写しとっているが、やや平板になっているため、もう少し感動のまとを絞りこむとよい。

女医の手に面を撫でられ夏鳥はカクカク歩くカクカク歩く  KIYOAKI FILM
 読み手に何を伝えたいのか、を意識して書くとよい。

トントンと階段を駆け上がるよな後姿をここで見てるよ  桂奈
 読んだ後、実際には「トントンと階段を駆け上が」らずにどうしたのか、が分からないので一考を。。

 皆さまこんにちは。ずいぶん秋らしくなってまいりました。さて、短歌をおはじめになった方におすすめすることが少しだけあります。ひとつは、好きな歌人・好きな歌集を見つけることです。何となくこの歌、好きだなあ、と思ったら、ひとまずその作者の真似をして作ってみてください。それでずいぶん違うはずです。ではまたお元気で!


自作の短歌(2首まで)、下記までお送り下さい。締切は毎月20日。
専用フォーム http://marukobo.com/tanka/
専用Email tanka@marukobo.com


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自作の俳句を英語に訳そう!

百人百様 E-haiku



評:菅紀子


1.
Summer of bird
yellow hat
love love song

【原句】良く晴れて黄色嘴水遊び KIYOAKI FILM

bright and clear
playing in the water
wet yellow beaks

 鳥の嘴はbeak。一羽でも上下2つあるので複数形にしました。嘴が黄色いのはまだヒヨッコの印ですよね。あどけない雛鳥が浮かびます。


2.
Summer the end
my father it honey
love song flower

【原句】夏ゆきて父の笑顔や老い果樹園 KIYOAKI FILM

【お便り】本コーナーはやはり正しく英語化するのか、それぞれ自由にするかどちらの方向ですか? 英語、好きなのだけど、文法がよくわからないので、俳句を英語でイメージ化して、別の言葉にしました。また教えてください。お願いします。 (KIYOAKI FILM)

 KIYOAKI FILMさん、俳句の忠実翻訳は不可能です。だから、素直な言葉の置き換えと、翻訳者が一度咀嚼した新たな表現とを適度にブレンドするしかないと私は思います。


3.
I was entangled
in the Wheel of the Mobius
in the Starry Night

【原句】メビウスの輪にからまりて星月夜 出楽久眞

starry night
I was entangled in
the Mobius strip

 全体の情景ー出来事ーその原因 というふうに語順を変えてみました。この順だと読む人が素直に想像を働かせやすいかなと。


4.
Windless,
turning the hourglass,
begin to fall sand.

【原句】風死してひつくりかへす砂時計 出楽久眞

【お便り】こんにちは。今回も文法がはちゃめちゃかもしれませんが、俳句を英訳するのは楽しいです。特に、今回から3行でということですので、どこで切るかも悩むところでした。 (出楽久眞)

wind ceased
the moment to turn over
an hourglass

 出楽久眞さん、原句と英語訳の内容が違いますが、どちらに合わせればいいでしょうか。英語句を訳し戻すと「無風なり 砂時計回し 落ち始める砂」、これを続けるときりがないですね。というふうにイコールで結ぶ訳はできません。私の英訳も百人百様の表現の一つです。3行の切り方も色々試して収まりの良いところを探りましょう。  


5.
breathe in breathe in
a fragrant olive
on the corner

【原句】息吸って吸って角の金木犀 片野瑞木

breathe to the utmost
for the orange osmanthus
at a street corner


6.
yellow leaves falling
under repair
the time slip machine

【原句】黄落やタイムマシンは修理中 片野瑞木

yellow leaves
the time machine
under repair

 黄落は yellow-tinged fallen leaves などと説明することはできますが、これはあえて削ぎ落とした表現を試みたものです。


7.
In the Sake cup
Chrysanthemum's sake
Turn yellow

【原句】猪口の中黄に色づくや菊の酒 たあさん

 菊の花弁が猪口の中に入ったのかなと想像すると

tinged yellow
a chrysanthemum petal fallen
in the sake cup

 菊の大輪が猪口の酒の表面に映ったと想像すると

sake in a cup
big chrysanthemum flowers
reflect on it yellow


8.
bracing
day to break-
blue mosques

【原句】爽やかに青きモスクの夜明けかな 久我恒子

 夜明けの英語は一語で daybreak、dawn があります。
青いモスクと青白む空気の色がシンクロして爽やかさを感じたのでしょうか。

bracing air
blue mosques
at daybreak


9.
on the puddle
a glistening wing-
after the typhoon

【原句】野分あと翅煌めかせ水たまり 久我恒子

 ハイフンの使い方に翅の動きと煌きとの時差が感じられて粋ですね。原句を尊重して上句と下句を入れ替えてもいいかもしれません。


10.
flame noon of midsummer day
just the shadow
by the holy tree

【原句】炎昼にただ神木の蔭 ほろよい

blazing midday
just a shadow of
a holy tree


11.
cotton rose biooms
I live laughingly
until a day to die

【原句】死ぬ日まで笑ふて生きる酔芙蓉 彩楓

live with smile
until the end of its life
Hibiscus mutabilis

 水芙蓉の学名はHibiscus mutabilis、英名はCotton rosemallowでした。どちらを選ぶかで句の印象も変わるかもしれません。


12.
I put on one stone
and one more
The Milky Way much more

【原句】石一つも一つ積んで天の川 彩楓

【お便り】たあさんも書いてらっしゃったのですが、英語なんて40年ぶりです。英語になっているでしょうか? よろしく添削お願いします (彩楓)

