100年俳句計画1月号(no.218)


100年俳句計画1月号(no.218)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。





目次


表紙リレーエッセー
北極熊バリーバに思う 井上さち


特集1
生まれてから現在までの代表三句による代表句集2016


特集2
俳句対局第4回龍淵王決定戦


特集3
日暮屋の蕎麦を食べよう!プロジェクト 最終回



好評連載


作品

百年百花
 鈴木牛後/朗善千津/杉山久子/遊人


新100年への軌跡
 俳句/児嶋ほけきよ/幌谷魔王
 評/とりとり/亜桜みかり


選者三名による雑詠俳句計画
関悦史/阪西敦子/桜井教人


へたうま仙人/大塚迷路

自由律俳句計画/きむらけんじ

詰め俳句計画/マイマイ



読み物
愛媛県美術館吟行会/ねこ端石
Mountain Cabin Dispatch/ナサニエル ローゼン(翻訳:朗善)
JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭
ラクゴキゴ/らくさぶろう
ホンヤクサイホンヤク/翻田訳蔵
お芝居観ませんか?/猫正宗
歳時記「無季」がバイブル/日暮屋又郎
百年歳時記/夏井いつき
近代俳句史超入門/青木亮人
mhm通信/暇人
南極を詠もう!/渡辺浩志

読者のページ
俳句ポスト365
一句一遊情報局
100年俳句計画掲示板
魚のアブク
鮎の友釣り
告知
編集後記
次号予告




北極熊バリーバに思う
井上さち

 北半球に暮らす北極熊は皆冬に生まれる。北極熊を愛してやまない私は、この時期赤ちゃん誕生のニュースをネット等で調べるのが日課だ。
 秋になると、繁殖の可能性のある北極熊の雌は、皆産室に入る。そして自然の穴に近い、光と音の遮断された空間で絶食状態でその時を待つ。
 でも北極熊の繁殖はとても難しく、たとえ出産があっても無事に育つ事は稀である。
 私が一番心に留めている北極熊は横浜ズーラシアに暮らすバリーバだ。あの有名なピースの母親である。彼女は四年前に砥部から横浜へと旅立った。その搬出時、バリーバは不安の為か檻をゆさゆさと揺すっており、彼女を乗せたトラックはずっと揺れながら砥部を去って行った。
 ピースを産んだバリーバは砥部にとっては大変な功労者だ。その高齢の彼女が再び繁殖の舞台に立たねばならぬ程事態は切迫しているようだ。


目次に戻る


特集1

生まれてから現在までの代表三句による
代表句集2016




 俳句マガジン「100年俳句計画」216号、217号にて募集した「代表句三句」をまとめました。
 各自、生まれてから2015年11月30日までに作った俳句の中から代表句を三句選び、送って頂きました。
 掲載順番はコンピュータでシャッフルし、ランダムにしてあります。
 各コメント中の丸数字((1)(2)(3))はそれぞれ、一句目、二句目、三句目を示しています。



むめも(61)
真ん中に空を残して花筏
葉桜や夜の外湯は縹色
珈琲のせいじゃない夜の長き猫
ヘタクソでも細く長く続けていきたい俳句の世界。


都築まとむ(54)
蟷螂生まれるように心臓のもやもや
北は蟋蟀南は鈴虫の闇よ
夫責めてみても月光のような夫
毎年作りたい俳句のテーマが変わるのでほぼ差し替えになってしまう。


ポメロ親父(57)
アネモネやシルクロードに端二つ
秋の雲海から揚がる象の骨
ななかまど二昼夜攻むる登り窯


迂叟(86)
子どもらの吹かれて遊ぶ野分かな
木犀を見上げてをりぬ遅刻の子
三つ編を固く結びて受験の子


七草(65)
紙垂揺れて神杉の実の弾けとぶ
大北風やオラショ捉ふる猫の耳
縫ひて絞り縫ひて絞りて初時雨
「100年の旗手」勉強させて頂き、有難うございました。


まほろ(39)
新涼や影の下地に塗る紫
桔梗の折鶴ほどに尖るかな
初星や連結解かれゆく列車


彩楓(62)
ひまわりの百万本の怒涛かな
春愁や耳朶に重たきイヤリング
ほろ酔ひのボルサリーノの冬帽子
公民館の俳句教室から私の俳句は始まりました。ゆっくりと季語を覚え、漢字を覚え、俳句のルールを覚え。俳句教室が句会の場となり、苦しいけれど生活の楽しみになりました。休まずに続けたいと思います。


樹朋(71)
鰐の眼の水面に光る原爆忌
山開き錫杖の音雨を裁つ
星合の会話を少し介護室
(1)はNHK全国俳句大会の秀作。(2)は愛媛新聞主催えひめの俳句大賞入選作。いずれもいつき組長選でした。(3)は道後俳句塾での金子兜太並選句。


ほろよい(66)
眼のひかり戻る聖樹の下なれば
花の名を言えて薄暑の介護三
冬薔薇夜勤のナースステーション
今年は、介護元年です。


鯉城(79)
いごっその国の味なり新走り
人生に余白ありけり風邪をひく
原爆を浴びたる道に蚯蚓死す
一番目と二番目の句は平成二十七年に愛媛新聞の小西昭夫選で特選に選ばれたもの。三番目は一〇〇年俳句計画の「一〇〇年投句計画」桜井教人選で特選に選ばれたもの。


レモングラス(68)
阿波の野にこいのぼり立ちをのこある
月見草友よ去るには早かろふ
サイン入りハンカチいつもなでている


小野更紗(57)
過去形になりゆく母へ夏の服
きちかうや母は指より死にたまふ
冬虹へ母美しく送りけり
義母を悼む三句。最期にお気に入りのリバティプリントの服を着せてあげられてよかった。戒名に「花」と「縫」の文字を入れてもらった。


波野(66)
風砕く二百十日ののっぽビル
石蕗の花十年ぶりの逆上がり
春の雲役目を終えし力石


八木ふみ(59)
春潮を尋ね白亜のレストラン
作業場の軋むレールを秋の蝶
新涼や砂山浚ふ波の色


片野瑞木(52)
鷹化した鳩と元から鳩の鳩
悠々と海月はいつだって迷子
極月のネジ巻きすぎたような母


河野しんじゆ(60)
男衆の鰯のように戦死した
いりこ干す歯科巡回の船着きぬ
花街の乾風休みの三味多忙
久しぶりに一句一遊の天を頂きましたので三句目に入れました。俳句ガイド時代の産物が今になって句になって現れました。


蛇頭(58)
朧夜に突き刺す致死量のマイルス
黒南風の鈍き光がジャズファンク
秘め事を刻むフレット秋深し
マミコンさんのジャズフォトグラフとチャンヒさんのイラストがカッコよく仕上げてくれた「JAZZHAIKUVol.1トランペット編」。ここに載せた1句と今後掲載するであろう2句を選んだ。


みゆう(15)
どうしようもないよ入江はずっと初夏
トビウオになれない地球を出られない
閉じ込めるための雪だから静か


れんげ畑(64)
じゃれあって転ぶ子犬に春の風
ペンギンの休めのポーズ初夏の昼
路面電車の加速する音秋の雲
松山市俳句ポスト365へ投句した中から3句選びました。


越智空子(60)
賽銭のことりと鳴るよ囀るよ
銀の星降る狼の棲む国へ
白蓮この手汚れてゐると思ふ
俳縁の広がりと温かさを感じた一年だった。そして、心を開いて飛び込んでいける自分もうれしかった。


笑松(59)
蓮の実や水豊かなる王の国
冬眠の獣空には狩りの星
吸う吸う吐くすうすうはくはく春の風
(1)俳句を始めるきっかけの一つとなった「俳句の缶づめ」で初めて金曜冒頭句に選んでいただいた句(2)一句一遊で天をいただいた句。昨年とは同じにしたくないので(3)俳ポ愛媛マラソン応援企画の句をチェンジ。


真木柱(52)
学校てふ夢を作りに冬の蝶
春浅し潮の香連れて人力車
童女めく母と喧嘩す桃に疵
(1)復職の朝、力無くよぎる蝶と麻痺の残る自分が重なり、学校は自分の夢であったと気付いた。(2)門司レトロのイケメン人力車、擦れ違ったときの潮の香り。(3)見舞い返しに、走りの桃を買うと戯ける母と大喧嘩し、胸がちくちく。


凡鑽(51)
のらくらと月日を生きて薯に臍
母に詫び蜘蛛に謝り墓洗ふ
吾に妻あり森に巣箱のあるやうに
(3)はヤスハルの俳号の時、俳句ポストでいつき組長に「地」に採っていただいた句です。


竜胆(68)
神の田の鳥威立つ暮色かな
天平の螺鈿の琵琶や秋の水
トウチャンノクソバカタレガ大根引く
これからも色々なスタイルに挑戦し、いつかは「これが竜胆ワールド」といえる世界を作りたいと思います。


亜桜みかり(54)
風花の歌碑へ駿馬を走らせよ
ためらはず飛び発つ蝶の青し青し
ワタクシノ秋思ノタマゴトリオトス


山の雪(73)
腐草蛍と為る夜ゲン読みぬ
銀河よりKenji見守る砂漠の子
寄り添える乾風の中のホスピス医
今回は人に焦点を当てた句を選びました。(1)は勿論「はだしのゲン」です。(2)はISの犠牲となった後藤けんじさん、(3)は福岡のホスピス病院の医師であり牧師である下稲葉先生の姿です。


喜多輝女(66)
冬晴るる空を洗つたやうな青
海に散る桜は貝になりました
秋天を映して海の碧く碧く
2015年は慌ただしい年でした。只今入院中なので前年と同じということにします。今年は良い年でありますように。


人日子(69)
楊梅のむらがり落ちて山黙す
菱餅の百年の家薄あかり
青梅の時の岸辺に置かれけり


坊太郎(67)
引揚げを父は語らず終戦忌
牧仲間五キロ隣りへ初電話
養父母も実父母も逝き夕端居
(1)NHK学園のはじめての俳句を受講したさいに投句した句です。(2)一句一遊で天になったものです。(3)私にとり思いの深い一句です。


まりりん(62)
目ん玉の乾く音する稲光
如月や悉皆空と竹の鳴る
百歳の父の手温し梅古木


まるにっちゃん(56)
すまん親父未だ門無しなる門火
母はただ父と遍路へ出たかった
我もまた父の匂ひやタオル拭く
生涯代表句の重みと両親に感謝です。


雪花(64)
初蝶来父に報告すべき事
アルバムに父の一言シャボン玉
古椅子は尻の形に山眠る
今年亡くなった父を思い父の事を詠んだ句にしました。どの句も大事な句です。


ゆりかもめ(63)
四万六千日猫の換毛期
大いなる寝癖のままや夏休
雪柳眠たき午後のトロンボーン


加根兼光(66)
三伏や父の残せる露仏辞書
花の朝ディアスポラへと埋める骨
十六夜の瑠璃のごとくに人生まる
今年は自分の原点となる句から現在へとベクトルの方向性を見つめる3句にした。このベクトルの先に何が見えるかは未完の未来ではあるが。


まんぷく(61)
夢よりも恋してみたし春の朝
人は皆サタンの下僕八月尽
寝て起きて放屁三千年暮るる
(1)十七才の頃の句。自分にもそんな時があったんだ。(2)五八才の句。どうしてここまでひねてしまったのやら。(3)五九才の句。もうこの年になれば開き直るしかないか。


緑の手(60)
茅花流しやアトランタより巨船
薄桃に山膨らみぬ西行忌
飛ぶ雲を繋ぐさるとりいばらかな
いつまでも純粋な心で作句し続けていきたいです。


松尾千波矢(50)
病む牛の角の熱さや秋の風
彼の人は何して在す秋の宵
父母も吾も長子や葱坊主
(1)診療に同行した時に牛の角が思いかけない熱さに驚いた。(2)縁が切れた人を思い出している句。(3)食事の時に『父も長男、母も私も長女なんだ。』と気づき家族という事を意識した句。


岡田一実(39)
まづ光のびて生まるるしやぼん玉
毛糸編むドヴォルザークの星空に
町ぢゆうに靴ある春の景色かな


ひでやん(47)
田を植える農夫砂鉄のような鬚
志立てて百花の種を蒔く
人知れず永遠へ跳ぶ蛙かな
一つ替えました。代表句と言えるのかどうかわかりませんが、高い評価をいただいた句を挙げさせていただいております。


紫式部(86)
花活けて一日始まる敬老日
眠られぬ夜半を灯せり遠蛙
茄子煮てをり一日暮れたる平凡に
前年と同じにしました。


三島ちとせ(27)
風死してはぢまる見合ひ話かな
草臥れてゐる向日葵と背が合ひぬ
火のやうに揺らぐ吊り革夜の秋
北海道で営農しています。代表句は今年詠んだ句にしました。


あねご(60)
つばえよる子から天花粉つけてやる
黄落の土に還ってゆく鼓動
梟の鼓動にはさんである栞
最強カンレキーズの一員として新たな気持ちで俳句のある生活を楽しみたいと思います。


一走人(65)
アメージンググレイス秋の雲にのり
定位置に耳石戻りぬ秋涼し
野間馬の闊歩する道野菊晴れ
今年、秋の空を見上げながら作った三句。祈りと感謝を込めています。


久乃(30)
飼い馬は夜の菜の花揺れる中
シャガールの青き性欲星月夜
ポールからモーガン宛の冬林檎
子供が産まれた。作句の余裕など微塵もなく(笑)産前にできた良さげなのを一句入れ替え!


理酔(54)
空瓶の口雪つもり雪くずる
虚ろなる鮫の目玉よ愛国よ
鉄路煌々春夜の握り飯


天玲(46)
熱ある子抱き鯨となりし夢
水の秋記憶入れ替わらぬ躰
色鳥の色失わぬうち埋める


みやこまる(54)
ラリックのガラスのやうな白き息
丹頂鶴の声流氷を引き寄せり
風花やツイードの背にグッドラック
俳句をはじめて半年も経たない私に代表句などあるはずもなく……。と言うわけで、ここ数日必死?で代表句なるものを作ってみました。拙い句ではありますが、どうぞよろしくお願い致します。


柊つばき(66)
年末の異変太陽からの磁場
衣替え引き出しにある星の砂
水蓮の色とりどりに研究所
一句一遊で水曜日に選んでもらった句です。


西条の針屋さん(54)
イヤリング一つ外して猫の恋
解答欄空白のまま夏の雨
通学路からんと乾く夏の朝
(1)は句会での代表句、(2)(3)は今年の雑詠句の入選句とします。


めいおう星(57)
春愁よりゆふむらさきを抽出す
十六夜の蝶ひと匙の粉と化し
山眠る太古より太陽は其処に
組員となって早10年。時よ止まれええええ!


ぴいす(50)
病室のがらんとしたる師走かな
入道雲のわき上がる場所見に行こう
秋空に泣き声太く宮参り
初孫誕生で忙しくもあり、うれしい一年でした。 違った視線からの作句に心掛けたいと思います。


あおい(58)
小鉤解くごぜの十七足温め
ぎやまんの酒器の七色春隣
竹取の翁の憂い泉殿


ヤッチー(67)
月の座にスピルバーグの指定席
あの帽子ぐりとぐらでしょ万緑裡
柏餅玉三郎の喉仏
固有名詞を入れてみました。


松ぼっくり(75)
冬北斗アフガン荒野に水が来た
前照灯に地球の磁場を跳ねる雪
背の疵は神の加護とや長崎忌
(1)今年は句友 山の雪さんの提供を受けて、アフガン荒野で今なお活躍中の中村哲先生(医師)の講演と質疑応答を聞かせてもらった。忘れられない年になりそうだ。


だりあ(73)
一人住む母のダリアは赤ばかり
ラバウルの海向く墓標小鳥来る
怒りて祈りて泰山木の花


マイマイ(49)
炎昼の迷子の影が僕だった
雪止んだか耳鳴りは音叉のように
シュレディンガーの猫も恋する猫ですか


朗善千津(56)
祝福の如く或る夜の蛙鳴く
柳散る銀座や白衣着て勤む
漆黒のアシカは波に寝待月
俳句を愛し、和製チェロを弾く夫ニックが、富士山麓の山中で録音したバッハのCDが今年完成。夢は叶う!


