100年俳句計画5月号(no.210)


100年俳句計画5月号(no.210)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。





目次


表紙リレーエッセー
若葉の由良半島 かのこ


特集
季語当てゲームの提案
対戦型詰め俳句(仮)



好評連載


作品

百年百花
 都築まとむ/美杉しげり/桜井教人/灯馬


新100年への軌跡
 俳句/山下舞子/瀬越悠矢
 評/片野瑞木/マイマイ


選者三名による雑詠俳句計画
関悦史/阪西敦子/加根兼光


へたうま仙人/大塚迷路

自由律俳句計画/きむらけんじ



読み物
愛媛県美術館吟行会/猫正宗
フランク ロイド ライトの「草原様式」と正岡子規の「ハイク」/門屋哲司
第4回 大人のための句集を作ろう!コンテスト
 表彰式を終えて/中町とおと

Mountain Cabin Dispatch/ナサニエル ローゼン(翻訳:朗善)
JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭
ラクゴキゴ/らくさぶろう
ホンヤクサイホンヤク/翻田訳蔵
お芝居観ませんか?/猫正宗
百年歳時記/夏井いつき
近代俳句史超入門/青木亮人
mhm通信/岡戸游士

読者のページ
2015小倉書道教室 子どもたちの作品展
俳句ポスト365
一句一遊情報局
100年俳句計画掲示板
魚のアブク
鮎の友釣り
告知
編集後記
次号予告




若葉の由良半島
かのこ

 愛媛県の南端、龍の形の由良半島。愛南町側全域13kmが私の勤める小学校の校区。半島に沿うように集落が点在し、豊かな自然と温かい地域の人々に囲まれ、子どもたちはみな、明るく素直だ。
「う〜ん、いい季節だねえ。」
「いい季節ですねえ、先生。」
「若葉が光っているねえ。」
「光っていますねえ、先生。」
「空から見たら、海の青と半島の緑がきれいだよ。よりも高く飛びたいなあ。」
「先生、飛べるんですか?」
「今、修業中!」
「え〜!すごいです。」
「飛べるようになったら、空からみんなに手を振るよ。」
「わーい。先生、早く飛べるようになるといいですね。」
 子どもたちと過ごすお昼休み。窓の外をが飛び交い、波の音と船外機の音が心地よい。潮の香りの教室には、子どもたちの笑い声が溢れている。なんとしあわせな、若葉の由良半島。


目次に戻る


特集

季語当てゲームの提案
対戦型詰め俳句(仮)


文 キム チャンヒ


ゲーム開発の発端は、俳句対局

 句会は俳句を作って、それを取り合う場。自分の句の評価はもちろん、他の方の俳句を読む楽しみもあるのだけれど、選評を発表すると言うだけで、俳句の初心者には敷居が高いもの。
 そんな句会の新しい形として考えたのが、俳句対局。俳句の強者は挑戦する楽しみを、そうでない方は観るだけで楽しめる、という企画である。まだ未体験の方は、5月2日(土)に開催する「第3回龍淵王決定戦」をぜひ観戦して頂きたい。と言いつつ、この俳句対局も、別の意味で敷居が高い企画となってしまった。つまり、俳句の実力があっても、挑戦する方が思いの外少ないのだ。
 袋回しの句会の例を挙げるまでもなく、短時間に俳句を作る遊びは古くからある。袋回し以外にも、席題の句会は、多くの俳人がやったことがあるに違いない。短い時間で俳句を作れる方は、少なからずいらっしゃる。
 しかしそれら句会は、非公式な遊びの範囲内だから、句の善し悪しに拘ることもなく楽しめるけれど、多くの観客の前で「俳句対局で遊ぼう」というのはちょっと違う、というか、もう少し時間が掛かるということだと思う。
 ならば、俳句対局よりもソフトに楽しめるゲームがあり、それを楽しむことで、もっと抵抗なく俳句対局を楽しんで頂けるのではないかと考えた。そして思い付いたのが、以前マイマイさんが本紙で連載していた「詰め俳句」をゲームにすること。


対戦型詰め俳句(仮)とは

 子どもの頃「マスターマインド」という、色当てゲームでよく遊んだ。「マスターマインド」とは、出題者の色の配列を、回答者が当てるゲーム。ゲームの醍醐味は、偶然に色を当てるのではなく、配列を推理して解答に近づいてゆくところ。詰め俳句を使えば、同じような楽しみが出来るかも知れない。
 出題者が同じ季語で沢山俳句を作り、季語を除いてその俳句のフレーズを回答者に一句ずつ見せる。回答者は出された季語を除いたフレーズをみて、そのフレーズに似合う季語を回答する。不正解だと別のフレーズが追加され、それらに共通する季語を回答する。「マスターマインド」のように、試合が進むにつれ正解に近づいてゆく。
 当初ゲームは出題者と回答者の二人だけでやれないかと思ったが、回答者の季語の方がよい場合もあり、それを判定する審判員をゲームに追加させ、最低3名からやれるように考えた。
 大まかなルールを作り、試しにと詰め俳句のマイマイさんと岡田一実さんと私とで、対戦を数回行った。
そして、できあがったのが、以下の通り。


対戦型俳句対局(仮)

概略

 制限時間内に参加者それぞれが、個別に問題となる季語を一つ選び、その季語で俳句を6句作る。
 出題者と回答者と審判に分かれ、出題者は季語を隠して俳句を1句ずつ発表する。
 回答者はその俳句に使われている共通の季語を当てる。
 何句目で季語を当てたかによって、出題者に点数がつく。
 審判が、出題者の季語よりも回答者の季語の方が、俳句の出来が良いと判断した場合、回答者に点数がつく。
 参加者全員が出題者と回答者として対戦し、最も点数の多い人が勝ち。


用意するもの

1.短冊
2.筆記用具
3.季寄せ(殿様ケンちゃん俳句手帳)
4.紙(点数表)
5.タイマー(あれば)


準備

1.制限時間以内(10分程度)に、参加者全員が「殿様ケンちゃん俳句手帳」に記載されている季語を使って出題用の6句を作成する。
2.出題用の俳句は、季語の部分を大きな一つの□(四角)にして、短冊に書く。
3.出題者と回答者と審判の順番を決める。
例えば、A、B、Cの3名の場合、
1回戦は、A出題者、B回答者、C審判。
2回戦は、B出題者、C回答者、A審判。
3回戦は、C出題者、A回答者、B審判。


進め方

1.出題者は、回答者に見えないように、審判に回答の季語を渡す。
2.出題者は回答者に一句ずつ短冊を見せる。回答者は一句ごとに一つ、制限時間内(2分程度)に季語を回答する。
3.審判及び出題者は、回答の季語の分類(時候・天文・地理・人事・動物・植物)が、正解の季語と合っているか否かを、回答者に伝える。
4.審判は、解答の季語と回答の季語を比べ、回答の季語の方がよいと判断した場合、その旨伝える。(出題者越え)
5.正解が出るまで、或いは短冊が無くなるまで繰り返す。
6.答えが出る前までの短冊の数が、出題者の点数となる。また、審判が回答者の季語の方が優れていると判断した場合、その短冊の数だけ回答者に点数がつく。
7.参加者全員が出題者と回答者と審判を行い、最終的に点数が高い人が勝ち。


点数の付け方

1.出題者は、出題した俳句の数の内、回答者が当てられなかった俳句の数が点数となる。例)回答者が5句目正解した場合、出題者の点数は4点。
2.出題者は、回答者に出題者越えをされてしまった場合、その句は0点。回答者は1点。
3.回答者が6句までに正解した場合、正解した句の点数は出題者・回答者共に0点。
4.回答者が最後までに正解できなかった場合、その句の点数は出題者・回答者共に-1点。


ルール

 審判は明かされている短冊のすべてを参考に、出題者の季語と回答者の季語を審査する。

対戦例


参加者

 A チャンヒ
 B マイマイ
 C 一実


1回戦

 出題者 チャンヒ 回答者 マイマイ

*読者の方も一緒に考えてみて下さい。

1 (   )の軋みが夜の音
 回答→若鮎(動物) ×不正解
 季語が動物ではないことが分かる。
 出題者越えをしたので、回答者マイマイに1点、出題者チャンヒは0点。

2 (   )は空へ地球はただの星
 回答→初花(植物) ×不正解
 季語が植物ではないことが分かる。
 不正解で、出題者チャンヒに1点。

3 (   )の作る水たまりが綺麗
 回答→ブランコ(人事) ○正解!
 ここで正解したので、共に0点。


2回戦

 出題者 マイマイ 回答者 一実

1 (   )やときどき踊りたくなるよ
 回答→春風(天文) ×不正解
 季語が天文ではないことが分かる。
 不正解で、出題者マイマイに1点。

2 (   )やゆっくり牛の喉うごく
 回答→剪定(人事) ×不正解
 季語が人事ではないことが分かる。
 不正解で、出題者マイマイに1点。

3 手を伸ばす希望の如く(   )は
 回答→啓蟄(時候) ×不正解
 季語が時候ではないことが分かる。
 不正解で、出題者マイマイに1点。

4 (   )や排水溝の割れ目にも
 回答→虎杖(植物) ×不正解(同分野)
 ここで季語が植物であることが判明。
 出題者越えをしたので、回答者一実に1点、出題者マイマイは0点。

5 (   )のさわぐ野原のまん中へ
 回答→薇(植物) ×不正解(同分野)
 出題者越えをしたので、回答者一実に1点、出題者マイマイは0点。

6 (   )のどれも太陽へと向かう
 回答→若草(植物) ×不正解(同分野)
 6句目まで不正解だったため、共に-1点。

 ちなみに正解は、「草の芽」


3回戦

 出題者 一実 回答者 チャンヒ

1 (   )先祖に鬼を書き足さん
 回答→柳の芽(植物) ×不正解
 季語が植物でないことが分かる。
 出題者越えをしたので、回答者チャンヒに1点、出題者一実は0点。

2 (   )一度に沢山死ぬことも
 回答→百千鳥(動物) ×不正解
 季語が動物でないことが分かる。
 不正解で、出題者一実に1点。

3 (   )体にちから満ちてくる
 回答→蜃気楼(天文) ×不正解
 季語が天文以外であることが分かる。
 不正解で、出題者一実に1点。

4 湖の匂ひここまで(   )
 回答→みどりの日(時候) ×不正解
 季語が時候でないことが分かる。
 不正解で、出題者一実に1点。

5 それぞれに(   )持つ景色かな
 回答→春日傘(人事) ×不正解(同分野)
 ここで季語が人事と判明。
 不正解で、出題者一実に1点。

6 茫然と見る(   )糸車
 回答→風車(人事) ○正解!
 ここで正解したので、共に0点。


集計結果

 A チャンヒ
   出題1点 回答1点 計3点
 B マイマイ
   出題2点 回答1点 計3点
 C 一実
   出題4点 回答1点 計5点


 点数の付け方は、一例。もっと試してみれば、ベストな配点があると思う。
 作句面では、チャンヒ一句目の句は、破調でずるいだとか、一実の最後の句は、句としてヒドイとか、いろいろと意見が出たが、それはそれで楽しい句座となった。

 マイマイ夫妻とは別に、mhmの懇親会でも、遊んでみた。
 この時は、二人一組で対戦し、審査員を残りの参加者全員で行った。俳句の善し悪しを評価するのではなく、フレーズに季語が合っているかどうか判断するのは、俳句を嗜んでいない方でも、敷居が低いようだ。
 今後、mhmの懇親会の定番企画にしようともくろんでいる。
 皆さんも、いろいろな場で遊んで頂けたら嬉しく思う。



目次に戻る


百年百花


大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠
2015年度 第一期 第二回


「生家」 都築まとむ

燃えのこる時計の動く春の昼
うららかや焦げてころがる綿の端
波打って乾く遺影や朧月
白木蓮巨人のごとく立って闇
亀鳴くや写真笑った人ばかり
霾や電線ガスボンベ撤去
三人で覗く基点や燕来る
桜東風境界鋲の猩々緋
養花天鳥を数えて過ごす母
解体の生家に置いておく菫
千本の桜の吹かるるは潮騒
春惜しむ母と位牌と亀と壺


1961年愛媛県生まれ。第3回大人のための句集を作ろうコンテスト最優秀賞。八幡浜市日土町で柑橘栽培をしながら季語にまみれて暮らす。




「しくしく」 美杉しげり

「ボルネオにて戦死」馬酔木の花盛り
日の丸の吹かれどほしを鳥の恋
かざす手の麗らかに舞ひをさめけり
囀やへろへろ落ちる神事の矢
画板置きつぱなし雲雀の空晴れて
風の香に芽吹かんとして母の杖
猫飲んでゐるのは菜の花映す水
春日傘くるくるここに城ありき
老母なんだか猫に似てきて花月夜
春深し爪の内なる傷しくしく
桜蕊降る天金のうすぼこり
惜春のどの樹もわたしより若く


1960年生。第8回俳句界賞受賞。4年ほど前から小説も書き始め、短編「瑠璃」で第21回やまなし文学賞佳作。美杉しげりはその時からのペンネーム。




「修行」 桜井教人

春雷の不動巌(いはほ)を火焔とし
御厨人窟(みくろど)の空へ海へと陽炎へり
徒遍路すれちがふたびにほふ海
国分寺さまのぼたんの芽のふくと
みつまたの花指す妻の得意顔
はくれんの空へ祈るを修行とす
色即是空空とは自分信ずること
春燈下土佐山内家三ツ柏
十善戒ひとつは破る遍路の夜
花冷や金の持鈴の早発(さうはつ)す
み仏に合ひ人に会ひ花に逢ひ
岬から風岬への風光る