 彩楓さん、はじめまして。思い立ったが吉日です。以下も百人百様の訳の一つです。一つも一つと積み上げていきましょう。

one by one
stones are piled up
the Milky Way


13.
the milky way trembling
with the gospel,
then darkness

【原句】ゴスペルの震わす銀河そして闇 チャンヒ

gospel chorus
trembles the galaxy
then comes darkness

 ここでゴスペルは福音(ゴスペル)を合唱することでしょう。そして銀河を震わせた後に暗黒の闇が広がると解釈すると、スケールの大きさを感じます。


14.
with the syringe
passed around by
autumn mosquitoes

【原句】秋の蚊が使い回した注射器で チャンヒ

with the syringe
that autumn mosquitoes
passed around

【お便り】今回はお手上げで、格安翻訳サイトGengo.comで訳してもらったのを、3行にしてみました。詩として成り立っているかは全く分かりません。 (チャンヒ)

 積極的に実験を試みるチャンヒさん。私は初めてGengo.comというツールを教えていただきました。注文の仕方に「3. 注文のレベル、サービス、トーンを選ぶ」とあったのですが、俳句はどんなレベル、サービス、トーンになるのか興味の湧くところです。因みに拙訳はサイトの訳と基本的に同じですが、575の体裁に近づけたものです。


菅 紀子(かんのりこ)
(有)クラパムコモンカンパニー代表。通・翻訳、メディアによる姉妹都市交流コーディネーター。社名は夏目漱石が下宿したロンドンの地名から。歩道短歌会同人。人文学修士、翻訳修士。松山大学、愛媛大学非常勤講師。(Hailstone Haiku Circle blog ICEBOX Contributor)(漱石と彼のライバル重見周吉、日系移民研究)


応募内容 自作の俳句およびそれを英語俳句にしたもの(2句まで)
応募先
 フォーム http://marukobo.com/eigo/
 Email eigo@marukobo.com
12月号用応募締切 10月20日(木)


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百年歳時記



第41回


 有名俳人の一句を紹介するページは世に数々あれど、「市井の逸品」とも呼べる一句を取り上げ鑑賞する記事はそんなに多くありません。
 百年先に残したい佳句秀句奇々怪々句を見いだし、皆さんと共に味わおうという連載は、名づけて「百年歳時記」。夏井いつきの目に触れた様々な作品を毎月紹介鑑賞していきます。

 体液に枝濡れてゐる鵙の贄  ポメロ親父
 この「鵙の贄」は、ついさっき刺されたばかりのもの。「枝」を濡らしているのが「鵙の贄」の「体液」だと分かった瞬間の、作者の心に走る俳人的衝動に共鳴します。秋暑の太陽が照りつける「枝」、時折ぴくりと動く脚、静かにゆっくりと滲み出てくる「体液」、その「体液」が濡らす「枝」、樹皮のテラテラとした光を、作者はひるむことなく観察し続けます。
 やがて「鵙の贄」の表皮が少し乾き始め、脚はぴくりとも動かなくなる頃、数十句が書き付けられた句帳を手に、作者は季語の現場をゆっくりと離れるのでしょう。「鵙の贄」という季語の力に対する真摯な態度が滲み出る作品です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』8月19日掲載分)

長きもの垂れて月下の鵙の贄  比々き
 実に印象的な光景です。「長きもの垂れて」は具象と抽象のはざまにある言葉ですが、後半「月下の鵙の贄」によって、みるみるうちに具象へと焦点を合わせてくる。実に巧い展開です。
 「長きもの」が「垂れ」という下方への構図。「月下」の一語はその構図をさらに奥行のあるものにします。「月下」に出現するのは「鵙の贄」。「月下の鵙の贄」は暗いシルエットとして読み手の眼前にあり、月に冷えているかのような虚の感触です。
 最後にたどり着く季語「鵙の贄」は、「長きもの垂れ」という前半の描写を再度引き寄せ、その黒い影は不気味なリアリティを醸し出しつつも、「月下」の美しい造形のようにも見えてきます。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』8月19日掲載分)

山薊鬼でおりたい日ばかりで  どんぐりばば
 「山薊」とは、山地に咲くアザミを意味する一方、ヤマアザミという種もあります。「薊」は春の季語ですが、「山薊」は秋に咲く「秋薊」の一つ。高さは一〜二メートル。棒のように突っ立った茎に、紫色の頭状花を多数つけます。
 中七「鬼でおりたい日」とはどういう意味でしょうか。なんだか心が寂しくてもやもやして、つい他人に当たったり、わざと偏屈になったり、自分の中にある「鬼」のような心が抑えられない日なのでしょう。トゲトゲした気持ちを持て余しながらも、「山薊」の美しさにふっと目が行く。「鬼でおりたい日ばかりで」という呟きが、「山薊」をつつむ寂し気な秋のひかりを微かに揺すります。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』8月26日放送分)

溢蚊を打ち美しき日本説く  小泉岩魚
 「溢れ蚊」は「秋の蚊」の傍題。本来「蚊」は夏の季語ですが、秋になっても飛んでいるものを「秋の蚊」と呼び、「溢れ蚊」と哀れみます。外れてしまう、落ちぶれてしまうという意味を持つ「溢る」という動詞をくっつけて「溢蚊」という名をつけるのは、実に日本人らしい「哀れ」の美意識でありましょう。
 夏という季節から外れても生き残っている蚊を「溢れ蚊」と呼び、慈しむ心を持ちつつも、我が身の周りを飛んでいれば容赦なく叩く。「溢れ蚊」を平然と「打ち」果たす一方で、「美しき文化」を「説く」自分への自嘲でしょうか。他人への皮肉でしょうか。いかにも俳人らしい視点の生きた作品となりました。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』9月9日放送分)

