100年俳句計画8月号(no.225)


100年俳句計画8月号(no.225)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。






目次


巻頭リレーエッセイ
産土/クズウジュンイチ


特集1
夏休み句集を作ろう!コンテスト 10回目記念スペシャル


特集2
100年俳句計画 大豆プロジェクト
第二弾 草取り&摘芯体験吟行会



好評連載


作品

百年百花
 河野しんじゆ/天玲/日暮屋又郎/マイマイ


新100年の旗手
 砂山恵子/KIYOAKI FILM


新100年への軌跡
 俳句 安里琉太/安岡麻佑
 評 平山南骨/十亀わら




読み物

美術館吟行/恋衣

mhm通信/暇人

Mountain Cabin Dispatch/ナサニエル ローゼン(翻訳:朗善)

JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭

ラクゴキゴ。/らくさぶろう

歳時記「無季」がバイブル/日暮屋又郎

クロヌリハイク/黒田マキ

百年歳時記/夏井いつき

鑑(み)るという冒険/猫正宗

続 南極を詠もう!/源泰拓



読者のページ

100年投句計画
 選者三名による雑詠俳句計画
  桜井教人/阪西敦子/関悦史

 へたうま仙人/大塚迷路
 自由律俳句計画/きむらけんじ
 詰め俳句計画/マイマイ
 100年投句計画 投句方法

短歌の窓/渡部光一郎

百人百様E-Haiku/菅紀子

俳句ポスト365

一句一遊情報局

100年俳句計画 掲示板

魚のアブク

鮎の友釣り

告知

編集後記

次号予告





巻頭リレーエッセイ



産土
クズウジュンイチ

 わたしは群馬県に住んでいる。若かりし頃の数年を除きずっと住んでいる。だんだんこの地がインドのようになってきている。その日のニュースで酷暑を告げるとき、38度とか39度とかインフルエンザのような高熱に地域全体が覆われているのはほとんど群馬である。
 俳句にとって重要な季節感が、明らかに損なわれている。そもそも体温より高い戸外に出ては死んでしまうので、エアコンをフル稼働して室内に籠っていると、季語「冷房」の句しか作れない。
 子供の頃、いや10年ほど前までは八月でも野外に出ていたはず。インド化した群馬県の平野部ではもはや独自の季感を持った句を作るときが来たのかもしれない。
 季節は「熱」。むろん新しい季語は「カレー」。傍題は「カリー」だ。


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特集1

夏休み句集を作ろう!コンテスト 10回目記念スペシャル




キム チャンヒ×八塚あづき
6月30日(木)
於 マルコボ.コム

きっかけは、殿様ケンちゃん俳句ノート

キム いよいよ今年も募集の時期がやってきました。夏休み真っ盛り、みんな作ってるかー!?
あづき はははははは(笑)
キム 当初は小学生に40句も作らせるのは無理!なんて言われた企画でありますが、無事10回目を迎えることができました。
あづき はい。
キム 約400作品、1万6千句を毎年予選をしている、あまり表に出てきていなかった八塚あづきさんに来ていただきました。
あづき そうですね、ずっと影の女でしたが……(笑)。初期の頃からこれだけの素晴らしい作品が保たれているコンテストは、あまりないのではないかと、それが40句も揃ってということなので、すごいな、と思います。
キム はい。
あづき 今回10回の記念大会ということで、どんな作品が出てくるのか、10回を飾るのに相応しい作品が来るのではないかな、と今から楽しみにしております。
キム 実はこのコンテストの元になったのは、あづきさんも一緒に作ってもらった、「殿様ケンちゃん俳句ノート」。俳句の創作が教育現場に入るかも、というので、教材つくろう!というのが企画の始まりだったんですよね。
あづき はい。
キム 最初はワークシートを作ろうとしていたんですけど、先生向けではなく、子どもたち向けのものにしようということになりました。その頃桜井教人先生が、子供たちにノートを作っていたんですよ。どういうノートか、僕は実物は見たことがないんですが、ノートとワークシートが合体してて、季寄せもついていればいいんじゃないかな、と思って。うちの子が年長の時に、うちの会社で作っていた俳句手帳の季寄せ(文字だけ)を大きくして入れた、A5サイズのノートを作って渡してみたんです。そうしたら、俳句を作って遊んでいたんですよ。それで、これならいけるかも!という話になって。で、問題は季寄せ。
あづき そうですね。
キム いつきさんから「季寄せに絵をつけない?」という話が出て、「これは大変だなあ」と思った。大歳時記なんかは一つの季語に写真がついていたりしますよね。それを製作期間半年くらいで作るのは無理!と。
あづき (苦笑)
キム 色々考えて、その頃殿様ケンちゃんっていうマンガを描いていたから、殿様ケンちゃんが子どもの代表になって、部屋の外と中とで、季語を探すようになったらいいな、と思って、「絵で見る季寄せ」を構想しました。
あづき ええ。
キム どの季節も同じレイアウトで、季節ごとにちょっとずつ違いが出るような形にしたりしてね。
あづき それがすごいですよね、これ。この桜のところも、花が葉桜になり、紅葉になり、っていう。違うページの同じところを開けば、その季語の変遷が絵でわかっちゃうというね。これ素晴らしいですよね。
キム 最初は季語を探すの大変なんだけど、慣れるとどこに何があるかっていうのは絵のイメージでわかるようになって。まさしく生活の中から季語を探すようにしたいと思ったので。
あづき そうですねえ
キム この季語は、ほとんどあづきさんがリストアップし、それを僕がはめ込むような形で作りました。
あづき そうでした。
キム 作ったからには、どうしたら売れるかと、という話をしていた時に、いつきさんが「子規365日」という連載をしていた関係で、うちの社長が朝日新聞松山総局長に、小中学生を対象とした俳句コンテストしないか、という企画を持って行きました。その時に、夏休みは40日で、一日一句作ったらできるし、最後に句集という本にしたかったので、応募する句数を四十句にしたんです。
あづき ええ。
キム 当時の朝日新聞松山総局長は、40句は無理!とか言って。(笑)
あづき 40でよかったですよね、今考えたら。40だからこそ味や個性がでるっていう。
キム コンテストを始めたころは、小学生の応募が圧倒的に多かった。でも、最近の中学生の俳句は目を見張るものがありますね。
あづき 初めの頃はおそらく意識して俳句を作ろうという子たちが小学生の部に多くて、先生たちも俳句の授業のとっかかりで使ってくれていたので、学校応募も多かった。意識的な小学生のいい作品が多いだけに、中学生の作品が少し物足りなかった結果だと思います。回が進むごとに成熟してきて、それとともに作家としての子供たちも成熟してきて、中学生もみるみる層が厚くなってくるという……。
キム 厚くなってきていますね。
あづき (小学生から)育った子が中学生になって、という感じですかね。


最優秀作品を振り返って

第1回

キム 記念すべき一回目は津田佐知子さんの『Fanfare』。
あづき これは素晴らしいですよね。私、俳句甲子園に初めて出たいという高校生のお手伝いに行ったときに、たまたまこれが朝日新聞の記事に出てて、その時に先生が、こういうコンテストがあって小学生がこんな俳句を詠んでいるんだよ、って「運動会準備いま戦場の国の旗」という句を出したとたん、高校生たちが、「やべー!やべー!」って。もう、「やべー!」っていう言葉以外を言えずに震えているという場に居合わせたんですよ。あまり俳句をやっていない子たちにとっても、運動会という、なんというかめでたい感じと戦場との取り合わせの、独特の句の世界のすごさというのはわかったらしくて。
キム 一回目にこの作品があったのがとてもこのコンテストには幸せだったなあ、と思いますね。しかも小6。
あづき 彼女のおかげでみんながここを目指していけばいいっていうのが見えて、本当素晴らしかったですよねえ。

第2回

キム 二回目は当初目的だった中学生の部と小学生の部の最優秀賞を出すことができた。佐知子さんが『証明写真』で受賞して、対照的に『爆弾低気圧』という作品。破天荒なパッションの塊のような……。この作品も句集コンにとってはとても大切な作品だったな、と思っています。積み上げてできた作品とはまた違って、俳句の仕組みの中で情熱をバコンとぶつけるような……。
あづき 小3の作品ですね。やりたい放題って感じで、それを受け入れてくれるこの句集コンの懐の深さ、みたいなのがありますよね。小学生ならではの遊びと、中学生の堅実さと。第一回の津田さんがまたさらにパワーアップして。ある句会でお会いした先生方が、『証明写真』の新聞での結果発表を「正座して読みました、これって本当に中学生ですか!?」みたいな。中学受験を経験した津田さんが、そのあたりの自分のイメージと関わる親目線なんかも入れながらで、編まれた句集でした。
キム 一年経って世界が一歩大人になったってことでしょうね。
あづき この二つが並列して最優秀賞として評価してもらえるというのが、句集コンの面白みであり、だからこそ次にまたすごいのが来るというところなのでしょうね。

第3回

キム 前半戦のクライマックス、山本真由さん『八月六日』ですね。
あづき はい。これもすごいですね。
キム この頃になると、このコンテストに向けて10月1日から応募締切の9月30日まで一年を通じて一生懸命俳句を作るというスタイルが少しずつ確立してくる中で、修学旅行だけで作った句集。
あづき しかも広島に照準を合わせて。
キム この子の衝撃がすべて40句に詰まっているというものが送られてきて。これは文句なし。小学6年生の作品とは思えないレベルでね。
あづき だからこそ、小学生・中学生では最優秀を決められなかった。
キム ここでまた中学生の部はなし、と、逆戻り(笑)。
あづき これを超えられる中学生が出てくるまでは、ということでしたよね。おそらくいつきさんも言っていたと思いますが、彼女は日ごろから俳句を作っている子なので、大人にも評価されている句が沢山あったであろう、と。でも、そういった句まで捨て去ってこの一冊に。これは表現者としての意識がないとできないことですよね。
キム そうですねえ。無垢な小6の心だからこそ全部衝撃が詰まっちゃったっていう感じなのかなあ。
あづき どれをとってもすごいですよね。大人が読んでも泣ける、みたいな。
キム 俳句が表現の媒体としてこの子に入っているから、この作品が吐き出されたんだろうな、と思いますね。

第4回

キム 次は金紗蘭さんの『パズルな日常』。この子は兄弟でいつきさんのラジオとかにも投稿していて。この時初めて最優秀賞取ったんですよね。それまで地道にやってはいるんだけど、体に俳句の作り方が完全に入っていないというところがあって。
あづき 本当、すべてが整ってきて、軽やかに自分が表現したいことを詠んでいる。
キム 見たものだけじゃなくて、想像の世界もぐじゅぐじゅに混ぜ込まれてタイトル通りパズルみたいなね。
あづき 彼女のいろんなことやりたいことがいい感じで句集にまとまってきた感じ。それと、突出した子たちだけが素晴らしく目を見張るというのではなく、他の子たちもみんな俳句がうまくなってきたな、っていうのが4回くらいからどんどん見えてきますよね。堅実にやってきている子たちが優秀賞に堅実に入っていくみたいな。ちょっとやりすぎちゃうと、優秀賞に入れなくて涙を流す、そんな感じの句集コンテストになってきたっていうのがこの4回あたりからですよね

第5回

あづき 第5回も400作品ほど来ていますね。
キム このあたりから、更に競争が激しく、最優秀賞になるっていうのは大変なことに。そんな中受賞したのが、八塚大輝さんの『Alohomora〜扉よ開け〜』。これは魔法をテーマにしてるんだけど、やりすぎちゃってて面白かった、っていうか。
あづき あはははは。
キム でもね、魔法がテーマでありながら、途中に日常が入ってくる。そこが不思議なリアリティがあるっていうか。
あづき 「この句集コンは、ただ遊んだり、頑張るだけじゃだめで、季語が効いてないと評価されないんだ、っていうのが続けてやってきてわかった。だから季語が生きるかどうかだけはすごく気を付けました」みたいな感じのことを受賞の言葉で書いていたのがあるんですけれども、おそらく句集コンに応募する子たちが、そういうことを気にしながらやるコンテストになって、きてそれが評価の分かれ目。
キム そういった点で、俳句としてちゃんとできていますよね。それから、できてるだけじゃなく、その先に何か新しい何かがあるという点で突出していたと思います。昨日の100点は今日の80点。同じものを作っていたら、もしかしたら50点かもしれない、というのが表現の世界だとしたら、そこに果敢にも挑んだ作品だと思います。表紙も凝っているんですよね。ちゃんと力が入っていて、面白いです。

第6回

キム 6回目は高橋凜太郎さんの『南天の明暗』。
あづき 5年生ですね。
キム これは完成度が高くて。大人が詠んでるんじゃないの?と思うくらい。
あづき 5年生ですからね!
キム だって、一句目の「口下手な人間二人チューリップ」なんて、えええええ〜!みたいな。
あづき 本当、5年生ならでは。でもここまでやれちゃう感っていう。最優秀でもいろいろな色があって面白いですねえ! 取り合わせも完璧ですよね。どれをとっても。かつ子供らしいといえば子供らしい、という言葉が正しいのか。
キム “11歳の視点”がちゃんと残っているんだよね。
あづき 自分の等身大の言葉選びなんだけど、そこで完璧に取り合わせを成功させてくる、みたいな。うまいなあ。「履きなれた靴春はまだ浅い」
キム 常連の子から言わせると、「今度は取れると思ったのに、なんだ!高橋凜太郎君っていうのが現れて!」
あづき そうそう、新人がまた現れてしまった!みたいな。独特の感性でわが世界を行っちゃう感じで。
キム ある日“ばちん”とこう、取り合わせの仕組みが、体の中に入るという……。
あづき 構成も面白いですね、春から冬にかけてというところで。中学生っぽいですよね。
キム でも誰かの真似みたいな感じではないですからね。
あづき この子の作品を見ていると、取り合わせっていうのがきちっと入っちゃえば、ある程度言葉を選ぶことを知った5年生くらい以降になると、句の世界を作れる、っていうことですよね。彼が示していることは。アバンギャルドに何かをしようという意識とはまた別のところで、ちゃんと形を知れば、その中で句の世界はいくらでも詠めていけるんだ、っていうね。そういうことなのかなと思いますよね。

第7回

キム また中学生最優秀の部が復活。
あづき 中学生が育ってきまして。小学校で力を蓄えてきた子たちが、中学生でしか詠めない作品を作家としてやってくれ始めた、という感じですね。
キム 小学4年生八塚陽向さんの『突貫工事』と中学1年生三P未悠さんの『あの夏の海』最優秀賞。
あづき 『あの夏の海』は、もう抜群の取り合わせですよね。詩が面白いので、もうこれは中学生最優秀賞を復活させないと仕方ないだろう!みたいな。文句なしの最優秀でしたよね。
キム 小学生の八塚さんが自由奔放にやっててね、つまらない枷を与えられていないっていう感じですね。
あづき この二人はコンテストを信用して、自分がしたいことを思い切りやっていけば、ちゃんと自分の句集ができることが分かっていて、楽しんで作っている感じがします。他の優秀賞の子たちも、やらされて苦痛でやっているのではなく、楽しみながら応募しているのが伝わってくるコンテストに成熟してきて。だからこそ二つの小学部・中学部と復活になったのかな、という気はしますね。
キム 成長に応じた魅力が。
あづき 小学生を見ても面白い、中学生を見ても面白い。
キム この回からレプリカに背表紙が…。レプリカも若干進化してきているんです。
あづき 本当! このレプリカもらえるのがいいですよねえ!このコンテストは!!

