100年俳句計画8月号(no.225)


100年俳句計画9月号(no.226)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。






目次


巻頭リレーエッセイ
矢野リンド


特集1
俳都松山キャラバン in 明治村&新宿 報告


特集2
WHAT Vol.4 2016 [A]&[B] 出版記念特集
その1



好評連載


作品

百年百花
 天玲/マイマイ/河野しんじゆ/日暮屋又郎


新100年の旗手
 KIYOAKI FILM/砂山恵子


新100年への軌跡
 俳句 安岡麻佑/安里琉太
 評 樫の木/都築まとむ




読み物

美術館吟行/天玲

mhm通信/紫羽

Mountain Cabin Dispatch/ナサニエル ローゼン(翻訳:朗善)

JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭

ラクゴキゴ。/らくさぶろう

歳時記「無季」がバイブル/日暮屋又郎

ホンヤクサイホンヤクク/翻田訳蔵

百年歳時記/夏井いつき

鑑(み)るという冒険/猫正宗

続 南極を詠もう!/源泰拓



読者のページ

100年投句計画
 選者三名による雑詠俳句計画
  桜井教人/阪西敦子/関悦史

 へたうま仙人/大塚迷路
 自由律俳句計画/きむらけんじ
 詰め俳句計画/マイマイ
 100年投句計画 投句方法

短歌の窓/渡部光一郎

百人百様E-Haiku/菅紀子

俳句ポスト365

一句一遊情報局

100年俳句計画 掲示板

魚のアブク

鮎の友釣り

告知

編集後記

次号予告





巻頭リレーエッセイ



ミシンへの愛
矢野リンド

 まだ暑さの残る9月。姑の捨てる直前の古いミシンを修理屋さんに持ち込んだ。
 店主に「よく使いこんでいますね。このミシンは買ってから何年たっていますか?」と聞かれた。
 私達夫婦は顔を見合わせ「六〇年くらいだと思います。」と答えた。店主も見たことのないメーカーの物だった。静かにミシンに糸をかけ手廻しで試し縫いをしていく店主。狭い店内にはミシンのカタカタと言う音だけが流れた。「直りそうです。」と店主が言った時、思わず「本当ですか? 嬉しい!」と大きな声を出してしまった。
 そうして姑が嫁いでから六〇年近く主人の家族を見てきたミシンが蘇った。古いミシンは使わないと錆びるので縫ってくださいとミシンが大好きそうな店主は言った。私も時々このミシン使わせてもらおうと思った。


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特集1

俳都松山キャラバン in 明治村&新宿 報告




 松山市主催のイベント「俳都松山キャラバン」が、今年は5月22日&7月17日に、明治村(愛知県犬山市 博物館明治村呉服座)と新宿(東京都新宿区 新宿区立四谷区民ホール)にて開催されました。松山市と両会場は、明治の文豪 夏目漱石とのゆかりのある場所。漱石没後百年を記念して、席題は漱石の俳句となりました。
 本特集では、両会場で開催された、俳句対局トーナメント戦の模様をお伝えします。


明治村会場(5月22日)

対局者(敬称略)
水野大雅/名古屋高等学校教諭。同校文学部顧問。
工藤 惠/昭和49年生まれ。平成19年作句開始。平成20年船団の会入会。今年6月、第一句集「雲ぷかり」を上梓。
中山奈々/昭和61年大阪府生まれ。俳句甲子園をきっかけに高校2年生から作句開始。「百鳥」同人。「里」編集長。俳人協会会員。
安藤 翔/平成9年生まれ。名古屋高等学校時代、俳句甲子園に3年間挑戦。第29回全国高等学校文芸コンクール俳句部門優良賞を受賞。結社「白魚火」所属。

審査員(敬称略)
加古宗也(「若竹」主宰)
植田珠實(「藍生」所属)
三島広志(「藍生」所属)
加藤かな文(「家」代表)


一回戦第1試合
先手 中山奈々
後手 水野大雅

 昨年の俳句対局大阪大会にて優勝を果たした中山さんと、昨年の俳句甲子園にて名古屋高校を優勝に導いた水野さんとの戦い。
 緊張を隠せない水野さんに対し、落ち着いた表情の中山さん。
 俳句らしい手堅い句で攻めた水野さんを柔軟にかわした中山さんが勝利をしました。


一回戦第1試合内容

席題句 なんのその南瓜の花も咲けばこそ(漱石)

中山 花札の色あざやかに明易し
俳句点7.50(加古8 植田8 三島7 加藤7 減点0)

水野 玉砂利は十人十色初詣
俳句点6.00(加古5 植田7 三島6 加藤6 減点0)

中山 長男の玉豊かなり海水浴
俳句点7.00(加古6 植田8 三島6 加藤8 減点0)

水野 長考の端居するなり詰将棋
俳句点5.75(加古5 植田6 三島5 加藤7 減点0)

中山 居留守してそのまま水中りしたり
俳句点6.50(加古7 植田7 三島6 加藤6 減点0)

水野 畳紙紫上の居待月
俳句点6.00(加古5 植田7 三島6 加藤6 減点0)


結果

中山 俳句点21.00 残り時間3分07秒 時間点0.0 合計21.00 勝
水野 俳句点17.75 残り時間1分31秒 時間点-0.5 合計17.25 負


一回戦第2試合
先手 安藤 翔
後手 工藤 惠

 名古屋高校出身の安藤さんと、昨年の俳句対局大阪大会準優勝の工藤さんとの対戦。
 第1試合の水野さんと共に、地元愛知代表安藤さん。ここで水野さんの雪辱を果たしたいところ。
 安藤さんは、終始十代らしい瑞々しい句で挑むも、経験値の高い工藤さんが作句スピードと質で圧倒。
 最終的に5点差以上をつけ、工藤さんが勝利しました。


一回戦第2試合内容

席題句 すずしさや裏は鉦うつ光琳寺(漱石)

安藤 春光や老年の師と会ひにけり
俳句点5.00(加古5 植田5 三島5 加藤5 減点0)

工藤 桜蘂降る恩師の泣く背中
俳句点7.25(加古8 植田6 三島7 加藤8 減点0)

安藤 満室の教室の中雲の峰
俳句点6.00(加古5 植田7 三島6 加藤6 減点0)

工藤 点々と満室のホテル冬満月
俳句点6.75(加古8 植田6 三島5 加藤8 減点0)

安藤 三ヶ月の刃物の如し春の宵
俳句点5.00(加古5 植田5 三島5 加藤5 減点0)

工藤 後悔の如く金魚をうみにけり
俳句点6.75(加古8 植田8 三島5 加藤6 減点0)


結果

安藤 俳句点16.00 残り時間1分59秒 時間点-0.5 合計15.50 負
工藤 俳句点20.75 残り時間2分50秒 時間点0.0 合計20.75 勝


決勝戦
先手 中山奈々
後手 工藤 惠

 奇しくも昨年の大阪大会と同じ顔ぶれとなった決勝戦。
 序盤から両者とも驚異のスピードで作句してゆきました。
 この試合、勝負を分けたのは、工藤さんの「愛ならば与へたるもの風信子」の「ならば」を頂いた、中山さんの「それならば薔薇一本を手折ろうか」の句。審査員から、「愛ならば」の「なら」は体言に付く断定の助動詞、「ば」は接続助詞のため、自立語ではないとの指摘があり、中山さんの句に対し減点3となってしまいました。
 結果、工藤さんが、1.25点の僅差で優勝を果たしました。


決勝戦内容

席題句 かたまるや散るや蛍の川の上(漱石)

中山 散文も韻文も秋豊かなり
俳句点7.75(加古8 植田8 三島7 加藤8 減点0)

工藤 文という女に夏の蝶とまる
俳句点7.25(加古8 植田7 三島8 加藤6 減点0)

中山 文人に蜂一匹を与へけり
俳句点7.50(加古8 植田8 三島7 加藤7 減点0)

工藤 愛ならば与へたるもの風信子
俳句点6.75(加古7 植田6 三島8 加藤6 減点0)

中山 それならば薔薇一本を手折ろうか
俳句点4.50(加古8 植田8 三島7 加藤7 減点-3)

工藤 手折られしたんぽぽならいらないわ
俳句点7.00(加古8 植田7 三島7 加藤6 減点0)


結果
中山 俳句点19.75 残り時間3分11秒 時間点0.0 合計19.75 負
工藤 俳句点21.00 残り時間3分05秒 時間点0.0 合計21.00 勝



新宿会場(7月17日)

対局者(敬称略)
阪西敦子/昭和52年生まれ。祖母の勧めで7歳より作句、『ホトトギス』の児童生徒の部で投句開始。現在、「ホトトギス」同人、「円虹」「ku+」に所属。
北大路 翼/昭和53年生まれ。新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」代表、砂の城城主。句集に『天使の涎』(第7回田中裕明賞受賞)、共著に『新撰21』。
中町とおと/昭和54年生まれ。平成22年よりTwitter上で俳句を詠み始める。平成27年、句集「さみしき獣」にて第4回大人のための句集を作ろう!コンテスト最優秀賞受賞。いつき組所属。
大塚 凱/平成7年生まれ。俳句同人誌「群青」所属。中学時代に句作を開始し、俳句甲子園第14 15 16回大会に出場。第7回石田波郷俳句大会新人賞受賞。

審査員(敬称略)
池田澄子(「豈」「船団」所属)
坊城俊樹(「花鳥」主宰)
櫂未知子(「群青」共同代表 「銀化」同人)
岸本尚毅(「天為」「屋根」同人)


一回戦第1試合
先手 北大路 翼
後手 阪西敦子

 会場の新宿を本拠地とした北大路さんと、本誌「100年投句計画」でおなじみの阪西さんの勝負。
 試合開始前は、両者とも俳句対局初体験で緊張した様子。
 まずは北大路さんが、席題句から「舟」を頂き、競艇のはずれ券を詠んだ句で先制パンチ。阪西さんも「舟券」から「券売機」へと発想を飛ばし緊迫した序盤。その後も、「アイスクリーム」に「天道虫」、「海開き」に「ハンモック」と、観客に息もつかせぬ展開となりました。
 見た目の怖さとは裏腹に、ほのぼのとした句も詠む北大路さんがこの試合を勝利しました。


一回戦第1試合内容

席題句 ほのぼのと舟押し出すや蓮の中(漱石)

北大路 冷房の上に外れてゐる舟券
俳句点7.50(池田8 坊城7 櫂7 岸本8 減点0)

阪西 待たされてをり券売機前炎天
俳句点7.00(池田7 坊城7 櫂7 岸本7 減点0)

北大路 アイスクリーム前後左右のなかりけり
俳句点7.00(池田8 坊城6 櫂8 岸本6 減点0)

阪西 後すこしなにかの足らぬ天道虫
俳句点6.00(池田6 坊城5 櫂7 岸本6 減点0)

北大路 足の裏よろこんでゐる海開き
俳句点6.00(池田6 坊城4 櫂8 岸本6 減点0)

阪西 海手前にひげ見えてをりハンモック
俳句点5.75(池田6 坊城4 櫂6 岸本7 減点0)


結果
北大路 俳句点20.50 残り時間2分19秒 時間点0.0 合計20.50 勝
阪西 俳句点18.75 残り時間1分04秒 時間点-0.5 合計18.25 負



一回戦第2試合
先手 中町とおと
後手 大塚 凱

 昨年の俳都松山キャラバン東京大会で決勝戦を交えた二人の戦いとなりました。昨年は、時間点の差で大塚さんが勝利しましたが、今年は中町さんがそのリベンジを果たすかが見所。
 両者とも俳句対局経験者だけあって、序盤から順調に作句を進め、拮抗した戦いとなりました。
 昨年、勝負には勝ったが俳句点で負けてしまった大塚さんが、時間点の減点を気にせず、作句する姿が印象的でした。
 そして時間点を含めた審査結果は、なんと同点。減点のなかった中町さんがリベンジを果たしました。


一回戦第2試合内容

席題句 帰ろふと泣かずに笑へ時鳥(漱石)

中町 泣きたい空へビールジョッキをぶつけ合ふ
俳句点7.00(池田8 坊城7 櫂7 岸本6 減点0)

大塚 水無月のノートに映りさうな空
俳句点6.50(池田6 坊城6 櫂8 岸本6 減点0)

中町 炎天を映して水の揺らがざる
俳句点6.25(池田7 坊城5 櫂7 岸本6 減点0)

大塚 短夜のテレビに映る低い鼻
俳句点6.75(池田7 坊城5 櫂7 岸本8 減点0)

中町 夏暁を低く鴉の啼き渡る
俳句点6.75(池田6 坊城6 櫂8 岸本7 減点0)

大塚 子が啼いて頭の中が灼けてゐる
俳句点7.25(池田8 坊城8 櫂8 岸本5 減点0)


結果
中町 俳句点20.00 残り時間2分16秒 時間点0.0 合計20.00 勝
大塚 俳句点20.50 残り時間1分02秒 時間点-0.5 合計20.00 負



決勝戦
先手 北大路 翼
後手 中町とおと

 決勝戦は、高得点連発の見応えのある戦いとなりました。
 特に高得点を上げたのが、中町さんの心象風景のような、「空蝉にかすかな夜気が満ちてゐる」と北大路さんの新宿の夜の風景を思わせる「熱帯魚夜にだけ開く美容院」。特に北大路さんの句は、審査員3名が9点を付ける句となりました。
 それぞれ3句を4分以内に作句。そのスピードと手に汗握る展開に、会場全体が息を呑むようでした。
 最終的に、0.5点差で北大路さんが優勝を果たしました。


決勝戦内容

席題句 杉垣に昼をこぼれて百日紅(漱石)

北大路 昼寝覚穴のどこかにゐるやうな
俳句点7.25(池田8 坊城8 櫂7 岸本6 減点0)

中町 目の覚めていつしか蟻の道にゐる
俳句点7.50(池田7 坊城8 櫂7 岸本8 減点0)

北大路 目薬の小さき気泡熱帯夜
俳句点7.50(池田8 坊城7 櫂8 岸本7 減点0)

中町 空蝉にかすかな夜気が満ちてゐる
俳句点8.00(池田8 坊城8 櫂8 岸本8 減点0)

北大路 熱帯魚夜にだけ開く美容院
俳句点8.25(池田6 坊城9 櫂9 岸本9 減点0)

中町 熱の夜の枕辺を鳴く蜩よ
俳句点7.00(池田6 坊城7 櫂7 岸本8 減点0)


結果

俳句点23.00 残り時間2分29秒 時間点0.0 合計23.00 勝
俳句点22.50 残り時間2分07秒 時間点0.0 合計22.50 負



両大会の優勝者の工藤 惠さんと北大路 翼さんは、第四回龍天王(松山代表)の天玲さん、第一回松山市長杯チャンピオン片野瑞木さんと共に、10月29日、松山市にて頂上決戦を行います。観覧方法は、9月15日、松山市HPにて発表します。


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特集2

WHAT Vol.4 2016 [A]&[B] 出版記念特集


その1

 「週末俳句活動句会」(略して「週活句会」)は20代の俳人たちのインターネット句会です。
今年も週活句会参加者の中から有志16名が集まり、それぞれの15句の作品を編んだ、合同句集『WHAT』を制作しました。昨年同様、[A]と[B]の2冊分冊での出版となりました。
 合同句集『WHAT』の出版を記念して、今月と来月の2回に分けて、特集記事を掲載いたします。
 今回は、[A]に掲載された8作品について、杉山久子さんと森本樹朋さんに、それぞれの作品について評を頂きました。


「海の町」下楠絵里

下楠絵里(しもくす えり) 1997年生まれ、東京都出身。滋賀県在住、京都大学文学部二回生。関西俳句会「ふらここ」所属。

六月や海のはじまる町に来て
 命のエネルギーが外へとあふれ出る頃、海に向かいながら、作者の視線は海の向こうにあるものを志向しているように見える。前半の句群はどの句も風を感じさせる。晴れ晴れとしたその風は作者のみならず、読者をも外界へと連れだしてくれる。
凱旋といひて口笛吹く夏野
 自分を内側から鼓舞するような呟き。そして夏野を渡ってゆく口笛は、自身を開放してゆくファンファーレのごとき響き。
飛び込みのからだ素直なかたちなり
海の味残るくちびる合歓の花
 外へ外へと向かっていた意識が、一度自らの肉体に戻ってきた時、内面を見渡す柔かさへと転化してゆく。
地球儀に人の領域蝉時雨
 外界と内界を旅したのちの、俯瞰する眼を得た作者の向かう先が気になる。