幸(67)
渇愛の修司この世に豆の花
ちちははは二階にいます曼珠沙華
懐炉抱くノートルダム寺院の薔薇窓
代表句といっても結局自分の今の心情に近い句、毎年違ってしまいますが、掲載していただける事がとても幸せです。


正人(29)
排気筒ふるはせ野焼見てをりぬ
初夏を乾けピザ窯用の薪
ひきつつてちぢむ椿の実のちやいろ
一句残留で二句チェンジ。タイプの違う三句を選出した。比較することで今の自分を見つめ直す、みたいな! 学ぶことはまだまだ山のようにある。学ぶって楽しい!


睡花(52)
片方は神に捧げし袋角
天蓋にサングラスいれて槍穂高
枯野行く我をうかがう目玉あり


ミセスコナン(66)
カンナ咲く母は記憶を白くする
ミセスコナン「はい」と返してアイスティー
車イスくるっとまわし六月を歩く
夫の句を一句入れました。「ミセスコナン」の句は小倉書道教室の松本ともかちゃんが書いてくれた句で変えられません。


さざなみ真魚(52)
瑠璃深き三月の海見に行かむ
漁船追ふ鴎の群れや風光る
台風過道にころがる傘の骨
(1)春のやわらかな日射しに輝く深く穏やかな青い海。(2)日射しを反射する海面、漁船につかず離れず飛びゆく鴎が生き生きと輝いて見えた。(3)台風通過後、あられもない姿でころがる傘が骨と化した動物のように思えた。


美杉しげり(55)
すぐ傷むくちなしの花上京す
鬼才ではないし冬瓜でもないし
ヰタ セクスアリス冬蛾に厚き腹
鬼才天才ではないし、でも冬瓜のような存在感もない。「あー駄目だー」とか言いながら、来年も詠んだり書いたりするのだろうな。


空見屋(青萄)(63)
俳句甲子園朱夏にとどめを刺しに行く
尾に力ためこみ戻り鰹かな
生姜湯の微妙に溶けぬものも呑む
かつては俳句が嫌いだった。思いもよらぬことだが今は俳句が好きである。語れるほど知ってはいないが、五七五の言霊の宇宙は果てしなく、はた限りなく遊べる世界のようだ。自分もいつかとんでもない一句を作りたい。


山澤香奈(32)
熱の子に春満月は歌うだろう
海静か秋の向日葵骨めきぬ
目礼に目礼深秋の授乳室
今年も俳句を詠んで読んで、言葉と向き合いたい。


杉山久子(49)
かほ洗ふ水の凹凸揚羽来る
花吹雪先ゆく人をつゝみけり
生きてゐる冬の泉を聴くために


おせろ(53)
黒鯛の威嚇の背ビレ死して立つ
隼の俯瞰してをる自衛権
両陛下の支えあう手や春の虹
今年は句会デビューをし、一文字に取り組む姿勢に感動しつつ宿題が溜まっています。 リベンジはあるかな


渡辺 瀑(55)
若駒のおこせる風の一マイル
虎落笛に雑じりて強き硫黄臭
隼にブロッケンの環二度裂かる


富士山(56)
ごろりんと西瓜をはじく山の水
踏む雪を選んで歩く通学路
水の秋石磨き上げ神にする


三瀬あき(47)
島に雪あまたの角を眠らせて
一月のひかり体育館に鳥
学校にいかない冬晴わるくない


小木さん(62)
綿虫の大人しくなる妻の前
妻のこと忘れた頃にさくら咲く
花柊もつとやさしくなれる妻
妻があちらに行って早いもので、平成28年1月9日で丸5年になる。やっぱり妻を詠んだ句を、とりあえず代表句にしますね。


南行ひかる(61)
別れの夜明け向日葵の影は大きい
天空の廃鉱もつれて秋蝶は海へ
風鎮め神木冬海へ傾ぐ
2015年はお陰様で楽しい松山生活でした。2016年も皆様宜しく。


誉茂子(59)
亡き父の野鳥の本と巣箱かな
茅花流し水門橋を通りぬけ
春の月生まれ変われるなら毬藻
あこがれの「いつき組」組員を名のらけていただいて、季語と共に二年が、あっという間に過ぎました。「俳句ポスト」などで、組長に掬い上げてもらった句です。


キム チャンヒ(47)
いきなりの酷暑腰を振るミック
殺人電話ボックスに蛾蛾蛾蛾蛾
花野は生殖器の群れだから、ああ
この一年、新しい俳句の文体に挑戦出来ませんでした。なので、去年と同じ代表句。来年は差し替えたい!


ともぞう(61)
遺影は浴衣満州で笑う父
熱燗や今日はお手手をつなぎましょ
パリも冬エディットピアフが聞こえない


立待@ちびつぶぶどう(61)
触れる手に立待月のはかりごと
桐一葉ひとり茅ヶ崎タンタンメン
花種を蒔きて仔犬を睨む妻
生まれて初めて組長にそそのかされて作った俳句が俳号(立待)に。でも、匿名で俳句を楽しみたいと別名(ちびつぶぶどう)でハイポニストになって初めての金曜句。で、最終的にばれる元となるマロンの句。おー怖。


元旦(57)
霊峰の峰又峰に雲の峰
点々と団栗少年探偵団
雪深きとこに友あり訛りあり
代表句は人に選ばれてこそなんて大それたことは申しません。そもそも代表句だなんて、そんな身のほど知らずなことも言いません。類想句でも下手でも、自分が気に入ればそれでいい。納得。←あ〜あ終わったな(苦笑)


奈月(27)
どこまで行けば風船になれますか
「まーだだよ」昨日を鬼にして夏野
コスモスや海の気配を持つ少女
最近復活したので、高校時代のみずみずしい習作から。恥ずかしいぐらいに若い。若さはまだ武器足りうるのだろうか。下手に落ち着いた俳句は作りたくないですね。自分らしい幅の広さを!!


逆ベッカム(59)
路傍の石に菫はささやきました
松葉蟹食うプロレタリア的リアリズム
青田に風渡る赤紙が来るという


もね(61)
あじさいへ孔雀は威嚇するかたち
火の玉の秋刀魚七輪轟かす
橙あまねく清貧に甘んず


とりとり(58)
汗の子のきょうの冒険聞いてやる
ごきぶりでなければ美しい茶色
鏡のなかの鏡のなかを秋の風
俳句の山(?)の三合目より下山し、すそ野でのんびり暮らしています。


豊原清明(38)
春の鹿冷たい花の咲く瞬間
ななかまど孤独に活きる紙風船
ノオト開け夜の人工の木/清明
三句目が言いたかった。ポエムへの憧れ強し。ギャグもやりたいが詩だろうと思われる。恩師を亡くし、右耳の聴力を失い、悶えに五七五だけでは少ない気がした。


青柘榴(58)
ゴシックの影連れ歩く大暑なり
初雪のなり損ないに降られおり
冷奴日本一の低き山
一つ入れ替えて、自分らしさに近づけたように、思います。


夏井いつき(58)
花は水にふれたく水はゆくりなく
水流はひかりの瘤だ瑠璃鶲
鶴食うてよりことのはのおぼつかな
総入れ替えの三句。「ゆくりなく」という大和言葉の美しさを再認識し、「ひかりの瘤だ」の口語の勢いを楽しみ、「ことのは」の豊かさを深く堪能した一年。俳句はますます面白い。



俳号一覧

むめも
都築まとむ
ポメロ親父
迂叟
七草
まほろ
彩楓
樹朋
ほろよい
鯉城
レモングラス
小野更紗
波野
八木ふみ
片野瑞木
河野しんじゆ
蛇頭
みゆう
れんげ畑
越智空子
笑松
真木柱
凡鑽
竜胆
亜桜みかり
山の雪
喜多輝女
人日子
坊太郎
まりりん
まるにっちゃん
雪花
ゆりかもめ
加根兼光
まんぷく
緑の手
松尾千波矢
岡田一実
ひでやん
紫式部
三島ちとせ
あねご
一走人
久乃
理酔
天玲
みやこまる
柊つばき
西条の針屋さん
めいおう星
ぴいす
あおい
ヤッチー
松ぼっくり
だりあ
マイマイ
朗善千津

正人
睡花
ミセスコナン
さざなみ真魚
美杉しげり
空見屋(青萄)
山澤香奈
杉山久子
おせろ
渡辺 瀑
富士山
三瀬あき
小木さん
南行ひかる
誉茂子
キム チャンヒ
ともぞう
立待@ちびつぶぶどう
元旦
奈月
逆ベッカム
もね
とりとり
豊原清明
青柘榴
夏井いつき


目次に戻る


特集2

俳句対局
第4回龍淵王決定戦




 2015年11月28日、俳句対局第四回龍淵王決定戦が開催された。今回対局に挑んだのは、前回の覇者川又夕さん、前回準優勝のきとうじんさん、俳句対局三度目の出場の恋衣さん、mhm代表の若狭昭宏さんの四名。審査は、松本勇二さん、美杉しげりさん、高橋白道さん、岡田一実さんの四名が行った。
 一回戦第一試合は、川又夕さんと恋衣さんの対局。川又さんが「冬夕焼次第に主張する薬缶」など秀句を出したものの、恋衣さんの「骨太の猫の手術や雪催い」「次々と来ては泣きたる綿虫よ」などに一歩及ばず、恋衣さんが勝利。第二試合、若狭さんときとうじんさんの対局は、若狭さんが「一色の光となりし蠅叩き」などの全て蝿の句で攻めたが、きとうじんさんが「軍手ぷかぷか年の暮ならば」などの多彩な句で、0.25点差という僅差で勝利した。
 決勝戦の恋衣さんときとうじんさんの対局は、序盤恋衣さんが、季語を季語の一部として取ってしまい、0.5点の減点となりつつも、「遠ざかる風白洲次郎の忌日」「風邪引きの子の肉球と遊ぶ日よ」などの句できとうじんさんを圧倒し、俳句対局第四代龍淵王の座を手にした。


 龍淵戦を終えて  恋衣

 俳句対局は、龍天王、龍淵王戦のどちらにも出場した事があるが、優勝したのは、初めてである。最初は、みちるさんの参加応援の為に練習を重ねていた。それならばと、私も参加する事になったのだが、時間内に五句作句して、力は尽きてしまった。二回目は、昨年春の龍天王戦。野兎さんに決勝で、敗れた。 改めて俳句を読み直してみても、やはり、時間切れで敗者にならなかっただけで良し。練習を積んだにも関わらず、1「表記を変えてしまった」2「前句の季語を季語として頂いてしまった」課題の多き結果となった。私の俳句対局参加は、この時に終わってしまったはずだった。
しかし、その後の100年俳句計画8月号の「俳都松山キャラバン大阪&東京」の記事を読んで、その俳句の質の高さに、ライブで見たかったと思った。大塚凱さん、中山奈々さん、そして審査をされた岸本尚毅さんの参加表明に、片野瑞木さんの俳都キャラバンは、見逃してはいけないと子規記念博物館(子規博)に足を運んだ。その詳細は、会場でご覧になった方が多いと思われるので省略するが、一人三句の対決とそれぞれの作句の速さに、正しくあっと言う間に終わってしまった。「五句を10分」の対決を見てみたかったと、今も思う。子規博を後にしながら、私は、次の俳句対局に出たいと思った。正岡子規の俳句に始まる対局を楽しみたいとふつふつと思った。
第四回龍淵王になれたのは、正直嬉しい。今回の対局を楽しんでくれた人が、一人でもいたらなお嬉しい。そもそも俳句を始めたのは、俳人夏井いつきに会って見たいという、それだけの理由だった。カルチャーに入門して、一句一遊を聴き始め、投句を始め、龍王戦を見て、参加した。ラジオのリスナーであるだけより、投句して参加した方が、俳句対局を見るだけより、参加した方が断然面白い。
 対局に参加する為に、自分に力がないのは、よく分かっていたから、私は、こうして練習した。子規句集、短冊、対局時計アプリを用意。対局してくれる人がいれば、この上ないが。一人でできる。時間を10分にセットして、ランダムに句集を開いて、0番句を決めたら、後は一人二役。何時でも何処でも楽しめる。俳句は、短冊に書くのをお勧め。自分の脳をより俳句脳にできるからだ。
何回か練習したら是非、次の竜王戦へ出て欲しい。時の変化は、思っているより速い。この形の俳句対局も何時終わるかわからない。今がチャンスだ。ひとつ上を目指せば、自分の中で何かが変わる。人生が変わる。
次回、龍王戦で、誰かが変わる現場を、私は目撃したい。


目次に戻る


特集3

日暮屋の蕎麦を食べよう!プロジェクト


最終回 脱穀製粉打ち上げ吟行会
文 蓮睡


 2015年8月に蕎麦の種を蒔いてから約4ヶ月半。いよいよ最終章となりました。前回収穫した蕎麦の実を、脱穀、磨き、製粉し、蕎麦打ち打ち上げまでの課程を、参加メンバーが詠んだ俳句を交えながら紹介します。


脱穀! 磨き!
 蕎麦の実食を行う前に重要な工程が2つあります。その一つが脱穀。去る十一月十四日、昼からだんだん雨足が強くなる中、作業が始まりました。
 青いビニールシートを引いた軒先。その下でせっせと刈り取った蕎麦から身を落とします。砧などの道具でせっせと上から叩きつけます。このような力仕事で駆り出されるのは若い男。こちとら喜んで砧を持つと意外と重し。

蕎麦の実へ砧お仕置のごと打ちぬ 鯛飯

 そんなに力を入れて叩きつけていいのか聞いてみると、たくさん収穫しているから多少は大丈夫らしい。しかし、蕎麦の実が簡単に落ちない。ある程度叩くが、蕎麦の実が集まってなっており、綺麗に全部取ろうとすると、結局手で取るしかない。手で取っていると、乾燥した蕎麦の実の手触りが何とも言えぬ気持ちよさでした。これこそが、現場でこそ体験できる醍醐味だろうと思います。

蕎麦の実を叩き落とせば山羊の声 toku229

 さて、ここからが今回のポイント。美味しいお蕎麦を実食するために必要不可欠なこと、それは蕎麦の実以外のゴミや葉・土などの雑物を取り除くことです。これらが残っていると、次の粉挽きの段階で一緒になってしまい、雑味になり、味に影響するのだそうです。
 まず、ポリ製の手箕に叩き落とした蕎麦の実を入れ、重さの違いを利用して手箕を振っては蕎麦の実以外のものを落としていきます。日暮屋さん、笹百合母さんは簡単そうにゴミだけを飛ばします。未熟なものが手箕を振れば、蕎麦の実だけが落ちてきます。すかさず笹百合母さんから笑顔で一言。「そんな素人に簡単にできてたまるかね。」
 一息つく間もなく、雑物を取り除く作業は工程を違えて繰り返されます。今度は唐箕という手動のプロペラを回す道具でゴミを吹き飛ばしていきます。

蕎麦の実は唐箕の口へ崩れ込む ひでやん

 そして、この日は最後の工程である磨きに入ります。タイツのような袋に入れて、蕎麦の実同士をこすり合わせて実のとんがり片を取ります。ポロポロ粉が落ちてきた。手も痺れてきた。結構長い時間磨いたぞ。そんな時、ある歌の替え歌が聞こえてきました。「揉んで揉んで揉んで……」確かに柔らかいけど……一同を爆笑の渦に巻き込んだ?あねごさんからの蜜柑を頂いて、この日の作業は終了。このあと、この蕎麦の実は粉引きまでに、お米のように水で研がれて、脱水して乾燥させるとのこと。

