100年俳句計画8月号(no.213)


100年俳句計画8月号(no.213)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。





目次


表紙リレーエッセー
くがつ 魔王


特集
俳都松山キャラバン大阪&東京



好評連載


作品

百年百花
 きむらけんじ/片野瑞木/高須賀あねご/山澤香奈


新100年への軌跡
 俳句/浅川芳直/中山奈々
 評/マイマイ/岡田一実


選者三名による雑詠俳句計画
関悦史/阪西敦子/桜井教人


へたうま仙人/大塚迷路

自由律俳句計画/きむらけんじ



読み物
愛媛県美術館吟行会/猫正宗
Mountain Cabin Dispatch/ナサニエル ローゼン(翻訳:朗善)
JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭
ラクゴキゴ/らくさぶろう
クロヌリハイク/黒田マキ
お芝居観ませんか?/猫正宗
百年歳時記/夏井いつき
近代俳句史超入門/青木亮人
mhm通信/暇人
句集の本棚


読者のページ
俳句ポスト365
一句一遊情報局
石鎚山お山開き吟行会 報告
100年俳句計画掲示板
魚のアブク
鮎の友釣り
告知
編集後記
次号予告




くがつ
魔王

 九月は苦月だ。残暑が体力を刈りとってゆく。
 ここ数年の九月は暑さで死にそうだった。高校三年のとき、自室のエアコンが壊れた。風が滅多に入らず、夜は死ぬほど寝苦しかった。エアコンの設置を求めたが、来年出ていくんだからと取り合ってもらえなかった。
 翌年、大学に落ちたため出ていくことは叶わなかった。見かねた親が高性能な扇風機を買ってくれた。しかしエアコンには遠く及ばなかった。エアコンのある所で勉強すればいい話なのだが、人前で集中できない私は自室で耐えきった。
 今年の九月はひと味違う。何故なら私は大学生、九月はまるまる夏休みなのである。そして新居にはエアコンがある……もっとも暑いのにはかわりないが。
 九月は苦月だ。しかしその中に風流を見出し、有り余る時間でたくさん俳句を詠んで“句月”にしていきたい。


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特集

俳都松山キャラバン大阪&東京



 去る7月4日&12日に、松山市主催のイベント「俳都松山キャラバン」が、大阪(大阪市此花区・クレオ大阪西ホール)と東京(東京都台東区上野公園・国立科学博物館)にて開催されました。本特集では、両会場で開催された、俳句対局トーナメント戦の模様を中心に、イベントの内容をお伝えします。


第1部 講演会
 俳都松山キャラバンの第1部は、俳都松山大使夏井いつきによる講演会。
 どちらの会場でも、俳句に縁のゆかりもなかった人々が、俳句に出合い、どんな風に豊かに変わっていったかを、具体的な例を挙げながら紹介しました。
 特に、大阪会場では、プレバトの裏話、東京会場では第1回俳句甲子園開催までのエピソードなどを交え、笑いの絶えない楽しい講演会となりました。
 講演会の後半では、実演を交えながら俳句対局の紹介を行いました。俳句対局の司会を行う家藤正人(本誌編集者)がステージに呼ばれ、実戦さながら、そして冷や汗をかきながら、その場で俳句を作り、会場を沸かせました。


第2部 俳句対局
 休憩を挟み、いよいよ俳句対局トーナメント戦の開催。まだ俳句対局を体験したことのない方へ、改めて説明を。
 俳句対局とは、将棋や囲碁のように、制限時間内に俳句を作り合う、一対一の句合わせ対決です。
 2012年秋、本誌主催による「俳句対局第1回龍淵王決定戦」(本紙2013年1月号参照)を開催したのが始まり。回を重ねながら、ルールを改定し、松山市の協力を得て、今回大阪と東京での開催となりました。
 両会場4名が、3句勝負でトーナメント戦を行いました。
 通常行っている5句勝負とは異なり、3句勝負のため、減点などを調整して試合を行いました。(左ページ参照)
 両会場の優勝者は、10月31日に松山市にて開催される頂上決戦へのチケットを手に入れます。

「俳句対局」の進め方
1 まず先手(黒)が、その場で出された席題(俳句)から一漢字あるいは一単語を頂き、俳句を作る。
2 後手(白)は、先手の作った俳句から同様にいただき、俳句を作る。
3 それぞれ制限時間6分の間に、3句まで繰り返す。

「俳句対局」作句ルール
1 使用する季語は当季に限らない。(傍題可)
2 前の句から頂くのは、漢字、または、自立語(助動詞・助詞を除く単語)のみ。
3 前の句の表記を変えるのは、不可。
4 前の句の季語、および季語の一部を季語として頂くのは、不可。
5 上記の作句ルールから外れた句を作ってしまった場合、逸脱の程度(左記)により0.5〜3点の減点が科される。
6 全ての作句を終えた時点で残り時間による減点を行う。(「時間点」参照)
7 残り時間が0になった場合、それまでの得点に関わらず負けとなる。
8 歳時記・電子辞書の持ち込みは、可。
9 事前のメモなどの持ち込みは、不可。

減点項目一覧
減点0.5:頂く単語の表記を変えて頂いてしまった。
減点1:頂く単語の表現を変えてしまった
減点1:前句の季語の一部を季語として使った。
減点3:前句から漢字又は自立語を頂いていない。

勝敗の決め方
審査員3名による判定で行われます。全ての俳句の「俳句点」の合計に、「時間点」を加えた合計点数の高い方が勝ちとなります。

俳句点
それぞれの俳句ごとに各審査員が10点満点で点数を付け、その平均を、その俳句の「作品点」とします。

*俳句の評価基準
1点 俳句として文字が書かれている。
2点 俳句としての基本的な知識に欠けている。
3点 類想が懸念される。句意が読み取り難い。
4点 類想が懸念されたり、句意が読み取り難いきらいはあるが、ひとまず句として成立している。
5点 作品としての強い魅力があるわけではないが、技術的には可も不可もなく成立している。
6点 5点の評価に加え、詩的要素が認められる。あるいは荒削りで難はあるが、発想に見るべき点がある。
7点 6点の評価に加え、発想あるいは技術いずれかの点で特に見るべきところがある。
8点 芸術的にも技術的にも、積極的評価ができる。
9点 8点の評価に加えて、強い芸術的魅力がある。
10点 9点の評価に加えて、普遍性を持った秀句である。

時間点
3句全ての俳句を4分未満に作り終えた場合、減点はなし。4分以上1分ごとにマイナス0.5点。ただし、制限時間6分に達すると、それまでの得点に関わらず負けとなる。



大阪会場

対局者
エルヴィン三木(エルヴィンみき)
出身地:関西。所属:ニューグランドホテルズ。俳歴:第13回まる裏俳句甲子園準優勝。

工藤 惠(くどう めぐみ)
1974年生まれ。神戸市在住。「船団の会」に所属。2014年第6回船団賞受賞。

中山奈々(なかやま なな)
1986年生。俳句甲子園より句作開始。「百鳥」「里」同人。今月号より、本紙「100年への軌跡」連載。

小鳥遊栄樹(たかなし えいき)
沖縄俳句会「若太陽」、関西俳句会「ふらここ」所属。「里」「群青」同人。


審査員
きむらけんじ
自由律俳句結社「青穂」同人。第1回尾崎放哉賞、第54、55回口語俳句協会奨励賞他。句集『圧倒的自由律・地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『今日も世間はややこしい』(象の森書房)他。自身のブログ「きまぐれ写俳日記」公開中。特技:泥酔、妄想。自由律、定型を問わず広く活動している。本誌自由律俳句選者。

津川絵理子(つがわ えりこ)
昭和43年、兵庫県生まれ。鷲谷七菜子・山上樹実雄に師事。平成26年より「南風」主宰(村上鞆彦と共宰)。句集『はじまりの樹』(第一回星野立子賞・第四回田中裕明賞)など。

曾根 毅(そね つよし)
昭和49年、香川県生れ。「花曜」「光芒」を経て「LOTUS」同人。現代俳句協会会員。第四回芝不器男俳句新人賞。第一句集『花修』(深夜叢書社)。


一回戦 1
先手 小鳥遊栄樹
後手 中山奈々

0 家のなき人二万人夏の月
1 夕凪や家出の人の靴軽し  〔採点:きむら/7 津川/7 曾根/6 =俳句点6.6〕
2 出口より先に風船出て来たる  〔採点:きむら/8 津川/6 曾根/8 =俳句点7.3〕
3 来店のベル高らかに雲の峰  〔採点:きむら/7 津川/7 曾根/7 =俳句点7〕
4 店長は本に埋もれて星涼し  〔採点:きむら/8 津川/7 曾根/7 =俳句点7.3〕
5 長髪を結んで日傘さしゐたる  〔採点:きむら/7 津川/5 曾根/6 =俳句点6〕
6 結婚をほのめかされて青蛙  〔採点:きむら/8 津川/7 曾根/8 =俳句点7.6〕

時間点
先手 小鳥遊栄樹 〔残り時間:1分7秒 = −0.5点〕
後手 中山奈々 〔残り時間:3分8秒 = −0点〕

合計
先手 小鳥遊栄樹 〔19.6−0.5=19.1点〕=【負】
後手 中山奈々 〔22.2−0=22.2点〕=【勝】


 試合開始前は、緊張でがちがちとなっていた中山奈々さん。しかし、試合が始まるといきなりエンジンが掛かり、物凄いスピードで作句。圧倒的な速さと作句力で、小鳥遊栄樹さんを退け勝利しました。



一回戦 2
先手 エルヴィン三木
後手 工藤 惠

0 夕立や殺生石のあたりより
1 殺人のような辛口夏の晴  〔採点:きむら/6 津川/5 曾根/5 =俳句点5.3〕
2 辛口カレーのようなあなた雪  〔採点:きむら/7 津川/8 曾根/7 =俳句点7.3〕
3 カレーより大好きな人青田風  〔採点:きむら/8 津川/8 曾根/4 =俳句点6.6〕
4 メロンより大好きだなんてうそよ  〔採点:きむら/7 津川/7 曾根/7 =俳句点7〕
5 夕焼やあふれる水のようなうそ  〔採点:きむら/8 津川/6 曾根/5 =俳句点6.3〕
6 夏の川うそつきな人と足ひたす  〔採点:きむら/7 津川/7 曾根/7 =俳句点7〕

時間点
先手 エルヴィン三木 〔残り時間:1分57秒 = −0.5点〕
後手 工藤 惠 〔残り時間:1分9秒 = −0.5点〕

合計
先手 エルヴィン三木 〔18.2−0.5=17.7点〕=【負】
後手 工藤 惠 〔21.3−0.5=20.8点〕=【勝】


 サングラス姿のエルヴィン三木さんと清楚な雰囲気の工藤惠さんとの対決。会話のような俳句に、会場が沸きました。評価の分かれた三木さんの句に対し、安定した評価を得た工藤さんの勝利。



決勝戦
先手 中山奈々
後手 工藤 惠

0 腐り居る暑中見舞の卵かな
1 卵白に血一点や夕桜  〔採点:きむら/9 津川/9 曾根/9 =俳句点9〕
2 点々と白旗あがる夏の空  〔採点:きむら/7 津川/7 曾根/8 =俳句点7.3〕
3 点字つぶれたる三寒四温かな  〔採点:きむら/7 津川/7 曾根/8 =俳句点7.3〕
4 心がつぶれたてんとう虫が飛ぶ  〔採点:きむら/7 津川/7 曾根/9 =俳句点7.6〕
5 我に似し飛鳥大仏星涼し  〔採点:きむら/8 津川/8 曾根/8 =俳句点8〕
6 大仏の鼻をくぐるや夏燕  〔採点:きむら/8 津川/7 曾根/8 =俳句点7.6〕

時間点
先手 中山奈々 〔残り時間:2分29秒 = −0点〕
後手 工藤 惠 〔残り時間:2分40秒 = −0点〕

合計
先手 中山奈々 〔24.3−0=24.3点〕=【勝】
後手 工藤 惠 〔22.5−0=22.5点〕=【負】


 決勝戦は、それぞれのスピードと俳句がぶつかり合う、手に汗握る試合となりました。「卵白に血一点や夕桜」で、審査員全員から9点を得た、中山奈々さんが、僅差で勝利し優勝しました。




東京会場

対局者
関 悦史(せきえつし)
昭和44年生。豈同人、第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞、第11回俳句界評論賞。句集『六十億本の回転する曲がつた棒』で第3回田中裕明賞。本紙選者。

中町とおと(なかまちとおと)
昭和54年生。埼玉県育ち、千葉県在住。2010年よりツイッター上で短歌・俳句を詠み始める。2013年、俳句ポスト投句を機にいつき組組員に。第4回大人のための句集を作ろう!コンテスト最優秀賞。

大塚 凱(おおつかがい)
平成7年生。開成高校出身、東京大学2年。俳句甲子園第14、15、16回大会出場、俳句同人誌「群青」所属。

青本柚紀(あおもとゆずき)
平成8年生。広島高校出身、東京大学1年。俳句甲子園第15、16、17回大会出場。「里」「群青」所属。


審査員
坊城俊樹(ぼうじょうとしき)
昭和32年東京都生。蟹座・血液型O型。祖父年尾のもとで俳句をはじめる。趣味はハワイ育ちの波乗り。俳誌「花鳥」主宰、日本伝統俳句協会理事。句集に『零』『あめふらし』(日本伝統俳句協会)、『日月星辰』『坊城俊樹句集』(飯塚書店)など。