啄木鳥や鋸の歯は熱を持ち  山香ばし
 チェーンソーではなく、昔ながらの「鋸」を想像しました。人力による摩擦熱が「熱」となる驚き。「鋸」を引く動作の強弱が「熱」の量に転化される実感。「鋸の歯」に焦点を絞り、「木樵」の一語を使わずにその場面を表現した点が巧い作品です。
 「啄木鳥」は木の幹を叩き穴を開けます。中七下五は「鋸の歯は熱を持ち」としか述べていませんが、ひょっとすると「啄木鳥」の嘴も「熱」を帯びているのではないかという思いも広がります。「啄木鳥」の木を叩く音と、人が「鋸」を使う音。読み手は一句の世界に共存する二つの音を感じ取りますが、言葉の上では「音」という語は使われていない。そこにも作者の大いなる工夫があります。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』9月2日掲載分)


百年歳時記は、南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』や
松山市公式サイト『俳句ポスト365』( http://haikutown.jp/post/
などに投句された俳句を紹介します。


百年歳時記




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俳句の街 まつやま

俳句ポスト365



協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/


金曜日優秀句
平成28年8月度


五月雨(さみだれ)


空の膜たやすく溶けてさみだるる  矢野リンド
水かきのあらばさみだれ楽しからむ  くらげを
五月雨や豚をきれいにして殺す  クズウジュンイチ
五月雨や膿んでおるのか革靴は  竹田虎徹
一体と数へらる五月雨の帰宅  あらあらた
千人を容れて原爆館さみだる  ジャンク洞
五月雨の川に小石と寂しき目  Mコスモ
さみだれや眼玉乾るまで観る春画  関野無一
五月雨や幽霊飴を舐めてみる  雅紀


五月雨の砂場にヒーロー刺さつたまま  初蒸気


鵙の贄(もずのにえ)


鵙の贄少し動いて乾きけり  クズウジュンイチ
まだそらを濡らして縮む鵙の贄  緑の手
速贄やけたけた笑ふやうに脚  ウェンズデー正人
火山灰積もり乾ぶる脚や鵙の贄  田中憂馬
長きもの垂れて月下の鵙の贄  比々き
鵙の贄ほとびにけりし橋のうへ  夜市
ご隠居の狆見上げをり鵙の贄  ララ点子
鵙の贄ヴィシソワーズのまだぬるく  ぐわ
一概にそうとも言えず鵙の贄  大塚めろ


体液に枝濡れてゐる鵙の贄  ポメロ親父


10月の兼題
公式サイト内の「俳句投稿」より作品をお寄せください。(※投句期間を過ぎますと投稿ページは次の兼題の募集に自動的に切り替わります。ご投稿はお早めに。)

投句期間 9月15日〜10月5日
蘆刈(あしかり) 晩秋/人事
 晩秋から初冬にかけて、水辺の枯れ蘆を刈り取ること、また蘆を刈り取る人のことをいう。刈り取った蘆で葭簀を編んだり、かつては屋根を葺くのにも用いられた。

投句期間 10月6日〜10月19日
波郷忌(はきょうき) 初冬/人事
 11月21日。昭和44年のこの日に56歳で亡くなった石田波郷の忌日。大正2年(1913年)3月18日愛媛県生まれ。「忍冬忌」「風鶴忌」「惜命忌」とも呼ばれる。

※ 先月号でお知らせいたしました兼題から出題が変更されています。最新の情報は「俳句ポスト365」のサイトでご確認ください。

参考文献 『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


 「俳句ポスト365」は携帯電話からもご参加いただけます。
 「俳句ポスト365」公式Facebookページ開設中! 公式サイトに設置しておりますリンクよりお入りください。毎回の兼題のお知らせを中心にお伝えしながら、皆様の返信欄への書き込みもお待ちしております。


 募集の兼題は変更される場合があります。「俳句ポスト365」のサイトで最新の情報をご確認ください。


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一句一遊情報局



協力: 南海放送


金曜日優秀句
平成28年8月度


夏の果(なつのはて)

朝ごとの骸掃き寄す夏の果  ひなぎきょう
夏終わるビニールプール底に砂  浜の富ちゃん
舟底を擦る川の砂夏の果  ターナー島
折りたたむ硬き帆布や夏の果  樹朋
波寄せて海より冷ゆる夏の果  みーゆ
骨董市に銀のマリアや夏の果  天玲
夏の果鳥籠だけの小鳥店  あらあらた
鯉に指吸わせていたり夏の果  凡鑚
夏果や淀みの鮒の浅き夢  句空
見たような夢の朝なり夏の果  蓼蟲
コバルトはあの画家の色夏の果  誉茂子


夏の果ラストフライト機の余熱  このはる紗耶


鳩麦(はとむぎ)

手の中の鳩麦からから風の音  ひなぎきょう
鳩麦炒る端より夜を焦がしては  下町おたま
鳩麦の甘きを夜へ煮出しをる  緑の手
大往生したく鳩麦を煎じたる  もも
昭和一桁逝きて鳩麦垂れおちて  逆ベッカム
鳩麦を詰めて鉄砲野に向けよ  凡鑽
鳩麦の腕輪に鳩が来るかしら  雪うさぎ
鳩麦やたとえば王の耳のこと  そらまめ
鳩麦や農耕民の歯の硬し  樹朋
鳩麦を選るお駄賃はそばぼうろ  小田寺登女


鳩麦のふぁの香ばしきハーモニカ  青柘榴


俳句甲子園(はいくこうしえん)