 磨かれ洗われ蕎麦の実の愛おしく チャンヒ

製粉!
 十一月二十三日、祝日に日暮屋邸に集合したのは重要な工程の二つ目、粉挽きのため。日暮屋さん所有の石臼を使って蕎麦の実を挽いていきます。
 
石臼のゴロンと置かれ小六月 烏天狗

 石臼を乗せているばんじゅうが動かないようにしっかり足で固定して、回す。が、回らない。回してもまた止まる。佐川さんは一回転する間なくリタイア。きとうじんさんがカッコイイ(老)眼鏡を掛け、男達力を合わせて石臼を回しました。

石臼ゴロゴロ鳴かせ新蕎麦の香 マーペー
石臼の微熱勤労感謝の日 あねご
雪晴や石臼波の如光る 若狹

 出来た粉は篩いにかけたあと、粉以外の物(鬼がらなど)をドライヤーを使って吹き飛ばします。ここでも美味しい蕎麦の追求のため、手間暇を惜しみません。日暮屋さんの姿勢や眼光から思いがひしひしと伝わってきます。そばの実食では、一番挽きの粉(片栗粉みたいなさらさら)ではなく、二番挽きの粉(しっとりとして、スマホにもくっつく)を使うそうで、食べるには二番挽きが一番いい所なのだとか。今麺類はすぐに食べられるけど、作業に掛かる労力はとてつもないよね、と話しながら完成。

一番粉冬青空へ篩いけり 鯛飯

蕎麦打ち! 打ち上げ!
 いよいよ蕎麦打ち最終章! 十二月十三日実食の日を迎えました。

夢に見た吾の種まきし蕎麦を食ふ 輝女
そば職人の拘りの出汁冬日和 雪花

 拘りの出汁はなんと、日本酒の小富士の超辛口の一升の空き瓶に……その拘りではないですね。中身は鰹と昆布とバルサミコ等々。拘りは出汁だけにあらず。山葵の代わりの山葵大根、そして日暮屋さんの服装。作務衣・雪駄・腰エプロンに頭には龍の絵のタオルを巻いておりました。まさに職人! そして蕎麦打ちが始まりました。

月のごとそして白壁のごとそばのばす ねこ端石
この蕎麦の龍浮き出づるような生地 蓮睡

 個人的にとても感動したのは、蕎麦打ちにとても風情があるな、と思ったことです。一つ一つの細かいこだわりの中で、蕎麦に相対するときには本当に愛情を込めて優しく打っている日暮屋さん。空気に触れてはいけないと、事あるごとに打ち粉を振りかけ、手ぬぐいをかけたり、綿棒を扱う手に力をいれないよう気をつけたり、蕎麦打ちの姿勢が見るからにしんどいはずなのに真摯な表情が解かれることはありません。

水回す蕎麦のごろごろ冬の月 野風

 あと、これだけは皆さんに伝えたい。蕎麦打ちの時に生ずる音。これまた本当に魅力がある。なんと表現していいかわかりませんが、日暮屋さんの愛情が音に現れているというか、これは実際に蕎麦打ちを吟行した者にしかわからないと思います。

そばを打つ阿吽の呼吸冬うらら 野風

 この職人日暮屋さんを支えていたのがマーペーさん。さりげなくサポートをして、作業をスムーズに進めている姿に惹きつけられました。

足攣るほどそば打つ冬日和 しんじゅ
 
 湯がきでは、お二人にしか気がつかなかったことが。

釜前のみぞ知る新蕎麦のうす緑 日暮屋
新蕎麦を茹でた刹那の利休色 マーペー

 茹で上がり、角が立った麺はとてもみずみずしく透明感があり、のどごし・コシも味わえて、今まで出会ったことのない「挽きぐるみ」の蕎麦でした。一口噛み締めるものなら、蕎麦が育った原風景を彷彿とさせる風味や香りが静かに舌に広がります。出汁・薬味・そして蕎麦湯が味に深みを増してくれます。

箱入り娘羽ばたくような蕎麦である 蓮睡

 最後に日暮屋さんから、俳句のつながりによる大切な仲間ができてよかった、との一言に一同拍手喝采したいほど感動。こちらこそ本当にありがとうございました。

撒くも刈るも打ちもせず新蕎麦の薀蓄 日暮屋

 自分の事かとドキッとしながら、そんな自分でも楽しむことができました。実際に自ら体験して味わうと、味も感動も吟行も格別だそうです。実際に、紙面では書ききれない魅力がたくさんありました。また来年もやりたいね!という声が上がっておりますので、機会がありましたら今回ご参加頂けなかった皆様とも是非ご一緒させていただけたらと思います。


蓮睡
1984年新居浜市生まれ。愛媛大学俳句研究会元部長。シャビに学生俳句チャンピオン決定戦の出場に誘われて、俳句を始める。現在松山市在住。mhm会計担当。



目次に戻る


百年百花


大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠
2015年度 第三期 第二回


「空を向く仕事」 鈴木牛後

牛の眼の空ろに潤む雪ぼたる
民草として冬を待つ牧に棲む
話し出す前の呼吸に雪虫来
トラクター停め初雪の錨とす
冬の入口震はせ蜂の飛び来る
すこしづつ躰を塞ぐ冬はじめ
ものを焼くけむり根雪の里を撫づ
鰊漬浅い話をして老いる
牛の頭を叩いて痛き十二月
降る雪は口へと空を向く仕事
冬の日を掃いて箒を磨り減らす
牧に穴覗けば奥の奥まで冬


1961年生まれ。第1回大人コン最優秀賞。北海道の片田舎でほそぼそと牛飼いをしている。この号が出るころはもう冬景色だろう。




「冬の蘭」 朗善千津

空からも落葉の降つて来るやうな
滑走路見てをる風邪の引始め
魚屋の店先白く時雨けり
冬紅葉真赤補聴器見て買わず
修理待つ時計に埋もれ冬の蘭
歓迎の菊の枯れゆく村の日々
パロヴェルデの幹も冬陽も緑なす
冬の草円を描きて馬歩む
人参食む馬の唇やはらかし
馬の眼の淵に来りし冬の蝿
マネキンを抱いて置きたる冬日向
冬の濤砂丘に響き返しけり


時雨の日本を出て、晩夏のアリゾナで演奏、行秋のLAに里帰り、次の演奏会の待つ真冬の関東へ戻る。その季節その場所でしかあり得ない俳句や音楽に出会いたい。




「加速」 杉山久子

電子音ぴぴぴぴ冬の草起こす
平凡な名前の猫を冬日向
スケートや加速するとき動く鼻
八つ手咲くゆふぐれどきは苑子来る
電飾の樹々に照らされ悴めり
キリストの血痕といふ冬菫
クリームにくもるナイフも聖夜かな
数へ日の横棒多きあみだくじ
ぶらさがり健康器立つ去年今年
朱鷺色の栞紐もて読み始む
風花や袋の中にまた袋
セーターの毛玉そだてて星仰ぐ


第2回芝不器男俳句新人賞受賞。「藍生」「いつき組」「ku+」所属。最新句集「泉」発売中。




「ペペロンチーノ」 遊人

冬暖か胎内で聴く話し声
冬木立袋を下げて通りけり
魚の影動かぬ川に冬の鷺
幻と違ふ冬蝶日の射して
銀河へと飛び去る冬の翡翠は
落葉掻く人の上より落葉かな
早足も遅足もゐて十二月
十二月墓に国旗の掲げあり
ポケットに両手を入れて十二月
十二月何にも見えぬ展望台
新しき道をゆきたる十二月
十二月ペペロンチーノ味の豆


最近時を待つという事がなくなった。時が先へ先へと行ってしまう。気がつくと、別の世界になっているかも知れない。それはそれでいいのだが。年齢のせいか。




目次に戻る



新 100年の軌跡


2015年度 第三期
第二回


 最後の晩餐 幌谷魔王 

寒中水泳陽のひとすぢを進路とす
雪積もり積もり鎖骨のあらはなる
雑炊は最後の晩餐君嗤ふ
湯豆腐や不味き薬は不味きままです
凍蝶の少し哀しき道にゐて
ねむるため練炭二つ足しにけり
柚子風呂の柚子のすべてを潰しゆく
臘梅やピンクに塗らる象の像
寒雷を割るやうにゆく夜のタクシー
水よ風よ流れよ冬の野を強く
湯冷めして妻のからだの白さかな
乗つてゐる人も父親捕鯨船
指ささば吹雪は空を埋め尽くす
霙るるやゆつくり動くエレベーター
友達は皆無大晦日終はる


幌谷魔王
 1995年生まれ。高校3年より句作を始める。「いつき組」所属。




冷たい耳 児嶋ほけきよ 

短日や消灯をして部屋を出る
革靴の音の確かに冬木立ち
雑踏に入りて鮪の目となりて
冬銀河一本締めのよく響く
冬月に届けと顔上げてくしゃみ
梟や通過電車の追う眼
隣席の寝息を聞きて牡蠣となる
コート着る抑揚の無きアナウンス
一列に踏切待ちて懐手
北風や耳塞いでも聞こえ来る
鼻唄を止めない気分山眠る
後ろから駆け足の来る枯野かな
鍋食うて笑い声漏る部屋のある
遠吠えの響いて沈む冬の夜
息白し音せぬように扉開く


児嶋ほけきよ
 句歴2年。「櫟」所属。『WHAT vol.2』、『WHAT vol.3』共著(コジマアキラ)。




それぞれの世界 とりとり

雪積もり積もり鎖骨のあらはなる 幌谷魔王
 外に降り積もる雪を見ている人の美しい鎖骨。それを見ている私。時間の経過。セクシーな句と思うのは深読みでしょうか。

臘梅やピンクに塗らる象の像 幌谷魔王
 透きとおるような臘梅と、不透明なピンクに塗られる象の置物との取り合わせが、不思議な雰囲気を醸し出しています。とても好きな世界ですが、文法は「塗らるる」ではないでしょうか。

一列に踏切待ちて懐手 児嶋ほけきよ
 洋服でもいろんなところに手を入れて温めたい日ありますね。踏切がなかなか開かないんでしょうね。寒さが身にしみる句でした。

遠吠えの響いて沈む冬の夜 児嶋ほけきよ
 「響いて沈む」がいいですね。わおーんと最後低音になるところが、冬の夜を音で表しているようで面白いです。

隣席の寝息を聞きて牡蠣となる 児嶋ほけきよ
 大胆な比喩です。外界と遮断された世界を「牡蠣」とした気持ち、わかる気がします。


とりとり
 1957年生まれ。三重県在住女性。第1回選評大賞優秀賞。



閉塞感 亜桜みかり

 幌谷さんの十五句は閉塞感の中に作者が浮き沈みしているように感じた。強弱の度合いは違っても負の要素としてとらえられる言葉が次々に現れたからだと思う。
寒雷を割るやうにゆく夜のタクシー 幌谷魔王
 夜のタクシーの進路に「寒雷」が。タクシーが割られるのではなく、「夜のタクシー」が「寒雷を割るやうにゆく」というのだ。いいぞ、その調子と応援したくなる。
水よ風よ流れよ冬の野を強く 幌谷魔王
 水や風への気持ちのように書かれているが、自分自身を立ち止まらず「流れよ」「強く」と励ましているのだとも読める。

 児嶋さんの十五句には中七に「〜て」とある句が六句。説明的となり、やや損をしているかもしれない。
コート着る抑揚の無きアナウンス 児嶋ほけきよ
 手にしていたコートを電車のホームで着込んでいる作者。「冷たい耳」に届いたのは一本調子で「抑揚の無きアナウンス」。拍子抜けするくらい変化のない今日を象徴するかのように。
後ろから駆け足の来る枯野かな 児嶋ほけきよ
 駆けてくる足音に思わず「冷たい耳」をぴんと立てている。枯野だから後ろから近づく「駆け足」は硬く乾いて冷たく迫ってくるのだ。「枯野」は作者のフィールドなのかもしれない。


亜桜みかり
 1961年俳都松山市生まれ。今治市在住。第2回、第7回、第8回選評大賞優秀賞受賞。第3回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞受賞。


目次に戻る



超初心者から中上級者まで楽しめる
100年投句計画

 「100年投句計画」は、読者の投句コーナーです。

 「選者三名による雑詠俳句計画」は、雑詠句の選句欄です。投句の中から先選者二名が、それぞれ天地人の句を選び、先選より漏れた句の中から、後選者が特選、並選を選んでいます。選者は、関悦史さん、阪西敦子さん、桜井教人さんです。

 「へたうま仙人」は、ヘタな句を褒め、巧い句を追放する、世の選句欄とは真逆のコーナーです。どんなにヘタな句でも褒めてくれるので、自分の俳句に自信のない方、何はともあれ褒めて欲しい方に最適(?)。担当は大塚迷路さんです。

 「自由律俳句計画」は自由律俳句の選句欄です。自由律俳句に挑戦することで、自由律俳句ならではの楽しさを味わうと共に、有季定型の俳句との思わぬ共通点も見えてきます。選者は、きむらけんじさん。

 「詰め俳句計画」は、マイマイさんによる、二つのフレーズに合う季語を投稿するコーナーです。季寄せや歳時記さえあれば、全くの俳句初心者でも挑戦できます。
(投句方法は「100年投句計画」コーナー末尾参照)
写真:藤


選者三名による雑詠俳句計画


先選者 阪西敦子

 この数日、冬至に間に合わせるように東京は寒くなった。ラグビーワールドカップでの躍進と、当地のそう寒くもなさそうな観戦客たち、また、なかなか黄色くならない神宮外苑の銀杏に気をとられ、寒くならないのをよいことに秋の続きのような生活をしていたが、そういえばとても考えられないような軽装でラグビーを見ていた。今週末はそうはいかないだろうけれど、困ったことに去年までの工夫も、防寒具の置き場所も忘れている。



晩秋の山影貨車の遠ざかる 松ぼっくり

 そういうわけで、今年東京の紅葉は遅く、色もいま一つなのだけれど、晩秋の山といえば、色づくものは色づき、地上よりは少し早い冬の兆しも見られるころ。その移り変わる最中の、明日はもう違う色形かもしれない山を、貨車が一台離れてゆく。明るく丸みをもった山をバックに、その黒々とした長方形はよく映え、遠ざかってゆく時間を感じさせる。まるで記号のようである貨車と山影の景に、冬の迫る焦りを感じるのは私だけだろうか。



ストライド大きく出して冬青空 青萄
 冬に入ってしまえばこんなにもひろびろとした空に迎えられる。長距離走が冬に親しいのは、寒暖のせいでもあろうけれど、もしかしたら、この青空の広さのためでもあるかもしれない。

雨上がり黄色膨らむもみじ谷 樹朋
 暗く降っていた雨がやんで、光が戻ってきた。雨に洗われて、まっさきに膨らむのは黄色であるらしい。次には赤が膨らんで、青が続くのだろうか。ひと雨ごとに季節が進むのは道理だけれど、秋のそれはなんだか新た。

ボール追う影重なりて秋麗 富士山
 外野へよく弾はのびて、それに引かれるように右から左からあるいは後方から、人々の影が寄ってくる。そのおそらくは左右が重なって、しかし実際の体がぶつかるわけではない。迫りながら、やはり麗ら。

カトレアやカードの文字の右上がり dolce
 誕生日にはカトレア。いささかはまりすぎる花となってしまった洋ランの女王に添えられたカードの文字に着目した。筆記体か、癖字なのか、どっちにしても何か照れくさい。もう戯画の域でもある「カトレア」に、それを超克する新たな実感を呼ぶ。

初冬や油のにほふ自転車屋 もね
 春隣でも、晩夏でも、自転車屋には油が匂い、それはそれでよさそうなものだけれど、やはり嗅覚が先行してその季節を感じるのは冬へ移る時かもしれない。描かれた匂いはひとつだが、硝子に閉ざされた日の、石油ストーブに温まった空気の、さまざまの匂いが呼び起される。