1961年愛媛県生まれ。第3回大人のための句集を作ろうコンテスト最優秀賞。八幡浜市日土町で柑橘栽培をしながら季語にまみれて暮らす。




「百風(ももかぜ)」 灯馬

手話通訳士一礼 卒業式閉式
いぬふぐりほどに有為なひととなれ
春暁を震はせフェリー百風(ももかぜ)号
ちちははをおくる黒靴フリージア
牡蠣の殻敷きつめ坂の上の墓碑
今生を揺らしてほしい椿です
さくらさくら土中にねむる城ひとつ
うつし世のさくらゆるりと見て御行きやれ
薊刈り残して男去ににけり
春雷へ押し開きたる庫裡の門
末黒野へ振る両の手のあつけらかん
未だ眼を醒まさぬ四月の魚(ポワソン ダブリール)


1970年生、福岡育ち。01年に松山へ。「ざくろ句会」にて俳句を始める。10年3月より猫と正式に同居。「はじめて句会」に(時々)参加。




目次に戻る



新 100年の軌跡


2015年度 第一期
第二回


 部屋 山下舞子

開け放つ胸に揺すりし八重桜
藤波やフランス行きを告げられて
利休忌のよく香の移る裾と部屋
催花雨や帰るふりする手のあはれ
吊り革に手をやることも花疲
花の雨みな背を向けて登校す
あをあをとかごのあふるる栄螺かな
花の夜のフェイスマスクをなで回す
糸遊の近づいてゐる園児かな
夏蜜柑さくっと切ってさしあげて
映画の日近し卯の花腐しかな
少しずつ恋もう少しわさびとく
番茶沸く音のやさしき清和かな
借りた部屋初夏の匂ひの混み合へる
サングラスかけてひとまずあごはひく


山下舞子
1994年生まれ。愛媛県松山市出身。第13回・14回 俳句甲子園出場。関西俳句会「ふらここ」所属。




 旅 瀬越悠矢

遅るるも楽しきは旅土佐みづき
一人称おれと決めし子入学す
のどかさや投書すくなき投書箱
けんけんぱ丸のいくつをちる桜
からくりの天使の鐘に夏来る
受話器まで返事をしつつ夏衣
夏めくやさつと鼻より似顔絵師
のそのそと油彩の海を天道虫
消ゆるため集ふ泡なり夏の海
滝の音の滝の中なる淋しさよ
ああ虹立てばとび色の旧市街
夏山やおもき朱肉におもき印
遠きとは懐かしきなり水中花
雨後の気を溜めたる蛍袋かな
梅雨寒や地獄絵に我らしき人


瀬越悠矢
1988年、兵庫県生まれ。大学院より句作をはじめる。関西俳句会「ふらここ」所属。




あをあを 片野瑞木

あをあをとかごのあふるる栄螺かな 山下舞子
漁港近くの朝市。街では高級食材の栄螺も、ここでは大雑把にかごに入れられ一盛りいくらで売られている。しかもそのかごが台から溢れそうな勢いだ。「あをあを」からは色というより「あをあを」とした海の「匂い」を感じる。

サングラスかけてひとまずあごはひく 山下舞子
オードリー ヘップバーンを気どるなら、あごはつんと上げるべし。あごをひくのは、スタートを待つマラソンランナーの気分か。

一人称おれと決めし子入学す 瀬越悠矢
 さっきから「おれ」を連発している新入生。幼さの残る顔に「おれ」が似合わないが、「ぼく」と言いかけては「おれ」と言い直すあたりに決意を感じる。がんばれ新入生。そのうち「おれ」が似合う男になれるさ。

夏山やおもき朱肉におもき印 瀬越悠矢
精魂こめて書き上げた書に、仕上げの落款を押す時のこの緊張感。鉄器に入った朱肉も石製の印も余計に重く感じる。生命力に満ちた窓の外の夏山と、部屋の中の静けさが対照的だ。


1963年生まれ。愛媛県八幡浜市日土町在住。第2回、第8回選評大賞最優秀賞。



気付きと色彩 マイマイ

吊り革に手をやることも花疲 山下舞子
 「部屋」は日常の小さな気付きをさりげなく詠んでいて、爽やかな印象。掲句では、無意識の行動に作者は「花疲」という季語の実感を発見する。

番茶沸く音のやさしき清和かな 山下舞子
 清和は「陰暦四月の気候の穏やかなころ」と歳時記にある。普段使いの番茶が奏でる満ち足りた音。

サングラスかけてひとまずあごはひく 山下舞子
 そうだなと納得。「ひとまず」の的確さ。

けんけんぱ丸のいくつをちる桜 瀬越悠矢
 「旅」は色彩の美しい句が印象に残った。掲句、「丸」の中の薄紅色の花びらが映像として鮮やかに立ち上がる。

のそのそと油彩の海を天道虫 瀬越悠矢
 「油彩の海」という表現により、荒い筆致や溢れる色彩を感じることができる。そのごつごつとした「海」を行く天道虫。あるいは太陽に照らされた夏野こそが「油彩の海」なのか。

ああ虹立てばとび色の旧市街 瀬越悠矢
 「とび色」はレンガの色だろうか。鮮やかな虹に対してくすんだ「旧市街」。その街を流れた時間が感じられる。


1966年愛媛県生まれ。いつき組選評大賞2007優秀賞、2008奨励賞受賞。第1回、第4回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞受賞。句集シングルに『翼竜系統樹』。


目次に戻る



超初心者から中上級者まで楽しめる
100年投句計画

 「100年投句計画」は、読者の投句コーナーです。

 「選者三名による雑詠俳句計画」は、雑詠句の選句欄です。投句の中から先選者二名が、それぞれ天地人の句を選び、先選より漏れた句の中から、後選者が特選、並選を選んでいます。今回の先選者は、阪西敦子さんと加根兼光さん。後選者は、関悦史さんです。

 「へたうま仙人」は、ヘタな句を褒め、巧い句を追放する、世の選句欄とは真逆のコーナーです。どんなにヘタな句でも褒めてくれるので、自分の俳句に自信のない方、何はともあれ褒めて欲しい方に最適(?)。担当は大塚迷路さんです。

 「自由律俳句計画」は自由律俳句の選句欄です。自由律俳句に挑戦することで、自由律俳句ならではの楽しさを味わうと共に、有季定型の俳句との思わぬ共通点も見えてきます。選者は、きむらけんじさん。
(投句方法は「100年投句計画」コーナー末尾参照)
写真:藤


選者三名による雑詠俳句計画


先選者 加根兼光

 リビングのエアコンのタイマーランプが点滅したままになっている。孫の太一が最近興味を持ち始めたリモコンを無造作に触った結果である。消す方法が分からずここ数日点滅を続けるがさして異常事態も発生しないのでそのままにしている。まあ夏になるまではこのままか。あるいは留守の間に動き出していて帰宅時に驚くというようなこと。願わくば長い留守の時で無いことを祈るが。


連翹や光に近づけば盲ひ 樫の木

 連翹の黄が鮮やかすぎる輝きを見せる。この句は初見、その連翹の眩しさを表現したものかと思えたが、それには「盲い」という語はいかにも強すぎる。中七下五で述べられるのはソドムとゴモラの話に見られるような、禁を犯し光を振り返ったために石柱とされた人物のように光を見たために盲いたのかと。視力を失うまでの連翹の黄。それは春の喜びと同時に春の不穏をも含んだ光であると。春の2面性を改めて思う句である。



それぞれの神の名叫ぶ春の月 ソラト
 「それぞれ」という語から、ある種の時事句として読んだ。戦いは各地で今も続き、各々が自分の信じる神の名の下、聖戦と称して殺戮を繰り返している現実。空には春の月が照り戦の果ては朧のように見えない。

山独活やひかり等しく吾の額 てん点
 春光を浴び土から生まれた独活。白いその肌からは春の息吹が吹き出すようである。同じ春光を浴びる私の額も独活と同じく春を光り輝くようにそこに在る。春の活力が額から体に行き渡る。独活のように精気をを放って。

くらくなるばかり紅梅咲きみちて 省三
 下五の切れの無い形からは循環形式の音楽のように果てしない景と心の繰り返し。咲いては暗くと。だが花は散っても緑は豊かになり実も結ぶ。「くらく」と表現されたことの本質は意外と「苦楽」であるのかもしれない。

蟻出でぬ産毛のごとき光負ひ 哲白
 まず上五の切れが蟻の登場を強調する。産毛の光ではなく「産毛のごとき光」であるから繊細な多くの尖端を持った光である。光っているという情景では無く光を負うごとく在る蟻。切れの無い下五からまた循環する形式。

鳥の眼のような哀しみさくらの夜 ターナー島
 人は眼に哀しみを湛えるのであるが「鳥の眼のような哀しみ」とはどんなものであろうか。言葉を持たない鳥の哀しみはさらに深いのであろうか。桜の夜の闇は哀しみを暖色から漆黒へと深く変化させてゆくのであろう。



手渡した地図は花野へ続く道 和音
夫の文字まことに四角春うらら 幸
旧友のごとく過ぎけり春休み みちる
鳥帰る棺の窓の小ささに 凡鑽
年の暮玩具のやうな母の靴 野兎
金鳳花このさき信号なき岬 うに子
春潮を尋ね白亜のレストラン 八木ふみ
春の闇じぶんの足でじぶん踏む アンリルカ
情熱はいつも垂直春の雷 鯉城
風光る胸より胸へ児を渡し ターナー島
春愁ヲカミクダク奥歯ガ痛イ 恋衣


先選者 関悦史

 ガラケーユーザーなのですが、先日の仕様変更でツイッターがほとんど見られなくなってしまいました。
 震災のときは固定電話も携帯も繋がらず、ツイッターのおかげで安否確認やら何やら人と連絡が取れましたし、その後も、独立系のジャーナリストや地方紙等のアカウントをフォローすることで、マスメディアが何を伝えていないか、あるいは何をどう歪めて伝えているかの検証に使える便利なツールだったのですが。


春潮を尋ね白亜のレストラン 八木ふみ

 春潮を尋ねて来たというので観光旅行らしいとわかります。しかし岬に立ったり、船に乗り込んだりして潮を見ているのではなく、レストランに落ち着いたというところでごく軽いひねりが入る。
 「白亜の」が効果的で、春潮を尋ねて来たという期待の感覚や外光の明るさを感じさせ、レストラン内にも春潮の光が反映しているのだろうと思わせます。大旅行ではなくても日常から少し離れた清潔な豪勢さあり。



成層圏より眺めゐるヒヤシンス 藍人
 フィクションの句ですが、高空からの俯瞰で細部まで見えてしまうというのはグーグルアースの登場以後、日常的なことになっており、それによる身体や距離の感覚の変容が反映しているようでもあります。

鳥帰る棺の窓の小ささに 凡鑽
 鳥が死者の魂とする発想は古くからありますが、棺の窓が小さいゆえに鳥が帰っていくというのがこの句の肝で、通り抜けて行き来できない窓の小ささにより、故人と隔てられた寂しさを帰る鳥が負っているかのようです。

雛飾る片付けの事思いつつ おせろ
 毎年出して飾りはするものの、すぐに仕舞うことを考えると、出している最中から面倒になりそうですが、この句はそこまではっきりは言ってはいない。それで却って「雛飾る」の実感が淡々と言いとめられています。

蟻出でぬ産毛のごとき光負ひ 哲白
 春に出てくる蟻の表現として「産毛のごとき光負ひ」は芯を捉えており、鮮度あり。蟻は作者の感情を担って光を負っているわけではなく、地上にあふれる生命のひとつとして不意に現れており、鈍重さがありません。

ロープウェー桜の上を通りけり 遊人
 似たモチーフの句はどこかにあるのかもしれませんが、感動を押しつけてこない軽い言い方が功を奏しています。語り手がロープウェーの中とも地上とも取れる句ですが、中と取った方が視点変化の躍動感が出ます。



手術後の妻に付き添う冬日向 迂叟
手渡した地図は花野へ続く道 和音
霾や黄泉の入口広からん 樹朋
雪柳眠たき午後のトロンボーン ゆりかもめ
定位置に河原鶸きて今朝の風 妙
小役人来て段取りをする踏絵 ポメロ親父
くらくなるばかり紅梅咲きみちて 省三
蛤のぬるりと砂へ入りにけり 人日子
情熱はいつも垂直春の雷 鯉城
鳥の眼のような哀しみさくらの夜 ターナー島


後選者 阪西敦子

 「仕事が速い女性がやっている時間のルール」という本を買う。春だなと思う。去年は家を掃除する本だった。時間にしろ、空間にしろ、要は整理の本。読んでからタイトルの意味に気づく。「仕事が速い女性がやっている」とは、「仕事が速くなる」ということだと思っていたけれど、「仕事が速い人のための」ということだったみたい。興味として読み終わったら、前に座っている仕事の速い先輩に、貰ってもらおうと思う。


特選句

ぞんぶんに日をたくわえて鳥帰る 森 青萄

 鳥たちの飛来は、越冬のため。とすれば、日をたくわえるのは、確かに理にかなってしまう。しかし、その戻りゆくことを言う「鳥帰る」であれば、春の光を翼にたたえた鳥たちの姿や、旅の無事を祈る気持ちも見える。