「みづの行方」鈴木啓史

鈴木啓史(すずき ひろふみ) 1996年生まれ、東京育ち。「群青」所属。立教大学二回生。立教池袋OB、第17回俳句甲子園出場。

 さまざまな視点から水の行方を追う試み。
フラスコに異物沈んでゐて涼し
 それが何かは言っていない。「異物」を「異物」として受容する心持ちが、「涼し」なのだ。
手花火の炎を次の手花火へ
 手花火の風景としてよくあるものではある。機械的とも思える動作を淡々と描写しつつ、あたたかさがじわりと伝わってくるのは、引き継ぐという行為が静かに描かれているからだろう。
夏果てる孤島にいつまでも残る
夕凪のころ取りあへず次の街
 「残るんじゃなかったんかい!」と突っ込みたくなるこの連なり。執着していたかと思えばあっさりとした身のかわし様は結構好きだ。
 取りあえずは終わった旅がまだ続くことを予感しつつ、取りあえず見守ってゆきたい。


「雨」魔王

魔王(まおう) 1995年生まれ、広島県出身。「群青」「いつき組」。普段は情報工学を勉強しております。

 季節の巡りの中に雨の表情を追いかけた十五句は、四季を通して自然と細やかに対話する日本語の豊かさを改めて思い起こさせる。
ウヰスキー工場暗し花の雨
 ウヰスキー工場は確かに暗い。当たり前のことを当たり前に言われてみると「お」と思うことがある。花の雨にはどこか華やぎの風情がある。暗さと明るさ。光量のバランスがいい。
ぺたんこの結婚指輪初時雨
 ごくシンプルな指輪だろう。「初時雨」の季語に気負いのない清々しさが感じられる。
雪時雨手紙は放たれてしまふ
 やや持って回った表現の「放たれてしまふ」。ここには一度手放してしまったのちの、取り戻せないものへの切なさが込められているのではないだろうか。
 繊細な感覚を持つ作者が他の事物をどう詠んでゆくのか楽しみ。


「星占い」葛城蓮士

葛城蓮士(かつらぎ れんぢ) 1994年生まれ、埼玉県出身。立教大学四年。ツイッター句会「ゲリラ句会」運営。

 星座をモチーフにイマジネーションの豊かさで勝負しようとした面白い挑戦。
清明や水瓶に木漏れ日の青
 輝くばかりの生命感が伝わってくる一句。最後まで読んで、「青」の一語が上五の「清明」に再び戻ってくる瑞々しさ。
鍋パーティ目秤しては水を足す
汗だくの猫背汁だくの牛丼
 ファンタジックなものが多いかと思いきや、生活に密着したいい意味で俗な句も多くて楽しく裏切られた。
笛悴む蛇遣いのまねのでたらめ
 前半のごつっとした、後半のだらだらした破調がなんとも内容に合っていて、緊張と弛緩の配分が心地よい。
 日常とファンタジーのあわいにあるこんな句が、もしかすると作者の真骨頂なのかもしれない。


杉山久子 1966年山口県生まれ。第2回芝不器男俳句新人賞受賞。句集「鳥と歩く」「泉」他。「藍生」「いつき組」「ku+」所属。


「窓際」ほりぴー

ほりぴー 1992年生まれ、愛媛県出身。愛媛大学俳句研究会OB。現在は地元企業に勤める。

 生活の中に句材を見付け、見たもの感じた事を自分の言葉で句にしようとする真摯な姿勢が全体から見てとれる。
初雷のばりばりと食つてをる
 この15音の句には若さと勢いがある。「ばりばり」のオノマトペは初雷の大きな音に対して有りがちであるが、「ばりばりと食つてをる」と続けることでオリジナリティーが出ている。最後「をる」と連体形で止めたことで、再び最初の「初雷」に返って行く。
こびり付く寝癖のやうな夏木立
 夏の木立は生気あふれる若々しさがあるが、その旺盛な生命力を鬱陶しく感じることもある。直してもすぐに立つ頑固な寝癖に喩えた発想がユニークである。同時に俳諧味も感じさせる。
満員の列車を捻り出す旱
 日陰のプラットホームを「捻り出された」満員電車が再び炎天下の旱へと出てゆく。句またがりの表記と「捻り出す」の言葉に乗客のやり切れなさが滲み出ている。「ひ」の韻も効果的である。


「初心者マーク」つぼみ

つぼみ 1992年生まれ、奈良県出身、東京在住。大学時代の授業がきっかけで俳句に出会いました。東京に来てからは句会難民。

 個性的な詩語が随所に出てきて、作者の感性の豊かさを感じさせる。ただ、読んでいて解釈に迷うところがあるのが気になる。思いを正しく伝える表現技術も大切だと思う。
蒼天に風が熟してつばめ来る
 春になって吹いてくる東風を冬の北風と区別して「風が熟して」と捉えたところに詩があり、作者の感性が光る。
南風吹くSuicaじゃ通れない改札
 スイカカードはJR東日本の乗車カードであるが、今では相互利用が出来て全国の主要都市で使えるらしい。作者は、カードが相互利用出来ない南風の吹く小さな駅に降り立ったのであろう。最新の言葉をどんどん句に取り込んでゆける柔軟性も若い人の強みである。
秋晴れを蹴飛ばしていくコンバース
 アメリカ製の人気のスニーカー「コンバース」で颯爽と歩いている姿が見えるようだ。上五中七の表現に若い感性とオリジナリティーがあり、躍動感が描かれている。


「春画」ローストビーフ

ローストビーフ 1988年生まれ、大阪府出身。本名、羽田大佑。吹田東高校OB。第7回、第8回俳句甲子園出場。

 季語の本意を正しく把握し、季語を活かした句作りに技術の高さを感じる。また、作者の個性から滲み出たと思われる詩情が全編に漂っている。
夕凪やけふを消しゐる除光液
 この句の物語性に読者は思わず引き込まれて行く。今日一日の出来事を記憶から消し去るように、除光液で丁寧にマニキュアを落としている。折しも外は海風が止んで蒸し暑い夕凪である。この耐え難い環境の中で消している昼間の出来事は良いことでないと想像できる。
豆ごはん終生母の子でありぬ
 豆御飯は微妙な塩味の加減が家庭ごとに異なり、おふくろの味として味覚の記憶に刻まれる。助動詞「ぬ」の終止形が句を締めている。
雪しまきをんなは春画楽しみぬ
 雪と風が吹き荒れる日は、風の治まるのを家の中でただ待つのが雪国の生活と思いきや、作者は若者らしく大胆に発想を飛ばしている。そしてオリジナルな世界を構築している。


「ここからはじまる」藤田夕加

藤田夕加(ふじた ゆか) 1987年生まれ、愛媛県出身。お気に入りの柑橘は、「紅まどんな」と「媛小春」。

 女性ならではの細やかな感情が随所に見て取れる。その感情が詩情を生み、句に独自のソフトな風合いを醸し出している。読後感が実に爽やかである。
春愁や禁則の響き欲しけり
 春だからこそ感じるそこはかとない愁い、哀しみの中に作者は居るのだろう。その反動として、自分を縛ってくれる禁則の存在を欲している。この不条理な感情もまた春愁のなせるものかも知れない。
石鎚の高きは理想水澄めり
 石鎚山の高き標高に、作者は精神的な何かの理想を見ているのであろう。青空にくっきりと浮かび上がった霊峰に、「水澄めり」を取り合わせたことで格調高い句になっている。
小鳥来る十五センチは切りし髪
 庭先に小鳥が来る秋に、女性にとって大切な髪を切った。それも、助詞「は」で強調されている長さまで切ったのである。気持ちの上での区切りか、或いは強い決断があったのであろう。季語「小鳥来る」から、髪を切った後の明るい未来を予感させる。


森本樹朋 1944年生まれ、愛媛県松山市。いつき組所属。選評大賞2015優秀賞。第30回(平成27年度)俳壇賞候補。


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美術館吟行


第21回

愛媛県美術館 
ブータン 〜しあわせに生きるためのヒント〜展 吟行会

文 天玲
取材協力 特別展「ブータン」愛媛実行委員会(愛媛県、愛媛新聞社、テレビ愛媛、東映)、愛媛県美術館



 「あなたにとってしあわせとは」なんていう質問が一番困る。テーマが大きすぎて何をどこまで言えばいいのか。俳人ならば、漠とした「しあわせ」を、具体的な「モノ」に象徴させ、自分が思う「しあわせ」をさらりと伝えられないと……とは思っていても、それが簡単にできるくらいなら苦労はしませんよ、なんてことをつぶやきながら行ってきました、「ブータン展」。 吟行メンバーはチャンヒ ひかる しんじゅ ころん 菅紀子 猫正宗 恋衣 蓮睡 天玲。

 展示は、まず仮面から始まる。

善行悪行仮面ぐるぐる月へ舞ふ  ひかる
来世にもダリアが赤い道化なら  チャンヒ
山の端にギン・チャムの面三角旗  菅紀子

 チャムは、仏法を人々に解りやすく伝えるため、正しい行いや死後の世界を視覚的に表した宗教的仮面舞踏であり、ブータンにおける主要な文化遺産のひとつである。なかでも時に狂人的かつコミカルに、独特な役割を果たす「アツァラの面」は印象深い。

「キラ」と「ゴ」の模様祈りとなる晩夏  蓮睡
金糸刺す胸の高鳴り山滴る  天玲
さはやかに鳳凰の向く東西  恋衣

 ※キラ……女性用民族衣装。
 ※ゴ ……男性用民族衣装。

 続いて、伝統的な工芸品、民族衣装にうつる。イラクサ 野蚕 ラックカイガラムシなど地元で産出する繊維や染料でつくられた織物は、精緻で色彩も豊か。

 仏教国であるブータン国民のメンタルには、日常にある信仰と祈りが色濃く反映され、そのアイデンティティは仏教と密接に結びついている。ここに展示される仏像 仏画は、本来ブータン国立博物館の特別な収蔵庫に保管され、祀られているものであり、美術的価値のみならぬ、生きた祈りの対象である。

土着なる女神の坐像風涼し  猫正宗
天地山川輪廻転生花野花野  ひかる

 信仰、伝統、そしてブータンと言えばもうひとつ、触れておくべきは、愛されるブータン王室である。若き国王と王妃が来日されたのも記憶に新しい。ブータン王室の貴重なコレクションも展示されている。

国王の蓮の帽子の上は空  チャンヒ
百年の蓮を咲かせて王の帽  ころん
王様の帽子やはらか小鳥来る  しんじゅ

 そしてブータンより日本に贈られた「幻の大蝶 ヒマラヤの貴婦人」。

月のみぞ知るヒマラヤの蝶の群  猫正宗
やはらかにシボリアゲハの羽根さやぐ  恋衣

 この展示のすべてが「しあわせに生きるためのヒント」と言われればよくわからないが、すでにじゅうぶんしあわせだと思ってる私にとっては、とても見応えがあり、仏教的なインスピレーションをぴしぱし受け取れる、満足度の高い展示であったことには間違いない。

両の手を合はすしあはせ豊の秋  しんじゅ


善行悪行仮面ぐるぐる月へ舞ふ  ひかる

王様の帽子やはらか小鳥来る  しんじゆ


天玲
穂積書道教室俳句部部長 すてきな俳句仲間が増えてしあわせです。



愛媛県美術館 所蔵品展
山口晃展 松山シフト
〜道後に関する作品から代表作まで〜
吟行会

9月3日 朝10時現地集合
参加無料(入館料は別途)
申込締切:9月1日
『100年俳句計画』編集室までお申し込み下さい。
TEL 089-906-0694

吟行ナビえひめ
http://iyokannet.jp/ginkou/


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百年百花


大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠

2016年度 第二期
第二回


朱夏
天玲

弥勒来て足を浸せる泉かな
幻視今朱夏の獣の面の奥
瞑想に朱夏の完結していたる
蓮は夜に醒め転生を待つ時間
天界に触れ来し鳥へ熱の砂
打ち水や赤色の石トルコ石
滴りや真名は龍樹の手をはなれ
守護尊に涼しきくびれ結跏趺坐
イラクサの布へ涼しき糸を刺し
生命の入れ物として百合は枯れ
王朝の蝶を眠らす暗室よ
果ての島でも山上の月でもなかりしもの

気が付けば句歴が10年超に。俳句が出来る環境と仲間に恵まれ、ブータンのひとのようにしあわせです。



茄子
マイマイ

庭先の小さき百日紅や良し
ジャケットに灼け亡命の横顔も
廃屋に美しすぎる凌霄花
蜩の続きのウクレレよ髭よ
落雁のピンクパープル盆用意
父のことふと蜻蛉の来て帰る
茄子の牛たるべき茄子と焼茄子と
一度消え二度消え苧殻焚き残る
たましひも並べて渋滞つづれさせ
サックスへ赤き光線八月尽
スキャットやいつしか葛の花暮るる
秋声を織りなす木々の影の中

1966年愛媛県生まれ。老人保健施設に勤務。トイレ誘導時、お年寄りの耳元で小噺をささやくのが密かな楽しみ。



夕焼の部屋
河野しんじゆ

冠押さへて梔子の花嗅ぐ
太陽の時間短し蛍の夜
海色の桶へとぷとぷゼリー製す
荒梅雨の螺旋階段出陣ぢや
幽霊の足を探すや井戸浚
引替へに朱夏失ひし人魚姫
我の肝の干したる木まで泳ぐ
河童忌の背さすられてゐて不安
さみしがる梅酒ゆすつてやりました
人は皆やさしき風の青葡萄
夕焼の部屋で踊り子ばかり描く
行水の足跡若き歩幅なり

1955年生まれ。第4回、5回大人コン優秀賞受賞。俳句甲子園一般ボランティア委員会所属。毎年感動してうるうるしてしまう。



帰省
日暮屋又郎

アースの由美かおるがバス停に待つ帰省
蓮池のあそこらへんにある悟り
墓洗う背中のここにやいと痕
帰ったことにしてまだいろよ送り火
会社やめる度胸もないしチッチ蝉
言いたきを言えず鬼灯でブーたれる
朝礼冷ややかに派閥真っ二つ
秋茜囲んでくれても飯喰うための車
誰もかれも傷つけて幾千もの夜に流星
それじゃあ言わしてもらおうか柘榴が割れた
受け入れた早期退職昼の虫
錆びついたダットサン真葛原に雨

1959年2月生まれ。現代俳句協会会員。自由律のひろば会員。第三回、第五回、大人コン優秀賞受賞。句集『デカパンのピカソ』出版。俳句というフィールドをめいっぱい楽しんでいる。


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新 100年の旗手


読者投稿による3ヶ月連載作品集

(2016年7月号 〜 2016年9月号 3/3回目)


雀の指点字
KIYOAKI FILM

子雀や清少納言の好きな鳥
道にポツンとヘタを落すよ雛の顔
見えず聞こえず歩くよ雀
夏雲雀ぱくぱく食べて逃げにけり
指点字習う薄目に燕の巣
楽しみは父の御飯ぞ夏の翳
向日葵や眼の中の翳父の影
半分の耳やマリモのぼうぼうと
空中の雛の笑顔や水遊
我無職額の真水や蝉時雨

1977年神戸生まれ。「海程」同人。イエス・キリスト様を信じるオッサン。来年二月に私家版の詩集を出そうと、詩作している。美しい女性を見るとドキッと、心にコスモスが咲き、雀が来る。気弱である。難聴になって、視力も悪いので、盲ろう者になる恐れを抱く。指点字学習中。点字も手話も勉強中。



ふるさと
砂山恵子

夕日射し膨らむやうな薄かな
赤まんま雲はいつまで不定形
三歳児釣瓶落としの真ん中に
落花生抜くや甲羅のごとき土
報われぬ仕事と言うも草の花
菊の香や名物教授退官す
秋日和ひそかに匙は滑り落つ
秋の日や心の中の下駄を蹴る
透明な時間の中で梨を剥く
歩みても歩みても稲ふるさとは