第8回

あづき もうこの辺りは、小中学生それぞれに色が出てきてっていう感じ。中学生の部の三瀬さんは連覇。中学生の部の作品群の中で連覇する、っていうのは、本当に並大抵のことではないと思います。思春期ならではの心の揺れっていうのを、季語の力を借りながら詠んでいます。大人のしっとり感もありますよね。
キム 小学生の部の栗田大愛さんの作品も、素直に自分を表現していて、読んでいて気持ちいい。
あづき これまで、小学生中学生両方っていうときには、小学生らしい破天荒さ、中学生らしい心の揺らぎが評価されていました。今回は季語に破綻のない堅実な作品でしたね。

第9回

キム いよいよ去年の作品ですね。
あづき 栗田さんの連覇ですね、この小学生の部。
キム 去年ともまた全然変わってきて、今回は複雑な雰囲気も入っていたと思う。
あづき そうですねえ、俳句の形を手に入れた子たちがどこまでやれるかも楽しみですね。一回評価をされた子が、更なる評価を手に入れる。その都度成長が見れるっていうのは、本当素晴らしい。かなりの競争率の中、進化を遂げてくるというのは、句集コンテストならでは。
中学生の部の岡田さん、彼女もずっと応募されてて、これまで優秀賞には入っていたと思うんですけど。
キム  4年生の時に初めて応募して、中学校2年生で。
あづき ということは、5回目ですよね。優秀賞までは行っても、最優秀まではいけないと本人もコメントに書いています。彼女の句っていうのは、堅実に作ってきたことの素晴らしさ。続けていくこと、重ねていくことが力になる、そんな魅力を感じました。

このコンテストならではの装丁賞

キム いろいろなパターンがあるな、と。やり方は無限だな、って思いますね。句集コンで上位にいきたい子は、装丁も力をこめてやるし、そこも自分の表現として楽しんでいるところじゃないのかな。
あづき 美しいですよね。
キム シンプルにしてもいいし、複雑にしてもいいし。装丁をみていくともっと面白い作品があります。
あづき 沢山ありますよね。あげてたらきりがないくらい。アイデアですよね。
キム 布なんか張り付けたり。
あづき 切り抜いたり。パズルみたいな。絵もうまいですね。

コンテストの今後

キム まとめると、大人の俳句のコンテストも同じじゃないかと思うんですけど、答えはその子にしかない、っていうところかな。審査員を信じて、自分の個性、自分らしさっていうのが出たら、最優秀賞にいちばん近いぞ、と。去年の最優秀賞はこれだったから、これをまねてじゃなく、俳句のテクニックは基本として、その中から自分の考えや気持ちなんかをどう託せるかっていうのが、上位にくいこむ近道なんだなと。
あづき ほんとそうですね。個性というのも、いわゆる作家的な個性に限らず、堅実なのも個性。その子なりのその子の色で、結局楽しんで40句を作って表現する。
キム 大人のコンテストよりそこが評価されやすいのかもしれないし、前面にでるのかな。子どもはそれぞれみんな違うんだな、って。
あづき 本当、これが正解っていうのはないな、って。だからこそ楽しいんでしょうね、10回目楽しみですね。今度どっちの方向に舵が切られるのかな、と。
キム 同じ子でも一年たつと全然違うから、そこが楽しみですよね。
あづき はい。


現在コンテストの応募作品を募集中。


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特集2

100年俳句計画 大豆プロジェクト


第二弾 草取り&摘芯体験吟行会

レポート:あねご

主催 烏天狗&ハイクライフマガジン『100年俳句計画』
協力 まつやま俳句でまちづくりの会


7月3日 草取り

 種蒔き以来ずっと不安定な天気が続いていた六月。予定していた草引き、摘芯も雨で一週間ずつ延期となった。やっと晴れ間が広がって二日目の日曜日。種蒔きに遅刻したので今回は一番乗り!と思ったが、烏天狗さんがすでに草刈り機で作業をやっていた。その姿のなんと凛々しいことよ。と思ったのもつかの間、畑一面に青々となびいている雑草に絶句した。

炎天の気を狂わせる草数多  マーペー
夏草のここいらへんに蒔いたはず  あねご

 畑一面の見事(?)な稗に、ひえ〜!! 畝は確認できるがどこに大豆が発芽しているのかわからないくらい稗が覆っている。行くと言うてしもて集まったメンバーは全員畑を目の前に一瞬固まったに違いない。やるしかない。

梅雨晴れや長靴買いて野良臨む  タケニー
どう見ても非農家集団黒揚羽  烏天狗
水筒を畦に投げ出し草を刈る  ねこ端石
畝高し本日草のひき放題  日暮屋

 ひたすら手元だけを見てしゃがんだ姿勢で黙々と進んでいく。先を見たらいつまでかかるんじゃろかと途方にくれる。後ろを見たらまだちいとしか進んでないとガックリくる。畝ごとにしゃがみこんで引っこ抜いていくのだが、根っこが頑丈でなかなか引き抜けない。五分もせんうちに汗が噴き出して目に入って痛い。

夏草やただ目の前の草を引く  タケニー
草いきれまみれの太陽が臭い  鯛飯
影黒く生き生きとした草を抜く  チャンヒ
鳥の声話題にしつつ草を刈る  ねこ端石


 それでも一瞬吹く風は爽やかだが、この日はほんとうに一瞬だった。
 日光に用心深いレディたちは長袖、帽子と完全防備していたが、数人のジェントルマンは畑がどんなところか知っとんじゃろかと思うようないでたち。半袖やハーフパンツでやってきて雑草でこすった傷に汗がしみて正午を過ぎる頃には蕁麻疹が出てひどいことになっていた。

草むしる手を用水に冷やしけり  ひでやん
草むしりぐるぐるぐると根こそぎに  雪花
草むしる背な老鶯にせかさるる   野風

 稗と格闘すること二時間半。雪花さんがひたすらしゃべってくれて落ち込みそうになる気分をキープしてくれた。そして休憩のタイミングを逃しそうになるメンバーに日暮屋さんが「水分補給してますか?」と声をかけてくれる。

光まで鋤き込んだか苗の逞しさ  日暮屋
草むしり集めて小さき山となる  まこち
やや曲がる畝に生まれる夏の雲  マーペー

 そういえば去年の蕎麦は種蒔きをしたらなんの手間もかからず収穫に至ったというのに、大豆は草引きしたりこの後は摘芯をしたりと思いのほか世話がやける。それでも頑張れるのは収穫したての枝豆片手にビールを飲んでいる光景が全員の脳裏にはっきりと映像として立ち上がっているから。

梅雨晴れ間十一人の尻に泥  あねご
泥洗ふせせらぎ迅し夏の雲   野風
初蝉を遠くに聞きて豆畑  ひでやん


7月10日 摘芯

 前回の筋肉痛が治りきらない一週間後の選挙の日。数日前に期日前投票をすませ、松山市では市民みんなで美しいまちづくりをめざして一斉にやっている第四十一回市民大清掃に参加し、その後雨の中を大豆の摘芯に急いだ。好きなことばっかりやっているわけじゃない! 清掃活動も選挙も全部俳句の貴重なタネになる。
 長いほうの長靴で正解だった。畑は水没してかろうじて畝が水面から出ているという状態。今日は絶対転べない。泥に足を取られると粘着シートに捕まった御器齧の気持ちに寄り添える。あれだけ暑い思いをして草引きしたのに、はやまた伸びとる雑草の中を用心しながら大豆の新芽を摘んでいく。上に伸びるのを止めると横に枝が増え、実がたくさんつくらしい。

摘芯の腰伸ばしけり夏燕  鯛飯
摘芯や未来は信じるしかないよ  チャンヒ

 中腰なので草引きよりも辛い。
 大豆の茎にはカメムシが団子になってしがみついているではないか。殺生はせんけどポリ袋に全部入れてスッキリさせたいというのが本音だが、じゃあその集めた虫をどうするかというとどうしたらいいかわからないので放置することにした。後日烏さんが消毒すると言って一件落着。

長靴の泥走らすや山清水  鯛飯
汗拭ひ最後に叩く尻の泥  雪花

 終了後、小雨の中を風穴に急いだ。まさかと思ったがそうめん流しも風穴も悪天候にもかかわらずけっこうな人出だった。

流しそうめんやっと来たと思ったら割り箸  烏天狗

 そうめん流しは老若男女みんなが子供に還れるツールだ。どこに座るかで性格がわかるし、一種の団体競技のようにも思えて愉快。小雨にけむる風穴周辺は幻想的で実にええ日に来たなあと思える俳人魂であった。
 次回は七月三十一日、烏天狗さん、こんどは何するん? 笹百合さんによお聞いとってよ。

追加情報は、メールマガジン「100年俳句通信」にて配信しています。
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美術館吟行


第20回

愛媛県美術館
再興第100回院展吟行会

文 恋衣
取材協力:「再興第100回院展」松山展実行委員会(愛媛県、あいテレビ、愛媛新聞社)、日本美術院、愛媛県美術館


 明治31年(1898年)、岡倉天心が設立した美術院。その遺志を引き継いだ横山大観らが、大正3年(1914)に日本美術院再興記念展覧会を開催して以来、第100回目の展覧会。
 再興第100回『院展』初日の愛媛県美術館に、しんじゆ、猫正宗、ころん、阿昼、チャンヒ、ひかる、恋衣 の7名が集まった。
 美術館吟行は20回目、其々に院展のチラシ、出品リストと鉛筆を手に会場へ。
 81点の作品の最初は、作品集の表紙絵となっている「赤富士」。朝日に染まる富士の赤の重み溢れる美しさ。赤富士の赤は、その画家の色。
 続く大きな作品は「玄皎想」。包み込まれるような柔らかな、玄皎(黒と白)の牡丹の世界に、眠る猫。改めて目録の確認。なんと81点の題名の魅惑的な事。そんな私たちを隣の菊が呼ぶ。

 那波多目功一作「菊花」
夏茱萸噛むや胡粉の白少し  しんじゆ
糸菊のひらかんとする白さかな  恋衣
夕闇に沈金となりつつ菊白し  阿昼
完璧な偽り白菊の白は  チャンヒ

 第91回「きく図」に続く同画家の囁くように咲く糸菊の重なる花弁の白の白さに引き込まれる。
 ここからは、自然に、其々に作品と対峙。

 染谷香理作「一葉の躊躇い」
躊躇とは笹散る中に沈む事  しんじゆ

 古も今も人は、渦潮を見つめ続ける。

 田渕俊夫作「渦潮」
海賊の息吹が顔に観潮船  ころん

 福井爽人作「宵の刻」
荷を解きしロバの放心星涼し  阿昼

 武部雅子作「あずける」
愛犬と我と輪を成す昼寝かな  ころん
冬を犬らの温もりに溶けてゆく  チャンヒ

 これからもうず潮は、人は、在るのだろうか。

 松村公嗣作「うず潮」
ブラックホールの果て渦潮の悶え  ひかる

 西田俊英作「森の住人」
私の住処に猿と夏椿   しんじゆ
誰も知らぬいのちのありぬ水の秋  恋衣

 大石朋生作「驟雨」
草の根を叩く驟雨に立つてをり  阿昼

 森ゆだね作「天文学者の部屋」
金銀砂子捕虫網で追う彗星  猫正宗

 川瀬麿士作「三原山」
雲の峰吐き出しそびゆ三原山  ころん

 下田義寛作「雲上朝陽」
残雪の雲上朝陽端然と富士  ひかる

 静かなる時の中で思考するひと時。

 島圭史作「星と夢」
星月夜地球の更に傾ぐなり  恋衣
少年の分厚き本や雲の峰  阿昼

 村岡貴美男作「惑星」
夏全て抱きしめ地球の長い午後  猫正宗

 井出康人作「白道」
炎昼や家畜と共に歩む業  猫政宗

 33点の作品を鑑賞し、第二展示室へ。

 清水達三作「海霧」
月を恋ひ日を恋ひ暁の海霧の惑ひ  ひかる

 妻鳥健作「家路」
灰色の世界を秋の灯へ帰ろう  チャンヒ

 同時開催の「院展の巨匠たち」の15作品を鑑賞。100回目の院展に繋がってきた作品に見惚れる。

 前田青邨作 「鯉三題」
炎天の鯉の眼の中に鯉  恋衣

 次の100年後、誰かが何処かの美術館を出て仰ぎ見る空が爽やかでありますように。宙が美しきものでありますように。

 郷倉和子作「宙と共に」
秋鯉は宙を泳いで来たのだろう   チャンヒ


新星の散り死ぬごとく菊花かな  ひかる



恋衣
俳句を、短歌を読む事を、絵画を見る事を、音楽を聴く事をこよなく愛する俳人。美術館吟行に、一緒に行ってくれる人を募集中。



愛媛県美術館吟行会スケジュール

7月30日
ブータン 〜しあわせに生きるためのヒント〜展吟行会
申込締切:7月29日

9月3日
所蔵品展吟行会
申込締切:9月1日

いずれの日も朝10時現地集合
参加無料(入館料は別途)

『100年俳句計画』編集室までお申し込み下さい。TEL 089-906-0694


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百年百花




大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠
2016年度 第二期 第一回



羽ばたき
河野しんじゆ

木蓮の飛び立つやうな夜のほとり
リラ冷の出窓へ鼓動置き去りに
鋏の刃合はさるあはれ鳥曇
シーチキン咲かせて春燈のサラダ
ほろ苦き春の終はりの卵とぢ
おもひでの駱駝に揺られ余花さやぐ
今日一日小さく過ごさう三光鳥
たかが薔薇百八本で承諾す
蛍降る橋に微かな羽根の音
夏足袋の足首ほのと光りたる
くひ込みし指輪の裏の黴愛す
羽ばたきは腐草蛍となるために

1955年生まれ。第4回、5回大人コン優秀賞受賞。「棚ぼた句会」で俳句を全く知らない店主の兼題により俳句を作り、「棚ぼただったねえ」と言いながら帰るのが趣味。



クープランの墓
天玲

クープランの墓に供えるすいかずら
ぴしっと並ぶ二十五の靴半夏雨
先輩には敬語触れれば傷む桃
ホール練習までの恋バナ夏帽子
ドレミファソラシドおなかがすいたよ入道雲
炎昼の顧問の怒号トロンボーン
吸う息の速さの揃うとき涼し
唇腫るるまでユーフォニウム吹いて海霧
サックスの匂う白シャツ放らるる
フェルマータに最後の息を日雷
夕虹の窓辺にたたむ譜面台
音色追うて追うて十五才の夏野

海と山と年寄しかいないような小さな町の子たちが、今年も全国めざして必死で爆走します。そんなN中吹奏楽部ものがたり。



逆光
日暮屋又郎

カメハメハなんてパイナップルな日だ
海開きダッシュが波につんのめる
明けの虹見に出よとシーツ干す妻
ま東の職場へと灼熱の路
アラームの劈き行けるところまで
真相にマッカーサーのサングラス
然程遠くはない過去の鳥籠にヒロシマ
先生がいいと言ったじゃないか夏の雲
摩耗するレールのにおい敗戦忌
逆光に護送車父の名は知らず
五寸釘ぶちこんでけり付けた残暑
鈴虫や誰に聞かせる唄でなく

1959年2月生まれ。現代俳句協会会員。自由律のひろば会員。第三回、第五回、大人コン優秀賞受賞。句集『デカパンのピカソ』出版。俳句というフィールドをめいっぱい楽しんでいる。