あの星へ跳んで行きたき鯨かな 迂叟
ねんねこを解ひて夕餉の箸をとり 小雪
冬晴るる勝訴の文字の黒々と のり茶づけ
折畳み傘を畳みて冬の虹 ヤッチー
咳の子や足の踏み場もないおもちゃ 八十八五十八
粟の穂の片風たちておもからむ 人日子
あの山の枝打ちの音きこえくる エノコロちゃん
新牛蒡削ぐ放心の白さかな 池田喜代持
冬の蚊のふはり方向音痴かな 鯉城
初時雨遺品となりし硝子ペン 彩楓




先選者 桜井教人

 外国には一度も行ったことがないが、外国に来ているかのように思える場所を知っている。大阪の夜の道頓堀だ。お好み焼やラーメンの人気店に並んでいると、ほとんど日本語は聞こえてこない。歩いていて聞こえてくる日本語はガールズバーの呼び込みくらいだ。近辺の宿泊施設では更にその率が高い。フロントやエレベーターで日本人に遭遇することは希である。ただ少し観察すると、彼らが行動する範囲、並ぶお店は割と限られているように思える。マニュアル人間になってしまったのは日本人だけではないようだ。



冬耕の排気の低く滞る 南亭骨太

 まず「排気」がこんなに詩になるのだということに驚いた。排気としたことにより、農業機械の力強い映像、音、臭いが実感として甦って来る。しかもそれが「低く滞る」のだ。これにより冬耕の「冬」の字が動かない。現代の冬耕の代表句と言っても過言ではないと思う。私の職場周辺は農村地帯で「玉葱王子」なる人物も存在する。土と共に生きている人は強い。農耕民族としての日本人のDNAを体現した句である。



神の留守賽銭箱の真新し しのたん
 参詣してもどことなく寂しい季節。その中で賽銭箱が真新しくなっている。芳しい木の香りがするその箱に、いつもより多めに入れたに違いない。この神社なら、神無月が終われば神様はすぐ帰ってくるだろう。

うさぎ抱くジャイアンに似た飼育員 和音
 うさぎとジャイアンの対比が面白い。ジャイアンという意外な固有名詞から引き起こされる想像の世界はとても楽しい。心根はとても優しい飼育員に抱かれて、うさぎは安心しているに違いない。映像も想像も楽しめる。

ストーブの周りに集う弁当箱 dolce
 集っているのは人なのだが、弁当箱としたところから詩が生まれる。それぞれの弁当の色合い、楽しそうな会話が聞こえてくる。季語ストーブの力がその映像をより一層鮮明にしている。ストーブも人も俳句も温かいのだ。

保育器のまどろみ見つめ居て聖夜 越智空子
 微睡んでいるのは保育器にいる赤ちゃんなのだろう。いくら見ていても飽くことはない。そのゆったりとした時間の流れから聖夜への展開が上手い。目の前の赤ちゃんを祝福しているかのような静かな聖夜だ。
花八つ手集ふ喪服の前かがみ 瀬戸 薫
 葬儀に集まった高齢者だと読んだ。言葉の精選と語順が実に見事だ。特に前かがみでの終わり方は映像を保障する。久しぶりに会って故人のことよりも自分たちの近況報告に夢中なのかも知れない。季語の置き方も確か。



芽キャベツや少し宇宙がゆるくなる みちる
立冬の硝子に己が顔いびつ てん点
冬銀河舌噛みさうな神の名よ ゆりかもめ
小春日の里や研修会日和 八十八五十八
柊の香より重たき決意かな もね
新牛蒡削ぐ放心の白さかな 池田喜代持
秋深しだまつて逝きし兄に酒 鯉城
かぼちゃ切るはちきれんばかりの地球 春告草
真四角の皿の大小冬に入る 彩楓




後選者 関悦史

 この号が出ている頃にはもう年が明けているのでしょうが、今はまだ十二月上旬であって、これから年賀状を書かなければならない。間に合う気がしません。この正月の年賀状だけではなく、そのまた次の年の年賀状も間に合う気がしない。前にも書いた気がしますが、年末はいろいろ重なる上に締切が早まるのです。しかもなぜかむやみに眠くなる。バラードの『結晶世界』みたいに冬眠に入りたいと思いつつのろのろ作業しています。


特選句

一身に七色湛ふ老もみじ 樹朋
 やや擬人法的な句ですが、「老」の一字が入ったことで落ち着きが出、かえって華やかさが引き立ちました。
 「湛える」には「液体などをいっぱいに満たす」の意味もあるので、水妖のような雰囲気も出てきます。

五三焼のカステラ冬の灯に座して 一走人
 「五三焼」は卵と砂糖を多めにした特製カステラで、普通の品よりしっとりして味に深みがあるらしいです。「冬の灯」で抑え気味になり、他に人もいなさそうなので贅沢さと寂しさが対照を成し双方引き立っています。

三日月に闇綿菓子のやうな闇 春告草
 雲間から三日月がのぞいていて、月の光を浴びた雲の縁が綿菓子のようだということでしょうが、それを「闇」にひっくり返しているのが見どころなのでしょう。たしかにこう捉えると周囲の夜空が広く掬える気がします。



並選句
冬に入る角度へラジオアンテナを 海田
オトナ女史群がる秋の春画展 藍人
ゆずりはを日にかざしつつスキップす  レモングラス
水葬のくぢらはるばる黒き塊 青萄
雪吊や降らぬ景色もまた楽し 迂叟
雪になどなりたくなかったと水に落つ みやこまる
参道の明り障子とジャズを聴く 小雪
猪狩の未明騒がし檻の犬 のり茶づけ
山寺に小さな水車律の風 かのん
病院の廻る腰掛年の暮 小市
咀嚼音脳に響いて秋深し 和音
紅葉ゆえ空一段と真青なり 夜市
冬浅し手綱蒟蒻煮しめをり ヤッチー
秋ざくら本選る指の遊びけり 凡鑽
紅葉散る喧嘩の後の丁寧語 波野
朝礼の生徒七人ななかまど ほろよい
冬帽子並び動かぬ春画展 みちる
夫に問う松茸狩りの入場料 ぴいす
駅伝の白きラインや冬に入る おせろ
寒鯉の過ぎて臥龍の淵暗む 樫の木
十三夜地下へ戻されいく遺跡 八木ふみ
この道の果ては西方石蕗の花 うに子
冬枯の朝をかさかさ駈ける山羊 緑の手
扇状地のここが要ぞ大根引く 越智空子
順路の標識に逆らへる綿虫 ポメロ親父
病室の窓硝子に貼り付く冬 幸
日は西に目ばかり光る蜻蛉かな 人日子
戦争の語り部集う十三夜 えつの
楮蒸す湯気の中から笑い声 エノコロちゃん
しぐるるや大中遺跡踏み歩く 池田喜代持
茜雲智恵の実喰らいて生かされいる まんぷく
礼儀作法極めんとして大根引 アンリルカ
月番の札と一緒に師走くる ミセスコナン
どこやらむマーチながれ来秋うらら さざなみ真魚
野趣といふ言葉を摘んで零余子飯 ちろりん
青アザに眼線集めている始発 多満
カミカゼといふフランス語声冴ゆる 未貫
透きとほる夕日の影や残る虫 哲白
冬菫古墳の酒器の鈴の音 あおい
悲しみの手の形して冬木立 恋衣
木像の煤けて玉の眼の冴ゆる P,妙
葛湯吹く闇の向こうの怒濤音 ターナー島
別子山廃屋巡り冬隣 青柘榴
冬ざるるスタッフ募集の微笑み ひでやん
金砂湖に映る紅葉と空の青 喜多輝女
狛犬の迎える姫や春を待つ 西条の針屋さん
銅屋根の反り厳しかり落葉焚く 瀬戸 薫
透き通る光の時間冬銀河 大阪野旅人
こがらしのくちぶえはをんななきうた ふね
退屈で泣きたい夜の冬薔薇 松尾千波矢
羽子板市皆が写楽の顔になり 台所のキフジン
ヘアピンカーブバスに揺られて紅葉がり  カシオペア




関悦史(せきえつし)
1969年茨城県生。「豈」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。共著『新撰21』『超新撰21』『俳コレ』(以上、邑書林)、『虚子に学ぶ俳句365日』『子規に学ぶ俳句365日』(以上、草思社)他。雑誌「現代詩手帖」俳句時評欄担当(2012年1月〜)

阪西敦子(さかにしあつこ)
1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。

桜井教人(さくらいきょうと)
1958年愛媛県生まれ。松山市公立小学校教員。いつき組。子規顕彰松山市小中高校生俳句大会選者。第2回大人のための句集コンテスト優秀賞。第24回、29回俳壇賞候補。



目次に戻る


へたうま仙人


文 大塚迷路

 もういくつも寝たからお正月ぢゃ。クリスマスのせいで肩身の狭いお正月ぢゃ。いやあ、明けまして実におめでとうございますぢゃ。今年も去年以上にもっともっとよい年になるように獅子奮迅栄枯盛衰ぢゃ!
 今月も年の瀬の慌しさに思わず負けてしまったような句から、お正月気分を蹴散らかす句まで千差万別一網打尽に集まっておるぞ。お屠蘇と一緒に楽しんで下されば嬉しいぞ。悪酔いせんようにの。


秋深しマラソン完走ヒザ痛し ケンケン
秋深し箕面ビールを飲んでみる ケンケン
 サ行の音を集める事によって秋の深さとヒザの痛みがひしひしぢゃ。ヒザは一旦痛めると後が面倒になるぞ。大切にの。ところで、箕面ビールは人気者らしいのう。ビールは四季を通じておいしゅうございますが、秋深しのビールはまた格別ぢゃ。「飲んでみる」という主体性の無さもいい味ぢゃ。

プレバトを見てすっきりの夜長かな 柊つばき
やりくりも底をついたよ冬の夜 柊つばき
 今見たプレバトを反芻するのに夜長は実にもってこいぢゃ。世間ではあの程度で辛口と思われるのかと、違った意味でカルチャーショックぢゃったわい。(あのセンセ、普段はあんなもんぢゃないぞ)それにつけても、プレバトを見た後はスカッとしますのう。精神衛生上にも久しぶりに出現した優良番組ですのう。これからも実に楽しみにしておりますぞ。しかし冬の夜の寒さが身に凍みますのう。凍み豆腐の値段も知らん人達が議会でわーわー言ってもねぇ、などとついつい思ってしまうのも冬の夜のせいぢゃな。どうぞ暖かくして眠って下され。

歯にギブス咳する落ち葉土の詩 KIYOAKI FILM
ラガー等や流るる唾液吾に有り KIYOAKI FILM
 「歯に衣着せる代わりにギブスをした」と「咳をする落ち葉に土の詩を感じた」の二物衝撃の句ぢゃな。なになに、言わんてもわかる、わかるぞ。長い付き合いぢゃ。落ち葉が咳をするところなんぞ、詩心が昇華しておるぞ。「ラガー等」をビールと読むかラグビーをする人と読むかで微妙に場面が違ってはくるが、どちらにせよどっちも作者には好物である事が如実にわかるぞ。ブレない舌に驚愕ぢゃ。

既読スルーたまにスタンプ暮の秋 元旦
沈むほどあれもこれもと宝船 元旦
 SNSの世界はまるで馴染みがないが、秋の暮では無く「暮の秋」で大体想像できるぞ。自由すぎても不自由なように、便利すぎても不便なもんぢゃのう。後戻り出来ん文明も暮の秋真っ只中ぢゃ。積み過ぎて沈みそうになったら、もっと大きい宝船を用意しようぞ。終いには七福神もひっぱり降ろす勢いで頼みますぞ。

わがために檸檬のやうな雲ひとつ 久我恒子
冬日和ふいに目あはす麗子像 久我恒子
 我のためだけに雲が現れると思う幸福感。幸せでないと決して繋がらない思考回路ぢゃ。大きな大きな檸檬のやうな雲だったんぢゃろうな。幸せ、大いに結構。ワシの「不気味な絵トップスリー」に絶えずランクインしておる麗子像。絵の背景など関係無しに、不気味なもんは不気味ぢゃ。(そもそも表現者が境涯に逃げてはちょっとな。あくまでも作品で勝負ぢゃ)木枯の中、麗子像を見たらかなり辛いが、「冬日和」の中だと少しは我慢できるぞ。個人的感情ですまん。

皿投げてテレビ破るるや秋の声 孝次
冬近し夢の手枕糧とせむ 孝次
 修羅場を過不足無く写生しておるが、壊すものは安い順にしてくれよ。いきなり高いものを壊して我に返ったのぢゃあ興醒めぢゃ。修羅場はとことんぢゃ。「秋の声」が切ないぞ。
 夢の手枕とはちと悲しいが、現実はとかく夢から始まるもんぢゃ。真冬になったら案外手枕で眠っているかもしれんのう。とことん健闘を祈るのみぢゃ。

秋高しとべ焼二つ孫に買う 真帆
澄む秋や紫電改見て胸悼む 真帆
 ひらがなで「とべ焼」と来るとB級グルメの料理みたいぢゃが、白磁の代表格である「砥部焼」のどこまでも深い白と、どこまでも高い秋空の青が美しいのう。お孫さんもさぞかし喜んだことぢゃろう。愛媛県愛南町に展示してある戦闘機紫電改には胸が締め付けられるのう。「澄む秋」に消えていく機影を思うと、このままずっと戦後であってほしいと思うのう。

笑はれる人も笑ひて日向ぼこ 坊太郎
 笑われる事さえなくなったら不幸の部類に入るが、意味もなく笑われるのも考えもんぢゃ。「日向ぼこ」はそんなことを超越させる何かがありますのう。体がぽかぽかになったら心までぽかぽかになる、いや、真理ですのう。世界中の人が日向ぼこをしながら俳句をしたら鬼に金棒ぢゃ。

山茶花の軽く咲いては軽く散る 小木さん
神木の落葉こつそり踏みつける 小木さん
 なるほど山茶花は椿ほど重くはないのう。重く咲いて重く散るのも悪くは無いが、俳人たるもの軽く咲いて軽く散りたいものぢゃ。なるほど神木にも落葉はあるのう。地の上ではどれが神木の落葉かわからんが「こっそり踏みつける」とは小市民で共感ものぢゃ。でも神様はどこかで見ておるぞ。小事は見逃してくれんぞ。神様、罪も無い小市民をちゃんと見といて下さいよ的こんな句は、ポチ袋と共に悪代官と越後屋の密談の場の天井へ追放!!

お手玉の布はちりめん冬茜 誉茂子
じいさまに教わりし季語虎落笛 誉茂子
 ちりめんの縦糸と横糸の絡まる色彩と、冬茜の控えめながら突き抜ける色彩とのコラボはおみごとと言うほか無いのう。お手玉が軌道の頂点に達し、一瞬の無重力になったときのちりめんと冬茜の輝きを想像すると、ゾクゾクするぞ。虎落笛が好きとは、じいさまはマニアックぢゃったんぢゃのう。じいさまのためにも、虎落笛でぜひ驚くような句を作って下され。うーん、こんなゾクゾクほろほろする句は、お手玉の中の小豆と共にお汁粉の椀へ追放!!