寝癖はジンクス俳句甲子園  みいみ
入魂の助詞あり俳句甲子園  石川焦点
風向きを変える一言俳句甲子園  風花会・さくら
俳句甲子園どよめきの最終句  板柿せっか
俳句甲子園終えマイクロホンにある余熱  風花会・はなみずき
俳句甲子園帰路に反芻する秀句  八十八
動脈に子規の血俳句甲子園  若草俳句会・風
俳句甲子園言葉に飢えて詩に飢えて  樫の木
みな葦となりたる俳句甲子園  遠音


子規の国に目覚めし今日や俳句甲子園  越智空子




岩壁に山彦は住む天高し  富士山
山羊一匹向日葵の向く方を向く  小青
寒暁を赤子に届く山羊の乳  のんしゃらん
山狩りの成果や膝の牛膝  よいらん
空洞は山姥の口通草もぐ  雪うさぎ
ぴゅうとなる山猫のムチ星月夜  みいみ
流星が雨森山へ帰る夜  園生
冷まじや死火山すべて死んだふり  句楽生
ホテルより今朝の火山とコスモスと  更紗
ひるがおを活けてしみじみ山頭火  蓼蟲


山薊鬼でおりたい日ばかりで  どんぐりばば


投句募集中の兼題

投句締切 10月9日


季語ではない兼題です。「輪」という字が詠み込まれていれば、読み方・用い方は問いません。季語は当季を原則として、自由に選んでください。

柿羊羹(かきようかん) 晩秋/人事
明治初期、岐阜・大垣の和菓子商が、当地の特産で濃密な甘みを持つ蜂屋柿を使って羊羹を作り売り出した。他に広島などでも名産として作られている。


投句締切 10月23日

新絹(しんぎぬ) 三秋/人事
春蚕から秋蚕まで含め、その年の蚕の繭から取った糸で織った絹。織る前に藍染めや草木染めなどにすることもある。

枯野の色(かれののいろ) 晩秋/地理
野山の紅葉がだんだん枯れてゆく頃の色で、まだ花や穂、実などの色が混じっている感じ。単に「枯野」といえば冬季となる。

参考文献『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句宛先
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


※ 掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとにしたものです。俳句ならびに俳号が実際とは異なっている場合がありますのでご了承ください。


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鑑(み)るという冒険


〜映画篇 演劇篇〜

文&俳句 猫正宗

第四十八回
『シン ゴジラ』&『ヒロシマ 原爆詩集 非戦』


 『シン ゴジラ』
 興収60億円突破、平成以降歴代シリーズ最多動員、今年度邦画一、二位を争うヒット。
 ホント? 全然世間が沸いていない感じ。
 いや、ネット界隈では盛り上がってますよ。いまどきのブームってそういう感じでしょ?
 でも、後を追うように公開された『君の名は。』は世間を大いに沸かせてるし、おっさん向けと揶揄された『S.W./フォースの覚醒』でも、地球の温度を三度は上げたね。
 多分、今、日本人から、ゴジラとか怪獣とかの興味や関心、愛情が薄れてるんだと思う。
 そんなの当たり前でしょ。怪獣なんて(笑)。
 でもちょっと前までは違ったんです。
 「怪獣ブーム」「あの時代に子供として呼吸してたら」「もっと深いところにも影響を与えられてると思うんです。自分が見たものの感じ方、それに対する受け止め方のひな型を作り上げてるんじゃないか」「自分の中に “怪獣的であるか否か”っていう尺度ができてるんですよ。」《『怪獣王』(唐沢なをき)より》 例えば、某野球選手の愛称、とかね。
 どうしてみんなの心から怪獣から離れてしまったのか。
 まあいい。
 本作は世界百三の国と地域で公開決定。'17年公開予定のアニメ映画『GODZILLA』製作決定、'18年には、日本以外の世界中で大ヒットした'14年のハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』(ギャレス エドワーズ監督)の続編(キングギドラ、ラドン、モスラ登場?)が、'20年には、さらにその続編である『GODZILLA vs KONG』(!)が公開予定。そう、ほぼ毎年、しかも世界各地でゴジラを目撃するという恐るべき事態が到来。かつて日本の子供たちが受けた衝撃を世界中の子どもたちが受けるかもしれないのだ。10年後、20年後、世界のあちこちで怪獣という文化が芽吹いてしまうのかも。ジャズのように、ロックのように。

寂しさあふれ世界壊す立冬

 さて初代『ゴジラ』が原爆や東京大空襲に、本作が先の震災や原発事故に出自があるように、国民的トラウマを落とし込むということが娯楽作にはよくある。それには客体化することで痛みをやわらげることと、繰り返し語られることによって忘却を防ぐという、相反した効能がある。ただし、事実の歪曲や矮小化の危険性は常に付きまとう。
 今年も行われた原爆詩の朗読会『ヒロシマ 原爆詩集 非戦』(主催:く☆す、朗読:木村雄、中林ゆき、スオウアキラ、'16年8月7日、シアターねこ)そこでは、告白、独白、告発、証言、怒り、嘆き、悔恨……そういった言葉が詩という枠に閉じ込められている。それらを朗読者の声という身体性によって再び解放し聴き手に届けるというのが、朗読会という形式にした理由だろう。そして読み手もまた、閉じ込められているものに向き合うことになる。朗読者に若い人が起用されているのも、そんな意図があるからだろう。
 前述の娯楽化もそうだが、おそらく、事実を事実のまま伝えるだけでは足りないのだ。たとえ雑音が混じろうとも、いくつものルートがあって、ようやく過去からの声が届くのだろうから。

聞こえるか届いているか原爆忌


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続 南極を詠もう!