1959年香川県生まれ。ありがとうございます。すべて歌いきりました。今から一人の医師として、女性として、そして俳句を愛するものとして生きていきます。俳号dolce(ドルチェ)。



2016年度第4期連載者募集中
締切 11月15日(火)
応募内容 2017年1月号に掲載できるタイトル付の10句
応募先  Eメール magazine@marukobo.com
*件名に必ず「100年の旗手応募」と明記して下さい。
 (郵送またはFAXでも受け付けております。詳しくは編集室までお問い合わせ下さい。)


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新 100年への軌跡


2016年度 第二期
第二回


水蜜桃
安岡麻佑 

水海月海に真水の湧くところ
耳裏の黒子いびつや藍浴衣
夜の秋故郷の島の浮かびくる
初茄子のどこから刃入れてやろ
出流れの茶にうつすらと晩夏光
蜩のこゑ乳飲み子の濡れし顔
さまざまに沈められたるゐもりかな
水蜜桃指の腹切るぎこちなさ
踏み込めばをどりの人となりにけり
アトリエと呼ばるる町屋秋団扇
爽やかに訃報を告げるラジオかな
愛犬の眼窩深々稲光
練絹を着てとほき人吾亦紅
手の平の肉押し返す飛蝗かな
花立の水の暗さよ墓参り

安岡麻佑
 1995年生まれ。第13、14回俳句甲子園出場。現在は関西俳句会ふらここで大阪を起点として活動中。


俳諧遊戯抄
安里琉太 

元旦の大風呂敷を廣げけり
初十日籠に僧乗效果など
藥喰疊の色の濃き淡き
あたたかに星さの代を燕クせむ
遲き日を君が居らんでかつぱ漬
親馬鹿の相の出てゐる巣箱かな
車曳き草矢上手であられしよ
さはされど同情を欠く泥鰌鍋
批家の夜を蓮見とはけつたいな
ほほづきや鬼籍を漏るる狗獸
蟲の宿暮れて撥條仕掛けとも
古色その最たる月の潤むかな
~無月盜起つ禽の日にまがふ
冬蠅ともなれば潰しの效かぬなり
年詰まるをとこもすなる廚ごと

(※テキストデータ上では表記出来ない異字体や旧字体を、
  表記可能な代替文字もしくは仮名で表記しています。)

安里琉太
 銀化・群青同人。俳人協会会員。第十六回銀化新人賞、第二回俳句四季新人賞奨励賞受賞。



水の匂い・獣の臭い
樫の木

水海月海に真水の湧くところ  安岡麻佑
 海面近くを「水海月」がいくつも漂っていて、その下の海底に「真水の湧くところ」があるという意外性。真水が湧くように海月もまた海底の暗く深い穴からぽこ…ぽこ…と湧いているのではないかと思えてくる。

蜩のこゑ乳飲み子の濡れし顔  安岡麻佑
 夕暮れ時、母子は「蜩のこゑ」に包まれている。夕暮れ時と言っても昼間の熱は大気に残っていて「乳飲み子の顔」はうっすらと汗に濡れている。と同時に「蜩のこゑ」の緑色を帯びた湿り気に濡れているのだろう。

ほほづきや鬼籍を漏るる狗獸  安里琉太
 「ほほづき」を盂蘭盆会に飾る風習がある。「鬼」は寺院の過去帳のことだが、そこには「狗獸」の事は記されていない。それが何とも哀れに感じられる。動物たちの霊はお盆に我が家に帰ってくるのだろうか。

~無月盜起つ禽の日にまがふ  安里琉太
 神が居ても居なくても生と死の営みは続く。「盗起つ」とは広辞苑によれば「鷹狩で、鷹に追われて草陰に隠れた鳥がひそかに飛び立つ」こととある。音もなく飛び立った鳥は太陽の中に飛び込んでその姿が見えなくなってしまう。

樫の木
 1965年愛媛県生まれ。大分県在住の家具職人。第5回選評大賞優秀賞。


直翅類
都築まとむ

 鈴虫を飼って三年目になる。例年より一か月も遅く孵化した子らが八月十四日に初めて鳴いた。秋は確実にやってきた。今回は秋の虫の句を読んでみた。

手の平の肉押し返す飛蝗かな  安岡麻佑
 捕まえた飛蝗が飛び立つさまだろう。飛蝗のよく発達した後足は、かすかではあるが確かに「手のひらの肉を押し返す」。最後に「飛蝗かな」と詠嘆することで、手のひらに残る飛蝗の脚の感触を余韻として表した。この語順も手のひらから飛び立った飛蝗の姿と空間を巧く見せている。

蟲の宿暮れて撥條仕掛けとも  安里琉太
 「蟲の宿暮れて」で時間と空間を巧く表現した。
 夜が深くなるにつれて蟲の声はますます厚みを増してゆく。それは「撥條仕掛け」のように一定のリズムで奏でられる。「蟲の宿」だからこそ体感できる音と闇。「撥條仕掛けとも」という切れのない表現は、永遠に続くかのような蟲の闇のことだろう。

都築まとむ
 1961年愛媛県八幡浜市生まれ。第3回選評大賞優秀賞。


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まつやま俳句でまちづくりの会(mhm)通信


第66回

文:紫羽


第31回久兵衛会古川夕涼み大会

 7月16日(土)古川集会所広場にて「第31回久兵衛会古川夕涼み大会」が開かれました。カラオケやバンド演奏、ビンゴゲーム大会などの催し物とともに、去年に引き続き久兵衛俳句会が行われました。夕涼み会の開場に合わせて投句を受け付け、mhmのメンバーで選句、結果発表という流れで行いました。
 今回参加したメンバーは、若狹夫妻、しんじゅ、紫羽、脇々の5名です。今回は久兵衛会の方が子供たちにと、たくさんの定規を用意してくださいました。この定規、なかなか大きい長方形で、縦横に目盛りがついているだけではなく、内側に開けられた穴によって二種類の直角三角形を描けるという子供心をくすぐる一品でした。今年で二回目ということに加え、この参加賞の定規を目当てに、たくさんの子供たちが投句ブースに遊びに来てくれました。中には、今日来てない弟にあげるためにと二句投句してくれた子など、定規が複数ほしくて何句も投句してくれた子も居ました。去年大量投句してくれたサッカー少年も投句してくれました。この子、なんとなく大人びたかなと感じていると、今年で中学生になったそうです。一年で人の印象はだいぶ変わってきますね。
 18時半になり、ビンゴゲームが始まりました。この頃には投句箱がいっぱいになってきたので、一旦投句を箱から出して、若狹さんしんじゅさんによる選句第一陣が行われ始めました。その間も引き続き投句受付を行いつつ、ビンゴゲームにも参加。今年はmhmメンバーでは2名が景品をもらうことができました。
 このビンゴ大会が終われば最後の投句ラッシュです。もう一句もう一句と、たくさんの子供が投句してくれて、ここで投句受付は終了です。先程の第一陣の選句と、この第二陣の選句の結果を総合して、いよいよ結果発表となります。
 さて気になる結果ですが、今年もたくさんの投句の中から、小学生の「子どもの部」と中学生以上の「大人の部」の、それぞれ10句が優秀賞に選ばれ、さらにその中から最優秀賞が選ばれました。今年の子どもの部では、夏休みの間だけ僕の「先生」として勉強を教えてくれるお兄ちゃんの姿を詠んだ、という、弟ならではの句が。大人の部では、朝、道端に居る青大将と、それによって大きく列を乱された子どもたちの姿を詠んだ句が選ばれました。
 こちらの大人の部の最優秀賞は、なんと2年連続受賞の、前町内会長 林さんでして、もうこれは来年から殿堂入りでいいのではという笑い話に会場が盛り上がり、今年の俳句大会は終了しました。
 なお、今年の受賞作品は愛媛銀行古川支店にて掲示されています。

子どもの部 最優秀賞
にいちゃんが先生になる夏休み  椿小学校四年 みずの はると

大人の部 最優秀賞
登校の列を乱して青大将  林 一孝



第15回まる裏俳句甲子園
キャッチコピー募集
 来年1月8日(日)開催のまる裏俳句甲子園のキャッチコピーを募集します。応募締切は、9月22日(木)。
詳しくはhttp://e-mhm.com/まで。

 mhmでは松山市内外問わず会員を募集中です。原則、毎月最終金曜日19時からマルコボ.コムにて定例会を行います。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)またはFacebook(http://www.facebook.com/mhmhaiku)まで。


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Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳 朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ

No.38


Dog days of summer
Alone under shady tree
Blowing nose on ground

手鼻かむ音も独りの木下闇

(直訳)
夏の盛り
木陰に独り
手鼻をかむ


 These are the perfect days to be lazy. All plant life is green and all animals are resting for health as they dream their next adventures.

 怠け者となるのに最適の日々。生きとし生ける草木は緑に、動物達は身を労わりつつ微睡む、次なる冒険を夢見て。


ナサニエル・ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。2013年7月より山梨へ移住。


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JAZZ俳句ターンテーブル


文 白方雅博
(俳号 蛇頭)

第66話
ザ・クォータ  レッド・ガーランド


名盤と蛇頭穴に入る百回目  いしき

 第100回JAZZ句会を寿ぎ、今回のテーマに加え「百」を詠み込んでくれたJAZZ俳句が61句中18句。微妙な季語への疑問など払拭する強烈なご挨拶句を詠んでくれたのは、いしきさん。スプレーで描く大型俳画「キム・チャンヒ賞」に輝いた。

ジャズという百鬼夜行に星さやか  猫正宗

 その内の一句が危うくチャンヒ賞をゲットしかけたので「なんでいなんでい四文字熟語を二回も使ったりなんかしてい」と、記念句会不参加の猫さんに江戸前風ダメ出しをした。ためしにスマホで「百」で始まる四文字熟語をググッてみると、あるわあるわ17個。「猫ちゃん句作を急ぎ安直に走ったな!?」と呟きつつ別の会場で演劇仲間とイベント運営に勤しむ彼の姿を想像した。

酒とバラの響き噎せ込む秋雷の夜  バード

 今回投句で初参戦のバード氏が願ったり叶ったりのJAZZ俳句を詠んでくださった。7月2日の「四国地域福祉実践セミナーin高知市」で市トップとしての歓迎役と講師を務めた氏が大のジャズ好きで、学生時代はビッグバンドでベースを担当してたらしい、という情報を得た。ならば、と謹呈「JAZZ句集VOL・2サキソフォン編」を主催者に託したら、早速に氏のJAZZ俳句がPCの画面に飛び込んできたのである。
 で、節目のテーマ・アルバムはレッド・ガーランドの「クォータ」。これは随分前に決めていた。理由はA面2曲目、ヘンリー・マンシーニ作曲の「酒とバラの日々」が僕の一番の愛聴ナンバーだから。取分けガーランドが奏でるブロックコードから、おもむろにジミー・ヒースのテナーサックスが語り始める行は格別の味わいなのだ。
 ともう一つ、若き日に生ガーランドを至近距離で聴いた瞬間の感動。ルー・ドナルドソンのアルトサックスがはち切れそうな音で、ジャミル・ナッサーのベースとジミー・コブのドラムスが生物のように躍動してた。何よりガーランドのハンマーのような指から繰り出される音が分厚く繊細だった。
 その貴重な時を体験させてくれたジャズ喫茶「アルテック」が今年の10月末に42年の歴史を閉じる。7月3日、セミナー会場からの帰途、旧友と店を訪ねてみたら「もう70超えたきね〜」と若々しく語る店主の青山さんにお会いすることができた。あの時、ガーランドが弾いたグランドピアノも健在だった。

モーダルに月下のシャドウボクシング  暮井戸
ボクサーの拳に黒鍵の秋思かな  蛇頭

 ボクシング好きのマイルス・デイヴィスが、元プロボクサーのレッド・ガーランドをピアニスト兼用心棒として雇った。なんてところが発想の出どころ。このネタの一番人気句に僕の句を強引にくっ付けた。

秋蝶のさらに破れてしまひたる  夜市

 夜市さん、人気句を詠んでくれてありがとう。でも、これってJAZZ句なの!? 疑問を残し「アウ・ヴィーダーゼン」さよなら、又お目にかかりましょう。


Today's Turntable
『ザ・クォータ』1971年/mps
『アウ・ヴィーダーゼン』1971年/mps


「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の毎月第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は月曜日の21時〜22時。
次回のJAZZ句会は、9月25日(日)13時より。テーマは、我が句会の重鎮「ジャズドラマー堤宏文」です。マジシャン&フォトグラファー等多才なところを含め3句詠んで下さい。マミコン(俳号)さんのお店WBGOのHPは必見。


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ラクゴキゴ


第六十六話

文 俳句 らくさぶろう


『たちぎれ線香』
置屋の母の想い

 大阪・船場の大きな商家の若旦那、最近金遣いが兎に荒くなったのでこれでは困ると親族会議が開かれた結果、三番蔵に百日間住まわせ、外へ出さないでおこうということに決まる。
 純情なボンボンだった若旦那、父親の代わりにある会に出席したところに若い芸者・小糸がもてなしに来ていたため彼女に一目惚れ、小糸も男前の若旦那に惹かれる。毎日毎日置屋へ通い、そりゃ金遣いも荒くなる。
 無理矢理蔵に入れられた次の日から若旦那宛てに手紙が来始め、毎日何通もの手紙が届いたが八十日目でぷつっと途絶えた。
 百日経った日、番頭が一番最後に届いた手紙(未開封)を若旦那に見せると、両親に会う前に天神さんまでお参りに行きたいと言い、出かける。
 天神さんに参るというのはウソで、やって来たのは小糸のいる置屋であった。顔を見せると、小糸の母でもある置屋の女将がびっくりした顔で迎える。
 実は、若旦那が蔵へ入った日に小糸と会う約束をしていたが来なかったため、待ちこがれ、手紙を届けつづけたが返事もなく結局食べるものものどに通らなくなり、亡くなってしまったという。
 それを知った若旦那、悔やんでも悔やみ切れない。
 女将は若旦那が贈ってくれた三味線を仏壇へ供え、若旦那は線香に火をともし手を合わせる。
 お口でもぬらして下さいと酒をすすめ、一口呑んだところ仏壇の三味線が突然鳴り始める。
 若旦那、小糸が弾いてくれていると涙を流しながら手を合わせ、鳴っている地唄の「雪」に聴き入っていたがふっと止んでしまった。
若旦那「何で小糸もう弾いてくれへんのや」
女将「若旦那、もう小糸は三味線弾けしまへん」
若旦那「何でや?」
女将「お仏壇の線香がちょうどたちきりましたがな」

 上方落語の中でも、大ネタ中の大ネタです。下げ(オチ)の部分は、説明が無いとわかりません。
 昔は芸者遊びをする時に、時間を計るのに線香に火を点けて使っていたということです。一本たちきるといくら、という計算。ですから小糸の三味線が途絶えたということです。
 今回の季語は「秋思」ですが、この噺は季節感はあまり強くないので直接関係があるわけではないのですが、切ない想いが「秋思」に通じるところがあると思って結びつけてみました。
 約束の日に顔を出さず、若旦那のことを想って想って想いつづけながら命が消えてしまった娘。母である女将からすれば敵が来たといってもいいのですが、おだやかに語り、若旦那の事情を知ると涙を流します。
 大学生のとき、初めてこの噺を聴いた僕は、「落語にもこんな噺があるのか」と強いショックを受け、落研を引退するときの噺はこれに決めた!と思い、その通り最後に演らせてもらいました。
 ハメモノといって、実際に舞台袖で三味線を弾きながら「雪」という地唄を入れてもらう……。
 何とも学生からするとぜいたくなのですが、当時大阪から三味線を指導に来て下さっていた桑原ふみ子師は快く演奏して下さいました。
「おっしょはん」という呼び方で皆から愛されていた師匠。お亡くなりになって早二十年になります。
 ふと立秋の日に、おっしょはんのことを思う私であります。