五芒星
マイマイ

川に沿ひ白百合に添ひ土佐街道
ゆふがたを途方に暮るる凌霄花
野外トイレにそら恐ろしき蛾の青よ
向日葵の首折れ曲がる朝の影
冤罪を知るや浮人形乾く
空蝉を置くデイケアの入口に
風鈴に風を送つてゐるところ
炎暑日の肉や塩味脂味
若者に汗と伸縮自在の胃
潮に似て非なる血流持ち昼寝
トマト食うた数だけ蔕の五芒星
ビールもてこい外階段の大花火

1966年生まれ。
本誌にて「詰め俳句計画」連載中。
趣味は将棋と口笛です。


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新 100年の旗手



読者投稿による3ヶ月連載作品集
(2016年7月号 〜 2016年9月号 2/3回目)


八月
砂山恵子

八月や斜めに光るヘルメット
片陰のもう一方が見つからぬ
二十個の宇宙を語る黒葡萄
送り火やひとつふたつの輪が出来て
村の名が次々浮かぶ盆揃え
盂蘭盆会聞き役がいいそれがいい
乾く街ラジオかすかに甲子園
白桔梗一人は一人とつぶやいて
盆の月影絵となりて合いにけり
ひとつづつ蛇口確かめ秋になる

1959年香川県生まれだが、5歳から愛媛県に在住、孫1人あり。伊予西条市で現役の女性耳鼻科医。昨年5月から俳句をはじめたばかりである。俳号dolce(ドルチェ)。



蟻点字
KIYOAKI FILM

通り往く車の底や蟻地獄
蟻点字動く指先文字痒し
少年の屁や蟻の列蟻の列
道端の蟻追い越せず家帰る
暗闇や爪に入り来る蟻地獄
蟻点字蠢く爪を噛まれけり
夕涼み眼よ愛し父の皺
砂日傘ポッケに入れた句集かな
夏空や遠き陽浴びて笑う父子
夏の花軋む机はダダイスト

1977年神戸生れ。金子兜太師門下。丸四年間選に入らず、苦戦中。「へたうま仙人」投句。忘れごとも増えてゆき、目下、くしゃみ連続五回。句集に『父子』『手話する冬鹿』(マルコボ・コム)



2016年度第3期連載者募集中 *締切8月15日(月)
応募内容 10月号に掲載できるタイトル付の10句
応募先  Eメール magazine@marukobo.com
件名に必ず「100年の旗手応募」と明記して下さい。
(郵送またはFAXでも受け付けております。詳しくは編集室までお問い合わせ下さい。)


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新 100年への軌跡


2016年度 第二期 第一回



血統書
安里琉太 

春の雪ひとりでをれば胸のをと
日当たりの孤島と見れば春の波
卒業や山へ投げたる声を待ち
かげろふや巨きな船の西を向く
夏蝶の一斉に発つ祈りかな
夕されば海の匂ひや風鈴市
若楓踏み固められ土光る
着ぐるみのなかより汗の匂ひせり
共喰ひを見てゐる秋の水族館
ひんやりと雲のありける秋風鈴
血統書付きの茸や桐の箱
冬鵙や紫紺の闇の沖より来
跳ねてより魚の睦める小六月
訓点のごとくゆきたる冬田道
大根にしみ入るやうに諭さるる

安里琉太
 銀化・群青同人。俳人協会会員。第十六回銀化新人賞、第二回俳句四季新人賞奨励賞受賞。



秘密
安岡麻佑 

緋目高や水車に水のさらはれて
抜け道や産毛に汗の溜まりたる
嘘ばかり言ひ当てられて宵祭り
紫陽花の濃きところより少女出づ
てにをはに悩む手紙や夏蜜柑
横顔に直線多きこと夕焼
発熱の額突き合はせて風鈴
噴水を誰のものとも言ひきらず
緑陰のデッキブラシの美しき
約束のやたらと増える扇風機
猫の子のやぶれさうなる体かな
夕涼や嫌な人ねと笑ひつつ
彫刻に荒き彫り目や片かげり
六月のカッターシャツの固さかな
貝殻の割れたかたちや氷水

安岡麻佑
 1995年生まれ。第13、14回俳句甲子園出場。現在は関西俳句会ふらここで大阪を起点として活動中。



大人
平山南骨

 「血統書」。春夏秋冬の並び、なんとなく青年の成長の過程をなぞるような雰囲気もある。
卒業や山へ投げたる声を待ち  安里琉太
 「山へ投げたる声を待ち」って巧いなあ。
夏蝶の一斉に発つ祈りかな  安里琉太
 鎮魂の祈りか。「一斉に」が見事とも、作り物めいているとも。
着ぐるみのなかより汗の匂ひせり  安里琉太
 労働を知った大人の感覚。
大根にしみ入るやうに諭さるる  安里琉太
 大根に諭されたのかと思った。「しみじみ」といった比喩としても面白くない。

 「秘密」。とても「乙女チック」だと思う。
嘘ばかり言ひ当てられて宵祭り  安岡麻佑
 嘘以外は言い当てられなかったのか?
てにをはに悩む手紙や夏蜜柑  安岡麻佑
 読んでいるのか書いているのか分からないが、酸っぱい物で気を取り直すのは悪くない。
猫の子のやぶれさうなる体かな  安岡麻佑
 言い得て妙。三味線を思い浮かべる人もいるだろうが、その受け止め方もそれぞれ違いそう。
夕涼や嫌な人ねと笑ひつつ  安岡麻佑
 折角の涼みが暑くなりそうだが、たぶん良いことです。

平山南骨
 1968年生まれ。2005年より作句開始。「鷹」同人。



もう一つの世界
十亀わら

夕されば海の匂ひや風鈴市  安里琉太
 「夕されば」と口にしてみる。ゆったりとした五音に、世界の輪郭が少し曖昧になる。潮の香りが漂い、風鈴の並ぶ市の景色に導く。この景色は水をたっぷり含んでいて、淡い。風鈴が夕刻の風を受けて涼やかな音を立てる。
冬鵙や紫紺の闇の沖より来  安里琉太
 西東三鬼「百舌に顔切られて今日が始まるか」の痛みに近い朝が誰かにもあるだろう。安里さんにとって「紫紺の闇の沖」から来る何者かは、冬鵙そのもの若しくは冬鵙に託した何かであるか。
横顔に直線多きこと夕焼  安岡麻佑
 男性の横顔だろうか。夕焼の美しさと共に、この横顔の凛々しさを思わせる。「多きこと夕焼」というリズムがいいかどうか。オリジナリティのある題材に対してもったいないようにも思った。
彫刻に荒き彫り目や片かげり  安岡麻佑
 彫刻の彫り目という視点が面白い。「荒き」は最初「粗き」かと思ったが、荒々しい彫り目ということだろうか。夏の午後の濃い影は、その彫り目までもつぶさに見せる。力のある一句。

十亀わら
 1978年愛媛生まれ。2005年俳句界賞。


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まつやま俳句でまちづくりの会 mhm通信


第65回

文 暇人


「松山城歳時記化計画」進捗

 先月号にて、会員やメンバーの役割についてあれこれ書かせていただきましたが、今回はその具体例の話と思っていただければ幸いです。

 mhmの事業のひとつに「松山城歳時記化計画」があります。一昨年度までは現地調査や句会を行っていましたが、昨年度よりはデータ整理作業に重きを置き、私とキム氏で、亀の歩くほどの速度ではありますが少しずつ進めております。
 膨大な写真の数と、その写真の内容確認(動植物名や場所の特定)に時間がかかるのと、どうすればこの膨大なデータを整理できるのかで、現在も試行錯誤しております。

 現在までに内容の確認が完了しているものについては、mhmのサイト(http://e-mhm.com/matsuyama-castle/)に既に掲載をしてあります。

 今回は、今までにまとめたデータを改めて確認しながら、各データについて発見場所がわかるよう、場所の情報を追加。その上で、場所を指定すれば、その場所で発見されたものを一覧で呼び出せるように改善しました。例えば「本丸」というカテゴリーをクリックすると、松山城本丸周辺で発見した動植物の一覧を表示することができます。
 膨大な写真については、外部のデータ保存サービスをいくつか利用させていただき、それらのデータをmhmのサイトに連携させて観られるようにしていますが、ただ、利用している複数のシステムの中には、お互いの相性が悪いのか上手く動作しないものもあるため、構築方法の模索を続けています。

 今後は、動植物に詳しい会員にも声をかけて、さらなる内容確認の作業とデータの掲載をコツコツと行っていきます。もし我こそはと、ご協力をいただける方がいれば、ぜひ宜しくお願いします。
 
 この「歳時記化計画」の最終的な目標は、サイトに掲載している資料のデータをご覧いただいた皆さんから、サイトを通じて投句をしていただくことです。
 現在でも、既にサイトに掲載されているものは、コメント欄を利用して投句していただくことが可能です。賞などはありませんが、よろしければどうぞ、あなたの一句をお寄せください。


 mhmでは引き続き松山市内外問わず会員および役員を募集中です。原則、毎月最終金曜日19時からマルコボ.コムにて定例会を行います。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)またはFacebook(http://www.facebook.com/mhmhaiku)まで。


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Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳 朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ

No.37


Ocean waves crashing
Hot sun escapes into foam
SPF 50

炎帝の逃げ込む波の泡の中

(直訳)
海の波は砕け
暑き日は泡の中へ逃げ込む
紫外線防御指数50


 Our short tour of Southern California has taken us from 3000-meter mountains to 40-degree-Celsius deserts and finally to a dip in the Pacific Ocean. The water is cool and the surf is bracing. We are among the many people who seek a tonic for body and soul and find it by diving beneath the waves.

 南カリフォルニアにて、僕らは三千メートル級の山々から、摂氏四十度の砂漠まで短い旅の末、ようやく太平洋に浸かった。水は冷たくて、砕ける波は爽やか。心身共に元気を頂こうと、波の下に潜る大勢の人々の中に僕らもいる。


ナサニエル・ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。2013年7月より山梨へ移住。


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JAZZ俳句ターンテーブル


文 白方雅博
(俳号 蛇頭)

第65話
ミスティ  山本 剛


合歓の木の子の絵のごときピアニスト  弘子

 スマホ画面に0771〜の見慣れない市外局番が飛び込んできた。受話器の主は本誌愛読者の弘子さん。京都府亀岡市からの初参戦である。無季自由律系も含めたJAZZ俳句5句を口頭で確認しつつ書きとめた。
 テーマ・アルバム1曲目、エロール・ガーナー作曲Mistyを奏でる山本剛の無垢なシングルトーンがこの句の本意だろう。単色緑のシンプルなジャケットの中で笑う何処かあどけなさを残した長髪の青年も示唆的である。

夕霧と時さえ忘れている時と  蛇頭

 テーマ「ミスティ」で季語は秋。となれば詠みたくなるのは「霧」の句。結果12句中2番人気はアルバムB面3曲目、リチャード・ロジャーズ作曲I Don't Know What Time It Wasの日本語タイトル「時さえ忘れて」を丸々活用した他力本願句。僕がブルーノート・レコードの人気盤「ソニー・クラーク・トリオ」収録の同曲と比較し、並々ならぬ山本の実力を実感できたナンバーでもある。

霧浅し指かろやかに呪術めく  藤実

 「霧」の12句のみならず全49句の中の1番人気句。久々に参加した藤実さんが、キム・チャンヒ賞をかろやかに奪い去ったことこそ呪術めいている。
チュニジアの高度成長期的夏夜 チャンヒ
 ディジー・ガレスピーの名曲「チュニジアの夜」に「高度成長期的夏」を潜り込ませたショートコント的JAZZ句。「ライヴ・アット・ミスティ77 Vol.2」の山本剛トリオの布陣はベースがサム・ジョーンズ、ドラムスにビリー・ヒギンズと強力だ。当時、山本がホームグランドとして活躍していたのが六本木のライヴ・ハウスMisty≠ナある。ここでの熱気溢れる演奏に高度成長期的勢いを感じたのは大いに頷ける。

あぢさゐの知りつくしてゐるきのふかな  恋衣

 困ったJAZZ句、その1なのである。今回のテーマと、どう関連するのか? そもそもJAZZ句なのか? しかし、一番人気句に匹敵する人気なのだから登場させたい。
 強いて言えば、紫陽花の鮮やかさ、粒立ち、瑞々しさ、は山本のサウンドと共通する。その証として笠井紀美子や安田南という実力派ヴォーカリストが彼の伴奏を切に所望した。そのアルバムは現在ほとんどがプレミア物になっている。JAZZ句会の重鎮、マミコンこと堤宏文氏プロモートによる中本マリの松山ライヴも伴奏は山本だった。

溶け弾け煙りておちるいろ花火  蕪榴子

 困ったJAZZ句、その2は山本のピアノの起承転結が五感へ与える心地よい刺激。それが線香花火と似ていると解してみたが、どうだろう。そして、何故だろう? この句は中本の松山ライヴで履いていた山本の真っ赤なエナメル製の靴を思い出させた。楽屋の彼は惚けた口調で聞き手を煙に巻いてくれる素敵なおっちゃんだった。


Today's Turntable
『ミスティ』1974年/tbm
『ライヴ・アット・ミスティ'77 Vol.1』1977年/flying disk

「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の毎月第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は月曜日の21時〜22時。
◇次回のJAZZ句会は、8月28日(日)13時より。テーマはズバリ「ジャズ・ドラマー」です。お好みのドラマーのアルバムをテーマに3句詠んで下さい。句会への参加をご希望の方は、本誌44ページの句会カレンダーを参照してください。


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ラクゴキゴ



文 俳句 らくさぶろう

第六十五話
『次の御用日』
奇声を出すテクニック


 大阪 船場の「堅気屋」に奉公している丁稚の常吉。
 お昼ご飯を食べていると、主人の佐兵衛から、娘のお糸のお供をして縫い物のお稽古に付いていってほしいと頼まれる。
 しぶしぶ常吉はお供をして、住友の浜(川の岸)にさしかかる。この辺りは日中でも人通りが少ないので、イヤーな気持ちで早足で歩いていると、向こうから大きな男が歩いて来る。お糸は怖いと言って帰りたそうにしているが、常吉はお糸を天水桶の裏に隠れさせ、その上におおいかぶさって男をやり過ごそうとする。
 その大男は娘と丁稚に気付き、面白がって「ギャッ!!」という奇声を発したのであった。
 それにびっくりしたお糸は気を失って倒れてしまった。常吉は店へ帰り、事情を説明する。
 お糸の意識は戻ったものの、健忘症になってしまった。怒った主人は西の御番所へ訴え出ることに。
 お白州にはその大男が呼ばれることに。実はこの男、堅気屋の持つ借家に住む藤吉という男であった。
 奉行は、証人の常吉に「先月十三日、娘 糸の頭の上に“アッ”と申したとはどういう意味か?」と尋ねると常吉は「“アッ”やおまへん。“ギャッ!!”です」
 次に奉行は被告人 藤吉に「先月十三日、糸の頭の上にて……“ギャッ!!”と申したであろう。」藤吉は「頭の上で“ギャッ!!”と申したもんなら『“ギャッ!!”と申した』と申しますが、“ギャッ!!”と申さんものは“ギャッ!!”と申すより、いたしかたございません。」ととぼける。
 それから「おのれ、“ギャッ!!”と申しておきながら“ギャッ!!”と申さぬなどと不届きな。“ギャッ!!”と申したものなら“ギャッ!!”と申したと申してしまえ!!」「いいえ、私も“ギャッ!!”と申したものなら申したと……」と奇声のやりとりが続き、とうとう奉行は普通の声が出なくなり、
「……一同、次の御用日を待て。」