押入れに積る空箱春日和 瀬戸薫

 人間は鳥たちのようには行かない。翼の代わりに家に身を守り、その深くに光の届かない空間を作り、日の代わりにさらに何も入っていない箱をためてしまう。しかし春はそこにも訪れる。膨らんでゆくような春の空気。

春の雨葉から一粒こぼれけり ひでやん

 春には、雨さえ光をまとう。ゆったりと落ちて、葉にすこしとどまった雨滴は、しばらくののち、その光を湛えたまま地へ滑る。あたりの明るさ、降り方の柔らかさが、もっともよく見える一瞬。



並選句
薔薇の芽のうちに切るもの残すもの 杉本とらを
馴染みなき昭和の日こそ集ふ顔 レモングラス
エンディングノートを買いぬ春嵐 小市
春空にシャンパン散らし巨船出づ 小雪
味噌の香の家路急かする鰆東風 南亭骨太
蛇穴を出て山際に婆を呑む 富士山
解体にやっと目覚めた春の土 多満
夕霞薄荷脳てふキスの味 ヤッチー
春の丘三味に打ち込む女一人 さくらがい
むつき替ふる母は棒立ち牡丹雪 凡鑽
母折りし紙の雛様玄関に 喜多輝女
あなやつくしんぼ仰山お出座しや かのん
駆け落ちの過去あるそうな蜆汁 のり茶づけ
魚捌くは水ふんだんに緑の日 ゆりかもめ
若芽立つ花よりも濃く紫木蓮 ほろよい
ゴールする春の嵐と友のハグ 一走人
よく笑ふ看護学生クロッカス ぴーす
この路地を往けば犬吠ゆ葱坊主 蓼蟲
美女めける帽子ををどる牡丹雪  緑の手
普段着の居間の母の背紙風船 あきさくら洋子
茹でられてしゃきりと青き水菜食う  八十八五十八
春陰の端の太鼓の遅れがち しんじゆ
ハシビロコウ直立不動春の昼 エノコロちゃん
猫の恋子猫猫の子此処彼処 まるにっちゃん
土筆出づ石鎚未だ白きかな ちろりん
忘却の彼方の恋や黄水仙 ミセスコナン
木戸開きサクランボの花を夫へ えつの
日だまりにひひなの客の野良の猫 まんぷく
マスクして鞍馬天狗のやうな眉 北伊作
春一番をんな先生声太し 鯉城
指先に残り香のあり春を選る 台所のキフジン
寝間の戸を真夜にとんとん涅槃西風  松ぼっくり
影法師千の願いの寒の明け 西条の針屋さん
梅園に歓声窓越しの雨の 青柘榴
あやつりの白糸見ゆる春の雪 みさきまる
紅梅の咲き誇りたる空き家かな カシオペア
寒明けの雨に歌へばハ長調 春告草
ミモザ咲くウーマンリブの空の青 あおい



関悦史(せきえつし)
1969年茨城県生。「豈」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。共著『新撰21』『超新撰21』『俳コレ』(以上、邑書林)、『虚子に学ぶ俳句365日』『子規に学ぶ俳句365日』(以上、草思社)他。雑誌「現代詩手帖」俳句時評欄担当(2012年1月〜)

阪西敦子(さかにしあつこ)
1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。

加根兼光(かねけんこう)
映像 俳句プロデューサー。1949年、大阪府堺市出身。関西大学法学部法律学科卒業後、CM制作会社に勤務。CMチーフプロデューサーとして30年以上に渡り、1000本以上のCM制作に携わる。50歳を過ぎて始めた俳句で2007年秋、第9回俳句界賞受賞。映像と俳句のコラボレーション、俳句の新しい展開を目指す。俳句集団いつき組組員。現代俳句協会会員。



目次に戻る


へたうま仙人


文 大塚迷路

 本年度の春爛漫を満喫している今日この頃ぢゃが、皆様いかがお過ごしかの?
 桜前線も少し早めながらも順調に北上し、北海道の山桜もしっとりとその容姿をあらわす季節となったのう。まことに慶ばしいことぢゃ。
 今月も此処には残花のごとき新作が舞い込んできておるぞ。
 春を惜しみつつ初夏を迎えるこころもちで、どうぞ受け止めて下され。


はくれんの今夜はとてもいい調子 小木さん
ふとうしろをふり返ると落椿 小木さん
 何の調子がいいのか、いっさいがっさいをはくれんに託しているところなんぞはちとずるいぞ。まっ、たいした調子ではないとは思うがの。
 ふとうしろをふり返ると、そこにあったのは夕焼ではなく落椿であった。あれからどのくらい経ったのかのう。いや、人生ぢゃ。

のぼさんも解説してる春心 真帆
鬼北まで来ている幸や鬼やらい 真帆
 ご報告とご案内、ありがとうございますぢゃ。のぼさんがどんな解説をしているのか興味津々、文献を漁ることにするぞ。愛媛県の山奥の鬼北町に大きな、それはすごい形相の鬼の像が出来たと新聞やテレビで取り上げられておったな。どれひとつ雲に乗ってやひとっ飛び、見に行ってみるか。

があごうとうたた寝楽し春日和 森子
花よ花紛うことなき美しさ 森子
 「があごう」の響きが良いのう。しかし、うたた寝にしては大きな寝息ぢゃのう。春日和もびっくりぢゃ。
 花は間違いなく美しいのう。仰せの通りぢゃ。誰もが感じる共通した思いをこうも屈託のない言葉で綴って頂くと、初桜のようにとても新鮮な気持ちになったぞ。

千年後も桜の咲く地球です ケンケン
行列には意味のある春うらら ケンケン
 千年後の地球をそう言い切ったところに作者の希望と気概が表れておるのう。ぜひ桜と地球にはそうあってほしいものぢゃが、そのためには地球人の覚悟と努力が必要ぢゃ。大丈夫かのう?
 行列があればつい並びたくなる人と、その先頭をたまらなく見たくなる人とまあ様々ぢゃが、春うららに、何の行列か皆目わからない列の最後尾に並ぶのもまた良いかものう。それも一つの意味かもな。

松の木の現代建築からすの巣 ひでこ
星をみてまたないている恋の猫 ひでこ
 おお、からすの巣を見て現代建築と感じるとはアヴァンギャルドですのう。二度と同じ巣は作ることが出来ないところは、押しも押されぬ一期一会の芸術作品ですのう。色を落とさない松の木だけに、巣が映えますのう。
 最近ご近所に猫がすっかりいなくなったので、あの恋の猫に遭遇することも無くなって、結構悲しい気分ぢゃが、恋の猫が相手を思いながら星を見ている姿は、切なくもほのぼのぼのぢゃ。思わずないてしまう猫が愛おしいのう。星になったあの日の恋を思い出している、のかもな。
目借り時まぶたの裏をじっとみる 誉茂子
 うつらうつらしている時のまぶたの裏に見える文様はぼやけた万華鏡のようで、なかなかに春を感じさせてくれるのう。蛙が憑依でもしているかのような感覚はまるで白日夢の中にいるようぢゃ。まぶたの裏をじっと見ている目玉が独立した生き物のようでおもしろいのう。

金縷梅やトイレットペーパーのミイラ  KIYOAKI FILM
直角が内角にシュン雪の宿 KIYOAKI FILM
 時に、草むらや川原の隅にミイラになったトイレットペーパーを見かけることがあるぞ。その度人類の行く末を見るようで複雑にやり過ごしておるが、金縷梅のひらひら感とミイラのトイレットペーパーの意味なく乾いた感が、より複雑な心にさせるぞ。
 雪の宿では内角が直角よりも強いのか……そうか……参考にさせてもらうぞ。

沈丁花夜へからだは深まりぬ 未々
 沈丁花のかすかに香る夜の闇へ同化していく身体感覚の把握が良いのう。「は」の一言で、夜と体の関係を冷静に見ていることがわかるぞ。でものでもの、深まりすぎてはちと困るぞ。朝には是非目を開けてくだされよ。

ゆく先を考えない子卒業す 柊つばき
 子供がゆく先を考えていたら何も出来んようになるぞ。ゆく先を考えんでいいのが子供の特権ぢゃ。そんな子供たちも、卒業式を何回か経験するたび、ゆく先を考え出すんぢゃろうな。子供が子供を「卒業す」るために卒業するのなら、ちょっとだけ寂しいのう。

墓地へゆく理由の一つ沈丁花 坊太郎
白蓮や越す日の近き雨夜にて 坊太郎
 墓地への小道に差しかかったらほのと香ってくるんぢゃろうな。故人を偲びながら墓に着くまでの時間のなんと豊かなことか、ぢゃ。
 夜雨とすれば不器男を思わず思い出してしまうが、雨夜としたところで情が抑えられ、越す日を淡々と迎えている心情がかえってよくわかるぞ。
 こんな句は、情と理はすれすれにすれすれに的恩讐の彼方へ追放!

春コートより淡色の脚すらり 元旦
春愁やドーナツ盤の針跳んだ 元旦
 まさに正調春ぢゃ。春の中の春ぢゃ。春が春コートを着て脚を出しているの図ぢゃ。
昼飯の行列から抜け出してまでもついついついて行きたくなるぞ。「すらり」が無かったら妄想百倍なお結構ぢゃ。
 ドーナツ盤の上の針は春愁そのものぢゃ。これがLP盤ぢゃとちと大きすぎて長すぎてそうはいかん。ドーナツ盤の針が飛んで隣の溝にワープしたときにこそ、じわーっと春愁は増すのぢゃ。音で春愁を表現するところなんぞはそこらの音楽評論家も真っ青ぢゃ。
 こんな句は、針圧で春愁を調節できないものか的フルレンジの彼方へ追放!


 今月も力が抜けたり入ったりの力作粒粒揃いぢゃったのう。これからの季節は気温も湿度も適度に最高で、頭も体も概ね俊敏になるはずぢゃ。今の調子でへたうまの道をとことんとん突き進んで行きましょうぞ。
 ぢゃが、くれぐれも油断召されるなよ。



へたうま仙人
 年齢 卑弥呼がおっぱいを飲んでいた頃、ワシは青春真っ只中ぢゃった。
 好きなもの 霞のシャーベット(PM2.5抜き)
 嫌いなもの 上手な俳句
 将来の夢 大器晩成


目次に戻る


自由律俳句計画


選者 きむらけんじ

 男子20キロ競歩で、鈴木雄介選手が世界新記録をだしてマイナー競技の競歩がいきなり脚光を浴びている。前から思っていたのだけれど、この競技はどう考えても人間の本能に逆らっているとしか思えない。急ぐならフツーは走るだろう。ところが急ぐのに走ってはいけないのだ。おまけに 1:どちらかの足が着地していなければいけない 2:着地した足の膝が曲がっていてはいけない、という不自由な掟までついている。しかも競技の四六時中審判員から違反がないか足元をチェックされるというオマケ付きだ。なんかスポーツというより苦行のような気がする。競歩でスカッとすることなんかあるのだろうか……(あるんでしょうねえ多分)。



卯の花腐し長き葬列 迂叟

 「卯の花腐し」は有季定型の俳人ならご存知のように夏の季語です。梅雨に先立って旧暦の四、五月に降る陰鬱な長雨とあります。この俳句の半分は、この季語に寄って立っています。もっと言えばこの「卯の花腐し」の様相がこの句を支配しているとも言えます。そこへ当て嵌めた「長き葬列」と言う言葉は季語のちからを得て、田園風景の中を幟を立て粛々と進む、いわば日本の原風景のような葬列をみごとに描写しています。自由律ですからできればこの「季語」の上をいく言葉をみつけて句にしてほしい……とも思うのですが贅沢でしょうか……。



島から島をみて居る 北伊作
 たった十一音の短律。言葉は「島」と「見て居る」しかありません。しかしおそらくそう大きくもない舟に乗っている作者の視点を通して、旅情かもしれないあるいは郷愁かもしれない何かが、ゆっくりと伝わってきます。

大根や母の愛が重すぎる 一走人
 有季定型の句として見れば、「大根」と「母の愛」は付き過ぎか。切れ字の「や」も自由律では基本使わない。しかし「重すぎる」が、詩としての生命を保っていると思います。「大根抜く母の愛が重すぎる」ぐらいでは、ダメなんでしょうか。

白木蓮下着白 小木さん
 漢字だけ。たった6個の漢字の中に象徴的な「白」が二つ。しかもアタマとオシリに配置されたバランスの良さ。これを発見した時の作者の「やった!」感が浮かぶようです。しかもちゃんと俳味があるのが、なによりだと思います。

雑種の居心地にいる 多満
 「挫折感」を句にすれば、こいうことかもしれません。人間だれしもエリートで選ばれた地位に居続けることはむつかしい。挫折した時の在り様こそ、人間を深くする……。「雑種の居心地」が、言い得て妙。じわっと考えさせられる句です。

入学の靴が大きい 恋衣
 あらゆるモノが豊富には無かった昔は、靴どころか帽子も服も大き過ぎる子が結構いたような記憶があります。多分親が子の成長を見越してという経済的な理由もあったのでしょう。いまはそんな現実的な理由からではないと思いますが、それでも一年生に混沌はつきものです。



理由はないアフリカ人になって踊る ケンケン
春昼や風呂屋の按摩機の効き加減 喜多輝女
寝癖直らないから髪を切る うに子
ホワイトデーが思てたんと違う ポメロ親父
へらへらと生きてきて又、梅をみる まんぷく
充分に老人である春の雪である 北伊作
寒紅を濃く差し男に無体を言ふ 鯉城
目覚めてふるいに残っている記憶 多満
ザリガニの腐る臭ひの鋳物工場 みちる
脱いだままお前の型なにもかも 台所のキフジン