岸本尚毅(きしもとなおき)
昭和36年、岡山生。赤尾兜子に師事、のち波多野爽波に師事。田中裕明主宰の『ゆう』創刊に参加。著書に『高浜虚子俳句の力』(俳人協会評論賞)、『ホトトギス雑詠選集鑑賞』『生き方としての俳句』『十七音の可能性』。句集に『舜』『健啖』『感謝』『小』など。

神野紗希(こうのさき)
昭和58年愛媛県生。俳句甲子園をきっかけに俳句をはじめる。第4回俳句甲子園優勝・個人最優秀賞受賞。2002年、第1回芝不器男俳句新人賞坪内稔典奨励賞受賞。句集に『星の地図』『光まみれの蜂』。現代俳句協会青年部長。


一回戦 1
先手 大塚 凱
後手 青本柚紀

0 夕風や白薔薇の花皆動く
1 夕暮はもう夏シャツをほしいまま  〔採点:坊城/6 岸本/6 神野/7 =俳句点6.3〕
2 暮れてなほ向日葵の黄が眼奥に  〔採点:坊城/7 岸本/7 神野/5 =俳句点6.3〕
3 眼の奥に滝があふれてゐるような  〔採点:坊城/6 岸本/6 神野/6 =俳句点6〕
4 寒林の奥の日向に肺くらし  〔採点:坊城/6 岸本/8 神野/9 =俳句点7.6〕
5 ただよへば肺の重たき夜のプール  〔採点:坊城/8 岸本/8 神野/9 =俳句点8.3〕
6 星月夜流木海へ濡れどほし  〔採点:坊城/7 岸本/7 神野/7 =俳句点7〕

時間点
先手 大塚 凱 〔残り時間:1分07秒 = −0.5点〕
後手 青本柚紀 〔残り時間:0分59秒 = −1点〕

合計
先手 大塚 凱 〔20.6−0.5=20.1点〕=【勝】
後手 青本柚紀 〔20.9−1=19.9点〕=【負】


 互いに徐々にエンジンが掛かり、4句目5句目とそれぞれ高得点を獲得。最後の最後、悩み抜いた青本さんが2秒を出しそびれ、合計点で大塚さんが勝利を掴みました。



一回戦 2
先手 関 悦史
後手 中町とおと

0 百日紅咲くや小村の駄菓子店
1 炎帝と子の大泣きを聴き通す  〔採点:坊城/8 岸本/9 神野/7 =俳句点8〕
2 子午線を大きく撓め大南風  〔採点:坊城/7 岸本/6 神野/7 =俳句点6.6〕
3 午前既に三十度越す葵かな  〔採点:坊城/5 岸本/6 神野/7 =俳句点6〕
4 蛍に幾度生まれれば許される  〔採点:坊城/6 岸本/7 神野/8 =俳句点7〕
5 フラクタル幾何学知るや蜷の道  〔採点:坊城/7 岸本/6 神野/8 =俳句点7〕
6 夕焼の耿耿と何屠りたる  〔採点:坊城/9 岸本/8 神野/9 =俳句点8.6〕

時間点
先手 関 悦史 〔残り時間:1分48秒 = −0.5点〕
後手 中町とおと 〔残り時間:2分09秒 = −0点〕

合計
先手 関 悦史 〔21−0.5=20.5点〕=【負】
後手 中町とおと 〔22.2−0=22.2点〕=【勝】


 1句目、上々の出だしの関さん。しかし、徐々に追い上げる中町さんが、6句目で高評価を得、決勝に進出しました。



決勝戦
先手 大塚 凱
後手 中町とおと

0 活きた目をつつきに来るか蠅の声
1 喉を声あふれて向日葵に眩む  〔採点:坊城/8 岸本/7 神野/7 =俳句点7.3〕
2 遊星はさみしき眸露あふる  〔採点:坊城/6 岸本/6 神野/8 =俳句点6.6〕
3 明易の蔓が遊びてちひさな家  〔採点:坊城/7 岸本/7 神野/8 =俳句点7.3〕
4 長梅雨や飼はるることの気易さに  〔採点:坊城/6 岸本/8 神野/7 =俳句点7〕
5 七夕の雨が受話器の中を降る  〔採点:坊城/6 岸本/6 神野/7 =俳句点6.3〕
6 爪立ちて額に受くる青時雨  〔採点:坊城/7 岸本/6 神野/6 =俳句点6.3〕

時間点
先手 大塚 凱 〔残り時間:2分34秒 = −0点〕
後手 中町とおと 〔残り時間:1分32秒 = −0.5点〕

合計
先手 大塚 凱 〔20.9−0=20.9点〕=【勝】
後手 中町とおと 〔19.9−0.5=19.4点〕=【負】


 1回戦の反省から、スピードで対局相手に圧力を掛ける大塚さん。中町さんは、相手のスピードに圧倒され、二試合連続の疲れもあったか、本領発揮できず。大塚さんが本大会の優勝となりました。



両大会の優勝者の中山奈々さんと大塚凱さん、更に、東京会場の審査員を務められた岸本尚毅さんと松山市の代表を加え、来る10月31日、頂上決戦を行います。こうご期待!


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百年百花


大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠
2015年度 第二期 第一回


「妄想T」 きむらけんじ

おんな一人暮らして蛸足配線
腕の蚊タバコで焼いて農業している
曲がればわけありの胡瓜と呼ばれ
アロハの爺さんを木陰に置く
頼まれてアンパンマンと昼寝する
海月と人間の間でまどろんでいた
廃校の蛇口をひねる蟻が出てきた
通勤の人身事故が舌打ちされる
タンバリン好きに叩いて母壊れていく
キリンは描かずキリンの空を描いている
雲低く雲の裏に誰かいる
長い廊下を点滴押して歩く旅


自由律俳句結社「青穂」同人。第1回尾崎放哉賞他。現在、本誌「自由律俳句計画」選者。特技:妄想、泥酔。自由律、定型にかかわらず活動している。




「つくつくし」 片野瑞木

城壁のような本棚大西日
籐椅子に開いたままの絵本かな
夏服の格子模様や囲碁クラブ
負け様を誉める先生扇風機
ハンモックの負傷者二名なる顛末
海賊の末が突き出す心太
海酸漿島の子どもという役目
目を洗う水こぽこぽと夏惜しむ
八月の小鍋を満たす朝の水
朝顔や左手で書くト音記号
右左右見て秋へ駆け出す子
子のリクツ親のヘリクツつくつくし


1963年愛媛県生まれ。さえずり句会所属。俳句対局マニア。初代龍天王。




「めんそ〜れ」 高須賀あねご

夕立晴沖縄最北端の島
眉太きCA赤きアロハシャツ
滞在は二十二時間花梯梧
一斉に汗ばんでいる中国語
梅雨明けの国際通りに待たされる
爬竜船(ハーリー)の形のベンチ大南風
麦稈帽アロハの審査委員長
胸涼し小銭はカンパボックスへ
夫でない男とスパムパイナップル
シーサーの形に入道雲立ちぬ
空を飛ぶオリオンビール島らっきょう
オキナワや沖に機の影雲の影


今年も俳句仲間にひこずられて石鎚のお山開きに行った。足元を確かめながら歩く。もういかんと思うくらいに足先が見えて顔を上げると、お山の主の天狗さんがニヤッと笑って迎えてくれたような気がする。




「雲梯」 山澤香奈

荒梅雨の赤子の眠り浅きかな
花合歓の濡れて光れば甘そうな
夏帽子ぷらぷらさせて子の帰る
紫陽花に隠れたき日もあるのだよ
今朝はまだ卵であった目高の子
夕立の軒に先生・園児・猫
木工用ボンド飛び出る夏休み
捕虫網借りる知らない兄ちゃんに
雲梯の真ん中夏とぶら下がる
緑陰の赤子の太ももの立派
後悔やハンカチーフの真白さに
ウミユリの化石眠らせ星涼し


1983年愛媛県岩城村(現上島町)生れ。ただ今夏休みのこどもたちと格闘中。体力がほしいです。




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新 100年の軌跡


2015年度 第二期
第一回


 雨 浅川芳直

塩竃・浦戸諸島六句
つばくらめ海の反射を高く去る
踏青や人好きの犬離れゆく
春疾風少女瞳に翳をもつ
春燈の揺らめきとどめ波返す
夏めいて教育実習先は島
髪留めを咥へ少女は白のシャツ
朝涼し剥き損ねたるゆで卵
恋かあらず並びて歩む夏木立
恋といふ荷のなき風の燈涼し
雨あがるひかり氷菓の封を切る
梅雨晴をひとしほあをくビルの窓
蝦蟇かなしベンチ小雨に濡れはじむ
日の戻り来ておもむろに蟇動く
ひきがへる雨の切目を伏目がち
夏の夜風にはかに泪目となれり


浅川芳直
 平成4年生。「駒草」所属(平成10年〜)。蓬田紀枝子、西山睦に師事、世古諏訪に親炙。東北大学大学院在学。




 夏痩せ 中山奈々

具合良くなくてシーツに百合の粉
けふ読めぬ本を枕に桜桃忌
ががんぼや吐き終はるまで待つてゐる
本読みに飽きてあぢさゐを罵倒
神の河の硬さに肋青嵐
夏痩せの夜の奥に本棚高く
緑蔭や飲まねば痛む尾てい骨
水疱の手にありありと本の黴
吐きやすき姿勢に土下座半夏生
風鈴や目の黒点の泳ぎたる
胃ふつふつして最終の冷房車
短夜の人差し指を栞とす
心臓に響く便意や著莪の花
背表紙の傷みに触るる昼寝覚
朝蝉や血潮の遅き土踏まず


中山奈々
 1986年生まれ。俳句甲子園をきっかけに高校2年より作句。「百鳥」「里」所属。




反射と傷み マイマイ

つばくらめ海の反射を高く去る 浅川芳直
 「雨」は光景を美しい言葉で切り取っていて爽やか。掲句は「高く去る」が格調の高い表現。燕が海の反射の中に身を躍らせた一瞬とその後の余韻までも一句に同居させている。
髪留めを咥へ少女は白のシャツ 浅川芳直
 何気ない動きの中のある一瞬を切り取っている。「白シャツ」という季語が少女の清純さを際立たせる。
ひきがへる雨の切目を伏目がち 浅川芳直
 「伏目がち」という作者の受け止め方が面白かった。自身の心情も少し蟇蛙に重ねているのだろうか。

ががんぼや吐き終はるまで待つてゐる 中山奈々
 「夏痩せ」は痛々しいまでの身体感覚をリアルに読み込んだ作品群。掲句はががんぼのゆらゆらした姿が寄る辺ない闘病の不安と重なり合う。
背表紙の傷みに触るる昼寝覚 中山奈々
 あくまで「背表紙の傷みなのだが自分の身体と繋がっているかのような感覚を起こさせる一句。
朝蝉や血潮の遅き土踏まず 中山奈々
 「血潮の遅き」が実感のある新鮮な表現。「朝蝉」の声がこの身体への違和感をいや増す効果をもって響く。


マイマイ
 1966年愛媛県生まれ。いつき組選評大賞2007優秀賞、2008奨励賞受賞。第1回、第4回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞受賞。句集シングルに『翼竜系統樹』。



視点の高低 岡田一実

つばくらめ海の反射を高く去る 浅川芳直
 「雨」は作中主体の位置を高く設定してカメラで言うと引いたアングルで書かれた句が印象的。掲句は「つばくらめ」の高みに作者自らが同行したような恍惚としたところが甘美な味わい。
恋かあらず並びて歩む夏木立 浅川芳直
恋といふ荷のなき風の燈涼し 浅川芳直
 「恋かあらず」と言っているが、そういうのこそが恋かもしれないよな、と勝手に思う。恋なんてことをうすうす気にかけながら並んでいるカップル。恋なんて所詮「荷」でしかないという突き放し方。恋に対してわざと距離を置いたような表現が初々しい。

具合良くなくてシーツに百合の粉 中山奈々
 「夏痩せ」は作中主体の位置を低く設定して事物に寄った表現が魅力的。掲句は具合の悪さに対しべったりとくっついた黄土色の百合の花粉を見せたことで気持ち悪さが増幅して伝わる。
夏痩せの夜の奥に本棚高く 中山奈々
 横たわっている作中主体が本棚を見上げているのだろうか。暗い夏の夜の闇に本棚がやけに高く見える。
胃ふつふつして最終の冷房車 中山奈々
 冷房車が辛い。外気との温度の差もあるだろうし、匂いのせいもあるだろう。「ふつふつ」というオノマトペがリアル。


岡田一実
 1976年富山県生まれ。第3回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞受賞。第32回現代俳句新人賞受賞。いつき組選評大賞2010年奨励賞。第3回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞受賞。句集に『小鳥』『境界ーborderー』。


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超初心者から中上級者まで楽しめる
100年投句計画

 「100年投句計画」は、読者の投句コーナーです。

 「選者三名による雑詠俳句計画」は、雑詠句の選句欄です。投句の中から先選者二名が、それぞれ天地人の句を選び、先選より漏れた句の中から、後選者が特選、並選を選んでいます。選者は、関悦史さん、阪西敦子さん、桜井教人さんです。

 「へたうま仙人」は、ヘタな句を褒め、巧い句を追放する、世の選句欄とは真逆のコーナーです。どんなにヘタな句でも褒めてくれるので、自分の俳句に自信のない方、何はともあれ褒めて欲しい方に最適(?)。担当は大塚迷路さんです。