 このあらすじの“ギャッ!!”という声は、非常に文字では表しにくく、ただ字面の“ギャッ!!”よりはだいぶ変な奇声と思っていただければ幸いです。演者によってその奇声の発し方もずいぶん違い、何度も何度も奇声を発していると本当に普通の声が出なくなりそうで心配です(笑)。
 しかもこの噺は真夏の船場が舞台。暑い中、こんな奇声を連続して聞かせられる一席は、途中でこちらの気がヘンになりそうです。
 それにしても今日の季語の「油照」とは、よく出来た言葉だと思います。じりじりとむしむしと、まさに脂汗が出てきそうな暑さ。
 この噺の暑さの感覚は、「日盛り」や「炎天」という季語だと言う方も多いかもしれませんが、もっとイヤ〜な空気感が出た「油照」を僕は選んでみました。

 さて、今年も俳句甲子園から遅れること一週間、八月二十七日、二十八日の両日、新居浜で「笑顔甲子園」が開催されます。
 漫才、コントに混じり今年も落語で挑戦する高校生が出場すると思います。
 僕も毎年審査と司会で参加しています。今年も高校生たちがどんな笑いを作り上げてくるか、心待ちにしています。
 ぜひ皆さんも応援に来てやって下さい。
八月二十七日(土)
 あかがねミュージアム(予選)
八月二十八日(日)
 新居浜市文化センター(決勝)
 決勝の特別ゲスト
 スーパーマラドーナ(よしもと所属)

ツッコミの激し過ぎたる油照


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歳時記「無季」がバイブル



第10回

文 現代俳句協会会員  日暮屋 又郎


 人と会う時、当たり前のようにあいさつをかわすのだが、そもそもあいさつとは何か考えてみた。
 結論を言うと、便利な言葉ということになる。おはようございます、こんにちは、これらはたった一言で、自分はあなたに敵意を持っていませんよと伝えることができるのだ。さらに笑顔を加えたらなおさらだ。
 しかしながらあい反して、ふてくされたような顔でぶっきらぼうに返してくるとしよう。それは、お前を快く思っていない、言ってやりたい文句の一つや二つがあるんだぞとすぐにわかる。ましてや無視でもされようものなら、相当の悪意を感じ取ることができる。
 また、声のトーンにより現在のモチベーションの在りようがうかがい知れるほんとうに便利な言葉である。
 明らかにおかしな返事をかえすモチベーションの下がっている部下を呼び止め、その原因を問いただすと、多くの場合が仕事の割り振りにある。苦手なことを計画に組み込まれたり、とても多すぎてこなせないとか、あの人が嫌いであるとかである。
 あえて、それをやり遂げるのが君の仕事だろうと突き放すのは簡単なのだが、それでは成果が上がらない。そこでよく話に耳を傾け、先ずはその憤まんのガス抜きをする。そのうえで言い分の正否を解いて行き、呑める部分は呑み譲れないところは譲れないで、この仕事は年齢や経験からして君にしかできない、失敗は君の責任ではなく、悪い予想ばかりして、やりもしないでいることが問題だ。たのんだよ!と言って背中をポンとたたく。
 おき抜けからその日の仕事の予想をし、一応は予定を組み立ててスタートを切るのだが、その通りに終わらせることが果たして年間どれくらいあるだろうか。今日もまた朝一番の電話が予定のすべてを台無しにする。しかしながら先ずは張りのある声で、毎度! おはようございます。
 どうやら世の中は明るく元気な声であいさつをする、これだけでほとんどのことがどうにかなるように思うのは自分だけだろうか。

皿のクレソンきれいな声でおはよう  小高桂子


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新聞記事に隠された俳句を発掘する

クロヌリハイク



作 黒田マキ


スイスから夏10分のオンエア  愛媛新聞より

モーニングディライトブリーズ夏のつき  愛媛新聞より

夏の古都宵々々山(よいよいよいやま)午後6時  2016年7月15日 朝日新聞より


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超初心者から中上級者まで楽しめる

100年投句計画



 「100年投句計画」は、読者の投句コーナーです。

 「選者三名による雑詠俳句計画」は、雑詠句の選句欄です。投句の中から先選者二名が、それぞれ天地人の句を選び、先選より漏れた句の中から、後選者が特選、並選を選んでいます。選者は、関悦史さん、阪西敦子さん、桜井教人さんです。

 「へたうま仙人」は、ヘタな句を褒め、巧い句を追放する、世の選句欄とは真逆のコーナーです。どんなにヘタな句でも褒めてくれるので、自分の俳句に自信のない方、何はともあれ褒めて欲しい方に最適(?)。担当は大塚迷路さんです。

 「自由律俳句計画」は自由律俳句の選句欄です。自由律俳句に挑戦することで、自由律俳句ならではの楽しさを味わうと共に、有季定型の俳句との思わぬ共通点も見えてきます。選者は、きむらけんじさん。

 「詰め俳句計画」は、マイマイさんによる、二つのフレーズに合う季語を投稿するコーナーです。季寄せや歳時記さえあれば、全くの俳句初心者でも挑戦できます。

(投句方法は「100年投句計画」コーナー末尾参照)


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選者三名による 雑詠俳句計画




先選者 関悦史

 今年の俳句甲子園の審査委員長になったため、八月に松山へ行くことになりました。「委員長」といっても俳句甲子園の場合は十三人いるので、その中の一人ということですが。去年は同年輩の榮猿丸や鴇田智哉が東京予選の審査員をしているのを横目に俳句対局に駆り出されていたりしていて、俳句甲子園の審査は今回が初めてになります。どういう句に出会えることか。暑いと噂に高い商店街会場があまり猛暑にならないといいのですが。




おほかたは峰よりの風青芒  彩楓
 目新しい材料は特にありませんが、大らかなゆったりしたなかに清新さがあります。群生する青芒が風に吹かれ、大体の向きは揃っているものの、乱れもあるということが「おほかたは」でわかります。普通はその細かい少数派の乱れの方に目がいきがちなものなので、この大づかみな捉え方は珍しいかもしれません。その「おほかた」の風が峰より吹いてくるということで山上の景となり、風と芒に山の霊気に通じる生動感が出てきます。




耳遠き老いのにぎはひ日の盛  青萄
 耳が遠い人はその分、声が大きくなりやすい。「老いのにぎわひ」といっても、そういう人ばかりの集まりだとしたらさほど大人しいものではなさそうで、まさに「日の盛」がふさわしいものでしょう。

バス降りてすとんと広がる夏砂丘  さより
 語順に捻れが仕込んであって「降りる」にかかるはずの「すとんと」が「広がる」にかかり、降り立った瞬間の変化が鮮やかに現れています。造語的に詰められた「夏砂丘」は「の」を入れてしまってもいいような気も。

水平線夏至を二つの青にして  海田
 シンプルで大きな構図の句で「二つの青」は水平線を境にした空と海。目はおのずとその真ん中にある水平線に引かれることになります。この青だけでできた全地球的遠大さが、昼が一番長い夏至に合っています。

サングラスしてガラガラのカーフェリー  山崎ぐずみ
 片仮名が多い句なのでそれを嫌うところでは採られないかもしれませんが、ここでは何の含みもない片仮名の平板さがあけすけな物言いと内容に即しており、自然に実感とおかしみが出ています。

赤坂九丁目夜勤明けての心太  内藤羊皐
 空腹感は多少あっても、これから寝るので重いものは食べられないという状態でしょうか。疲れと解放感の中に捉えなおされたやや珍しい「心太」です。「赤坂」だけでなく「九丁目」まで言っているのが大都市感あり。




被爆地に同心円描く夏の蝶  桂奈
白衣には獣の匂い籐寝椅子  小市
身構えるごきぶりと我闇の中  れんげ畑
卯の花腐しロイド眼鏡の艶やかに  小雪
くまもんとあひる隊長浮いて来い  喜多輝女
青梅を踏んでデイサービスの車  樫の木
カッコーとペプシコーラとコカコーラ  ヤッチー
岡持と三津の渡しと夏の霧  あおい
日輪をくしやくしやにして夏の蝶  池田喜代持
父が見し寒濤の句碑草茂る  風の海桐木



先選者 桜井教人

 「先生の最後の授業が心に残っていて、生まれてきた子どもの名前に『風』の字を入れました」以前担任をしていた子からこんなことを言われた。驚くと同時にとても嬉しかったがそれは私の授業だったからではなく、教材に使ったさだまさしの曲「風に立つライオン」の詩に力があったからだ。改めて考えると詩がもつエネルギーはとても大きく、時間さえも超越する。だから私は「俳句は地球を救う」という言葉を信じている。まずは「風」の字が付いた子の幸せを祈りながら。




夏蝶の残像かもしれぬ少女  藍人
 このパターンの句は季語がとても難しい。この句の夏蝶は見事に嵌った。というよりむしろ写生に近い作り方を作者はしたのではないかと思っている。単に夏に見られるから夏蝶ではない。黄色地に鮮やかな黒の縞模様の揚羽蝶、漆黒に青や朱の模様の黒揚羽、いずれも大きく美しい翅をもつ。その濃い残像からショットは少女へと切り替わる。その切り替わりがカットではなくグラデーションであるのがこの句の見事なところ。




矢印の順路の先のはたた神  西原みどり
 とても面白い語順構成。はたた神という言葉がもつ擬人的要素を上手く使っている。言葉に騙されそうだが、矢印の順路に従って進むと突然激しい雷に襲われるのだ。祟るからこそ神は畏れられ、信仰の対象になるのだ。

草むらへ蜥蜴の消えて彼の来る  蒼真
 蜥蜴から彼への場面転換の意外さ、軽快さが魅力だ。数分単位の時間経過の描き方も秀逸。これから二人も何処かへ消えるのだろうが、まさか、蜥蜴が消えた草むらではあるまい。など意外に想像が広がる句だ。

紫陽花や鼻緒くいこむ戻り橋  うに子
 嫁入り前の娘が近づいてはいけないという戻り橋。何かの理由でどうしても渡らなければならなかったのだろう。しかし五芒星の集合体のような紫陽花があるならきっと式神が守ってくれるにちがいない。

象の耳を風吹き抜けてゐる青葉  緑の手
 象の耳という大きなものをもってくることによって、風の量、心地よさが数倍増している。遠いふるさとの風を思い出しているのかも知れない象に、青葉の色の濃さが返って優しい。きっと優しい目をした象なのだろう。

おほかたは峰よりの風青芒  彩楓
 芒の句に風を読むのはタブーだろうが、この青芒の句の風の描き方は実に見事。中でも「おほかた」の措辞がとてもいい。曖昧な言葉なのに逆にリアリティーを生んでいる。一面に広がる青芒の色合いがとても鮮やか。




休日の母校のチャイム二重虹  出楽久眞
ドンマイと言ふ先輩は汗拭かず  dolce
さざなみになりたき砂へ夕雲雀  さより
六月の痩せたる犬の足洗う  ぴいす
卯の花腐しロイド眼鏡の艶やかに  小雪
昼顔の巻いて獄舎の窓格子  ほろよい
回遊の蜻蜒のいざといふ迅さ  ポメロ親父
たわやかに遠流の里を巴旦杏  久我恒子
疎ましき想いとは明易の猫  松尾千波矢
緑陰を歩く出産予定の日  八木ふみ



後選者 阪西敦子

 「晴耕雨読」という言葉を特に実感するのは、梅雨のころだろう。何もかもが移り変わりの早い季節には、晴れれば旺盛に成長した景色を見せてくれ、降る雨はあたりを洗い流してまた季節を前へ進める。読書もまた、ことさらにいい。雨に閉ざされて没頭して、ふと日差しに気づくころには次の景色が訪れる。雨に出てゆかなければならない不幸もひとしお。


特選句

黄昏の長し浅黄の四葩群る  七草
 ゆったりと光の衰え行くたそがれ、今日はいつにも増してそのようである。昼は他に比べて目立たない紫陽花が、いまさらのように群れをなしはじめる。光の入れ替わりを丁寧に描いた。

米を炊き日々草を咲かすこと  のり茶づけ
 米を炊いていれば大体大丈夫という妙な自信は、私だけのものではないだろう。昔に比べれば格段に便利になった炊飯、それさえもできない日々に目にするこの句の時間は、どこまでもかがやいて見える。

父の日のドーベルマンの耳尖る  うに子
 父の日の扱いというのは、これまでもさまざまに言われているとおり、なんともいいがたい。それは父のなんともいいがたさでもある。ドーベルマンの無表情な中にあるかすかの動きは、妙にそれをよく伝えている。


並選句

城山を縦横に飛ぶ燕の子  たあさん
朱の鳥居幾重くぐりて露涼し  出楽久眞
我よりも吾が影の濃き夏日かな  dolce
あめんぼが蹴る水の輪のリズムかな  風さら紗
帯もてり浴衣着つけをせがむ子ら  レモングラス
あの子住むここがウイーンか風薫る   迂叟
荒梅雨や心音ゆらす木々揺らす  幸
切りすぎた前髪隠す夏帽子  藍人
五月晴小さき社の箒の目  南亭骨太
どの嘘で朝帰りせむ五月雨  夜市
田水張る水面の夜景揺らぎ出す  おせろ
新しき包丁おろす梅雨の晴  かのん
消したくて夏至の太陽眩しくて  富士山
アトリエのモデルゆたけし喜雨の音  柝の音
暗闇に茎ながながと濃紫陽花  てん点
研修の脳生理学青胡桃  一走人
ほうたるの闇へオカリナ滑り込む  もね
夏至の日や石窯のピザマルゲリータ  ゆりかもめ
入梅や切らしてしまふロキソニン  凡鑽
六月のバリウムの白喉を塞ぐ  越智空子
手花火にうかぶ顔かおかをのあり  台所のキフジン
新茶汲みながら山河を駈けしこと  松ぼっくり
いちはつを残し草ども間引きせり  青柘榴
最終便行きて残れる夏の闇  ひでやん
一面に色濃くなりぬ七変化  カシオペア
南風や山門を背に笑う子ら  西条の針屋さん
飲みかけの紅茶はふたつ桜桃忌  八木ふみ
サイダーの泡と湧きいで嫉妬かな  童夢U世
南窓にかたちつくらむ夏の星  人日子
毛虫100万匹犬の後退り  ミセスコナン
梅雨晴れ間干した靴下穴二つ  まんぷく
窪みのなか身を寄せあいて竹落葉  アンリルカ
ゆうこちゃんはひまわり娘ありがとう  エノコロちゃん
夕明り闇を吐き出す牛蛙  哲白
夏の朝二本の足と羽残り  遊人
堂々と田のふくらみぬ神の山  鯉城
梅雨晴間煙草の先の震へけり  未貫



関悦史(せきえつし)
 1969年茨城県生。「豈」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。共著『新撰21』『超新撰21』『俳コレ』(以上、邑書林)、『虚子に学ぶ俳句365日』『子規に学ぶ俳句365日』(以上、草思社)他。

阪西敦子(さかにしあつこ)
 1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。

桜井教人(さくらいきょうと)
 1958年愛媛県生まれ。愛媛県公立小学校教員。いつき組。子規顕彰松山市小中高校生俳句大会選者。第2回大人のための句集コンテスト優秀賞。第24回・29回俳壇賞候補。



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へたうま仙人



文 大塚迷路


 梅雨明けぢゃ! 梅雨がない地域の方々にはこの感覚はわかりづらいとは思うが、とにかく梅雨明けぢゃ。今年の梅雨も西日本は荒梅雨ぢゃったのう。優しい梅雨が恋しいのう。
 今月もつゆだくな句が集まったぞ。裏メニューが表メニューとなっていく過程をゆっくりと楽しんでいただけたらうれしいぞ。