 今月も追放者を出してしもうた。正月早々不覚ぢゃ。ま、追放者のことは忘れ、我々は手も足も出んヘタうまの道を極めようぞ。頂上はすぐそこぢゃ。
 ぢゃが、くれぐれも油断召されるなよ。




へたうま仙人
 年齢 卑弥呼がおっぱいを飲んでいた頃、ワシは青春真っ只中ぢゃった。
 好きなもの 霞のシャーベット(PM2.5抜き)
 嫌いなもの 上手な俳句
 将来の夢 大器晩成


目次に戻る


自由律俳句計画


選者 きむらけんじ

 老人の自動車事故が目立つ。原因の多くは、「アクセルとブレーキを踏み間違えた……」だ。そこで老人用に、アクセルは踏み込むのではなく、足先を右横にスライドさせるものを開発中らしい。つまり咄嗟にアクセルをブレーキと踏み間違えても踏み込めないのだ。しかし加速するには足先を右横にスライドさせて……と余計な意識をしているうちに運転が散漫になって、どこかにぶち当たりそうな気もしないでもないけど……。



寒いかと聞く人の居ぬ寒さ 台所のキフジン

 自然現象から来る肉体的な「寒さ」と、人の心の精神的な「寒さ」とを問うている。冬は寒いに決まっているが、寒い時には「寒いね」と言い合える相手がそばに居ることで、人は寒さに耐えることができる。ところが「寒いね」と言える相手が居ないとしたら、おそらく寒さは心の奥底で冷たく増幅して「辛さ」になるのではないか。まったく無駄のない句の構成に、研ぎ澄まされた寒さを感じます。寒さを言い合える相手の居る有難さを、時にはしみじみ思ったほうがよいのかもしれない。



生まれ変わっても変わっても雪 みやこまる
 関西や四国では雪は珍しいものになってしまったけれど、温暖化しているとはいえ時折映像で見る北日本や北海道の豪雪地帯の雪のすさまじさは想像を絶する。その筆舌に尽くしがたい様を、「生まれ変わっても」という措辞が、よく肉迫した。「変わっても」のリフレインが自然への畏怖をも感じさせている。

冬の蜂もういいんだよ 小木さん
 交尾を終えた蜂は、メスだけが生き残り春に子を産む……と辞書にある。役目を終えたオスは、死を待つばかり……。「もういいんだよ」という口語表記が、冬の蜂の哀れをよく言い得ている。蜂は蜂のこととして、人は死ぬまで悪戦苦闘に価値がある、と思うけど。

何故ひとは人を殺すや神の名の下 まんぷく
 IS国のテロ行為のことだろうと思う。この種の句を定型句でもよく見かけるけど、成功している句は知らない。むしろ自由律のほうが字数や季語に縛られない分、意図が明解になりやすいのかもしれない。しかし揚句の、「ひと」と「人」の使い分けが、いまひとつ分からないのが気になります。(単に殺す側と殺される側?)

もうだれもいない去年今年 緑の手
 長生きすることは結構なことなんだろうけど、長生きすればするほど、身内とか友人とかを見送ることになる。喪中ハガキや年賀状の届くころ、あらためて長生きの寂しさを気づかされるのだろう。みごとに寂しい句です。

だるまさんがころんでも立冬 藍人
 立春、立夏、立秋に比べ、立冬は人の暮らしにそれなりの覚悟を暗示する(いまはそんな感じも薄れてきていますが)。厳しい季節を前に人は結局手も足も出せない、耐えるのみ……抗うことのできない自然への開き直りか。諧謔の味があります。



歪なことが面白い人生か ケンケン
酔いつぶれている虫の闇 のり茶づけ
飼い犬よお前は炬燵か 南亭骨太
海猫だけが火事を見ていた 和音
凩になりきっている薬缶 もね
仕事はしません一葉忌 ミセスコナン
日のあたるソファにまどろんでゆく  さざなみ真魚
飛行機雲見ていて道を失う 多満
吊し柿のまま歳を取る 青柘榴
乾風吹く大木の丸裸 カシオペア


並選
金盞香ばし誰かの墓標ゆえ 海田
地球は蒼い布団に潜る梟や KIYOAKI FILM
小舟に揺られ茶室に手を振り湖面行く  レモングラス
どう考えてもアウェーが長すぎる 青萄
初氷みな踏み割ってゆく反抗期 迂叟
膝の上子にも孫にも「ぐりとぐら」 誉茂子
気分は戦闘冬の駅 小市
蒟蒻掘りからの調理実習 ヤッチー
嘘のばれた子供のように 呆けた母 凡鑚
雲を読む翁の予報「乾風」 ほろよい
迷宮の入口に蜘蛛の糸 一走人
閉ぢぬチャック開かぬチャック閉ぢぬチャック  みちる
似顔絵コーナーに並びて絵師は選べない  ゆりかもめ
逆立ちしても鰯雲 樫の木
若いねと言われはじめたら老いてゐる うに子
都市計画道路の黄落 元旦
生け垣を笹鳴きが近づいてくる ポメロ親父
病室の窓から見る校庭 幸
養父逝きて吾が出生は謎のまま 坊太郎
釣人の隣は淋し秋 人日子
太き木の根方の日向ぼっこ エノコロちゃん
枯野の出口がわからない 遊人
冬の蚊や古き廊下の百メートル 鯉城
漁港衰退乾風衰えず あおい
君が袖振りし野はここら辺りか風疼く 恋衣
軍鶏鍋屋スピッツがこんなにデカい P,妙
雨の昼アップルパイを焼きましょう 彩楓
冬立つ日病室のベッドで眺む雲色々 喜多輝女
またひとり逝き やがて一人や秋の海  大阪野旅人
童話の月を持ち帰る 松ぼっくり



きむらけんじ
1948年生まれ。第一回尾崎放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律 地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技 妄想、泥酔。



目次に戻る


詰め俳句計画


文と出題 マイマイ


おわび
十二月号に掲載の『2月号掲載分の問題』に誤りがありました(後句の助詞です)。改めて訂正して出題致します。締め切りは1月4日とします。

2月号掲載分の問題(1月4日締切)
次の(  )の中に共通する春の季語を入れてください。

レシートを捨て(  )の雑踏へ
(  )やカツのはみ出すカツサンド


今月の問題
次の(  )の中に共通する正月の季語を入れて下さい。

中継の青き地球や(   )
(  )コーヒーメーカーのクプクプ


中継の青き地球や水鳥
水鳥コーヒーメーカーのクプクプ
 KIYOAKI FILMさん。さすがの冒険ですが今回は残念ながら冬の季語でした。級外。緑の手さんの若清水は最初、新年の季語「若水」の傍題かと思ったが私の手元の歳時記には記述がなく、インターネットで引くと夏の季語「清水」の傍題として出てきた。一応、級外としておく。

中継の青き地球や庭竈
庭竈コーヒーメーカーのクプクプ
 おせろさん。新年独特の風習や珍しい行事で投稿してくださった方々がひとかたまり。歳時記によると、庭竈とは正月三が日にいつもの竈とは別に庭に囲炉裏のような竈を作り、そこで飲み食いして遊ぶという奈良地方の習俗らしい。前後句ともに情景が想像しがたい。5級。台所のキフジンさんは土竜打。正月十四日の夜か翌朝早くに子ども達が藁苞で家々の土間を打って土竜を追い、餅や銭をもらう風習とある。が、これも同様に電化製品との取り合わせは無理がある。同じく5級。海田さんは初閻魔。正月十六日の閻魔の初縁日のことで、地獄の獄卒も仕事を休んで地獄の釜の蓋も緩むとされ、諸寺では地獄変相図、十王図などの画幅をかかげて拝観させるとのこと。後句のクプクプと絶妙の距離感だが、前句がどうか。3級。大阪野旅人さんは若井汲む。これは元日の朝まず井戸で水を汲み上げることで年男の役とされている。その水には神聖な力が宿るとされ、フレーズのイメージとも良く合っているが、「汲む」の動詞があるせいでリアリティーのない景になってしまったのが残念。4級。その点、坊太郎さんの井華水は水そのものを指しており景がぶれない。2級。

中継の青き地球や歌がるた
歌がるたコーヒーメーカーのクプクプ
 幸さん。後句は平和な景だが前句は中継そっちのけな気がする。4級。藍人さん、ポメロ親父さんは福笑い。みちるさんは福笑。うに子さんは福笑ひ。これも前句そっちのけ系だが、後句、季語と「クプクプ」の擬音が響き合って面白い。3級。小木さんは賀状来る。地味だが、前句、地球を駆け巡って届いた賀状かもなどと想像すると面白い。しかし私の手元にある歳時記やインターネットでは「賀状」は季語として載っていたが「賀状来る」は無かった。一応季語アレンジとみなし、3級(-1)。季語アレンジについては2015年十月号を、その最新ルールについては十二月号を参照してください。のり茶づけさんはひめ始。前句、生命の星にふさわしい季語かも。後句も幸せな匂い。1級。

中継の青き地球や松の内
松の内コーヒーメーカーのクプクプ
 遊人さん。期間が長過ぎて、ちょっと呆然としてしまった。4級。人日子さんは小正月。後句は松が取れて正月が改まったような気分とよく合っている。前句の中継にもう新鮮さがないか。3級。カシオペアさんは女正月。後句は女の人たちが集まって楽しく過ごしている様が見えてきて良い。前句は「女」が利いているか微妙。同じく3級。ゆりかもめさんの淑気満つは前句、ダイナミックな映像が厳粛な気分と合うが、後句のコーヒーの匂いはその気分を壊してしまう。同じく3級。喜多輝女さんの大旦は前句のひきしまった雰囲気がいい。2級。P‘妙さんの明の春、一走人さん、青柘榴さんの今朝の春、エノコロちゃんのお正月、いずれも柔らかな語感が後句のユーモラスな表現と合う。同じく2級。矢野リンドさんは年新た。前句地球も更新されたようですがすがしい。後句も新年を祝って新しくコーヒーを淹れている姿が見えてきて好き。1級。

中継の青き地球や初景色
初景色コーヒーメーカーのクプクプ
 元旦さん。後句の光景を初景色と言ったところに詩心を感じる。が、前句これを初景色というのは哀しい。3級。レモングラスさんは初あかね、南亭骨太さん、ささゆりさんは初明かり、恋衣さんは初明り。前句、中継の地球の中に自分を探してしまうかもしれない。後句、一年の始まりの朝をこのように迎えられたら良い年になりそう。1級。ヤッチーさんは初旭。ひなぎきょうさんは初日の出。これらはもう少し時間が進んで光線が見えてくる。これはこれでまた別の味わい。同じく1級。杉山久子さんは初日さす。これも一応季語アレンジとみなし、2級(-1)。

中継の青き地球や去年今年
去年今年コーヒーメーカーのクプクプ
 ケンケンさん、迂叟さん、ほろよいさん、久我恒子さん、樫の木さん、さざなみ真魚さん、dolce〔ドルチェ〕さん、彩楓さん、ひでやんさん、松尾千波矢さん。前後句とも、めでたさもありつつ、時間の連続性も感じさせる季語がよく機能している。特に前句映像のダイナミックさを殺してないところを正解よりも評価した。二段。


今月の正解
中継の青き地球や寝正月
寝正月コーヒーメーカーのクプクプ
 青萄さん、みやこまるさん、誉茂子さん、ひさのさん、小市さん、ちろりんさん、片野瑞木さん。前後句ともにアンニュイな雰囲気が出ていてまずまずか。初段。


3月号掲載分の問題(1月20日締切)
 次の(  )の中に共通する春の季語を入れて下さい。

渇きとは日に(  )を見失う
(  )の来て引越のダンボール




マイマイ
2003年11月頃よりラジオに投句を始める。割と生活派俳人だったが、最近は?? 第1回、第4回大人コン優秀賞受賞。2013年句集シングル『翼竜系統樹』上梓。将棋推定初段。棋友募集中。




【100年投句計画】投句方法
 件名を「100年投句計画」とし、投句先(複数可)、俳号(なければ本名の名前のみ)、本名、電話番号、住所を明記してお送り下さい。投句はそれぞれ二句まで、詰め俳句は季語を一つのみお送り下さい。一つのEメールまたは一枚のハガキに各コーナーの投句をまとめて送っていただいても構いません。
ただし、「選者三名による雑詠俳句計画」と「へたうま仙人」は、選択制(どちらか一方のみ投句)となります。また「雑詠俳句計画」は欄へ寄せられた二句を各選者が選ぶ形式です。各選者に個別に投句を行うのではない点にご注意下さい。

それぞれ締切は、1月20日(水)

投稿ページ http://marukobo.com/toukou/
投稿アドレス magazine@marukobo.com
はがきFAXでも投句できます。


さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。(俳句ポスト365のページ参照)


目次に戻る


美術館吟行13:高畠華宵大正ロマン館
宵待草と人形たち〜大正の夢・平成の夢〜
吟行会


文 ねこ端石


 芸術と芸術でないものの境界はどこにある?
 言い換えるとカルチャーとサブカルチャーの違いはどこにある? つまり芸術とはなにか? さらにはオタクは芸術足りえるか?
 歌舞伎が芸術ならば、よしもと新喜劇は?落語が芸術ならば漫才は?
 淀川長治は映画を「娯楽芸術」と称した。
 お遊びも突き詰めてゆけば芸術となるということか?
 ええいはっきり言ってしまおう。俳句は芸術といえるのか? 文学足りえるのか?
 かつて俳句は文学かどうかということでもめていた時期もあったという、いわゆる桑原武夫の「俳句第二芸術論」である。つまり俳句は芸術足りえない、俳句は「第二芸術」つまり芸術とは違う脇道のものという、そのものズバリ「俳句サブカルチャー論」なるものを展開した。俳句は必要最小限の表現しかされていない。そのため作り手以上に読み手にもある程度の読みこなすための鍛錬が必要な場合も少なくない。その「取り合わせ」だとか「切れ」などという技法をもって書かれた俳句とははたしてブンガクたりえるのかという、え〜っ! 今さら何で〜?てゆう問題なのだが、今でも決着がついているのやらいないのやら……。

 閑話休題

 そんな芸術とは何かを考えさせられる今回の美術館吟行である。
 訪ねた美術館は「高畠華宵大正ロマン館」、東温市の山裾にある小さな美術館である。
 しかし小さな美術館にもかかわらず魅力的なイベントを精力的に展開している。
 前回のイベントが「対象のロマンとデカダンス・高畠華宵・江戸川乱歩・横溝正史」。そういえば江戸川乱歩は子どものころに読んだイメージが大人になって読み返してもマッタク変わらない作家である。反対に子どものころ読んだ宮沢賢治や星の王子様のお話のミョウチキリンでヘンテコリンな世界は大人になって読み返すと色褪せてしまっていた。
 子どもの頃もっと宮沢賢治を読んでおけばよかった思う今日この頃……。
 今回のイベントは「宵待草と人形たち〜大正の夢・平成の夢〜」。大正時代の挿絵画家と現代の人形作家との融合(フュージョン)である。
ということで、なかなかおぬしもやるなぁな美術館なのである。
 乱歩の作品の中に出てくるような郊外のひっそりとたたずむ洋館みたいな美術館なのである。そこを十一月の時雨れるある日曜日に訪れた。中に入ると人形たちの幻想的で耽美な世界が広がる。
 今回は兼題となる絵が二つ。
 兎を従えた月の女神を描いた「月夜の夢」と、浜辺の人魚を描いた「銀鱗」。

 まずは「月夜の夢」から

寒月の光爪先よりまず降りぬ  ねこ端石
描きたもう月に女神がいるならば 蓮睡
冬の使者五羽の兎を伴いて 烏天狗
冬月の光かそけし透ける服 マーペー
名月に爪先き立ちて決めポーズ toku229
ショールしどけなく焦点なき流し目 日暮屋
うれしくてうれしくて月嘘をつく 恋衣
夜満ちてディアナ降臨月冴ゆる ひでやん
無慈悲なる女の慈悲かと月清し 猫正宗

 次に「銀鱗」から

ざらざらと鱗をおとす冬の月  恋衣
人魚の鰭の温もりに木枯らしは チャンヒ
凍月や人魚に蒼く跳ねる鰭 烏天狗
寒月に人魚の肌の乾きゆく ねこ端石

 そして展覧会の展示から

冬が怖くて肋骨の籠にいる チャンヒ
寒椿華宵好みの女となる 雪花
中将湯に描かるる女冬温し 雪花
人形の柩へ冬の雫朱し あねご
冬薔薇の吐息につまづくアリス あねご
冬薔薇を抱え女の鬱なる目 マーぺー
冬ざれの絵筆に残る火の色は 恋衣
白秋の覗いてをるは冬薔薇 ひでやん
まなざしは憧れだけを追い佳宵 猫正宗
少女らの球体関節に秋傷 猫正宗

 最後に美術館描写から

お香舞う寒さ大正ロマン館 蓮睡
冬木立憂い持つ瞳の美術館 烏天狗
大正ロマン館時の流れに秋時雨 笹百合

 カルチャーとサブカルチャーの違いはどこにあるのか?
 それは多分作者のメッセージかつオリジナリティーというものであろう。
 ダースベーダーはアートになりうるか? 否! ならばバルタン星人は!? それは多分ぎりぎりなりうるのではないか? 甲冑とガイコツの延長線であるダースベーダーのデザインより、蝉と鋏の二物衝撃のバルタン星人のデザインの方がオリジナリティーということではアートに近い。それがカルチャーとサブカルチャーの違いではないのかな?
 ならばこの美術展のこの子達はカルチャーになりうるか否か? それは自分の目で確かめていただくしかない。カルチャーとサブカルチャーの境界を、うつし世と夢の境界を綱渡りしている彼ら(人形)であった。




取材協力:高畠華宵大正ロマン館



次回美術館吟行会
いずれも『100年俳句計画』編集室までお申し込み下さい。(TEL089-906-0694)

黄金のファラオと大ピラミッド展吟行
日時: 1月24日10時〜
場所:愛媛県美術館
参加無料(入館料は別途)
申込締切:1月21日

http://iyokannet.jp/ginkou/



目次に戻る


Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳:朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ


No.30


Gentle giant horse
Soft lips take carrot from hand
May I please eat half?