三の糸きゅんと締め上げ秋思かな



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歳時記「無季」がバイブル


第11回

文 現代俳句協会会員 日暮屋 又郎


 別れぎわ、彼女が妻に言った。「ハグしていいですか。」こらえきれなかった顔が泣きくずれた。少し離れた場所で、僕ももらい泣きの大粒の涙が、ポロポロ地面にこぼれおちた炎天。
 それは僕達にとって、あまりにも突然の宣言だった。気の置けない仲間が集う句会に、なくてはならない存在となっていた彼女の引っ越し。今夜の句会が最後だというのだ。ご主人の希望で定年を、故郷で迎えるためだという。すると彼女もそこが終の土地となるのだろうか。
 吟行の小旅行、宿まで一番近いルートなのに、わざと遠回りして彼女の村を避けた。その理由は、そこを通るとまだ引っ越して一カ月くらいで、何だかんだ忙しいであろうに、どうしても彼女に会いたくなるからだ。迷惑になるだろうと思い、迂回した。
 一泊した帰り、昼食をと思っていた店が定休日。でも落胆は全くしていない。二人の思いは言わずとも一緒だ。妻が探した口実は、うなぎ屋が閉まっていたため、彼女の住む村で、現在売り出し中のオムライスを食べに行くというものだ。
 二つ返事で出向いてきてくれた彼女は、いつも通りの屈託のない笑顔で少し安心した。近所まわりにはご主人の親戚が多く、そこで不慣れな農作業に従事しているという。大好きな俳句とパソコンから遠ざかって、はやく周囲に溶け込もうとしているらしい。近況の情報交換で大いに盛り上がったが、やがてほったらかしの家、夫やお姑さんの事が気にかかるのか、一時間足らずでおひらきとなった。
 妻曰く、そのような完全アウェーの状況では120%できて、やっと普通の嫁としか言われないだろうから、今はさぞしんどい時であろう。ハグに、その思いのすべてが込められていた。
 しかし、悪い事ばかりではない。あの日のハグは、彼女と妻の間に、句友という繋がりだけでも素晴らしい事なのに、それを超えて、生涯の友となりえたと、確信した瞬間でもあった。
 その村が、彼女自身にとっても故郷と思えるほど、周囲に溶け込めたら、きっとまた句会で一緒に語り合えるであろう。その日が早く来ますようにと祈る日暮屋である。

重心を低くして故郷にいる  一井真理子


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ホンヤクサイホンヤク


翻田訳蔵


 俳句初心者、翻田訳蔵がネット上の翻訳ソフトを使って名句を翻訳、再翻訳し、そこからインスパイアされた(パクッた)句を発表していこうという馬鹿馬鹿しくも実験的で図々しいコラムです。

今回の俳句
大根蒔く日より鴉を憎みけり  河東碧梧桐 


 さっそく、Google翻訳(日→英)から。

Keri hate crow than radish sow day

 再翻訳(英→日)

ケリは大根の雌豚の日よりもカラス嫌い

 大根の雌豚とは? 大根のように白い雌豚? 雌豚のように丸々太った大根? 大根を食べて育った雌豚? 大根で作った雌豚のオブジェ? ともあれ、ケリちゃんはその大根の雌豚の日という記念日よりもさらにカラスが嫌いなようです。
 「sow」は動詞では「蒔く」なのですが、名詞だと「成熟した雌豚」となるようです。

 続いて、エキサイト翻訳(日→英)

The weather crow which sows Japanese radish is hated and kicked.

 再翻訳(英→日)

ダイコンをまく天候カラスは憎悪されて、蹴られる。

 憎まれた上に蹴られるカラス。

 最後に、Yahoo!翻訳(日→英)

I reject it in hatred of crows from a day to sow a Japanese radish

 再翻訳(英→日)

私は、日本のラディッシュをまくために、日からカラスに対する憎悪で、それを拒絶します

 やはり、そうとうカラスは嫌われていますね。しかしこちらが一方的に拒絶したところでカラスは日本のラディッシュを狙ってくると思います。話の通じる相手ではないので蹴っ飛ばすほうが良いかと。

 それでは、この3つを受けて一句。

大根蒔く日より鴉を憎み蹴り  翻田訳蔵



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超初心者から中上級者まで楽しめる

100年投句計画



 「100年投句計画」は、読者の投句コーナーです。

 「選者三名による雑詠俳句計画」は、雑詠句の選句欄です。投句の中から先選者二名が、それぞれ天地人の句を選び、先選より漏れた句の中から、後選者が特選、並選を選んでいます。選者は、関悦史さん、阪西敦子さん、桜井教人さんです。

 「へたうま仙人」は、ヘタな句を褒め、巧い句を追放する、世の選句欄とは真逆のコーナーです。どんなにヘタな句でも褒めてくれるので、自分の俳句に自信のない方、何はともあれ褒めて欲しい方に最適(?)。担当は大塚迷路さんです。

 「自由律俳句計画」は自由律俳句の選句欄です。自由律俳句に挑戦することで、自由律俳句ならではの楽しさを味わうと共に、有季定型の俳句との思わぬ共通点も見えてきます。選者は、きむらけんじさん。

 「詰め俳句計画」は、マイマイさんによる、二つのフレーズに合う季語を投稿するコーナーです。季寄せや歳時記さえあれば、全くの俳句初心者でも挑戦できます。

(投句方法は「100年投句計画」コーナー末尾参照)


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選者三名による 雑詠俳句計画




先選者 関悦史

 ご近所と遠い親戚に相次いで不幸があり、葬式続きで出ずっぱりとなっていたので、今回の選句はぎりぎりになってしまいました。親類たちと顔を合わせるのも、こういう時だけとなり、生まれてくる子供はほとんどいないので、とびとびに会うたびに、当然のことながら皆老けていく。ようやくこの選句選評が終わったところで雷が近づき、パソコンを切らねばならなくなる。最近停電が増えたから。そしてまた一人の家の丑三つ時となる。




大夕立くちびるを奪っていったか  藍人
 いかにもドラマチックな分、通俗に落ちそうな題材ですが、人間サイズではない「大夕立」の勢いと「奪っていったか」の疑問形の組み合わせで、茫然としているかのような情感があらわれています。
 キスされたかどうかは謎ですが、大夕立にくちびるまで濡らされているような、体感に根差した連想もはたらくために意外と空疎にはなっていません。「大夕立」という神格じみた相手との恋の気分が漂い、豪快。




SMを試してみたき水着かな  山崎ぐずみ
 際どい素材ではありますが、まだ試しておらず、憧れているだけなせいか不潔感はない。ボンデージじみた大胆なデザインの水着だったのかもしれず、服を変えることがもたらす気分の浮き立ちが掬えています。

月光に改造されて眠りたる  暮井戸
 昔の特撮ものの怪人がよく悪の組織に人体改造されたりしていましたが、この句では戦ったりはせず眠ってしまう。月光の異界性を身体にしみとおるようにして受け止め、味わっている、そういう句です。

廃坑も骸の一つ夜の秋  海田
 「廃坑」「骸」「夜の秋」と一見つきすぎの組み合わせのようにも見えますが、廃坑が帯びる生気を「骸」があらわしていて、空洞が生き物として立ち上がってくる。その舞台装置として「夜の秋」は適切なのでしょう。

門涼み宅急便を受け取りぬ  ヤッチー
 何気ない、いかにも日常的な場面の中に、「門涼み」の閑雅さから、突然の宅急便受け取りへの急展開が仕組まれていて、そこに押しつけがましくないユーモアがあり、「門涼み」も改めて生きた言葉になっています。

水やれば蕾首ふる桔梗かな  未貫
 「首ふる」の擬人法が、やや正岡子規以前じみた旧套さを引き込んでしまっていますが、とはいうものの水をまかれて揺れる桔梗の蕾の弾力や鮮度が感じられます。桔梗の色もこの句の情趣に最適なものでしょう。




ブータンの屋根と言う屋根唐辛子  レモングラス
ががんぼの一匹が原子炉の上  青萄改め優空(はるく)
変顔のインスタグラム夏見舞  出楽久眞
高座より落つる枝雀や心太  凡鑽
オーロラに研がれし大地山椒魚  ほろよい
金の匙金色の皿マンゴー喰う  和音
河童忌や忽ち溢るマンホール  ゆりかもめ
昼の月かはほりの群眠りゐる  内藤羊皐
しやばしやばのタイカレー跳ね夏終る  どかてい
紫陽花の路地の細さよ明るさよ  人日子



先選者 阪西敦子

 梅雨が明けたらやろうとおもっていたこと(早起き、ダイエットの類、出勤の時の一駅ウォーキング、本の整理)が、梅雨が長かったおかげさまでずいぶん先延ばしになって、軌道に乗る前に立秋がきて、お盆休みになろうとしている。お盆休みには助っ人(結社の先輩)がきて、部屋の本の整理を済ませ、私は生まれ変わることになっている。




河童忌や忽ち溢るマンホール  ゆりかもめ
 芥川龍之介の忌日は七月二十四日。今年の東京はまだ梅雨明けの前であったし、梅雨が明けていたとしても、ひとたび降り出せばマンホールを溢れさせてしまうほどの激しい季節である。才能にも、波乱にも、感情にも、何かと過剰さを感じさせる芥川の(そう、この名前もまた何かを思わせる)忌日の句として、象徴と実景の絶妙な交差点。




われそうな光りを放つ月仰ぐ  富士山
 月の光が月自体を割ってしまいそうだという、それほどに煌々たる光の勢いなのである。自らの勢いに自らを傷つけるのはむしろ人間の所為。自己を月に投影したような、不思議な倒錯が二重三重に出現する。俳号がまた別の妙味。

喉飴を秋待つ形の舌に置く  海田
 「秋待つ形」とははっきりとはわからないけれど、夏につかれた虚脱感や、涼しさと実りを求めるような伸びた舌だろうか。この季節を舌に見つけたところが何とも楽しい。そんな舌の上にひやりとのど飴をおく。

幾度も網かはしたる夏の蝶  てん点
 蝶の飛ぶ軌道は捕まえられにくいためでもあろうけれど、なかでも夏の蝶がと言われれば、そんな気もする。大型の蝶が多いのにやはり捕まらないところも、暑さに動作の捉われる人の様子も、さりげない一動作にきっちり描かれる。

門涼み宅急便を受け取りぬ  ヤッチー
 門涼みなどは特別なしつらえもせず、空いた時間を生活の場の側で涼むのだけれど、涼んでいる人にとっては、止まったようでもある時間。その時間を訪ねてきた宅急便が通常の時間へ門涼みを引き戻す。

紫陽花の路地の細さよ明るさよ  人日子
 たしかに家と家の間をすり抜けるような、人との距離の近い路地に紫陽花は多い。そんな路地に紫陽花が盛りになって道にはみ出してますます狭くなるけれど、狭さは暗がりとはならない。明るいけれど狭い路地を光にむせぶように過ぎる。




恐竜が喰いつきそうな夏帽子  風さら紗
ビル風といへど水色夏来たる  夜市
一匹の初蝉やただならぬ声  かのん
のうぜんの散るや荷風の筆塚へ  もね
金の匙金色の皿マンゴー喰う  和音
結願の寺のせんべい梅雨の明  ぴいす
ががんぼの脚のたゆたう夜の鏡  板柿せっか
夕陽沈みきるまで立つ夏の浜  喜多輝女
水やれば蕾首ふる桔梗かな  未貫
昼寝覚まだ海底で話しをり  マカロン星人



後選者 桜井教人

 水族館が元気だ。その一番の理由は差別化戦略が成功していることだろう。その水族館独自のプレゼンの工夫やパフォーマンスを競い合っている。九州の某水族館は観客が必ず濡れるイルカのショーが人気のように。先日開業間もない大阪の水族館に行った。「いろ」「わざ」など今までにないテーマが設定されている。何より面白いのは魚の説明がほとんどなく、その特徴をごく簡単に五・七・五で表していることだ。例えばフリソデエビには「つれあいは生涯ひとりいちずです」だけである。実に俳人魂を揺さぶられる水族館だ。


特選句

夏バテの犬とポカリと正露丸  おせろ
 並列された三つの名詞の微妙な距離感と響き合いがなんともいい。まず夏バテの犬から始まるところから可笑しい。ポカリと正露丸を重ねたところから更に夏バテが強調される。犬も正露丸を飲むのだろうかと考えると更に可笑しい。
 
鉄塔は武蔵野二号大暑かな  彩楓
 小説と関係のあるなしに関わらず、「武蔵野二号」という固有名詞の力はとても強い。大暑とのバランスにおいて十分に釣り合うだけでなく、そこからの想像力の飛躍という点においても秀逸な固有名詞だ。広大な武蔵野台地に聳える大暑の鉄塔を誰もが見たくなる。 
 
紫陽花の寄り合う島の診療所  西条の針屋さん
 診療所には同じ時間に同じメンバーが集まる。まず最初の話題はそれぞれの手に持った紫陽花だ。その色合いや優しい光は何よりの治療になるに違いない。翌日には活けられた紫陽花がまた患者を出迎える。


並選句

河童忌や切れぬ鋏を捨てられず  小市
虹を背に君は何処まで走るのか  dolce
炎天や象もキリンも文鎮に  藍人
ままごとの赤のまんまと木のお皿  レモングラス
石榴受く点滴の毒外待雨  青萄改め優空(はるく)
蜻蛉生まる陰も形もなき水面  桂奈
三歳が百歳の手にさくらんぼ  風さら紗
老松のよじれる浜辺番屋閉づ  出楽久眞
涼新た昨日とちがう山の色  迂叟
この町で一生涼風呼びこめり  幸
白桃のうぶ毛の若き痛みかな  久我恒子
紫陽花やマダムにBCGの跡  夜市
遊ぶ金欲しさに月を売りに出す  江口小春
七夕や青き地球より「きぼう」へと  ひさの
炎天や鈴引き鳴らす水天宮  かのん
秋の転調をして終わりけり  暮井戸
のそのそと庭歩く猫夏の果  れんげ畑
虹はなぜ虫偏なのかやがて雨  さより
どぜう汁檀家二人のお接待  もね
形代も一夜守護する蚊遣豚  南亭骨太
念力に脛の白さよ巴旦杏  ほろよい
蜥蜴の尾やがて絶えたり草の上  てん点
枸杞の花雛工房の定休日  一走人
笹飾り隅に押しやり投票所  波野
地平線駝鳥と競う夏野原  和音
この蟻のどこから来たか確認す  ぴいす
ひたぶるや飛魚海を振りはらひ  板柿せっか
ロボットは相手にされず小声の夏  青蛙
折紙のどこか湿りぬ四葩かな  ゆりかもめ
舟を漕ぎ一人五役の夏の寄席  小雪
恐竜の胸骨の檻梅雨あがる  樫の木
八月の川で河童を釣る仕掛け  ポメロ親父
切りとりし紫陽花あをき水を噴く  緑の手
神様もすこしいじわる大夕焼  うに子
闘えば浄化の慰撫や夕立くる  蒼真
藪入りや沓脱石の赤きじょじょ  誉茂子
かなかなの真直ぐに降るや杉木立  越智空子
主さんの汗の玉までひとりじめ  台所のキフジン
藻の花や人のいづこに鰓の痕  内藤羊皐
落ち込める朝の動かぬ雲の峰  松ぼっくり
龍の爪埋める夾竹桃の下  どかてい
かぐや姫もセーラームーンも嫦娥  ひでやん
よそいきの休店告知戻り梅雨  青柘榴
星涼し女性めきたる銀の匙  西原みどり
水遣れば石が水吸ふヒロシマ忌  大阪野旅人
行く夏や通路の陰の長話  カシオペア
空高し五感尖らせアポイ岳  あおい
去年まで耳つけし子の背中  風の海桐木
赤蜻蛉命短し飛行隊  弘子
悲しみの連鎖一面の向日葵  ミセスコナン
気の毒にヘクソカズラの名をもらい  エノコロちゃん
落日に並ぶカラスや夏の果  童夢U世
ガーベラや我の不戦は道なかば  アンリルカ
蓮池や筒抜けの空あるばかり  遊人
柚の花や道の果てなる妣の里  哲白
どれひとつ同じ色なき苺かな  鯉城
水色の蛙や夫の万年筆  未貫
採血管5本血潮濁る溽暑  マカロン星人
ドクダミの葉青々と都知事選  まんぷく