太鼓腹健一研二夏の果て  ちろりん
本日で蚕豆決別塩多目  ちろりん

 研二さんの目を疑うような成長ぶりは何回見ても信じたくないような現実でありますのう。健一さまもそれなりに成長されておられるかもしれず、まずはめでたいことでありますのう。「夏の果て」の海から切ない口笛が聞こえてくるぞ。
 やっと食せるようになった家庭菜園の蚕豆。今まで養育してくれた蔓との決別は本日に決定。ひとつひとつに名前をつけてもらい大事に育てられてきた。家では多目の塩の大鍋が、蚕豆の入湯を待っている。蚕豆は覚悟を決めた。ここまで書いて、なんか蚕豆が気の毒になってきたぞ……。


心遺沢知人が作った末りんご  真歩
水たまり一羽の雀水遊び  真歩

 先人の知恵と努力と執念の結晶の恩恵にあずかっているのに、あまりに身近すぎて気付かないものはいくらでもあるのう。ところで「末りんご」は末さんが開発されたブランドりんごですかのう?ご遺沢が実を結んだりんごはさぞかし美味でしょうなあ。
 世の中物騒なので一羽だけでの水遊びは気をつけんといけんが、水たまりにはそんな忠告をも打ち砕く魔性の魅力があるのう。ひょっとして背丈より深いかもしれんし、みずたまりっしーが棲んどるかもしれんし、それでも片足を突っ込まざるを得んし、なかなか悩ましいのう。たまには雀のように無邪気に水たまりに入りたいものぢゃ。


肉のない料理はあきた夏来たる  柊つばき
はしり梅雨もったいないがかわや行き  柊つばき

 あきた、と言えど今年も律儀にやって来た夏は如何ともし難いですのう。もうこうなったら「実録! 肉のない料理」という本を出してちょっと有名になって、サイン会の後ファンに肉料理を奢ってもらうしかないぞ。一石三鳥、漁夫の利ぢゃ。
 動けばエネルギーと金が要る。平穏な天気から強引に梅雨へと誘導するはしり梅雨も、莫大なエネルギーを必要としている。何もないところから何も有るようにするのは大変ぢゃ。
 そこでぢゃ、かわやへ行くのがもったいないのなら、かわやへ行って得したような気分にさせるために、思い切ってかわやのビフォーアフターを勧めるぞ。俳句のテーマパーク風かわや「さわやかかわや」が旬のお勧めぢゃ。ご検討を願うぞ。


アロハ来て老人ホームで俳句指導  ケンケン
ひたすらにカッペリーニの立夏かな  ケンケン

 やたら原色のいかがわしそうなアロハと、俳句指導のギャップがほのぼのですのう。こんなアロハに限って、厳かな月並俳句を指導しそうぢゃのう。またそれが良いのぢゃ。泣かせるのぢゃ。落差が大きければ大きいほど成功なのぢゃ。
 立夏といえばカッペリーニだ!との拘りが素晴らしいぞ。いくら食べたくても立夏まで我慢しとったんぢゃろうな。カッペリーニ冥利に尽きるぞ。ガリガリ君も夏あってこそ浮かぶ瀬もあるのぢゃ。


傘開きて夕立の匂ひ玉手箱  みやこまる
夕立の生まれし国に吾れ生まる  みやこまる

 傘はあの日の夕立の匂ひを甦らせる玉手箱、と言う発想が小気味良いのう。もわっとするあの土の匂ひやアスファルトの匂ひが、心なしか甘く心地よく感じてくるぞ。
 「夕立」という響きの奥には人それぞれの風景があり、音があるのう。国のほんの一点で吾は生まれ、夕立もまた生まれる。一点から広い世界に飛びまた一点に帰る、という句の構造が浮世離れしておるぞ。


身も心もでぶとなります五月川  KIYOAKI FILM
禁煙パイポなんたる暑さへい彼女  KIYOAKI FILM

 水嵩が増し濁りも出ている五月川に心情を託しつつおでぶになりゆくこの身が泣けるのう。
 並の人なら「でぶに」とするところを「でぶと」と表現してあるが、この「に」と「と」の差は大きいぞ。ま、おでぶさんとなりゆく人にとって何の慰めにもならんがの。
 この三段切の哀愁はなんぢゃ。たとえ禁煙パイポでも、今までに染み付いた癖で格好つけてくわえておるんぢゃろうな。暑いぜ、とかなんとか言いながら空を見上げても目は往来の女ばかりを追っておる。そして条件反射的に前近代的言葉「へい彼女」が口を突いて出てくるのぢゃ。哀れな……。


一畳の小部屋に籠り梅雨長し  元旦
滝壺や近寄るまいぞ覗くまい  元旦

 何をするにも諦めがつく梅雨もまんざら捨てたもんぢゃないが、「梅雨長し」と感じて来た時点でそれは耐え切れんものになるのう。一畳の心地よさもあるぢゃろうが、ここはひとつ壁に窓を描いてこんな梅雨やり過ごして下され。
 滝壺は怖いのう。ついつい吸い込まれたくなるから怖いのう。そうそう、怖いところには近寄らんことが一番ぢゃ。そして、滝壺ことは記憶から消すのが一番ぢゃ。


蜘蛛の囲にとどまる雨の光りかな  坊太郎
夜泣き石一つ置かれて木下闇  坊太郎

 夕立の後にこんな風景見たことあるぞ。風が一吹きすると蜘蛛の囲の姿があらわになるのぢゃ。陽が差そうものなら空中万華鏡ぢゃ。いや、良い風景ぢゃ。
 木下闇の正体をやっと見つけましたか。以前にも増して木下闇チックな木下闇がそこで手招きしておるぞ。夜鳴き石は果たして置かれるものか、という疑念はないでもないが、木下闇が抱きかかえる夜鳴き石の存在が圧巻ぢゃ。おっと、感心ばかりしてはおれん。こんな、夜鳴き石より夜鳴き蕎麦を凝視する夜鳴き女のほうがよっぽど怖いぞ的句は、魔除札と一緒に木下さんの奥さんの実家へ追放!

 おっと、今月も追放者を出してしもうたのう。うっかりぢゃ。
 なあに、しっかりとうっかりしているうちは大丈夫ぢゃ。心配ご無用、夏にご用心ぢゃ。
それはそうと、さあ真夏の出来事を求め句帳片手にうろうろしようぞ。句帳とボールペンさえあればこの世の夏ぢゃ。
 ぢゃが、くれぐれも脱水症状には油断召されるなよ。


へたうま仙人
年齢 卑弥呼がおっぱいを飲んでいた頃、ワシは青春真っ只中ぢゃった。
好きなもの 霞のシャーベット(PM2.5抜き)
嫌いなもの 上手な俳句
将来の夢 大器晩成


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自由律俳句計画



選者 きむらけんじ


 格差社会というのか、今や子どもの6人に1人が貧困状態らしい。食事の無料提供と孤立させないようにとの思いで全国的に「子ども食堂」が、開設されているらしい。むかし一人暮らしの老人が孤立してしまわないように、幼稚園との併設老人施設を、といってた時代があったけどあれもどうなったんだろうか。この際思いきって「子ども&老人食堂」にすればと無責任に思う。子どもと老人と一緒になればお互い学ぶことはいろいろあると思うけど。




ゴーヤーかじって炎天に打って出る  ケンケン
 ゴーヤーは苦瓜とも言われるように、独特の苦みがある。その形状は武骨でイメージとしては質実堅物剛健の野菜という感がある。食べ方としてはゴーヤーチャンプルぐらいしか思いつかないけれど、沖縄ではいろいろ食べ方があるのだろう。そのゴーヤーをかじっているのだ。かじったまま「炎天へ打って出る」とは、なんだかただ事ではない気がする。「ゴーヤー」と「炎天」と「打って出る」が、行き場の無い怒りさえ醸し出す。沖縄という言葉は全く出てこないけれど、沖縄の憤怒がそこにある、と言えば読み過ぎなのかな……。




夏に負けて三叉路にたたずむ  一走人
 三叉路はカンタンに言えば、三本の道が集まる交差点。その交差点に立てば、行く末来し方を考え、さてどちらへ向かえばよいのか人は迷わざるを得ない……といった想念が生まれる。行き場の無い夏の真ん中にいる焦燥感……といったところだろうか。

だけど大した未来は語らない冷麦  ポメロ親父
 大した未来を語らないのは冷麦なのか、冷麦を食べている本人なのか二通りの読み方がある。いずれにせよ冷麦そのもの、またそれを食べている人間も同じくとらえどころは身の丈のほどとわきまえて……。その脱力感がちょうどよい。

クローバーと見ればしゃがみこんでしまう  さより
 なぜしゃがみこむ?という疑問が大き過ぎると句として成立しないところだけれど、そうはならないのは幸福の象徴とされる四葉のクローバーを、誰しも懸命に探した記憶があるからだろう。そういう説明臭さがないのが、なにより救い。

雨に籠りて手習ひの墨を磨る  彩楓
 句に新鮮味とか面白味とかは無いが、揺るがない落ち着きがある。外は煙る雨、部屋の中ではひとり墨を磨る自分。モノクロの映像あるいは一服の水墨画のような趣はある。外の雨、内の墨、このコントラストが上手いと思います。

むじゃきな足の裏でおっさんの鼾  多満
 小さい足の裏をみせて眠る子の、その意外にもおっさんのような大きな鼾に驚かされる……という句だろう。いやひょっとして、大きな鼾をかいて眠るおっさんの足が意外と可愛い、ということかもしれない。「むじゃき」と「おっさん」という言葉の対比がおもしろい。




簾吊る妻の脚立支える儂  迂叟
色あせてマッチ痩せている   のり茶づけ
枇杷熟るる蹴り上ぐるがために股間  凡鑚
アイスコーヒーカラカラ夜を希釈してみても  緑の手
上半身裸パソコン打つ蜘蛛  KIYOAKI FILM
サングラスして迷う参観日  山崎ぐずみ
改札口から夕焼色の猫奔る  内藤羊皐
父の日って堆肥場の水たまり  もね
冷麦はボールペン素麺はシャープペン  ヤッチー
ゆうこちゃんこころのなかのさくらさきこちゃんはちりません    エノコロちゃん


並選

アイスコーヒー略せば妻の名  出楽久眞
天上天下唯我独尊西瓜割り  dolce
幽霊の男女比気になる参画大臣  風さら紗
変顔して嫌いな物残す  レモングラス
枯れきった紫陽花を思う  幸
たぶん愛するのは遠きものたちで  青萄
あじさいの蔭にデスマスク  藍人
図書館あと何冊読めるか  小市
煙草の匂い失ったジャズ  南亭骨太
夏の夜をスッカラカンで帰る  暮井戸
半世紀浮沈子だつた  海田
あの月は四万と六千の海ほおずきでできている    みやこまる
相槌ばかり打ってソーダ水  てん点
古代蓮咲いたぽんと咲いた  喜多輝女
クロスワードパズルに飽きて素麺に飽きて  樫の木
八百屋の倉庫から燕の子  ゆりかもめ
正しいことは小さな声で  うに子
アイドルの切り抜き写真に黴  元旦
どうなればいいのかなんていえなくて  台所のキフジン
貨車の響き新茶の野を縫う  松ぼっくり
エアコンを働かせ青梅雨の部屋に寝る  青柘榴
密林の雷鳴動物の叫び  カシオペア
大口で食らふ夏  あおい
曇天のさゝやき林檎もぐ  恋衣
蜜柑の花の香に映えて小島  人日子
人恋うる如金魚に恋  ミセスコナン
梅雨晴れ間酒を買う  まんぷく
高架橋の下を歩く  遊人
太陽の一個島みかんのん万個  鯉城


きむらけんじ
 1948年生まれ。第一回尾崎放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律・地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技・妄想、泥酔。


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詰め俳句計画


出題 文 マイマイ


詰め俳句計画
出題・文 マイマイ


6月号掲載の問題

 次の(  )の中に共通する
 夏の季語を入れてください。

天に虹地に(  )のよく映える
(  )の主の不在や引っかかる

 久我恒子さんの苗代を晩春の季語だとして級外としましたが、水原秋櫻子編の歳時記では初夏となっていたとのことで大変失礼しました。改めてこの季語について考えてみますと、前句が非常に美しい光景で素晴らしい。後句の「引っかかる」のところでどう読むか悩むので3級と致します。


今月の問題

次の(  )の中に共通する
秋の季語を入れて下さい。

出張の夜の(  )の冷え切って
(  )や篠突く雨を友来たる
 
 今月は前句の「冷え切って」がポイント。マイナスの感情を抱かせる表現なので、食べ物や飲み物を合わせたときにおいしそうに見えないという難しさがあります。


出張の夜の麦飯の冷え切って
麦飯や篠突く雨を友来たる

 池田喜代持さん。KIYOAKI FILMさんは黒南風。青萄さんは夏蝶。残念。ともに夏の季語でした。級外。


出張の夜の秋気の冷え切って
秋気や篠突く雨を友来たる

 笹百合さん。後句、字足らずでリズムが良くない。後句に合わせて季語は4音とし前句の「夜」を「よ」と読めばリズムが整う。はなゆきさんの新酒も同様。7級。誉茂子さんは秋霖。秋の長雨のことなので後句の「篠突く雨」と完全に重複している。同じく7級。矢野リンドさんは宵闇。前句、夜と宵闇で意味が重なる。宵闇は月が出るのを期待して待つ気持ちを季語の成分として持っているが、後句の篠突く雨ではそれがない。6級。エノコロちゃんは秋寂び。前句は季語と「冷え切って」のフレーズが近すぎる。後句も「雨」だから「寂び」という分かりやすい帰結でもうひとつか。同じく6級。さざなみ真魚さんは名月。前句は詩的だが、後句明らかに月は出ていない。同じく6級。喜多輝女さんは長月。陰暦の九月のことだが、前句、晩秋だから「冷え切って」という因果が感じられて良くない気がする。5級。ひさのさんの川霧は前句臨場感があってよいが、後句、雨と川霧が重なっているのがどうか。4級。坊太郎さんは草市。後句、草市で友達と待ち合わせ? 前句の草市が冷え切っているというのも不思議な状況。同じく4級。たあさんは秋の野。前後句ともに無難にまとまっているが、前句、秋の野は「冷え」ているものなので意味がやや重なるか。同じく4級。照造さんと蒼真さんは稲妻。前句、稲妻が冷え切っているというのは斬新で面白かった。後句の雨とやや近いか。3級。


出張の夜の初鴨の冷え切って
初鴨や篠突く雨を友来たる

 おせろさん。初鴨の例句も調べてみましたが、初めて渡ってきた鴨を愛でる気持ちというのがこの季語には含まれているようです。前後句を一読して、料理として供されているのかと思いましたが、それでは季語の本意に背く気がする。前句は出張の淋しさを初鴨に重ねた句として、後句は叙景としての初鴨を詠んだ句として受け取るべきだろう。3級。恋衣さんは鈴虫。前句、わかりにくいが、「出張の夜」だけに鈴虫の音色も「冷え切って」聞こえたというのが句に寄り添った読みだろうか。後句、室内飼いの鈴虫だろう。雨が効いているか微妙。同じく3級。