No.5

一般研究観測担当隊員 源 泰拓(俳号 源笑)


 「100年俳句計画」読者のみなさま、こんにちは。第57次日本南極地域観測隊越冬隊員のみなもとです。
 8月は昼の時間が長くなって、基地の外に出かける活動も本格化してきました。一方で、繰り返しブリザードが基地を襲い、ままならない天候に苦しめられました。寒さよりもドカ雪のほうが辛い、そんな日々です。

春暁に空を壊すか真珠母雲  源笑

 南極や北極で上空の気温が下がると「真珠母雲」という雲が出ることがあります。美しい眺めですが、この雲の周辺ではオゾンがどんどん壊されているのだそうです。美しいものが善きものとは限らない……。

シャベル持て愚痴は飲み込め深雪晴れ  源笑

 ひさびさの青空のもと、スコップを持って屋根にあがり、雪下ろしが始まります。こうした作業をするときは「手あき総員」といって、担当が気象観測であろうと研究であろうと、時間がとれる隊員みんなで作業にあたります。そうしないと、基地を維持できません。

飛ぶ雪や大陸を舐めて走りゆく  源笑

 8月下旬に、南極大陸に一週間、行ってきました。昭和基地から30キロメートルほどの拠点で橇を掘り出したり、雪上車を動かしたり。大陸では常に強い風が吹いていて、頭上の空が晴れていても地吹雪が止むことはありませんでした。地面を吹き抜ける粉雪は川の流れのようです。

うんざりだもう夏休みはよ終われ  源笑の留守宅

 小学生を残して南極に出てきている身としては、「心の叫びですよ」と言われて、返す言葉がございませぬ。申し訳ない。おつかれさまでした。



今月の南極吟行句
希望峰 編

春暁に空を壊すか真珠母雲 源笑
 「美しいものが善きものとは限らない」世界の真理に触れるような言葉ですね。私もそのようなことを思いながら、日本の空を眺めるかもしれません。「空を壊すか」は作者の思いが前面に出過ぎているような気がして、あまり俳句的ではない気がしました。空に真珠母雲がせまりくる様子だけを書いて、後は読者に投げかけてもいいかもしれません。

シャベル持て愚痴は飲み込め深雪晴れ 源笑
 同じく、「愚痴は飲み込め」は我慢のしどころです。「愚痴を飲み込む」賭した方が、「何がこの人にあったのだろう…」と、「愚痴」の内容を、読者に委ねることができるかと思いました。深雪晴れという季語のチョイス、いいですね。
 外が晴れていると、なおさらいらいらが増している様子が対比で伝わってきます(笑)。

飛ぶ雪や大陸を舐めて走りゆく 源笑
 細かい表現をどうのこうの言うよりも、まず勢いが伝わってきます。三句の中で最もよいと思いました。「舐めて」に大陸を歩む人、そして立ち向かってくる雪の確からしさを思います。私は、地吹雪というとすぐに曇った空を思いますが、晴れているのですね。写真も凄まじいです。気軽に「南極に行ってみたい!」なんて言えませんね……。冒頭ではああ言いましたが、表現について、少しだけ。「雪飛ぶや大陸舐めて走りゆく」とすると、詠嘆の「や」の効果も更にはっきりと出て、「を」を辞めて真ん中を七文字にすると雪のスピード感も伝わってくるかと思いました。

うんざりだもう夏休みはよ終われ 源笑の留守宅
 源笑さんがいないお家では、お子さんが寂しがっているのですね。このコーナーで親子で俳句を送り合うのはいかがでしょう?(笑) この句は「もう」「はよ」で夏休み感のうんざりさを強調しているのが面白いですね。夏休みというと、31日になってしまい、もう終わってほしくない…という名残惜しさばかり書いてしまいますが、この句はその逆なのがいいですね。

さうめんもホースも水に曲がりけり  希望峰

投句募集
南極の写真から発想した俳句を募集します。投句された俳句は、スウェーデンに留学した経験のある希望峰さんが紹介します。
俳句は専用の投句フォームにて受け付けます。
http://marukobo.com/antarctic/
投句締切10月3日(月)。


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100年俳句計画 掲示板




テレビ、ラジオ

NHK Eテレ『NHK俳句』
 日曜6時35分〜7時
 (再放送:水曜15時〜15時25分)
夏井いつきが第3週選者を担当
10月16日(日)、再放送 19日(水)
【兼題】「鮫」または「海豚」
投句締切 10月10日必着
 投稿は葉書1枚に1句。選者名、兼題、俳句1句、名前、年齢、電話番号明記。
 《宛先》〒150ー8001
NHK「NHK俳句」係
ホームページからの応募も可
http://www4.nhk.or.jp/nhkhaiku/

NHK Eテレ『俳句王国がゆく』
第6回 熊本県熊本市
10月16日(日)15時〜15時59分
主宰 夏井いつき

NHK 総合テレビ(愛媛のみ)
  「えひめ おひるのたまご」内
隔週火曜
 『みんなで挑戦! MOVIE俳句』
10月11日(火)、25日(火) 11時40分〜

NHKラジオ第一(愛媛のみ)
 『ラジオまどんな』
10月3日(月)17時〜17時55分
夏井いつき生出演
ネットラジオで全国で聴けます
http://www.nhk.or.jp/matsuyama/madonna/

TBS系列局 全国ネット
 『プレバト!!』
毎週木曜 19時〜19時56分
夏井いつきが俳句の査定を担当

南海放送
 松山市政広報番組
 『大好きまつやま しあわせことば塾』
毎週火曜 20時54分〜21時
(再放送:日曜11時40分〜11時45分)
夏井いつきが塾長として出演