(※一部、テキストデータ上では表記出来ない文字をカナで表記しております。)


関悦史(せきえつし)
 1969年茨城県生。「豈」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。共著『新撰21』『超新撰21』『俳コレ』(以上、邑書林)、『虚子に学ぶ俳句365日』『子規に学ぶ俳句365日』(以上、草思社)他。

阪西敦子(さかにしあつこ)
 1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。

桜井教人(さくらいきょうと)
 1958年愛媛県生まれ。愛媛県公立小学校教員。いつき組。子規顕彰松山市小中高校生俳句大会選者。第2回大人のための句集コンテスト優秀賞。第24回・29回俳壇賞候補。


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へたうま仙人


文 大塚迷路

 九月ぢゃ。世間は暦など関係なく、まだまだ暑い毎日ぢゃと聞くが、ワシの頭の中ではすでに夏は終わっておる。今は夏の清算期ぢゃ。夏の過ちを懺悔しながら、また似たような過ちをしでかすのぢゃ。
 それはそうと、今月も過ちを超越した句が集まったぞ。地球を一周回って過ちがほぼなくなった句を堪能していただければうれしいぞ。


梅雨末期廊下の明かり消滅す  柊つばき
熱帯夜気合いだけではのりきれぬ  柊つばき
 点滅ぢゃなく「消滅」ぢゃから、只事ならん状況ぢゃ。まさか税務署が持っていった訳でも無いぢゃろうが、梅雨末期の大雨の中では不安ぢゃなあ。行き場の無い焦燥感が伝わってくるが、ひたすら梅雨明けまで我慢するのが平均的解決策ぢゃ。昨夜は台風の影響で特に蒸し暑く、何度も目が覚めたが、ワシでさえどうすることも出来んかった。そのとおり、気合だけでは到底乗り切れんぞ。こまめに水分を補給し、こまめに団扇を使って下され。まだまだ熱帯夜の悲鳴が窓から放出される日は続きそうぢゃが、無理をせんようにのう。

カキ氷腹下しやね歯抜けの雀  KIYOAKI FILM
貧民党古米でめちゃ安いレバ肉  KIYOAKI FILM
 いくら猛暑だからと言って冷たいものばかり食していては、体力は落ちる一方ぢゃ。落ちた体力のところにカキ氷はてき面ぢゃ。「歯抜けの雀」が作者の姿かもしれんが、ちょっと良過ぎぢゃ。ダメなときはとことん落ちるのぢゃ。新米が出るまではどの米も古米のはずぢゃから、日本全国古米を食っておると思うぞ。古米は貧民党には贅沢品ぢゃ。韮なし炒めを作るつもりぢゃろうが、いくらめちゃ安いとはいえ肉は肉ぢゃ。贅沢と言えば贅沢ぢゃ。柊つばきを見習え。まだまだ甘いぞ。

ゴルファーの眼差しはるか天高し  たぁさん
 屋内ではまず出来ないものにゴルフがあるのう。オーガスタぢゃろうが打ちっぱなしぢゃろうが、ゴルファーが見つめる先は同じぢゃ。違うとすれば立場だけぢゃ。どこまでも澄む空に向かって一打目を構える姿に、緊張と高揚が伝わってくるぞ。グリーンも眩しいぞ。

大花火そこここの溜め息も落ちてくる  森子
 感嘆の溜め息まで一緒に落ちてきているようだ、という作者の感じ方に感動ぢゃ。最後の最後まで輝こうと落ちてくる迷子のような火は、大きい花火であればあるほど儚さを増幅させるのう。ひょっとして大幅な字余りの中七の中に、溜め息が充填されているのかのう。もし本当の溜め息が落ちて来るんぢゃったら、避けるのに大変ぢゃ。わしゃそんな大花火見とうない。

みんみんの野外音楽堂囲む  小木さん
右腕におはぐろとんぼへばりつく  小木さん
 みんみんに囲まれたら音楽堂も大変ぢゃ。かえって蝉時雨のほうが音楽より良かったりしてな。野外音楽堂をぐるっと包む夏木立の生命力と、蝉の生命力の裏の儚さと、ライヴ演奏の一期一会が微妙なバランスでグルーヴしておるぞ。
 とんぼにへばりつかれたら結構痛いもんぢゃが、おはぐろとんぼなら大丈夫ぢゃ。水辺に佇む作者の影とおはぐろとんぼが程よい距離を保って、水彩画を見ているようぢゃ。

炎昼や磁石の針の定まらず  元旦
風死すや街灯のまた切れており  元旦
 あまりの暑さに磁石までもが方向を失って右往左往しておるのかのう。炎昼のじりじりじりり感が、定まらぬ磁石に圧迫されて今にも道に倒れこみそうぢゃ。こんな日は外に出とうないのう。完全無風状態の音も無い街は不気味ぢゃ。暮色の迫る、また切れている街灯の下を歩く作者を無音の音が覆うのぢゃ。足音さえも消されるモノクロの世界はどこまでも続くのぢゃ。怖いのう。

夏めくもやっぱ大阪ええとこや  ケンケン
たこ焼きはナニワの文化風薫る  ケンケン
 夏の暑さは尋常ではないと聞くが、大阪はええとこやのう。「夏めくも」の「も」に、作者の大阪に対する愛と屈折感が滲んでおるぞ。薫風に乗って匂ってくるたこ焼きは卑怯者ぢゃ。喰わざるを得んように見事に誘導される。頬ばった口の中で探し出した天かすの味は、この世のオアシスぢゃ。おっと、オアシスに浸かってばかりではいかん。郷土と文化を誇り高く謳い上げたこんな句は、粉もんと飯のセットを心置きなく食えるガード下の屋台へ有無ぐらい言わせて追放!!

新涼を点ててもてなす今朝の客  みやこまる
吐息摘むやうな線香花火かな  みやこまる
 こんなお茶をいただきたいのう。お客さんもさぞ満足されたことぢゃろうて。まるでお遍路さんへのお接待みたいぢゃ。立ち上る湯気も新涼の空気の中で、すっと背筋を伸ばしているようぢゃ。線香花火は花火のお姫さまぢゃのう。これほど、どの闇にも合う花火は無いのう。線香花火の火薬の部分が吐息なら、いつでも摘んでしんぜよう。それにしても吐息を摘むやうな、とは極上な言葉の組み合わせぢゃのう。言葉の組み合わせというのは無限ぢゃのう。言葉が出なかったら組み合わせて言葉を作ったらいいのだと、今さらながら思ったぞ。「かな」でしっかり受け取って、据わり具合も太鼓橋のようぢゃ。おっと、感心の吐息ばかりついていてはいかん。こんな、今朝の客はお茶よく飲む客だ、的句は、瑠璃色吐息の闇の中へ曲線に乗せて追放!!

 今月も追放者を出してしもうたが、なあに暑さ暑さもお彼岸までぢゃ。待てば懐炉を使う時期ぢゃ。今日も自然の流れに甘えるのぢゃ。
ぢゃが、くれぐれも油断召されるなよ。


へたうま仙人
年齢 卑弥呼がおっぱいを飲んでいた頃、ワシは青春真っ只中ぢゃった。
好きなもの 霞のシャーベット(PM2.5抜き)
嫌いなもの 上手な俳句
将来の夢 大器晩成


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自由律俳句計画


選者 きむらけんじ

 この夏、まだ花の咲いてない蔓だけの朝顔を鉢ごと800円で売ってたので衝動的に買った。ベランダに置いて毎朝水だけは欠かさずやった。蔦はそこそこ伸びるのにまったく花が咲かない。友人の助言で栄養剤を買って土に突き刺したら、次の日みごとに花が咲いてびっくりした。栄養剤というより、こりゃ覚醒剤だな。なんか咲いた朝顔見て素直に喜べなかった……。




愚直に生きて西日の外階段下りる  凡鑚
 「愚直」とは、正直過ぎて気が利かないことと辞書にはあります。しかし「愚直に生きる」となると、その意味以上の筋の通った深みのようなものを感じさせてくれる言葉に変容します。そういう人が、わざわざ西日の当る外階段を降りる……とは一体どいうことなのだろう。西日の外階段自体、決して表舞台というわけではなくむしろ逆の意味を持って捉える事が出来ます。愚直に生きてきた人が、そのような外階段をわざわざ降りる状況に、物語が立ち上がってますます想像が膨らんでくる。じわっと深い味わいがあります。




妻の鼻先に致死量のかき氷  凡鑚
 かき氷のブームらしい。たぶん昔のオーソドックスなかき氷ではなくびっくりするくらい盛られたフツーじゃないかき氷かも。それをまさに食べようとしている妻。それを長年連れ添った夫はどこか覚めた目でみているのでしょう。「致死量」という表現が、絶妙の諧謔味を醸しだしています。

猫が逝ってまた猫と居る  樫の木
 長年愛したペットを亡くした悲しさから、当初はもうペットは飼わないと言っていたのに気がつけば……よくある話です。誰しもそうそうとうなづいてしまう納得の句。テクニックとか作りすぎを排した素直さが、それはそれで難しい。

熱帯夜とて授乳  ヤッチー
 熱帯夜の暑さを表現するのに「授乳」を持ってきたことに意表をつかれます。母親の体温、おっぱいに吸いつく赤ちゃん。その口中には温かい母乳があふれている……と想うだけでこれは相当暑苦しい光景です。「熱帯夜と授乳」以外の余計な表現が無いのが、余計暑さを増幅させています。

アスファルトの匂いを踏む白靴  元旦
 白靴といえば「経験の多さうな白靴だこと(櫂未知子)」がよく知られていますが、揚句は、夏のあの少し柔らかくなったアスファルトの匂いに踏みこんでいます。その匂いに踏みこめるのは黒靴でもなく皮靴でもなく白靴、そんな気がします。

繰り返すことくりかえす介護かな  大阪野旅人
 介護に季節などないようにこの句に季語はないが、全体十七音で読み方によっては無季定型の句とも言えます。「繰り返すこと」という上句の七音の強さが、定型を破っている感があります。「〜くりかえして介護」とすれば、「かな」という詠嘆を排除して、より介護に突き刺さります。自由律が自由律たる所以です。




脳を開けば梅雨茸  藍人
吾子の掌何度もぬぐう  幸
鈴虫のあの日棄てたのは空  みやこまる
秋立つやうに寝た  海田
空の無限大に干す洗濯物  多満
風鈴の受け身で捨て身  小木さん
虹を燃やすのはよせ地球に穴があく  緑の手
標石は夏草に埋もれ故郷  彩楓
空蝉が重なりあって泣く  恋衣
しあわせはかけ算雲の峰  ミセスコナン


並選

曲りキュウリのような人生かもしれぬ  ケンケン
ラブホ帰りの朝の吉野家  小市
かんだかき声ちりじりに  レモングラス
震えてしぶとい  青萄改め優空
鏡中の女指輪を外しけり  風さら紗
ちょっと虹まで行ってくる  出楽久眞
終戦日帰らぬ兄をまつ母も逝く  迂叟
勃起せるとはいえど夏期講習  山崎ぐずみ
死んじゃった人の歌ばかり聴く  江口小春
月曜の黒鴉、子雀の逃げ穴  KIYOAKI FILM
お銚子の隙間から秋を見ている  暮井戸
いたいたしきもの夏薔薇  さより
ウーパールーパー覗いてゐる女子会  もね
家中の風探す犬  南亭骨太
涼しさや月の字に墨の泡  てん点
緑陰を我が物顔のカラス  一走人
フロントガラスへ蜻蛉のとうせんぼう  和音
鯱の鴉かたかげにすずめ  板柿せっか
蚊に好かれる  ゆりかもめ
心頭滅却すれど暑いものは暑い  喜多輝女
踏むなよその莫迦でかい山蛞蝓  ポメロ親父
十八歳連れ立ちて投票す  うに子
ないないないないどこにも夏がない  蒼真
駄菓子屋の婆ちゃん最近どうしてる  台所のキフジン
踝を夏蝶に埋めてゆく  内藤羊皐
きゅうり二本のご挨拶  松ぼっくり
姫女苑に明け渡した借地  青柘榴
語れぬ家庭の事情月が眩しい  ひかるん
ゆるりと越えて皐月来  人日子
秋服にキズとカサブタかくし  エノコロちゃん
私に見えてあの人に見えない  遊人
青柿落としゲリラ豪雨は地球の号泣  まんぷく


選外(自由律での再挑戦求む)

ナイターの父に抱かれて居眠る子  台所のキフジン
人生は流れ任せよ半夏生  カシオペア
水中花花の香りが溢れさう  鯉城
初泳ぎ遊びざかりの波とかな  鯉城



きむらけんじ
 1948年生まれ。第一回尾崎放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律・地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技・妄想、泥酔。


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詰め俳句計画


出題 文 マイマイ

今月の問題
次の(  )の中に共通する秋の季語を入れて下さい。

午後の風動く(  )かな
手のひらに(  )乗せて旅
 

午後の風動くアイスクリームかな
手のひらにアイスクリーム乗せて旅
 迂叟さん残念。夏の季語ですね。級外。いい旅を! 台所のキフジンさんは切り子灯。これは切子灯篭を略した言い方でしょうか。私の手持ちの歳時記では記載がなかったので級外としますが、他の歳時記にはあるかもしれないので捌いておきます。後句、ネットで切子灯篭の画像も見たのですが手のひらに乗るようなサイズのものは見当たりませんでした。手作り? 回答が五音なので前後句ともリズムが合いません。7級(仮)。マカロン星人さんは金木犀香。これは金木犀に「香」をつけた季語アレンジとみました。内容はまずまずですが、やや強引なアレンジで5級(-2)。

午後の風動く秋の声かな
手のひらに秋の声乗せて旅
 レモングラスさん。KIYOAKI FILMさんは秋灯、さよりさんは秋扇。どれも字足らずでリズムが良くない。7級。エノコロちゃんの二百十日はリズムが整ったようにも感じたがやはり一音足りないのが気持ち悪い。後句も意味不明。やっぱり7級。では七音の季語ならいいかというと……。

午後の風動く猿の腰掛けかな
手のひらに猿の腰掛け乗せて旅
 うに子さん。後句のリズムは整ったが前句はぎくしゃくする。前句にフィットするには四音+三音でないといけないようだ。後句、私なら絶対手のひらに乗せたくない。ジメジメしてるし、重いし。7級。カシオペアさんは雀蛤。空を飛ぶ雀が水に棲む蛤になってしまうという想像的季題。あくまでも時候の季語でこの後句の使い方は?? 同じく7級。ひさのさん、笹百合さんは富士の初雪。前句の内容は景に遠近があって面白い。後句、この季語は遠くから眺めるものと思っていたがこれは富士山まで行っているのだろうか。それとも車窓などからの眺めを詩的に表現したのか。雪という実体のある季語だけに迷ってしまう。6級。小市さんは薄羽蜻蛉。前句、五七五で切って読むと「ウスバカ・ゲロウ」となってしまい内容は悪くないのに残念な感じ。同じく6級。喜多輝女さんは秋の夕焼。前句、夕焼けなら「午後」はいらない情報。後句は詩的。5級。ひかるんさんは秋の七草。後句は七草のどれかを手のひらに乗せているのでしょうが、それなら具体的に何かに絞ってほしい。同じく5級。誉茂子さん、人日子さんは秋の初風。前句、わざと風を重ねてきたのは分かるが「午後の風動く」だけでは秋の初風の描写する句としては不満。後句は手のひらの上で風が舞っているようで楽しかった。4級。猫ふぐさん、桂奈さんは水引の花。おせろさんは河原撫子。恋衣さんはおしろいの花。童夢U世さんはななかまどの実。元旦さんは朝顔の種。緑の手さんは会津身知らず。後句、それぞれの旅情があってよいのだが、やはり前句のリズムが減点材料。同じく4級。