出張の夜の秋の炉の冷え切って
秋の炉や篠突く雨を友来たる

 ゆりかもめさん。前句、これは残された妻の方の句と読めばよいのだろうか。後句、暖かい炉と雨の対比が良い。いつの時代じゃ!とツッコミを入れたくなりますが……。3級。ひでやんさんは秋の戸。これは前後句とも無難にまとまっているが、何かひと工夫欲しい気もする。同じく3級。鈴木牛後さん、台所のキフジンさん、彩楓さんは秋灯。久我恒子さんは秋燈。ヤッチーさんは秋の灯。前句、本来暖かいはずの「灯(燈)」が冷え切っているのがいかにも秋の風情。後句はやや平凡に感じた。2級。ポメロ親父さんは秋声。後句、かなり大きな雨の音だと思うのだが、その中の微かな友が来た気配を「秋声」と詠んだと解釈した。秋の澄んだ空気の伝える微かな音を「秋声」と思っていたので良い意味で裏切られて面白かった。前句も雰囲気が面白いが、具体的な映像が出てこないのは少し弱いか。同じく2級。


出張の夜の菊酒の冷え切って
菊酒や篠突く雨を友来たる

 童夢U世さん。後句は粋な計らいを感じて好きだが、前句、出張なのにわざわざ菊酒?しかも冷え切っている? このテンションが不明。4級。幸さん、さよりさん、れんげ畑さん、ひかるんさんはどぶろく。後句、友に振舞うつもりのどぶろくでひょっとすると手作りかも。前句もなかなかですが、やはり「冷え切って」なので美味しくなさそう。3級。藍人さん、元旦さんは古酒。『日本大歳時記』(講談社)によると古酒は新酒に対応する言葉で、もう新酒ができているのに惜しんで飲む去年の酒のことのようだ。とすると後句は気の置けない友が来たよという句意になり、前句「冷え切って」美味しくないというのもうなづける。しかし、出張の夜に古酒を飲むという行為にリアリティーがない気がした。同じく3級。のり茶づけさん、河原撫子さんは猿酒。前句、そもそもこの季語にリアリティーは求めていないので「出張」という現実的なものとの取り合わせは面白かった。ただ「冷え切って」がやはり引っかかる。後句は猿の友達? 可笑しい。2級。


出張の夜の芋鍋の冷え切って
芋鍋や篠突く雨を友来たる

 うに子さん。後句は友にご馳走してやろうという気持ちがみえてよいが、前句、出張で冷えた芋鍋を食べているという状況がよくわからない。4級。海田さんの新蕎麦も同様。同じく4級。片野瑞木さんは新米。前句、出張で夜食べるご飯が「新米」と意識するものなのだろうか。がっかりしている感じはわかる。後句は新米で友をもてなすつもり? 微妙。3級。内藤羊皐さんははららご。後句は友を待ちながらはららごで一杯やっている景が浮かんでよい。前句、はららごは本来冷えているほうが美味しいものだと思うが「冷え切って」では美味しそうじゃない。「よく冷えて」ならいいのだが。2級。カシオペアさんの秋茄子も同様。同じく2級。


出張の夜の木犀の冷え切って
木犀や篠突く雨を友来たる

 緑の手さん。前句、木犀が冷え切るというのは新しい感覚。後句の雨は激しい雨なので木犀も散っていそうで合うかどうかやや疑問。3級。松尾千波矢さんはひょんの実。「実」とあるが実際にはイスノキの虫瘤で、虫が出て行った穴に息を吹き込むと音が鳴ることから「ひょんの笛」とも言う。前句、なぜ出張の夜にそんなものが手元にあるのか不明だが、悲哀のようなものは伝わってくる。後句、友を待っている間、手持無沙汰に吹いているようで面白い。1級。


出張の夜の栗飯の冷え切って
栗飯や篠突く雨を友来たる

 dolceさん、桂奈さん、 レモングラスさん、迂叟さん、小市さん、南亭骨太さん、みやこまるさん、ほろよいさん、樫の木さん、青柘榴さん、ちろりんさん、遊人さん。たくさんの方がこの季語。後句は友を我が家に招待した感じか。気持ちの良い句になった。前句の栗飯は美味しそうではないが、そのことで出張の侘しさが強調されていることを評価した。初段。一走人さんは露草。前句は露草と自分を重ねているよう。後句、雨に打たれる露草というのもいいと思った。同じく初段。


今月の正解

出張の夜の枝豆の冷え切って
枝豆や篠突く雨を友来たる
 人日子さん。食べ物の中で前句のリアリティーの最も高いのがこの季語だと思った(さすがに正解ですから)。後句は酒場で友を待っている情景を思って作りました。二段。



10月号掲載分の問題(8月20日締切)

次の(  )の中に共通する
秋の季語を入れて下さい。

塀を行く猫は銀色(  )
(  )とは鉄琴の音の澄む


マイマイ
 2003年11月頃よりラジオに投句を始める。割と生活派俳人だったが、最近は?? 第1回、第4回大人コン優秀賞受賞。2013年句集シングル『翼竜系統樹』上梓。将棋推定初段。棋友募集中。第5回大人コン落選の問題作『宇宙開闢以降』8月1日発売予定。


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100年投句計画 投句方法




 件名を「100年投句計画」とし、投句先(複数可) 俳号(なければ本名の名前のみ) 本名 電話番号 住所を明記してお送り下さい。投句はそれぞれ二句まで、詰め俳句は季語を一つのみお送り下さい。一つのEメールまたは一枚のハガキに各コーナーの投句をまとめて送っていただいても構いません。ただし、「選者三名による雑詠俳句計画」と「へたうま仙人」は、選択制(どちらか一方のみ投句)となります。また「雑詠俳句計画」は欄へ寄せられた二句を各選者が選ぶ形式です。各選者に個別に投句を行うのではない点にご注意下さい。

それぞれ締切は、8月20日(土)

投稿ページ http://marukobo.com/toukou/
投稿アドレス magazine@marukobo.com
はがき FAXでも投句できます。

さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。


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短歌の窓


短歌投稿ページ
選者 短歌誌『未来』同人 渡部光一郎


特選

アイロンの灼ける匂いに行く夏を素手で送れば空は近づく  時計子
 まず上句の把握がよい。懐かしい一過性の夏。そこから展開してゆく下の句が独創的である。「素手で送」る季節が時間の推移であるのに対し、空が近づくというのは空間的認識。この二つの軸がうまく機能している。「アイロン」や「素手で」といった身近な要素を盛り込むことによって、観念的な歌に陥ることなく詠いおおせている。


並選

安曇野の朝の大地に額づきて初めて出会う駒草の花  風
 上の句から下の句へ、一気に視点を絞り込んでいる。「額づきて」という古い言葉と、「初めて出会う」という口語の取り合わせがここでは効果的。

一日を座って過ごす夫の横足を縮めて少し昼寝す  ミセスコナン
 「足を縮めて少し昼寝す」という表現がとてもよい。「夫」は何らかの理由で「一日を座って過ご」しているのだろう。その横に居る作者と「夫」との間に、あたたかいものを感じる。抑えた表現が効いた。

週末に来る低気圧コーヒーに落とすミルクの渦巻いている  マイマイ
 これから来るであろう低気圧と目の前のコーヒーに渦巻くミルクという遠近・大小をうまく組み合わせた。余計な事物を入れない思索的な詠いぶりがよい。


コメント

鉄の上に鉄を投ぐれば滑り落つそのきらめきに夏は了りぬ  鈴木牛後
 上の句がわかりづらい。ここで「鉄」というのを避けて、読者に分かりやすいものをあげたほうがよい。下句はよい。

ブラジルが原産といふジャカランダ紫色に天地を染めて  一走人
 天地まで染めあげそうな花を迷うことなく詠った。

自転車の少年急げあの果てへ雨呼ぶ雲の湧きあがるとも  久我恒子
 やや舌足らずだが、歌意はよく分かる。「あの果てへ」を少し別の表現にしてみてもよいかと。

薄暗き館に数多 子あり腸詰馬鈴薯麦酒の光る  暮井戸
 腸詰馬鈴薯麦酒、とならべたところが、やや既視感をあたえてしまうかもしれない。

秋の野を一人で急ぐ帰り道家に愛しい人も無いのに  たあさん
 確かな定型の感覚がある。

ヒメジオンかハルジオンかを検索す共に外来どうりで強い  青柘榴
 小さな発見を歌にした。「検索」という言葉が歌の中におさまっているのがおもしろい。

供さるる水に氷の泛びゐて氷自ら水になりゆく  岡田一実
 「供さるる」や「氷自ら」はまだ動くかと。

手術日が決まり帰りの縄のれん生のジョッキを並べてをりぬ  小市
 手術をむかえるのは作者本人と考えていいのだろう。作者の置かれた状況が適切にかかれておりよい。


 暑いですね。外は暑いのですが電車や店の冷房はがんがん効いていて、室内ではちょっと震えたりします。みなさん体調をくずさないようになさってください。歌ですが、もう少し言いたいことを絞るとよくなる作品がたくさんあります。ではどうかよい夏をお過ごしください。


自作の短歌(2首まで)、下記までお送り下さい。締切は毎月20日。
専用フォーム http://marukobo.com/tanka/
専用Email: tanka@marukobo.com


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自作の俳句を英語に訳そう!

百人百様 E-haiku



評:菅紀子


 みなさんこんにちは。今回は全般の方針について初めにコメントさせてください。
 まずこのコラムを始めたとき、英語俳句に訳すにあたっては季語は必ずしも必要ではなく、また3行にする必要もありませんと申し上げましたが、何回か回数を重ねるうちに少し考えが変わってきました。季語は日本語の原句に必ずありますから自然に英語俳句にも入ることになります。そして3行詩にするかどうかですが、英語では切れ字などを表現することができないので、その意図を込めて改行すると、切れ字に代わるひとつの手段になります。さらに5-7-5の日本語のシラブルや、鑑賞者が想像力を働かせる間を与えるためにも改行して3行にするほうが基本的に収まりが良いかと思うようになりました。もちろん1行詩が相応しいという確信がある句にはどうぞその形式をお使いください。

1.
A summer day
We are breaking the sand castle
each other

原句  夏の日や壊し壊され砂の城  たあさん

 主語を省略するとよいでしょう。
A summer day
Breaking each other's
Sand castles

2.
Don't sob more
Because some mushroom in the rainy season
becom to grow

原句  もう泣くな泣けば生えるぞ梅雨の茸  たあさん

 「もう」は否定形にany~。「泣けば」を「さもなくば」と解釈するとor。
Don't cry anymore
Or mushrooms will sprout up
In the rainy season

お便り  俳句も難しいですが、英語となるとかれこれ47年ぶりですから、これで良いのやらどうやら。(たあさん)

 たあさん、思い立ったが始めどきですね。

3.
I don't need an answer and “nice” , I'm lying down leisurely in a hammock .

原句  返信も「イイネ」も要らずハンモック  出楽久眞

 AもBも?ない は否定形にA nor B
 Facebookの場合「いいね」は“like”が使われています。

No need
any responses nor “like”
in a hammock

4.
jellyfish
always missing
always calm

原句  悠々と海月はいつだって迷子  片野瑞木

 「悠々と」をどう表現するかで世界が変わりますね

5.
press a match
on summer grass
to put out fire

原句  夏草に押し付けて消すマッチの火  片野瑞木

 fireだと火事の意味もあり大きな火のイメージも湧くので to put out its flame
「その(マッチの)炎を消すために」としてはどうでしょう。

6.
Had been coiled by Calystegia.
The Lattice window of sanatorium.

原句  昼顔やサナトリウムの格子窓  ほろよい

Calystegia,
entwining itself around the lattice window
of a sanatorium

 「昼顔や」と切れ字をカンマと改行で示し、3行詩にしてみました。

7.
ruffs swayed
she wanders at the tower
as a ghost

原句  襞襟をざわわと塔の幽霊は  久我恒子

A ghost
wandering around the tower
rippling her ruche

 「ざわわ」という擬音語の表現はいろいろ考えられますが、「襟のフリルがさざ波のように揺れて」と訳してみました。

8.
grilled sweetfishes smell good
old name of stores raised
along the main road

原句  街道に古き屋号や鮎を焼く  久我恒子

On a highway
Being grilled was ayu,
An old name-board

 時代劇のワンシーンのよう。
 街道を歩いていたら→芳しい焼き魚の匂いが漂ってきた→鮎だ→なるほど老舗だろうか古い屋号の看板が掛かっている、という順番に整理してみました。

9.
A chill in the rainy season
Jazz go down the stairs

原句  梅雨寒やジャズが階段下りてくる  彩楓

Chilly rainy season
Stepping downstairs was
Jazz

 梅雨寒のこんな日にカツカツと階段を降りてくるのはジャズ、お前かよ、なんて。
 この句で鬱陶しい梅雨の日が楽しみに変わりました。ありがとうございます。

10.
What can the toad be rebeared in in the next life?

原句  次の世は何に生まれる蟇  彩楓

Toad, what will you be reincarnated as next?

 仏教の輪廻転生とヒキガエルに生まれた哀れみが感じられます。蟇への呼びかけには一行詩が効果的でしょう。

11.
the screws of the world
is removed, then
morning glory bloomed

原句  世界の螺子をはずし朝顔が咲いた  チャンヒ

with all the screws
in the world loosened,
morning glory has bloomed

 「はずし」について。朝顔の固く締めた花弁が螺子を緩めるようにほどけて咲き、そのイメージでは螺子は取付元から分離しないで緩んでいくと考え、loosen という動詞を使いました。

12.
to field of flowers
with downloaded
sweetheart

原句  花野へはダウンロードした恋人と  チャンヒ

toward the flowering field
I do go with my sweetheart
(that I) downloaded

 近未来的寓話、シュールですね。有機的な花野へ無機的な恋人を連れて行くんだ、というこだわりのようなものが感じられて、doという強調を入れてみました。


菅 紀子(かんのりこ)
(有)クラパムコモンカンパニー代表。通・翻訳、メディアによる姉妹都市交流コーディネーター。社名は夏目漱石が下宿したロンドンの地名から。歩道短歌会同人。人文学修士、翻訳修士。松山大学、愛媛大学非常勤講師。(Hailstone Haiku Circle blog ICEBOX Contributor)(漱石と彼のライバル重見周吉、日系移民研究)

応募内容 自作の俳句およびそれを英語俳句に
  したもの(2句まで)
応募先  フォーム http://marukobo.com/eigo/
      Email: eigo@marukobo.com
10月号用応募締切8月20日(土)



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百年歳時記


夏井いつき

第39回


 有名俳人の一句を紹介するページは世に数々あれど、「市井の逸品」とも呼べる一句を取り上げ鑑賞する記事はそんなに多くありません。
 百年先に残したい佳句秀句奇々怪々句を見いだし、皆さんと共に味わおうという連載は、名づけて「百年歳時記」。夏井いつきの目に触れた様々な作品を毎月紹介鑑賞していきます。


夏暁を鎌研ぐ音が急き立てる  だんご虫

 夏の農作業は、お日さまが上がるまでの涼しい時間にどれだけ仕事を片付けられるかが重要なのです。日中の暑い間は、屋根の下でできる作業をしたり、ちょっと横になって休憩したりするのです。
 日々の疲れが溜まる夏の暁、思わずも寝過ごしてしまったのでしょうか。「鎌」を「研ぐ」シュッシュッという「音」が、早くしないとお日さまが上ってしまうよ……という焦りをかき立てます。「夏暁を」の「を」は、経過していく時間や場所を意味する助詞。一音の使い方にも心が行き届いています。「鎌研ぐ音が急き立てる」という擬人化で、このような現場証明のある「夏暁」を表現できるのは、やはり農業に携わる人ならではの実感の強さゆえでしょう。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』7月1日放送分)