 「自由律俳句計画」は自由律俳句の選句欄です。自由律俳句に挑戦することで、自由律俳句ならではの楽しさを味わうと共に、有季定型の俳句との思わぬ共通点も見えてきます。選者は、きむらけんじさん。
(投句方法は「100年投句計画」コーナー末尾参照)
写真:藤


選者三名による雑詠俳句計画


先選者 桜井教人

 世の中に読者モデルというカテゴリーがあるらしい。それで言えば私は差し当り読者選者なのだろう。この場でも、いつもの句会と同じ感覚で選をしたいと思っている。選の拙さ、文章の拙さなど諸処至らないところばかりであると思うが、どうかお許し願いたい。そう読者選者なのだから。


白シャツの乾ききりたる岩の上 のり茶づけ

 岩と白シャツとの対比が実に鮮やか。特に乾ききりたるという表現が、天候や気温、時間の経過など様々な情報を提供してくれる。映像ははっきりとしていて揺るぎようがない。ところがその向こうに踏み出そうとした瞬間に謎が一気に押し寄せてくる。シャツは何故濡れたのか。持ち主は大人なのか子供なのか。乾くまでの間何をしていたのか。映像の向こうは全て読み手に任されている。記憶の抽斗をいくつも開けてしまう句だ。



メトロにはいきてゐる揺れ都心首夏 森 青萄
 大都市の地下鉄の揺れが生きているのだという表現にとても納得した。多分生きているのは都市そのもので、地下鉄はその血管なのかも知れない。首夏の字面が季語の本意以上にこの句にとても合っている。

あの人の前世は蝦蟇として赦す てんきゅう
 「貴方の前世は蝦蟇だから赦してあげる」と女性から言われたことがある男はいるだろうか。強烈な個性をもつこの句に詩があるかどうか分からないが、強い「念」があることは確かだ。

出払った教室南風の吹く 富士山
 出払ったという措辞がとてもよい。少し前に生徒がいた時の雑然感と今との対比を見事に描いている。開けっ放しの窓から教室に入って来た南風が、誰もいない教室を楽しんでいるかのようだ。

荒梅雨やジャングルジムの独り言 哲白
 雨に濡れる校庭の遊具の中で、独り言を言うとしたらジャングルジムだ。雨でかまってもらえないことの愚痴なのか、それともより人気があるブランコへの嫉妬の言葉なのか。一度雨のジャングルジムを訪れようと思う。

白蓮の花形に切るゆで卵 明日嘉
 季語としての機能に疑問は残るが、仏の象徴としての白蓮から始まり、俗物のゆで卵に収まる語順が面白い。ゆで卵の輝く白さなら白蓮の神々しさを表現できるかも知れない。但し食べるのは少し躊躇しそうだ。



納骨を終へて戴く鰻飯 杉本とらを
子規に鼻押しつけている昼寝かな 藍人
朝顔の明日は二輪と見込む宵 南亭骨太
川上へ身を傾けて鮎を狩る みちる
雨音の単調にして梅雨の夜は 樹朋
枇杷の実の母の双手をあふれたり てん点
白シャツの駈けくる橋の上の駅  緑の手
夏至の日の切り出す竹の太さかな ゆりかもめ
不如帰戦闘を告げ夜のラジオ 樫の木
こんもりと見れば青大将交尾む ポメロ親父



先選者 関悦史

 雨続きであります。体調も崩れて、不注意も多くなる。じつは今回の選句中に、まちがって文書ファイルをひとつ消してしまいました。出鱈目な日本語を生成し続ける人工知能のアカウントがツイッターに幾つかあるのですが、そこから自分の句作に応用できないかとコピーして溜め込んであった奇ッ怪な文章が消えてしまった。思い出すのはもちろん不可能。今でも日々生成し続けているので、消えて惜しいものではないはずなのですが…。


立つもののひとつに玉子青簾 しんじゆ

 これは全体のバランスが絶妙で、型の上でも過不足がなく、季語に清新な意外性もあるという、じつに上手い句。まず玉子が立つもののひとつであるという断定が、垂直に立った玉子をイメージさせ、単なる玉子が抽象彫刻のように屹立するものという相貌を帯びてあらわれる。「青簾」がそれを涼やかな日本間に引き戻していて、いかにも和風な空間に、奇妙なオブジェが出現する潜在性があることに気づかせてくれます。



梅雨空や脂肪肝なるインコ在り 真魚
 食べ過ぎか運動不足か、インコも脂肪肝になる。不思議はなくともどこかひっかかるという素材です。昔は多分検査もろくになされなかったでしょう。軽く可笑しがるというのとは違う「梅雨空」の重さが合っています。

贅沢に生くる覚悟や日輪草 野兎
 「倹しく」ではなく「贅沢に」というのが意表を突く。季語に何が来るかでイメージが変わりますが、日輪草(ヒマワリ)は鮮烈、明快で描きやすいので、華美な装飾というよりはシンプルに血肉化された贅沢のようです。

海霧かかる町は静かに生きてをり 和音
 海霧が「かかる」とか「静かに」とか、一見無駄が多い、ゆるい言い方の句に見えるので、添削案はかなりいろいろあるのでしょうが、全体としてあるリアリティや情感が、押しつけがましくなく出ています。

氏素姓正しき嫁や金魚玉 未貫
 「妻」ではなく「嫁」なので、夫の家側から品定めしているような視線。「金魚玉」が涼やかですが、そう高価なものではなし、氏素性の正しさが目出度いのやら時代錯誤でナンセンスなのやらという変な面白み。

北へ行けイサムノグチの噴水へ しんじゆ
 イサム・ノグチは世界的な彫刻家。大阪万博の立方体の噴水ではなく、北海道のモエレ沼公園に現存する噴水のようです。噴水の句としては「北へ行け」の意志性が珍しく、噴水そのものを超えた先の世界が垣間見えます。



避暑の子の日本語英語西班牙語 ヤチ代
サイン入りハンカチいつもなでている レモングラス
兜太氏の醸す自由や牛蛙 かのん
六月のボーンチャイナに蕎麦を盛り 小雪
野良猫に帰り待たれて梅雨寒し 恵馬
自転車を止めるや夜の百合匂ふ もね
入道雲のわき上がる場所見に行こう ぴいす
夏至の日の切り出す竹の太さかな ゆりかもめ
古寺や鈴の音読経三光鳥 八木ふみ
総ガラスのビルの薄暑に立ちにけり 春告草



後選者 阪西敦子

 今年も住んでいる町で花火がある。荒川沿い。七月の第三土曜。引越してきて五年、五回目の花火の日、やっぱり仕事が終わらなくて、花火から帰ってくる人の中を家に向かう。今年はまだましなほうで、切れっぱしをビルのガラスに見ながら帰って、家でご飯を作りながらクライマックスを聴く。

特選句

いつまでを少年少女桐の花 瀬戸 薫
 ある種のあやうさだろうか、少年少女を定義するものと言うのは。桐の花の濃い香りはあるとき立って、ふと気づけばなくなっている。その香りに気づくものも気づかぬものもある。振り返れば眩しいばかりだ。

子烏の翼たたみて揃はざる みさきまる

 育ちつつある時と言うのは、なんであっても不揃いなもので、部分部分が勝手に伸びる。遅れる部分もあって、いつか整ってゆく。そのがたがたしたところがかわいらしさだ。うまく閉じられない翼に伸びゆく勢いを描く。

素麺の一本長し南風 ひでやん

 風の通るところでするすると昼餉の素麺を。仕事や暑さから解放された時間。箸の具合か、麺の具合か、一本長いのがある。そんなことに興ずるほどの、リラックスの度合なのだろう。素麺は風も光も纏って。


並選句
夏潮や島を踏まえる鉄の橋 北伊作
夏の日やコンプレックス投げ捨てる アンリルカ
新豆腐にがり能登の海より来 ちろりん
蚕豆の空に押されて頭垂れ 人日子
梅天やあの山この山さあかたぎ エノコロちゃん
噴水の落ちて砕けて液体に ミセスコナン
木の花の生きてる匂ひの下を行く まんぷく
捨てられし揃ひのカップ朝曇 ソラト
むせかへる百合の香猛き事故現場 うに子
フォーチュンクッキー齧って壊す巴里祭  越智空子
緑雨緑雨森のベンチを染めるごと 喜多輝女
臥す父の気配窺ふ青簾 雪うさぎ
公園に三組の親子梅雨晴れ間 八十八五十八
行々子テトラポットに並ぶ網 一走人
いもりの家族空より浄き水に棲む まみー
内耳へと鼓動響きし木下闇 おせろ
虹立つや小瓶に風と星の砂 ほろよい
雨水来て妻の背な押す茶碗坂 藻川亭河童
お屋敷の土塀くづるや麦の秋 小雪
梧桐の幹に身を寄せ水脈を聴く みちる
鼻ピアス卑弥呼も見たか矢車草 小市
三十年電柱並木を通勤に 多満
梅雨雲や妣と対峙の洗面鏡 凡鑽
父の汗染み込んでいる古帽子 迂叟
草庭に四年ぶりなる白躑躅 青柘榴
ゆふがをのひとつこえしとつぶやける  台所のキフジン
青年のけとばして行く花火殻 幸
朝焼けの病棟走る医師若し 松尾千波矢
椰子の樹の切られて遠ききりぎりす 遊人
夏霧やサッカーボールの子等包む 高木久美子
はじまりは田舎銀座や更衣 鯉城




関悦史(せきえつし)
1969年茨城県生。「豈」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。共著『新撰21』『超新撰21』『俳コレ』(以上、邑書林)、『虚子に学ぶ俳句365日』『子規に学ぶ俳句365日』(以上、草思社)他。雑誌「現代詩手帖」俳句時評欄担当(2012年1月〜)

阪西敦子(さかにしあつこ)
1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。

桜井教人(さくらいきょうと)
1958年愛媛県生まれ。松山市公立小学校教員。いつき組。子規顕彰松山市小中高校生俳句大会選者。第2回大人のための句集コンテスト優秀賞。第24回、29回俳壇賞候補。



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へたうま仙人


文 大塚迷路

 しかし暑いですのう。厚い面の皮を剥いだら少しは涼しくなりますかのう?
 杖をまたげばすぐオーバーヒートするし、雲に乗ったら煙を吐くし、運良く快適に乗れたと思ったら紫外線はきついし、まったく老人をなんと思っておるのか……おっと、愚痴はいかん。
 今月も暑さを吹っ飛ばす句から、ますます暑くなる句やら全世界から集まったぞ。
 身じろぎをしながら読んでくだされ。


精神と声だけ若しハスの花 柊つばき
梅雨晴れやサギ師も相手選ぶらし 柊つばき
 精神と声だけが若いんで結構ぢゃないか。ま、容姿も若ければ鬼に金棒、甥に金亀子ぢゃがの。贅沢を言ったら桐箪笥ぢゃ。ハスの花のように思い切り音を立てて咲きましょうぞ。
 サギ師に選ばれん選ばれ方をしてもろうて梅雨晴れのようにラッキーぢゃったのう。これから先も選ばれんことを切に望むぞ。二句とも季語の持って来方にハマッちゃったぞ。

蛍の灯別れの歌を舞ふごとく 老兵
まっすぐは壁ばかりなりエコの夏 老兵
 蛍が舞う、というのは常套手段ぢゃが「灯」が「舞ふごとく」としたところに工夫の跡が見えるのう。蛍の灯のひとつひとつが繁殖のためという即物的なものではなく、それぞれの短き生命の舞だと思うと、また見方も変わってくるのう。エコ、エコと世間はかまびすしいがこれも仕方のないことぢゃ。今までのツケは払わんとな。暑くて暑くて景色がゆがんで見えるのに、ビルの壁だけはいつも馬鹿正直にまっすぐに突っ立っておる。ますます暑くなるのう。いくらエコでも我慢し過ぎは禁物ですぞ。

蛇だとて物食らわねば生きられぬ 森子
壁ぎわにV字に伸びる薔薇深紅 森子
 どうも世の中では蛇を忌み嫌う傾向があるが、ワシも積極的に好きではないな。目の色を変えてゴキブリを嫌うご婦人達ほどではないが、出来たらあまり見たくないもののリストには蛇さんは絶えずランクインしているのう。そんな蛇さんも生きるためにグロテスクに丸飲みしているのだ、と同じ土俵で言えるところが俳人ぢゃ。感心、感心。深紅の薔薇が映えておるのう。きっと白亜の壁なんぢゃろうな。V字というのが未来があって良いのう。

蚯蚓食べ背中丸めて微笑まん KIYOAKI FILM
蜘蛛はグミですねん念の為 KIYOAKI FILM
 蚯蚓も食用になるそうで、近い未来、食料不足になるのを見越して昆虫と並んでスーパーで普通に売られるようになると思うぞ。その時のために料理、試食をしている会も結構あると聞いたが、それも踏まえて人類の先を行くこの句に正直驚愕したぞ。その上で、蜘蛛はグミみたいなものと言い切る作者は歴戦の強者とみたぞ。今度その秘技と極意を教えて下され。

父の忌やうら庭著我の花ばかり ひでこ
ダービーの鼻筋白き三才馬 ひでこ
 何も言ってはいないが、著我の花が亡き父の思い出の花ということがわかるぞ。決して華やかではないが、それでいて存在感のある著我の花のようなお父君だったんぢゃろうな。
 ダービーとは、またマニアックな季語ぢゃのう。府中の青い芝と初夏の青空と、若駒の白い鼻筋とのコントラストが凛々しいのう。一回行ってみたいもんぢゃ。

おはぐろのひらいてとじてまあ平和 小木さん
捨てるものまだ隠し持つ青あらし 小木さん
 世の中の事をまともな角度から見ない、いや、見られないのは俳人症候群の末期症状ぢゃ。「まあ平和」「隠し持つ」のひねくれ具合は重症の部類ぢゃ。これを乗り越えて更に研ぎ澄まされるのか、はたまた好々爺となっていくのかは幾多の症例と突き合わせて熟考せねばならんが、まあそこまで熟考するほどのものぢゃ無いかもしれん。が、なかなか奥の深い難しい問題ぢゃ。
 
眉をひくアイラインひく立夏かな 誉茂子
 夏色に替えたライナーを駆使して出来上がった顔は、もう夏を向いておる。行った春をいつまでも思っていたのでは前に進めんからのう。立夏の街路樹の下にキリッと立つ作者は眩しすぎるぞ。

はえとりの絡みて獲物捕らぬまま 元旦
切れかけのネオンggg…熱帯夜 元旦
 あるある感満載ながらも、人生や世の中へのシニカル視線たっぷりな二句ぢゃな。無用の長物へのさりげない同情とアイロニー。眠れない夜の耳障りな音への微かな共感と自虐。まさに現代社会の縮図を写し出す鏡の鑑ぢゃ。昨今の電力関連や町内会、国会の諸問題に全て当てはまるところが薄ら寒いぞ。こんな百物語の九十九話目のような句は、妖怪が出る前に目玉親父のもとへ追放!!