小さき人参大きな馬と分け合ひぬ


(直訳)
穏やかな 巨大な馬
柔らかな唇が 手から人参を受け取る
僕にも 半分下さいな



 We stayed for a few days in a beaurtiful home in the Arizona desert. There were horses, dogs, good food and a special concert with old friends.
 Jet lag is like childbirth. It is forgotten as soon as it is over.

 我々は数日間、アリゾナ砂漠の美しい家に滞在した。そこには馬達、犬達、美味しい食事、そして旧友達との特別な演奏会があった。
時差ボケとは、出産のようなものだ。終わるとすぐに忘れてしまう。
(訳:朗善)



ナサニエル ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。
2013年7月より山梨へ移住。


目次に戻る



JAZZ俳句ターンテーブル


文/白方雅博
(俳号/蛇頭)

第58話 ゲッツ プレイズ ジョビン スタン ゲッツ

冬の虹ボッサは何時でも昼下がり 千栄子

 厳寒の、しかも淑気満ちる1月の「100年俳句計画」のこの頁に、ボサノヴァってのはどーよ!? 今回のテーマ設定権を行使した光海さんは、メンバーの不評のシャワーを浴びて後悔するんじゃないかと心配したが、何とこれが功を奏してJAZZ俳人諸氏は快くボサテイストにマッチする季語の斡旋に挑んでくれた。結果「暖炉」と「冬の虹」がともに4句。

ボサノヴァは淋しくにほふ冬の雷 恋衣
ふしだらにボサノバ聴くや冬薔薇 夜市

 「冬銀河」「雪」「冬の雷」「冬薔薇」が2句組。

息づかい優しき人の冬帽子 南亭骨太
憂鬱といふ安らぎよ冬の雲 南行ひかる

 「冬北斗」「冬の雨」「数え日」「たま風」「クリスマス」「冬菫」「年の暮」「短日」「冬日和」「冬の波間」「北窓を塞ぎ」「落葉」「帰り花」「鯨」「淑気満ちて」「古暦」「日脚伸ぶ」「冬帽子」「冬の雲」が1句組。

煮凍ぷるぷるBOSSAとむつみあひ 破障子
湯ざめしてボサノヴァ聴いて阿呆になる 暮井戸

 「かまど猫」「年末ジャンボ」「鬱の熊」「煮凍」「湯ざめ」なんてのも詠まれた。なかなかに冬のボサノヴァも美味しい。

カラフルな落葉はアスファルトの音符 チャンヒ

 硬派ジャズファンはスタン ゲッツとボサノヴァの大ヒット=金満家という図式で一連のアルバムの評価を抑えがちのようだが、僕はジャズとボサノヴァをハイレベルで融合させ世に知らしめたゲッツの功績は誠に大であると好意的に捉えている。今回のメインテーマ「ゲッツ プレイズ ジョビン」はヒットナンバーを集めた、いわゆるオムニバス盤。寛ぎの中にエッジの効いたゲッツのテナーサックス。そのサウンドとフレーズを手早く味わうにはうってつけのアルバムである。

凍てる夜やゲッツの地獄と天使の音 光海

 ボサノヴァのゲッツのイメージとは裏腹に、ヘロインとアルコール漬けで魂を蝕まれたゲッツの一面を光海さんの句は捉えている。40年代末にウディ ハーマンのセカンド ハードで彗星のごとく現れ輝いた彼が50年代に入ると、そのような闇の側面を呈し始る。それでも、ひとたびゲッツが楽器を手にし、ステージに立てば全ての暗雲を振り払うような白熱のプレイが躍り出る。

哀しみは君の懐手の中に 蛇頭

 サブテーマの「スタン ゲッツ プレイズ」は、それを象徴するようなアルバム。ゲッツの頬にキスをする幼子が可愛らしい。が、彼の視線は右手の煙草らしきもの、に注がれている。という曰く付きのジャケットが印象的。


http://www.baribari789.com/

「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の毎月第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は日曜日の25時〜26時。

次回のJAZZ句会は、1月24日(日)13時より。テーマは「オール アローン/マル ウォルドロン」です。句会への参加を希望の方は、本誌44ページの句会カレンダーを参照してください。


このコーナーで紹介した俳句とエッセイ、堤宏文さんの写真とを組み合わせた『JAZZ HAIKU vol.1』(マルコボ.コム)を発売中。


目次に戻る



ラクゴキゴ


第58話
『けんげしゃ茶屋』


 大みそか、大きな店の主“村上の旦さん”が街を歩いていると、よく知ったたいこもちの又兵衛に会う。
 そこで明日(元日)、なじみの茶屋へいたずらをしようという算段がまとまる。
 主人は又兵衛に、芸者の国鶴の一家はけんげしゃ(縁起をかつぐ)なので、縁起の悪いことばかり言ったりやったりしてからかって楽しもうと伝える。
 元日、主人は国鶴の店「鶴の家」に出かけ、出迎えた国鶴の母に「あんたと国鶴が井戸に飛び込み死ぬ初夢を見た」と言っていきなりおどろかせる。
 また、おせち料理を食べながら屠蘇を“土葬”、黒豆を“苦労豆”などと言い放ち、皆をあきれさせる。
 若い芸者衆が店にやってくると、主人から言われていた又兵衛が、葬式行列を伴ってやって来る。
 死人を演じる又兵衛、芸者連中の名前「一竜(いちりょう)に芝竜(しばりょう)」を「生霊に死に霊」と聞き間違えたり、「絹松(きぬまつ)に小伝(こでん)」を「死ぬ松に香典」と間違えたり……。
 そんなこんな、主人と又兵衛とのいたずらに国鶴の母は泣いて店を飛び出した。
 外を通りかかった別のたいこもちの茂八がこの様子を見て、本当の葬儀が行われているとかんちがいするが、国鶴の母に事情を聞き、主人にあいさつをしようと店に飛び込む。
「村上の旦さん、あけましておめでとうございます!」
 あまりに普通なあいさつをする茂八に主人はがっかりして、「今日は国鶴との別れの盃じゃ。お前のような向こう先の見えんやつはもう知らん。」と茂八を叱ると、茂八も死に装束を着込み、小さな位牌を手にして帰ってくる。
 主人は茂八の凝った趣向を喜び、「おお、これまで通りひいきにしてやる。」
茂八「ご機嫌が直りましたか? ああめでたい!」

 「けんげしゃ」という言葉、聴きなれないと思いますが、縁起をかつぐ人の意味です。
 客商売などをしていると縁起の悪いことを嫌い、言葉も良い意味の言葉に置き換えたりしていたようです。
 噺家のみなさんも昔から縁起をかついでいるようで、まず寄席文字、これは歌舞伎の勘亭流と少し似た字体なのですが、なるべく白い部分を少なくし、黒い部分を多く見せる書き方です。これはお客さんにたくさん入ってもらおうという縁起かつぎ。
 また、座布団の置き方も決まりがあります。ちょっと近くにある座布団を見てみて下さい。四辺あるうちの一辺だけが縫い目が無いと思います。これは縫製上仕方ないのですが、この縫い目が無い辺を必ずお客さんの方へ向けて置きます。「切れ目」を避ける意味でしょう。
 そして出囃子を奏でる鉦(かね)。本来は「すりがね」と呼びますが、「する」という言葉を嫌い、あえて「当たりがね」と呼んでいます。
 この噺は大みそかから元日へ変わる色街の雰囲気がとてもよく表れていて、下座の三味線や太鼓が「ハメモノ」としてにぎやかに鳴り、おめでたい空気がパッと感じられます。
 先月号の「風の神送り」と同様、故桂米朝師から直弟子の桂米二師らが受け継いでおられます。

初泣の子供のすぐに初笑


目次に戻る



ホンヤクサイホンヤク


翻田 訳蔵

 俳句初心者、翻田訳蔵がネット上の翻訳ソフトを使って名句を翻訳、再翻訳し、そこからインスパイアされた(パクッた)句を発表していこうという馬鹿馬鹿しくも実験的で図々しいコラムです。


今回の俳句
 いざ子供走りありかん玉霰 松尾芭蕉


 明けましておめでとうございます。このコラムも今回で20回を迎えました。今後ともよろしくお願いいたします。
 ではさっそく、Google翻訳(英→日)から

Emergency child ran there tube ball hail

 再翻訳

緊急子が管球の雹を走りました

 どうやら緊急事態のようです。お子さんが「管球の雹」という危険箇所を走ったようです。いつの間にか「霰」が「雹(ひょう)」に変わっています。ちなみに直径が5ミリ以下のものを「霰」、5ミリ以上の氷の粒を「雹」と言うそうです。

 続いて、エキサイト翻訳(英→日)

Well, a child run whereabouts, oh, ball hail

 再翻訳

さて、子供ラン どのあたりに おお ボールあられ

 マラソン大会で自分の子供を探していると「ボールあられ」というゆるキャラを見つけて興奮しているという感じでしょうか?

 最後に、Yahoo!翻訳(英→日)

Okay, it is child race りありかん rice-cake pellets

 再翻訳

はい、それは幼児レースりありかん餅ペレットです

 いったいどんなレースなんでしょう?

 それでは、この3つを受けて一句。


子供ラン緊急事態玉霰 翻田訳蔵


目次に戻る


お芝居観ませんか?


文&俳句 猫正宗

第39回『王女メディア』

(幹の会+リリック公演、原作:エウリーピデース、修辞:高橋睦郎、演出:高瀬久男、田尾下哲、出演:平幹二朗、他、'15年11月18日、ひめぎんホール[県民文化会館]サブホール)

 かつて愛するがゆえに自らの手を血で汚してまで支えた英雄は、今、自分と子供たちを捨て、若い妻を迎えようとしている。王女として、巫女として、妻として母として女として人として、彼女の誇りと彼女自身を踏みにじるものを、決して許すことができない。長い煩悶の末、彼女は夫の心を打ち砕く最も残酷な復讐を遂げる。それは、夫との間にできた、わが子らの殺害であった。

新月や愛深き故憎しみも

 それを行おうとする本人さえ慄き、かつ、その復讐によって何も解決しない、むしろ事態が悪化し、自らも多くを失うことををわかってなお、そこに至らずを得ない業の深さ。その内に渦巻く奔流がつくる裂け目から噴き出す、怒り、悲しみ、喜び、そして名状し難き感情。「子殺し」という主題を不快に思う方もいた。それを現代の我々がそのまま受け取るには、あまりに巨大で激しすぎるように思える。しかし、それは本当に今の私たちとは無縁な、遥か過去に置き去ったものなのだろうか。
 成田享という彫刻家・画家が、画集にこんなことを書いている。「私は人間は進歩するものだと思っていません。人間は進歩しないで、変容していくものだと思っています。(中略)もし、人間が進歩するものだとしたら、現代人は最高の人間で、古典ギリシャのアテネ人は未開発ということになりますが、実際はそんなことはありません。(中略)人間はあまり変わっていない本質の上で、進歩したと錯覚しているのです。」

 本作は、堂々たる古典劇として上演された。それは、普段、演劇やドラマに求められるリアルさとは異なった作法によっている。女性を含んだ全ての役を6人の男優で演じていることや、大仰ともいえる演技などは、卑近ではあるがその一例であろう。しかし、それゆえに、美も醜も強さも弱さも、生のままに差し出された「人間の本質」が、古代より営々と流れ、引き継がれていることをあぶりだしているように思えるのだ。無論それは、平幹二朗という役者が、その中心にあったからこそであろう。

旅は続く全ての星が流れても

※本作は'16年2月22日まで各地の観賞会(市民劇場)で、また1月9日から16日には東京グローブ座で、3月5、6日には水戸芸術館で一般上演。



このコーナーでは、松山市民劇場例会にて公演された芝居を紹介します。


目次に戻る


歳時記「無季」がバイブル


第3回
文 現代俳句協会会員  日暮屋 又郎


つまり阿部さんはお餅が好きで 徳永希代子
※現代俳句歳時記「冬(餅)」と「無季(菓子)」の両方に掲載句

 何だ、この人を食ったような句は? いくら現代俳句協会とはいえ。もしかしてミスプリントか? いや、何人ものチェックをすり抜けられるわけはない。しかしながら、よくわからない、スルーしよう、無視、無視。
そうは思っても、バイブルをめくる都度、わざとのような偶然で、この句の掲載ページを開いてしまい、再々目に留まる。しかしながら依然としてスルー。
 日々、山のような書類、依頼、相談に追われるように仕事をこなしていると、どれだけ効率よく事を次へ進めるかが成果への鍵となる。先方の意図することが何であるかを早く理解することで、次のステップへとつながるのだが、ときどき出くわすタイプの人に、言いはしないが心の中で
「だからあなたは結局、何が言いたいのですか?」
と言いたくなる人がいる。話の核心にたどり着くまでの間、取りとめのないことを何度も繰り返す人だ。
 そういう時は三巡目までは我慢して聞き流し、さすがに四巡目には、だいたいの予想がつく結論をこちらから切り出す。しかもソフトタッチで、相手を決して傷つけないように、にっこりと。そうしないとこんな取るに足らないことで、すぐ後に控えているビッグチャンスをみすみす逃してしまう。しかし、こんな小さなことでも関わっておくことで、数年後ビッグビジネスになりうる事を過去に何度も経験しているから、ここは絶対にうっちゃってはおけない。
「お話ごもっともです。よーくわかりますとも。それだったら○○さんにはうってつけの商品がございます。こちらをご覧ください。」
 ……ハッ!掲句の意味に気がついた瞬間だ。たどり着くまでに数年は要した。
 作者もきっと似たようなシチュエーションではなかったろうか? はやく切り抜けたかったに違いない。この何とも優しい言いまわしに人柄があらわされ、きっとその後も二、三巡は聞いてさしあげたのだろうなという気分にさせる。
 ドラマのほんの一コマの切り取りにも、こんな手口があるとは……。何ともおそろしい我がバイブルであろうか。これは一読者としての曲解、良く言えば新解釈かもしれないが、いちど作者の手を離れた句の独り歩きは、誰にも止めることができないということでご勘弁願いたい。