南海放送ラジオ
 『夏井いつきの一句一遊』
毎週月〜金曜 10時〜10時10分
「一句一遊情報局」のコーナー参照

FMラジオバリバリ
 『俳句チャンネル』
毎週月曜 17時15分〜17時30分
(再放送:火曜7時15分〜7時30分)
投句募集兼題
 濁り酒 胡桃 10月9日締切
 冷やか 菊人形 10月23日締切
 WEB http://www.baribari789.com/
 mail radio@baribari789.com
 FAX 0898(33)0789
投句には本名、住所をお忘れなく!
各兼題「天」の句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。

各番組の放送予定は変更される場合がございます。新聞などで最新情報をご確認ください。


執筆

松山市の俳句サイト
 『俳句ポスト365』
http://haikutown.jp/post/
「俳句ポスト365」のページ参照

テレビ大阪俳句クラブ
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 「集まれ俳句キッズ」(夏井いつき選)
 毎週日曜タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井いつき選)
 投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。
 朝日新聞松山総局(〒790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。

愛媛県《吟行ナビえひめ》句&写真
俳句選者:夏井いつき
写真選者:キム チャンヒ
 募集期間 毎月1日〜25日頃締切
 応募先
http://www.iyokannet.jp/ginkou/
 問合せ 愛媛県観光物産課 電話 089(912)2491


夏井いつきと巡る東洋のマチュピチュ 東平
 別子銅山産業遺産俳句ing Walking
10月2日(日)9時30分〜
 集合場所 マイントピア別子(愛媛県)
 参加費 無料
申込、問合先 新居浜市観光協会 電話 0897(32)4028

NHK「俳句王国がゆく」公開録画(岡山県井原市)
10月8日(土)13時30分〜15時30分
 井原市民会館(岡山県)
 参加費 無料(要事前申込)
申込先 井原市民会館 電話 0866(62)3313
問合先 NHK岡山放送局 電話 086(214)4714
参加申込受付は終了しています

平成28年度天台宗四国教区教学布教研修会 教養講座
 夏井いつきの句会ライブ
10月12日(水)14時〜15時30分
 ホテル椿館 4階カメリアホール(愛媛県)
問合先 天台宗正観寺 電話 089(975)3736

第23回「壺の碑」全国俳句大会
 夏井いつき講演会「100年俳句計画」
 10月16日(日)10時〜
 多賀城市文化センター
小ホール(宮城県)
問合先 「壺の碑」全国俳句大会実行委員会事務局 電話 022(365)0492

徳島中学校
夏井いつき句会ライブ
 10月21日(金)13時10分〜15時10分
 徳島中学校(徳島県)
問合先 徳島中学校 電話 088(623)1371

俳都松山宣言2016 十七音が景色を変える
10月29日(土)13時〜
 松山市総合コミュニティセンター
キャメリアホール(愛媛県)
 入場料 無料(要入場整理券)
問合先 松山市役所 文化 ことば課 電話 089(948)6952
定員に達したため、申込受付は終了しました。

浜学園 夏井いつきの句会ライブ
 「辛口先生の赤ペン俳句講座」
10月30日(日)
 1部 13時〜14時30分
 2部 15時30分〜17時
 ブリーゼプラザ 小ホール(大阪市)
 対象 小学校1年生〜5年生とその保護者
問合先 浜学園 西宮本部 電話 0798(64)1236


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魚のアブク



読者から寄せられたお便りをご紹介
お便りお待ちしています!
100年俳句計画編集室「魚のアブク」宛、もしくは他の投稿に添えてお寄せください。


詰め俳句

江口小春 早くも投句二回目にして詰め俳句のみの投句に……笑。無理せず頑張りまーす!
詰め俳句は、ただの季語クイズのように思われるかもしれませんが、実はけっこう季語の勉強になるんですよ! マイマイさんの解説とも併せて、ぜひイメージなどがよく似ている季語の違いや、取り合わせの距離感などを考える参考にしてください。

みやこまる 『100年俳句計画』が届くと、まず詰め俳句の答え合わせをして、今月の問題に取り組みます。以前は歳時記をめくっていましたが、最近は『殿様ケンちゃん俳句ノート』の絵で見る季寄せで楽しみながら問題に挑戦しています。おかげで前回初段の認定を頂きました!

編集室 発売以来、皆さんに大変ご好評をいただいている、殿様ケンちゃん俳句ノート・俳句手帳。その大きな特徴の一つが“絵で見る季寄せ”です。絵のおかげで季語のイメージがつかみやすくて、収録されている季語数も充実! 詰め俳句のように、ちょうどいい季語を探すのには、もってこいなのかも……!?


俳句甲子園

喜多輝女 毎日体温ほどの猛暑が続きますが皆さんお元気ですか? 今日は第19回俳句甲子園全国大会で大街道に行って来ました。大街道も暑かったですが明日の決勝戦が楽しみデス!!

編集室 ちょうど俳句甲子園の開催中にいただいたお便りでした。今年も暑い中、俳句甲子園にたくさんの応援をありがとうございました。今月号では、松山中央高校の櫛部先生に寄稿いただきましたが、いかがでしたか?