 おっと、熱帯夜にうなされて今月も追放者を出してしもうたが、なあに、暑さはこれからが本番ぢゃ。もっとうなされる作品を全世界が待っておるぞ。なかなかに前途洋洋ぢゃ。
 ぢゃが、くれぐれも油断召されるなよ。



へたうま仙人
 年齢 卑弥呼がおっぱいを飲んでいた頃、ワシは青春真っ只中ぢゃった。
 好きなもの 霞のシャーベット(PM2.5抜き)
 嫌いなもの 上手な俳句
 将来の夢 大器晩成


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自由律俳句計画


選者 きむらけんじ

 子猫で拾って来て、いま21歳になる飼い猫がいる。さすがにヨロヨロ歩く。食べるものはちゃんと食べるが、新陳代謝が進まないのか痩せてしまって一日のほとんどを眠っている。そのせいか爪が伸びて、床を歩くとシャリシャリ音がする。人間なら110歳くらいらしい。とはいえトイレでちゃんと用は足すし、ボケて徘徊することもない、眼も見えている。世話もかからない。なんか超後期高齢者の理想形を眺めているような気がしないでもない。猫ではなく、ひょっとして亀かもしれない……。


くちなはを殺してきた手に抱かれる 雪うさぎ

 口幅ったい言い方かもしれないけれど、「女の情念」のようなものを感じる。「くちなは」は、もちろん蛇の異名。それを殺してきた男との情欲の世界が、感情移入を極力抑えることによってかえって深く暗くあぶり出されている。ナイフではなく鉈(なた)のようなもので脳天を叩かれたような重い衝撃がある。大分前に揚句と同じような衝撃を受けた句があったのを思い出したので調べてみた。「烏賊裂いてその夜抱かれる女である(竹村国子)」。情念のようなものの表現は、女性には勝てないと思う。


六月のビー玉のような雨 一走人
 「……綺麗な風の吹くことよ」と子規が詠んだ六月は、夏の手前で一時停滞した独特の月のような気がする。「六月の水はむっつり目鼻がない(寺田良治)」「六月の設計ミスのようなドア(野本明子)」……など六月の捉え方には個性が出る。

生活の場所で声を上げること難し 小市
 日々の暮らしの中で生じる不満、軋轢、怒り、あきらめ……といったものを宥めたりすかしたりして、人は毎日をやり過ごす……。そんな思いを「難し」という言葉でうまくいいくるめることで、行き場のない鬱積が上手く表現されている。

空蝉は空蝉にしか成れず 野兎
 あたりまえと言えばあたりまえ。禅問答といえば禅問答か……。スパッと言い切ってしまったところにこの句の強さがある。夏木に忘れられたようにある蝉の抜け殻を、哲学にするのか生命の不思議とするのかは、読み手次第。すべては読み手に委ねられた句だと思う。

暑きは材木のビニール梱包 ゆりかもめ
 これはいかにも暑そうな気がする。この材木は、床柱のようなものになる扱い大事でちょっと高級な材木なのだろうか。ビニールに包まれた材木という見慣れない光景が、頭の中で膨らんで、どうにも暑くて気になる。

線香花火の囁くときが好き もね
 はじめは威勢よく火花を散らす線香花火も、最後にはなるほど「囁く」ようになる。この状況を「囁くとき」と捉えたのが上手いと思う。しかし最近の○○製の線香花火は、囁く間もなく火玉が即落下してお終いらしい。



やるときにはやることがない 藍人
夏の池掻き分けて来る鯉 和音
オーネットコールマンであることの不自由  南亭骨太
車イスくるっとまわし六月を歩く ミセスコナン
咲きたいとき咲きたいように咲く紫陽花  青柘榴
叫んでも駈けだしても夏 真魚
竹の皮脱いでも猫一匹分ほど しんじゆ
運のいい海豚はよくしなる うに子
10年経っても遺影の前の煙草とライター まみー
白い雲の逃げて行く薄暑 迂叟


並選
母の遺品にある臍の緒 杉本とらを
母さんは後からです芒種きぬ 藻川亭河童
蓼の花ちぎる懐かしい目をする レモングラス
白き馬いまも相馬野馬追白昼夢 森 青萄
今添え木がほしい 幸
揉み上げを切るプレスリー忌 ヤチ代
茄子食べてしづかに眠る生といふ  KIYOAKI FILM
片蔭といふ後悔の心象に浸る てんきゅう
「バカヤロウ」頬打って泣く女 凡鑚
さあ始めるぞっと雨上がる 多満
裏返しのTシャツで半日 のり茶づけ
その時にできる精一杯のことをしたと思うことにする 誉茂子
あいつの口調が活きてゐた卒業写真 みちる
生存率八分の二カルガモの子の悲劇 ほろよい
おはぐろのひらけば暗い 小木さん
夏の海へ蒔く風の種 緑の手
梅雨茸に傘を刺す 樫の木
紫陽花の昼餉 元旦
雨の匂ひのして六月 喜多輝女
油虫に生まれ不幸ですか ソラト
ホワイトボードのマグネットクリップも梅雨湿り ポメロ親父
六月午前三時ピーポ・パーポひとは生きたし  まんぷく
マタタビの白い葉も夏の色 エノコロちゃん
立ち長話蚊に喰れてゐる 人日子
嵐・けだものの嵐・麦嵐 ちろりん
留守の間にも咲いた薔薇 北伊作
餓鬼大将の家のがらんど青大将 鯉城
死んでいるごきぶりに驚く 遊人
冷た梅雨しとしとひとり 台所のキフジン
紫陽花の空へ空へとつづく道 あおい



きむらけんじ
1948年生まれ。第一回尾崎放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律 地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技 妄想、泥酔。



【100年投句計画】投句方法
 件名を「100年投句計画」とし、投句先(複数可)、俳号(なければ本名の名前のみ)、本名、電話番号、住所を明記してお送り下さい。投句はそれぞれ二句まで、詰め俳句は季語を一つのみお送り下さい。一つのEメールまたは一枚のハガキに各コーナーの投句をまとめて送っていただいても構いません。
ただし、「選者三名による雑詠俳句計画」と「へたうま仙人」は、選択制(どちらか一方のみ投句)となります。また「雑詠俳句計画」は欄へ寄せられた二句を各選者が選ぶ形式です。各選者に個別に投句を行うのではない点にご注意下さい。


10月号より
「マイマイの詰め俳句」復活!

10月号掲載分の問題
 次の(   )の中に共通する秋の季語を入れてください。

  われ未だ野の人たらず(   )
  この酔いどれに(   )とはまた粋な


それぞれ締切は、8月20日(木)

投稿ページ http://marukobo.com/toukou/
投稿アドレス magazine@marukobo.com
はがきFAXでも投句できます。


さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。(俳句ポスト365のページ参照)


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美術館吟行9
「平成26年度新収蔵品展+」吟行会


 文 猫正宗


 これまで美術館吟行は、企画展ばかりだったが、今回、恋衣、南行ひかる、チャンヒ、猫正宗の四人が訪れたのは常設展。企画展は特別に他の施設や所蔵家などから借りてきて展示する場合が多く、観覧料も特別に設置される。対して常設展は、開催する館が所蔵する作品・資料が展示されるため、観覧料も定額となる。
 言わば、特別展が華ならば、常設展は実。前者がハレなら、後者はケ。おめかしした君もきれいだけれど、普段の君も素敵だよ…。そう、その美術館の真実は、常設展にあるといっても過言ではないのだ。
 今回の常設展は、「平成26年度新所蔵作品展」まさに取って出しの、愛媛に縁(ゆかり)のある18作者48作品が並ぶ。

 先ず、長谷川竹友(明治18年〜昭和37年、現温泉郡重信町出身)の「印度パンジャブの里」と出会う。作者は何度もインドに訪れているそうなので、まったくの空想ではないのだろうが、その技法か、作者の感性か、はたまた時代の要請か、ユニークな幻想世界を現出せしめている。

孤独とはこの炎昼の象の背 恋衣
楽園は近し盛夏を進め右 チャンヒ

 筆者が吟行作句が苦手なのは、出会ったものを全て一句に読みこみたいという貧乏性が一因。

蓮池の象大正モダンという果実 猫正宗

 その点、南行氏は、二句に分けて作句。

天見上ぐ象の鼻先夏の月 ひかる
蓮沼へ誘ふ天女の素足かな ひかる

 その細密さが一種独特な迫力を放つ日本画、伊藤正次(昭和37年〜、上浮穴郡久万高原町出身)の「大楠図(生樹の御門よりメージして)」

光たどれば夏蝶の通り道 猫正宗

 そして「黒牡丹図」

生は死へ向かう過程や黒牡丹 チャンヒ

 まさにザ・大和絵といった凛とした面持ちの、遠藤広古(寛延元年〜文政七年、松山藩絵師)の「架鷹図」

括られて鷹の涼しき羽繕ひ 恋衣

 柳瀬正夢(明治33年〜昭和20年、松山出身)の「若葉」はサイズ的には、さして大きいとはいえない絵だ。

南国の車夫緑陰にとけし夢 ひかる
南方の熱き風巻き行く銀輪 猫正宗
古城へと風は若葉を過ぎ平和 チャンヒ

 にもかかわらず、観る者の視点が三者三様になる面白さ。

 大宮昇(明治34年〜昭和48年、現松山市三津出身)の「はるかなる世の海の歌」はアメノトリフネ(別称あり)が画題か?天津神が天下りした時の船であり、イザナギ、イザナミが最初の子ヒルコを海へ流しやった船でもある。

孤独とはこの炎昼の象の背  恋衣
銀漢へ極楽鳥よ舟を漕げ 恋衣
日も海も全ては朧黄泉の旅 猫正宗

 奇しくもその両面が表されたような二句となった。また、同作者の「清夜浴泉」は、女性の入浴姿を銅版画か石版画(筆者失念、ご容赦)で描いた、素朴で清冽なエロス。

清夜浴泉この身すべてを包む月 ひかる

 そして、本特集の最後は、畦地梅太郎(明治35年〜平成11年、現宇和島市三間町出身)の作品群。

畦地梅太郎が泣くように青い山 チャンヒ

 なお、小特集として「武智光春コレクション 福田平八郎 初夏の風物」と「海外の美術:ジャポニズム」も開催。
 その中からクロード・モネ(1840年〜1926年、フランス)の「アンティーブ岬」

波へ波へ極暑の松のくねりやう 恋衣
南仏の岬一本松へ光佇つ ひかる

 因みに南行氏は実際、アンティーブ岬に訪れたことがあるのだとか。

 南行氏にそんな一面があるように、ある土地の美術館の常設展に触れることは、その土地の知らなかった一面に出会うことでもある。もしお近くに美術館があるのなら、あなたの日常に美術館探訪を加えてみては?その時は、ポケットに句帳をお忘れなく。


猫正宗
メガネ句会&JAZZ句会が主な作句場所。「お芝居観ませんか?」連載中。



取材協力:愛媛県美術館


次回美術館吟行会
いずれも『100年俳句計画』編集室までお申し込み下さい。(TEL089-906-0694)

所蔵品展 どうしてそう思う? 小学生のための美術鑑賞
日時: 8月29日10時〜
場所:愛媛県美術館
参加無料(入館料は別途)
申込締切:8月27日

http://www.iyokannet.jp/



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Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳:朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ


No.25


My fingers, blue-stained
Sore but not bleeding, I hope
Painted with wet leaves

青梅雨の葉に染まりしかセロ弾く指


(直訳)
私の指 青い染み
痛むが血は出ていないはず
濡れた葉の色に染まつたのだらうよ



Swimming, walking, stretching and strengthening; we strive for health in music and in life. High summer is here, a time for preparation.