午後の風動くつくつく法師かな
手のひらにつくつく法師乗せて旅
 dolceさん、小木さん。ここからは七音でも前句のリズムが良い方々。安心して読めます。でもこれは後句、想像しただけで喧しそう。前句は夏から秋への微妙な季節の移ろいを風に感じたということか。4級。幸さん、みやこまるさん、れんげ畑さん、内藤羊皐さんは塩辛とんぼ。彩楓さんは精霊蜻蛉。前句、風と蜻蛉はちょうどよい響き具合。後句も旅情を醸し出す。難癖をつけるなら蜻蛉って指先に停まりませんか? 1級。

午後の風動く南蛮煙管かな
手のひらに南蛮煙管乗せて旅
 藍人さん、一走人さん。きれいな花ですが、寄生植物と知っているせいか個人的には爽やかなイメージが持てず、後句の旅と合うかどうか微妙。前句も芒などの根元に咲いているので風との関係もこれまた微妙。4級。ヤッチーさんは芭蕉の破葉。前句は風に揺れたりしてそれなりの趣があると思ったが、大きすぎて、後句手のひらには乗らないと思う。同じく4級。遊人さんは水草紅葉。後句、私なら手のひらに乗せるのに濡れている物は嫌ですね。同じく4級。ひでやんさんの萍紅葉も同様ですが、前句は吹き寄せられている様子が思い浮かんで良かった。3級。矢野リンドさん、青萄改め優空さん、江口小春さん、海田さん、鈴木牛後さん、大阪野旅人さんは紫式部。後句の色彩がきれい。前句は正解と比べると風に対する軽やかさの点でもうひとつの気がした。2級。河原撫子さんは十寸穂の芒。前句風との関係性が良い。後句も軽さがいいと思ったが、手のひらに乗せるにはやや大きすぎるか。1級。たぁさん、越智空子さん、さざなみ真魚さんは野山の錦。坊太郎さんは名の木の紅葉。後句、読者に想像させるのも面白いと思った。同じく1級。出楽久眞さん、樫の木さんは満天星紅葉。のりこさん、片野瑞木さんは錦木紅葉。前後句ともきれいにまとまっている。同じく1級。

午後の風動くまそほの芒かな
手のひらにまそほの芒乗せて旅
 ほろよいさん。まそほとは「真赭」と書きやや鈍い赤い色のこと。色合いも渋く風との関係性も良かった。初段。久我恒子さんはきちきちばった。前句ばったも風で少し曲がったりするのかなと面白く読めた。後句可愛い。同じく初段。


今月の正解

午後の風動く風船葛かな
手のひらに風船葛乗せて旅
 板柿せっかさん、ゆりかもめさん、杉山久子さん、どかていさん、青柘榴さん。前句の「風」の重なり具合もいいし、後句の軽やかさも気に入っている。えへん。二段。


11月号掲載分の問題(9月20日締切)

次の(  )の中に共通する冬の季語を入れて下さい。

寒さうに暖かさうに(  )
(  )二便のみなる午後のバス



マイマイ
 2003年11月頃よりラジオに投句を始める。割と生活派俳人だったが、最近は?? 第1回、第4回大人コン優秀賞受賞。2013年句集シングル『翼竜系統樹』上梓。将棋推定初段。棋友募集中。宇宙と生命を題材に詠んだ句集『宇宙開闢(ビッグバン)以降』をマルコボオンラインショップにて販売中。


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100年投句計画 投句方法




 件名を「100年投句計画」とし、投句先(複数可) 俳号(なければ本名の名前のみ) 本名 電話番号 住所を明記してお送り下さい。投句はそれぞれ二句まで、詰め俳句は季語を一つのみお送り下さい。一つのEメールまたは一枚のハガキに各コーナーの投句をまとめて送っていただいても構いません。ただし、「選者三名による雑詠俳句計画」と「へたうま仙人」は、選択制(どちらか一方のみ投句)となります。また「雑詠俳句計画」は欄へ寄せられた二句を各選者が選ぶ形式です。各選者に個別に投句を行うのではない点にご注意下さい。

それぞれ締切は、9月20日(火)

投稿ページ http://marukobo.com/toukou/
投稿アドレス magazine@marukobo.com
はがき FAXでも投句できます。

さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。


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短歌の窓


短歌投稿ページ
選者 短歌誌『未来』同人 渡部光一郎


特選

秋霖の職場にひとり昼餉とる我に紅茶とテロのニュースと  久我恒子
 重い内容であるが、目配りの行き届いた歌となった。「秋霖の職場」というしずかな始まりがよい。また「昼食」ではなく、「昼餉」という言葉を置いたあとに「紅茶とテロのニュースと」と並べたあたり、巧みである。余分なもののない佳品。


並選

ステーションワゴンに沢山荷を積んでナビの指図で行くのは嫌だ  暮井戸
 一読、笑ってしまう。冒頭から続いてどうなるのかと思っていたら、最後に「嫌だ」とひっくり返される。前の部分が長いだけに効果的な仕掛けとなった。「ナビの指図で」というところにも微笑を誘われる。

生まれ出て今まで受けた親切を返しきるまで私死ねない  西原みどり
 確かな定型感覚のもとに作られている。内容的には素朴な歌ともいえるが、はっきりとした言い方によって読者を共感させる力がある。「私死ねない」という舌足らずな言い方も、この場合は有効。

影写す機械抱けばからつぽに胸透けて行く九月の空へ  時計子
 レントゲン撮影に材をとった歌。「からつぽに胸透けて行く」のあと、「九月の空」まで一気にイメージを飛ばしたところが技あり、である。結句で爽快な青空がひろがる。


コメント

夕暮れの海に二つのシルエット君と我との静かな時間  たあさん
 「二つのシルエット」と、「君と我と」とがやや重複気味か。「静かな時間」はほかの表現に。

くちづけた場所から朽ちていくのならまず右足の親指のつめ  江口小春
 面白いが、「〜のならまず」のあたりが歌の意図を分かりづらくしているかもしれない。

ひと月もブログ更新せぬ友よ臥せってゐぬか何してゐるか  喜多輝女
 旧仮名表記なので「臥せって」は「臥せつて」と統一するのがよいか。「ゐぬか」も一考を。

父母の亡き故郷遠くなりぬれど住めば都に早五十年  河原撫子
 歌意はよくわかる。上句をかっちりと定型にしてみてはどうか。

還暦の頭坊主に仕上がれば十五の我が鏡に笑う  殻嵩はるお
 つまり、笑顔で還暦をおむかえになったのだろう。すばらしいことである。

マネキンの青空色のワンピース今年も海に行けなかったわ  彩楓
 ユーモアとゆとりのある歌。「行けなかったわ」の口語がよく効いている。

愛おしき物を包める形して桔梗の蕾明日を待ちおり  風
 このままでも問題ないが、上の句はまだ色々と工夫をする余地があるだろう。

君の名をビデオカメラに記録して一人死にたるその笑顔の娘  豊原清明
 言いたいことをもう少し絞りこんで詠うとよい。


 みなさんこんにちは。暦の上では秋ですが、まだまだ暑いのでご注意ください。オリンピックや甲子園が気になる時期ですね。テレビで柔道を観ていたら、各国の審判にずっこけます。あれは「柔道」ではなく「Judo」だと割り切れればいいのですが、なかなかそうもいきません。歌ですが、何回もがんばって投稿いただければと思います。ではまた!


自作の短歌(2首まで)、下記までお送り下さい。締切は毎月20日。
専用フォーム http://marukobo.com/tanka/
専用Email tanka@marukobo.com


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自作の俳句を英語に訳そう!

百人百様 E-haiku



評:菅紀子


1.
Do you want
tea of loquat's leaves are boiled
for a stomachache.

原句 腹痛に枇杷葉湯はいらんかえ  たあさん

お便り 65歳になりました。英語を書くなんとことは50年近くありませんでした。かなりメチャクチャかもしれませんが、挑戦してみました。よろしくお願いします。(たあさん)

How about
hot loquat leaf tea
for stomachache

 たあさん、脳は憶えています。脳のストレッチ運動感覚で楽しみましょう。

2.
In summer vacation, I wrote on the cover“Book of adventure”.

原句 夏休冒険の書と書く表紙  出楽久眞


お便り こんにちは。英語で伝えるって難しい。でも、なんとか伝えたい。この気持ちって俳句に通じるかも。なんて思っています。(出楽久眞)

Adventure Book
the cover of my writing
Summer vacation

 出楽久眞さん、通じてますね。3行詩にさせていただきました。

3.
at nightfall,
a melody of koto
from a rural house

原句 ゆふぐれの律の調べや鄙の家  久我恒子

 日英共に言葉の選び方がいいと思います。初秋かな。

4.
with delight,
hold up a vintage wine
to a brightly shining moon

原句 ヴィンテージワイン捧ぐる月清か  久我恒子

holding up high
a bottle of vintage wine
to the moon shining bright

 brightly shiningは少し月としては明るさが強すぎるかと思いましたが、ワインセラーで埃を被っていた年代物のヴィンテージワインを取り出して捧げたとすると、対照的に月はそれくらい眩しく輝いて見えたのでしょうか。液体は容器に入れて表現します。

5.
museum in august
clay image haniwa
have hollow eyes

原句 八月の博物館の埴輪の眼  片野瑞木

museum in August
a pair of hollow eyes
Haniwa clay figure

 人気の少ない博物館で刳り抜かれた一対の眼に見られてはっとした、というイメージを喚起しやすいかなと考えて。月名の語頭は大文字です。

6.
elevator to up floor
with square mass
of lingering summer heat

原句 上にまいります四角い残暑ごと  片野瑞木

going up
with square shaped late-summer heat
in an elevator

 日本語では「にまいります」と敬語がつきますが、英語で going up と要件を言うだけです。実際エレベーターのアナウンスでこのフレーズを聞きました。

7.
Eat Zingiber mioga
To live
To forget

原句 茗荷シャリシャリ忘れる事は生きる事  ほろよい

To forget like
biting mioga ginger
is to live

 忘れるために生きることと読めてしまうので、茗荷を齧るように忘れることは生きること、と変えました。また、学名であるzingiber miogaよりイメージしやすい通称の方を使ってみました。Japanese gingerとも言うそう。

8.
summer is bird it berry cute bird
slow slow down…
flour it thank you

原句 夏雲雀ゆっくり萎む花の恩  KIYOAKI FILM

lark in summer
slowly wilting flowers
by which I am blessed

  夏雲雀
  ゆっくりと萎む花
  私はその花に恩恵を受ける

 私なりに解釈したものを直訳するとこのようになります。

9.
I wont energy
poetry voice recorder…
ants of great gold lord

原句 良く生きて詩の声出す蟻の道  KIYOAKI FILM

live well
deliver the voice of poetry
path of the ants

 良く生きよ、詩の声を出せよ、蟻の道
と文法的には命令形にしてみましたがいかがでしょう。この俳句を読んでいたら自分に言い聞かせるような気持ちになりました。

お便り 英語は中学上がる前は得意でしたが、中二の文法で、挫折しました。「基礎英語1」をやっていますが、「1」の学力だけで英語俳句は上達するでしょうか?(KIYOAKI FILM)

 KIYOAKI FILMさん、1をやっていれば2となり3となり……。

10.
Summer house
Dish of the bomboo of big and small

原句 大小の竹の器や夏館  彩楓

big and small
various bamboo containers
summer museum

 dishは食器や料理の品の意があり食事の目的に限定されがちなので、入れ物のcontainerを採用しました。
館は一般の家より大きそうです。豪邸ならばmansion、またcaslteも館になりますが、文化館とか郷土博物館のようなところで涼しげな夏期展示をしているのではないかと想像してmuseumにしました。

11.
oh, the middle-aged love.
why moon is the one?

原句 中年の恋よ月は何故一つ  チャンヒ

Why
the moon is only one
love in the middle age

 おお、という感嘆を語頭の大文字と「なぜ」一言のみで上句に表現し3行句にしました。
おお、大胆にしてさらっと発言してますね。

12.
in misfortune to overflow
starlings flock well

原句 溢れる不幸に椋鳥がよく群れる  チャンヒ

starlings
frequently flock together
on overfull misfortune

 椋鳥にとっては不幸は美味しいのかな。椋鳥が群れると「溢れる不幸」という表現がなぜかこんこんと湧き出る泉の水のように感じられてきます。だからこの句には悲壮感を感じませんでした。


菅 紀子(かんのりこ)
(有)クラパムコモンカンパニー代表。通・翻訳、メディアによる姉妹都市交流コーディネーター。社名は夏目漱石が下宿したロンドンの地名から。歩道短歌会同人。人文学修士、翻訳修士。松山大学、愛媛大学非常勤講師。(Hailstone Haiku Circle blog ICEBOX Contributor)(漱石と彼のライバル重見周吉、日系移民研究)


応募内容 自作の俳句およびそれを英語俳句にしたもの(2句まで)
応募先
 フォーム http://marukobo.com/eigo/
 Email http://marukobo.com/eigo/
11月号用応募締切 9月20日(火)


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百年歳時記


第40回

夏井いつき


 有名俳人の一句を紹介するページは世に数々あれど、「市井の逸品」とも呼べる一句を取り上げ鑑賞する記事はそんなに多くありません。
 百年先に残したい佳句秀句奇々怪々句を見いだし、皆さんと共に味わおうという連載は、名づけて「百年歳時記」。夏井いつきの目に触れた様々な作品を毎月紹介鑑賞していきます。

冷麦のなんと気楽や箸の国  みなと
 索麺よりもちょっと太いから茹でるのも時間がかかるんじゃないかしらと思っていたけれど、実際に茹でてみれば、あっという間に茹だるし、喉ごしも気持ちいい! そんな実感が思わず「冷麦のなんと気楽や」という言葉になって転がり出たのでしょう。
 季語「冷麦」を含む上五中七のフレーズで、言いたいことはほぼ言えているわけですから、残り五音をどうまとめるかが一句のポイント。「箸の国」という悠々たる下五の巧さに惚れ惚れします。「箸」の端正な形、機能、「箸」に挟まれた「冷麦」の美しさに改めて感じ入ります。私たちは「箸の国」の人として「箸」という食文化を使いこなし、器用に美しく、今年も「冷麦」をいただきましょう。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』7月8日掲載分)

ががんぼを扇ぎ夜へと戻しやり  小田寺登女
 「ががんぼ」と「夜」、あるいは「ががんぼ」を「扇ぎ」て追い払うという発想の句はいくらでも目にするのですが、その手の類想から抜け出し得たのが、後半の「夜へと戻しやり」という措辞です。
 「ががんぼ」を扇いでいる作者の動きや、吹かれる「ががんぼ」の様子が目に見えるように感じられるのも、「夜へ」向かって「戻しやる」という表現の巧さです。「夜」という塊が、まるで暗い幕のようにそこにあり、その「夜」へ向かって扇ぎながら戻しやっている描写が、そのまま詩語となりました。動詞「扇ぎ」の位置、微量の厭う気持ちを含んだ複合動詞「戻しやり」の的確な選択、そして映像化。過不足のない言葉の選択が実に見事な作品です。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』7月15日放送分)

つきみそうリコーダーならラの音だ  ひろしげ8さい
 「つきみそう」は時間とともに色を変えていく儚げな花。「リコーダー」の柔らかい音だけだと「つきみそう」の美しい負性を表現しきれませんが、「ラの音」には微かな翳りがあります。聞くところによると、沖縄の音階にはレとラがないのだとか。沖縄の歌の懐かしさや温かみは、そんな音の成分にも要因があるのでしょうか。
 「つきみそう」は「リコーダー」の音階に喩えると「ラの音だ」という詩的断定は、さざ波のような淋しさそして憂いとなって、読者の心に寄せては返します。「ラ」という音への感性、「つきみそう」の儚さへ寄り添う心、それらが八歳の少年の心を通して、こんな詩語となって結実していることに静かな感動を覚えます。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』7月22日掲載分)

五月雨の砂場にヒーロー刺さつたまま  初蒸気
 「五月雨の」と下の語へ続く上五。「五月雨の砂場に」何が?と思ったとたん出てくる「ヒーロー」の一語。子ども同士の世界で「ヒーロー」と認められている子か、比喩的意味の「ヒーロー」か。下五「刺さつたまま」によって、読み手の心はさらに不穏に揺れます。が、ちゃんと読めば、玩具の「ヒーロー」であることが分かるという仕掛け。「五月雨」の情緒や雰囲気を裏切る「ヒーロー」という言葉。「刺さつたまま」という即物的表現が「ヒーロー」という存在の孤独をも想起させます。光景を描写しつつ、寓意を表現しているようにも思えてくるところが、この句の味わい。切れのない型や下五字余りもまた、降り続く雨の気分に似合います。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』8月5日掲載分)