目次に戻る



百年歳時記


第32回 夏井いつき

 有名俳人の一句を紹介鑑賞するページは世に数々あれど、「市井の逸品」とも呼べる一句を取り上げ鑑賞する記事はそんなに多くありません。
 百年先に残したい佳句秀句奇々怪々句を見いだし、皆さんと共に味わおうという連載は、名づけて「百年歳時記」。夏井いつきの目に触れた様々な作品を毎月ご紹介していきます。


猿酒の羽衣ほどに濁りけり 手銭誠
 「猿酒」とは、樹木の洞や岩の窪みなどに猿が溜めた果実が自然発酵し酒になったものを指しますが、現実にそのような酒に出会うことは無いだろうと思います。もし出会ったとしても、飲んでみるのはちょっと勇気がいりますね。「猿酒」を見たことはないけれど、きっとそれは濁り酒のごとく「濁りけり」と詠嘆されるべきものに違いないという空想を「羽衣ほどに」と比喩した妙なる味わい。「羽衣」という語の持つ上品さ、透明感、浮遊感、美しい天女のイメージに対して、「猿酒」の持つ俳諧味たっぷりの愉快な野卑。あり得なくはないが、ありそうもない虚実のあわいにある季語「猿酒」を、「羽衣ほど」と比喩できる発想に、心底惚れ惚れした作品です。
(第21回出雲総合文化祭・たいしゃ芸術文化祭 夏井いつき特選)

隼にブロッケンの環二度裂かる 大洲・瀑
 「ブロッケンの環」とは、ブロッケン現象に現れる虹色の環。ネット辞書には[ブロッケン現象は、霧の中に伸びた影と、周りにできる虹色の輪(ブロッケンの虹)の二現象をまとめて指している]と解説されています。同じ現象を日本では御来迎とも呼びます。
 冬の季語「隼」の特徴は飛翔の速さ。時速300〜400キロの速さで飛ぶというのですから驚きです。ブロッケン現象という短い時間の光景のなか、「隼」が獲物を狙って急降下してくる。そのさまを見てとる観察眼、「二度裂かる」という描写力。上五の助詞「に」の是非については意見が分かれるかもしれませんが、「隼」との一期一会の瞬間をよくも見事に切り取ったものだと感心致しました。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』11月27日放送分)

膝掛の配られ義母の通夜整う トリオパンジーズ姫ばあちゃん
 前半の措辞だけで「膝掛」を配っている人物と配られている人物がいることが分かり、後半「通夜」の一語にて場面が確定すると、「膝掛」を配っているのは葬儀社の人、配られているのは弔問客だと分かる。さらに季語「膝掛」によって「通夜」の日がしんしんと寒い夜であることも伝わる。実に見事な映像の描き方です。
 もう一つ誉めたいのは最後の動詞「整う」の一語です。この動詞の選択が一句を引き締めます。「膝掛」が参列者全員に配られ終わると、いよいよ「通夜」の儀式が始まります。全てが整ったという空気は冷たい緊張感となり、あとは僧侶の入場を待つばかりの静けさ。改めて「義母」への思いががひたひたと作者の胸に募ります。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』12月4日放送分)

ねんねこより初めて見しは荒るる海 雪うさぎ
 「ねんねこ」という言葉に出会うと、必ず想い出すあの日の「荒るる海」。母におぶわれた「ねんねこ」の中の記憶の「海」は両親の生まれ故郷か。はたまた夜逃げ同然にたどりついた未知の町か。
 「ねんねこ」という季語の成分には、そのあったかさ、幸福感に満ちた匂いなどが内包されていますが、この句はそれらの要素を逆手にとりつつ、「ねんねこ」の本意を表現します。「荒るる海」から吹く風の凶暴な冷たさ、不安を募らせる潮の匂い、「ねんねこ」から出ている顔の凍るような冷たさ、「ねんねこ」に包まれた体の暖かさ、母の酸っぱく甘い匂い。たった十七音から、読み手に果てしない物語を感知させる言葉の力を堪能させてもらった作品です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』11月27日掲載分)

にきたつの月の凝りたる蜜柑かな とおと
 万葉集の額田王の歌「熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな」で有名な「熟田津=にきたつ」は、伊予の国の三津浜あたりといわれております。地名を詠み込むことで、挨拶の心を表現。「にきたつ」に上ってくる「月」が凝ったかのような「蜜柑」であるよ、という措辞に美しい詩的断定があります。
 「凝る」には幾つかの意味がありますが、この場合は一カ所に寄り集まるの意。さらに「氷結する」の意味もあると知り、その詩的幻想も馨しく思いました。甘いだけの「蜜柑」ではなく、レモンイエローめいた程よい酸味を含んでいるのが「にきたつの月の凝りたる蜜柑」の味ではないかと、味覚的想像もふくらんできます。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』12月11日掲載分)


*百年歳時記は、南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』や
 松山市公式サイト『俳句ポスト365』(http://haikutown.jp/post/
 などに投句された俳句を紹介します。


目次に戻る



まつやま俳句でまちづくりの会通信


第58回 文 暇人

まる裏情報〜 今回も「あれ」やります!

 明けましておめでとうございます。mhm通信、気が付けばなんとスタートして5年が経ちました。これも読者の皆様のおかげです、ありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
 さて三が日を過ぎると近づいてくるのは、1月10日開催「第14回 高校生以外のためのまる裏俳句甲子園」。午前10時から予選句会ライブを開催、午後からは本戦となります。決勝句の兼題は恒例の「雪」。俳句の準備は出来ていますでしょうか?
 それでは、午後からの本戦の審査員をご紹介します。まずは「フレバト!!」等で俳句の種まきを拡大中の夏井いつき組長。組長には、午前の予選でも捌きをしていただきます。続いては昨年の優勝チーム「みっくすじゅーす」から1名……おそらく、まる裏史上最年少の審査員ではないかと思われます。
 続いてゲスト審査員の2名。まず一人目は森賀まり氏。第18回俳句甲子園では13人の審査委員長の一人として審査に携わっていらっしゃいました。2015年の秋には松山市主催の「俳都松山宣言」にも出演。愛媛県新居浜市生まれ。現在「百鳥」「静かな場所」同人、俳人協会会員。笑顔の優しいふんわりとしたお人柄です。
 二人目は、ギリギリまで交渉して、ようやく承諾していただきました、俳句甲子園実行委員会の実行委員長(“俳句が出来る”実行委員長)日野裕士こと俳人「三津浜わたる」氏です。例年、まる裏俳句甲子園では裏方のスタッフとして大会を支えてくれていましたが、実は俳人として名高いわたる氏。皆様の俳句をどう評価するのか楽しみです。
 最後の五人目の審査員、それはFacebookで投票をしてくださる皆様……そう、今回もFacebook審査員をやります。皆様の声を代表して私が旗を挙げさせていただきます。
 「Facebook審査員」? 何じゃそれ?という方に改めてご説明を。Facebook審査員とは、FacebookというSNS(インターネット上の交友サイト)に設けている、mhmのグループに参加していただいている方たちの投票によって審査を行う仕組みです。大会当日は随時、試合の俳句を掲載していきますので、どちらの俳句がよいか「ポチッと」投票していただき、票数が多かった方の旗を、代表者である私が挙げるというものです。
 投票は、Facebook「mhmグループ」のページ(https://www.facebook.com/groups/mhm575/)から行う事が出来ます。mhmグループページには、まる裏俳句甲子園の公式ホームページ(http://e-mhm.com/maruura/)からもアクセスすることができます。なお、投票にはFacebookの登録ならびにmhmグループへの参加登録が必要です。ぜひお仲間もお誘いいただいた上で、ご登録を宜しくお願いします。
 また、当日はFacebookとTwitterで会場の模様を随時報告していきます。Twitterをご利用の方は、どうぞハッシュタグ「#まる裏俳句甲子園」で拡散をお願いします。


mhmでは、ひきつづき松山市内外問わず会員および役員を募集中です。原則、毎月最終週の火曜日19時からマルコボ.コムにて会議がおこなわれます。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)またはFacebook(http://www.facebook.com/mhmhaiku)まで。


目次に戻る



南極を詠もう!


プロローグ
愛媛県立新居浜西高等学校教諭
渡辺浩志

 「100年俳句計画」の読者の皆様、こんにちは。このたび、第57次日本南極地域観測隊(JARE57)に夏隊同行者として参加することになりました愛媛県立新居浜西高等学校の渡辺浩志と申します。
 高校の教員が何故、南極へ?と不思議に思う方もいらっしゃるでしょう。2009年度より、「教員南極派遣プログラム」という企画募集が国立極地研究所主催で始まりました。目的は、国内の小・中・高校の生徒や一般国民に向けて、南極に関する理解向上につながる様々な情報発信をすることです。勤務校の生徒に、衛星回線によるTV会議システムを利用して、現地から「南極授業」を行うという企画もあります。
 今回、「100年俳句計画」のキム編集長から、「南極吟行」の依頼を受けました。俳句などほとんど詠んだこともないのですが、編集長の「南極から俳句を詠むのは史上初の試みかも?」「まさか正岡子規(1867-1902)も後世の人が、南極から俳句を詠むとは考えていなかったのではないか」という言葉に魅力を感じ協力させていただくことになりました。調べてみますと、子規には北極を含んだ句が一句「稻妻の北極めぐる曇り哉」あるだけで、南極の句はありませんでした。子規は、日本初の南極探検をおこなった白瀬矗(1861-1946)と同世代の人ではありますが、早世したため、白瀬が南極大陸に上陸(1912年)したことは知らず、南極に関しては、ほとんどイメージが無かった可能性が高いと思われます。
 ということで、史上初、「南極吟行句」。
 南極の写真を通して、読者の皆さんに俳句を詠んでもらったり、JARE57の隊員の方々に南極から一句ひねってもらったり。ご期待ください。
 南極観測船「しらせ」は、一足先に11月16日に横須賀港から出港しました。私たちは、12月2日に日本を出発、オーストラリアのフリーマントルで 「しらせ」に乗船し、南極を目指します。
 「しらせ」出航を記念して。

白き大地目指すはしらせ蜜柑色
南極へ頬染めしらせいざ往かん 浩志


【投句募集】右の写真から作った俳句を募集します。投句された俳句は、スウェーデンに留学した経験のある喜望峰さんが紹介します。
 俳句は専用の投句フォームにて受け付けます。http://marukobo.com/antarctic/
 投句締切は1月3日(日)。


目次に戻る



俳句の街 まつやま
俳句ポスト365


協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/


優秀句
平成27年11月度


【葱鮪】
《地》
出すに出せぬ葱鮪の葱の熱きこと 一生のふさく
浅草より海まで三里葱鮪鍋 みちる
鉄砲の渡来何年ねぎま鍋 どかてい
葱鮪鍋陰間と沈む夜のほとり 西田克憲
葱鮪なべ男根神を祀る島 中原久遠
熱量は葱鮪の葱の眠たさへ Y音絵
やつちや場の湯気まうまうと葱鮪汁 あつちやん
つひに此処の男となるか葱鮪汁 越佐ふみを
忌み明けの土間に匂へる葱鮪かな  スズキチ
葷酒山門に入るを許さずもってのほかの葱鮪かな  矢野リンド

《天》
東国の荒ぶるこころ葱鮪鍋 井上じろ


【ねんねこ】
《地》
ねんねこや鬢の匂いに空の青 豆闌
安売りの列へねんねこ揺すり上げ トポル
ねんねこの中で泣こうがゴロベース 藤鷹圓哉
ねんねこや臍の緒どこへ仕舞つたか かをり
ねんねこや臍の緒は仏壇の中 酒井おかわり
ねんねこや夜ごと鳴くとぞ赤子石 樫の木
ねんねこがふと軽くなる狐道 雪うさぎ
ねんねこ下ろすかるくつてぞつとする 豆腐太郎
ねんねこで避難訓練現れる 谷山みつこ
陳情の母達はみんなねんねこ 小市
ねんねこの人が実行委員長 長緒 連
二丁目の魔子のねんねこ金のラメ 鈴木麗門

《天》
ねんねこより初めて見しは荒るる海 雪うさぎ




俳句ポスト365作品集2015

冊子のお問い合わせは……
 松山市役所 観光 国際交流課
 TEL 089−948−6556



1月の兼題

投句期間: 12月24日〜1月6日
伊予柑 いよかん【三春/植物】
ミカン科ダイダイ類の品種のひとつ。原産地は山口県だが、明治中期に愛媛県での栽培が盛んになったことから伊予柑と呼ばれるようになった。(※JAえひめ中央コラボ企画第2弾兼題)

投句期間: 1月7日〜1月20日
野焼 のやき【初春/人事】
早春、晴れて風の無い日、草原や堤などに火を放って枯草を焼き払う。焼けた灰は馬や牛などの飼料となる青草の成長を促したり、また害虫駆除にも役立つ。



《参考文献》『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


※募集の兼題は変更される場合があります。「俳句ポスト365」のサイトで最新の情報をご確認ください。



俳句ポスト365更新サイクル変更のお知らせ

 2013年1月にスタートした「俳句ポスト365」ですが、おかげさまで投句数が当初の10倍、参加人数が5倍にまで大幅増加しております。
 それに伴い、更新作業にもそれ相応のお時間を頂く必要が出て参りました。
 そこで2015年11月より、更新サイクルをこれまでの毎週更新から、2週間に1回の更新に変更させていただきました。年度途中の改編となりまことに申し訳ございませんが、なにとぞご了承願います。
 「俳句ポスト365」を今後とも宜しくお願いいたします。



俳句ポスト365 オフ会開催のお知らせ

「オフ会」とは、インターネットの仲間同士が、オンラインのネット上ではなく、実際に(オフラインで)集まる会のことです。日頃「俳句ポスト365」の中では文字だけでしか遣り取りをしていない仲間と、直接会って交流していただけるこの機会に、ぜひご参加されてみませんか?