水泳、散歩、ストレッチにウェイトトレーニング。僕らは健康の為に努力する、即ち、音楽と人生の為に。夏の盛りがやって来た、準備を始める時だ。(訳:朗善)



ナサニエル ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。
2013年7月より山梨へ移住。


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JAZZ俳句ターンテーブル


文/白方雅博
(俳号/蛇頭)

第53話
笹島明夫&古佐小基史 at JAZZ BLEND


経緯(たてよこ)の糸の交じりて綾羅織る 南亭骨太

古佐小 最初の曲はオリジナルの「ワン・オア エイト」。訳せば「一か八か」。笹島さんも僕もそうなんだけど、若くしてアメリカに渡り、音楽で生活していくってのは正に賭けでね。様々な場面を何度も通過して今、何とかやれている。僕の自宅の裏に大きな樫の木があって、そこで夕方しみじみと振り返ったときの曲。

五十三弦震えすべての銀河生る 猫正宗

古佐小 笹島さんと出会ってまだ1年4ヶ月だけど、5年ほど前から変な日本人が近くに居るってお互いに知りながら会えなかった。で、ある時デュエットで僕の47弦のハープと笹島さんの6弦のギターがどう絡めるのか、なんてことを話したら直ぐに認め合うことが出来た。ただ、ジャズは会話だから、どんな知的な話をしても相性が悪ければ上手くいかない。
笹島 そうだね。それで実際にセッションしてみて僕は古佐小君を気に入って「8倍のギャラをくれるならやるよ」と言った。(笑)

雷鳴の空より高きアルシオン いしき

古佐小 次の曲はハープをギターのように弾けないかなあ、と思って作った「アルシオン」。意味は西洋の童話に現れる幸せを運んで来る鳥のこと。
笹島 どう、いい曲でしょう。鳥がすぅーって飛んでゆく感じ。古佐小君は良い曲を作るね。詩を付けたくなるよね。

琴弾くは帰る汝がため星の夜 破障子

古佐小 今の曲は?
笹島 デューク エリントンの書いた「プレリュード トゥ ア キス」というスタンダード ナンバー。

向日葵よブルースはある何処にでも チャンヒ

笹島 次はブルースでも演ってみようか。と言っても演歌のじゃないよ。― ハープとギターから演歌のイントロが流れ(笑)続いてシカゴの典型的ブルース ― 間違いなくジャズのルーツはブルースである、とディジー・ガレスピーやハービー ハンコックも言っている。で、古佐小君のオリジナルのブルース「スタック イン ア ノーホエア タウン」をどうぞ。この曲はブラスで吹いても、ちゃんとブルースになるんだ。

アポロンの竪琴宿る夏館 光海

笹島 次の曲はスペインのブルースと言ってもいいんじゃないかな。マイルスが最初ジャズに取り入れたロドリーゴ作曲の「アランフェス協奏曲」。
古佐小 それではフラメンコ風の笹島さんのアレンジで。

夏の露、音の切れ目が無い耽美 大頭

笹島 父親の13回忌で読経を聞いていて、ちょうどその頃この曲を演っていたのでフラメンコのこぶしとお経が重なってしまい、今にもお坊さんが踊りだすようなイメージが湧いて来てしまった。(笑)で、笑ってしまって兄貴に叱られた。(笑)両方ともインドから伝わって来ているからね。それで似てるんだろうな。

白シャツの分厚き胸のハープ弾き 夜市

古佐小 ビル・エヴァンスの「ワルツ フォー デビー」が好きで演奏しようと思ったけれど、構造上ハープでは難しくオリジナル曲を作った。「ワルツ フォー テラ」の「テラ」は妻の名。妻以外の女性の名を付けるのも変だから、ちょうど良い機会だったので妻にプレゼントした。

弦弾き支那の砂舞う暑さかな 照造

古佐小 最後の曲は「チャイナ ロード」。音の並びが中華な感じ。中国大陸の砂漠で三国志の騎馬軍団が砂埃を立てている。それが黄砂になって四国に飛んでくるような。

On the way home 玉虫引き連れて 恋衣

笹島 アルコール! アルコール! アルコールじゃなくアンコールね。何をやろうか。そうね、皆さんこれから帰るでしょ。だから、古佐小君の胸に沁みる名曲「帰り道―オン ザ ウェイ ホーム―」を演ろう。


 今月は、2015年6月14日(日)午後1時〜ジャズライヴ&第87回JAZZ句会より、実況版でお送りしました。

※笹島明夫&古佐小基史のギター&ハープのデュ オアルバム『ナイト タイム ジャズ ハープ』は本誌通巻205号で紹介しています。



http://www.baribari789.com/

「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の毎月第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は日曜日の25時〜26時。

次回のJAZZ句会は、8月30日(日)13時より。テーマは、クインシー ジョーンズの「私の考えるジャズ」です。句会への参加を希望の方は、本誌44ページの句会カレンダーを参照してください。


このコーナーで紹介した俳句とエッセイ、堤宏文さんの写真とを組み合わせた『JAZZ HAIKU vol.1』(マルコボ.コム)を発売中。


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ラクゴキゴ


第53話
『千両みかん』〜 せっぱつまると人間の価値観はどうなる?


 大阪 船場の大きな店の若旦那、原因不明の病気になり、ずっと寝込んでいる。
 大阪一の名医に診てもらうと、これは気の病で、番頭が何かと聞きだしたところ、欲しいものがあるのだという。
 年ごろなので嫁さんでも欲しいのかと思いきや、みかんが食べたいという。
 番頭は、そんなことなら、みかんを買って部屋中みかんだらけにしてみせますと受け合う……が、この暑い最中にどこにみかんがあるのかと大旦那は番頭を問い詰め、もしみかんが手に入らず、若旦那が死ぬようなことがあったら、番頭は主殺人の下手人として、さかさ張りつけになるぞとおどされ、大阪中みかんを探しに回るように言いつけられる。
 真夏の暑い暑い中、あちこちの八百屋を探し回ってもどこにもあるはずがない。ある店で、天満にあるみかん問屋に行ってみてはと教えられ、行ってみると、蔵の中に囲って保存してあるみかんの中から一つだけ、まだ食べられそうなのが出て来た。
 番頭が売ってもらおうと二分差し出すと、その金額では売れないと言う。
 事情を番頭が話すと、問屋は、お金は要らないから、みかんを持って帰り若旦那に食べさせてくれと言う。
 ただでは頂けない、船場でも大きな商家なので、金に糸目はつけない、遠慮なしに言ってくれと押し問答に。
 とうとう問屋は、千両なら売ると言ってきた。
 いくらなんでも高すぎると、店へ帰り大旦那に話すと、息子の命がたった千両で買えるのなら安いものだと、千両出してみかん一個を買うことに。
 そのみかん、皮をむいてみると、ちょうど10袋、一袋100両の計算になる。
 若旦那はたいそう喜んで7袋食べ、のこりの3袋を両親と番頭に食べてもらいたいと番頭に渡した。
 番頭、廊下でふと考える。13才の時から奉公してきて、来年ののれん分けの時にもらう金が50両。とても80両はもらえないだろう。
 この手にあるみかん3袋がなんと300両……。
 番頭、みかん3袋持ったまま、どろんしてしもた。



 少々長めの噺ですが、オチがなんとも馬鹿馬鹿しく、しかし、人間の心理をうまく突いているので面白いと思います。
 せっぱつまると、ワケのわからんことを考えるもんです。息子の命が千両だと安いものだけど、のれん分けには50両というシビアな金額を前にすると番頭、みかん持ったままおらんようになるのもわからんでもないです。ボクがその立場でもやりそう(笑)。
 この噺の時代は「囲う」ということはあっても、冷凍技術なんてまだ無いときですから、真夏のみかんの貴重なこと。
 現代ではこんな噺作れないですね。今この原稿を書いている私の事務所には、大洲から昨夜届いたばかりのハウスみかんがありますし、冷凍みかんも冷凍室に入っております。
 冷凍みかんは、シャリシャリして冷たくてウマイんですが、かき氷と同じように、頭の上の方がキーンと痛くなります。
 学校の給食でも出てたような気がします。
 今やコンビニのアイスクリームのコーナーに、個別包装された冷凍みかんがあるくらいですから、夏の季語として使うのもおもしろいかも知れません。

 風に溶かしてみやう冷凍みかん


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新聞記事に隠された俳句を発掘する
クロヌリハイク


黒田マキ


風おぼろ母の生まれし牛舎かな
(愛媛新聞より)


阿波おどり空港南で水遊び
(愛媛新聞より)


キリギリスではなくアリとなって立て
(2015年7月2日朝日新聞より)


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お芝居観ませんか?


文&俳句 猫正宗

第34回『屋根裏』
(燐光群公演、作 演出:坂手洋二、出演:円城寺あや、中山マリ、イ ジュウォン、他、'15年5月19日、20日、シアターねこ)

 天井がやや斜めに傾いだ、団地の押し入れの上の段程の広さの空間をつくる簡易個室キット「屋根裏」。そんな「屋根裏」の一つで自殺した弟を持つ男は、「屋根裏」を作った者を探し始める。男の探索行を軸としつつ、同時多発的に発生している「屋根裏」にまつわる様々な出来事が、交差しそうになりつつ、層をなしていく。
屋根裏に住まうは蛇かか
 「世界一小さな舞台空間から発信する『超演劇』」(チラシより)。芝居の場として、この空間を生み出したことが、先ず、大発明。そして、その空間に刺激されたであろう作家の赴くまま、「屋根裏」はめまぐるしく変転する。ひきこもりたちの居場所、拉致された少女の監禁部屋、刑事の張り込み小屋、江戸時代の刺客が潜む天井裏、ホームレスたちの住居、etc、ある時は時代のアイコンとして、またある時は弾圧の対象として……。それを東京の小劇場などで活躍する役者達が、その演技力、存在感で支える。イメージの奔流とならではのエネルギーの波状攻撃。
 知人いわく「シモキタじゃないと観られないような芝居が、松山で観られるとは思ってもみなかった」
屋根裏に夏星一つ置き忘れ
 本誌も担っている地方からの文化創造・発信。そうはいっても、都会と地方における文化格差はまだまだ大きい。先日、ついうっかり某演劇誌を開いてしまったら、メジャーからマイナーまで綺羅星の如くで、あまりの眩さに、思わずページを閉じてしまった。無論、時間と空間の占有の魅力。その時その場でしか体験できないものは、東京だろうが、利賀村だろうが、ロンドンだろうが行くしかないというのも事実。だが、そもそも、そういった世界と接する機会がなければ、どうしてその魅力を知ることができるだろうか。
 だからこそ、本作のような芝居が、採算的には厳しいだろう中、何かを求めてここに来てくれたことのありがたさ。
 観客たる私は、それに見合う何かを返すことができただろうか?



このコーナーでは、松山市民劇場例会にて公演された芝居を紹介します。


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百年歳時記


第27回 夏井いつき

 有名俳人の一句を紹介鑑賞するページは世に数々あれど、「市井の逸品」とも呼べる一句を取り上げ鑑賞する記事はそんなに多くありません。
 百年先に残したい佳句秀句奇々怪々句を見いだし、皆さんと共に味わおうという連載は、名づけて「百年歳時記」。夏井いつきの目に触れた様々な作品を毎月ご紹介していきます。


ほろびのちとはの晴天金魚玉 とおと
 平仮名表記の意味を読み取るのに少し時間がかかるのも、作者の企みのうち。「滅びの血」「滅びの地」などと読んでみた後に出現する「の」の一字に困惑し、再度読み直し、ハッとします。「滅びのち永遠の」という意味があぶり出された時の鮮やかな驚き。
 波多野爽波の名句「金魚玉とり落しなば鋪道の花」のように、季語「金魚玉」には滅びの美しさという詩的要素も内包されています。「ほろびのちとはの晴天」という詩語が紡ぎ出す世界は、割りたくない「金魚玉」が割れるかもしれないという美しい緊張感に満ちています。さらにこの詩語は、人類の滅びの後の痛々しいまでに青い「晴天」をも示唆し、読み手の心を哀しく満たしていきます。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』6月26日掲載分)

夕立に鳴る研修のヘルメット 大分 樫の木
 難しい言葉はどこにもないのですが、この句の一番の巧さは「鳴る」という動詞の選び方、そして語順です。当たり前のことですが、俳句は上五から順に読んでいきますので、一つの単語が出てくる度に脳は次々に反応していきます。「夕立に鳴る」って何が鳴るんだろう?と思ったとたん「研修の」という言葉がでてくる。何の研修?と思ったとたん「ヘルメット」というモノが出現する。その瞬間、読者の脳内には「研修」で「ヘルメット」を被る現場が幾つか立ち上がってきます。厳しい研修現場を容赦なく襲う「夕立」。ここで騒ぐわけにもいかぬ研修の身。激しい雨粒が鳴り出す「ヘルメット」の生々しさによって、季語「夕立」がありありと再生されます。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』7月3日放送分)

山滴るわが身も杉の香を放つ ターナー島
 みっしりと繁る杉の林をぐんぐんと歩き続けてきた作者です。杉林を抜けると視界がぱっと拓けます。眼前にはまさに「山滴る」かのような夏の山が聳え、径は頂上へ向かって勾配を厳しくしています。目指す山頂を見上げれば、「わが身」から「杉の香」が放たれているかのような心地がする。この感知そのものが詩です。
 何といっても「わが身も」の「も」が巧いですね。「わが身」以外に青々とした「杉の香」を放っているのは、杉そのものであると同時に、青葉繁れる夏の山をも思わせます。動詞「滴る」を「杉の香」という嗅覚につなげることで、「わが身」から「杉の香」が放たれ滴っていくかのような印象をも醸し出す、巧みな一句です。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』7月17日放送分)