ザクと甘藍ザクザクザクと戦争へ  凡鑚
砲弾がすべてキャベツになればいい  クラウド坂上
 キャベツを切る、その「ザクザク」という音が、戦争の足音、軍靴の足音に聞こえてくる。世界は「ザクザクと戦争へ」向かっているのではないかと、台所で世界の行く末を憂う人がいる。かたや、キャベツを抱えて帰る途中で、このキャベツと砲弾が同じ重さかもしれないと思う人がいる。砲弾が全部キャベツになったら、世界平和は手に入るんじゃないの?って、そんな空想に耽りつつ、地球の未来に思いを馳せる人がいる。
 世界が軋み始めています。私たち俳人も、世界のこと地球のこと、百年後の日本がどういう国であって欲しいのか、考え、17音の詩として、言葉にしていくべきではないかと強く思い始めています。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』7月22日放送分)



百年歳時記は、南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』や
松山市公式サイト『俳句ポスト365』(http://haikutown.jp/post/
などに投句された俳句を紹介します。


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俳句の街 まつやま

俳句ポスト365



協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/


金曜日優秀句
平成28年7月度


冷麦(ひやむぎ)


冷麦のいわくありげな太さかな  路生
冷麦に寂しき芯の残りけり  三島ちとせ
喪帰りの冷麦啜るだけの意気  登美子
冷麦や親戚なれど名を知らず  大雅
昼の部を終え冷麦の楽屋かな  豆闌
冷麦食う明日の供花の匂ふ夜  すな恵
昼闌くや冷麦食ふも億劫な  とおと
ひやむぎや畳が灼けてゐて狭い  クズウジュンイチ
ひやむぎやむの穴ほどの太さなり  石川焦点
冷麦のチェリーみかんを無礼討ち  雪うさぎ

冷麦のなんと気楽や箸の国  みなと


月見草(つきみそう)


星屑のやうな飛行機月見草  ぎんやんま
月見草艇庫に眠る銀の笛  このはる紗耶
井戸水の洗顔清し月見草  谷山みつこ
静かなり象のしっぽと月見草  Mコスモ
月見草硝子は吹いて膨らます  神谷たくみ
なりません。月見草にも諭される  江口小春
大脳に微かな発火つきみそう  酒井おかわり
メキシコも火星も遠し月見草  亀田荒太
紅白饅頭の餡は闇色月見草  比々き

つきみそうリコーダーならラの音だ  ひろしげ8さい


先月号の当コーナーにおいて、優秀句に含まれない作品が優秀句として掲載されておりました。関係の方々にご迷惑をおかけいたしましたことをお詫び申し上げます。


9月の兼題
公式サイト内の「俳句投稿」より作品をお寄せください。(※投句期間を過ぎますと投稿ページは次の兼題の募集に自動的に切り替わります。ご投稿はお早めに。)

投句期間 9月1日〜9月14日
湿地茸(しめじ)
食用きのことして一般的。キシメジ科のほんしめじは径4〜10cmで傘は茶色から灰色をしており、柄は7〜10cmの白色。秋に小楢林や赤松との混生林に生え、上品な旨味、歯切れの良さなどが絶品。

投句期間 9月15日〜締切未定
風邪(かぜ)
寒風にさらされたり、寝冷えをしたことがきっかけで引く風邪や、ウイルスによる流行性感冒などがある。くしゃみ、鼻水、咳、のどの痛み、熱などの諸症状を伴い、重症化することもある。
この兼題より、投句締切の周期を変更させていただく予定です。投句締切について詳細は俳句ポスト365の公式サイトでお知らせいたします。

参考文献 『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


 「俳句ポスト365」は携帯電話からもご参加いただけます。
 「俳句ポスト365」公式Facebookページ開設中! 公式サイトに設置しておりますリンクよりお入りください。毎回の兼題のお知らせを中心にお伝えしながら、皆様の返信欄への書き込みもお待ちしております。


 募集の兼題は変更される場合があります。「俳句ポスト365」のサイトで最新の情報をご確認ください。


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一句一遊情報局



協力: 南海放送


金曜日優秀句
平成28年7月度




肥後守研ぎあげて炎天に出づ  青花
研ぎ皮の火花の音や夏盛ん  もも
緑陰に墓標鳥類研究所  このはる紗耶
研修所喫煙所から紫陽花を  まるかじり
研修を終えて西瓜を買いにけり  杉本とらを
闘牛の角研いでゐる裸かな  ポメロ親父
石鎚の研ぐ水甘し心太  妙
蝶の夕疲れし腕が米を研ぐ  ドクトルバンブー
梅雨明けのシンクへ白き研磨剤  マイマイ
死魚のため研ぐ春愁の出刃包丁  のんしゃらん

夏暁を鎌研ぐ音がせき立てる  だんご虫


ペーロン

ペーロンの飛沫龍頭立ちませり  みみこ
ペーロンの接戦多頭龍のごと  海田
ペーロンの尾をくねらせて大回頭  いごぼうら
ペーロンや身よりも太き影を漕ぎ  ターナー島
外海にひとり落ちけりペーロン舟  谷口恵美
ペーロンや巨船震わす覇者の声  七草
ペーロンの太陽垂直に眩し  朝日
ペーロンは海沸かしたて太陽まで  理酔
ペーロンの角太陽を串刺しに  小市

呼応する龍へペーロンまた猛る  妹のりこ


ががんぼ

すぐもげる脚ががんぼは気にもせず  理酔
ががんぼに地の引力の及ばざる  樫の木
ががんぼや壁に残れる家具の跡  笑松
居酒屋の壁にががんぼ客を待つ  ピーマン
ががんぼや酔いの目が追うバスの窓  蓼蟲
ががんぼと嵩の増えたる川にいる  八木ふみ
ががんぼの二匹たゆたう古書庫かな  よもこ
生薬の匂い静かにががんぼ来  ほろよい
ががんぼや塩素の匂う更衣室  八十八
ががんぼの触れて空気の腐りゆく  紗蘭
ががんぼや思いみな死に突き当たり  ターナー島

ががんぼを扇ぎ夜へと戻しやり  小田寺登女


甘藍(かんらん)

畝ひとつ大甘藍のみな弾け  まちまちこ
甘藍の光の水を切りにけり  殻嵩はるお
甘藍の五六枚めが好きな色  小田寺登女
キャベツ剥く自分探しはもうやめた  谷口詠美
甘藍ひとつ今週を賄う  青花
助手席の甘藍止まるたび笑う  不知火
やり直す夫婦の朝を刻む甘藍  あねご
甘藍の残れる象舎星ひとつ  下町おたま

ザクと甘藍ザクザクザクと戦争へ  凡鑚
砲弾がすべてキャベツになればいい  クラウド坂上




くまぜみやばすからみえたきゅうきゅうしゃ  けいご5才
五月雨の河原に下る消防車  板柿せっか
鎌倉は車夫も美男や夏木立  紫水晶
客降ろし差し入れの桃啜る車夫  痛快
車椅子押してルピナス揺れる中  喜多輝女
車窓よりサナトリウムや合歓の花  あおい
火取虫車窓に当たり後は闇  dolce
炎昼の滑車きしませ座る石  ほろよい
大車輪から入る炎天の試技  きとうじん
宵起きの茶漬け掻き込み山車を待つ  不知火
藪枯らしに絡め取られて口車  のんしゃらん

流星を目指すや家畜運搬車  更紗



投句募集中の兼題

投句締切 9月11日


季語ではない兼題です。「甘」という字が詠み込まれていれば、読み方、用い方は問いません。季語は当季を原則として、自由に選んでください。

栗虫(くりむし) 晩秋/動物
甲虫目ゾウムシ科、栗鴫象虫の幼虫。8〜10月頃、頭部の細長い口で栗の毬に穴を空け、渋皮の下に産卵管を入れて卵を産む。孵った幼虫は実を食害する。

投句締切 9月25日

秋の村雨(あきのむらさめ) 三秋/天文
「村雨(夏季)」とは、にわかに群がって降る雨のことをいうが、古来より秋にも村雨が詠まれており、夏季と区別していう。

うるか 晩秋/人事
鮎の塩辛。秋の落ち鮎の内臓や卵巣を、塩と酒で一ヶ月ほど仕込む。独特の臭みと苦味が食通に喜ばれる。

参考文献『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句宛先
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


※ 掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとにしたものです。俳句ならびに俳号が実際とは異なっている場合がありますのでご了承ください。


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鑑(み)るという冒険


〜映画篇 演劇篇〜

文&俳句 猫正宗

第四十七回『蜜のあわれ』&『日曜劇作家』


 知人の家で懐かしい映画のDVDジャケットを見た。『水の中の八月』(石井聰互監督)。
 90年代ある種のトレンドだった「少女に救われる」作品の一つだ。少女という幻想に過大な期待を抱きがちな私などは、それらを愛しつつ、『水の中〜』を観ながら、うんざりもしていた。年端もいかぬ少女に、大の大人が助けを求めて縋りつくという状況に。『狂い咲きサンダーロード』や『爆裂都市』などの監督だったからこそ、余計にそう思ったのかも。
 そして今年、『蜜のあわれ』を観た。監督はいつの間にか石井岳龍に名を変えていた。室生犀星原作の本作。作者を思わせる老作家は、蓮っ葉で蠱惑的、我儘で奔放だが世知に疎い赤いドレスの少女赤子と、時には際どいところまで踏み込みつつ、日がな一日睦みあっている。だが、その赤子は老作家の飼う金魚なのだ。作家は、老いと死、才能への不安を感じつつ、赤子との戯れに耽る。一方、やはり老作家を愛し、その身を案じる二人の女―かつて関係を持った女?の幽霊と、現実世界の情人―を焦りや手前の勝手さから拒絶。最後まで縋っていた、自らの妄想かもしれぬ赤子とも最後は……。
 まだ、少女に救われたがっている。しかも、『水の中〜』で少女が救うのは世界であったが、もうそんな言い訳さえ必要としていない。正直、今でもそれはどうなのかと思う。しかし、あれから20年程の歳月、私は少女よりむしろ、作家に近い年齢になってしまった。その不安や焦りもある程度わかる程には。今、『水の中の八月』を観れば、また違う見方になるのだろうか?

星走る赤い尾びれのあの娘かも

 『蜜のあわれ』は、生と死の間にある人々の不思議な存在感や昭和初期の台詞回し、近過去を思わせる情景の組み合わせが独特の雰囲気を持った世界を作り上げている。赤子がたびたび覗く水槽のように。
 松山を中心に、最近は四国各地で活動する『日曜劇作家』(Unit out公演、出演:渡邊沙織、近藤圭一郎、他、'16年7月16、17日、シアターねこ)の作・演出の玉井江吏香は、そんな切り取られた世界を精緻に描き続けている作家である。
 「ああ、これはハコの物語だ」
 本作を観て私が最初に思ったのは、それであった。舞台となる仕事部屋、その部屋がある主人公が切り盛りする呉服店、主人公の弟が持ってくるカブトムシの箱、弟の子供の蝶のケース、主人公とその彼の各々の劇団、等々。そんなハコの中で、それぞれがそれぞれの優しさで、支えあい、傷つけあっている。個人的には、そんなハコをはみ出してしまうような作品が好きだ。私が決してハコはみ出すような人間でないからであろう。そういう意味では、本作の作者は真摯なのだと思う。氏の作品に魅かれる人は、その真摯さに魅かれている側面もあるだろう。それでもどこかハコをぶち壊すような野蛮さを、あるいは、そうしようとしてつけられた傷を、氏の作品で観てみたい、それは私の我儘である。主人公とその彼が最後に選ぶ言葉が、その標になるかもと思ったのだけれど。

蝶の繭カブトの蛹空高し


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続 南極を詠もう!


No.4

一般研究観測担当隊員 源 泰拓(俳号 源笑)


 「100年俳句計画」読者のみなさま、こんにちは。第57次日本南極地域観測隊越冬隊員のみなもとです。
 昭和基地の7月、最大の出来事は太陽が昇ったことです。5月末に極夜に入ってから40日あまり、ようやく「昼」が戻ってきました。
 お日さまを拝んで、心なしか隊員の表情も明るくなったように見えます。もうすぐ南極の春。越冬生活も半分が過ぎました。

星々の流れ下るか冴る夜  源笑

 昭和基地では、天気の良い夜はオーロラ観測のじゃまにならないように外灯が消され、窓からも光がもれないようにしています。
 きびしい寒さを我慢すれば、暗い空にきれいな星空を楽しむことができます。この日は天の川が真っ逆さまに流れ落ちるように見えました。
 写真の右下には淡いオーロラも写っています。

背伸びして一陽来復確かめる  源笑

 7月17日、海の向こうに46日ぶりの太陽が見えました。
 お昼どきの食堂では北向きの窓の前に人だかりができました。
 気温はマイナス20度近くでしたが、陽光になんとなく暖かみを感じます。

白湯放ち白い花火咲く露台かな  佐波妙惟

 7月には気温がマイナス30度以下になる日もありました。こんな寒いなかで、コップに入ったお湯を宙に投げ上げると一瞬で白い煙になります。わたしたちは「お湯花火」と呼んでいます。
 「花火」で「はな」って読ませたいのですが、表現としてありでしょうか?

そうめんを流す配管鼠色  佐波妙惟

 7月末のイベントとして流しそうめんが行われました。
 雨樋に使われるような塩化ビニル管を使った手作りの台に、大のおとなが群がる様はちょっと可笑しいのですが、みんなでわいわい楽しむ、こうした場も越冬を乗り切るためには大事なのだと思います。



今月の南極吟行句
希望峰 編

星々の流れ下るか冴る夜  源笑
 「星々」で「夜」が十分伝わるのではないかと思いました。「流れ下る」は、「下る」のが天の川なのか、自分が歩いていることを下ると表現しているのか、どちらかがはっきりすると、なおよいと思いました。あとは、「か」の一文字です。「か」と疑問の意味が入ることで、作者の「下っているのだろうか」という心のつぶやきが感じられるのですが、俳句は疑問を出すよりも、言い切ってしまう方が詩の心が明確に打ち出されます。

背伸びして一陽来復確かめる  源笑
 冬至の傍題である「一陽来復」ですが、この季語は映像がない季語です。なので、セオリーでは一陽来復+映像描写で17音にするのですが、今回は美しい写真がついています。なので、「背伸びして」「確かめる」もこれはこれでありなのかも……と思いました。個人的には、写真の右側の方角を示す看板が気になりますね。

白湯放ち白い花火咲く露台かな  佐波妙惟
 写真の勢いがすさましいですね。こういうときは、花火のように見えたよ、とはっきり比喩の表現を使えばいいのではないでしょうか。比喩を表す俳句的表現は「ごとく」とか「やうに」が多いですが、次のような方法もあります。
白湯放ち花火めきたる露台かな 
 これでどうでしょう?