すうすうとごきぶりひげを揺らしをり  クズウジュンイチ

 「ごきぶり」を観察して一句にしようと考えた時、誰もが「ひげ」の動きに目をとめるに違いありません。清涼飲料水か、湿布薬か、どちらかといえば心地よさげな「すうすう」という擬態語。これが、「ごきぶり」の「ひげ」のそよぐような動きの描写となり得ている意外性が、なんとも痛快です。
 「ごきぶり」に遭遇する。凝視する。「ごきぶり」もこちらを窺っている。「ごきぶり」は「ひげ」だけ動かす。「すうすう」と「ひげ」を揺らす。次の瞬間、逃げるのか、飛ぶのか、叩き潰されるのか。「をり」というささやかな時間を含んだ叙述が、その後の展開をあれこれと想像させるのも、さすがのテクニックです。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』6月24日掲載分)


巴旦杏愛は真円ならざりき  遠音

 「巴旦杏」とは、スモモの一品種。大形の実の先が尖っているため、「とがりすもも」という呼び名もあるようです。中国原産で、熟すと赤い表皮に白い粉を帯びる美しい果実です。
 尖がっている「巴旦杏」に対して、「愛は真円ならざりき」と呟く作者。「なら・ざり・き」を品詞分解すると、断定+打消+過去となりますから、「愛は真円ではなかった」というニュアンスでしょうか。「愛」とは真円ではなく、歪んだり尖ったりしていると読んでもいいし、凸凹の「愛」に包まれて人はみな傷心の日々を生き、やがて再生していくのだよと読むのも一興。巴旦杏の尖ったお尻を見ながら、私たちは「愛」というものについて考え始めるのです。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』6月24日放送分)


アイスコーヒーと眺む多肉植物の憂い  無窮花(ムグンファ)

 「多肉植物」とは、サボテンのように肥厚した葉や茎などに多量の水分を含んでいる植物を指します。乾燥した土地や塩分の強い土地などに生育するのが特徴ですが、最近はインテリアとしてユニークな形の「多肉植物」を飾るのも流行っているようです。
 エアコンのきいた涼しい部屋で「アイスコーヒー」を飲んでいるのか、お洒落なカフェか。片隅に置かれた大きな「多肉植物」か、卓上に飾られた小さなものか。「多肉植物」たちは「憂い」を抱えているから、妙な形に膨らんだり鋭い棘が生えだしたりしてるんじゃないか……。「多肉植物の憂い」をぼんやりと眺める作者の心を過る想念。都会の憂いが溶ける「アイスコーヒー」の苦さ。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』6月17日放送分)


蜻蛉生るたちまち空は立体へ  矢野リンド

 やごの背が割れて、羽化が始まります。頭、胸、やわらかい翅、そして脚が出て、踏ん張りながら腹の部分を引っ張り出します。「蜻蛉」がトンボとしての全き姿を手に入れたとたん、「蜻蛉」にとっての「空」もまた「たちまち」に「立体へ」と変容していきます。
 二万個もあるという複眼で、「蜻蛉」は立体となっていく「空」を凝視します。「空」が完成し、我が翅がしっかり伸びきったのを確認して、「蜻蛉」は蜻蛉としてその空へ飛び立ちます。
 「蜻蛉」が羽化することを「生る」と表現する季語の本意は、変容への感動。「蜻蛉生る」短い時間の感動を3Dの映像のような「空」で表現してしまうとは、なんとカッコいい発想でしょう。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』6月10日掲載分)


*百年歳時記は、南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』や
 松山市公式サイト『俳句ポスト365』(http://haikutown.jp/post/
 などに投句された俳句を紹介します。


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俳句の街 まつやま

俳句ポスト365



協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/


金曜日優秀句
平成28年6月度


蜻蛉生る(とんぼうまる)


蜻蛉生るさいしょに見たのは雲でした  さな(4さい)
ちちいろにうまれてたけきとんぼかな  クズウジュンイチ
これが風というものだろか蜻蛉生る  うしうし
蜻蛉生れ損なひ風に吹かれをり  スズキチ
生れ損ねたる蜻蛉を亀が喰ふ  ポメロ親父
蜻蛉生る黒き目玉のやうな沼  樫の木
蜻蛉生るかつて被爆の深潭に  えらいぞ、はるかちゃん!
蜻蛉生る青いトマトの匂ひして  トポル
牡牛座に生まれ蜻蛉は戸惑つた  葦信夫


蜻蛉生るたちまち空は立体へ  矢野リンド


ごきぶり


形勢はごきぶり飛んで逆転す  ごぼうの花
ごきぶりの住まい阿弥陀の尻あたり  クラウド坂上
神饌も順路の一つ油虫  樹朋
逃げ切りしごきぶりに壁高からず  江戸人
ごきぶりの一番多く死せる壁  大塚めろ
ごきぶりをくるみ新聞よく燃える  石川焦点
ごきぶりのくぐる延長コードかな  希望峰
豚千頭湯がける鍋や大ごきぶり  ウェンズデー正人
ごきぶりを閉じ込めちゃった薬箱  樫の木
ごきぶりのフェロモン臭きマッチ箱  ポメロ親父
ごきぶりや掛川ターミナルホテル  ちびつぶぶどう


すうすうとごきぶりひげを揺らしをり  クズウジュンイチ


8月の兼題
公式サイト内の「俳句投稿」より作品をお寄せください。(※投句期間を過ぎますと投稿ページは次の兼題の募集に自動的に切り替わります。ご投稿はお早めに。)

投句期間 7月21日〜8月3日
啄木鳥(きつつき)
キツツキ科の鳥の総称。留鳥だが秋の季語とされる。「けら」とも呼ばれ、色や形状、大きさなどで分類される様々な種類がいる。木に棲む虫を補食したり、また巣を作ったりするために嘴で木をつつく。

投句期間 8月4日〜8月17日
胡麻(ごま)
ゴマ科の一年生作物。晩夏に花を咲かせた後、9月頃に実が熟し、やがてはじけて中の種子を飛ばす。食用には実がはじける前に刈り採り、束ねて干してから、樽の内側などで叩いてはじけ出た種子を採る。

投句期間 8月18日〜8月31日
秋薊(あきあざみ)
キク科の多年草である薊には多くの種類があり、そのうち「山薊」「南部薊」「真薊」など、秋に花をつけるものの総称をいう。単に「薊」と言った場合は春の季語となる。

参考文献 『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


 「俳句ポスト365」は携帯電話からもご参加いただけます。
 「俳句ポスト365」公式Facebookページ開設中! 公式サイトに設置しておりますリンクよりお入りください。毎回の兼題のお知らせを中心にお伝えしながら、皆様の返信欄への書き込みもお待ちしております。


 募集の兼題は変更される場合があります。「俳句ポスト365」のサイトで最新の情報をご確認ください。


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一句一遊情報局



協力: 南海放送


金曜日優秀句
平成28年6月度




お旅所の眩しき白砂神輿待つ  八十八
喉仏まだなき喉へ砂糖水  烏天狗
放課後クラブ金魚は砂を吐いたり吸ったり  ねこ端石
砂出しの浅利明日の策を練る  ちろりん
ざらと夏我が告発の砂塵めき  鈴木牛後
外房の砂丘の沖の日雷  糖尿猫
潮浴びや砂の器に貝の匙  逆ベッカム
名は砂丘別れしのちの香水は  雪うさぎ
砂の惑星となっても薔薇の咲く  理酔
百物語へ土砂降り誂える  妙


みなみかぜ砂は屍をいとおしむ  オカマ御飯


筍流し(たけのこながし)

大鍋の沸きて筍流しかな  矢野リンド
筍流し手付かぬままに宮の森  山口千代子
能登金剛を縫い来る筍流しかな  姫ばあちゃん
筍流ししょん便横丁を抜けて  トポル
熟れすぎた空を筍流しかな  きとうじん
筍流し昨夜崩れし山を撫で  あるきしちはる
筍流し闇夜の山を攻むる犬  ほろよい
筍流し白紙の弔辞読み上げる  みいみ
ハーレーへ筍流し吹き下ろす  亜桜みかり
筍流しがぼと掻き出す湯の花へ  このはる紗耶


四日めの筍流し錆出でぬ  童夢U世


アイスコーヒー

アイスコーヒー熱唱の喉潤して  華緒
パソコンの熱暴走アイスコーヒーと嗤う  桜里
家庭訪問五軒めもアイスコーヒー  長緒 連
アイスコーヒー頼み山口百恵論  妙
アイスコーヒーかき混ぜながら素っ気なくごめんなさい  烏天狗
飲み干すアイスコーヒー差し出す指輪  ひさの
アイスコーヒーの濡らす離婚届かな  ねこ端石
アイスコーヒーとトリコロールな村の駅  ペケポン
水っぽいアイスコーヒーゲバラ死す  ターナー島


アイスコーヒーと眺む多肉植物の憂い  無窮花


巴旦杏(はたんきょう)

美しき影を書き足す巴旦杏  風
籠いっぱい童話のように巴旦杏  雪うさぎ
心臓の尖り方して巴旦杏  海田
学校へ行けない巴旦杏青い  越智空子
恋文を綴る青かな巴旦杏  三河のぽんぽこ
家屋敷巴旦杏とてやるものか  あねご
巴旦杏ブータン国に幸多し  ターナー島
トルファンの乙女の踊り巴旦杏  ちろりん
隊商の小さき手へ投ぐ巴旦杏  野風
巴旦杏祖母は大連のタイピスト  ねこ端石
中庭に最後の華族巴旦杏  マイマイ


巴旦杏愛は真円ならざりき  遠音



投句募集中の兼題

投句締切 7月31日

鳩麦(はとむぎ)
イネ科の一年草。高さ1〜1.5m。数珠玉に似ており変種とされるが、穀粒は硬くならない。漢方薬などとしてもよく知られている。

俳句甲子園(はいくこうしえん)
高校生が同校5人一組のチームで俳句の力を競い合う大会。8月に愛媛県松山市で全国大会が開催される。


投句締切 8月14日


 季語ではない兼題です。「山」という字が詠み込まれていれば、読み方・用い方は問いません。季語は当季を原則として自由に選んでください。

ホップ
 クワ科の多年生蔓草。毬果が成熟すると中にルプリン粒という黄色の粒ができ、ビールの醸造に使用される。


投句締切 8月28日

溢蚊(あぶれか)
落ちぶれてさすらう蚊、という意味で、秋になって猛々しさが失せ、弱々しく飛ぶ蚊のことをいう。

名月(めいげつ)
陰暦8月15日の月。仲秋の満月をめでる行事は中国から伝わったが、それ以前より、月は生活に密着していた。

参考文献『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句宛先
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


※ 掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとにしたものです。俳句ならびに俳号が実際とは異なっている場合がありますのでご了承ください。


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鑑(み)るという冒険


〜映画篇 演劇篇〜

文&俳句 猫正宗


第四十六回
『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』&『父と暮せば』


 アメコミ出版社大手、マーベル・コミックが、各々主役を張っていたヒーローをチームにした映画『アベンジャーズ』とその関連作品で大ヒットを連発。その状況を横目で見ていたもう一方の雄、DCコミックスが、『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(以下『BvsS』)により、ジャスティスリーグ(DC版ヒーローチーム)とその関連作品で映画界に参入。今後銀幕は「変身ブーム」だった日本の70年代のテレビの様に、有象無象のヒーローが跳梁跋扈するようになります。
 その『BvsS』にやや遅れて、マーベルの『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(以下『C・W』)が上映されました。どちらも、あまりにも強大な力ゆえに、その活動の余波によって被害をも及ぼすヒーローを、規制する側と非規制側に分かれてヒーロー同士が戦う、的な展開。結果、『BvsS』は、敵の陰謀や、より強力な敵の登場によって、なし崩しに和解。一方『C・W』は規制派が勝利するものの、非規制派は闇に消え、今後も、いついかなる時も、助けと必要があれば彼らの正義が行使されることを示唆して終わります。これ、人権とか、正義とか、自由とかで考えるなら、非規制派なのですが(娯楽としてもネ)、銃とか、民兵とか、核とかの隠喩だと考えるなら色々複雑な気分に。彼らを生みだしたアメリカという国自体が揺れているのでしょう。だからこそ「市民戦争」なのでしょうから。

おやあなたも正義でしたか木下闇

 さて、核兵器の規制といえば、バラク・オバマ氏が現職米大統領として初めて広島を訪問しましたが、『父と暮せば』(劇団P・Sみそ汁定食公演、作:井上ひさし、出演:桝形浩人、他、'16年6月16〜19日、シアターねこ)は原爆投下後の広島で、生き残ってしまったがゆえに、ひっそり生きようとする美津江と、その彼女が抱いた淡い思いを後押しすべく現れる父との二人芝居。本公演を演出したのは、京都の劇団、烏丸ストロークロックの代表、柳沼明徳。氏は'11年に松山の戯曲講座から生まれた『あなたなる夜雨の葛のあなたかな〜芝不器男物語』(作:平岡千代子)に携わり、その縁から本公演の演出の依頼もあったそうです。アフタートークでは、普段は自作の演出を手掛けているが、他人の言葉を基にした作品作りに刺激と発見があったこと。その言葉の向こうにあるイメージを、いかに松山の役者達と現出せしめるかに尽力したこと。また、本来オーディションで一人が選ばれる予定だった美津江役を、三人(長本奈月、萩山紗英、岩市莉歩)のトリプルキャストとして、少しでも自分がここに来た意味を残そうとしたこと、等が語られました。
 本作には、図書館、昔話研究会、手紙等々、記憶や想いを伝える装置や媒体が重要な要素として登場します。同様に、込められた考えや想いを、引き受け、伝えていく。また、そうすることで自分達の枠を広げる。古典や名作と呼ばれる作品に取り組む意味とは、そういうことなのでしょう。

夏の大三角過去がくれる希望


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続 南極を詠もう!