豪雨の登山ふれたれば遭難碑 理酔
 「豪雨の登山」の七音が読者を否応なく豪雨の中に引きずり込みます。そして、いきなりの「ふれたれば」という措辞。「豪雨」で視界がきかない中での「登山」ですから、足を取られそうになって思わず何かに縋ったのでしょうか。何気なく手に触れるものがあったのかもしれません。硬い冷ややかなものに触れてみると、それが「遭難碑」であったという驚きに、読者の心も揺れます。
 「遭難碑」の石の肌には流れるように雨が降りしきります。かつてここで亡くなった人たちがいた事実。危険を伴う「登山」というナマな季語の現場が、「豪雨」という状況、「遭難碑」というモノ、「ふれたれば」という手触りによって表現された作品です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』7月17日掲載分)

砂売りが幾度も通る南風 田中ブラン
 季語「南風」は明るく清々しいイメージで受け止められがちですが、実は「湿気を含んだあたたかい風」であり「時に強烈に吹く」ことは、この季語の本意として押さえておきたい事項です。
 あれ、今日は「砂売り」が幾度も通ることだねえ。「南風」に吹かれた砂が家の中にもしきりに入ってくるよ。砂が「南風」の湿度で肌にじっとりとくっついてくるよ。潮の臭いと汗の臭いが雑じるよ。舌がザラザラしてくるよ。砂の味がするよ。眠くなってきたよ。
 「砂売りが通る」とは、うつらうつら眠くなるというフランスの慣用句。「砂売りが幾度も通る」うちに、「南風」の熱と湿度と砂にまみれたまま眠りこけていきそうな摩訶怖ろしいファンタジー。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』7月3日掲載分)


*百年歳時記は、南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』や
 松山市公式サイト『俳句ポスト365』(http://haikutown.jp/post/
 などに投句された俳句を紹介します。


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会話形式でわかる
近代俳句史超入門


第14回
文 構成 青木亮人

 大学で俳句を研究する青木先生と、その教え子で俳句甲子園の出場経験もある大学生の俳子さんが雑談を交えながらの近代俳句史超入門。

戦争期の虚子の逸話

 二人は大学の教室で高浜虚子について論じあっています。

虚子も子規も……

青木先生(以下青) そういうわけで、虚子も様々な挫折や失意を味わった後に俳句の事業に本格的に打ちこんだ人物だった、といえそうです。彼は俳壇の王者のイメージが強いためか、権威をほしいままにした成功者と思われがちですが、それなりに苦しい道のりの人生だったと思いますよ。
俳子(以下俳) 子規さんもそうでしたけど、虚子さんにも悩みや諦めや色々あった末に俳人になったんですねえ……下積みの苦労を重ね、ついに紅白歌合戦に出場した演歌歌手みたいなものでしょうか。
青 うーん、子規や虚子は初めから俳人になりたかったわけでなく、あれもこれもダメだった後に「俳句しか残っていなかった」と俳人になったタイプなので、最初から歌手になりたくて頑張った演歌の方々とは少し違うかもしれません。
俳 なるほど……虚子さんたちは望まずして人間万事塞翁が馬、図らずも臥薪嘗胆の末に百花繚乱だった、みたいな? 
青 言いたいことは分かるんですが……変な故事成語ラップみたいですね。全く五里霧中ですよ。

虚子の逸話

俳 で、今回も虚子さんらしい逸話を紹介して下さるんですよね。
青 話に乗ったのに、スルーしましたね……そう、彼の俳句作品と無縁そうに見えて実は共通点があるエピソードを紹介しましょう。
俳 ゴゴゴ、ゴゴゴゴ……
青 (あたりを不安そうに見渡す)ちょっと、喉の奥から変な声を出さないで下さい。地鳴りかと思いましたよ。
俳 私はただ緊迫感を盛り上げようと効果音を発しただけ……地鳴りなんて、心外ですわ。(ため息まじりに髪をかき上げる)
青 連ドラのヒロインのように髪をかき上げたつもりかもしれませんが、逆上したなまはげにしか見えない……いや、そんなことはいいんです。昭和期の虚子の逸話からしましょう。弟子がまとめた虚子先生語録といった本(解説1)に、次のようなくだりがあります。「ある年の暮のことである、私たちが何かの句会に日比谷公園に写生に出かけて、鶴の噴水のある池の辺りをぶらついていると、どこかの工場の失職者とも見える男が先生のそばにきて、しばらく様子を見て立つていたが、突然先生に、『あなたはどんな気持でこの景色を見ていますか。』と質問した。それは、このせちがらい年の暮にのんきに句を作っている我々に対して、多少反感を持つた質問であつた。先生は手にした句帳をそのまま、静かに、『私はこれが職業です。』と答えられた。その人は黙つて立ち去つた」。
俳 おぉ……かっこいい。
青 こういう話もあります。太平洋戦争が終わった直後、多くの新聞記者が虚子にインタビューしたそうです。戦争で俳句はさぞ大きな影響を受けたでしょう……と。しかし、虚子は決まって「俳句は何の影響も受けなかった」と答えたとか。すると、「新聞記者は皆唖然として憐むやうな目つきをして私を見た。他の文芸は皆大いなる影響を受けた、と答へる中に、又、私以外の俳人は大概、大きな影響を受けた、と答へる中に、一人何の影響も受けなかったと答へるのは、痴呆の如く見えたであらう」(解説2)。しかし、虚子は悠然と同じ答えをし続けたというのです。
俳 凄い……虚子さんの肝の太さというか、コワイぐらいの性根の据え方みたいなのが分かってきました。
青 といいますと?
俳 虚子さんの回答を現在に置きかえると、東日本大震災や原発事故について聞かれた時、「俳句は何の影響も受けませんでした」と答えるようなものですよね。不謹慎かもしれませんが、例えばの話です。ほら、雑誌や本で「震災以後の俳句とは」といった特集が盛んに組まれたじゃないですか。私も興味深く読みましたし、色々考えることもありましたけど、そういう中で俳壇の王者の虚子さんが「震災? 別に……」ととぼけた感じでしょうか。かなり非常識なんじゃないかと。
青 うーん、太平洋戦争と大震災では状況がかなり違いますが、まあ、言わんとすることは分からないでもない。戦争でいえば、虚子は昭和二十年に無条件降伏を知った際、「敵といふもの今はなし秋の月」(解説3)という句も詠んでいます。いわゆる挨拶句のような、軽い感じですよね。
俳 下五にしれっと「秋の月」とか、いかにもという季語を置いてまとめちゃったところが変にユーモラスというか。とりあえず俳句の形に沿って詠みました、でもどこまでも真面目です、といった虚子さんの飄々とした表情が見えそう。

戦時中の虚子

青 この句は、例えば次のような逸話とともに味わうと虚子らしいかもしれません。戦時中、彼は俳壇の長として日本文学報国会の俳句部長を務めていました。
俳 ホウコク……どこに報告するんですか? 
青 お国に報いる「報国」の方です。戦場で頑張る兵隊さんのように、文学者もお国のために役立つ作品を書こう、むしろ国策に叶ったものでなければ発表する意味がない! という風潮とともに結成された組織で、虚子は俳句部門のリーダーになったわけです。
俳 話が読めてきました。虚子さんのことだから、あまり働かなかったのでは。
青 その通り。求められたら一定のことはしましたが、相当醒めていたらしい。これはある方にお聞きした話ですが、ある時、報国会関連の集会で「お国のために!」といった講演やイベントが催され、一般人も多くつめかけたそうです。文学者も数多く参列し、壇上に立って熱弁を振るう軍人や経済人の話を神妙に聞いている中、俳句部長の虚子の席が空いている。欠席したら後で何を言われるか分からない時代に、ですよ。
俳 やっぱり……さすがというか、何というか。
青 すると、虚子は大幅に遅刻して多くの弟子達とともに会場に現れ、一応席に座ったんですが、しばらくすると壇上に一礼した後、弟子達を引き連れて帰ってしまったらしい。周囲はあ然としたそうです。
俳 そんなことして大丈夫だったんですか?
青 虚子だから許されたのであって、他の俳人ならば「非国民!」と糾弾されたでしょうね。その彼が敗戦後に詠んだのが、「敵といふもの今はなし秋の月」。
俳 あ、そういえば先生、虚子さんは戦争中や敗戦後も「写生」「花鳥諷詠」を力説し続けたんですか?
青 もちろん。何が起きようと「写生・花鳥諷詠」の一点張り。
俳 なるほど……「戦争中は『敵』がいましたが、戦争が終わった今、『敵』はいませんね」って、そんな簡単な話じゃないでしょうに! というツッコミも何のその、虚子さんにとって太平洋戦争はそういうものだった、と。「写生」や「花鳥諷詠」は少しも揺るがなかった、今も昔も秋には「月」が夜空を輝かすのと同じように……という感じでしょうか。
青 おぉ……俳子さん、前回に続いて冴えていますね。ただ、「秋の月」は戦争に対する優位を示すというより、人間界の栄枯盛衰と無関係に運行する自然の非情さ、と捉えた方が、より「写生」的でしょう。
(続く)


青木亮人(あおき まこと) 1974年、北海道生まれ。現在、愛媛大学准教授。著書に『その眼、俳人につき』(邑書林)など。



解説


解説1
門人の赤星水竹居(「ホトトギス」発行所のあった東京丸ビルの責任者)がまとめた『虚子俳話録』(昭和十一年)。孔子の『論語』のように虚子の多様な逸話が列挙されている。
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解説2
『虚子俳話』(昭和三十三年)序文に見える逸話。
本文に戻る 解説2

解説3
昭和二十年八月二十二日の作句で、前書は「詔勅を拝し奉りて」。
本文に戻る 解説3



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まつやま俳句でまちづくりの会通信


第53回 文 暇人

各種事業のお知らせ

 前回の新代表によるmhm通信はいかがでしたか? 今回は通常通り暇人が担当します。
 先日来お知らせしていた「日暮屋の蕎麦を食べようプロジェクト」が動きます。まずは第一弾「耕し、種まき&そうめん流し」を行います。
 日時…8月8日(土)10時〜
 集合…クールスモール「利楽」前
(愛媛県東温市見奈良)
 会費…実費(2千円程度)
 申込締切…8月1日(土)
 申込先…mhm_info@e-mhm.com
 当日は耕作予定地にて草引き、耕し等の作業の後、種まきを行います。労働の後は会場を移して「そうめん流し」を堪能。mhmの企画ですのでもちろん俳句も作ります。当日は耕作地へ入るのでそれに合わせた衣服等(長袖、長靴、虫除け等)の準備を各自宜しくお願いします。なお事業は10月に第二弾として「刈り取り、天日干し」、第三弾は11月に「磨き」、最後に「そばうち(製粉・蕎麦打ち・打ち上げ)」の連続したイベントです。続けてのご参加をお待ちしております。この模様は随時ブログやFacebookそして紙面にてお伝えできればと思います。
 もう一つ、蕎麦企画の締め切り日である8月1日、13時40分〜エミフルMASAKIにて、超初心者向けプチ俳句教室が行われます。このイベントには、なんと前mhm代表のあねごさんが登場。おそらく痛快な捌きを披露してくれるはずです。お時間のある方はぜひエミフルMASAKIのグリーンコートへ。
 松山城歳時記化計画では、今まで蓄積してきた写真等のデータをまとめていきます。先日私とキムさんとでデータ整理の作業を始めたところで、作業ペースは遅いのですが、最終的にはどうにか形にしたいと思っています。アドレスはhttp://matsuyama-castle.e-mhm.comです。
 最後に、前回の定例会および懇親会のご報告。今回はいつものメンバーに加えて柴羽さん、脇々さん、そしてきとうじんさんが参加。今回紹介した事業に加え、7月18日に行われた古川町内夕涼み会での協力や地域福祉実践セミナーin徳島・阿波市に俳句企画で若狭代表を派遣する件など協議しました。
 協議のあとは懇親会。今回は不定期で開催しているワイン会が行われました。野風さんによるワインの解説を聞いてからのスタート。選ばれたワインはどれも美味でした。
 次回は若狭代表がこの通信を担当します。地域福祉実践セミナーin徳島の俳句企画を中心に報告します。こうご期待を!


mhmでは、ひきつづき松山市内外問わず会員および役員を募集中です。原則、毎月最終週の火曜日19時からマルコボ.コムにて会議がおこなわれます。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)またはFacebook(http://www.facebook.com/mhmhaiku)まで。


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句集の本棚





『あおだもの木』 小倉喜郎 著

 不思議な題名に惹かれ捲る句集のとびらには、「アオダモのアオの由来は雨上がりに樹皮が緑青色になること、…」とある。
一章
  実験は失敗また春大根を炊く
  靴脱いで揃えて春の逆上がり
 やはらかで、それでいて闇を抱えている春の世界に立たされる。
二章
  傘の骨一本折れて業平忌
  前の人を傘でつついて桜桃忌
三章
  蚊を叩くあおだもの木が揺れている
  蝉時雨まだあおだもが揺れている
 さりげなく散りばめられている傘、忌日などの措辞。四季を通し作者の日常と非日常を繋ぐ扉はあおだもの木なのかも。
四章
  眠れなくて鈴木六林男を考える
五章
  初めてのマッコリマッコリ冬の月
六章
  椅子持って紋白蝶についてゆく
  砂蟹はどこで記憶をするのだろう
 人生とは、自分を自分で実験する事か。自分であり続ける為に。
 カバー装丁の「アオダモ」の文字が、あおだもの木の樹皮のように白く輝き浮かび上がる瀟酒な装幀は、和兎。
 第一句集『急がねば』に続く全二百六十句。京都府の亀山城趾の、植物園にあるというあおだもの木二本に触れに行きたくなる句集。
(書評:恋衣)