そうめんを流す配管鼠色  佐波妙惟
 そのままのことをそのまま詠むだけで詩になる、という具体例かと思いました。
 流しそうめんは夏の季語ですが、越冬を乗り切るために使われるのも面白いですね。

太陽も我も流転の雪のなか  希望峰 


投句募集
南極の写真から発想した俳句を募集します。投句された俳句は、スウェーデンに留学した経験のある希望峰さんが紹介します。
俳句は専用の投句フォームにて受け付けます。
http://marukobo.com/antarctic/
投句締切 9月3日(土)


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100年俳句計画 掲示板




テレビ ラジオ

NHK Eテレ『NHK俳句』
 日曜6時35分〜7時
 (再放送 水曜15時〜15時25分)
夏井いつきが第3週選者を担当
9月18日(日)、再放送 21日(水)
【兼題】「黄落」または「黄葉」
投句締切 9月10日必着
投稿は葉書1枚に1句。選者名、兼題、俳句1句、名前、年齢、電話番号明記。
 《宛先》〒150ー8001 NHK「NHK俳句」係
 ホームページからの応募も可 http://www4.nhk.or.jp/nhkhaiku/

NHK 総合テレビ(愛媛のみ)
「えひめ おひるのたまご」隔週火曜
 『みんなで挑戦! MOVIE俳句』
9月13日(火)、27日(火)11時40分〜

TBS系列局 全国ネット
 『プレバト!!』
木曜19時〜19時56分
夏井いつきが俳句の査定を担当

南海放送
 松山市政広報番組
 『大好きまつやま 〜しあわせことば塾〜』
毎週火曜20時54分〜21時
(再放送 日曜11時40分〜11時45分)
夏井いつきが塾長として出演

南海放送ラジオ
 『夏井いつきの一句一遊』
毎週月〜金曜 10時〜10時10分
「一句一遊情報局」のページ参照

FMラジオバリバリ
 『俳句チャンネル』
月曜17時15分〜17時30分
(再放送 火曜7時15分〜7時30分)
投句募集兼題
「子規忌、蓮の実」…9月11日締切
「虫、茸」…9月25日締切
 WEB http://www.baribari789.com/
 mail http://www.baribari789.com/
 FAX 0898(33)0789
投句には本名 住所をお忘れなく!
各兼題「天」の句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。

各番組の放送予定は変更される場合がございます。新聞などで最新情報をご確認ください。


執筆

松山市の俳句サイト
 『俳句ポスト365』
http://haikutown.jp/post/
「俳句ポスト365」のページ参照

テレビ大阪俳句クラブ
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 「集まれ俳句キッズ」(夏井いつき選)
毎週日曜タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井いつき選)
投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。朝日新聞松山総局(〒790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。

愛媛県 吟行ナビえひめ 句&写真
俳句選者 夏井いつき
写真選者 キム チャンヒ
 募集期間 毎月1日〜 25日頃締切
 応募先 http://www.iyokannet.jp/ginkou/
 問合せ 愛媛県観光物産課
TEL 089(912)2491


句会ライブ 講演等

波佐見町町制施行60周年記念「俳句王国がゆく」公開収録
9月3日(土)13時30分〜15時30分
 波佐見町総合文化会館(長崎県)
観覧申込受付は終了しています

(公社)栃木県不動産鑑定士協会設立30周年記念講演会
夏井いつき句会ライブ
9月8日(木)15時30分〜17時
 ホテル東日本宇都宮(栃木県)
参加申込受付は終了しています

土佐市民大学 夏井いつき句会ライブ
9月11日(日)14時〜16時
 土佐市グランディール(高知県)
前売 大人1500円、高校生以下500円
当日 大人2000円、高校生以下800円
(未就学児のご入場はご遠慮願います)
当日11時〜先着順に入場整理券配布
土佐市立中央公民館
電話 088(852)2111

平成28年度中国四国ブロック商工会女性部交流会
夏井いつきの句会ライブ 俳句の力を地域の力に
 9月13日(火)16時20分〜20時
 ひめぎんホール サブホール(愛媛県)
愛媛県商工会連合会
電話 089(924)1103

宇多喜代子 黒田杏子の道後俳句塾2016
 9月17日(土)13時〜
俳句塾
講師 宇多喜代子 黒田杏子
 9月18日(日)10時〜
吟行会
講師 宇多喜代子 黒田杏子 相原左義長 夏井いつき
 松山市立子規記念博物館(愛媛県)
参加申込締切 8月28日(日)
松山市立子規記念博物館友の会
電話 089(931)5566

第1回 灯台愛読者講演会
句会ライブ2016 in神戸
9月24日(土)13時〜
 関西国際文化センター(兵庫県)
 参加費 無料
参加申込
往復はがきに、住所 氏名 電話番号 何を見て応募したかを明記し、〒160ー0022 東京都新宿区新宿1ー23ー5 第三文明社 「句会ライブ」係まで。(1枚で1名)
申込締切 9月5日(月)先着順

「俳句王国がゆく」公開収録(熊本)
9月29日(木)18時〜20時
熊本地震の影響により日程変更になりました。
 熊本市植木文化センター(熊本県)
観覧申込
往復はがきに、郵便番号 住所 氏名 電話番号を明記し、〒860−8601 熊本市役所 文化振興課「俳句王国がゆく」係まで
観覧申込締切 8月31日(水)
熊本市役所文化振興課
電話 096(328)2039


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魚のアブク



読者から寄せられたお便りをご紹介
お便りお待ちしています!
100年俳句計画編集室「魚のアブク」宛、もしくは他の投稿に添えてお寄せください。


夏のお便り

ケンケン 猛暑には「ゴーヤービール」です。飲んだ瞬間、身体がヒンヤリします。酷暑でも元気ハツラツ、笑顔いっぱいで作句できます。

出楽久眞 夏休み間近です。今年は、息子二人して受験生なので、これまでのように部活一色とはならず、家にいることが多くなりそうです。目下、一日一季語で一句ずつ作らせたいなと目論見中……。

編集室 たくさんの暑中お見舞いのお便り、ありがとうございました。今年は台風が少なかったせいもあってか、梅雨明け以降、各地で水不足などもあった様子。まだまだ暑い日が続いていますが、暦の上での季節はもう秋。俳句をやっていると、季節の到来には敏感になれます。


ご参加ありがとうございます

のりこ 参加してみようと思いつつ、半年が過ぎ、遂に、恐る恐る参戦いたしました。よろしくお願いいたします。

江口小春 こちらには初めて参加いたします。俳句ポストの兼題金魚で火曜日で紹介されたのがおそらく初めての投句でした。もう三年なのかまだ三年なのかわかりませんが、確実に俳句は私の生活に入り込んできてます。携帯をわすれても句帳は忘れません。楽しめる程度にがんばりまーす!

編集室 ご参加どうもありがとうございます。 自分の作品がどう載っているかを確認する時の、あのぞくぞくっとする独特の感覚は、実際に参加してみないと体験出来ません! もちろん、自分の作品だけではなく、他の人の作品もじっくりと読んでみてくださいね。

元旦 へたうま仙人に投句しながら、いつも考えます。ヘタウマになっているのか、と。ただヘタなだけじゃないのかと悩んでおります。技術はヘタだけど、発想やセンスや魅力はあるという句になっているのだろうか。でも、そんなヘタヘタな句でも、仙人さんから一つ一つ丁寧に気の利いた寸評をいただけるので、毎月何とか投句を続けています。本当にヘタウマというさじ加減は難しいです。

編集室 へたうまの道は奥が深い!(笑)


俳都松山キャラバン

かのん 7月17日in新宿。「俳句対局トーナメント戦!」を、初めて観戦しました。次々に生まれる俳句にどよめきながら、組長の実況解説、審査員の先生方のお話も興味深く、楽しい時間でした。

みやこまる ずっと楽しみにしていた1年ぶりの『俳都松山キャラバン2016in新宿』に行ってきました! 立派な会場に豪華な審査員の先生方、組長のおもしろトークとイケメン正人さんの司会で盛り上がったあと、さらに手に汗握る俳句対局! 「私はそこ(対局席)には座りません!」と断言していらした池田先生がとてもチャーミングでした!

編集室 今年で2年目の俳都松山キャラバン。5月に開催された愛知・明治村に続いて、先日は東京・新宿での開催でした。そして、10月には愛媛・松山での開催が予定されていますので、どうぞお楽しみに!
さてさて、「俳句対局」といえば、先月も少しお伝えした新企画がいよいよスタート! どうぞ奮ってご参加ください。(告知参照)


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鮎の友釣り


第218回


俳号 幌谷魔王(ほろたに まおう)

前回 希望峰さんへ いつも大変お世話になっております。出張の多いお仕事をこなしながら、お詩事も積極的にこなす姿勢をとても尊敬しています。お身体にお気を付けてこれからもJumping Heartでいきましょう!

俳号の由来 昔から魔王だからです。……すみません真面目に書きます。昔からニックネームだったからです。挨拶のときにちょっと恥ずかしいですが、この上なくインパクトがあるのですぐ覚えてもらえます。

世界征服級の野望 多くの人に作品を見ていただき、一人でも作品を気に入ってくれる方がいればもう世界征服級に嬉しいので、これ以上の野望はないですね。

次回 中山奈々さんへ 尖ったセンスが素敵です。実はお会いしたことがないので、いつかお会いできることを夢見ております。


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告知




春夏秋冬(しき)笑顔
まつやま福祉
五七五

主催
松山市社会福祉協議会
有限会社マルコボ.コム
(ふくし句会・ハイクライフマガジン『100年俳句計画』)


福祉をテーマにした 夏の五七五 結果発表

会長賞
薫風や駅長の押す車椅子  dolce(ドルチェ)(西条市)

優秀賞
ひまわりや人それぞれの笑顔あり  ひさの(砥部町)
夏帽子一時帰宅の母の声  彩楓(さいふう)(埼玉県)

入賞
にこにこと聞いて頷く眼の涼し  岡田早苗(松山市)
夏蝶や九十六を生きし義母  中川弘子(京都府)
おぼつかぬ歩みの杖となる薄暑  さとう七恵(佐賀県)
車椅子蟻の歩みに勝てました  高須賀須磨子(松山市)
手で見る作品緑雨の美術館  八木ふみ(波方町)


福祉をテーマにした 秋の五七五 募集
第3回 10/31締切

応募方法
「春夏秋冬笑顔まつやま福祉575」係 宛に、ハガキまたはFAX、または、インターネットの応募フォームにて応募して下さい。
送り先
790-0808 松山市若草町8番地2 松山市総合福祉センター
 社会福祉法人松山市社会福祉協議会 総務部 施設管理課
FAX番号 089-941-4408
専用フォーム http://www.marukobo.com/egao/



俳句対局を誌上で疑似体験!?

来月より新連載スタート
インターネットで参加!

8月25日、投句の募集を開始しました!

通常の俳句対局と同じルールで投句を募集。俳句の出来と投句のスピードで特選句を選出します。選者は美杉しげりさん。インターネットのみでの投句受付です。(※一部の携帯電話は非対応です。)

詳細のご案内&ご参加はこちら!
http://www.marukobo.com/taikyoku/



第六回 百年俳句賞 大人のための句集を作ろう!コンテスト
作品募集

主催 マルコボ.コム
共催 朝日新聞社、松山市教育委員会(予定)


 「百年後の未来に残したい作品を、私たち自らが作り、自らが選ぶ」という目的で開催している「大人のための句集を作ろう!コンテスト」は、その目的をより明快にするため、今回より「百年俳句賞」と冠する事となりました。
 内容は例年通りです。多数の応募お待ちしております。


募集要項

応募資格
15才以上(高校生以上)の方なら、本誌購読の有無に関係なく、どなたでも応募できます。

応募方法
Eメールでの応募の場合
応募用のエクセルファイルに必要事項を全て入力し、Eメールの添付ファイルにして、応募して下さい。
応募用ファイルのダウンロード先 http://81ku.marukobo.com/
郵送の場合
B4判四百字詰め原稿用紙に81句とその表題、俳号、本名、年齢、住所、電話番号を必ず明記して応募して下さい。

締め切り
2016年11月30日(水)必着


賞状および応募作品による句集20冊
賞品句集は縦横135o・36ページとなります。句集は本誌付録として配布します。

発表
本誌2017年4月号誌上(予定)

送り先
〒790-0022 愛媛県松山市永代町16-1
有限会社マルコボ.コム
月刊俳句マガジン『100年俳句計画』編集室
Eメール 81ku@marukobo.com


既作新作を問わず81句の作品集を募集。
最優秀賞作品は句集にし、本誌付録として配布します。
締切11月30日(水)!


「百年俳句賞」Q&A

「受賞作品が句集になるってホントですか」
 最優秀賞作品は、月刊俳句マガジン『100年俳句計画』の付録冊子として読者諸氏に広く読んで頂きます。付録とはいえ、お洒落なデザインの句集だと評判です。
 受賞者には一切の金銭的負担をかけず、読者にとっても安価な句集をどんどん生み出していきたいという志を一つの形にしたのが、この企画なのです。

「俳句マガジンを購読してないんですが、コンテストへの応募はできますか」
 どなたでも応募できます。購読の有無は一切関係ありません。勿論、応募は無料です。

「審査は誰がするのですか」
 本コンテストの受賞者は、「百年俳句賞」選考会員の投票によって決まります。「百年俳句賞」選考会員は、月刊俳句マガジン『100年俳句計画』購読者の内、各総合誌等の俳句賞受賞者あるいは最終選考に残った実績のある人たち等によって構成されます。
 多くの目利きの力を借りて「百年先の未来に残したい作品と作家」を見い出し顕彰していくことが「大人コン」の目的。我こそは!という皆さんのご応募を、心からお待ちしております。



選評大賞2016

今年も選評大賞を行います。300字以内でビシッと決まった選評をお寄せください。多数の応募をお待ちしております。

選句の対象となる句
 2015年10月号〜2016年9月号までに掲載された「百年百花」「100年の旗手」の中から、心を打たれた俳句を1句選んで、選評をお寄せ下さい。

記載事項
 掲載句1句(掲載号、作者名を必ず明記)
 選評 20字×15行(300字)以内厳守(多すぎても少なすぎても減点の対象となります)
 俳号、本名、住所、電話番号(必ず明記)

最優秀賞
賞金1万円(来年の第七回「百年俳句賞 大人のための句集を作ろうコンテスト審査委員会」への参加資格も得ます。)

優秀賞(数名)
賞金3千円

締め切り
10月20日(木)必着

応募先
100年俳句計画編集室まで、ハガキ・封書・FAX・メールでお送り下さい。
送付の際、件名・タイトルに「選評大賞2016」と明記下さい。
ご応募の際、他の投稿とは別にお願いいたします。

結果は12月号にて発表します。



会話形式でわかる近代俳句史超入門
文 構成 青木亮人
単行本化準備中!
連載は暫くお休みします。ご了承ください。


編集会議開催
 編集会議は、2ヶ月に1度開催しています。年間購読をされている方なら、どなたでも参加できます。また、Eメールなどでのご意見もお待ちしております。
次回編集会議
日時:9月16日(金)(予定)
18時〜
場所 マルコボ.コム 松山市永代町16-1
対象 本誌年間購読者
申込先 100年俳句計画編集室
E-mail magazine@marukobo.com


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編集後記


キム チャンヒ

 出張の際の読書用に「kindle(キンドル)」を購入した。キンドルとは、インターネットショップサイト「アマゾン」専用の電子書籍端末。何時でも何処でも簡単に本が買える上、本を数冊持って歩くことを考えれば、200g程度と軽い。しかも、いよいよ老眼が始まってしまった目には、文庫本の文字が小さく感じられる事も多く、文字の大きさを自由に変えられるキンドルは、もう手放せないものとなってしまった。
 ただこのキンドル、小説や随筆などの散文、マンガを読む分には申し分ないのだが、句集となるとかなり物足りなく感じられる。
 一般的な句集の装丁は、書体やレイアウトを含めて、1ページごとの面で味わう事を想定している。
 しかし、キンドルで表示すると、句会の清記用紙のように、単なる俳句の一覧として表示されてしまう。
 レイアウトが崩れないように、電子書籍を制作すれば良いのだろうけど、そうすると紙の本とは違って、余白が気になってしまう。
 もちろん、句集に於いても電子書籍化の流れは止められないだろうが、紙の句集自体がなくなる事はないと確信する。
 そしてなにより、キンドルでは、作者のサインを貰う事すらできないのだから。


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次号予告



227号 10月1日発行予定

次回特集
第19回俳句甲子園!


お得で便利なマルコボ.コム直販定期購読! 巻末の案内をご覧ください
お申し込みの方へ、毎月末頃に最新号を送料無料でお届けいたします!
(住所変更の際は必ず編集室までご連絡ください)

『HAIKU LIFE 100年俳句計画』は以下の書店でもお買い求め頂けます。

愛媛県
 明屋書店 ※一部店舗のみ
 ゆらり内海(愛南町)
 原田書房(今治市)
 子規記念博物館(松山市)
 紀伊國屋書店松山店
 ジュンク堂書店松山店


HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画
2016年9月号(No.226)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子

2016年9月1日発行