 日時 2016年1月9日(土)18時30分〜20時30分
 場所 国際ホテル松山(http://www.kokusai-h.jp/
 参加費 5,000円程度を予定
 問い合わせ・申し込み先 マルコボ.コム 【最終締切:1月3日必着!】
  メール(宛先:info@marukobo.com)でお申し込み下さい。
   メールは件名を「俳句ポスト365オフ会について」としてお送りください。
   マルコボ.コムからの返信をもって受付完了となります。

* 食事会メインの交流会の予定です。翌日1月10日には「まる裏俳句甲子園」が開催されますので、そちらもぜひ観戦&出場しましょう♪ なお、「まる裏俳句甲子園」でも、終了後の夜には打ち上げ会がありますので、遠方からお越しで都合の付く方は、どうぞ2泊の予定で松山にお越しください。



目次に戻る



一句一遊情報局


有谷まほろ & 一句一遊聞き書き隊
協力 南海放送


金曜日優秀句
平成27年11月度


【ななかまど】
ななかまど朱印の美しき竈護符  篠原そも
火焔土器匂う朝やななかまど ラグナ
魔女の鍋煮えよ呪文はななかまど  ひなぎきょう
三つめの願いは不老ななかまど 妙
ななかまど図鑑は昭和五十年 ちろりん
白髪の歩荷なじみのななかまど 痛快
ななかまど天馬の足跡から芽吹く  なおき
ななかまど業火の後を残した実 みいみ
いにしへの噴火の裔やななかまど  鈴木牛後
山頂に祈りの響きななかまど  八十八五十八

《天》
ななかまど二昼夜攻むる登り窯  ポメロ親父


【乾風】
船箪笥の錠の黒ずみ乾風吹く てん点
活締めの出刃を乾風に吹きさらす 鯛飯
バス停に残る鉱山の名乾風来る  マイマイ
灯低く乾風の町の定食屋 風
大乾風炎のごとき護符の文字 ほろよい
乾風吹く大魔神のごとアボジ座す  青萄
船に憑く魔物に百手強乾風 樫の木
乾風吹く深海の底に沈む旗 かなた中3
乾風吹く放牧牛の痩せた尻 はなみずき
高炉止め冷むる鉄都に乾風かな かのん

《天》
花街の乾風休みの三味多忙  しんじゆ


【砕】
菊鉢の土くれ砕く小春かな とうへい
冬隣小さき鯉へ麩を砕く 咲く空色
秋のてっぺん太陽を砕いたような星  トラックウーマン
ざらめ雪払うて砕石機の給油  松ぼっくり
爆砕のサイレン枯野に不発弾  このはる紗耶
ことごとく踏めば砕ける枯野かな  樫の木
火砕流痕のロープや冬蝶来 マイマイ
骨壷に砕き入れたる秋の暮  旧重信のタイガース
勤労感謝の日のフルサワ銀杏粉砕器  鯛飯

《天》
セロリ砕くジューサー孤独死の見出し  ふづき


【隼】
隼を風のひとつと数えけり だんご虫
隼の眼に風の底を見る ラグナ
隼の眼は黒曜石の鏃 樫の木
隼の気配空微動だにせず 雪花
隼を馬上豊かに投げ上ぐる 緑の手
疾速に恍惚として隼は 笑松
隼の落ち行く景のみな無色 ターナー島
満ち始む干潟隼降下中 恋衣
あれは隼海峡の時化はじむ 理酔
知っている孤独より隼は速し 天玲
七夜過ぐシロハヤブサを待つテント  太郎

《天》
隼にブロッケンの環二度裂かる  瀑



※ 掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとに活字化したものです。俳句ならびに俳号が実際の表記とは異なっていたり、同音異義語や類音語などで表記されてしまっている場合がありますのでご了承ください。



※ 「落書き俳句ノート」を除く、朧庵(SNS)の利用、閲覧には登録が必要です。パソコン用のメールアドレスがあれば、無料で簡単に登録できます。


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句の宛先は
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


投句募集中の兼題

投句締切:1月3日

季語ではない兼題です。「磁」という字が詠み込まれていれば、読み方・用い方は問いません。季語は当季を原則として自由に選んでください。

寒犬 かんけん【三冬/動物】
犬は寒さに強く哀切の感は少ないが、寒夜に犬の遠吠えを聞けば胸に迫る。猟犬などは雪の中を駆けまわる。

投句締切:1月17日
生姜酒 しょうがざけ【三冬/人事】
 熱燗にした酒に、おろし生姜を落としこんだもの。からだを温めたり、風邪を治したりする目的で用いられる。

波の花 なみのはな【晩冬/地理】
 冬の日本海沿岸独特の現象で、岩石の多い海辺で波が砕けると、白い泡ができ、強風に舞うなどする。

投句締切:1月31日

季語ではない兼題です。「碑」という字が詠み込まれていれば、読み方・用い方は問いません。季語は当季を原則として自由に選んでください。

山茱萸の花 さんしゅゆのはな【初春/植物】
ミズキ科の落葉小高木。早春、枝先に黄色の小さい花が球のように集まって咲く。



《参考文献》『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


目次に戻る



100年俳句計画 掲示板



NHK総合テレビ(愛媛ローカル)
 「えひめ おひるのたまご」内
 『みんなで挑戦!MOVIE俳句』
  1月5日(火)、19日(火)11時40分〜

あいテレビ(TBS系列、全国)
 『プレバト!!』
   毎週木曜 19時〜19時49分
※組長がゲストの俳句ランキングづけで出演! 放送日番組欄を要チェック!

南海放送
ラジオ「夏井いつきの一句一遊」
 毎週月〜金曜日 10時〜10時10分
※ 投句募集中の兼題や投句宛先は、「一句一遊情報局」のページをご参照下さい。

FMラジオバリバリ俳句チャンネル
放送時間 … 月曜 17時15分〜17時30分
再放送 … 火曜 7時15分〜8時
兼題「寒木瓜・冬北斗」1月3日〆
   「枯尾花・鰭酒」1月17日〆
   「寒の明け・田螺」1月31日〆
 インターネットでも配信中。詳しくは番組webサイトへ。
  HP http://www.baribari789.com/
  mail fmbari@dokidoki.ne.jp
  FAX 0898-33-0789
※必ずお名前(本名)、住所をお忘れなく!
※各兼題の「天」句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。


執筆
松山市の俳句サイト「俳句ポスト365」
http://haikutown.jp/post/
 毎週水曜締切/翌週金曜結果発表

テレビ大阪俳句クラブ選句
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 「集まれ俳句キッズ」
※ 毎週日曜発刊タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井選)
 投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。朝日新聞松山総局(790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。

愛媛県《吟行ナビえひめ》句&写真
 俳句選者:夏井いつき
 写真選者:キムチャンヒ
【募集期間】毎月1日〜 25日前後締切
【応募先】http://www.iyokannet.jp/ginkou/
【問い合せ】愛媛県観光物産課
TEL 089ー912ー2491


句会ライブ、講演など

第9回夏休み句集を作ろうコンテスト表彰式
 1月9日(土)13時30分〜
 場所…子規記念博物館4F講堂
※参加は受賞者とその家族。問合はマルコボコム089-906-0694

第14回まる裏俳句甲子園
 1月10日(日)9時30分〜
  場所…子規記念博物館4F講堂
※観覧500円 エントリー1000円。問合・申込はマルコボ内まつやま俳句でまち作りの会 担当キム089-906-0694

八幡浜PTA研究大会句会ライブ
 1月17日(日)9時30分〜
 場所…八幡浜市文化会館大ホール
※問合と申込は八幡浜市青少年センター0894-24-1987

愛媛大学附属高校句会ライブ
 1月21日(木)13時30分〜

吉海支所人権句会ライブ
 1月22日(金)13時30分〜

NHK俳句キッズ
南予ブロック大会
日時…1月23日(土)13時〜16時
宇和島市立南予文化会館産業振興センター

中予ブロック大会
日時…1月30日(土)13時〜16時
松山市民会館小ホール

東予ブロック大会
日時…2月6日(土)13時〜16時
あかがねミュージアム多目的ホール
※愛媛県内の小学生が参加できます。申込はNHK松山放送局「俳句キッズ」出場係まで。申込締切【1月12日(火)】問合はNHKプラネット四国089-921-1163まで。

滋賀県草津市立笠縫東小学校句会ライブ
 1月29日(金)13時30分〜

第65回長浜盆梅展俳句まつり
 1月30日(土)
1 句会ライブ&ランチ 鑑賞券付 11時〜14時
2 句会ライブ 15時〜17時
 場所…長浜ロイヤルホテル
 参加費 1:5000円 2:1500円
 申込 長浜観光協会0749-65-6521



目次に戻る



魚のアブク


読者から寄せられたお便りをご紹介
お便りお待ちしています!
100年俳句計画編集室「魚のアブク」宛、もしくは互選や雑詠欄への投句に添えてお寄せください。

編=編集スタッフ

祝、句集出版!!
小市 句集Styleを利用して初めての句集『乱雑な部屋』を出版しました。昨年の暮れに「死ぬまでにやりたいこと」をリストアップしたのですが、その内のひとつが「句集をつくる」でした。11月で65歳になるのを機に、その夢を形にしました。未熟なものであることを自覚していますが、私が表出されてはいると思っています。読んでいただけるとありがたいです。
編 マルコボオンラインショップにて発売中!

俳句のある生活
みやこまる 俳句作りが楽しくて楽しくて、仕事なんてしてる場合じゃない!!(笑)今はまだひとり俳句で、ちょっぴりさびしい気もしますが……。
久我恒子 初めまして。今月から購読を始めました。皆さんの俳句のレベルの高さに、感動しています。あと、近代俳句史超入門のコーナーが特に興味深く、面白かったです。詰め俳句計画もいいですね。ぴったりの季語を考える訓練になります。そんなこんなで、来月も楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします。
ひさの はじめまして ラジオでは火曜日から抜け出せないひさのです。俳句を始めてまだ二年生ですが、毎月マガジンが届くのが楽しみです。隅から隅まで読んでいます。詰め俳句なら参加できるかなと思いきって投句しました。これかもよろしくお願いします。
編 仕事してる場合じゃないって名言〜!(笑) のんびりお楽しみ下さいませ〜。

詰め俳句のお知らせ!
大阪野旅人 1は意味が通じます。2若井はクプクプと湧くの、イメージ?。
編 実は12月20日締切りのお題に助詞の間違いがあり、修正版締切りを1月4日まで延長中。意味を考える時に助詞一つで結構違う……。

事の真相
元旦 元旦です。11月号で「踏切かんかん曼珠沙華の首飛んだ」の句について投稿しましたところ、神楽坂リンダさんから、私の句ではないとご指摘を受けました。自分でも思わず「びっくりポンや」と驚いたようなことです。慌ててバックナンバーを出して調べてみると、確かに神楽坂リンダさんではなく、西蓮寺ラグナさんの句でした。2010年12月号の「くらむぼんが笑った」で、組長により地に選ばれた句です。作者を確認もせずに投稿してしまい、皆さんにはご不快な思いをさせてしまいました。ぺこり。言い訳をさせてもらうと、なんとなく俳号の構成が似てませんか? 神楽坂と西蓮寺、リンダとラグナ。それで勝手に思い違いをしてしまったということで…ダメか。この機会に「抜刀のごとく提げゆく曼珠沙華」も愛誦させていただきます。どうかお許しくださいませ。
編 ああ〜確かに似てる!

質問箱
dolce 100年の旗手という意味が解りませんでした。俳句はじめてまだ半年です。よろしくお願いします。
編 投句フォームでご覧になったのかと推察します。読者同士作品を読んでみたい人を推薦するコーナーでした。近々リニューアル予定。

生活にある句材
さざなみ真魚 我が家から眺められるケヤキの木(他家所有)が、紅葉し始めました。すっかり秋です。あんなに暑かったのに……。
編 人ん家の木だって立派な句材!

孝次 エルニーニョの影響で、アタカマ砂漠が一面のお花畑になっているそうですね。いや、なってしまったが、いいのでしょうか……。
編 TV吟行したい。どんな花だろ。

100年俳句計画誌上編集会議

今月の提案 相談
小野更紗 句会ライブやイベント等の年間予定が早めにわかればとってもありがたいのですが。遠方の方も計画がたてやすいと思いますのでご検討ください。

編 ご意見ありがとうございます。紙ベースでお届けできればベストですが、まず実現するとすればweb上からの可能性が高いかと思われます。検討してみます。

 この欄への提案、質問、要望、その他は、100年投句計画投稿時のフォームに書き添えてお送り下さい。また、メールでの投稿も可能です。メールで送る際は件名を「魚のアブクへ」としてお送り下さい。

メールアドレス
 magazine@marukobo.com(編集室)


目次に戻る



鮎の友釣り


210
俳号 マイマイ
矢野リンドさんへ 釣り上げていただきありがとうございました。詰め俳句のファンとのこと、大変光栄です。期待を裏切らぬよう、しかし時には冒険しつつ精進したいと思っております。

写真 忘年会にて、まっことマンデーさんとのツーショット。もちろんコスプレしてない方が私です。

俳号 テントをマイカーに積んでいるので、「家を持ち歩く」→「かたつむり」→「マイマイ」です。テントも今は二代目。流星群を見に行くとき重宝しています。

次回…ドクトルバンブーさんへ プリマスロック句会のエースにしてライバル。句のスケールの大きさや表現の大胆さにいつも驚かされます。


目次に戻る



告知



編集会議開催

 編集会議は、2ヶ月に1度開催しています。年間購読をされている方なら、どなたでも参加できます。また、Eメールなどでのご意見もお待ちしております。

次回編集会議
日時:2016年1月29日(金)
   19時〜
場所:マルコボ.コム
   松山市永代町16-1
対象:本誌年間購読者
申込先:100年俳句計画編集室
E-mail:magazine@marukobo.com



俳句新聞いつき組
1月以降に新規で購読料をお支払いの方には
5号(2016年1月号)よりお届けします!
※5号は2016年1月中旬発行予定です!

※句集シングル『皺くちゃ玉』が付録の4月号からの購読は2016年3月まで受け付けいたします。ご希望の方は、新規で購読料をお支払いの際に必ず「4号から購読希望」と明記してください。

A4サイズ8ページフルカラー仕様
参加登録料(※初回のみ)1,000円(税込)
年間購読料 3,500円(税込)/年4回発行
*年1回、夏井いつきの句集シングル付録あり。

まずは無料の0号「創刊準備号」と購読のご案内をお送りいたします!
※0号「創刊準備号」を既にお持ちの方は、0号に掲載しております案内にしたがって購読料をお支払いいただくことで、正式な購読の申込となります。

ご購読のお申し込みは……

「俳句新聞いつき組」購読希望の旨、本名(ふりがな)、俳号(無ければ不要)、郵便番号、住所、電話番号、生年月日を明記して、下記のいずれかの方法で申し込んでください。

 ハガキで申し込む
  790-0022 愛媛県松山市永代町16-1
  有限会社マルコボ.コム
  「『俳句新聞いつき組』購読申込」係

 FAXで申し込む
 FAX番号:089−906−0695

 メールで申し込む
 kumi@marukobo.com
 (件名を「いつき組購読申込」としてください。)




第14回まる裏俳句甲子園
裏から堂々と来い!
キャッチコピー 梶浦公靖さん

日時 2016年1月10日(日)
 予選 9:30集合
 本戦 13:00〜 (12:30開場)

場所 松山市立子規記念博物館
   松山市道後公園1-30

エントリー料
 前売  1000円(当日1500円)
 観戦料 500円

お問い合わせ TEL (089)906-0694
マルコボ.コム内(担当:キム)




100年俳句計画作品集
100年の旗手
連載者募集のお知らせ

 本誌にて毎月10句3回の連載に挑戦する方を募集します。4月号に掲載できるタイトル付の10句の作品集を、Eメール(magazine@marukobo.com)、またはファクス(089-906-0695)にて本誌編集室までお送り下さい。編集室にて連載者を決定し、掲載いたします。
 応募締切は2月20日(土)。多数の挑戦者をお待ちしております。




会話形式でわかる
近代俳句史超入門 文・構成 青木亮人
単行本化準備中!
*連載は暫くお休みします。ご了承ください。



目次に戻る

編集後記


 今月号から募集が始まった「南極を詠もう!」。この連載を始めるきっかけとなったのは、昨年7月8日付朝日新聞愛媛県地方欄の「県立高教諭、南極観測隊に同行へ 現地から授業も」という記事。そして南極観測隊に同行される渡辺浩志先生にお電話したのが9月。
 当初の企画は、渡辺先生に南極から写真を送って頂き、その写真で読者が疑似南極吟行をするというもの。そして、もし可能なら、渡辺先生にも俳句を詠んで頂き、史上初(!?)の南極吟行を行えないかと相談をした。専門は地学の渡辺先生に、「事前に俳句の作り方を伝授します」と説得をし、11月、実際に渡辺先生にお目に掛かり、この企画が実現した。
 渡辺先生は出発前、「せっかくなら、他の隊員たちにも俳句を作って貰おうと思っている」と仰っていた。そして、今回の原稿と一緒に送られてきたのが、「小春日や寒に向かひて“しらせ”発つ」という越冬隊員源泰拓さんの俳句。
 俳句の種蒔が、南極大陸にも及ぶだなんて、想像するだけで心躍る。渡辺先生の活躍を祈りつつ、疑似吟行を楽しんで頂きたい。俳句は、希望峰君が紹介をする予定。お楽しみ。
(キム)


目次に戻る

次号予告 (219号1月1日発行予定)


次回特集

第9回「夏休み句集を作ろう!コンテスト」結果発表
小中学生達が40句の句集を作り、装丁を含め応募する
作品賞の結果を発表します。


HAIKU LIFE 100年俳句計画
2016年1月号(No.218)
2016年1月1日発行
価格 617円(税込)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子