並選
怒って切る糸電話 杉本とらを
便利すぎて不便なる愚かさ 誉茂子
塩ゆでの蚕豆こんもり仏間まで レモングラス
左手の平啄木歌集働けぬ KIYOAKI FILM
見えすぎてゐる人工水晶体 小市
我にも地球にも生命維持装置 藍人
異教徒の教会に火を放つ ソラト
白梅に鳥鳥鳥鳥 和音
肉喰えと医者のほざく 南亭骨太
焼かれ叩かれ中華鍋 森 青萄
点字ブロックに転倒す 幸
握り締む遍路杖 ヤッチー
キティちゃんにも雛あられ のり茶づけ
蛇穴を出づるクレオパトラの墓 ゆりかもめ
下の名で呼ばれたき熱帯夜 野兎
豆腐屋のトラックが猛スピードすぎる 樫の木
涙に春の虹 緑の手
春の風食べちゃった あきさくら洋子
いかなご煮ること農家に嫁をもらうこと 妙
雛流し狙う百眼のシャッター 元旦
踊り場に踊れぬほどの餃子臭 しんじゆ
石仏の阿像吽像にもなごり雪 エノコロちゃん
笛の音の深く深く啓蟄 人日子
女子会の〆は夜桜 ミセスコナン
二十坪程よき家の二人かな 坊太郎
死刑は可か殺人の少女問ふ 松ぼっくり
伸び悩んでいる土筆 青柘榴
老人と思っていないお年寄 カシオペア
青む傾山ののどかなる あおい



きむらけんじ
1948年生まれ。第一回尾崎放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律 地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技 妄想、泥酔。



【100年投句計画】投句方法
 件名を「100年投句計画」とし、投句先(複数可)、俳号(なければ本名の名前のみ)、本名、電話番号、住所を明記してお送り下さい。投句はそれぞれ二句まで、詰め俳句は季語を一つのみお送り下さい。一つのEメールまたは一枚のハガキに各コーナーの投句をまとめて送っていただいても構いません。
ただし、「選者三名による雑詠俳句計画」と「へたうま仙人」は、選択制(どちらか一方のみ投句)となります。また「雑詠俳句計画」は欄へ寄せられた二句を各選者が選ぶ形式です。各選者に個別に投句を行うのではない点にご注意下さい。

それぞれ締切は、4月20日(月)

投稿ページ http://marukobo.com/toukou/
投稿アドレス magazine@marukobo.com
はがきFAXでも投句できます。


さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。(俳句ポスト365のページ参照)


目次に戻る


美術館吟行6
思い出のマーニー×種田陽平展


文 猫正宗


 「思い出のマーニー」は、スタジオジブリ制作のアニメ映画。これまでのジブリ作品にはない“ガール ミーツ ガール”の話になっている。
 本展覧会は、本劇場作品を担当した映画美術監督、種田陽平氏が、アニメ用に設定した美術を実写映画のセットとして再現するというコンセプトで開催された。同時に、劇中使われた美術 背景画が各所に展示され、いわば二次元と三次元が重なり合うような構成となっている。
 それは、劇中の二人の少女の関係性とも重なり合うようだ。

風青し背中あわせに立つ二人 恋衣
夏至の夜は幻と現が重なりぬ 猫正宗

 12歳の少女杏奈は、幼いころ、両親と祖母を相次いで亡くす。今また、養母の愛も信じられなくなり、世界と断絶しているように感じている。
 喘息の療養のため訪れた海辺の村。杏奈は、湿地に建つ古い洋館、通称“湿っ地屋敷”に、なぜか懐かしさを感じ魅かれていく。

私は私が嫌ひ夏蝶の憂うつ 南行ひかる
夕凪に湿っ地館の悠然と toku229
どうしようもないよ 入江はずっと初夏 未悠

 入江から屋敷へとボートで向かう杏奈の姿をジオラマで再現。夕刻から夜への移り変わりが美しい。やがて屋敷の窓に明かりが灯る。

夏来るフランス落としの窓あけて 恋衣
友を呼べ青き出窓へ夏の月 南行ひかる

 杏奈は無人のはずの屋敷で、夢から抜け出てきたかのような金髪碧眼の美しい少女、マーニーと出会い、秘め事めいた逢瀬を重ねていく。

お屋敷は二人の迷路であり箱庭 猫正宗

 実寸大で再現されたマーニーの部屋。宝物で埋め尽くされながら、どこか孤独が滲む。

月涼しマーニーはゆりかごの中 恋衣
広すぎる部屋の人形夏の月 猫正宗

 そして、ライティングデスクの上には、物語の重要な鍵となるマーニーの日記が……。

消した文字こそが夏星日記帳 猫正宗

 廃墟となったサイロで、二人は雷雨に襲われる。
 再現されたサイロに足を踏み入れると、薄暗い中、雷鳴と風(!)が。螺旋階段となった内部を見上げれば、きつくついたパースが威圧感を一層高め、少女たちの不安や恐怖を実感させられる。

雷の響き恐怖のサイロかな toku229

 一人サイロに取り残され一夜を過ごした杏奈。マーニーにも裏切られたと感じ、怒り悲しむ。
 しかし、別れの時は突然訪れる。
 杏奈に許しを求めるマーニー。マーニーのことがどれほど好きだったかを改めて気づいた杏奈は、マーニーを許す。

魔法の輪解けてひと夏の行方 南行ひかる

 杏奈の解放を示すかのような明るい部屋に、かき集めた思い出のように飾られた背景画。アニメの技法として、背景と動くものは別々に描かれるため、会場の背景画には、人の姿がない。
 しかし、そこには確実に物語が息づいている。
 
夏の昼主役のいない絵を掛けて チャンヒ
夏蝶の永久に背景画を生きる チャンヒ

 また、その絵を観ている人たちも、夏の思い出の中に溶け込んでいくようだ。

誰もいない夏に君こそが思い出 猫正宗

 最後の展示は、制作陣の机を再現。
 さて、映画には本展では語られていない結末が。

君が見ている夏空と同じ目で 未悠

 この句の意味を、ぜひ美術館で、そして真の結末を映画館(松山では5月中旬までリバイバル上映予定)やDVDで見つけてみてほしい。


猫正宗
メガネ句会&JAZZ句会が主な作句場所。「お芝居観ませんか?」連載中。



取材協力:「思い出のマーニー×種田陽平展」実行委員会(愛媛県、南海放送)、愛媛県美術館


美術館吟行会今後の予定
いずれも『100年俳句計画』編集室までお申し込み下さい。(TEL 089-906-0694)

「金澤翔子展吟行会」展
日時: 6月13日午前10時〜
場所:愛媛県美術館
参加費: 無料(入館料は別途)
申込み締切:6月11日(木)
http://www.iyokannet.jp/



目次に戻る


フランク ロイド ライトの
「草原様式」と正岡子規の「ハイク」


古書ほやけん洞店主 門屋哲司


 フランク ロイド ライト(1867〜1959)という建築家は、ニューヨークのグッゲンハイム美術館、ペンシルベニアのカウフマン邸(落水荘)、さらにはかつて東京にあった旧帝国ホテル本館など、数多くの有機的建築を設計したことで知られている人物である。91才まで生きたライトは、ル コルビュジェ、ミース ファン デル ローエとともに「モダニズム建築の三大巨匠」と呼ばれているから、比較的最近の人物だと誤解していたが、意外にも正岡子規(1867〜1902)と同年の生まれであることに気がついた。以下、その時から考えていることについて書いてみようと思う。
 1894年、ウィンズロー邸でデビューした27才のライトは、この時早くも「草原様式」(解説1)の原型とみられる片鱗を見せている。その建物の構成は特徴的であり、アメリカの広大な大地を這わせるように、低い屋根を水平に横に伸ばしてゆくというもので、なんとも言えず清らかでスッキリとした佇まいを見せている。建物の内部も、部屋をキッチリと区切ることなく、一つの空間として緩やかに繋いであり、とても親しみやすく開放的な雰囲気を醸し出している。
 さてそこで、同じ頃に子規が詠んだ春から夏にかけての俳句を挙げてみる。「毎年よ彼岸の入に寒いのは」(1893年)「故郷やどちらを見ても山笑ふ」(1893年)「家あつて若葉家あつて若葉かな」(1894年)「六月を奇麗な風の吹くことよ」(1895年)などなど。いずれの俳句もゴテゴテとした装飾性から全くの対極にあり、ライトのデビュー作と同じように大らかで風通しが良く、明るい光に満ち溢れている。何よりも、シンプルな「ヒューマンスケール」(解説2)により意図された作品であるため、今の時代においても充分に新鮮であると感じさせる。
 19世紀が終わろうとする頃、2人の若者が造り出した瑞々しい作品が、極めて健康的でエコロジカル(解説3)なイメージを持ちながら、現代にも通用する感覚を有しているのは何故だろうか。様々な要因が思いつく中で一つには、その時代におけるライトや子規の生活の中に、自動車や高層マンションといったシロモノが、まだ存在していないことが挙げられるだろう。いずれにしても現在(特に東日本大震災以降)、多くの建築家や俳人達に求められている作品のあり方というものが、ライトや子規の初期作品によく現れているのではないだろうか。その作品はミニマル(解説4)な感覚で造られるべきものであり、なおかつ出来上がったものが流動性や融通性を兼ね備えたものであれば、更に魅力的なものになり得ると考えている。
 最後に余談であるが、子規に高浜虚子と河東碧梧桐という対照的な後継者がいたように、ライトにもリチャード ノイトラとルドルフ シンドラーという有能な後継者がいた。「ホトトギス」を受け継いだ虚子が、子規の正統な後継者として認識されていることに、ほぼ異論はないものと思われる。同じようにライトの後継者としては、戦後ケース スタディ ハウス(解説5)などに参加したノイトラのほうが高く評価されてきた。しかしながら、碧梧桐やシンドラーは当時あまりにもアヴァンギャルド(解説6)なボヘミアン(解説7)であったために、残念ながら「負け組」になったのだと考えられなくもない。特に最近、彼ら「負け組」の先見性を再評価する動きが次第に高まりつつある。多くの若い建築家や俳人達が、彼らの極めてユニークでマルチな才能の旨みを味わい損なってはもったいないと発言を始め、従来の思考停止的で非越境的な建築史や俳句史を、最初から捉え直そうとしている。「およそ人間が編纂する歴史は全て偽史である」という彼らの基本的スタンスは、これからの建築や俳句の世界に、より多くの刺激を与え、活性化を促してゆくことになるだろう。



解説1
草原様式 ライトが提案した新しい建築スタイル。内外の一体化や水平ラインの強調を特徴とする。アメリカの大草原にふさわしい建築であり、プレイリースタイルとも呼ばれる。
本文に戻る 解説1


解説2
ヒューマンスケール 人と空間との関係を、人間の身体を尺度にして考えること。人間の感覚や動きに適合した、適切な空間の規模や物の大きさのこと。
本文に戻る 解説2


解説3
エコロジカル デザインの対象となる都市や建築などが、自然や環境と調和するさま。
本文に戻る 解説3


解説4
ミニマル 形態や色彩を最小限度まで突き詰めようとする態度。
本文に戻る 解説4


解説5
ケース スタディ ハウス  雑誌「アーツ アンド アーキテクチュア」のスポンサーで行われた実験的住宅建築プログラム。
本文に戻る 解説5


解説6
アヴァンギャルド 既成概念に囚われず、新たな表現方法を開拓しようとする芸術運動。
本文に戻る 解説6


解説7
ボヘミアン 世間に背を向け、伝統や習慣にこだわらない自由奔放な生活をしている人。
本文に戻る 解説7



参考文献
「ライトの遺言」 彰国社 フランク ロイド ライト著 谷川正己 谷川睦子共訳
「正岡子規 郷土俳人シリーズ1」 愛媛新聞社
「東京大学のアルバート アイラー」 メディア総合研究所 菊地成孔 大谷能生共著