ふらんす堂(2012年初版)
定価 2476円(税別)
全151ページ



『花修』 曾根毅 著

 第四回芝不器男俳句新人賞の著者の第一句集。日常のなかに不意に現れる亀裂に目を向けすくい取る骨太な作品が目を引く。
  夕焼けて輝く墓地を子等と見る
  秋深し納まる墓を異にして
  霾るや墓の頭を見尽くして
  墓場にも根の張る頃や竹の秋
 墓に向ける眼差しはどこか親しげで、墓が身近なものとして捉えられている。
  燃え残るプルトニウムと傘の骨
  大寒の残骸として飼育室
 東日本大震災を思わせる「プルトニウム」といった言葉もさらりと詩語の一部として取り入れている。
  滝落ちてこの世のものとなりにけり
  水吸うて水の上なる桜かな
  ふと影を離れていたる鯉幟
  夜の梁雪の白さに晒されて
  獅子舞の口より見ゆる砂丘かな
  落椿肉の限りを尽くしたる
  地に椿舟に人影無かりけり
  闇に鳩鳴けば静かに火を焚かん
 栞文を芝不器男俳句新人賞選考委員。「LOTUS」同人。
(書評:岡田一実)

深夜叢書社(2015年初版)
定価 2800円(税別)
全165ページ



このコーナーで紹介した句集は、100年俳句計画編集室にて閲覧できます。


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俳句の街 まつやま
俳句ポスト365


協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/


優秀句
平成27年6月度


【滴り】
《地》
滴りごと陽はさかしまに膨れけり  このはる紗耶
滴りや沢筋青き山の地図 江戸人
右肩に滴りを受け崖の道 笑松
滴りをくぐりて巨樹のうろにをり  紀貴之
滴りやけものとわける水と影 うに子
滴りや往時五百の修行僧 てまり
豊足と言はれし山や滴りぬ すえよし
滴りや河童橋まで走ろうか 津葦
滴りや黄河は何処より濁る 鞠月

《天》
したたるしたたる樹海に鳥の声ゆがむ  Y音絵


【高菜】
《地》
一畝は高菜の為すがままである  大塚迷路
大いなる高菜紫紺の筋いくつ どかてい
阿蘇を這ふ水脈無尽なり高菜折る  とおと
高菜畑圧倒的な雲の脚 未貫
湯の宿の一家総出や高菜漬く スズキチ
桶に全身で押し込む高菜かな 睡花
高菜は出来んよここは風の里だあ  関野無一
高菜茹で強欲婆で押し通す みちる
高菜盛る昔話のやうな飯 理子

《天》
高菜畑月こわごわとなめてゆく  花屋


【六月】
《地》
六月のはじめは灰の降るやうに 森青萄
六月の空は六回脱皮する 山香ばし
六月のシャーレに鬱を培養す Y音絵
モディリアーニ泣きさう六月の画廊  おせどのすずめ
六月の忌や鯨ベーコン色の空 くろやぎ
六月の百葉箱に雨の熱 てんきゅう
六月のミミナガヤギの垂れる耳  マーペー
六月の傘の骨から出帆せむ 内藤羊皐
六月のガスの火あをく養生す 紆夜曲雪
いざ情死六月を待たねばならぬ 花屋

《天》
六月の狂ったように咲く密度  藤紫ゆふ


【金魚玉】
《地》
金魚玉しばらくながめはづしけり 雨月
二尾ともに光る死角へ金魚玉 白豆
金魚玉澄めり金魚の腸以外 Y音絵
いつぴき捨てて金魚玉またきれい  紆夜曲雪
モルワイデ図法のやうに金魚玉  クズウジュンイチ
金魚玉蕎麦掻き込んで南座へ 登美子
鏡台にマダムジュジュ瓶金魚玉 白豆
火星って暑いのかしら金魚玉 多事

《天》
ほろびのちとはの晴天金魚玉  とおと




俳句ポスト365作品集2015

冊子のお問い合わせは……
 松山市役所 観光 国際交流課
 TEL 089−948−6556



8月の兼題

投句期間:7月30日〜8月5日
桔梗 ききょう
【初秋/植物】
秋の七草のひとつにもかぞえられる代表的な秋草。茎の分枝の先にひとつずつ紫の五裂鐘形の花をつける。風船のように膨らんだ五角形の蕾も恰好の句材となる。

投句期間:8月6日〜8月12日
枝豆 えだまめ
【三秋/人事】
大豆のまだ実の青いうちに枝のまま採取したもの。主に茹でて食べる。ビールのつまみとして人気のほか、すりつぶして餅などにつけて食べたり、「月見豆」として十五夜に供えたりする。。

投句期間:8月13日〜8月19日
秋の蝶 あきのちょう
【三秋/動物】
蝶は厳寒期を除けばいつでも見られるが、秋に見られる蝶のことを総じていう。春の蝶の優しさ、夏の蝶の華麗さとはまた別の、どちらかといえば地味な印象の蝶が多いことに趣がある。


《参考文献》『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)

8月24日(月)〜8月28日(金)の週は、「俳句ポスト365」の更新をお休みさせていただきます。この週における新たな結果の発表、ならびに8月26日(水)の投句締切や、その翌日の募集兼題の切り替わりはございません。


※募集の兼題は変更される場合があります。「俳句ポスト365」のサイトで最新の情報をご確認ください。



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一句一遊情報局


有谷まほろ & 一句一遊聞き書き隊
協力 南海放送


金曜日優秀句
平成27年6月度


【砂】
夕焼の砂浜残しクラクション 江刺乃かな女
黒南風や龍馬の像の靴に砂 もね
プール開放日間近プールの底に砂 一走人
白色の太陽の砂ハンモック なおき
海猫の来て鳴き砂の鳴かせ方 マイマイ
清流の砂跳ね上げて鮎の腹 もろり川
敗戦日砂に鉄片埋めもどす 青花
天使らの砂金遊びや天の川 殻嵩はるお
楼蘭の砂のお城に住む蜥蜴 はまゆう
砂漠には井戸夏空に星数多 露玉

《天》
くちばしに米搗蟹を食った砂 鯛飯


【夏料理】
せせらぎの音を運びくる夏料理 中さん
擂鉢の風呼ぶ音や夏料理 はなみずき
阿蘇山を肴に待つや夏料理 樫の木
杉林抜け出て紀伊の夏料理 鞠月
夏料理笹の葉に盛る能登の塩 ふづき
うちぬきのしぶきのそばに夏料理 桜里
飛沫ごと食えと漁師の夏料理 鯛飯
床下に潮の満ちくる夏料理 ターナー島
水神の護符新しく夏料理 篠原そも
夏料理前に遺産の話かよ だんご虫

《天》
連山は青き衝立夏料理 更紗


【梅雨茸】
梅雨茸を蹴れば傘だけころがりぬ だんご虫
無敵の竹箒梅雨茸掃き飛ばす ポメロ親父
わらわらと俳人の来て梅雨茸 矢野リンド
梅雨茸の名に一同のうなづきぬ 樫の木
捨てられし酒を吸うたか梅雨茸 更紗
梅雨茸へ鉄の臭いの雨が降る ターナー島
幽谷に入れば灯らん梅雨茸 雪うさぎ
梅雨茸の群れに打ち込む第一打 大五郎
押入れには誰もいません梅雨茸 このはる
長持の中の梅雨茸三センチ 朝日
笛吹きについてゆきたし梅雨茸 妹のりこ

《天》
三代の境界争い梅雨茸 妙
七不思議の二つは理科室梅雨茸 ねこ端石


【黒鯛】
もくもくと黒鯛の鱗と戦えり さとう七恵
黒鯛の背鰭や土佐の打ち刃物 四万十のおいさん
黒鯛や隠語飛び交う夜の波止 唐平
黒鯛を釣る約束のまま逝きぬ はまゆう
我儘な病後の母へ黒鯛を買う 八木ふみ
黒鯛の曳きや忠霊塔に雨 天玲
喰い浅き黒鯛を呑む三瓶湾 旧重信のタイガース
黒鯛やはるかに見える製鉄所 笑松
黒鯛なる銀塊海より切り出しぬ 海田

《天》
黒鯛の威嚇の背鰭死して立つ オセロ



※ 掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとに活字化したものです。俳句ならびに俳号が実際の表記とは異なっていたり、同音異義語や類音語などで表記されてしまっている場合がありますのでご了承ください。



※ 「落書き俳句ノート」を除く、朧庵(SNS)の利用、閲覧には登録が必要です。パソコン用のメールアドレスがあれば、無料で簡単に登録できます。


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句の宛先は
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


投句募集中の兼題

投句締切:8月2日
門火 かどび
【初秋/人事】
盆には火を焚いて精霊を迎える。遠くから迷わず来られるよう、門の前で火を焚くのでこの呼び名がある。

俳句甲子園 はいくこうしえん
【初秋/人事】
高校生が同校5人一組のチームで、俳句の作句力と鑑賞力を競い合う大会。8月に愛媛県松山市で全国大会が開催される。

投句締切:8月16日

 季語ではない兼題です。「硬」の字が詠み込まれていれば読み方は問いません。季語は当季を原則として自由に選んでください。

新涼 しんりょう
【初秋/時候】
 秋に入ってから感じる涼気。長く続いた夏の暑さが急に衰え、新鮮な冷気を心地よく感じる。

投句締切:8月30日
われから
【三秋/動物】
尺取虫に似た甲殻類の一種。海藻や苔蘚虫類に付着して生活する。藻に鳴く虫といわれる、幻想的な虫。

秋果 しゅうか
【三秋/植物】
秋に実るいろいろな果実の総称。いろどり美しく、大皿などに盛りあげると画になる風景となる。



《参考文献》『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


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石鎚山お山開き登山吟行会


報告 キム チャンヒ


 西日本最高峰の石鎚山。毎年、7月1日から10日間、お山開きが行われる。今年は、国定公園となって、60周年の記念の年。毎年有志とともに、お山開き登山をしている、まる安食堂のメンバーたちとのな吟行会を行った。
 松山市内を午前7時に出発し、9時過ぎに土小屋へ到着。まずは、土小屋ロータリー前の白石ロッジにて白石文高さんより、当日の見所や登山で注意すべきことなど、説明を受けた。登山当日の7月7日は、生憎の雨。

山開き法螺貝の音雲はらえ 睡花

 雨の中の登山と言えば、かなりの過酷さを想像するが、この日の雨は、しとしとと降る雨で、山の緑は瑞々しく、逆に気持ちいい。

山開き緑は命の星の色 チャンヒ
鳥博士樹木医もいる山開き 鍛冶屋
深山大根草重きひと足止めて見る のり茶づけ

 鳥博士と樹木医とは鯛飯さんと樹朋さんのこと。鳥の鳴き声がすれば、鯛飯さんに質問し、見たことのない植物を見れば、樹朋さんに質問。自ずとのんびりとした登山。

先達の白足袋軽し山開き 樹朋
軽口をたたいて入る登山道 あねご

 そして突如現れたのは、巨大な蟇蛙。そして、鶯も。

出迎えは蛙一匹山開き 鍛冶屋
おくだりさんの先へ先へと日雀かな 鯛飯

 「おくだりさん」とは、お山開きでの挨拶。下山される方には「おくだりさん」、登る方には「おのぼりさん」と声を掛ける。
 頂上付近の急傾斜では、のんびりとはいかず、少し上って休憩、少し上って休憩を繰り返す。

汗と雨信仰背負い頂上へ のり茶づけ
限界と頂き真近山開き よみびとしらず

 限界に来た瞬間に出合う、山頂の鳥居のうれしさ。
 石鎚神社では、3体のご神体で背中をこすり祈祷する。この祈祷を受けるために、ここまで登ってきたのだ。

汗臭き背へ御神像押し当てる  鯛めし
かけ声と神を背に受く山開 睡花
山滴る手垢に光る御神体 あねご

 山頂で食事中、お先達のカサブランカハッチ師匠に、異変発覚。慣れない靴で出てきてしまい、靴擦れが出来てしまったとのこと。お先達なのに……。

雲海や足の痛さと絆創膏 カサブランカハッチ

 帰りの途中からは雨も上がり、足取りも軽く下山。雨の日には雨の日にしか出合えない山の姿があるのだと実感した一日だった。でも、もう少し早く天気が回復していれば、天狗岳が見られたのにと思ったりして。

また来いと雲の向こうの天狗嶽  よみびとしらず



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100年俳句計画 掲示板



NHK総合テレビ(愛媛ローカル)
 「えひめ おひるのたまご」内
 『みんなで挑戦!MOVIE俳句』
  8月25日(火)11時40分〜

あいテレビ(TBS系列、全国)
 『プレバト!!』
   隔週木曜 19時〜20時49分
※組長がゲストの俳句ランキングづけで出演! 放送日番組欄を要チェック!