夏から秋へ……

dolce(ドルチェ) 今年の暑さでまったく秋の句が浮かんできません。ただリオ五輪があって楽しんでいます。毎日の35度で秋の句は俳句1年生の私には無理ではと嘆きつつ……今は充電のときと思っています。今年もこの年にしてかなり泳ぎこみして真っ黒になっています。

出楽久眞 こんにちは。夏休み、我が家に近い中学校からは、午後になると太鼓の音が聞こえてきます。夏休み明けの文化祭の発表の練習だそうです。我が息子も連日のように、文化祭実行委員の仕事と太鼓の練習に出掛けていきます。……って、あれ?! 確か受験生だったはずなんですがね。

エノコロちゃん 残暑お見舞い申し上げます。先生方、スタッフさん、猛暑・酷暑が続いていますので特に熱中症にはくれぐれもお気をつけて……ね。いつもありがとうございます。

編集室 今年は台風が少なくて……なんて話を少し前にした記憶がありますが、その後、反動のように台風の襲来が続きました。皆様のところはご無事でしたでしょうか? ようやく暑さも和らいできましたが、季節の変わり目、どうぞ体調には気を付けていただいて、これから本格化する秋を楽しんでください。


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鮎の友釣り


第219回


俳号 中山奈々(なかやま なな)

前回…幌谷魔王さんへ お会いしたことがありませんが、ツイッターのアカウント写真がウォンバットだったので、未だにそのイメージが拭えません。成人式句集の企画など活発な方ですね。

写真 第一回松山俳句キャラバンの大阪大会で優勝したときの打上げで。「酒瓶がよく似合うな」「酒を見ると嬉しそうだな」といわれます。……おっさんかよ!

俳句甲子園 高校卒業後、松山には何度か行っているのですが、全国大会を観戦しに行ったことはありません。とても薄情です。見ると泣いてしまう気がするのです。それは高校生が泣く分です。わたしは遠くでライバルの出現を笑いながら待っていたいのです。

次回…砂山恵子さんへ まだ一度もお会いしたことありませんが、俳号の可愛いらしさ、またときおりいただくメッセージの親しみやすさ、どれも素敵です。お孫さんのツッコミ、最高です。いつかお会いできる日を楽しみにしています。


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告知




春夏秋冬(しき)笑顔まつやま福祉五七五
福祉をテーマにした秋の五七五

主催 松山市社会福祉協議会
   有限会社マルコボ.コム(ふくし句会・ハイクライフマガジン『100年俳句計画』)選句
協賛 株式会社いつき(ギフトのデパート)社会福祉協議会賛助会員

年4回、福祉をテーマにした五七五を募集します。
人に優しくなれるような、五七五をお待ちしています。
(第3回 10/31締切)

募集要項

応募方法
 「春夏秋冬笑顔まつやま福祉575」係 宛に、
 ハガキまたはFAX、または、インターネットの応募フォームにて応募して下さい。
送り先
 790-0808 松山市若草町8番地2 松山市総合福祉センター
  社会福祉法人松山市社会福祉協議会 総務部 施設管理課

 FAX番号:089(941)4408 
 専用フォームhttp://www.marukobo.com/egao/

賞品「松山トリコ」製作
 大賞(松山市社協会長賞) 道後温泉湯玉トートバック
 優秀賞 おじゃみクッション エコバック付
 入賞 紙の湯カードケース
 ほか

発表 ハイクライフマガジン『100年俳句計画』10月号(予定)ほか



JAZZ句会主催
ハイクライフマガジン『100年俳句計画』共催

NORIKO KOJIMA TRIO LIVE
at JAZZ BLEND 2016

10月16日(日)
13:30 OPEN 14:00 START
参加費 3,500円(ワンショット付き)
会場 白方ビル1階「JAZZ BLEND」
 松山市中央2丁目1238 井村歯科医院の久万川を挟んで東隣

*ライブ終了後16:30ごろよりジャズ句会を行います。
 最優秀句にはキム・チャンヒによる俳画をプレゼントします。



第六回 百年俳句賞 大人のための句集を作ろう!コンテスト
作品募集

主催 マルコボ.コム
共催 朝日新聞社、松山市教育委員会(予定)


 「百年後の未来に残したい作品を、私たち自らが作り、自らが選ぶ」という目的で開催している「大人のための句集を作ろう!コンテスト」は、その目的をより明快にするため、今回より「百年俳句賞」と冠する事となりました。
 内容は例年通りです。多数の応募お待ちしております。


募集要項

応募資格
15才以上(高校生以上)の方なら、本誌購読の有無に関係なく、どなたでも応募できます。

応募方法
Eメールでの応募の場合
応募用のエクセルファイルに必要事項を全て入力し、Eメールの添付ファイルにして、応募して下さい。
応募用ファイルのダウンロード先 http://81ku.marukobo.com/
郵送の場合
B4判四百字詰め原稿用紙に81句とその表題、俳号、本名、年齢、住所、電話番号を必ず明記して応募して下さい。

締め切り
2016年11月30日(水)必着


賞状および応募作品による句集20冊
賞品句集は縦横135o・36ページとなります。句集は本誌付録として配布します。

発表
本誌2017年4月号誌上(予定)

送り先
〒790-0022 愛媛県松山市永代町16-1
有限会社マルコボ.コム
月刊俳句マガジン『100年俳句計画』編集室
Eメール 81ku@marukobo.com


既作新作を問わず81句の作品集を募集。
最優秀賞作品は句集にし、本誌付録として配布します。
締切11月30日(水)!


「百年俳句賞」Q&A

「受賞作品が句集になるってホントですか」
 最優秀賞作品は、月刊俳句マガジン『100年俳句計画』の付録冊子として読者諸氏に広く読んで頂きます。付録とはいえ、お洒落なデザインの句集だと評判です。
 受賞者には一切の金銭的負担をかけず、読者にとっても安価な句集をどんどん生み出していきたいという志を一つの形にしたのが、この企画なのです。

「俳句マガジンを購読してないんですが、コンテストへの応募はできますか」
 どなたでも応募できます。購読の有無は一切関係ありません。勿論、応募は無料です。

「審査は誰がするのですか」
 本コンテストの受賞者は、「百年俳句賞」選考会員の投票によって決まります。「百年俳句賞」選考会員は、月刊俳句マガジン『100年俳句計画』購読者の内、各総合誌等の俳句賞受賞者あるいは最終選考に残った実績のある人たち等によって構成されます。
 多くの目利きの力を借りて「百年先の未来に残したい作品と作家」を見い出し顕彰していくことが「大人コン」の目的。我こそは!という皆さんのご応募を、心からお待ちしております。