目次に戻る


第4回
大人のための句集を作ろう!コンテスト
表彰式を終えて


中町とおと


 「100年俳句計画マガジン3月号読んでるんですけど、中町とおとって、とおとさん?」2月末のある夜、ツイッターを通じて希望峰さんからメッセージが届いた。あ、大人コンの結果が出たのかな、と、マガジンを購読していないわたし(すみません)でもピンと来たのは、「中町」というのが今回の応募のために半ば無理やりつけた苗字だったから。どんな記事なのか聞き返すと、「最優秀賞でしたよ! おめでとうございます!」との返信。さらに、結果速報の記事の写真を送ってくれた。にわかには信じがたく、何度も記事を見返した。どうやら本当らしい……。嬉しさと驚きと、その他さまざまな感情が代わるがわるに湧いてきて、少し泣いた。
 俳句ポスト365で組長から応募を勧められ、発表済みの句でいいならと旧作をかき集めてみたものの、果たして自分のこの作風が通用するのか全く自信がなかった。こういう作品は好き嫌いがはっきり分かれることも、こういう俳句を認めない人が多数いるだろうことも分かっていた。でも、だからこそ、この作風で勝負してみたくなった。入選できなくてもいい、自分の俳句がどう読まれるのか確かめてみたい。そう考えて、集めた81句を読み返し、徹底的に構成を練った。そうして生まれた「さみしき獣」。受賞の報に、わたしの俳句はこれでいいのだ、と認めてもらえた気がした。
 そして、表彰式の日。開会時間ギリギリに子規記念博物館に到着し、急いで席につくと、隣の席にいらした女性が「おめでとうございます」と声をかけて下さった。竹田美喜館長だった。
 表彰は優秀賞の作品から始まった。お一人ずつ、代表句に続いて句集タイトル、作者名がスクリーンに映し出される。どの作品にもその作者ならではの色があって、一句読みあげられることに引き込まれた。組長が講評の中で「候補作はどれが最優秀賞になってもおかしくなかった」と仰っていたが、まさにその通り。個性豊かな力作揃いで、選考会員の方々はさぞご苦労なさったことと思う。
 最後に最優秀賞の表彰。それまでどこかふわふわとした心持ちだったのが、前に出て三瀬社長の読みあげる表彰状の文言を聞いているうちにようやく実感が湧いてきて、つい涙がこぼれた。みなさんの拍手と、時折混じる組長の大きな笑い声が温かかった。
 竹田館長からは勿体無いほどのお褒めの言葉をたくさん頂いた。「俳句界に与謝野晶子が現れた」は冗談としても、自分が句作において強くこだわっている「かな遣い」とその効果について、万葉の和歌がご専門の館長に高く評価して頂けたことは、言葉では言い表せないほどの励みとなった。「歌の世界がそのまま俳句になっていて、すっと入り込める」との評も、短歌と俳句両方を嗜む身としてこの上なく嬉しく、それだけで表彰式に来た甲斐があったと思った。
 また、組長からもいつものように温かな励ましを頂いた。右翼から左翼まで取り揃った候補作の、最左翼(!)が「さみしき獣」だったという。今までにないタイプの作品が受賞したことで、新たな道が開かれたとも。今後も最左翼たらんと、身が引き締まる思いがした。
 開き始めた道後公園の桜を濡らしていた雨も、表彰式が終わるころにはすっかり上がり、宴の進行とともにぐんぐん晴れて、絶好のお花見日和となった。休憩を挟みながら、夜8時のお開きまで句友のみなさんとの交流を存分に楽しみ、思い出に残る一日となった。
 最後に、選考会員のみなさま、この度は本当にありがとうございました。頂いた選考評は、お褒めの言葉も批判も含め、そのひとつひとつが宝物です。これを糧に、今後もわたしにしか詠めない俳句を探ってゆきます。これからもどうぞ宜しくお願い致します。



目次に戻る


Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳:朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ


No.22


Heart is dripping rain
Spring buds struggling to blossom
Drink wine and sleep more

花を待つ心に雨の降りにけり


(直訳)
心は雨だれ
庭の蕾は咲きあぐね
ワイン飲んでもう少し眠ろう



We are changing our furniture, buying a real bed and a longer sofa.
Our sleeping habits will change with the spring thaw.

 僕らは今、本物のベッドと長めのソファを買い、模様替えをしている。雪解けと共に、僕らの眠りも変わることだろう。(訳:朗善)



ナサニエル ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。
2013年7月より山梨へ移住。


目次に戻る



JAZZ俳句ターンテーブル


文/白方雅博
(俳号/蛇頭)

第50話
「タワーリング トッカータ」  ラロ シフリン


 「今回のテーマ、評判悪かったみたいで……」と猫正宗さんが探りを入れてきたので透かさず僕は「はい、悪かったです」と返した。とたんに「光海さん、このテーマじゃ句が詠めないと困ってたね。で今回は欠席らしい」「あれはジャズじゃない、映画音楽でしょ」「マミコンさんも来ないんじゃないかな」などと集中砲火が続く。人気ジャズ俳句を連発する猫さんへの妬み、なんて作用もあっただろうな。とにかく猫さんは一時的に瀕死状態となった。起死回生のフレーズは、このタイミングで放たれた。「あら、私は今回のCDが一番素敵だと思ったわ。実家に帰る時、車でずっと聴いてましたよ」福祉界の滝川クリステル、そしてJAZZ句会復帰後も毎回手作りスウィーツを持参してくれている、みしんさんの一言の破壊力は、おっちゃんたちの砲撃を一掃してしまった。猫ちゃん復活!!

立夏ですクロスオーバーしてますか  暮井戸

 「まあ、あれもジャズだよ」と否定しなかったJAZZ句会の重鎮、マミコンさんや僕にも責任の一端はあるわけで、みしんさんの一言は、この句会をも救ったと言って過言じゃない。
 で、その渦中のテーマがラロ・シフリンの「タワーリング トッカータ」である。ラロ シフリンはアルゼンチン出身の作 編曲家でジャズピアニスト。「ジャズ〜」とされているのは彼がヴァーブ レコードに所属していたこともあって、名だたる大物ジャズ ミュージシャンとの共演が多かったからだろうが、一般的には「スパイ大作戦」や「ダーティーハリー」「燃えよドラゴン」といったテレビシリーズや映画音楽の作曲家として有名だ。演劇や映画に精通し、本誌の「お芝居観ませんか?」でお馴染みの猫さんだからこそのリクエストだったわけである。

風青し斜交いに聴くバッハ 蛇頭

 表題曲の「タワーリング トッカータ」は、バッハの「トッカータとフーガ」のカヴァーである。リズムはディスコ調であるがアレンジは格調高く、しかもエネルギッシュで、アンソニー ジャクソンのベース ラインがとても印象的。意識して聴くと病みつきになりそうだ。

さびしらにましらななきそ聖五月  破障子

 何とも雅な調べであることよ、というジャケ句なのである。「ましら」は、このアルバムのもう一つのカヴァー曲「キングコング」のこと。今は無き貿易センター ビルの間にキングコング風の着ぐるみを纏ったラロ シフリン。その表情はどこか寂しげだ。背景は初夏の爽やかな青空。

フルートへ指で綴じ込む五月闇 時計子

 ひときわ光彩を放つジェレミー スタイグのフルート ソロは、このアルバムの大きな売りである。ワイルドなノイジー フルートが一転ソフトに繊細に、さらにはミステリアスに変貌する様は圧巻。

うすものやブラックウィドウの白き腕 俊坊

 これ以上のジャケ句がございましょうか!! サブテーマ用にいただきました。



http://www.baribari789.com/

「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は日曜日の25時〜26時。
次回のJAZZ句会は、5月24日(日)13時より。メインテーマは『モ’ ベター ブルース/ブランフォード マルサリス』、サブテーマは『ロイヤル ガーデン ブルース』です。参加申込は本誌44ページの句会カレンダーを参照してください。


このコーナーで紹介した俳句とエッセイ、堤宏文さんの写真とを組み合わせた『JAZZ HAIKU vol.1』(マルコボ.コム)を発売中。


目次に戻る



ラクゴキゴ


第50話
『植木屋娘』〜 時代によってサゲは変化する?〜


あらすじ
 ある大きな植木屋さんに一人娘がいる。これが近所でも評判の美人で、親父さん自慢の娘。ほめられたり美人と評判が立つのはうれしいけれど、それがまた心配のタネのひとつでもある。
 そこで親父さんは「悪い虫がつく前に養子をもろて楽隠居をしよう」と思いつく。
 目をつけたのがちょうど向かいの、お寺の居候 伝吉。
 娘のお光も、彼ならまんざらでもない様子。
 お寺へ話をしに行くと、「あれは武家の出で、五百石を継ぐ身じゃ、やれん。」とけんもほろろに断られてしまう。
 親父さんそれにもめげず、「それやったら既成事実を作ってしまえ。」と、二人だけにしてお酒の席を設けることに。
 しかしタイミングが合わず伝吉は帰ってしまう。
 その後、いくつかの縁談があっても全て断るお光、「男嫌いなのでは?」と噂が立ち始めたころに、なんと妊娠していることが発覚。相手は誰かとたずねると、あの伝吉だというので親父さんたいそう喜び、お寺へ向かう。
「しかし伝吉は五百石の跡目を継ぐことに……」
「その子が出来たら、その子に継がしたらええ、そやさかい伝吉はもらう!」
「そんな無茶な。侍の家を勝手に取ったり継いだりできるかいな。」
 すると植木屋の親父さん、
「大丈夫、接ぎ木も根分けも、うちの秘伝でおますがな。」



 もともとこの噺のサゲ(最後の部分)は、
「住職に掛け合いますが、伝吉の答えは『商売が植木屋でございます。根はこしらえものかと存じます。』」というものでした。
 これを変えたのが、先日お亡くなりになった人間国宝 桂米朝師でした。
「むかし、夜店などでタチの悪い商人から買った植木に根が無くてすぐ枯れてしまったりするのがあったそうですが、これはちょっとひどいサゲで、伝吉という人間もこれで大変悪い男になってしまうし、この一篇の落語が実に後味のよくないものになりますので」
 という理由だということです。
 たしかに、三十分の落語を聴いて、サゲの一つで全く後の気持ちが変わってきます。
 娘のことを心配して一喜一憂する憎めない父親像、そして伝吉の立場。この立ち位置がずいぶん変わると思うのです。
 わかりにくいサゲや言い回しを、まるで楷書で書くように時代に合わせて変える作業をした米朝師。
 プロの噺家さんはもちろんでしょうが、我々落研出身の者はどれだけ米朝師の噺に、本にお世話になったことでしょう。
 テキストにするには最高の噺家でしたし、米朝師にしか表せない風格のただよう代表的な噺は数々……。
 「百年目」「帯久」「たちぎれ線香」「鹿政談」「佐々木裁き」etc……。
 テープやCD、DVDが山のように残されています。
 今でも米朝師の至高の芸を間近で楽しむことが出来るのです。
 今ごろ、お弟子さんの枝雀さんや吉朝さんらと一献かたむけておられるでしょうか。
 合掌

 技といふものは盗めと接木かな


目次に戻る



ホンヤクサイホンヤク


翻田 訳蔵

 俳句初心者、翻田訳蔵がネット上の翻訳ソフトを使って名句を翻訳、再翻訳し、そこからインスパイアされた(パクッた)句を発表していこうという馬鹿馬鹿しくも実験的で図々しいコラムです。


今回の俳句
 行く春や鳥啼き魚の目は泪 松尾芭蕉



 さっそくGoogle翻訳(英→日)から

Go spring and birds defunct corn is tears

 再翻訳

亡きトウモロコシが涙で春と鳥を行く

 「魚」の目を、皮膚の角質層が厚く盛り上がり、患部を刺激すると痛みを伴う「魚の目」と判断して翻訳したようです。それにしても「魚の目」の英語が「corn」で「とうもろこし」と同じ単語だったとは……。
 ちなみに、患部を刺激しても痛みがないのは「タコ」だそうです。
 そして、「啼き」を「亡き(defunct)」として翻訳しています。
 後半部分が7音5音になっているところにも驚きました。

 続いて、エキサイト翻訳(英→日)

The spring which passes and a bird crying corn are a tear.

 再翻訳

パスと鳥泣きトウモロコシが涙である春。

 ジャングルの奥地には、いまだ発見されていない「パス」と泣く鳥がいるのかもしれません。

 最後に、Yahoo!翻訳(英→日)

Going spring and bird call; the corn is 泪

 では、再翻訳

進行中の春と鳥は鳴きます;コーンは泪です

 ジャングルの奥地には、いまだ発見されていない「シンコウチュウノハル」と鳴く鳥がいるのかもしれません。

 それでは、この3つを受けて一句。


行く春や鳥と泪とトウモロコシ 翻田訳蔵


目次に戻る


お芝居観ませんか?


文&俳句 猫正宗

第31回 「うかうか三十、ちょろちょろ四十」

[人形劇団プーク公演、作:井上ひさし、演出:井上幸子、出演:安尾芳明、大橋友子、他、'15年3月17日、ひめぎんホール(県民文化会館)サブホール]

 東北らしき地、気弱な殿様は、満開の桜の下、美しい村娘・ちかにやっとの思いで告白する。しかし、つつましく暮らすことだけが望みのちかは殿様の申し出を断る。
 ふられたショックからか、直後の雷雨のせいか、殿様は正気を失ってしまう。
 それから10年、既に夫と娘を持ったちかの家に医者が現れ、長く病の床に就いていた夫に、病気は治っていると告げる。喜ぶ夫。ちかもまた喜ぶが、直後に訪れた侍から、医者は気の触れた殿様で、どんな病人にも、病気でないと告げて回っているのだと聞かされる。
 さらに10年、ようやく正気に戻ったものの気の触れていた間の記憶のない殿様。再び、村の桜の木の下、成長したちかの娘に出会う。彼女の父は8年も養生した後、突如猛烈に働き始めると半年で死に、母もその後を追うように亡くなったと聞く。
 自分のいたずらが、人を死に追いやったのではないか。途方に暮れる殿様。
 桜は美しく、娘もまた美しい。風車を回す風だけが通り抜けて行く。

春雷雨全て流してしまえばいい

 人が喜ぶのを見たくて行った偽医者。許される行為ではないのだろう。しかし、長年病床で鬱々と過ごし、ささくれだった心を妻や娘にぶつける人生と、たとえ一時でも家族のために働く人生。どちらをよしとすればよいのか。いや、それよりなにより、もし、ちかが殿様の申し出を受けていたとしたら、全てが幸せに納まったのかもしれない。純粋さ、正直さは時に残酷で悲しい。ちかでさえ、喜ぶ夫を見て、医者が殿様だと気づかないふりをしようとしたのだから。無論、こんな見方は本道ではない。それでもそんな風に思ってしまうのは、人形という身体が生身の人間のそれより、器として、そんな零れ落ちそうな思いを掬い取りやすいからなのかもしれない。