南海放送
ラジオ「夏井いつきの一句一遊」
 毎週月〜金曜日 10時〜10時10分
※ 投句募集中の兼題や投句宛先は、「一句一遊情報局」のページをご参照下さい。

FMラジオバリバリ俳句チャンネル
放送時間 … 月曜 17時15分〜17時30分
再放送 … 火曜 7時15分〜8時
 兼題「法師蝉/隠元豆」8月9日〆
   「山椒の実/轡虫」8月23日〆
 インターネットでも配信中。詳しくは番組webサイトへ。
  HP http://www.baribari789.com/
  mail fmbari@dokidoki.ne.jp
  FAX 0898-33-0789
※必ずお名前(本名)、住所をお忘れなく!
※各兼題の「天」句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。


執筆
松山市の俳句サイト「俳句ポスト365」
http://haikutown.jp/post/
 毎週水曜締切/翌週金曜結果発表

テレビ大阪俳句クラブ選句
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 「集まれ俳句キッズ」
※ 毎週日曜発刊タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井選)
 投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。朝日新聞松山総局(790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。

愛媛県《吟行ナビえひめ》句&写真
 俳句選者:夏井いつき
 写真選者:キムチャンヒ
【募集期間】毎月1日〜 25日前後締切
【応募先】http://www.iyokannet.jp/ginkou/
【問い合せ】愛媛県観光物産課
TEL 089ー912ー2491

本阿弥書店「俳壇」(1月号より連載)
 『十二か月添削教室』
 9月号 8月14日発売
*誌上で俳句を募集しています。


句会ライブ、講演など

伊予銀行主催 思いのままに575 ミュージカルを観て俳句を作ろう!! in 坊っちゃん劇場
 8月1日(土)


出張!子ども文化体験教室 in エミフル
 8月1日(土)13時40分〜
エミフルMASAKIグリーンコート
あねごさんによる和気藹々とした句会ライブです。夏休みの俳句作りの参考に、親子でぜひご参加下さい。
 参加無料、賞品有り
 兼題「夏休み」


第18回俳句甲子園
 8月22日(土)
 予選リーグ/大街道商店街

 8月23日(日)
 決勝リーグ/松山市立コミュニ ティセンター1Fキャメリア  ホール


伊予銀行プレゼンツチャレンジ俳句甲子園
 8月22日(土) 大街道商店街俳句甲子園会場内Kブロックにて15時ころから

俳句甲子園予選リーグ会場をそのまま使った俳句甲子園の模擬試合を行います。小、中学生で構成される3人1組のチームが、俳句甲子園と同じルールで戦います。あなたもこの夏、俳句甲子園疑似体験をしてみませんか。

試合の進め方
出場4チームによるトーナメント戦
 1句ずつの三本勝負で各チームが対戦。
 それぞれの句に対して、2分ずつの質疑応答を行う。
 俳句甲子園の審査員が審査を行って勝敗を決定。

申し込み方法(以下のHPから)
http://iyogin.marukobo.com/

小中学生で構成される3人1組のチーム単位で申し込んでください。チームメンバー各自が兼題に沿った俳句を作り、必要事項を記入して送信してください。

応募〆切 8月7日(金)12時必着



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魚のアブク


読者から寄せられたお便りをご紹介
お便りお待ちしています!
100年俳句計画編集室「魚のアブク」宛、もしくは互選や雑詠欄への投句に添えてお寄せください。

編=編集スタッフ

方言?
梅天やあの山この山さあかたぎ エノコロちゃん
エノコロちゃん さあかたぎ……こちらの方言でしょうか。雨も本降りとなり雨が風をよび、雨が一本の竿のようになり、何本も次々と動いてゆく様を竿を担いでいるようにみえるので、「さあかたぎ」と言います。
編 今月号雑詠の投句に寄せて。愛媛だと言わないなあ。高知の方言なんでしょうか。

過ぎゆく季節
老兵 金沢はまだ梅雨入りの報が出ていません。余白ありましたので報告まで。スイマセン。
編 いえいえ余白のお便りうれしゅうございます。雑誌ができあがる頃には梅雨最中か、明けてるか。

藻川亭河童 ベランダの苦瓜が随分伸びました。この夏も炒め物が続きそうです。
編 苦瓜、カーテンにしたりした結果、やたら成るんですよねえ。レシピのバリエーション求む。

お疲れ様でした。
太郎 兼光様選句お疲れ様でした。この様な重大な病気で有りました事驚きました。治療と養生に尽くされて一日も早く健康を取り戻されます様お祈り申し上げます。
編 兼光さん、現在は自宅で以前よりはスローに仕事をしながら過ごしてます。スロー……なはず。

俳都松山宣言!!
真魚 俳都松山キャラバン東京楽しかったです。
編 おお〜7月12日の東京キャラバン、見に来て下さったのですね♪次は松山でお会いしましょう!

俳句のエンジン
恵馬 繁忙期を抜けてもなかなか投句ができませんでした。
編 そんな時もあります! 俳句は逃げませんから、のんびりやっていきやしょう♪

組員の生活
KIYOAKI FILM 風邪引きました。友人の影響でテレビ鑑賞卒業します。水曜日、『ソレダケ』と云う映画見てうんざりし、映画館での鑑賞も辞めようと決心しました。DVDで映画見ます。
編 厳選して観るってことで一つどうかお慈悲を。映画館楽しいよ!

柊つばき 色々な情報がだだもれ……預金なし、キャッシュカードなしの私には電話もかかってきません。気楽です。
編 個人情報流出云々……ってやつですね。しかしそれすらどこふく風。ある意味究極の断捨離状態?

エノコロちゃん 私、エノコロちゃんはこの6月25日60歳=還暦をめでたくも迎えます。この60年間聞こえる幸せ感じます。
編 はっぴばーすでーエノコロちゃん♪


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鮎の友釣り

205
俳号 あつちやん

キャプテン立待さま ご指名光栄に存じます。○裏甲子園前夜、笑松さんと合流、立待ブラザーズ(写真)結成と同時に、立待さんの叔父上、土居さまのお宅に押しかけ、大変なおもてなしをいただきました。ご夫妻とも俳句を嗜まれ、松山市民として生活を思いきりエンジョイしておられるご様子に感銘。

俳号 あつちやん。俳歴は足掛け8年になります。俳句ポストで歴史仮名遣いを勉強したいと、「つ」と「や」を大文字にしました。初対面での組長の第一声は「あつちやん、オトコやったの」でした。「さん」をつけずに「あつちやん」と呼んでほしい一方、還暦を迎えいつまでもこれでいいのかと、思い悩む今日この頃です。

写真は 左から、笑松さん、あつちやん、キャプテン立待さん。

次回…みちる様へ 快くバトンをお引き受けいただきありがとうございます。句会では、いつもさりげなくお声掛けくださり、俳句への熱い思いと造詣の深さ。私にとって「兄貴」と「おとな」の風をあわせもった憧れの存在です。


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告知


HAIKU LIFE 100年俳句計画
第5回
大人のための句集を作ろうコンテスト
作品募集

主催 マルコボ.コム 共催 朝日新聞社 松山市教育委員会(予定)

 第五語回「大人のための句集を作ろう!コンテスト」(通称「大人コン」)の作品募集がスタートしました。
 「大人コン」は、月刊俳句マガジン『100年俳句計画』が開催する俳句コンテストです。
 共催 朝日新聞社 松山市教育委員会(予定)

「受賞作品が句集になるってホントですか」
 最優秀賞作品は、月刊俳句マガジン『100年俳句計画』の付録冊子として読者諸氏に広く読んで頂きます。付録とはいえ、お洒落なデザインの句集だと評判です。
 受賞者には一切の金銭的負担をかけず、読者にとっても安価な句集をどんどん生み出していきたいという志を一つの形にしたのが、この企画なのです。

「俳句マガジンを購読してないんですが、コンテストへの応募はできますか」
 どなたでも応募できます。購読の有無は一切関係ありません。勿論、応募は無料です。

「審査は誰がするのですか」
 本コンテストの受賞者は、「大人コン」選考会員の投票によって決まります。「大人コン」選考会員は、月刊俳句マガジン『100年俳句計画』購読者の内、各総合誌等の俳句賞受賞者あるいは最終選考に残った実績のある人たち等によって構成されます。第四回の有資格者は三十二名。年々選考会員数は増えていくことになります。
 多くの目利きの力を借りて「百年先の未来に残したい作品と作家」を見い出し顕彰していくことが「大人コン」の目的。我こそは!という皆さんのご応募を、心からお待ちしております。

既作新作を問わず81句の作品集を募集。
最優秀賞作品は句集にし、本誌付録として配布します。

募集要項

応募資格
15才以上(高校生以上)の方なら、本誌購読の有無に関係なく、どなたでも応募できます。

応募方法
1:Eメールでの応募の場合
応募用のエクセルファイルに必要事項を全て入力し、Eメールの添付ファイルにして、応募して下さい。
応募用ファイルのダウンロード先
http://81ku.marukobo.com/

2:郵送の場合
B4判四百字詰め原稿用紙に81句とその表題、俳号、本名、年齢、住所、電話番号を必ず明記して応募して下さい。

締め切り 2015年12月10日(水)必着

賞 賞状および応募作品による句集20冊
*賞品句集は縦横135ミリメートル 36ページとなります。句集は本誌付録として配布します。

発表 本誌2016年4月号誌上(予定)

送り先
〒790-0022 愛媛県松山市永代町16ー1
有限会社マルコボ.コム
月刊俳句マガジン『100年俳句計画』編集室Eメール:81ku@marukobo.com



日暮屋の蕎麦を食べよう
プロジェクト 第1弾
耕し、種まき&そうめん流し 参加者募集

 mhm主催による「日暮屋の蕎麦を食べようプロジェクト」を開始します。現在、その参加者を募集しております。
 日時 8月8日(土)10時〜
 集合 クールスモール「利楽」
    前(愛媛県東温市見奈良)
 会費 実費(2千円程度)
 申込締切 8月1日(土)
 申込先 (mhm_info@e-mhm.com
*詳しくは、mhm通信をご覧下さい。



10月3日開催
別子銅山産業遺産
俳句ing Walking
参加者募集(締切9/18)

 2002年「埋もれたるレールの行方冬ひばり」と詠んだ夏井いつきが、13年の歳月を経て、再び東平を訪れます。夏井いつきと一緒に、秋の別子銅山遺跡を歩きながら一句詠んでみませんか。
 開催日 10月3日(土)
 募集人数 135名 先着順
 参加費 無料(お弁当等各自)
 参加受付 8月3日〜9月18日
申込み方法 本紙年間購読者は同封のチラシに必要事項を記入し、新居浜市観光協会までFAXでお送り下さい。申込用紙はhttp://www.niihama.infoからもダウンロードできます。



俳句新聞いつき組
7月新規ご購読お申し込みの方には
3号(2015年7月号)よりお届けします!
※4号は2015年10月中旬発行予定です!

2015年「花の座」決定!&「蛍の座」ノミネート20句

大好評「プレバト!!」番組の前説芸人さんを紹介!

そのほか内容充実のフルカラー全8ページでお届け!

※ひとつ前の号からの購読も可能です。事前にその希望の旨をお伝えください。

A4サイズ8ページフルカラー仕様
参加登録料(※初回のみ)1,000円(税込)
年間購読料 3,500円(税込)/年4回発行
*年1回、夏井いつきの句集シングル付録あり。

まずは無料の0号「創刊準備号」と購読のご案内をお送りいたします!
※0号「創刊準備号」を既にお持ちの方は、0号に掲載しております案内にしたがって購読料をお支払いいただくことで、正式な購読の申込となります。

ご購読のお申し込みは……

「俳句新聞いつき組」購読希望の旨、本名(ふりがな)、俳号(無ければ不要)、郵便番号、住所、電話番号、生年月日を明記して、下記のいずれかの方法で申し込んでください。

 ハガキで申し込む
  790-0022 愛媛県松山市永代町16-1
  有限会社マルコボ.コム
  「『俳句新聞いつき組』購読申込」係

 FAXで申し込む
 FAX番号:089−906−0695

 メールで申し込む
 kumi@marukobo.com
 (件名を「いつき組購読申込」としてください。)



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編集後記


 今月号の特集は、俳都松山キャラバン。大阪&東京で開催された俳句対局の模様をお伝えした。
 本紙企画にて、毎年春と秋に開催している俳句対局。2012年秋に初めて開催際してから、既に3年の月日が経った。その間、徐々にルールを整備して、ようやく松山以外で開催しても、見応えのあるイベントとなったように思う。
 これもひとえに、このイベントを応援してくださった読者の皆様、主催となってイベントを開催してくださった松山市さんのお陰。感謝の念は尽きない。
 本紙のような小さな雑誌に、何か役目があるとすれば、過去に誰も見たことのない企画を立案し、それを実現してゆくこと。そして、細やかながら、俳句のファンを増やしてゆくことだと思う。
 今回のキャラバンに集まった観客の多くは、俳句にはそれほど興味が無く、テレビでおなじみの組長に会いたい方たち。そんな俳句初心者の方々が、組長の講演会で頷き、俳句対局で、自分のことのように観戦をしていた。
 これまで俳句なんて自分に関係無いと思っていた方々が、俳句を楽しんで下さる。僕たちがやりたいことは、こういうことだと改めて思った。
(キム)


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次号予告 (214号9月1日発行予定)


次回特集

日暮屋の蕎麦を食べようプロジェクト
第1弾 耕し、種まき&そうめん流し

mhm蕎麦打ち企画の第1弾。畑を耕し、蕎麦を蒔き、なぜか流し素麺を味わい俳句を詠む企画の報告。
8月8日開催なので、参加希望の方は、まだ申込み間に合うかも?!


HAIKU LIFE 100年俳句計画
2015年8月号(No.213)
2015年8月1日発行
価格 617円(税込)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子