選評大賞2016

今年も選評大賞を行います。300字以内でビシッと決まった選評をお寄せください。多数の応募をお待ちしております。

選句の対象となる句
 2015年10月号〜2016年9月号までに掲載された「百年百花」「100年の旗手」の中から、心を打たれた俳句を1句選んで、選評をお寄せ下さい。

記載事項
 掲載句1句(掲載号、作者名を必ず明記)
 選評 20字×15行(300字)以内厳守(多すぎても少なすぎても減点の対象となります)
 俳号、本名、住所、電話番号(必ず明記)

最優秀賞
賞金1万円(来年の第七回「百年俳句賞 大人のための句集を作ろうコンテスト審査委員会」への参加資格も得ます。)

優秀賞(数名)
賞金3千円

締め切り
10月20日(木)必着

応募先
100年俳句計画編集室まで、ハガキ・封書・FAX・メールでお送り下さい。
送付の際、件名・タイトルに「選評大賞2016」と明記下さい。
ご応募の際、他の投稿とは別にお願いいたします。

結果は12月号にて発表します。



会話形式でわかる近代俳句史超入門
文 構成 青木亮人
単行本化準備中!
連載は暫くお休みします。ご了承ください。


編集会議開催
 編集会議は、2ヶ月に1度開催しています。年間購読をされている方なら、どなたでも参加できます。また、Eメールなどでのご意見もお待ちしております。
次回編集会議
日時:11月25日(金)(予定)18時〜
場所 マルコボ.コム 松山市永代町16-1
対象 本誌年間購読者
申込先 100年俳句計画編集室
E-mail magazine@marukobo.com



12月の第1土曜日は恒例の……!!
100年俳句計画大忘年会のお知らせ

毎年12月の第1土曜日は「大忘年会」の日。今年も盛大に開催致します。
抱腹絶倒まちがいなし。たくさんのご参加をお待ちしています。

日時
 2016年12月3日(土)
 18:30〜21:00(予定)
 正式な時間は追ってご案内いたします。

場所
 いよてつ島屋 9F ローズホール
 愛媛県松山市湊町5丁目1−1
 089-948-2111(代表)

会費
 大人 6,500円
 大学生以下 4,000円
 小学生以下 2,500円

参加申込締切
 11月21日(月)必着!

参加方法
 忘年会参加希望の旨と、〒住所・氏名・俳号・会費区分(大人/大学生以下/小学生以下)・連絡先電話番号を明記して、ハガキ、FAX、Eメール、または電話にてお申し込み下さい。ご家族等複数でお申し込みの場合は、代表の方の〒住所・連絡先電話番号に加え、全員の氏名・俳号・会費区分をお知らせ下さい。
投句・投稿に添えてのお申込はご遠慮ください。受付対応が遅れる場合があります。

 お申し込みをいただいた方には11月上旬頃より順次、ご案内のハガキを郵送いたします。
 締切までにお申込いただいた方で、11月28日(月)までにハガキが届かない方は、お手数ですがマルコボ.コムまでご連絡ください。

問い合わせ・申し込み先
(有)マルコボ.コム
 〒790-0022 愛媛県松山市永代町16-1
 TEL 089-906-0694
 FAX 089-906-0695
 E-mail bounen@marukobo.com


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編集後記


キム チャンヒ

 先日ミウラート ヴィレッジへ「野間仁根展 色彩踊る幻想の世界へ」を観に行った。
 野間仁根さんは愛媛県今治市吉海町出身の洋画家。美術館吟行会メンバーにも大変人気のある作家で、本誌の昨年10月号にも「魔法の森」を使わせて頂いた。今回の展覧会にて、その「魔法の森」をはじめ、42点の作品を一挙に鑑賞する事が出来た。
 美術館吟行会で垣間見た野間仁根さんの作品の印象は、色彩豊かで幻想的。しかしそんな作品ばかりでは無く、初期の精密で静かな肖像画や、油絵の具でレリーフ状に描いた「田舎の家族」、ポケモンのキャラクターのような「昆虫」など、あまりの多彩さに脳がクラクラ。中にはほとんどゴッホ、ほとんどシャガールという印象の作品もあり驚かされた。
 そんな中、最も印象に残ったのが、晩年の作品群。故郷吉海町を思わせる瀬戸内の島々を、原色に近い明るさで大胆に描ききったそれらの作品は、まさしく野間仁根さん以外の何者でも無いオリジナリティを放っていた。
 「自分は何者か」という問いは、絵画にかかわらず、創作に不可欠な要素なのかもしれない。そんな事を考えさせられる展覧会だった。
 「野間仁根展 色彩踊る幻想の世界へ」は11月20日まで。


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次号予告



228号 11月1日発行予定

次回特集
100年俳句計画
大豆プロジェクト
枝豆収穫祭


お得で便利なマルコボ.コム直販定期購読! 巻末の案内をご覧ください
お申し込みの方へ、毎月末頃に最新号を送料無料でお届けいたします!
(住所変更の際は必ず編集室までご連絡ください)

『HAIKU LIFE 100年俳句計画』は以下の書店でもお買い求め頂けます。

愛媛県
 明屋書店 ※一部店舗のみ
 ゆらり内海(愛南町)
 原田書房(今治市)
 子規記念博物館(松山市)
 紀伊國屋書店松山店
 ジュンク堂書店松山店


HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画
2016年10月号(No.227)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子

2016年10月1日発行