一巡りする間に10年風車

同時上演『現代版イソップ「約束…」』
(原作:田辺聖子、脚色/演出:井上幸子、出演:岡本和彦、早川小百合、他)



このコーナーでは、松山市民劇場例会にて公演された芝居を紹介します。


目次に戻る



百年歳時記


第24回 夏井いつき

 有名俳人の一句を紹介鑑賞するページは世に数々あれど、「市井の逸品」とも呼べる一句を取り上げ鑑賞する記事はそんなに多くありません。
 百年先に残したい佳句秀句奇々怪々句を見いだし、皆さんと共に味わおうという連載は、名づけて「百年歳時記」。夏井いつきの目に触れた様々な作品を毎月ご紹介していきます。


卒業や砂場の山の褪せている 凛太郎
 「卒業」という季語を表現する時、誰もが涙や希望や歌や成長への感慨を述べようとしますが、このような淡々たる視線でもって自己の変容が語られている事実に軽い驚きと感動を覚えました。
 ピカピカの一年生で入学した時、「砂場」は幼稚園時代の延長としてのお砂場遊びの舞台。色とりどりのスコップやバケツが活躍する楽しい遊び場でした。ところがその「砂場」も、六年間を終えた「卒業」の頃には、走り幅跳びを計測する場、高鉄棒の着地の場として変容しています。「砂場」に対する認識の変化は、成長という名の変容。小学校卒業の感慨を、「砂場の山の褪せている」という少し冷めた措辞で表現する客観的な視点に脱帽の一句です。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』3月20日放送分)


蒔き切つてまず花種の袋咲く 不知火
 「蒔」の一字で何かの種を蒔いていることが分かり、複合動詞「蒔き切つて」で作業の動作が映像化され、さらに「まず」の一語によって展開されていく短い時間が示唆されます。これらの伏線によって「花種の袋咲く」という後半の映像が鮮やかに広がってくるのです。ともすれば機知としておわりがちな言葉「花種の袋咲く」を、映像としてしっかり機能させている点が実に巧い作品です。
 「花種」を蒔き終えた静かな土には、花種が入っていた袋が色とりどりの写真の花を咲かせています。ここにはこれが、あそこにはこの色がと全ての花が咲いた様子を思い浮かべる楽しさ、満足感。如雨露でたっぷりと水をやると、土は黒々と豊かな色となります。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』3月27日掲載分)


武州某町水菜と言へど猛々し 雪うさぎ
 「武州」とは武蔵国。大消費地東京に近い茨城県産の「水菜」が広く出回っている昨今の現状も踏まえ、「水菜と言へど猛々し」と述べることで、「水菜=京菜」の持つ嫋やかなイメージと対比。逆説的に「水菜」の特徴を表現するとは、実に痛快な発想です。
 「武州某町」という上五の置き方も巧いですね。仮に「武州産」と言い換えてみると、スーパーに並んでいる商品っぽくなりますが、「武州某町」は行きずりの視点。「武州」のある町で栽培されている「水菜」をたまたま目にしての、これ水菜?ずいぶん勢いのいい水菜ねえ!なんて会話が聞こえてくるかのような一句。京の壬生菜ではない、まさにイマドキの「水菜」がありありと見えてきます。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』3月20日掲載分)


花びらを映して石もまた鏡 天玲
 この「石」はゴツゴツした石ではなくて、綺麗に磨き上げられこれから何かを彫り込むという段階の石でしょうか。そんな石屋の光景を思ってもいいし、新しい句碑や墓石を想像しても良いですね。
 「花びら」は桜の花片です。美しく磨き上げられた「石」はまるで「鏡」のように、散りしきる「花びら」の影を映します。ここで作者の思いに寄り添いたいのは「石もまた鏡」という措辞です。「鏡のような石」と述べるのではなく、「花びら」が散っていく光と影を映しながら「石」というものもまた「鏡」と成り得るのだな、という作者の感慨そのものが詩。「花びら」という季語と「石」という無機物が、「鏡」の一語で美しい出会いを果たした作品です。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』4月10日放送分)


打ち上げられて海松はるかはるかに平壌府 ねこ端石
 「海松」は「みる」と読みます。海藻の一種です。「平壌(ピョンヤン)」は朝鮮民主主義人民共和国の首都ですが、「平壌府」とは日本統治時代の行政区分で「へいじょうふ」と読むようです。となれば、この句の「はるかはるかに」は地理的距離だけでなく、歴史を遡る時間的イメージも内包しているということになります。
 「打ち上げられて海松」を声に出してみると、「海松(みる)」という音が残って「みるはるかはるかに」と調べが続きます。時間と空間を「はるかはるかに」辿れば、日本統治時代の「平壌府」もそこにあるという感慨。ぬめぬめと冷たい「海松」の感触が、北朝鮮という国への複雑な思いとなって読み手の心に押し寄せます。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』4月17日放送分)


*百年歳時記は、南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』や
 松山市公式サイト『俳句ポスト365』(http://haikutown.jp/post/
 などに投句された俳句を紹介します。


目次に戻る



会話形式でわかる
近代俳句史超入門


第11回
文 構成 青木亮人

 大学で俳句を研究する青木先生と、その教え子で俳句甲子園の出場経験もある大学生の俳子さんが雑談を交えながらの近代俳句史超入門。

虚子と文学とホトトギス

 二人は大学の教室で高浜虚子について論じあっています。

不良先輩、子規?
青木先生(以下青) えーと、話はどこまで進んだんでしたっけ。
俳子(以下俳) フライパンに薬味を入れて、それから……というあたりです。
青 そうそう、強火で一気に火を通し、おもむろに甜麺醤を……って、バカな。虚子をフライパンで炒めてどうするんですか。
俳 軽い冗談ですよ、先生。碧さんと虚子さんが高校を中退したのは「文学」に夢中だったからで、それには子規さんの影響もあった、というお話でした。
青 そうでした。虚子と碧梧桐が高校を辞めたのは、先輩子規が先鞭を付けたという見方もできます。結核にかかったという重い事情があったにせよ、子規はあの帝国大学を中退したのですからね……。
俳 「あの」?
青 明治時代、帝大に進学できたのはエリート中のエリート。帝大生は「末は博士か大臣か」と謳われる地位や名誉を得る可能性がありました。それなのに「文学」にハマり、中退して日本新聞社に入って句や俳論を発表し始めた子規に、碧虚が影響されないはずがない。少なくとも、周りはそう見ていたようです。碧梧桐の回想によると、彼が学校を辞めたのを聞いた兄は「また正岡のマネをしおって」と苦りきったとか。
俳 ま、まさか……子規さんは後輩を悪の道に誘う不良みたいに思われていたんでしょうか?(かつてなく血走った目を見開く)
青 怖い……『八つ墓村』に出てくる犯人みたいな目をしないで下さい。確かに、子規にそういう側面がなかったとはいえない。彼としては結核で何年生きられるか分からない切迫感があったとしても、若い碧虚や世間がそれを十分に理解したかは微妙です。むしろ、周りからは「文学」に後輩を導くワルい先輩と映ったのではないでしょうか。
俳 『八つ墓村』に似てるとか、子規さんのこととか、色々ショック……誰もが子規さんを偉い人と見ていたと思っていました。でも、分かる気もします。高校の時、先生との進路相談で「俳人になります」と真顔で言ったら、「俳人? そんなこと言っていたら廃人になるぞ。お、我ながらいいギャグ」とかでマトモに取り合ってくれず、「で、どこの大学を考えているんだ?」と進学の話になっちゃって。碧虚コンビ、随分思いきったことをしたんですねえ。
青 そう。子規もそのムチャぶりに驚き、手紙で「文学に生きると息巻いているが世間は甘くないぞ、一体何を考えているんだ」と強く説諭しています。結核でも何でもないのに自分の真似をして中退するとはけしからん、ガツンと指導せねば……という想いが子規にはあったのでしょう。
俳 今もそうですが、明治時代に「文学」で生きるのはシビアだったんですねえ。

学校中退後の虚子
青 とにかく不安定な商売ですし、特に明治時代は著作権や印税とか曖昧で、当時売れっ子の尾崎紅葉も余裕のある生活が出来たわけではありません。でも、そういう利害を抜きに「文学」に夢中になった碧虚を見ると、彼らが若いというだけでなく、当時の才気溢れる(と信じていた)青年には「文学」がそれほど魅力的だったのでしょう。
俳 猫がマタタビを嗅ぐような感じ?
青 ええ。虚猫と碧猫は「文学」の魔力にやられて頭がクラクラしちゃったんです。虚子に話を戻すと、高校を飛び出した後も定職に就かずブラブラし、小説家を夢見ていました。先輩の子規が熱心に句作を勧めるので句を詠んでいたら、ある時子規が明治新時代の象徴と絶賛したために一躍俳人として有名になる(解説1)。結婚もし、一家の主として稼がねば……というのもあり、松山の「ホトトギス」を譲り受け(解説2)、東京で虚子が編集者として発行することになった。子規は「俳誌はロクに売れないのに、大丈夫か」と危ぶみますが、1500部ほど売れてしまい、順調なスタートを切ります。
俳 おぉ……虚子さん、経営者の才覚もあったんですね。
青 ただ、それは良いことばかりでなく、「ホトトギス」内では「虚子は商売人だ」と陰口めいた批判も多かったようです。虚子に経営の才覚はあったとしても、それ以上に運が強かったのでは、と感じます。いくら手腕があっても、俳誌で千部以上売りさばくのは個人の力量では難しいですよ。
俳 私と大違いですねえ。小学校の時、「運動会がなくなりますように」と雨乞いの八つ鹿踊りをしたら快晴になるし、初詣では十五年ほど凶が続くし、踏んだり蹴ったりの人生です。
青 小学生で本気の八つ鹿踊り……俳誌を千部売るよりハードルが高そう。でも、虚子は強運だったかもしれませんが、彼は大きな挫折を経て「俳人」の道を選んだことをお忘れなく。
俳 虚子さんも八つ鹿踊りに失敗したんですか?
青 まさか。そもそも俳人仲間に「雨乞いするけん、あと七匹ほど鹿になってくれんかの」とか言えませんよ。そうでなく、「ホトトギス」の売れ行きは順調だったとしても、虚子は小説家になりたかった。自己の全てを表現し、人生の機微や人間関係の綾を描きつくす小説を書きたいのだけど、出来ない。「写生文」(解説3)で文章は鍛えていましたが、それが良い小説にはなってくれません。ところが、ある事件が起きます。
俳 ある山村で起きた連続殺人事件? 
青 それ、先ほどの『八つ墓村』じゃないですか。虚子はそんな事件を起こしてませんよ。東京帝国大学で英文学を教えていた夏目漱石が恐ろしいスピードで小説を書き始めたんです。

漱石に刺激されて
俳 あっ、『吾輩は猫である』!
青 そう。しかも発端は虚子でした。帝大教員の暮らしが合わず、鬱状態になった漱石を見かねた奥さんの鏡子さんが虚子に相談します。虚子は気晴らしに……と漱石を歌舞伎見物や連句に誘うと、漱石は連句の方に関心を示し、ノリノリで句を巻いたりしました。それに驚いた虚子は、「そんなに何か書くのが面白いなら、うちに写生文でも書いてよ」と軽い気持ちで頼んだところ、漱石はぶ厚い原稿を渡してきます。それが「ホトトギス」明治38年1月号に『吾輩は猫である』として発表されるや、瞬く間に人気を呼びました。
俳 ふむふむ。でも、それと虚子さんの挫折はどんな関係にあるんですか?
青 漱石の『〜猫』のおかげで「ホトトギス」は一万部近くまで売り上げが伸びた上、その後の漱石は『倫敦塔』『坊っちゃん』『草枕』等を無造作に発表し始めた。もともと小説家になりたかった虚子は「お、俺だって!」と意気込んで「ホトトギス」に小説をガンガン発表します。ところが評判はパッとせず、雑誌の売り上げも急減し、思うように行かない。彼は漱石のように面白い小説を書けなかったんです。
(続く)


青木亮人(あおき まこと) 1974年、北海道生まれ。現在、愛媛大学准教授。著書に『その眼、俳人につき』(邑書林)など。



解説


解説1
「明治二十九年の俳諧」 明治30(1897)年、子規が新聞「日本」に連載した俳論。明治新俳句のあるべき姿を宣言した論で、碧梧桐、虚子句を前例のない「新調」と鼓吹した。
本文に戻る 解説1

解説2
「ホトトギス」は明治30年、松山で柳原極堂が子規派俳誌として発行したが、一年で廃刊の危機に瀕する。そのため、東京の虚子が続刊を引き受け、明治31年に再出発した。
本文に戻る 解説2

解説3
「写生文」 子規が提唱した文章運動。和歌や漢詩文等の従来の定番表現に囚われず、眼前の現実を口語的な文体で記すもので、子規没後も「ホトトギス」の大きな軸となった。
本文に戻る 解説3