No.3

一般研究観測担当隊員 源 泰拓(俳号 源笑)


 「100年俳句計画」読者のみなさま、こんにちは。第57次日本南極地域観測隊越冬隊員のみなもとです。
 6月、昭和基地では太陽を見ることはできませんでした。6月21日は日本で夏至ですが、南半球では冬至です。
 この時期、昭和基地だけでなく南極地域にあるさまざまな国の基地でミッドウィンターフェスティバルというお祭りが開催されます。
 冬も折り返し地点ということで、太陽の昇らない極夜を越える英気を養い、越冬後半に向かっていきます。

消しゴムで消せたらいいなブリの雪  さくらだ
 “ブリ”とはブリザードのことです。大型大気レーダーの担当者が、国内に報告するアンテナ画像の雪を写真加工ソフトウェアの消しゴムで消したいと言ったので(笑)。
 ホントに消しゴムで消せたらいいですね。

冬至の湯粉雪で埋め仰ぐ月  源笑
 ミッドウィンターの期間中、昭和基地に露天風呂がオープンしました。
 熱めの湯をまわりにある粉雪で埋めて、満月を仰いで浸かります。気宇壮大ですが、気温はマイナス20度なので、湯船から上がるときにはかなりの決心を要します。

思い出す胡瓜の青と噛みごたえ  源笑
 昭和基地には農園があります。農業用のフィルムなどに種をまいて、培養液を循環させて野菜を育てています。
 かいわれ大根、しそなどが出荷されてきましたが、ミッドウィンターの打ち上げで、ついに憧れのきゅうりが登場しました。

日脚伸ぶ陽光は未だ海の下  源笑
 冬至を過ぎると、すこしずつ明るい時間が増えてきます。お日さまが出ていないのにおかしいのかもしれませんが、隊員の心境としては“日脚伸ぶ”です。
 この写真では、太陽は、角度にして2度くらい水平線の下にあります。



今月の南極吟行句
希望峰 編

消しゴムで消せたらいいなブリの雪  さくらだ
 実際は消しゴムで消せるはずもないのですが、ブリザードをこのように客観的にとらえることで、あきらめの境地にいることが伝わってくるところが面白いです。実際にブリザードを体験しないと書けない句だろうと思いました。「ブリ」も「雪」の表現のひとつですから、下五は「ブリザード」そのままでも十分かもしれません。ただ、「ブリの雪」と言う方が、ほとほと困っている様子ですね。

冬至の湯粉雪で埋め仰ぐ月  源笑
 「冬至の湯」「粉雪」「月」と、季語が三つ入ってしまっているので、どれかを主役にしたいところです。(「月」はここでは秋の季感があるわけではないのであまり気になりませんが)「粉雪で周りを埋めて冬至の湯」でいかがでしょう。こうすると、冬至の湯が主役になります。写真と合わせると、このお風呂に入りたくなりますね。

思い出す胡瓜の青と噛みごたえ  源笑
 胡瓜を「青」という視覚的要素と、「噛みごたえ」という触覚・味覚的要素の両面から攻めているところが臨場感抜群です。惜しむらくは、「思い出す」ですね。文章と写真で「思い出」しているのがわかります。

日脚伸ぶ陽光は未だ海の下  源笑
 帯状に日の光が広がる様を見てこの句を見ると、季節の移り変わりを感じます。「陽光」という要素は上五の「日脚伸ぶ」というだけでわかりますね。


地を叩き壁を叩きて除雪隊  希望峰


【投句募集】南極の写真から発送した俳句を募集します。投句された俳句は、スウェーデンに留学した経験のある希望峰さんが紹介します。また投句の中から1点、写真とコラボレーションした作品として掲載いたします。
俳句は専用の投句フォームにて受け付けます。
http://marukobo.com/antarctic/
投句締切8月3日(水)。


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100年俳句計画 掲示板




テレビ・ラジオ     

NHK Eテレ『NHK俳句』
 日曜6時35分〜7時
 (再放送:水曜15時〜15時25分)
※夏井いつきが第3週選者を担当
8月21日(日)、再放送 24日(水)
【兼題】「稲妻」または「雷」
投句締切 8月10日必着
★投稿は葉書1枚に1句。選者名、兼題、俳句1句、名前、年齢、電話番号明記。
 《宛先》〒150ー8001
NHK「NHK俳句」係
 *ホームページからの応募も可
http://www4.nhk.or.jp/nhkhaiku/

NHK 総合テレビ(愛媛のみ)
「えひめ おひるのたまご」内
隔週火曜
 『みんなで挑戦! MOVIE俳句』
8月2日(火)、30日(火)11時40分〜

TBS系列局 全国ネット
 『プレバト!!』
木曜19時〜19時56分
※夏井いつきが俳句の査定を担当

南海放送
 松山市政広報番組
 『大好きまつやま 〜しあわせことば塾〜』
毎週火曜20時54分〜21時
(再放送:日曜11時40分〜11時45分)
※夏井いつきが塾長として出演

南海放送ラジオ
 『夏井いつきの一句一遊』
毎週月〜金曜10時〜10時10分
※ 「一句一遊情報局」のページ参照

FMラジオバリバリ
 『俳句チャンネル』
月曜17時15分〜17時30分
(再放送:火曜7時15分〜7時30分)
【投句募集兼題】
「西瓜・藤袴」…8月14日締切
「秋夕焼・栗飯」…8月28日締切
 WEB http://www.baribari789.com/
 mail fmbari@dokidoki.ne.jp
 FAX 0898(33)0789
※ 投句には本名・住所をお忘れなく!
※ 各兼題「天」の句にはキム・チャンヒのイラストポストカードが贈られます。

*各番組の放送予定は変更される場合がございます。新聞などで最新情報をご確認ください。


執筆           

松山市の俳句サイト
 『俳句ポスト365』
http://haikutown.jp/post/
※「俳句ポスト365」のページ参照

テレビ大阪俳句クラブ
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 『集まれ俳句キッズ」
※ 毎週日曜タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井選)
投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。朝日新聞松山総局(〒790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。

愛媛県《吟行ナビえひめ》句&写真
俳句選者…夏井いつき
写真選者…キム・チャンヒ
【募集期間】毎月1日〜 25日頃締切
【応募先】http://www.iyokannet.jp/ginkou/
【問合せ】愛媛県観光物産課
TEL 089(912)2491



句会ライブ・講演等


全国特別支援学校知的障害教育校長研究大会 夏井いつき句会ライブ
〜認めあう、伝えあう、俳句の力〜
8月4日(木)10時30分〜12時
・松山市民会館(愛媛県)
愛媛県立みなら特別支援学校
電話 089(964)2395

俳句キッズワールド
第5回 夏井いつきと俳句で遊ぼう
8月6日(土)14時〜
・愛媛県総合社会福祉会館(愛媛県)
対象:小・中学生(ご家族の観覧OK)
参加費:無料(要事前申込)
松山東ロータリークラブ
電話 089(932)4426
E-mail:me-rc@io.ocn.ne.jp

北海道高等学校国語教育研究会
 夏井いつき句会ライブ
8月12日(日)10時30分〜12時
・札幌東高校体育館(北海道)
事務局
電話 011(387)2143

滝川生涯学習振興会(リブラーンたきかわ)
 夏井いつきの句会ライブ
〜あなたも今日から俳人です〜
 8月12日(金)18時〜19時30分
・ホテル三浦華園(北海道)
参加費:リブラーン会員・小中学生無料
(要入場整理券)
    会員以外1人2000円
リブラーンたきかわ事務局
電話 0125(23)0294

四国地区公立小中学校事務研究大会句会ライブ
〜心とことばをみがく俳句の力〜
 8月18日(木)13時30分〜15時
・ひめぎんホール サブホール(愛媛県)
※参加申込受付は終了しています

鏡野町夏期文化講座
夏井いつきの句会ライブ
 8月27日(土)14時〜15時30分
・鏡野町中央公民館(岡山県)
※参加申込受付は終了しています


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魚のアブク



読者から寄せられたお便りをご紹介
お便りお待ちしています!
100年俳句計画編集室「魚のアブク」宛、もしくは他の投稿に添えてお寄せください。


夏!!

西条の針屋さん 梅雨に入り雨も多く蒸し暑い日々が続いています。

樫の木 九州は梅雨末期の豪雨で心配です。

うに子 どれだけ降れば気がすむのかと思うほどの大雨が続きます。どうか被害でませんように……。

ケンケン 猛暑になればなるほど調子が良くなるタイプです。


編集室 大雨の影響で地域によっては避難を呼びかけるなど、災害を警戒する報道が連日飛び交いました。そして暑い日が続きます、熱中症にも十分にご注意ください。


近況報告!!

みやこまる 偶然ネットで見つけた、白山市松任駅前にある『千代女の里俳句館』に行ってきました! 記念に2句ほど短冊に書いて飾って来ました。千代女さんにあやかれたらいいなあと願いつつ。とてもステキな俳句館でした。白山市に住みたい!(笑)

南亭骨太 この最近スランプ(上手い人が言うことで、本来私には当てはまらぬが)気味で風景に何も感じられない、集中しないので推敲もままならない、俳句が出てこない日々を只過ごしています。7月に高校の同期会があるので久しぶりにクラブを持ち出して練習場通いを始めてやっと少し目が開きかけているような、いないような中途半端な今日この頃です。

編集室 俳句に限らず、作品を思うように作れなくなったり、集中して作れなくなったり……普段できていたことが急にできなくなることは誰にも起こりがちですが、みなさんはそんな状況になったとき、どうやって解消していますか?


感想!!

柊つばき いつも仙人様のコメントをたのしみにしています。

久我恒子 雑詠俳句計画では地選をいただき、ありがとうございました。どうしても陶枕を詠みたく、ずいぶん画像を見たり調べたりしたので、とても嬉しいです。また、詰め俳句で級外となった「苗代」ですが、私の持っている歳時記(水原秋櫻子編)では初夏となっていました。歳時記によって分類が変わることがあるのですね。これからは気をつけます。そして桃ライスさんの「季語隊長」! 凛々しいまなざしにまたまた魅せられてしまいました。「考えるな、感じろ!!」のお言葉、座右の銘にしますッ。

編集室 歳時記によっては、編者の考え方で季語の季節が変わってくることが時々ありますね。分類や傍題などもさまざま。今月の詰め俳句のコーナーで、担当のマイマイさんが改めて「苗代」での評価をしてくださいましたので、どうぞご覧になってくださいね。


応援!!

喜多輝女 俳句甲子園四国地方大会、見に行きました。負けて泣いてる子を見て胸が熱くなりました。若いっていいですね! みんな頑張れ!!

編集室 いよいよ8月は、俳句甲子園の全国大会ですね! 会場まで行く予定の方も、残念ながら行けない方も、熱い応援をどうぞ宜しくお願いします!


元旦 俳句対局ですが、あの短時間に句をつくるというのは、いつも凄いと思っています。僕はあんなにアタマ回転しません。短歌も挑戦したいとは思うのですが。俳句は余韻で読み手にイメージしてもらえる気がしますが、短歌はストンと来るオチが必要な気がします。どうなんでしょう。

編集室 俳句対局の楽しさをもっと多くの方に知っていただこうと、新たな参加企画がスタートします!(告知コーナー参照) 即吟は苦手で俳句対局はどうも……という方も、ここで対局の雰囲気を味わっていただければ!


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鮎の友釣り


第217回


俳号 希望峰(きぼうほう)

前回…若狹昭宏さんへ 行動力は若狹さんに倣っているだけです。もうキャパシティがないので、mhmを陰ながら応援しております。僕も結婚できるよういい男を目指します。

ももももももも句会 岡山に就職して3年目。高校生 大学生 大人俳人の集う「ももももももも句会」を3ヶ月に1回開催。その結果、今年の俳句甲子園岡山地方大会は「句、ディベートともに全校レベルアップした」と審査員に激賞いただいた。ただ、まだ愛媛には及ばない。岡山から2チーム全国に連れて行きたい。

岡山大学俳句研究部 岡山県俳人協会に「ももももももも句会」を紹介し、年1万円の助成金を得た。また、昨年10月、俳句甲子園OB OGたちの力を借り、岡山大学に俳句研究部がついに発足。100年俳句計画に必要な活動は山ほどある。しかし、最も大事なことは俳句を書き続け、先人たちの句集を読み、学ぶことだ。

写真 俳句甲子園金沢大会にて。

次回…幌谷魔王さんへ 千葉の暮らしはどうですか。いつき組を名乗る僕より若い学生ができて嬉しいです。ぜひ世界征服級の野望をお聞かせください。


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告知




疑似俳句対局の連載スタート

8月25日に、
http://marukobo.com/taikyoku/
にて、兼題を発表します。
俳句対局のルールに乗っ取った句を募集します。
俳句の出来とスピードとで特選句を選びます。
選者は美杉しげりさん。
詳しくは兼題発表のページにて発表します。




だれもが句集を出版できるかたち
句集Style

あなたの句集を20,000円〜制作します
完全デジタル入稿、30冊制作の場合。価格は税別。

仕様 135mm×135mm、36ページ、オンデマンド印刷、表紙PP加工

2016年 第3期
8月31日 (水) 申し込み締切
(原稿締切9月5日、10月末納品)
次回募集は11月末締切予定

詳しくは http://marukobo.com/style/

通常の句集Styleの倍のページ数による「句集Style-W」の募集も行っております。
発行は、10月末の予定です。お気軽にご相談下さい。




俳句キッズワールド
第5回 夏井いつきと俳句で遊ぼう

主催 松山東ロータリークラブ


日時 8月6日(土)午後2時〜(受付午後1時〜)
場所 愛媛県総合社会福祉会館
   (松山市持田町三丁目8−15、ひめぎんホール南徒歩3分)
電話 089-921-5070
 駐車場が手狭なため、お越しの際は公共機関をご利用ください。

参加無料 事前申込制
対象:小中学生(ご家族の観覧OKです)

テレビ・ラジオで大人気の、俳人 夏井いつきさんによる句会ライブ。
笑って学べる楽しい2時間。優秀な俳句は、グラフィックデザイナー
キムチャンヒさんによるライブペイントで巨大俳画となります。
気軽にご参加ください。


申し込み 問い合わせ先
松山東ロータリークラブ

〒790−0001 松山市一番町4−1−5 一誠ビル7階
電話089-932-4426 ファクス089-947-7265
E-mail me-rc@io.ocn.ne.jp
学校名 学年 氏名(フリガナ)を明記してお申し込みください。
申込締切 7月20日(先着100名)




単行本化準備中!
「会話形式でわかる 近代俳句史超入門」
文 構成  青木亮人
*連載は暫くお休みします。ご了承ください。




HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画
編集会議開催

編集会議は、2ヶ月に1度開催しています。年間購読をされている方なら、どなたでも参加できます。また、Eメールなどでのご意見もお待ちしております。

次回編集会議
日時 9月16日(金)(予定)
   18時〜
場所 マルコボ.コム
   松山市永代町16-1
対象 本誌年間購読者
申込先 100年俳句計画編集室
E-mail magazine@marukobo.com


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編集後記


キム チャンヒ

 今月号の特集は、10回目を記念して、夏休み句集を作ろう!コンテストを振り返った。
 特集でも触れたが、その元となったのが「殿様ケンちゃん俳句ノート」。楽しく、使いやすく、しかも安く手に入るノートをと企画したもの。使った後は新たに表紙を付けることができ、100句の句集となる。子どもたちの俳句を書いたノートは、本人にとってはもちろん、親にとっても大切な宝物になるに違いないと思っている。
 企画当初は、年間1万冊販売したいと思っていた。それは、愛媛県の小学生の一学年が、約一万人だったから。しかし、実際には、その10分の1程度。
 コンテストが回数を重ねるにつれ、次第に冊数は増えてはいったが爆発的というにはほど遠かった。しかし、利用者の意見を取り入れ、文庫サイズの俳句手帳を制作したところ、販売冊数は右肩上がりに伸びていった。
 現在では、俳句を使ったまちづくりに取り組んでいる地方自治体と一緒に、「絵で見る季寄せ」付の各地方オリジナルの俳句手帳を作っている。そして、当初の目標は達成した。
 次の目標は、全国の子どもたちに使って貰うこと。高い山だけれどもやりがいがある。


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次号予告



226号 9月1日発行予定

次回特集
俳都松山キャラバン2016 in 明治村&新宿報告


お得で便利なマルコボ.コム直販定期購読! 巻末の案内をご覧ください
お申し込みの方へ、毎月末頃に最新号を送料無料でお届けいたします!
(住所変更の際は必ず編集室までご連絡ください)

『HAIKU LIFE 100年俳句計画』は以下の書店でもお買い求め頂けます。

愛媛県
(2015年7月号より紀伊國屋書店、ジュンク堂書店にて取扱開始)
 明屋書店 ※一部店舗のみ
 ゆらり内海(愛南町)
 原田書房(今治市)
 子規記念博物館(松山市)
 紀伊國屋書店松山店
 ジュンク堂書店松山店


HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画
2016年8月号(No.225)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子

2016年8月1日発行