目次に戻る



まつやま俳句でまちづくりの会通信


第50回 文 岡戸游士

第4回 女川町の桜を復活させよう! チャリティー句会ライブ

 今年も「100年俳句計画大花見大会」の会場をお借りして、第4回チャリティー句会ライブを開催しました。
 午前八時に始まった大花見ですが、あいにくの雨天のため、ひとまず公園内の東屋で雨が上がるのを待ちました。さっそく酒を注いだコップ片手に談笑されている姿には、雨の止みそうな気配を感じました。また、しんじゆさんの珈琲で体をあたため暖をとり、それぞれにしばらくの時間を過ごしました。
 そうこうして午前十時が近づくと、「大人コン」の表彰式へ皆で向かいました。その間しだいに雲も遠くへ流れ、午前11時、ちょうど表彰式が終わる頃には、天候は回復しました。
 句会ライブ開始までの間、各自で持ち寄った食べ物をつつき酒を酌み交わしながら、五分咲きの桜の下で大いににぎわいました。マイコップ、マイおちょこを持参されている方も見受けられ、それぞれに工夫を凝らして楽しまれているのが印象的でした。     
 そしていよいよ13時、(夏井いつき組長のお孫さん)太一くんの一升餅のお祝いに場があたたまり盛り上がったところで、句会ライブは始まりました。
 まず「女川町桜守りの会」からのお便りにより、女川駅が復活し、駅の前に桜を植樹する計画が紹介されました。
 その後、惜しくも決戦十句に残らなかった俳句を組長が読み上げ、会場は徐々に俳句モードになっていきました。それにしても、俳句を通じて老若男女問わずわいわい楽しめるということは、改めて素敵なことだなと実感しました。
 決戦に残ったのは以下の十句です。

初花や帯のポメラニアン笑う 鯛飯
たばこ屋の「たばこ」傾く花の雨 ちこどの
その女サロメ桜下に首を抱く 理酔
頸椎へし折ってまで桜見あげたか 日暮屋
夕桜沈黙は金の根拠を述べよ ねこ端石
花の夜を零さぬやうに帰らうか 中町とおと
桜描く心のやわらかい場所に ドクトルバンブー
スピッツを連れてさみしき花の雨 破障子
桜切り捨てたまへ軍国へとむかふなら 寒烏
妻のこと忘れた頃にさくら咲く 小木さん

 この十句による句合わせで最終的に勝ち上がったのは、日暮屋さんと寒烏さんの俳句でした。またその場でお二人には、キムさんによる即興の絵が贈呈されました。おめでとうございました。
 実は今年から、道後公園内での火気使用が全面禁止され、暖を取るのが難しくなりました。そうした状況でも引き続き「女川町の桜を復活させよう!チャリティー句会ライブ」を今年も開催できたのは、参加を賜りました皆様の熱い気持ちのおかげです。総計43,977円のカンパを頂戴しました。カンパにつきましては、mhmを通じて「女川町桜守りの会」へ寄付させていただきました。当日は足場の悪いなか、本当にありがとうございました。


mhmでは、ひきつづき松山市内外問わず会員および役員を募集中です。原則、毎月最終週の火曜日19時からマルコボ.コムにて会議がおこなわれます。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)またはFacebook(http://www.facebook.com/mhmhaiku)まで。


目次に戻る



2015小倉書道教室
子どもたちの作品展




 毎年恒例の小倉書道教室生徒さんたちによる書道×俳句の作品展が3月25日(水)〜30日(月)にかけて、松山市 いよてつ高島屋9Fにて開催されました。
 書にされた俳句は本誌1月号「代表句集2015」から子ども達自身が選びました。
 展示された全作品を掲載いたします。
(コメントは小倉書道教室 小倉揮代先生による寸評です。)


寺田まお(年長)
あにいもうとぶらんこ一つしかないの かな句/まお書
 4月から小学生。この作品展で俳句をかくのははじめてです。おねえちゃんにまけないぞ、と、ていねいにかきました。


福岡美結(小1)
トビウオになれない地球を出られない みゆう句/みゆ書
 形のむずかしい「地球」に挑戦しました。どの文字もとても正しい形で書かれています。とめる所、はらう所、ぜひよく見て下さい。


松本朋果(小1)
ミセスコナン「はい」と返してアイスティー ミセスコナン句/ともか書
 とてもすなおな線で、とても明るい作品ができました。すきとおったきれいな色のアイスティーから、よい香りがただよってくるようです。


武智瑞歩(小1)
山ざくらのこまかきひかり魂しづめ 省三句/みずほ書
 とても元気なのに、おだやかな作品なのは、リズムや空気感がゆったりしているからです。「魂」という字もしっかり覚えました。


高井綾乃(小1)
月にだけ話したいことないですか 小市句/あやの書
 やさしく話しかけるような句が、絵本のさし絵のような、あたたかい作品になりました。ほっこりして下さい。


寺田めい(小3)
まづ光のびて生まるるしやぼん玉 岡田一実句/めい書
 配置も考え、どうやって表現するか、工夫しました。筆のやわらかさをいかして、ていねいな作品に仕上がりました。


松本直紀(小3)
旅人は菜の花のなか文つづる 未々句/直紀書
 くっきりとした線で書かれたどの文字も、いきいきと生きています。呼吸まで伝わってきませんか?


松本将紀(小5)
目刺焼く空洞の目に敵意あり 樹朋句/将紀書
 ぴりっと緊張感のある作品に仕上がりました。線の1本1本、先端まで気迫を感じる、男らしい姿です。


岡本麻鈴(中1)
菱餅の角に光の透きとほり 銀猫句/麻鈴書
 たくさん練習する中で、自分なりの表現に苦悩しました。透きとほったような、明るい作品になりました。


佐藤詩織(中3)
ためらはず飛び発つ蝶の青し青し 亜桜みかり句/詩織書
 ゆったりとした空気感を大切に表現しました。高校生になり、更に羽ばたき続けてくれることを期待します。


佐伯雄二郎(中3)
王国に万の宝石春北斗 更紗句/雄二郎書
 ダイナミックさは、高校生になっても持ち続けてほしいです。優しさと強さを兼ねそなえた作品です。


佐伯剛太郎(高1)
春光や影の動かぬ風見鶏 蓼蟲句/剛太郎書
 スポーツと勉強と、作品づくりをする中で不動の強さとバランス感覚を手に入れつつあります。毎年自分なりのテーマを持って挑みます。


小倉嬉乃(高1)
春泥の半分乾く象の足 ヤッチー句/嬉乃書
 今、学んでいる古典の味わいをこの作品に活かすように挑戦しました。こうして作品で表現できることが楽しいのです。



小倉揮代 おかげさまで今年も無事、作品展を終えることができました。心からお礼申し上げます。
 句をお借りした皆様、会場に足を運んでいただいた皆様、ありがとうございました。また、全国より温かいお手紙をいただきましたこと、今後も私達の励ましとなります。皆様とのご縁が、どの子にもすばらしい成長となりました。
 また来年、皆様と作品を通じてお会いできますことを楽しみにしています。



目次に戻る



俳句の街 まつやま
俳句ポスト365


協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/


優秀句
平成27年3月度


【水菜】
《地》
光りたる水菜より振り落とす水 吾平
水と水ぶつけて洗ふ水菜かな 菜月
湧き水を水菜と競ふやうに飲む  クズウジュンイチ
鳥のごと腹に水菜のうすみどり てん点
水耕の水菜も供へ地鎮祭 牛後
水菜から食む南座の幕の内 るびい
ぶぶづけに水菜をそえて楽屋裏  中原久遠
ふた抱へ京菜納むや相撲部屋  このはる紗耶

《天》
武州某町水菜と言へど猛々し  雪うさぎ


【三月】
《地》
三月を生き延ぶ静かなる海と るびい
三月の色とするマティスは激し トポル
階段の踊場は三月の場所 ぐわ
三月やごろごろ水を飮みに行く  百草千樹
三月の雲はしっかり旅慣れて ぐべの実
三月のおはじき口に含みたし カリメロ
三月の噂を押し込めばロッカー 紗蘭
三月や木管楽器は花の息 花屋
三月は卵で俳句産んでみる ミル

《天》
三月の銅像の栗鼠濡らす雨  井上じろ



5月の兼題

投句期間:4月30日〜5月6日
滴り【三夏/地理】
夏に崖の岩肌を伝わったり、苔などにしみ込んだ水が、雫となって真下にぽたぽたと落ちる清水。季語として「滴り」という場合は、雨後の雫や鍾乳洞などの水滴は含まない。

投句期間:5月7日〜5月13日
高菜【仲夏/植物】
アブラナ科の越年草。芥菜の一種で、高さ1.5メートルほどにも育つのでこの名がある。皺がある大きな楕円形の葉には少し辛みがあり、漬物や炒め物に用いる。


《参考文献》『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)

※募集の兼題は変更される場合があります。「俳句ポスト365」のサイトで最新の情報をご確認ください。



5月18日(月)〜5月29日(金)の2週間は、システムのメンテナンスのため、「俳句ポスト365」の更新をお休みさせていただきます。この期間における新たな結果の発表、ならびに募集兼題の切り替わりはございませんので、あらかじめご了承ください。



俳句ポスト365
作品集2015
5月上旬完成

松山市役所及びマルコボ.コムほかにて配布予定です。
後日、配布方法などを365サイト上にて告知いたします。



目次に戻る



一句一遊情報局


有谷まほろ & 一句一遊聞き書き隊
協力 南海放送


金曜日優秀句
平成27年3月度


【黒北風】
黒北風や日がなえんぺら剥ぐ仕事 天玲
黒北風や反って治らぬトタン屋根  だんご虫
黒北風や梁より綱と網幾重 樫の木
黒北風だおふくろがまた暴れ出す 理酔
黒北風や今日の句集は山頭火  今野浮儚
黒北風の海へ武装のごと電柱 マイマイ
黒北風や媽祖の二神と立ちたれば 七草
黒北風や船腹キリル文字錆びて 露玉
国境が出自なり黒北風が吹く 恋衣
黒北風や漂流物に御神体 一走人
黒北風や明日で七日の浜仕舞い  鈴木麗門

《天》
黒北風じゃ蒙古が来るぞ子を盗るぞ  太郎


【確】
確認の声の長閑や教習車 七草
燕来る日本の朝を確かめて 太郎
確約はできぬ町長田螺和 不知火
確定申告終えて天麩羅うどんかな  酒洛
花薺確かめ算をやりなさい 恋衣
薔薇の芽や夫に確認したきこと  旧重信のタイガース
確執とはぶつけ合う薔薇と薔薇  亜桜みかり
確信や根のぎっしりとヒヤシンス  樫の木
断崖貝寄風確信は確証へ 妹のりこ
月に鳴く田螺の沼を確かむる 篠原そも

《天》
羊蹄を倒し容疑者確保せり  ドクトルバンブー


【卒業】
卒業式在校生のいない椅子 八幡浜発
最後の卒業三世代で校歌 和吉
卒業や一便遅いバスを待つ 笑吉
卒業や浮き桟橋の踏めば揺れ マイマイ
卒業の海を真二つフェリー便  殻嵩はるお
遺影の名呼ばれ全員卒業す 妙
指揮棒の軌跡の先へ卒業す 牛後
講堂の闇のピアノや卒業期 篠原そも
卒業や微笑むソクラテスの髭 紀貴之
畜舎へと一礼終えて卒業す 稲穂

《天》
卒業や砂場の山の褪せている  りんたろう


【牧開】
前脚を高く掲げて牧開 かなた中2
草の香に逸る蹄や牧開 野風
光嗅ぐ鼻先濡れて牧開 妙
咆哮は牛舎に溢れ牧開 更紗
母馬の後戻りする牧開 七草
牧開厩舎に残る牛いきれ 其蜩
牧開終えて厩舎の大掃除 一村
牧開五頭と一人増えにけり ひでやん
上り来る牛の背に湯気牧開く 寒烏
大阿蘇の牧開舞う取材ヘリ 松ぼっくり

《天》
牧開牧夫たる我小さきよ  牛後



※ 掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとに活字化したものです。俳句ならびに俳号が実際の表記とは異なっていたり、同音異義語や類音語などで表記されてしまっている場合がありますのでご了承ください。



※ 「落書き俳句ノート」を除く、朧庵(SNS)の利用、閲覧には登録が必要です。パソコン用のメールアドレスがあれば、無料で簡単に登録できます。


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句の宛先は
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


投句募集中の兼題

投句締切:5月10日
仙入【三夏/動物】
ウグイス科の鳥の中の、センニュウ属の鳥の総称。主に北海道へ渡来する夏鳥で、5月頃に南から渡ってきて、10月頃に帰っていく。

半ズボン【三夏/人事】
丈が膝より上の短いパンツ。涼しく活動的なので海遊びやスポーツ用に着用されるほか、カジュアルウェアとしても男女を問わず用いられる。

投句締切:5月24日

季語ではない兼題です。「砂」という字が詠み込まれていれば読み方は問いません。季語は当季を原則として自由に選んでください。

夏料理【三夏/人事】
材料はもとより、器、盛り付けなどにも夏らしい趣向を凝らした涼しげな料理。氷片を敷いて食材を冷やしたりもする。



《参考文献》『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


目次に戻る



100年俳句計画 掲示板



NHK総合テレビ(愛媛ローカル)
 「えひめ おひるのたまご」内
 『みんなで挑戦!MOVIE俳句』
  5月19日(火)11時40分〜

あいテレビ(TBS系列、全国)
 『プレバト!!』
   隔週木曜 19時〜20時49分
  5月14日/28日(木)予定
※組長がゲストの俳句ランキングづけで出演! 放送日番組欄を要チェック!

NHKラジオ第一放送(四国四県)四国おはようネットワーク内「俳句ネットワーク」
  5月16日(土)7時43分頃〜
※4月30日(木)まで夏井いつきブログにて投句募集中!(4月14日記事参照)

南海放送
ラジオ「夏井いつきの一句一遊」
 毎週月〜金曜日 10時〜10時10分
※ 投句募集中の兼題や投句宛先は、「一句一遊情報局」のページをご参照下さい。

FMラジオバリバリ俳句チャンネル
放送時間 … 月曜 17時15分〜17時30分
再放送 … 火曜 7時15分〜8時
 兼題「ががんぼ/柏餅」5月3日〆
   「白シャツ/かわせみ」5月17日〆
   「十薬/梅雨茸」5月31日〆
 インターネットでも配信中。詳しくは番組webサイトへ。
  HP http://www.baribari789.com/
  mail fmbari@dokidoki.ne.jp
  FAX 0898-33-0789
※必ずお名前(本名)、住所をお忘れなく!
※各兼題の「天」句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。


執筆
松山市の俳句サイト「俳句ポスト365」
http://haikutown.jp/post/
 毎週水曜締切/翌週金曜結果発表

テレビ大阪俳句クラブ選句
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 「集まれ俳句キッズ」
※ 毎週日曜発刊タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井選)
 投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。朝日新聞松山総局(790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。

愛媛県《吟行ナビえひめ》句&写真
 俳句選者:夏井いつき
 写真選者:キムチャンヒ
【募集期間】毎月1日〜 25日前後締切
【応募先】http://www.iyokannet.jp/ginkou/
【問い合せ】愛媛県観光物産課
TEL 089ー912ー2491

本阿弥書店「俳壇」(1月号より連載)
 『十二か月添削教室』
 6月号 5月14日発売
*誌上で俳句を募集しています。


句会ライブ、講演など

第三回俳句対局龍天王決定戦
 5月2日(土)13時〜
子規記念博物館4F和室
 出場&観戦ともに参加無料
 申込…マルコボコムまで

五十崎俳句凧表彰式イベント
 5月5日(火/祝)9時〜11時
  五十崎凧博物館

広島なぎさ公園小学校句会ライブ
 5月15日(金)

日本一の門前町大縁日 ながの門前俳句会記念講演
 5月24日(日)13時から
 セントラルスクエア特設ステージ
※問合…ウェルカム長野2015実行委員会事務局 026ー224ー7713

芭蕉元禄事業「学校句会ライブ」
 5月27日 墨俣小学校
 5月28日 時小学校
 5月28日 北小学校



目次に戻る



魚のアブク


読者から寄せられたお便りをご紹介
お便りお待ちしています!
100年俳句計画編集室「魚のアブク」宛、もしくは互選や雑詠欄への投句に添えてお寄せください。

編=編集スタッフ

小倉書道教室より
小倉嬉乃 ヤッチー様。この度は、俳句を書かせていただき、また、「100年俳句日記」ブログでの嬉しいメッセージ、ありがとうございました。「春泥の半分乾く象の足」は、最初に見たときから、今、私が勉強している古典の雰囲気で表現できるのでは? と、ひらめきました。
 そして、筆を変えて書いてみたり、配置や墨の量に変化をつけたりして、俳句を私なりにとらえた空気感で見ていただくことに挑戦してみました。そう感じていただけたら嬉しいです。来年のこの作品展でも、また新しい句にであい、新しい挑戦ができることを楽しみにしています。
編 今年の作品展もお見事でした! スタッフも見に行きましたが、多くの方が足を止めて作品を見てましたよ。来年がまた楽しみ!

俳句の種まき運動
ケンケン 私の住む滋賀県草津市で「句会ライブ」があったので超うれしいです。いつか松山のように、俳句の盛んな街になってほしいです。京都に対して小京都、というコトバがあるように「小松山」になってほしいな〜。いつき組の一員として、草津市内でのいろんな俳句イベントを企画したいですね〜。
編 ゆくゆくは姉妹都市に、なんてね。

クロヌリハイクは才能だ。
片野瑞木 クロヌリハイク。新聞で季語を見つけるのが難しくてなかなか挑戦出来ないのですが、そうか、この手があったか……。「〇月」も立派な季語ですよね。
編 あの発想は目から鱗。

100年の旗手リニューアル
樹朋 100年の騎手は次号より無くなるのでは?
みちる 永らく、とおとさんを推薦してきましたが、大人コン優勝の今、100年の旗手はもう良いかな、ということで、光海さんに絞りました。ぜひ、100年の旗手の洗礼を受けさせてあげてください。伸びる方だと思います。
編 一端休止してリニューアルなのです。詳細は近日発表予定。

サクラサク
柊つばき 合格発表見てきました。桜咲きました。ほっとしました。娘にメール打ちました。ほんとに勉強してなかった子なので90%だめだと思っていたのですが……。
編 お孫さん合格おめでとう! なせばなるなるサクラサク!

もの申す
匿名 本誌ですが、特集のサイクルがパターン化してませんか。年間の行事とリンクしているのは、よく分かるのですけれど……。切り口はあの手この手が見えますが、ネタそのものに新しさが見えないような気がします。(以下略)
編 匿名にて掲載させて頂きました。後日「言い過ぎました」とメールがきましたが、いえいえ率直なご意見頂けるのがなにより嬉しいです。手始めに(?)今回の特集などもご意見頂ければ嬉しゅうございます。


突発企画『天の句いろはカルタ』

 北伊作さんの発案で始まった突発企画。先月号に掲載された投句への、選句&選評(互選)を掲載しています。不肖編集室一同も参加しています。

兼題「ゑ」
選句結果

3点句

三島ちとせ、南亭骨太、北伊作選
笑み返しもう振り向かぬ春ショール  のり茶づけ

三島ちとせ きっと同窓会の帰りではないかと思った。春ショールは外へ出掛けるときにきれいに巻くのだろう。背中が美しい人を見つめる眼がかなしい。
南亭骨太 微笑を交わした次の瞬間にはもう前を見て歩み去ってゆく春ショールの後姿。颯爽として力強い。それにしても吾の惰弱なことよ。春ショールの季語がこのイメージに使われるのは新鮮でした。
北伊作 嗚呼何が有ったのですか? もう二度と会え無いのですか……遣る瀬無いですね悲しいですね。イングリッドバーグマンの「モロッコ」ですか……。


2点句

元旦、正人選
衛士の頬照らす篝火春の星 ひでやん

元旦 まず、衛士という言葉に新鮮さを感じ、飛びつきました。御所を衛る人を浮かび上がらせる炎と、ぼんやりとした春の夜空との対比に、歴史のロマンを感じます。
正人 現代スイスか、あるいはもっと過去のどこかの国なのか。「衛士」の一語が想像の翼を広げる。「頬」がキリッとした横顔を思わせる。


1点句

絵葉書のやうに初蝶訪れる 三島ちとせ

のり茶づけ 思いがけず近況を知らせる絵葉書。元気にしているらしい。そんな絵葉書のようにひらひらと初蝶が……。春の訪れを喜ぶ気持ちが伝わってきます。

ゑびすやの固き引き戸や桜冷え 瑞木

ひでやん ゑびすやというのは老舗の木造の店でしょうか。桜冷えという季語から酒屋を想像しました。花見の酒を買いに来たら引き戸が固くて開けにくかったという光景が見えました。


今月の無点くん

酔ふ吾も染井の花も朱の差して 南亭骨太
餌は蜜白梅に鳥鳥鳥 和音
ゑ蝋燭人魚の描きし花ゆすら 北伊作
慧を得たる僧のありけり沈丁花 正人




最高点句一覧

「ん」 「ん」と言うたきりで西日の治療室 正人
「ぬ」 ぬか漬を混ぜる男の冷たき手 和音
「る」 瑠璃色の空に数多の冬鴎 北伊作
「を」 遠国と媼言ひをる里に春 ひでやん(同率)
「を」 踊り女の神話を語る指の先 北伊作(同率)
「ゐ」 居住まひの美しき先生桜餅 のり茶づけ
「ゑ」 笑み返しもう振り向かぬ春ショール のり茶づけ


〈これからどうなるの?〉
《前回のあらすじ》コーナーお取り潰し!?
 約半年間、六兼題を取り扱った「天の句いろはカルタ」。魚のアブク担当が治外法権的にやっておりましたが、如何でしたでしょうか。
 さて、前回お伝えした「お取り潰し!?」の報について。昨今のイベントや句会の増加に伴い、次ページからイベントカレンダーが新設されます。今号は独立して2ページを使用していますが、今後このアブク左側ページがカレンダーになる見通し。む、無念。
 担当的には読者による「いろはカルタイラストコンテスト」とか「チーム√ズ サドンデス〜無理難題をどこまで詠める?〜」とかやってみたかったんですが。縁あらば…!(ゴゴゴ…)



目次に戻る



鮎の友釣り


202
俳号 とおと

破障子さんへ 大人コン最優秀賞のお祝いに素敵な俳号印を作って頂きありがとうございました! さっそく句集に押しまくっています。まる裏、絶対リベンジしましょうね!(ゴゴゴゴゴ…)

俳号について 「とおと」の名前は古代エジプトの神様トートより頂きました。知恵の神にして冥府の書記官だなんて、かっこいいでしょう。因みに「中町」は、大人コン応募の際、苗字がないとなんとなく落ち着かない気がして即席でつけました。
俳句とわたし まつやま俳句ポスト365(ハイポ)を中心に、主に東京ロマンチカ、BS句会などに出没しています。今年はハイポがきっかけでこまさん、破障子さんとまる裏俳句甲子園にも出場しました(写真は予選敗退、意気消沈?の「チームちびつぶ」の図)。

次回…こまさんへ 戦いはもう始まっています。われらチームちびつぶ、次こそは必ずやステージへ上りましょうぞ!(ゴゴゴゴゴ…)


目次に戻る



告知



俳句対局
第三回「龍天王決定戦」開催

俳句対局とは、囲碁や将棋の対局戦を模した、一対一の句合わせ対決の句会です。 トーナメント戦で対戦を行い、三代目「龍天王」を決定します。
出場観覧問わず、多数の参加、お待ちしております。

日時
 5月2日(土)12時30分〜受付
 13時開始 15時終了予定

場所
 松山市立子規記念博物館4階和室

観覧
 無料

観覧定員
 観覧 30名(先着順)


問い合わせ先
 『100年俳句計画』編集室
 089ー906ー0694
 magazine@marukobo.com

主催
 ハイクライフマガジン『100年俳句計画』

後援 松山市



俳句を増産したい方のための
象さん句会

 「百年百花」や「100年の軌跡」など、本誌に作品集を連載される「俳句を増産したい方」を中心に、毎週5句出しで4週間行う「本気モード全開」の句会です。もちろん一般参加も可能です。


20代のための
週末俳句活動句会、略して
週活句会

 俳句甲子園出身の方や、大学のサークルで俳句をやっている方など20代の俳人を中心とした句会です。この句会から「100年への軌跡」連載者も輩出します。また、交流の場としても楽しめます。

どちらも5月14日(木)
一般募集開始
詳しくはブログマルコボ通信まで
info.marukobo.com



俳句新聞いつき組
4月新規ご購読お申し込みの方には
2号(2015年4月号)よりお届けします!
※3号は2015年7月中旬発行予定です!

2015年「雪の座」決定!&「花の座」ノミネート20句

大好評「プレバト!!」のちょこっと裏話

そのほか内容充実のフルカラー全8ページでお届け!

※1号より購読希望の方は、事前にその旨をお伝えください。

A4サイズ8ページフルカラー仕様
参加登録料(※初回のみ)1,000円(税込)
年間購読料 3,500円(税込)/年4回発行
*年1回、夏井いつきの句集シングル付録あり。

まずは無料の0号「創刊準備号」と購読のご案内をお送りいたします!
※0号「創刊準備号」を既にお持ちの方は、0号に掲載しております案内にしたがって購読料をお支払いいただくことで、正式な購読の申込となります。

ご購読のお申し込みは……

「俳句新聞いつき組」購読希望の旨、本名(ふりがな)、俳号(無ければ不要)、郵便番号、住所、電話番号、生年月日を明記して、下記のいずれかの方法で申し込んでください。

 ハガキで申し込む
  790-0022 愛媛県松山市永代町16-1
  有限会社マルコボ.コム
  「『俳句新聞いつき組』購読申込」係

 FAXで申し込む
 FAX番号:089−906−0695

 メールで申し込む
 kumi@marukobo.com
 (件名を「いつき組購読申込」としてください。)



目次に戻る

編集後記


 今月号の特集、「季語当てゲームの提案 対戦型詰め俳句(仮)」を編集会議にて提案したとき、あまりにも得体が知れず失笑されてしまった。実は、俳句対局の企画をした時もそうで、新しい企画というものは、やってみないと分からないことがほとんど。今回の企画は、参加された方のほとんどが好評で、ささやかな手応えを感じている。
 「100年俳句計画」という雑誌にオリジナリティがあるとすれば、誰も考えたこともない新しい俳句の楽しみ方を提案することだと思っている。
 今月号の紙面を開いただけでも、対戦型詰め俳句というささやかな遊び方の提案から、俳人たちの真剣勝負を楽しむ俳句対局、ジャズと俳句のコラボレーション、俳句を使って行うまちづくりの方法、句集スタイルをはじめとした新しい句集の作り方、大人コンなど新しい俳人が世に出る仕組みまで。それぞれが別のものではなく、ぜんぶ地続きの企画であり、それら企画の先には、俳句のある人生がどれほど豊かになるのかを目指している。
 それがどれほど実現しているかは分からないけれど、懲りずにお付き合い頂きたい。
(キム)


目次に戻る

次号予告 (211号 6月1日発行予定)


次回特集

第三回俳句対局龍天王決定戦報告

律川エレキの表装生活(仮)


HAIKU LIFE 100年俳句計画
2015年5月号(No.210)
2015年5月1日発行
価格 617円(税込)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子